FFXV:Another   作:祈Sui

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FFXV:Another chapter12 氷炎

 星に満ちた人は互いに争いを始めました。炎神は、それに落胆しましたが、人の成長を待ち続けました。長い時の果て、人は技術を進歩させ続けましたが、その心はいつまでも未熟であるように炎神には思えました。そして技術が頂点を極めたと思われたとき、人々はそれを使い大戦を引き起こしました。指輪の継承者や一部の人々は戦いをやめさせようとしましたが叶わず。これによりついに人を見限った炎神は人を殲滅するためにその力を顕したのです。炎神の圧倒的な力を前にしても、人々は互いにいがみ合い炎神に対抗する事さえできませんでした。炎神は荒廃した世界の大半を焼き尽くし、そこに至り、氷神は王と共に炎神を封じることにしたのです。氷神の命と引き換えに炎神は封印され、王もまた命を落としました。

 

神凪の口伝

 

***

 

 ノクティス達は、要塞の上部デッキへと移動していた。降下した要塞に従い、飛空艇や揚陸艇群が戦闘を中止し着陸しているのが見える。テネブラエの街は健在。雷神は役目は終わったというように空中に消えていった。

「間に合ったな」

ノクティスが胸をなでおろす。

「勝ったー」

プロンプトが喜びからはしゃいでいる。

「しかし、なんで皇帝はシガイ化したんだ?」

グラディオラスは、未だにその事を気にしていた。

「そんな事もうどうでもいいじゃん、勝ったんだし」

勝利に喜ぶプロンプトが、グラディオラスにそう言うと、考えようとしていたイグニスも笑う。そこへ声がかけられた。

「それは、俺が説明しようかな」

振り返れば、そこに男が立っていた。帽子をかぶり独特な羽のような装飾を左腕につけた男が

「馬鹿な」

「死んでた筈だ」

仲間たちが口々にそう言い。イグニスがその男の名を口にした。

「アーデン・イズニア」

「そう」

男は微笑むと帽子を取り、大仰にお辞儀をして見せた。

「初めまして。私はアーデン・イズニア。帝国の宰相です。なんて、皇帝死んじゃったからもうどうでもいいか」

アーデンは本当にどうでもよさそうに笑った。

「さっき死んでたのは影武者?」

プロンプトが聞く。

「いや、影武者じゃあないよ。あれも俺、さっきは実際に死んでた。皇帝陛下に刺されちゃってね」

「じゃあ、なんで?」

「実は俺、人間じゃないんだよね」

「何だと?」

ふざけた態度にノクティスが問う。

「神様」

アーデンはそう言いながら手を広げて見せた。

「ふざけんなよ」

ノクティスの叫びにも、アーデンはその態度を変えなかった。

「ふざけてなんていない。大真面目さ、創星記にある裏切り者の炎神って俺の事なんだよね」

広げた手の先が、炎に変わってゆく

「だから、刺されたぐらいじゃ完全には死なないんだ」

「どうして、炎神が帝国についていた?」

イグニスの問いにアーデンは答える。

「ほら、俺が裏切り者だから、なんて・・・、まぁ、話せば長くなるけど、俺ちょっと封印されちゃっててさ、俺を封印してたクリスタルの欠片を帝国が取り除いてくれたんだよね。まぁ彼らには、俺を解き放つ気なんてなかったんだけど、俺なりの恩返しっていうのかなぁ。少し手を貸してあげた。飛空艇に魔導アーマー、シガイの軍用化もね」

「皇帝のシガイ化もお前の仕業か?」

「ああ、あれはちょっとシガイの毒気にあたりすぎちゃったみたいだね。でも、完全に俺の所為だとは言えないなぁ。俺はただ、シガイの構成物を与えてあげただけ、それが彼の中にあった本当の欲望をさらけ出した。それを受けたシガイの構成物があの姿を生み出したんだ。もしも彼が、微塵も支配欲を持たない聖人だったなら、こんな悲劇は生まれなかったのに、悲しいね。実に悲しい。さて指輪の継承者よ、やろうか」

