神々は、やがて訪れるだろう混沌の復活を予期していました。そして、それに備えるため、一つの指輪を作り、人に与えました。
創星記第1章 序の六
***
車は、キカトリーク廃市街を通り、解放された封鎖線を抜けて、ダスカ地方へと入った。途端に、ノクティスが頭を抱える。
「どうした?」
「いや、急に頭が痛んで、何かが・・・」
「何か?」
「燃えている、大きな石のような物が頭の中にうかんだ」
その言葉を受けてイグニスが口を開く。
「恐らくカーテスの大皿の光景だろう」
「カーテスの大皿って、巨神が・・・呼んでる?」
「恐らくは」
「今も痛むのか?」
「いや、もう痛みはひいた」
「そうか」
「じゃあ、急いでカーテスの大皿に向かう?」
そう聞いたプロンプトの後ろで、ノクティスの携帯端末が鳴った。ノクティスは通信を開き応答する。受け答え方からすると、親しい者だろうとプロンプトは思った。まぁ、ノクティスの携帯端末に直接連絡してくる者で、親しくない者はいないのだが、通話を終えたノクティスは車を運転しているイグニスに言った。
「一度レスタルムに向かおう。イリスから連絡があった。レスタルムに付いたらしい」
「わかった、そうしよう」
イグニスが賛同する。
「なんでまず俺じゃなくノクトに連絡がいくんだよ」
グラディオラスが愚痴った。グラディオラスを放っておいて、プロンプトはイグニスに聞いた。
「でも地図によるとカーテスの大皿の方が近いよ?」
「確かにそうだが、俺達はカーテスの大皿について何も知らない。巨神のいるという中心までは道が無く、車で近づけないことは確かでもある。レスタルムで準備、情報収集をしてカーテスの大皿へ向かおう」
「そっか、わかった」
「だな。まず兄に連絡をよこさない。兄不幸者の顔も見たいしな」
まだ根に持っているらしいグラディオラスにプロンプトは聞いた。
「妬いてんの?」
「うるせぇプロンプト」
***
「遠っ、レスタルム遠っ」
プロンプトが口にしたように、レスタルムを目指してから、かなりの時間がかかっていた。
「すげぇかかったな」
「まぁちょうどいいんじゃねぇか、イリスはリウエイホテルにいるらしいし、今日は俺達もそこに泊まって、明日の朝から動き出そうぜ」
ノクティスの言葉にイグニスが賛同する。
「ああ、それがいいだろう」
車を駐車し、レスタルムの街に入った。レスタルムは、王都とは違う独特な雰囲気があった。まず暖かい。夕方でこれなら、昼など暑いぐらいだろう。街中にはそれを表すように、熱帯地方の植物が見受けられる。何かの配管が町中を駆け巡っているのも特徴的だった。メテオの熱から電力を取り出しているらしいから、その為の設備なのかもしれない。この暖かさもメテオによるものの可能性もある。
「思ってたより大きな街だな」
ノクティスが言う。
「いろんな店もありそうだな。おっ、武器屋の看板だ」
その看板にひかれるように歩き出そうとしたグラディオラスをノクティスが止める。
「散策は明日にしようぜ、イグニス、ホテル」
「ホテルは・・・こっちだな」
リウエイホテル、看板にそう書かれているのを確認する。
「ここだな」
カウンターに向かいイグニスが手続きを行う。
「兄さん」
客室のある二階から降りてきた少女が嬉しそうに手を振る。
「おう、イリス」
「ノクトも、イグニスもプロンプトも、皆無事だね」
「ん」
ノクティスが頷き
「ああ」
イグニスが答える。
「イリスも元気そうで良かった」
プロンプトが喜びながら返す。
「部屋に行こっ、ジャレッドやタルコットも待ってる」
「ああ」
イリスに連れられて階段を上がり客室に向かうと、それを老人と少年が出迎えた。
「ノクティス様、グラディオラス様。皆様方もよくぞ御無事で」
「ジャレッド、タルコットも無事でよかった。心配かけちまったな」
「いえ、御無事ならばそれでいいのです」
「ノクティス様、イリスは俺が守ってます」
ノクティスの前で少年は、堂々と胸を張って言った。それを見てイリスは笑っている。
「これ、タルコット」
ジャレッドがタルコットをたしなめる
「申し訳ありません、ノクティス様」
「いや、いいよ。しっかり頼むな」
「はい」
タルコットは嬉しそうに頷いた。それから、全員で食事をし、部屋に戻り、それまでの出来事を、良かった事だけ話した。タルコットは、もっと話していたそうだったが、瞼が下がってきていた。
「すいません、ノクティス様。そろそろ失礼を」
ジャレッドの言葉にノクティスが頷く。
「ああ」
部屋を出る前にタルコットが振り返る。
「おやすみなさい。ノクティス様」
ノクティスは軽く振って答えた。
「おやすみタルコット」
タルコットはジャレッドに連れられて自分たちの部屋に戻っていった。
