FFXV:Another   作:祈Sui

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FFXV:Another chapter15 混沌

最後に顕れた人は、もっとも創星の女神に似た姿をしていました。そして失われた女神の力、その死と共に別たれる前の本当の力を扱う事が出来たのです。神々は人を祝福しました。もっとも女神に近き者。八番目の召喚獣にして真なる神と

 

創星記外典第1章 序の七

 

***

 

「塩原に向かえば、もう後戻りはできない。準備は念入りにしときなよ。やり残したことがあるならクレインの駅や、オルティシエの街に運んでやるよ。それとも、クリスタルが戻された王都にいく?」

テネブラエの揚陸艇の前で、アラネアはノクティスにそう聞いた。

「いや、塩原へいこう」

その言葉を聞き、アラネアは頷いた。

 

***

 

「空が・・・」

真昼だというのに空は闇に包まれつつあった。世界中の人々が空を見上げ、恐れた。そんな中、塩原の真ん中に降ろされたジグナタス要塞では、戦いに備え準備が進められていた。飛空艇や、装甲車両、魔導アーマー。そしてなによりたくさんの軍勢が塩原へと集っていた。暗闇の中、要塞が放つ光に照らされ翻るのは、赤いアラネア用兵団、黒い王都警護隊、白い旧テネブラエ騎士団、白地に赤の旧帝国軍。黄色いメルダシオ協会にレスタルム自警団の旗すらあった。それぞれの部隊により色とりどりの旗が、意匠が、全て神凪の下に集っていた。公、民を問わず沢山の非戦闘組織も協力していた。食糧や、武器、弾薬、燃料、医療に携わる者も集まり要塞は、ひとつの巨大な街と化している。

「圧巻だねぇ」

要塞の最上部。神凪が術式を展開する予定の場所から。それを眺めたアラネアはコルに言った。

「神凪の下で、ニフルハイムにルシス、それに私らが一緒になって戦う。まさかこんな日が来るなんて思わなかったよ。ついこの間まで、殺したり、殺されたりしてた。きっとそれで生まれた恨みは消えない。何年も、何十年も、当事者たちが居なくなってもずっと残るだろう。だけど、あのお姫さまは、一時的にとはいえそれを簡単にこえてみせた。負傷した自国の民も、攻めてきた帝国兵も分け隔てなく癒して回った。神凪は選ばれた特別な人間。でも、それだけじゃない。あれは本人の力だろうね。大したもんだよ。この闇の中で、それでも人々に希望を与えた。あれじゃあ、あんたのとこの王様は、一生尻に敷かれるだろうね」

「だろうな」

コルはその光景を想像し、苦笑する。

「例えただ、この一戦だけにしかすぎなくても、これを切り抜けられて、また人間同士が争う事になっても、この戦いが遠い昔の神話の話になってしまったとしても私たちは、共に戦えた。それは、きっと大切な事だ」

「ああ」

コルが同意。そこへノクティス達がやってきた。

「そろそろか、任せたぞ」

そう言って持ち場へ向かおうとするコルへノクティスは声をかけた。

「コル、死ぬなよ」

コルは笑みを作った。

「俺を誰だと思っている。不死将軍だぞ」

コルは、珍しく冗談のように言った。ノクティスがそれを受けて笑う

「そーだったな」

「後で会おう」

「ああ」

そう言い交わして、コルと別れた。

「アラネアさんも気を付けて」

プロンプトの声に

「ありがと、そっちもね」

そう言って手を振ってアラネアも去っていった。

「では、始めましょう」

神凪の逆鉾を手にしたルナフレーナが告げる。

「ノクティス様、御手を」

そう言われ、ノクティスは手を差し出した。

「ノクティス様が集めた全ての神々の力、少しだけお借りします」

ルナフレーナが、逆鉾を床に突き立てる。青い魔法の力が奔り、遠く各地のクリスタルがある場所に魔法陣が描かれ、青い光が立ち上った。その光は上空で広がり、青い光の天幕となって輝く。展開された障壁の光を見て、人々は歓声を上げた。さらにルナフレーナの前方にも光が生まれ上空へ向かって伸びた。青い光が渦巻いている。

「これが」

「混沌の核へと通じる道です」

ノクティスの背後に、竜神と雷神が顕現する。

(この先へ進むことができるのは、女神イオスの力を受け継いだ人間のみ、我々は、進むことができぬ。代わりにこちらは、我らが引き受けよう)

見渡せば障壁の展開に反応し、大地を埋め尽くすようなシガイの大群が迫ってきているのが見えた。水神や、巨神も顕現する。ルナフレーナの傍らに立つゲンティアナも頷く。その後ろにいるアンブラとプライナも今日はいつもより凛々しく見える。

「こっから先は、もう戻れねぇかもしれねぇぞ」

ノクティスが、光の門を前に振り返り聞いた。

「誰に聞いてんだよ、俺は王の盾、アミシティア家の現当主だぞ」

「愚問だな。俺がいなかったら誰が作戦を立てる?」

「後、世話もな」

グラディオラスが付け加える。

「プロンプトお前は・・・」

ノクティスは、唯一の庶民であるプロンプトに聞いた。

「今更残れとか言わないよね?俺何にもないけどさ、ここまで来て残るとかないでしょ。だって俺たち親友だもんね」

ノクティスは笑った。

「はっ、どいつもこいつもバカばっかりだな。じゃあ行こうぜ、世界を救いによ」

「おう」

「ああ」

「うん」

仲間たちが口々に応じる

「じゃあ、ルーナ。行ってくる」

「はい」

ルナフレーナが頷くと四人は光の中へと足を踏み入れて消えた。ゲンティアナとアンブラにプライナのみが残ったそこへ訪れる人影があった。ゲンティアナはそれに気付いたが、何も言わず姿を消した。アンブラとプライナも気付くが、警戒はしなかった。