熱を増し拡大してゆく炎にノクティスが構える。

「なんで・・・皇帝は死んで、帝国軍も降伏したのに」

プロンプトの問いに、アーデンは意味が分からないというように答えた。

「何故って、神は人を試すものだ。今までもそうだっただろ?」

「やるしかねぇみたいだな」

ノクティスが瞬時にシフト、広げられたアーデンの腕を斬り落とした。

「いいねぇ」

アーデンは笑いながらそれを眺める。千切れ飛んだ腕は、炎となり再びアーデンの身体へと繋がった。

「さて、君たちの力で俺を倒せるかせいぜい試してみるといい。俺は他の奴らと違って優しくないからね」

アーデンの炎が一気に収束したかと思うと爆散した。

「避けろ!」

イグニスの声で、全員が避ける。ほんの少し掠っただけで戦闘服がいともたやすく炭化した。

「ああ、ごめんごめん、そんなに脆いんじゃ、楽しむ事もできないかもしれないな」

シフト攻撃したノクティスの剣で、アーデンの首が切断されるも無意味。プロンプトによる眉間への銃弾も、グラディオラスの大剣による胴体切断も同じだった。イグニスは、ノクティスが再度斬り落としたアーデンの腕をさらに割ってみたが、やはり炎となるだけだった。

「くそ、こっちの攻撃は通らない。向こうの攻撃は防げないじゃあ、どうしようもねぇぞ」

「ああ、駄目だね。手加減してあげてもこんなもんか、退屈だなぁ。・・・もういいや、死んだら?」

炎となっていたアーデンの腕が元の形に戻り、イグニスとグラディオラスを掴んで別の方向へ放り投げる。

「さて、どうする?」

アーデンが嗤い。炎が収束する。ノクティスがファントムソードの防壁を展開しようとして迷う。この位置関係では全員を守ることができない。ファントムソードを分散させれば防壁としての効果が期待できない。しかし誰も見捨てられない。その迷いの中、莫大な炎が辺りを包み込んだ。

 

***

 

プロンプトは翳していた腕を退けた。辺りにはまだ炎が広がっている。自分が生きている事に驚く。そして、引き離された仲間の姿を探した。だが、自分は本当に生きているのだろうか?、何故か視界に雪が舞っているように見える。そしてこんなに燃えているのに、熱さを感じていない事に気付いた。

「大丈夫ですか?」

その声の方向を見れば、炎の中いつもの涼しげな顔でゲンティアナが問いかけていた。炎が急速に収まっていく。見渡せばノクティスが居た。アーデンの向こうでイグニスもグラディオラスも生きている。

「やっぱり来たんだ」

アーデンが、ゲンティアナに呼びかける。

「ええ」

「最後に会ったのはどれくらい前になるのか、12年前は会えなかったし、この間の王都でも会えなかった。ざっと考えて2000年ぶりぐらいかなぁ。あの時はお前を殺し、クリスタルを砕いてやった。その後で、まさかそれを使って封印されるとは思わなかったけど、そうそう巨神には悪い事をしたなぁ。ずっとあの場所でメテオを受け止めていたなんて、知った時は笑ったよ。今でもあそこから動けないんだから」

ノクティス達には意味が分からない。アーデンが更に言葉を重ねようとしたとき。発生した炎を見て、風神がやってきた。

「何が起きておるのかと思って来てみれば、炎神か?お前も遊んでおるのか?」

アーデンは哂った。

「風神か、七神の一柱であるお前も、堕ちたものだ」

「なに?」

「だってそうでしょ?今のお前は、ルシスの王に飼われてる」

「こやつらは、妾の眷属」

「へぇ、それ誰に言われた?大方予想付くけど。お前は簡単に騙されるなぁ。そんなのお前を従わせる嘘に決まってるとは思わなかった?」

その言葉に風神はいきり立つ。

「なんじゃと、妾を愚弄するつもりか?」

「あれ?怒っちゃった?今俺とやりあうつもりならそれでもいいんだけどね。ルシスの王と契約を交わしたお前が俺と戦うなら、それこそ王の駒と言う事になる。そうなれば、やはり飼われているってことじゃぁないかな?」