「ノクト、お前も、もう眠いだろ」
「あー、そうだな。俺も寝るわ」
「じゃあ、明日、朝から街を散策しようぜ」
グラディオラスの言葉にイグニスがくぎを刺す。
「重要なのは情報収集だ」
「どっちも似たようなもんじゃん」
プロンプトの気楽な言葉にイグニスが反論する。
「全然違う」
イリスはその様子を笑いながら見つめている。
「皆変わらないね。じゃあ、また明日。ノクト寝坊しないでよ」
「あいよ」
イリスの揶揄うような声にノクティスは適当に返事をした。
***
窓から差し込む光で目を覚ました。いつの間にかカーテンが開けられており、鳥のさえずりも聞こえる。まだ重い瞼を開けて見回す。もう昼近いような気がする。念のため聞いてみる。
「今、何時だ?」
その問いに答える声は無かった。
「・・・イグニス?」
目をこすり、呼びかけながら身を起こすと、周りのベッドは全て空になっていた。部屋に人の気配はない。
「・・・誰か起こしてくれりゃあいいのに」
一人だけ置いて行かれた事に気付き、ノクティスがぼやく。仕方が無いので、ベッドから降り、身支度をする。乱れたシーツはそのままにしておいた。4つ並んだベッドの内、自分のベッドだけが乱れているのは気になるが、気にしないことにする。どうせイグニスの様にはできない。それに、後でホテルの清掃員が入るのだから整えようが、そのままにしようが、同じ事だとノクティスは思うのだが、イグニスはそういう所を気にする癖があった。何事もキッチリとおこなわれていないと気に入らないらしい。本人は気に入らないという事は無いのだが、と毎度言うが、あれは絶対に気に入らないのだ。グラディオラスやプロンプトがシーツを整えるとは思えないし、まるで使われていないような状態に戻すにはイグニスでなければ無理だろう。部屋を出ると、ドアノブには、起こさないでくださいの掛札。それを外して部屋の中に放り込む。廊下を進み階段を下りていくとイリスがいた。
「おっそーい」
イリスは笑いながら言った。ノクティスあくび交じりに軽く手を挙げて返事をする。
「寝癖、出来てるよ」
イリスがノクティスの頭を指さして告げる。
「知ってる」
鏡の前で気づき、櫛を当ててみたが直らなかったのでそのままにしていた。
「ノクト昔から朝弱いよね。よくそれで一人暮らしできてたっていうか、いつもどうしてたの?」
イリスの疑問にノクティスが答える。
「あー、イグニスが起こしに来てた」
イリスが若干呆れている気がしたが、その件に関していえばノクティスにも言い分があった。イグニスが用意した目覚まし時計は全て役に立たなかったのだ。きちんとセットしたにもかかわらず、だ。イグニスによって目覚まし時計は増やされ、最終的に5つの目覚まし時計が設置されたが、その全てが何故か意味をなさず、ノクティスが床で倒れるように寝ていた事をきっかけに全て撤去された。それ以来イグニスが必ず起こしに来て朝食まで作るようになった。あの時何があったのかノクティスには分からない。永遠の謎だ。仮説はあるが、無意識のうちに行われていたので、責任能力は無く無罪である。
「それで・・・あいつらは?」
イリスの側にもいない仲間たちのゆくえを聞いた。
「皆街見てくるって、もう行っちゃったよ」
「私たちも行こう、案内してあげる。」
「ああ、頼む」
***
街を一通り周ったノクティス達は、一度ホテルに戻ってきた。イリスは終始元気が良かった。それは無理をして明るく振る舞おうとしていたのかもしれない。帝国による王都制圧と父親であるクレイラスの死は、イリスの心に大きな傷をつけているに違いない。それでもそれを欠片も見せようとしないその態度にノクティスも応えたかった。今できる事はそれぐらいしかなかったから。イリスが何か言えば、ノクティスはその会話に乗った。まるで幼いころ何の不安も無かった頃のように、他愛もない事で笑い合った。
「ノクト、今日は昔みたいに、こうして二人で歩けて楽しかった」
「ああ、俺も、ありがとな」
イリスは笑っていたが、その表情に影が見えるような気がした。いつか、イリスが本当に笑えるように、悲しみや喜びを昔のように素直に表すことができるように、なにも無かった事にはできないとしても取り戻さなければならないとノクティスは思う。
「おう、戻ってきたかノクト」
ホテルのエントランスには、グラディオラスとイグニスが待っていた。
「収穫は?」
イグニスが聞く
「なんの?」
「・・・カーテスの大皿についての情報収集をすると決めていただろう」
イグニスが呆れたように言う。だが、半ば予想していたのだろう。ガッカリした様子は無かった。
「あー、そうだっけ?」
