世界に生じたクリスタルからまず神々が顕れました。次に戦いによって流れ出た血や、飛び散った肉から様々な生命が生まれ、それは女神の創った星の上で増えて広がってゆきました。
創星記第1章 序の四
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先導するコルのトラックから無線連絡が入った。
「モニカから連絡があった。目指している迷いの森には、キカトリーク廃市街を越えていかなければならないが、帝国軍がキカトリーク廃市街内ある放棄された砦を拠点に封鎖線を敷いているらしい。車で通り抜けることは不可能だろう。この人数であれば戦闘を最小限に抑え、気付かれずに通り抜ける事も可能かもしれないが、帰りも同じ事をする必要がある。併せてキカトリーク廃市街は、ダスカ地方への道も通る交通の要所でもある。ダスカ地方への往来が自由になれば、帝国に対する抵抗活動もより広範囲で行う事ができる。できれば此処で潰しておきたい」
「でもよ将軍。5人でやるのか?」
「何言ってんだよグラディオ、王都警護隊も参加するにきまってるじゃん。ねぇ将軍?」
「いや、5人だ」
プロンプトが一瞬固まる。
「は?・・・いやいやいや、嘘でしょ」
「王都警護隊には、残るもう一方、ウィーバー荒野南方にある幹線道路封鎖線に対する奇襲作戦を実行させる」
「つまり、陽動ということですね」
「そうだ」
状況がよく理解できなかったノクティスは聞いた。
「イグニス、分かり易く頼む」
イグニスはそれを受けて解説を開始する。
「帝国は現在。王都、キカトリーク廃市街、ウェーバー荒野南方、ガーディナ渡船場に軍隊を駐留させ、リード地方一帯に封鎖線を形成している。ここで何処か一つを攻めれば、帝国は他の駐留軍から増援を寄こすだろう。そこで同時に襲撃する。ウェーバー荒野南方に大規模な襲撃をかければ、最も近いガーディナの帝国軍も反応するだろう。キカトリーク廃市街の戦力は変わらないかもしれないが、増援を防ぐことはできる」
「だけどよ、王都にいる帝国軍はどうするんだ?ガーディナやウェーバー南方よりも距離的にも近く、規模も段違いの筈だ」
グラディオラスのその質問にはコルが答えた。
「そのあたりは心配しなくてもいい。王都を制圧したと言っても、全軍が自由になるわけではない。むしろ王都を制圧したからこそ、一定数の駐留軍を置いておく必要がある。また、王都襲撃時に将軍グラウカをはじめ帝国軍にも多数の被害が出ている。ただでさえ広大な範囲を武力によって支配している帝国には、軍の再編が最重要課題となっている筈だ。よって今の帝国にはそれほど大規模な増援を王都にいる本体から派遣する余裕はない。また帝国自身が勝利宣言をした今、大規模な軍の動員や、戦闘が起これば、帝国の信頼性が揺らぐ、それを利用する」
「というと?」
「王都警護隊との戦闘の発生を帝国は隠匿しようとするだろう、同時にキカトリーク廃市街での戦いもだ。まさか、死亡宣言をした王子が生きていたとは言えないからな。訓練中に発生した何かの事故として公表されるだろう。そこでキカトリーク砦を速やかに落とし封鎖線を解除。帝国の正式発表よりも前に、帝国は周囲の治安確保が完了したためキカトリーク封鎖線を解除したと喧伝する」
「民衆にそれが広まれば帝国は再度封鎖線を張る事が難しくなる。混乱している帝国軍内部の事情と、政治的状況を利用するということですね」
イグニスが理解したというように告げる。
「そういうことだ」
コルの言葉にプロンプトが神妙そうに頷く
「あ~、つまりとにかく、キカトリーク砦を落せばいいって事ね」
「だな」
「なるほどな」
全員が納得の声を上げるのをイグニスは黙って見渡した。
「なんだ?イグニス、なんか言いたいことがあるのか?」
「・・・いや、いい」
「まずは、キカトリーク廃市街に至る最後の宿営地でモニカと合流、情報を得る。攻撃は夜だ。できるなら今のうちに体を休めておけ」
車のフロントガラスに、雨粒が落ちはじめた。
「雨か・・・」
「なんか嫌な感じ」
「いや、雨は、敵の視界を制限し音を消してくれる。好都合だ」
***
「思ったよりも楽だったな」
落としたキカトリーク砦でグラディオラスが満足そうに笑う。
「いや、勘違いしない方が良い。将軍が強すぎるんだ」
「ありゃ化物だわ」
イグニスとノクティスが口をそろえて言った。完全な奇襲だったとはいえ、あまりにあっけなく勝敗は決した。コルは、まず敵の警戒を掻い潜り、停泊していた最も大きな飛空艇を襲撃、乗組員を惨殺し制圧。プロンプトに飛空艇の大型機銃を任せ、周囲の飛空艇及び揚陸艇、待機中の魔導アーマーを攻撃させた。飛空艇や魔導アーマーは、爆発炎上し、帝国軍は大混乱に陥った。辛うじて破壊を免れ、動き出した魔導アーマーは、真っ先にコルに切断され倒れていった。後は残党狩りだった。
「勝ったー」
機銃の前でプロンプトが歓声を上げる。
「ああ、よくやったなプロンプト」
「将軍なら一人で王都奪還どころか帝国倒せるんじゃないの?」
「敵を侮るんじゃない。今回は、奇襲により主力兵器を無力化したから容易だっただけだ」
