ずっと昔、まだこの星が誕生する前の事。世界には時が流れることもなく、ただ尽きる事の無い闇だけが広がっていました。その闇を混沌と呼びます。
創星記第1章 序
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照明に照らされた議場に高官たちが集まっていた。
「今となっては神凪を抑えられたのは大きい」
苦々しげに男が言う。
「仕方あるまい。誰も想定していなかった事だ。神凪のいるテネブラエに侵攻するなど」
答えた別の男の冷静な言葉を遮るように初めの男が続ける。
「無理をしてでも先に我々が抑えておくべきだった」
「あり得ぬ」
冷静な声で男が否定する。
「過ぎた事を話しても仕方がないでしょう。むしろ帝国が神凪を管理している事を利用できぬものでしょうか?」
落ち着いた様子の女が提案する。
「確かに、未だ世界的な批判はありますが、それをもって今や世界最大の軍事力を有する帝国に抵抗しようとする国家は存在しません。もはや帝国に対するために結んだ同盟も綻びつつある」
眼鏡を掛けた別の男が発言した。議場が沈黙したのを見て、眼鏡の男はさらに続ける。
「状況は最悪です。帝国の次の狙いはここでしょう。何しろここには世界最後と言われるクリスタルが存在する」
それに同意するように、男が頷く。
「帝国は大量の兵に銃器。装甲車両、軍用シガイすら使役するが、なによりも脅威なのは魔導機関とそれを動力にした魔導アーマーや飛空艇だ。王の剣は抵抗を続けているが、この戦力差は覆しがたい。なにより帝国は飛空艇を使い恐るべき速度で兵を展開する。あれに対抗する術を我々は持っていない」
男の言葉を別の男が訂正する。
「どの国も、だ。高射砲では気休め程度にしかならない」
女は疑問を口にした。
「しかしあれは何なのでしょう、どの国もあのような兵器を持ち得なかった。我々が技術で帝国に後れを取っているとは思いません。けれど、あの飛空艇は異質です。魔導アーマーも・・・技術革新とは常に既存の技術の延長線上にあるものです。しかし、あれはそれを飛び越えている。30年前まるで突如としてあらわれ世界の勢力図がそっくり塗り替えられるほどに・・・」
血色の悪い男が賛同する。
「確かに、ヴァ―サタイルが一人で開発したとは信じがたい。我々の研究機関では、未だに同じものが造れない」
本筋から外れようとしている議論を男が引き戻した。
「飛空艇や、魔導アーマー、その動力源である魔導機関について、今、此処で話し合っても仕方あるまい。問題は、それらが実際に存在し脅威となっているという事だけだ」
気の弱そうな男が小さな声で告げる。
「しかし、我々にはクリスタルと、それを用いた魔法障壁があります」
「それとて対抗策には弱い。できるのは せいぜい王都を少しばかり生きながらえさせるだけだ」
気の弱そうな男が反論する。
「そ、それでも未だ魔法障壁により王都を守ることはできています」
「確かに、王都を守ることはできる。されど、我々が完全に守りに転じれば、帝国は我々を無視して、他国へと侵攻するだろう。魔法障壁の外、全てが帝国領となれば、その時にはもう事態を挽回する手段は無い」
熱を帯びる男の声に女が聞いた。
「アコルドは動かないのですか?」
眼鏡の男がそれに答える。
「望めないでしょう。あの国は、意思決定が遅く、そして何より戦争に乗り気ではない」
「我が国の存在が、帝国の侵攻を食い止めているからこそ、独立を保っていられるというのにですか?」
諦めたように男が言う。
「それでもアコルドは動かんだろうさ」
議会を重苦しい沈黙が包み、それを見た王が初めて口を開く
「もうよい。今日集まったのは、何度も交わされた議論をもう一度繰り返す為ではない。帝国より和平条約の交渉要求があった」
議場が騒めく。
「和平条約ですか?・・・ですが本意とは思えません。悪くすれば完全に併合されるでしょう。どちらにせよ、クリスタルは奪われ、武装解除を要求される。さすればその時のルシスに帝国と戦う力は残りますまい」
「しかし、要求を拒めば、宣戦への根拠として扱われかねず。全面戦争となれば、多大な犠牲を伴い勝利は望めない」
またしても沈黙に包まれる議場で、王が再び口を開く。
「残された選択肢は限られている。それでも帝国と全面戦争をするわけにはいかん。和平の証として現神凪ルナフレーナ・ノックス・フルーレ嬢と我が息子ノクティスの婚姻を帝国に認めさせられはしないだろうか?神凪と繋ぐことによって、ルシスは、テネブラエに次ぎ神凪と縁深き地となる。ルシスに神凪を迎え入れることができればあるいは、王都の自治権ぐらいは確保できるかもしれん」
***
王の居室で、王は窓から夜空を眺めていた。
後ろにいた男が問う
「レギス、何を考えている?」
男は、王の事を親しげにレギスと呼んだ。古くからの友である男は、二人でいる時だけは今でも王を名で呼んでいた。レギスは窓辺から夜空を眺めたまま呟く。
「諦めたのだと言ったら?」
男は微かに笑う
「ありえんな」
王は視線を動かした。古くからの友であるこの男に隠し事は通用しない。
「帝国を王都城にて迎え撃つ」
その言葉に男が驚き、声を潜めて聞く。
「協定の場でか?」
「それしかあるまい。王都警護隊を都民の避難へ回せ、表向きは協定の警備の為。王都城周辺を立ち入り禁止区域に・・・国が失われようと、クリスタルが奪われようと、未来を守らねばならぬ。ノクティスの事はコルに任せよう」
「ああ、あいつならば心配はいらないだろう」
「クレイラス、お前は」
「お前と共にいるさ、最後までな」
王の顔が一瞬だけほころぶ。その返事は予期していた通りだったが、それでも嬉しかった。
「この事、限られたものにのみ伝えよ。どこに帝国の耳があるか分からん」
「確かに、アコルドの政治的混乱は、帝国の間者が扇動しているという噂もある。自己の利益の為なら国を売り渡そうとする者はいつの時代にも存在している」
「神凪を帝国の手から逃し、例え倒せなくとも、帝国の力をできる限り削ぐ、神々と人が、本当の世界の危機に対抗するだけの準備が整うまで・・・もう、あまり時間は無いのだ。できることなら、私の代でけりをつけたかったが・・・」
レギスは急速に衰えた自分の手を見て言った。手は老いから無意識に震えていた。クレイラスは、それを見て言う。
「ノクティスなら上手くやってくれるさ、なにせお前の息子だ。俺はグラディオラスの方が心配だよ」
「グラディオラスは心配いらぬだろう。お前の息子はしっかりしている」
それを聞き、クレイラスは笑った。
「どちらも親として思う事は同じだという事だ。子供というものはいつまでも頼りなく見える。だが、その実気付かぬうちに成長しているものだ。信じてやれ。いつか我らの父が、我らに託したように」
それを聞いたレギスは微笑む。
「・・・そうだな」