そう言いながらノクティスはイグニスの言葉が気になり聞き直す。
「うん?俺、も?」
見れば、グラディオラスは、磨いていた新しい大剣を掲げて見せた。グラディオラスは、昨日から武器屋とそこにある武器の事しか考えていなかったらしい。
「そういう、イグニスはどうなんだよ」
グラディオラスは自分の新しい武器について誰も注目しないことを若干不満に思いながら聞いた。何故、誰もこの強固な刃を生み出した鍛造技術と、ほれぼれするような輝きをはなつ一流の研ぎを褒めたたえないのか理解できない。
「町の住民に聞いてみたが、カーテスの大皿に行ったことのある者はいなかった。いくつかの情報は手に入れることができたが・・・」
「イグニス、見つけた。カーテスの大皿に詳しい人見つけたよー」
イグニスの言葉を遮って興奮したプロンプトが飛び込んできた。
「本当か?」
イグニスが最も期待していなかった相手。といっても自分以外の誰かがまともに情報収集をするなど端から期待していなかったのだが、そのプロンプトが情報を持ってきたことにイグニスは心底驚いていた。
「本当、本当」
自信満々なその様子が、むしろイグニスを不安にさせる。
「よっし、それならさっそく話を聞きに行こうぜ」
グラディオラスは、武器を宙に消し立ち上がった。あまり期待せずに行ってみようとイグニスは思った。プロンプトに案内されるまま向かうと、そこには少し小太りな中年がいた。その姿は、ただの観光客にしか見えない。正直言って胡散臭い。それがプロンプト以外の三人に生まれた共通認識だった。近づくプロンプトに気付き中年は手を上げて挨拶する。
「やぁ、君たちが、カーテスの大皿に向かうのかい?それも巨神のいる中心を目指しているとか」
男は、額から流れ出る汗を拭き、暑そうに顔を扇いでいた。
「あんたは?」
ノクティスが代表して問う
「ああ、まだ名乗ってなかったね。僕はビブ。メテオ・パブリッシングっていう雑誌を作ってるんだ。知ってるかな?」
ノクティスはイグニスを見た。イグニスは僅かに首を横に振る。
「・・・いや」
ビブは僅かに残念そうな顔をしてみせる。
「そうか、まぁしょうがない。ああ、気にしなくてもいいよ。それでね。カーテスの大皿に向かうなら写真を撮ってきてもらいたいんだ。伝説の巨神タイタンの写真さ」
「なんでまた?」
「雑誌に乗せようと思ってね。勿論報酬も弾むし、引き受けてくれるなら、僕が知ってるカーテスの大皿についての情報を君たちにあげる」
「ちょっとまってくれ、仲間と相談したい」
ビブは頷いた。
「ああ、構わないよ」
ノクティス達は、その男から少し離れ、話し合った。
「どうする?なんかちょっと怪しい感じがするが」
「そうだな。だが街で聞いて回ってみたが、有力な情報は無かった」
「かけるしかないか」
「よし、決定」
プロンプトは欠片も疑っていない。ノクティス達は男の元へ戻る。
「わかった。引き受けよう」
その言葉を聞いてビブは喜んだ。
「ありがとう。じゃあ、まず情報を、君たちが、カーテスの大皿中心部に至るには二つの障害がある」
「ふたつ?」
「そう、まず一つ目、カーテスの大皿の中心部は見た目よりも遠い。また、険しい荒れ地になっていて、徒歩で向かうのは困難だ。だから、この辺りの人たちはいつもメテオを見ているけれど、実際に行った事のある人は少ない。野獣や、夜になればシガイの危険もある。カーテスの大皿付近は、特にシガイの目撃例が多いんだ。そして中心部はメテオの放つ熱で地面が所々溶岩のようになっているし、行ったことのある人で峰までじゃないかな。僕が知っている数少ない峰まで行ったと言う人もチョコボを使ったらしいけれど」
「チョコボ!?いいねぇ」
チョコボと聞き、プロンプトが声を上げた。
「ああ、君はチョコボが好きなんだね。でも、あいにくチョコボの貸し出しは今中止されていてね」
高揚したプロンプトのテンションがそれを聞いて下がった。
「なんで?」
「近辺に大型の野獣ベヒーモスが現れたことが原因みたいだね。討伐依頼が出ているよ。僕はハンターじゃないから詳しくは、直接チョコボの飼育をしている牧場へ行って聞いてみるしかないね。そして、もう一つ」
それについては、イグニスにも思い当たる事があった。
「帝国軍基地ですね」
ビブが頷く。
「そう、カーテスの大皿に入るにはどうしても通らなければならない道があるんだけど、その道の上に帝国軍が基地を構えていてね。随分昔、帝国の飛空艇がカーテスの大皿付近で墜落したことを知っているかい?」
「ええ」