「妾は、何者にも支配されない。お前がこいつを殺すならその後で、妾が縊り殺してくれよう」

風神はそう言って飛び去った。

「ああ、あいつは楽でいいな。扱い方さえ間違えなければ、思惑どうりに動いてくれる。さて、残る王のもとに集いし皆々様につきましては、おとなしくそこでご照覧あれ、これは私の裁定、継承者の裁定は七神が定めたそれぞれが有する権利であり、侵すべきではない」

ノクティスに力を貸そうかと考えていた雷神と水神、巨神が裁定という根拠を持ち出され沈黙する。ゲンティアナがそれに対し言葉を発する。

「ええ、そうです。我々は、それぞれが独自の判断で継承者を裁定する権利を有している。ですが、お忘れですか炎神、裁定の権利は私にも存在する。私の裁定は、私と共に、炎神あなたを討伐する事とします」

(・・・なるほど)

その言葉に雷神が理解を示す。

(なれど、それでは)

水神が考え込む、風神の時とは異なり炎神自身が裁定と口にした以上、それに対し、別の神が介入すべきかどうか

「私の現在の力は炎神に遠く及ばず。炎神は裁定を謳いながらその気があるのかどうかは疑わしい。そして何より世界の危機を招いている。我々が定めしあの日から、状況は大きく変わっている」

(・・・良いでしょう認めましょう)

水神が認めた。

(うぐああ、あ、おあ)

雷神、水神、巨神がゲンティアナの裁定に同意。これにより、七神から当事者であるアーデンとゲンティアナを除く五神の内、過半数の同意が成立したが、ゲンティアナはあえて問うた。

(風神、あなたは?)

風神は、無視をしても良かったが渋々返事をした。

(・・・お前が今更、妾に聞くのか?)

(ええ、貴女の意見が聞きたいのです)

(どうせ、もう決まっておるじゃろうが)

(それでも)

(・・・好きにせよ。妾は、その戦いの後にしか興味は無い)

アーデンは呆れた顔で言った。

「人にほとんど関与しない竜神はともかく、人に好意的な雷神や水神ですら、ここまで手を出そうとはしないのに、お前は面倒だな氷神。あの時は、手を出さなかったくせに」

ゲンティアナはそれを聞き、悲しそうに俯いた。アーデンはそれを無視、アーデンの身体は巨大化し、炎神である本来の姿を顕した。その手に集った炎が、巨大な剣を形成する。ゲンティアナが顔を上げ、ノクティス達に氷の防壁を展開した。

「それで、炎神に対応できるはずです。これ以上の支援は、力を失った今の私では難しい」

炎神の振り下ろした大剣を、ノクティスが受け止める。背後から斬りかかったグラディオラスの一撃を、炎神が回避。しかしそれを予測して投擲していたイグニスの短剣が掠める。その傷口は炎となって再生はしなかった。

「攻撃が通る」

「これならいける」

活気づいたノクティス達を牽制するように、炎神を取り巻く炎が猛った。

 

***

 

目の前に氷神がいる。それだけで随分古い記憶がよみがえる。まだ世界に国が無く平和だった時代にいた彼女の事を

「私たちと同じ姿をしているのに、名前が神様のままなんておかしいわ。私たちにはそれぞれ別の名前があるの」

成長した彼女は笑った。栗色の髪を靡かせて

「私がつけてあげる。そうね。アーデン。アーデンはどう?」

困惑から、何も言わないでいると彼女は続けた。

「決まりね、今日からあなたの事をそう呼ぶわ」

彼女は強引に決めると、また笑った。アーデン、変な響きだと思ったが、彼女が喜ぶのならそれもいいだろうと思った。

 

***

 