その様子にルナフレーナが振り返る。

「ルナフレーナ」

呼びかけられる声。そこには白いフードを被ったレイヴスが立っていた。

「・・・兄さん」

ルナフレーナは戸惑いながら呼びかけた。帝国が失われた今、もはやレイヴスがノクティスに敵対する理由は無い筈だった。レイヴスはフードを外し問う。その面影には、怒りは無く、悲哀と労りがあった。

「これで、いいのだな?」

ルナフレーナは頷く。

「神凪の役目を継いでから覚悟していた事です」

「おまえの誕生と共に神使が現れた時。12年前、母が殺されて、お前が新しい神凪に選ばれた時。私はフルーレ家に伝わる文献からお前の運命を予期した。そして神々を呪った。あの時、私は何も守れなかった。母も国も、だから、帝国に身を売ってもその強大な軍事力とクリスタルの力で闇を払いお前を守りたかった。何を失っても、残されたお前だけは」

「兄さん」

「お前には嫌な思いをさせた、今更許してほしいとは言わない。ただ知っておいてほしかった」

「いいえ、許します。兄さんの思いが分かりましたから。その代わりにお願いを聞いていただけますか?」

「・・・ああ」

レイヴスは微笑み、頷いた。そのやり取りが、幼いころを思い起こさせたからだ。レイヴスがした悪戯や失敗を母に内緒にする代わりの、あるいは、怒らせてしまったと時、ルナフレーナに許してもらう為にきく、ささやかなお願い。そんな事をルナフレーナはもう覚えていないかもしれない。最後にそんなやり取りをしたのはもう15年以上も前の事だから。

「ノクティス様の力になって欲しいのです」

ルナフレーナが何を望むかは言われずとも解っていた。

「分かった」

レイヴスは、頷き、光の門へ向かう、そして別れ際につけくわえた。

「ルナフレーナ、愛している」

ルナフレーナはそれを聞き微笑んだ。

「私もです。兄さん」

12年前に生まれてしまった隔絶が解消された瞬間だった。レイヴスはここにきてようやく、ルナフレーナに親愛の情を伝える事が出来た。見栄も立場も無く、幼き頃のように、ならばその願いを叶えてやらねばならない。大切な妹の愛する人を救ってやるのだ。

 

***

 

武装を整えているウィスカムを見てシドが言った。

「お前も行くのか?古傷は?」

「それほど悪くは無いさ、まぁ、コルほどは動けんだろうが、手は多い方が良い。そうだろう?」

シドが口を開く前にウィスカムが告げる

「止めるなよ?どっちにしろ俺が止まった事なんて無かっただろ?」

シドは飽きれて、なにも言わなかった。確かに、人の言う事など聞かない男だった。

「ウィスカム」

「なんだ?」

「帰って来いよ。あいつに娘、レギスにクレイラス。どいつもこいつも俺を残していきやがる。そんなのはもう、うんざりだからよ」

「ああ、待ってな。世界が救われたらお前が好きな魚料理振る舞ってやるから」

そう言って、ウィスカムはシドに向けて拳を突き出した。シドはもう何十年ぶりか、その拳に自分の拳を軽く打ち合わせた。

 

***

 

 戦端が開かれた。地を埋め尽くすシガイに、竜神が要塞の主砲に匹敵するほどの光線、メガフレアを放ち、雷神の杖が投擲される。水神の長い身体がシガイを跳ね飛ばし、生み出した擬似生命がシガイの中を泳ぐ、巨神の投げた岩がシガイを押しつぶす。飛空艇や揚陸艇からの砲火が、シガイを貫く、それでもなお、進攻を止めぬシガイが防衛線まで到達し、地上部隊との交戦を開始した。予想以上に数が多い。コルはそう思いながら、シガイを斬り伏せ、部隊を鼓舞していた。それは上空でも同じだった。揚陸艇から指揮を執っていたアラネアへ展開している飛空艇から報告が入る。

「上空にシガイ多数。機銃でも後方にあたる中央部には対応しきれません。反転すれば、主砲による地上部隊への支援砲撃が行えなくなります」

「地表は何とかなってもさらに上空を行くシガイには対応できないか」

アラネアは考え込んだ。

「しかし、ここで背後を取られれば、揚陸艇自体が危うく・・・」

「私が出る。ビッグス、ウェッジ、飛空艇部隊の指揮は任せたよ」

「はい、お嬢」

「はい、姐さん」

二人は声をそろえていった。

アラネアは、格納庫から魔導槍で飛び出すと宙を駆けていった。遠距離のシガイに対しては竜神が薙ぎ払うが、接近されてしまうと対応できない。竜神の攻撃は強力すぎて、味方にも被害を及ぼしてしまうからだ。それは他の神々も同様であった。アラネアは空中のシガイを落とし始めるが、一人ではとても追いつかない。だが、手を止めてしまえば、飛空艇部隊が瓦解してしまう。ゲンティアナは、ルナフレーナに近づいたシガイを片っ端から凍結させていたが、それは上空をまかなえるほどではない。