「帝国は飛空艇の整備不良と発表したけれど、あれは、帝国がカーテスの大皿を調べようとしていたんだ。でも、飛空艇は近づけなかった。それで、帝国はカーテスの大皿へと通じる唯一の道の上、飛空艇の飛行可能領域ぎりぎりに基地をつくったのさ、メテオと巨神の研究、観察の為にね。でも帝国が何かを発見したという話は聞かないし、要衝ではないから基地に詰めている軍もそれほど大規模なものでは無いけれど
此処を超えないとカーテスの大皿には近づけない。それと、これは未確認の情報なんだけど、ずっと放置されているような状態だった基地に、最近急に新しい部隊が配属されたようなんだ」
「基地が強化されたと?」
「はっきりとしたことは言えないけど、それまで見たことが無かった赤い揚陸艇が降りるのを見た人がいる。まぁ、大型の飛空艇ではないから、それほど気にしなくてもいいかもしれないけれど、気を付けるに越したことは無いからね。僕が知ってるのはこれで全部かな。君たちが巨神の下に行くなら、チョコボの貸し出しを再開させて、帝国軍基地を突破しなければならない」
「なるほど、情報提供に感謝する」
「いいよ。そのかわり巨神の写真撮ってくるの忘れないでね。報酬は弾むからさ」
ノクティス達は、男の話を聞き終えて、とりあえずホテルに戻ってきていた。
「まずは、チョコボの方だな」
ノクティスの言葉にプロンプトが喜ぶ。
「ベヒーモスを倒して、チョコボに乗ろう!」
「そうだな、牧場へ行って詳しい話を聞き、ベヒーモスを討伐しよう」
ノクティスが頷く。
「その後、基地を襲撃、突破し、巨神タイタンのいるカーテスの大皿中央を目指すぞ」
イグニスは、端末を取り出した。
「コル将軍にも連絡しておこう、カーテスの大皿から戻ってくるまで、別の場所に帝国軍の目を引きつけておいてもらいたい」
「ノクト、出発するの?」
降りてきた、イリスが聞く
「ああ」
「気を付けてね。待ってるから」
「ああ、イリスも」
タルコットやジャレッドも降りてきた。
「タルコット、イリスの事頼むぞ」
「はい、ノクティス様」
タルコットは胸に手を当てて頷く。
「お気をつけてグラディオラス様」
ジャレッドは穏やかに告げた。
「おう」
グラディオラスが答え、プロンプトは手を振る。
「行ってきます」
三人に見送られながらノクティス達は出発した。
***
牧場に到着すると、たくさんのチョコボ達を発見したプロンプトが喜びながら駆けていった。まぁ、ここなら迷子になる事も無いだろうし、気にしなくてもいいだろうと、ノクティス達は牧場主らしい男のところへ向かった。イグニスが代表し、男に聞く
「チョコボを借りたいんだが、今は中止されていると聞いた」
牧場主が辛そうな顔をする。
「ああ、そうなんだ。大型の野獣が現れてね。スモークアイ、そう呼ばれてるベヒーモスさ、本来ならチョコボは、そうやすやすと捕食者に掴まってしまったりしないんだが・・・此処にいるのは、人の手で育てられたチョコボ達でね。野生のチョコボに比べると警戒心が薄いんだ。勿論それでも人の何倍も耳がいいし、危険に気付けば、逃げようとするだろう。でも万が一の事を考えると、今は貸し出せない。すまないね」
グラディオラスが牧場主に問う。
「そのスモークアイっていうベヒーモス、俺達が退治して来たらチョコボを貸してもらえるか?」
「え?君たちが?」
牧場主は驚いた顔をして言う。
「もちろん、退治してくれたらチョコボの貸し出しはすぐに再開するけれど、だけどスモークアイは強敵だよ。もう何人ものハンターを返り討ちにしてる」
「まかせてくれ、こういうのには慣れてる」
グラディオラスは大剣を掲げて見せた。武器召喚しても良かったが、帝国軍に特定されるのを避けるために、今回は、わざわざ持ち歩いていた。それを見た牧場主は、考え込む。
「確かにそんな大剣を軽々しく扱うとは、力はありそうだ。君たちはハンターなのか?」
「まぁ、そんなとこだ。この辺じゃまだ知られてないかもしれないが王都の方じゃ結構有名だぜ」
グラディオラスは歯を見せて笑った。
「そうか、分かった。依頼しよう。でも本当に気を付けて。危なくなったら無理をせずに逃げるんだよ」
牧場主は何度も念入りに忠告した。
「プロンプト行くぞ」
チョコボを撮影し、戯れていたプロンプトが慌てて戻ってくる。スモークアイの位置を聞き、牧場から去っていく四人の姿を見て牧場主は呟く
「本当に大丈夫だろうか、あの子はともかく、他の子はあまり強そうに見えなかったけれど・・・」
牧場主は勢いに押され依頼してしまった事を、後悔しつつあった。
***
ノクティス達は、ベヒーモス、スモークアイの住処を探して森を進んでいた。
「ベヒーモスか、腕が鳴るな。新しい剣の威力も早く試してみてぇしな」
グラディオラスが意味も無く大剣を振り、小枝を斬り飛ばす。
「おっ、またあったぞ」
巨木の上の方に刻まれた傷を見てグラディオが言う