 攻撃は通るようになったが、炎神の炎が無効化されたわけでは無かった。ゲンティアナの防壁によって守られているとはいえ、直撃を受ければ火傷は免れない。それでも、こちらの攻撃が炎神に傷を負わせ、徐々に凍て付かせていく事に、ノクティス達は希望を見出していた。

 

***

 

あの日から、何年も過ぎていた。自分にとっては一瞬に過ぎなくても、彼女にとっては長い時間だった。変わらない自分をおいて彼女は成長を続け、老いていった。その肌や髪に艶は無くなっていったが、彼女を大切に思う気持ちは変わらなかった。彼女たちは、世代を重ねるたびに短命になっている。気づいていたが、それを防ぐことはできなかった。世代を重ねていく過程で起こる現象と神々は結論付けた。それが世界に生まれた世代を重ねる生物の特徴とも合致するものである以上、いつか特定の寿命にたどり着き安定するだろうとも・・・しかし、その予測は彼の心を癒すものでは無かった。つまり別れは約束されていたのだ。こんな事になるのなら、興味を抱くべきでは無かったかもしれない。そう思ったが、もう手遅れだった。そんなある日彼女が言った。

「いつか私が死んだら、貴方の炎で焼いて」

驚く顔を見て彼女は微笑む。

「そうしたら、私は貴女の炎となって貴方の中で生き続けられるような気がするから。私は見ていたいの、この美しい世界と、子供達の未来を、だからお願い。ね?アーデン」

彼女が、そっと手を握ったから頷いてしまった。それは約束になった。

 

***

 

グラディオラスが、炎神の大剣をはじき返し、ノクティスが追撃する。それを躱し、手から放たれようとされる炎を見て、プロンプトが炎神の腕を吹き飛ばした。銃弾まではゲンティアナの属性付与魔法は及ばないから、腕は炎となり炎神の身体に戻ったが、その隙に駆け抜けたイグニスの短剣が、炎神の足を刻んでいく、傷口が凍結し再生を防ぐ。

 

***

 

自分にとっては一瞬の膨大な時間が流れた。彼女と会ったことのある者は人の中から居なくなり、世界のありようは大きく変わっていた。いつの頃からか、必要な行為では無かったが眠る事が多くなっていた。それが人の中に紛れるための行動でもあったからだが、一番の理由ではない。恐らく目的は、夢を見るためであっただろう。積もり積もった膨大な記憶を再確認する夢の中では、彼女に会う事が出来た。

 

***

 

目の前を動き回るルシスの王達に向けて放射した炎を受け止めながら氷神が言った。

「ルナフレーナは、彼女と同じ思いを抱いている。それを助ける事こそが、彼女の願いにかなうとは思いませんか?炎神」

その言葉に感じるのは、怒りと、悲しみだった。また違う記憶が浮かぶ

 

***

 

天に届くほどの巨大な塔。その最上階にある宮殿に呼び出された。眼下には、同じような高層建築群からの明かりが星のように輝き、その間を小型飛空艇が飛び交っている。栗色の髪をした彼女は、扉を閉めると言った。

「歴史上、祭儀官は代々アーデンと名乗る。貴方がそうであるように、では、貴方がアーデンとなる前の名は?性は?」

その刺すような、眼差しに仮面ごしでも目を合わせていられず逸らす。

「それは、答えられません。祭儀官とはそういうものですので」

「本当に?」

彼女はさらに迫った。

「前の名など無いのでは?この国の古い記録を調べました。祭儀官の在任記録、継承、誕生。巧妙に偽装されていましたが、全てが不自然です。アーデンという祭儀官が登場するのは、この国の始まり、まだこの国が国とも呼べなかった時代。この国の祖たる方、アウラ」

そこで彼女は、一度口を閉じ、こちらの反応を伺った。

「その名に聞き覚えは?」

「・・いいえ」

「その女性の下に初代のアーデンがいた。彼が、生前の彼女の希望によりその葬儀を取り仕切ったと」

記録か、記録など燃やしておくべきだった。感傷とでもいうのか彼女の記録を丁寧に保管してしまっていた。彼女が刻んだ文字には改ざんさえ加えたくなかった。もう二度と書かれぬものだから。彼女はそれを見たのだろう。