「困っておるようじゃのう」

その言葉と共に、上空に風が巻き、風神が顕現した。それを見たゲンティアナが声をかける。

「風神、力を貸してくれるのですか?」

「うん?力を貸すのではない。勘違いするな。ただ妾の支配下である空を、我が物顔でシガイが飛ぶなど許せぬからな。・・・何を笑っておる」

「貴女は、怒らなかったではありませんか、騙されていたと言われても、私に向かってはこなかった。本当は最初から気付いていたのではありませんか?」

「何を言う、あの時は、そうしたら炎神の手先みたいで癪じゃったからだ。それ以上のことなどない」

「貴女は、強情ですね」

「お前の言う事など、分からぬ。精々そこで、そやつを守っておるがいい」

「ええ、空はお任せします」

「言われるまでもない。空が妾の領域である事を教えてやる。良く見ておれよ」

 

***

 

「将軍、東側の防衛線が」

コルの下へ通信が入る。東は立地上、最もシガイの少ない方角だったが、他方の多量なシガイへの対応で、手薄にならざる負えなかった。しかし、破られるわけにはいかない。

「幾つかの部隊、できれば魔導アーマーを、東へ・・・」

そう指示をおくろうとしたコルに、驚きながら通信者が告げる。

「待ってください。東から何か」

 

***

 

 ウィスカムは東側の防衛線で戦っていた。戦況は芳しくない。増援もあまり期待できないだろう。だが此処が破られれば、敗北してしまう。ウィスカムは、若い頃のように動かぬ体に活を入れ、強引にシガイを叩き伏せる。たとえ命に代えたとしても、守らねばならなかった。だが、その想いとは裏腹に身体はどんどん重くなる。

「くそっ」

毒づいたウィスカムの耳に、人の叫ぶ声がする。それが悲鳴ならまずいとウィスカムは思う。だが、それは悲鳴では無かった。雄叫びと歓声。顔を上げれば、シガイが、音に反応し振り返ろうとしているのが見える。その身体を銃火が吹き飛ばし、槍が貫く。倒れていくシガイの先に見えるのは、青い旗。アコルドの軍旗だ。それがシガイの群れを後方から強襲し、強引に打ち破ってくるのを見て、味方が奮起している。ウィスカムもその声に応じて、身体に力を込める。これで東側は何とか持ちこたえられるだろう。ウィスカムは笑いながら呟いた。

「やったなカメリア」

 

***

 

 光の門へ足を踏み入れたノクティス達は、不思議な空間に居た。オーディンのいた空間とは違い。ここは闇に包まれている。その中に、一本の光の道だけが、緩やかな坂道となり遥か上へと伸びている。ノクティス達は、上を目指し続けていたが、辺りでは闇が蠢き、そこからシガイが生まれ続け、思うように進めない。広場までたどり着いたが、しかし、まだ上がある。ここまで強引に進んできたが、辺りを囲まれてしまっていた。イグニスは、ここで戦力を分けてでも、ノクティスを先へと行かせるべきかどうか考えていた。グラディオラスとノクティスが前方のシガイを薙ぎ払い、後方をプロンプトの銃撃が牽制している中。プロンプトの目の前で、シガイが光に貫かれて爆ぜた。イグニスが驚き、ノクティスやグラディオラスも振り返る。

「俺じゃないよ?」

プロンプトが言う

「ノクティス、こんなところで何を遊んでいる」

「レイヴス!」

ノクティスが叫び、グラディオラスが身構える。レイヴスは手を翳して制する。

「勘違いするな。私は貴様のために来たのではない。ルナフレーナのために来たのだ」

レイヴスが発生させた多重魔法陣が幾筋もの光を放ち、前方のシガイを焼き尽くした。しかし、シガイは、また生まれようとしている。

「此処は私が食い止めようお前たちでは荷が重いようだからな」

「なんだと」

怒りを見せるノクティスをグラディオラスが制する。

「早く行け、ルナフレーナを落胆させるな」

「言われなくても」

レイヴスの声に、ノクティスが返し、走り出す。グラディオラスに、プロンプトも続く、イグニスは、レイヴスに頭を下げてから後に続いた。レイヴスはそれを見て笑う。ノクティス達が通り抜けた道をシガイが埋め尽くす。シガイは、レイヴスの放つホーリーに引きつけられる。どれだけかは、ノクティス達も楽に進めるだろう。誰も見えなくなった場所で独りレイヴスは刺突剣を構える。

「任せたぞ、ノクティス」

誰にも聞かれぬ様にそう言ったレイヴスに向かって、膨大な数のシガイが襲い掛かった。

 

***

 

各地で戦いが繰り広げられている中、コルは負傷者を下がらせ、薄くなった防衛線をほぼ単身でくい止めていた。そこへ上から降りてきたアラネアが声をかける。

「流石に強いね不死将軍」

「アラネア、上は良いのか?」

「風神が頑張ってるからね。それよりも押されてるっぽいこっちに来たのさ」

「そうか、ありがたい。少し手が足りなくてな」

コルにアラネアが加わり、シガイを押し返す。アラネアは、シガイを倒しながら聞いた。

「あんた戦いが終わったらどうするの?王子と一緒に王国を再建する?」

コルがシガイを斬り伏せながら応じる。

「いや、それはもうあいつらの仕事だ。俺の出る幕じゃない。いつまでも古い将軍が居座っては、邪魔なだけだろう」

「随分と年寄り臭い言い草だこと、じゃあ、大事な家族の元へ帰る?」

「いや、家族はいない。妻には・・・逃げられてな」

アラネアがまずいこと聞いちゃったかなと思いながら、シガイを魔導槍で貫いて捨てる。コルは、シガイを両断しながら続けた。くだらない話でも、果ての見えない戦いに、黙っているよりも良いような気がした。