「ベヒーモスの爪の跡だな、傷跡が未だ新しい。近いぞ」
プロンプトは静かだった。
「おい、プロンプトさっきまでの威勢はどうした?」
「あ、いや、だっておかしいでしょ、爪の位置が、なんか木も薙ぎ倒されてるし」
「なんだ、お前、ベヒーモス知らねえのか?」
「おっきなネコみたいなやつでしょ?あ、二足で立ち上がるから、あんなに高い位置に爪痕があるんだよね?足跡が大きいのは、身体に比べて足だけやたら大きいからで、木が倒れてるのは丈夫な歯でちょっとづつ齧ったからだよね。お願いそうだと言って」
プロンプトは冗談を言いかねないグラディオラスでは無く、真面目なイグニスの目を見つめて聞いた。
「残念だが、爪痕はベヒーモスが四足歩行したまま付けた位置で、身体はもっと大きく、その強靭な肉体で、大木をへし折っている」
「鬼、イグニスの鬼」
グラディオラスがイグニスの口を手で塞いだ。
「しっ、近いぞ。あの奥だ」
獣が喉を鳴らす音が聞こえた。折れ曲がった木をそっと潜り抜けると、ベヒーモスの巨体が見えた。まだこちらに気付いてはいない。ヒレのような物が付いた巨大な尾がこちらに向けて伸び、揺れている。プロンプトが悲鳴を押し殺す。
「あれは」
ノクティスの目に、今まさに振り下ろされようとする巨大な爪の前で、蹲っている黒い鳥の姿が見えた。それを見てノクティスは飛び出す。
「援護しろ」
「おい、ノクト」
呼び止めるイグニスの声を残し、ノクティスはシフトによってベヒーモスの側面に移動。ファントムソードを展開しつつ再シフト、振り上げられたベヒーモスの腕に全力で叩きつけた。ベヒーモスはその衝撃でバランスこそ崩さなかったが、身体をノクティスの方へ向け、残ったもう一方の手で、ノクティスを振り払う。突然の攻撃に対する本能的な反撃。ノクティスは空中で回転しながら回避。ベヒーモスの目がノクティスを、そしてその後ろにいるグラディオラスたちを捉えた。
「ちょっ」
突然開始された戦闘にプロンプトが声を上げる。グラディオラスは大剣を構え直し、イグニスは双剣を召喚。一方を前に突き出し、一方を後方へ下げる。
「もうやるしかねぇだろ。話に聞いた通り、右目に怪我をしてるな。奴がスモークアイだ。」
大音量で響き渡るスモークアイの雄叫びをその身に受けながらグラディオラスは何処か嬉しそうだ。
「イグニス、プロンプトは距離をとれ、やつの一撃を食らっちまったら、お前らじゃ耐えられねぇ」
初めて相対したベヒーモスのその巨躯と、それに見合った大木のような腕に、プロンプトはグラディオラスに言われるまでも無く距離をとっている。近寄る事が既に危険なことは見ればわかる。プロンプトは遠距離からの狙撃に専念するつもりだった。グラディオラスが駆けていき、振るわれる腕の強力な一撃を防御。それに合わせてノクティスがシフトによる攻撃を加え、ノクティスを払いのけようとしたスモークアイをグラディオラスが追撃する。前衛二人の途切れのない連携の間に、イグニスとプロンプトが、短剣の投擲と銃弾を浴びせる。だが、分厚い皮膚やその下にある筋肉に、有効打を与えることはできない。不意にスモークアイは上半身を低く落とした。その強靭な四肢が地面をしっかりとつかむ。肩甲骨が浮き出る。そして次の瞬間、後ろ足が地面を強く蹴る。跳躍。射出された砲弾のようにスモークアイは突進。グラディオラスが地面を転がり回避。ノクティスもシフトで逃れる。驚きと共に固まっていたプロンプトをイグニスが抱え、身を投げ出しながら振り下ろされた右腕の一撃を回避する。巨大な爪の先がイグニスの背をかすり、防刃繊維でできた戦闘着をやすやすと切り裂いていく
「イグニス!」
ノクティスが叫び、再度スモークアイの注意を引くためにファントムソードを突撃させ、自らもシフトで強襲。グラディオラスは、イグニスとプロンプトを庇う位置に移動しながら防衛。立ち上がったプロンプトは自分を庇ってくれたイグニスの背中を確認する。切り裂かれた戦闘着の下は無事だ。辛うじて引き裂かれるのを免れていた。プロンプトとイグニスは、ノクティスが引きつけている間に、再び距離をとる。あの巨体からは想像もつかぬ俊敏性では、一瞬も気を抜けないとプロンプトは感じた。距離をとりながらイグニスは気付いていた。スモークアイの右腕による一撃が何故自らの背を切り裂くには至らなかったのか
「ノクト、左側から攻めろ、グラディオ、右側で奴の気を引け」
「おう」