「祭儀官、貴方の顔が見たい。今その仮面をとってくれませんか?」

仮面の下で、顔を作り替えることもできただろう。しかし、何故かそんな気にはならなかった。もしかしたら知ってもらいたかったのかもしれない。ここまでたどり着いた彼女への称賛?或は彼女に瓜二つな彼女を騙したく無かったのだろうか、どちらにしても顔を見たところで、彼女に分かるはずが無いだろう。そう思ってそっと仮面を外した。彼女は驚きと共に頷く。

「やはり私は貴方に見覚えがあります。幼き日です。宮殿で迷っていた私を貴方は助けた」

これには驚きが隠せなかった。自分のしていた決定的なミスを思い出したのだ。あの時、確かに仮面はしていなかったが、彼女がまさかそれを記憶しているとは考えていなかった。

「記憶違いなのでは?」

無意味と知りながら問いかける。

「そんなはずはありません。その赤毛も、顔も、間違いありません。宮殿の庭から落ちそうになった私の手を捕まえた時に貴方はアウラ、と言った。私が、似ていたからではありませんか?、だからあなたは間違えた。いえ、知っていても思わず叫んでしまった。本当は、ただ見ているだけのつもりだった。それでも私の身の危険に際し貴方にはそれができなかった。私がアウラ様に似ていたから、あれから10年以上経過している筈なのに、貴方には微塵も変わった様子が無い。アーデン。貴方は人ではないのではありませんか?」

その言葉に答えることはできなかった。それでも勝てないだろうと思っていた。彼女はアウラによく似ていた。成長した彼女に言葉で勝つことなど終ぞできなかったのだから

「何も、責めるつもりはありません。むしろあの時の感謝を、そして教えて欲しいのです。誰にも言いません。約束します。それぐらいいいでしょう?私は知りたいのです。この短い命の中で、できる限りの事を」

その言葉に、抵抗することはできなかった。

 

***

 

氷神の言葉に叫び返した。

「いまさら何を言うかと思えば、彼女は死んだ。あの時、お前は助けてくれなかったじゃないか、どうして俺は助けなきゃならないんだ?」

その言葉に氷神は答えない

 

***

 

戦火の兆しがあった。ひとたび始まれば、今までの物とは規模の違う大戦となるだろう。彼女を守ろうと誓った。いつか避けられない別れが訪れるのだとしてもそれはまだ先の事であるはずだ。共に行こうとすると彼女が首を振った。

「この無益な戦いを終わらせに行くのです。何も心配はいりません。相手も人なのです。貴方に言わせれば、女神様の正当な後継者。きっと上手くいきます。それに人の内輪もめに神様の力を頼るわけにはいきません。貴方がその力を見せれば、きっと誰もが従うでしょう。ですが、それは恐怖によってです。信頼によってではない。それでは駄目なのです。ですから、貴方には万が一に備え、この国の守りを託します。それに、神が人の世に手を出すことは禁じられているのではありませんか?」

そう言って彼女は微笑む。痛いところを突かれた。氷神も、水神も、雷神もそう言っていた。手を出すべきではないと。これは人が解決せねばならぬ問題だと。彼女を送り出した翌日。胸騒ぎがした。アウラが目を覚まさなくなったあの朝のような。居ても立ってもいられなくなり飛空艇を飛ばした。彼女がいる場所に向かって、戦いを避け、ようやくたどり着いた議場は、戦場となっていた。何処の国の謀略か、理由は分からない。ただ、人々は互いに殺し合ったのだ。平和は訪れなかった。彼女の信頼は裏切られた。崩れ落ちる建造物の間を彷徨って、彼女を探した。ようやく見つけた時、もう手遅れだという事が分かった。それでも彼女は、こちらを見つけると、残された力を振り絞って立ち上がろうとした。それを留める。そんな事をしたら、すぐに死んでしまう。彼女はそんな中でも微笑んだ。