「どうも俺は、感情を表現するのが下手らしい。出来るだけ言葉にしたつもりだったのだが・・・」

それを受けてアラネアが会話に乗る。

「あー、分かるわ。どうせあんたいつもそんな顔してたんでしょ。家の中でも戦場にいるみたいな面。その人はさ、あんたが今何してるかとか、どう思ってるかとか、そういうのを共有して、あんたを支えてあげたかったんじゃないの」

「確かにそうかもしれない。だが、機密情報を漏らすわけにはいかない。それに打ち明けたとしても、ただ重荷を背負わせるだけだ」

「真面目と言うか馬鹿と言うか、本当、同情するわ。私の母みたい」

「母?」

「私の父も軍人だったからね。家で待ってる母の寂しそうな顔はよく覚えてる。それで娘まで傭兵隊長になっちまったんだから親不孝もんだね。母は、私が軍隊に入るのを知って、家を出ていった。耐えられなかったんだろうね。父の葬式にも来なかった」

自分の所為で、話が湿っぽくなったと思い話題を変えようと思ったアラネアにコルが聞く。

「母親には、もう会えないのか?」

「いや、会おうとすれば会えるけどね。今更さ、どんな顔してあえばいいのかわからないしさ」

「戦いが終わったら、会いに行くといい。突然、会えなくなる事もあるのだから」

「父みたいにか・・・そうだね、それもいいかもしれないね」

「何も恥じる必要は無い。堂々と会いに行けばいい。お前が、良い指揮官である事は、部隊を見ればわかる。良い部隊だ」

その言葉にアラネアは笑う

「どうした?」

「いや・・・嬉しくてね。あいつらの大半は、父親の元部隊員でさ、ビッグスなんか父に命を救われたとか、そんなこと気にしなくてもいいのにさ、殺しても死なないと思ってた父が病気であっさり死んじまって、部隊が解体されたとき、あいつら軍隊止めてまで集まってきちまって、それが結構な数だったんで、帝国も無視できなくて、傭兵部隊と傭兵部隊長とかいう謎のポストが出来上がったわけ、そして私には、父親の使ってたこの魔導槍とアイツらが残ったんだ。アイツら馬鹿でさ、考えなしに集まってきちまって、どいつもこいつもまともな仕事なんかできやしないから終いにはハンターをやろうとか、真剣に言ってた。笑っちまうよね。それでも嬉しかったんだよね。何考えてるんだか分からなかった父親がさ、死んでからも、これだけの人に慕ってもらえてるのかとか思って、ああ、父を称えてた人たちは、世辞で言ってたんじゃなかったんだなってその時思ったんだ。私が軍隊に入ったのは、愛国心や、父への対抗心、崩壊した家庭への反抗じゃなくて、本当はただ、父の事が知りたかったからなんじゃないかって、アイツらはね。私の知らない父を知ってて、嬉しそうに話してくれた。おかしな話だけど。私は父が死んでから初めて、父と話ができたような気がした」

「そうか」

「ああ、父の事があるとはいえ良くついてきてくれる私にはもったいないぐらい良い奴らだよ。正規軍の身分まで捨ててさ、傭兵なんてのは、金をもらえれば誰でも殺す人殺しの集団。粗野で野蛮な者の集まり、戦争でも起こってれば、それなりに重宝されるけど、そうじゃなきゃ、ただの厄介者、そう思われるってのにね」

笑うアラネアに、コルは真剣な声で言った。

「初めは、ただ恩を返したかったのかもしれない。返せなくなった恩を、血縁者に返そうとしたのかもしれない。けれど、それだけでは何年も従いはしない。人間とは、そういうものだ。どれだけ崇高だと思えた志も、いずれ輝きを失う。だから、今でも彼らが離れずに従っているのは亡き男の為じゃない。お前にそれだけの器があるからだ」

沈黙したアラネアに、何かあったかと、コルが視線を送る。

「・・・あんた変わってるね。あんたもさ、戦いが終わったら会いに行けばいいじゃないか、逃げられた奥さんにさ」

「いや、人づてに再婚したと聞いた。きっとその人は、彼女の孤独を埋めてやれたんだろう」

「そう・・・悔しい?」

「いや、幸せならそれでいい。俺は陛下を支える事を選んだ。それを後悔したことは無い。お前の部隊の者達と同じだ」

「そう、か・・・そうね。それなら・・・」

 

***

 

坂を上り切った先に開けた空間があった。もう先に道は無い。ここが最上部。その空間の中央には、黒い闇が鎮座していた。

「あれが、混沌の核?」

「そうらしいな」

その闇に指輪が反応している。

「早いとこ、ぶっ壊しちまおうぜ」

「ああ」

ノクティスが、シフトで核に斬りつける。刃がそれに触れる寸前。闇が噴出し剣を弾いた。

「やっぱ、そんな簡単にはやらせてもらえねぇか」

噴き出した闇の固まりから平面化した手のような物がいくつも伸びあがった。その闇の中からは目のような感覚器官が浮かび、爪や角、乱杭歯の並んだ口のような物が無秩序に生まれる。それは、あらゆる生物を無茶苦茶に混ぜ込んで造り上げた歪な生命。まるで生命そのものを侮辱するような禍々しさ。