その指示に従い二人は動いていく。やはり情報通りスモークアイの右目は視力を失っているらしい。捕食者である肉食獣は両目を前方に向ける事で、広い視野を失う代わりに、二つの視覚から得られる情報を統合し物体と自己の間にある距離を正確に把握する立体視を持っている。このベヒーモスが右目を失ってからどれだけの月日が流れているのかは分からないが、距離の把握能力は落ち、右目のある方向、こちらから見て左側面は死角になっている筈だ。そして、先ほどの攻撃から分かった事だが、奴の利き手ともいうべきは右手だった。だから、咄嗟の時に奴は右手を出す。それが、距離の掴みづらく、死角の多い方向であっても無意識のうちに、だからこそイグニスは先ほど切り裂かれずに済んでいた。ただ、だからと言って楽観視はできない。その巨体が生み出す力は、多少の不利など簡単に覆すほどの力を持っている。イグニスは万全を期すためプロンプトに言った。
「プロンプト、奴の残った左目を撃ち抜けるか?」
「分かった。やってみる」
プロンプトは、ノクティスとグラディオラスが抑えている間に、自らが得意とする距離。射線上に位置する地点へ移動する。
「イグニス、そっちに気を引いて!」
プロンプトの声と同時にイグニスが短剣を投擲。スモークアイの頬を浅く切り裂き、スモークアイの頭が短剣の飛んできた方向へ向けられる。プロンプトとスモークアイの残された左目の間に射線が通じた。発砲音が響く。プロンプトが撃ち出した弾丸は正確に残された左目を貫き、破裂させた。スモークアイが絶叫。眼窩を貫き頭部へとダメージを与えることはできなかったようだが、スモークアイは完全に視界を失っていた。ベヒーモスは発達した資格のかわりに嗅覚は鈍い。こちらの位置が分からなくなったスモークアイは無茶苦茶に腕を振り回し始めた。
「良くやったプロンプト!」
叫んだノクティスの声に反応したスモークアイが大木のような腕を振り下ろすがノクティスはそれを跳躍し回避、ファントムソードを解除しつつスモークアイの頭部から突き出ている角に着地。さらに跳躍。スモークアイは大きく口を開け、空中にいるノクティスの位置を予測。噛み殺そうとする。ノクティスはその大きく開けられた杭の様な牙の並ぶ口腔へ手を向け、ファントムソードと引き換えに紡いでいた魔法を放った。途端に、ベヒーモスの口内が炎上。この星を構成する基礎元素のひとつである火を発生、爆発的に炎上させるファイアの上位魔法ファイラだ。火球はスモークアイの口腔内へと侵入し、内側で炸裂。食道や、胃と言った内臓から、鼻腔、眼窩、恐らくは脳の一部までも焼いた。スモークアイの頭部から火と煙が立ち上る。それでもまだ振るわれようとする腕を、グラディオラスの渾身の一撃が両断した。自重を支え切れなくなったスモークアイは地に倒れ、そのまま息絶えた。死因は呼吸器系にまで火が回り無酸素状態になった事による窒息。発生すれば一定時間は消える事の無い魔法の火がスモークアイの必要とする酸素の供給を断ち、肺の中に残存していた酸素も燃やし尽くしたのだ。肉の焼ける臭いが辺りに広がっていた。
「久しぶりに見るが、やはり強力だな」
グラディオラスが言う。初めて見たプロンプトは、その威力に恐ろしさすら覚えた。魔法は強力に過ぎる。だからこそノクティスもまず使うことは無い。一人ならともかく通常の戦闘で使えば仲間を巻き込んでしまうからだ。それに魔力の供給を必要とする特性上ファントムソードとの同時使用ができない。ファントムソードの方がこまかな制御が効き、攻撃にも防御にも使え便利であるということも理由であった。今回は敵が巨大であり、巨大な口内という効果の範囲を限定できる閉鎖空間があったからこそ使用したのだ。
「まぁ、なんにせよ終わったな」
満足そうに大剣を担いだグラディオラスの横から、ノクティスが駆けていった。そう言えば、ノクティスは何かを見て、スモークアイに突然突撃していったのだ。プロンプトとイグニスが慌てて後を追う。ノクティスが向かう先、岩壁の隅に小さくなった黒い塊が見えた。
***
ノクティスとグラディオが待っている場所に、プロンプトとイグニスが牧場主を連れて戻ってきた。牧場主は、焼け焦げて倒れている巨大なベヒーモス、スモークアイの死体に驚いていた。
「信じられん。どうしたらこんな風に・・・」
「それよりも」
立ち尽くしていた牧場主をプロンプトが促す。
「こっちだ見てやってくれ」
ノクティスが呼びかける。
「これは、黒チョコボ!君が助けたのか?、足を怪我しているみたいだ。よし応急処置をしてすぐに牧場へ連れていこう、手伝ってくれ」
ノクティス達は、チョコボ用の担架にその黒チョコボを載せ、運んだ。
***
牧場についたノクティス達に黒チョコボへの応急手当てを終えた牧場主が汗を拭きながら礼を言った。