「アーデン、これは夢?。あなたに会う事が出来るなんて」

彼女は手を伸ばしながら言った。夢じゃないことを伝えたくて、強くその身体を抱いた。彼女はその感覚を受けて安心したように言った。

「貴方の中に、私の記憶は残りますか?」

何を言うのだろう、そう思いながらその手を取った。自らの体内に宿る炎に比べればささやかな温もりしかないその手を、その温もりをなんとかそこに留めようと。彼女の眼は、もうこちらをしっかりとは捉えられないようだった。彼女は呟く

「アウラ様では無く、私の記憶が・・・」

今更、そんな事を気にしていたのかと、その言葉に何度も頷く

「忘れはしない。絶対に忘れたりはしない」

それを聞いた彼女は微笑んだ。

「そう、・・・良かった」

そう言って、彼女は息を引き取った。握っていた手から力が無くなった。彼女の身体は重力にひかれるただのモノとなった。涙は零れなかった。例え流せたとしても、瞬時に蒸発してしまっていただろう。彼女の身体をそっと持ち上げる。あの時のアウラと同じ、酷く軽い身体だった。命を失った身体。彼女をやさしく包み込んだ炎が、全てを燃やしていった。皮膚を、肉を、血の一滴すら残さずに、彼女を忘れないために、その性をもらった。イズニアと言う性を・・・

 

***

 

ゲンティアナが叫んだ。

「私は、間違っていたかもしれません。しかし貴方のしたことも、今している事も間違っている」

炎神はそれを聞いて嗤う

「では、何が正しい?女神か、それとも混沌か?我々か?誰がその正しさを証明する?」

その言葉にゲンティアナは答えられない。

「ゲンティアナ、無駄だ。奴は倒すしかない」

ノクティスの言葉が正しいと解っていてもゲンティアナは迷う。その迷いに、炎神は付けこむ。炎が、ノクティスを弾く、ファントムソードで防御しても、皮膚が焼ける。

 

***

 

世界中が戦火に包まれていた。彼女を救おうと離れた間に、彼女の国は燃えていた。そびえ立っていた高層建築群は崩れ落ち、飛び交っていた飛空艇も地に落ちて炎上している。和平を結ぼうとしていた敵国の兵士たちが、国土を蹂躙していた。生存者を見つけ向かってきた兵士の首を折りながら歩いた。自分はなんて愚かなのだろう。彼女も、彼女の守りたかった国も守れなかった。国にいた未来を担う沢山の子供達も誰一人として守れなかった・・・頭の中に言葉が浮かんだ。この美しい世界と、子供たちの未来を見続けていたいと言ったアウラの、人を信じると言った彼女の、冷え切った心と引き換えに、身体を取り巻く炎は未だかつてないほど猛っていた。全て燃やそう、このように醜い世界など、女神も、アウラも、彼女も望まない筈だ。例え世界が混沌に飲みこまれる事になったとしても構わない。人が世界を焼き尽くすと言うのなら、その前にこの手で焼き尽くしてやろう。そう思うと、炎が絶え間なく溢れだした。そして世界を燃やした。人が科学技術でつくりあげたあらゆる兵器を燃やし尽くした。互いに争っている国を燃やした。片方を攻めれば、もう片方が喜んで追従した。歓声を上げている彼らに向かって火を放った。喜びの内に彼らは燃え尽きた。世界の半分を燃やした。指輪の継承者も燃やしてしまおうと考えた時。氷神のクリスタルのある地で、氷神と雷神が立ちふさがった。不思議な音の出所を探して、初めて自分が笑っているのに気付いた。笑いながら問うた。