そう言いながらコルは不意に空を見上げ、プロンプトの手をひいてその場から強引に引き離した。
「将軍?」
プロンプトの疑問は、撃ち込まれた銃声にかき消された。上空に揚陸艇が降下してきていた。
「増援?」
格納庫が開いて、飛び降りたのは、魔導アーマーでは無かった。
「隠れていろ」
コルが叫びながら走り出す。揚陸艇から飛び降りたのは、白いフードを被った人間だった。左腕だけが甲冑に覆われている。男は、その高度を気にした様子もなく、降り立った。ノクティス、グラディオ、イグニスが瞬時に戦闘態勢を取る。
「お前は?」
「さて誰だと思う?」
その声は男の物だった。白いフードの男は、腰に提げていた刺突剣を抜き放った。男の姿が消え、咄嗟に反応したノクティスが、刺突剣を辛うじて受け止める。
「なっ」
その異様な速度にノクティスが驚く
「こいつ」
グラディオラスが斬りかかると、男は宙を舞うように後退していく
「逃がすかよ」
グラディオラスの追撃は男に届くように見えた。男が伸ばした甲冑の指先に魔法陣が浮かんでいた。そこから生じた閃光が、グラディオラスを吹っ飛ばした。
「グラディオ!」
グラディオラスは破壊された飛空艇に叩きつけられ倒れた。
「魔法!?しかもあれは、ホーリーか?」
イグニスが驚く。青白い光は、確かに魔法の光だった。魔法は、クリスタルに選ばれたルシス王家。もしくはその王の力を分け与えられた者だけが行使できる力だ。しかも聖なる閃光を放つホーリーとなれば指輪の継承者たる王にしか使えない筈。帝国兵が使えるはずがない。だが、現実として目の前で魔法が発現していた。
「指輪は私を拒絶したが、それでも殺しきるまでは至らなかった。そして私は力を手に入れた」
激高と共に、ノクトが繰りだしたシフト攻撃を、刺突剣が難なくいなし、出現したノクトの体制を崩すのと同時に上から足が叩き込まれた。地に伏したノクトの頭を、男の足が踏みつけて固定する。ノクトの頬が、泥水に押し付けられた。
「選ばれし王が、この程度か」
「ノクトっ」
走り出そうとしたイグニスの前に魔法陣が浮き上がる。
「おっと、動くなよ?」
イグニスは後退を余儀なくされる。
「くらえ」
プロンプトの放った銃弾は、男の前に生まれた魔法陣が魔法防壁となり防いで見せた。
「そんな」
「四人がかりで、手も足も出ないか、笑わせてくれる。貴様に王たる資格は無い。此処で死ぬのなら、それもまた世界の運命、さてどうする不死将軍?」
「イグニス、プロンプト、グラディオラスを連れて離れろ、本気で行く」
「そうこなくては」
白いフードの男が後方へ飛びのく
「くそっ」
ノクトが立ち上がろうとする。男にコルが追随。目の前に現れた魔法陣を強引に切断。文様は意味を無くし空中に飛散。
「魔法陣を斬るか」
そのまま突き出された刀身を、男の刺突剣が受ける。超高速の剣技の応酬。金属が打ち合う甲高い音だけが響く。男は足元に魔法防壁を出現させ、それを蹴って後方へ空中跳躍。同時に下方のコルへ向かって多重魔法陣を形成。コルは最低限の魔法陣を切り捨て、舞うように躱し進んでゆく。魔法陣から閃光が出現するも地を穿つにとどまる。出現する魔法陣と閃光、その間をすり抜けるように抜ける黒。抜き放たれた刀が刺突剣とぶつかり合い。刹那の間に複数回斬り結ぶ。大きく斬り込まれた刀の一撃を受け止めた刺突剣にかかる衝撃を利用して白いコートの男が舞い上がり、離れる。同時に複数の魔法陣が形成されるも魔法陣の形成とその後に発動する閃光では、高速で移動するコルを捉えられない。
「これが、人間の戦いだと!?」
その圧倒的な差にイグニスは戦慄した。誰もついていけない。上空に控えている揚陸艇すら手が出せない。コルの放った斬撃を躱しながら、男は魔法防壁によって足場を形成。空中跳躍によってそのまま宙に留まっていた揚陸艇の格納庫に到達。
「流石は、ルシス三強。不死将軍と呼ばれるだけのことはある」
その時、男のフードが切れ、風によって顔が露わになった。
「届いていたか」
頬に走る裂傷から、血が滴っていた。
「レイヴス!」
その顔を見てノクティスが叫んだ。
「覚えていたかノクティス、12年ぶりだな。もう少し遊んでやりたいが、不死将軍に免じて此処は退こう。次会う時までに少しは強くなっておけ、でなければ、次は死ぬぞ」
扉は閉められながら飛空艇は上昇し、夜の雨の中に消えた。
「何者なの?」
唯一レイヴスを知らなかったプロンプトが恐れから震える声で聞いた。
「レイヴス・ノックス・フルーレ」
「ノックス・フルーレ、それって」
「ルナフレーナ様の兄だ」
降りしきる雨の中でイグニスの言葉が告げた。
***
揚陸艇の操縦士がレイヴスに問う。
「宜しいのですか?揚陸艇の力を持ってすれば、例えあの不死将軍と言えど」
「構わん、放っておけ。殺せたとして、王子まで挽肉になってしまっては意味が無い。皇帝陛下の前に、それと分かる形で差し出さねばな、しかし、不死将軍がいる限り無理に捉えようとすれば、こちらに多大な被害が発生する。機会を待てばいい。奴らが向かう目的地のいくつかは分かっている。そこで捉える」