「いやぁ、ありがとう黒チョコボは貴重でね。絶滅しかけている。普通のチョコボよりも気難しくて繊細。足が速く警戒心も強いから滅多なことではお目に掛かれないし、他の獣に襲われることも無いんだが、この子は足を怪我していて、それで逃げ遅れたんだろう。幸いなことに大した怪我じゃない。すぐに元気になる。スモークアイの事もだが、なんとお礼を言っていいのか分からないよ」
ノクティスは笑って答える。
「いいよ。助けられてよかった」
「それにしてもこの子は、助けてくれた君にとても懐いている。そうじゃなかったら、牧場まで連れてくる事もできなかった。走れるようになれば喜んで君を乗せてくれるだろう」
「いいな~。懐かれて」
プロンプトが羨ましそうに言う
元気になった黒チョコボはノクトの傍で、ノクトの髪をつついていた。
「こいつの所為で、髪が乱れっぱなしだ」
ノクティスがうんざりした顔で言う。
「黒チョコボ君はノクトの髪を同じ黒い羽だと思ってるんだよ」
「いや、この子はメスだよ」
牧場主はプロンプトの言葉を訂正した。
「そっか、黒チョコボちゃんなんだ」
グラディオラスが牧場主に聞く。
「しかし、そんな貴重なチョコボに乗ってしまってもいいのか?」
牧場主はグラディオラスの疑問は最もだと頷きながら答える。
「そうだね。でも黒チョコボはとても一途なんだ。一度相手を見初めると、他の子とペアリングするのは難しい。無理やり引き離すのもストレスになってしまう」
グラディオラスはその言葉に少し考え込んだ。
「あー、つまりなんだ。このチョコボは、ノクトに惚れてるのか?」
牧場主が肯定した。
「そういうことになるね。髪を弄ったり、嘴を頬に当てるのはチョコボ達の求愛行動なんだ。許してあげて欲しい」
ノクトの髪はいじられ続けており、プロンプトが喜んでいる。写真を撮ろうとプロンプトが近づこうとすると、黒チョコボに嘴で押された。
「なんで?」
グラディオラスがそれを見て笑う。
「お前の頭がチョコボっぽいからだろ。恋敵だと思われてるんじゃないか?」
牧場主はその様子を微笑みと共に見つめながら告げた。
「そうだ、うちの子たちも約束通り貸し出そう、スモークアイを倒した君たちになら安心して貸し出せる。なによりチョコボに好かれる人に悪い人はいないからね。そうだ、ついでにこの笛を渡しておこう。君が吹けばチョコボが駆けつけてくれる。用事がある時に呼ぶことを教えてあげるんだ。元気になりしだいこの子を行かせる。それまでは、うちで飼ってるオスのチョコボを行かせるよ。オスならこの子も嫉妬しないからね」
牧場主の言葉に、イグニスが感謝を伝える中。
「なんで、俺はメスだと思われてるんだよ」
プロンプトが近くから写真を撮るのを諦めて喚いていた。
***
「あれだな」
イグニスは車道にある路側帯に車を止め、遠くに見えるコンクリート壁を見て言った。その壁は随分と汚れている印象を受けるが、間違いなく帝国軍基地だ。
「帝国軍基地を攻めるのは二度目だが、今回は将軍がいない。気を引き締めていこうぜ」
「ああ」
グラディオラスの言葉にノクティスが賛同する。
「だが、まぁそんなに気負う必要もないかもな、なにせ前回と違って、主要な基地じゃねぇ」
「それでも、赤い揚陸艇の話は気になるな」
イグニスが、楽観視するグラディオラスに釘をさす。グラディオラスは不敵に笑う。
「考えてても仕方ねぇ行こうぜ。イグニス作戦は?」
確かに、気にはなるがここを突破しなければならない。グラディオラスの言葉は正しい。イグニスも覚悟を決める。
「今回も奇襲で行く、ノクト、あの壁面の上へシフトで移動できないか?」
***
「主要基地じゃなきゃ、まぁこんなもんか、魔導アーマーも旧式だったし」
「俺達もちょっとは強くなってるんじゃない?」
基地を制圧したグラディオラスの言葉に、プロンプトが嬉しそうに言う。
「かもな」
ノクティスは疑問を口にした。
「結局赤い揚陸艇はいなかったな」
グラディオラスはもうそんな事は忘れていたらしい。
「見間違いだったんじゃないのか?あんまり気にしてねぇで、とっとと門を開いて封鎖を解いちまおうぜ」
その時、周囲を警戒していたイグニスが叫んだ。
「ノクト、上だ」
見上げたノクティスの頭上には、赤い揚陸艇が降下してきつつあった。格納庫の扉が開き、何かが飛び出す。
「せぇええええええええ」
叫び声と共に、それは高速で落下してきた。掲げたノクトの剣に、槍の先端が当たり拮抗する。一度体制を整えると、さらに押し込んできたそいつは、ノクティスに顔を近づけた。
「可愛らしい顔」
笑いかける女に、グラディオが斬りかかり、女は舞うように後退した。
「やっぱり生きてたんだ。試してやるよ」
戦闘が始まると、女はその槍によって高く舞い上がった。
「なんだありゃ」
見たことも無い光景にグラディオラスが驚く。