「今になって動くのか氷神」

向けられた雷の杖と、空を舞い散る雪を見ながら言った。

「なぜもっと早く、手を貸してくれなかった。何故彼女を救ってくれなかった。人は女神の後継者などではない、俺はそれを認めない」

氷神は悲しげにうつむいたまま、何も答えなかった。向かってきた指輪の継承者を退け、氷神を殺した。そして氷神のクリスタルを砕いた。雷神に向かった時。氷神の砕けたクリスタルが、浮かび上がり、自らを封印しようとしている事が分かった。破ろうとしたが敵わず。ゆっくりと意識は眠りに落ちていった。眠っている間ずっと夢を見ていた。記憶の中だけにある女神の姿。生きていた時代が違うアウラと彼女が同時に現れ、星から去っていった沢山の人たちもいて、最後には誰も彼も燃えて消えた。結末は分かっていた。それが、何度も繰り返された、幸せと絶望が波のように寄せた。分かっていても心は揺れる。世界を滅ぼさなければならないという意思は、長い夢の中で、否定と肯定が繰り返され、凪いでいった。彼女たちがそれを望んでいないことは知っていた。だが、もう一度人を試すことにした。あの大戦と人にとっては長い年月を経て彼らは変わったのか、彼女たちが思い描いた、美しいものに変わったのか、それが知りたかった。

 

***

 

長い長い戦いの果て、誰もが傷ついていたが、炎神に攻撃を繰り返し続け、その動きを止めつつあった。ゲンティアナが意を決したように。ノクティスの指輪に触れた。そこに取り込まれているかつて氷龍に預けた自らの力の一端を取り戻すためだ。彼女は氷神シヴァとしての力を断片的に取り戻し、今や、そのほとんどが凍り付いた炎神に向き合った。

「炎神、終わりです。王へ力を差し出しなさい」

それを聞いた炎神は哂った。

「此処に至り尚、俺を殺すことすら躊躇うのか」

「貴方の力とて必要なものです」

炎神が怒りと共に振るった炎をゲンティアナが弾いた。

「無駄です。今の貴方では、私すら倒せません」

「ならば、俺を殺して奪うがいい。俺は人を創星の女神の後継者とは認めない。人は愚かで醜い。あれから2000年が過ぎても、何も変わっていなかった」

炎神は叫んだ。それにゲンティアナが言葉を返す。

「確かに人は、完全な存在では無いかもしれません。欲望と誘惑によって揺れる不安定な存在。なれど、そうであっても、なお清くあろうとする人の姿を私は見てきた。どれだけ人が愚かに見えたとしても、まだ人の中にその意思がある限り、私は彼らと共に在る。貴方もかつては、そう願っていた筈ではありませんか!」

氷神の言葉に炎神は哂った。哂うしかなかった。

 

***

 

「身体を構成している元素を圧縮、表面を変質させ覆う、そうするとこうなる」

彼は出来上がった手を、振って見せた。

「そっくりだろう?」

小さくなった彼を見下ろしながら首をかしげる。

「貴方の行動が理解できない。そのような戯れが一体何になると?」

彼は、私の言葉を考えているようだった。この行為に意味は無いのか?と、しかし彼はすぐに答えた。

「これをしなければ赤子には触れない。怪我をさせてしまうんだよ。小さな手がな、こう、指を掴むんだ」

その言葉に私は呆れた。

「庇護を得られなければ生命も維持できないようなものに興味はありません」

彼らの事は認めていたが、代替わりをした彼らの子供というのは酷く弱い生き物に思えた。

「あんなにかわいいのに」

彼はそう言う。やはり理解不能だ。

「きっと実際に見ていないせいだ。そうに違いない」

そう言うがいなや、彼に掴まれて強引に引っ張られた。反発する基礎元素を持つ私たちは、実際の物体のように掴まれると固定されてしまい。抜け出すことができない。私はそのまま連れていかれた。興味などなかったが、付き合わなければ、いつまた引っ張りだされるか分かったものでは無い。とにかく、身体を構成する基礎元素が反発しあうというのが一番厄介だった。これが他の誰かなら、無視する事もできたのだが・・・仕方がないから私は彼と同じように身体を小さくし、表面に不活性化させた基本元素を纏った。連れていかれた先は家と呼ばれる場所だった。これも私には良く分からない。彼らは、木材を使い、それを組み合わせて住居を作っていた。私はそれを必要としないし、つくろうと思えば一瞬で築くことができる。氷でできた宮殿を・・・しかし、彼らにはそれが必要だった。特に代替わりをした彼らは、とても弱い生き物だったからだ。部屋の中まで進むと、彼は、彼女が抱えていた、より小さな生き物のご機嫌をとろうとし始めた。赤子と言うのは名前ではなく、彼らのこの状態の事を意味するらしい。彼が私の手を引っ張り、その小さな生き物の方へ伸ばす。私の抵抗もむなしく、小さな手が私の指を掴んでしまっていた。その小さな生き物は、急に泣き出した。