「なんだこれは」

「とにかく、倒すぞ」

グラディオラスの雄叫びを合図に戦いが始まる。現れる腕を斬り落とし、目を撃ち抜く、大きく開いた口に、ファントムソードが突撃し切り裂いていく、本体から切り離された闇は、飛散し消えていく

「こいつ、でかいだけで思ったほど強くないな」

「これならいける」

炎神の方が遥かに厄介だった。

「侮るな、何かおかしい」

イグニスが疑問を口にする。その間も、仲間は闇を斬り払い続けていた。やがて混沌を形成する闇が小さくなり、その闇は球体となった。

「これで、最後だ」

斬りかかろうと剣を振りかぶったノクティスの前で、球体の表面が蠢くのをイグニスは見た。

「ノクトっ」

咄嗟に、身を投げ出しノクティスを弾き飛ばしたイグニスの肩に激痛が走る。球体から無差別に外へ伸びた槍のような腕が、イグニスの肩を引き裂いていた。背後ではグラディオラスが大剣を翳し、その闇の槍を逸らす。距離をとっていた。プロンプトは転がって避ける。針山のようになった球体から最も太い腕が上部へと延びゆっくりと持ち上げられていくのが分かった。見上げれば、巨大な楕円形の物体。それは、繭のようにも見える。斬り飛ばされ飛散したように思われていた闇は上部で渦を巻いてたのだ。

「あれは・・・嫌な予感がする。急いで、伸びた闇を切り離せ」

イグニスの指示を受けグラディオラスが、大剣を振るい球体の闇を守る伸びた針をまとめて切断する。切り離された闇の断面が蠢く。反射的に、速射したプロンプトの銃弾が、そこから放たれた闇の固まりを破裂させる。

「こいつ」

プロンプトの手に余った闇の弾を、グラディオラスが大剣の表面で弾き、イグニスと、プロンプトをノクティスのファントムソードが防壁となって防ぐ。

「斬り離せば離すだけ、攻撃が増すぞ」

「だが、あの球体を上部の闇と合流させるわけにはいかない」

「なら、構わず球体をぶっ壊す。行くぞグラディオ」

「おう」

ノクティスとグラディオラスは、ノクティスの展開したファントムソードの防壁で攻撃を防ぎ強引に接近。左右から斬りかかる。刃が球体の表面に食い込むと同時に、闇の球体が砕け崩壊した。

「勝った?」

プロンプトの言葉と同時に、球体が弾け、ノクティスとグラディオラスが飛ばされた。

「・・・いや」

イグニスの冷静な声が響く。

崩壊していく球体の中で、ただ上部に伸ばされていた腕だけが、まるでへその緒のように、上部の闇からぶら下がって残っており、それは、身をくねらせて、上へと引き込まれていった。ノクティスが咄嗟に、ファントムソードを飛ばした。ファントムソードは渦を巻く楕円形の闇の表面に刺さり、亀裂を生んだ。

「どうだ?」

手ごたえを聞いたグラディオラスにノクティスは答える。

「いや、あれは俺が切り裂いたんじゃない」

ノクティスの声と共に、闇の表面に生まれた亀裂が縦に伸びていく。中から羊水のように闇が漏れる。闇の中から巨大な腕が伸び、未だ残る外殻を取り払う。そしてその中からさかさまに垂れさがると。それは羽化した。闇に濡れた片翼が広げられ、乾かされる。羽毛は先端まで伸び、柔らかさを手に入れる。長く伸びたつややかな黒髪が揺れる。落下。地面に激突するかと思われたそれは、直前で浮かび上がり、起き上がった。人の倍ほどの背丈。未だ上部から零れる闇は身体の曲線をなぞりながら、そのまま黒いドレスとなる。綺麗な爪のついた指が動き、腕が伸びをするのに合わせ上体が持ち上げられる。美しいその肢体。透き通るような白い肌。誇らしげに張られた胸。誰もが息を飲む前で、ゆっくりと開かれた二つの瞼から赤く輝く眼が覗き、ノクティス達を捉えた。

「・・・これが混沌?、これじゃあまるで、創星の・・・」

プロンプトの言葉をグラディオラスがついだ。

「女神」

それは神話を知らずとも誰もが見たことのある、絵画に描かれた創星の女神そのものだった。その色がまばゆい輝きで包まれていないという事を除けば・・・。イグニスは思う。あの絵画は創星記の記述を元にした絵描きの創作だが、才というものは時に目にした事の無い事実すら描き出すのかと。しかし違和感に気付く

「いや、違う。女神とは片翼が逆だ」

混沌が、女神を見て自己を認識したのだとしたら、故に混沌は鏡に映る像のような姿をしているのかもしれない。イグニスがそう考えた瞬間。その艶っぽい唇が微笑みながら開かれ、声にならぬ声を上げた。絶叫。そこから放たれる途方もない圧力に全員が耐える。言葉なのか、歌なのか、それすらわからぬ。聞こえぬ圧力を放ちながら女神のような美しい姿の闇でできた女が笑っている。まるで穢れを知らぬように皺すら浮かばない完璧な笑みで、そして彼女の五指の先が赤く発光する。