「何をやっている。泣いてしまったじゃないか、手は温かくしなければならない」

その言葉に反論する。

「温かくなど、無理に決まっているでしょう、構成元素が貴方とは違うのですよ」

「仕方ないな、布を手に巻いてみろ」

無視すると煩いので、指示に従う。この布というものも植物の繊維から作られている。彼らは弱いが、いろいろ作り出す。

「さっきから何をやっている。指が震えているぞ。それでは駄目だ。優しく、しっかりとつかまなければ」

彼は、やはりおかしい。そんな事をしたらきっとこの生き物は壊れてしまう。受け取った赤子を、包まれた布ごと抱える。中の赤子が目を開き、私を見つめている。その手が伸び、私の顔に触れようとする。避けようとしたら落としてしまいかねない。その様子を見て彼は笑っている。私の頬に触れた赤子が、あまりの冷たさに驚き、また泣きだしてしまった。

「どうしたらいいのです。これは、どうしたら・・・」

私の慌てた声に、彼は笑い続ける。どうする事もできない私の手から、彼女が赤子を受け取った。彼女が揺すると、赤子は泣きやみ、眠った。凄く疲れた。その眠るという私にとってはあまりなじみの無い事をしているその小さな生き物の姿を何故か愛しいと思った。名前ぐらい聞いておいてもいい。これは成長するらしく、成長すると私達と同じように言葉を話すらしい。その時に何と呼べばいいか分からないから。私の問いに、その小さな生き物を抱いた彼女は答えた。

「アウラ」

 

***

 

炎神は哂いながら言った。だがその顔は、酷く悲しげに見えた。

「ならば、最後まで抗ってみるがいい。もはやメテオ程度では終わらない。この星を襲う災厄に、人がその正当な後継であるというのなら、手を取り合って立ち向かえるというのなら」

炎神の叫びと共に再び猛ろうとする炎をみて、ゲンティアナは覚悟を決めた。振り続ける雪が集まり顕れた氷神の分身が炎神を取り囲む。ゲンティアナ自身も氷神シヴァとなって、その中に混ざった。

 

***

 

膨大な記憶が私の中を駆け巡っていった。目の前には、凍り付いた彼がいる。もう他の道は無かった。私がそうしてしまった。思えば彼は、あの日からずっと死を望んでいたのだろう。絶望の中で、それだけが彼の希望だった。私の凍える唇が彼にだけ聞こえるように言葉を発する。

「さようなら、最も人を愛した神」

私はその頬に触れ、口づけた。

 

***

 

氷神の口づけによって氷結した炎神は最後の瞬間に何処か遠い目をしていた。そして砕け散った。その砕けた炎神の肉体から噴出した炎と氷がノクティスの指輪へと吸い込まれた。氷神の分身は消え。氷神は、またゲンティアナとしての姿にもどった。

「お前が氷神だったのか」

そう呼びかけて、ゲンティアナがいつもと違う様子である事に気付いた。

「どうかしたのか?」

ノクティスの言葉にゲンティアナは、困ったような顔をして悲しげに笑った。

「いいえ、少し昔の事を思い出していただけです」

それが何のことは、ノクティスには分からない。聞いても教えてはくれないような気がした。

「氷神であることを黙っていたことは謝罪しましょう。けれどこれで、貴方の元には六神の力がそろった。この星の頂にて竜神に会いなさい。最後の戦いの時が迫っています」

それだけを伝えて、ゲンティアナは消えた。

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