「あれは」

「まずい」

爪の先から放たれた光が全てを切断する線となる。ノクティスが、叫びながらファントムソードによる防壁を展開。左右から迫るその線をノクティスの防壁が受け止め、拮抗する。

「皇帝と同じ?」

「いや、もっと強力だ」

ノクティスが耐えながら答える。赤光線が消えるのと同時に、グラディオラスがノクティスを越えて斬りかかる。遠心力を加えられた大剣の渾身の一撃は、軽く差し出された手の柔らかそうな皮膚を浅く裂いただけで停止させられる。

「なんだと」

「それは最初の姿とは違う。膨大な闇が集まって、それ自体が強固な構造体となっている」

剣に力を加えようとしたグラディオラスに、混沌のもう一方の手が襲い掛かった。グラディオラスは攻撃を中断。慌てて引き下がる。混沌の手には、赤い光。回避した先に混沌が距離を詰め、闇のドレスから伸びたなまめかしい足が伸びる。グラディオラスは、それを大剣でいなし。さらに距離をとる。その手が痺れていた。ベヒーモスや、鉄巨人を上回る力。まともに食らえば、身体が爆ぜるだろう。

「離れれば、爪から放射される赤光線。近寄れば、赤光で包まれた手や、足による近接格闘攻撃か」

「なら、動きを止める」

プロンプトが突撃銃を連射。混沌の身体へ銃弾が突き刺さり、皮膚を裂き闇が流れ出すも、銃弾はゆっくりと内部から押し戻され、体外へ排出される。

「効いてない?」

「いや、だが、動きは止まっている」

混沌の眼球に銃弾が突き刺さり、破裂。混沌の眼球は即座に再生を始めるが、混沌は突き刺さる銃弾を、鬱陶しいとでもいうように、手を翳し遮ろうとしていた。プロンプトが弾倉を交換、撃ち続ける。

「プロンプトそのまま撃ち続けろ。俺が一気に」

ノクティスがファントムソードを自らの周囲に呼び戻し、突撃体制を取った。混沌は、銃弾が腕だけでは防げないことを悟り、片翼を前面に構え防壁とする。銃弾がその表面で弾かれる。

「ノクト攻撃を中止しろ」

翼を防壁とした混沌の身を縮ませたその姿に見覚えがあった。

「なんでっ、今、背後に周れば」

「風神と一緒だ」

ノクティスが攻撃を中止し、空中を蹴り後退する。プロンプトとグラディオラスもイグニスのところに駆け寄ってくる。ノクティスが、仲間たちの前面にファントムソードの防壁を展開。混沌の翼が勢い良く開かれると強大な圧力が広がり、防壁ごと後方へ押される。球体状に広がる風神の技と同じ、圧力がなくなったと感じたノクティスは防壁を解除。攻撃へ転じようとするが、混沌の攻撃はそれだけにとどまらなかった。広げられた翼から黒い無数の鳥が生まれ、矢のように射出される。

「これは」

グラディオラスが向かってきたそれを叩き落としながら言う

「水神と同じ、擬似生命体か」

イグニスが、向かってくる闇鳥を捌き、プロンプトが突撃銃で撃ち落とす。ノクティスは展開したファントムソードの回転を利用して、闇鳥をまとめて飛散させる。空間に黒い羽毛が舞う。それは、風も無い空中を彷徨い、八か所に集まる。そして、積もった羽毛はまるで繭のように変化した。

「まずいぞ」

どう考えてもまずい。全員に共通の認識が生まれる。混沌が女神の姿を模して生まれた瞬間を想起したのだ。グラディオラスが繭を切り裂く、割れた繭から、液体状の闇と共に、未だ形を成していない胎児のようなモノが流れ出る。その間にも混沌本体からの攻撃は止まない。赤い線光をノクティスが受け止めているうちに、繭を壊して回る。二つだけ壊せなかった繭が割れ、羽化した。混沌のように宙に浮かべるだけの力は無く、大きさも実際の人間に近く、背に生えた翼も小さいその混沌の似姿。例えるならばそれは女神によって生まれた人に対するモノ。流れ出る羊水の代わりのような闇を零しながら素足で立ち上がった。彼女たちが絶叫。ノクティス達は手を翳して耐える。放射される赤光が、10から30に増えた。

「こいつら本体ほどの力は無いが、やっかいだぞ」

「先に倒そう、手数を減らさなければ防御に徹するしかなくなる」

ノクティスがファントムソードの半分を防壁に回し、もう半分を引き連れシフトによる斬撃。赤い光の放たれる爪と、近距離格闘に用いられる手足を、ファントムソードで貫いてその場に縫い止める。グラディオラスが地を伏せるように疾駆し、大剣で巨大な円弧を描く。混沌の分身の下腹部から胸にかけて両断され、浮き上がった上半身の心臓部を、プロンプトの精密射撃が貫く、衝撃で跳ね上がった分身の頭部にイグニスの投擲短剣が突き立てられる。混沌の分身は、絶命。残るもう一体に攻撃を絞ろうとしてイグニスが違和感に気付く、混沌本体からの攻撃が止まっている。見れば、混沌の腕は交差しながら高く掲げられ掌は上に翳されている。その両手の先に、超高密度のエネルギー球体が発生しているのが見えた。

「くるぞ!」

イグニスが叫んだ瞬間。球体は鏡のように変化。

「躱せ」

防御不能と見て取ったノクティスが全員に告げる。集められたエネルギーが鏡のようなそこから放射される。それは、規模こそ違えど、要塞の主砲や竜神のメガフレアと等しい威力を持っている。放たれた太い赤光が、青く輝くクリスタルの力で形成された床すらも崩壊させる。ノクティス達は辛うじて回避、閃光の直進方向に居た混沌が生み出した分身が焼き消される。

「あいつ、自分の分身を」

「そんな事考えてねぇんだろ」

「何度も撃たれるとまずい。本体だけになった今、決着をつけるぞ」

イグニスが言う

「わかった。一気に行くよ」

プロンプトは転がりながら、アンチマテリアルライフルを出現させ射撃姿勢を取った。

「これならどうだ」

初弾を発射すると同時に、排莢、次弾装填をくり返す。超至近距離から放たれた大口径弾は、混沌の左腕、右胸部、太もも、頸部を吹き飛ばした。

「効いた!」

驚くプロンプトの前で、混沌の頭部が宙を舞い。整った顔が、青く輝く床に落ちる。だが混沌の表情は変わらず、微笑みを浮かべていた。そしてその顔は、すぐに溶け落ち闇となると、本体の方へと流れていく、他の傷口も闇が集まり再生させていく。だが混沌は頭部を失った事で今度は完全に動きが止まっていた。

「今なら、いける」

ノクティスとグラディオラスが疾走。

しかし頭部を失った筈の混沌は首の断面から強い圧力を発生させ、二人の接近を防ぐ。容易には近づけない。シフトや、ファントムソードですら、本体に行きつくまでに失速させられ威力が減衰する。そうしている間に頸部の断面から、新しい頭部が生え、混沌は眼を開き微笑む。

「どうやって倒す?」

グラディオラスが問う。

「こいつは、たぶん炎神とは違う。身体を構築している闇そのものには意味が無いんだ。皇帝に近い。奴の頭部にも何もなかった。胸部中央に微かに赤い光が見えた。恐らく混沌の核はそれだ。核さえ壊せれば、こいつは倒せる」

「心臓か、分かり易くていいね。それなら、これで終わりだ!」

プロンプトが残しておいた最後の弾丸を胸部中央に向かって正確に撃ち出す。射出された弾丸は、混沌の外皮を弾き飛ばし、その心臓にある赤い光を放つ核を露出させ、そして消失した。弾丸の圧力だけが、赤い核の周りの闇を吹き飛ばし、後ろに抜けていく、核の周囲には赤い光の防壁が発生していた。

「なっ」

プロンプトが驚愕から目を見開く。

「赤い魔法障壁?」

「女神イオスの魔法障壁と対をなす、カオスの魔法障壁か、ノクト全力でいけ。あれを破れるのは、創星神である女神の力だけ、それを操れるノクトにしか壊せない」

混沌の肉体が再生し、再び核が覆われてしまう前に、決着をつけなければならない。

「行けノクト!」

イグニスが突撃の号令をかけ、混沌が放った赤光を投擲した短剣が一瞬だけ逸らす。その間を抜け、ノクティスとグラディオラスが前進。プロンプトは赤光を躱しながら、援護射撃。胸部の外殻を失った混沌は圧力を放ち、接近を妨害している。

「行くぞファントムソードを用意しとけ!」

グラディオラスが、大剣を盾に前進。混沌は標的を変更、再放射された赤光が、大剣の表面に当たり、弾かれていく

「うぉおおおおおお!」

グラディオラスが近づける限界。グラディオラスは跳躍、赤光を回避しながら大剣を回転させる。その大剣にノクティスを乗せ、前方へ飛ばす。下方に集中する赤光にグラディオラスは、再度大剣を防壁とした。弾きだされたノクティスはそのままシフト突撃。13本のファントムソードを全て突き出した剣先に集結、回転させ強靭な刺突陣形をとる。流れ込んだ魔力がエンジンブレードを限界まで稼働させ、ノクティス自体が、まるで青い光の槍と化した。混沌の放つ赤光の集中に耐えきれずグラディオラスの大剣が焼き切られる。グラディオラスは身をよじる事でなんとか躱す。イグニスと、プロンプトがグラディオラスを守るために、投擲と射撃を繰り返した。ノクティスの剣先が、赤い魔法障壁を無効化、混沌の核へ侵入。瞬間、そこから膨大な闇が溢れだし、それが、ノクティスの剣を止めた。

「全継承者の力を持ってしても、まだ足りないのか!」

仲間たちは、混沌の傷口から放出される闇の怒涛に阻まれて動きが取れない。それどころか視界すら確保できず今どうなっているのかもわからなかった。ノクティスの目だけが、ただ核を捉えている。しかしこのままでは弾き出される。剣は、震えながら、今にも混沌の核から押し出されそうだった。

「くそっ」

ノクティスは叫ぶ。もう二度とはやれない。最初で最後の機会だというのに・・・。不意に、剣の震えが止まっていた。気が付けば、闇の噴出も目の前で避けられている。見えるのは、青い光の翼。目を見張るノクティスの持つ剣の柄にそっと手が添えられた。

「ノクティス様」

聞こえるのは柔らかなルナフレーナの声

「ルーナ?どうして・・・」

青く輝くルナフレーナの透き通った身体の左の背から生えた翼が、ノクティスを包み放出される闇を遮断していた。

「約束しましたから。全力でお支えすると」

ルナフレーナの言葉には何処か悲しみがあった。

「ルーナ?」

混沌の核に、剣がゆっくりと侵入する。

「ノクティス様、あの日の約束、確かに果たしてくださいましたね」

混沌の核を剣が貫いた。怒涛のように噴き出す闇。その圧倒的な力でノクティスは宙に浮いていた。しかし、ノクティスにとってはそんな事はもうどうでもよかった。ただ、遠ざかろうとする青い輝きに手を伸ばす。時間がゆっくりと流れているように感じる。12年前と同じ、嫌な予感が心を埋め尽くす。

「ルーナ、嫌だ、俺は」

叫ぶノクティスに向かいルナフレーナは振り返った。その口がゆっくりと言葉を紡ぐ。

「ノクティス様、ありがとう」

宙を舞いながら伸ばされた手は、ルナフレーナの身体に確かに触れ、そして何も掴めずに通り過ぎた。

「ルーナァアアアアア」

急速に遠ざかる景色の中で、寂しそうに微笑むルナフレーナは、青い粒子となって、消えていった。同時に指輪も、指輪に宿っていた継承者たちの意思も青い粒子となって溶けた。瞬間、光が爆発し、混沌の核が飛び散った。吹き飛ばされたノクティスは意識を失った。

 

***

 

弾かれたノクティスが床に落ち、転がっていった。

「ノクト」

動けるようになったグラディオたちが駆け寄る。ノクティスに動きは無い。

「大丈夫だ。息はある」

イグニスの言葉にプロンプトが胸をなでおろす

「良かった」

「何があったんだ?」

「分からない」

「倒したんだよね?」

「恐らく」

それを聞きプロンプトが喜びを表そうとする前に地面が大きく揺れた。

「おい、やばそうだぞ」

周囲を見たグラディオが言う。空間が崩壊しつつあった。

「とにかく戻ろう」

イグニスが先導し、グラディオラスがノクティスを担ぎ上げ、その後にプロンプトが続く、来る時にあれだけ沸いてきたシガイの姿も無い。

「うぁああ、だんだん近づいてくる。追いつかれる」

後方で崩壊していく空間を見つめながらプロンプトが叫ぶ

「前だけ見てろプロンプト!」

グラディオラスが叫び返す中。イグニスが僅かに後ろを見た

「間に合わないか・・・」

プロンプトの足場が崩れ落ちる。それを見てとったイグニスが手を伸ばそうとして青い輝きを見た。プロンプトの足元に魔法陣が展開。空間の崩落を防いでいた。

「・・・助かった?」

落ちると思い目を閉じていたプロンプトが目を開ける。

「こいつは・・・」

「足を止めるな」

坂の下から傷だらけになったレイヴスが叫んだ。

展開された魔法陣が砕け散り、進行を再開した崩壊を再び展開された魔法陣が防いだ。全員が再び走り出す。レイヴスはその場に立ち止まり魔法陣を展開し続けながら空間の崩落を遅らせていた。レイヴスにたどり着く間際グラディオラスが呼びかける。

「レイヴス、お前も」

「私がここで防壁を張り続けて、ようやくお前たちが逃げるだけの時間が稼げる」

「逃げられねぇかどうかなんて分かんねぇだろうが」

グラディオラスが伸ばした手をレイヴスは躱した。そしてレイヴスは、グラディオラスを鋭い眼差しで見つめた。その眼差しには非難さえ含まれているように感じられた。

「お前は王の盾だろう?私は、フルーレ家の人間。神凪の為に生き、神凪の為に死ぬ」

グラディオラスは自らの背に載せている重みを思い出す。レイヴスは問うたのだ。お前が優先すべきものは何か?と

「グラディオ」

イグニスが呼びかける。

「くそっ」

もう何を言っても無駄だと解っていた。レイヴスは、ルナフレーナの為に死ぬ気なのだ。そしてそれは、グラディオラスにとって痛いほど理解できる。もしも立場が違ったのなら自らも同じことをするだろう。だからグラディオラスは彼の守るべきものを背負い直し、前を向いた。レイヴスを残し出口を目指して走る。最後に振り返ったプロンプトの目には、暗闇の中で何度も生まれては消える青い光がうつっていた。

 

***

 

「おーい、不死将軍生きてる?」

突然、動きが止まったシガイの群れを見てアラネアが槍を下ろした。その呼び声に答えるため砕けたシガイを押しのけてコルが立ち上がる。

「何とかな・・・そっちは?」

「見りゃわかんでしょ。お互い、しぶといねぇ」

アラネアが笑う。そして、ふと差し込んだ光に視線を動かした。

「あれ・・・」

アラネアが見つめる先には、朝焼けが広がりつつあった。混沌から生まれいでたシガイたちの身体は、光を浴びて分解されるように散っていった。人々が歓声を上げる中、力尽きたルナフレーナの手から逆鉾が放れ、倒れ込むその身体を、ゲンティアナがそっと受け止めた。その顔には、悲しみが浮かび、そっと流された涙は、すぐに細かな氷となって風に飛ばされた。支えられたルナフレーナの足元で、同じようにプライナが横たわり、目を閉じた。アンブラは眠りについたプライナに頬ずりし、明けつつある空に向かい悲しげに吠えた。

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