「おそらく魔導機関を用いた槍だろう」
そうとしか思えない。イグニスでさえあんなものは見たことも聞いたことも無い。
「プロンプト」
ノクティスがプロンプトに打ち落とすように指示を出す。プロンプトが女に向けて発砲する。だが、撃ち出された銃弾は女の背後を通り抜けていく。
「駄目だ。早すぎて当たらない」
「見てろよ」
ノクトがシフトで、空中を追随。
「私に空中戦を仕掛けようって?」
女が楽しそうに笑う。空中で繰りだされるシフトによる超高速の突きに女が槍を容易く合わせ、受け止める。
「なんだと」
ノクティスの突き出した剣は、槍によって下げられ、女はそのまま体を回転させてノクティスを蹴り落とした。
「くそっ」
叩き落とされたノクティスが、地面に激突する間際にシフトで避ける。同時にシフト前の落下位置に女の槍が突き立てられ、アスファルトを砕き放射状にひび割れが生じた。その威力に全員が戦慄する。まともに食らえば、ただでは済まない。だが、その恐怖心を抑えて攻める。女が地面に下りた今しかない。グラディオラスと、イグニスが斬りかかる。イグニスの双剣が届く前に女は槍を支柱として身体を持ち上げイグニスを蹴り飛ばす。その反動でグラディオラスの大剣を回避。槍を引き抜きながら後方へ下がる。グラディオラスの追撃。回避された横凪の剣筋を縦へと変化させ遠心力を乗せた上段からの会心の二撃目。その剛剣を女は構え直した槍で難なく受け止めて見せた。
「嘘だろっ」
グラディオラスが驚きの声を上げる。女の細腕のどこにそんな力があるのか理解できない。
「そんなもんかい?」
槍に巻き上げられ、グラディオラスが宙に浮いた。
「グラディオが!」
プロンプトが叫ぶ。仲間の内でもっとも重いグラディオラスが簡単に飛ばされる光景を見て、それが信じられない。グラディオラスへの追撃を、戦闘へ復帰したノクティスが受け止める。アラネアは受け止められた槍の柄を一瞬で短く持ち直し、距離を詰めると側面からの蹴りを放つ、ノクティスが再び飛ばされる。ノクティスに追撃しようとしたアラネアを、イグニスとグラディオラスが牽制し止めた。
「こいつかなりの使い手だぞ」
グラディオラスが告げる。タイプは違えど、まるでコルを相手にしているような感覚があった。コルが、速度と其処から発生する多様な軌道を持つ剛剣の使い手だとすれば、この女は、特殊な剛槍と柔の肢体を用いた槍術使いだった。
「全員で行くぞ」
ノクティスの号令と共に、繰りだされた三人の連携を軽々しく躱し、その離脱点を狙ったプロンプトの銃弾すら楽々と躱して見せる。
「なんでっ!?」
絶対にあたると確信していたプロンプトが問う。
「見えてるから」
女は、まだまだ余裕と言った様子で、ひとさし指を立てて丁寧に教えてくれた。
「グラウカや、レイヴス以外にもこんなやつがいたのか」
ノクティスの苛立ちに女が答える。
「あー、覚えといてね。生きてたらでいいよ」
そのいい加減な言動と手に持った剛槍とは似ても似つかぬほどの精緻な槍術と体術が繰りだされる。もう何度蹴り飛ばされているか分からないが、それでもこうして立ち上がり再び戦いに復帰できるのは、女の蹴りが、その高速の見た目から受ける印象ほどの威力を持っていないからだった。やはり元々は柔の特性を持つ者なのだ。王の盾であるグラディオラスの父クレイラスは剛剣の使い手であったし、クレイラスに師事を受けたグラディオラスもその剣技を踏襲している。それでもなお、元々は柔の特性である女の特殊な槍がそれを受け止める事を可能にしている中で、どうしたらいいのか分からない。それはつまりこの女が、自分たちよりもはるか高みにいる事を意味している。単純な武術だけならばレイヴスすら超えるだろう。その巨大な槍を見て、距離を詰めようとすれば、巧みに間合いをとられるか、柄の持ち手、重心移動、体術との連携を駆使し、得物の不利を打ち消してみせる。かといって警戒し距離をとりすぎれば、一方的に槍を繰りだされ。プロンプトの銃撃すら的確に槍の先で弾きながら魔導槍で強引に突進してくるのだ。近・中・遠、その全てにおいて自分の特性を理解し対策を講じている。手練れだ。プロンプトの牽制射撃の合間を見計らってシフトで強襲したノクティスをいなし、女は再び空中へ舞い上がる。
「もう一度やる」
ノクティスが空中を舞う女に向けシフト攻撃を行うために膝をたわめる。
「無理だ。空中はあの女の主戦場だ。降りてきたところを狙おう」
イグニスはそう言うが、対抗策を思いついているわけではない。
「いや、考えがある。もう一度だけやらせてくれ」
ノクティスの言葉にイグニスが折れた。
「わかった」
「いくぞ」
空中を舞う女に対しノクティスがシフトを強行する。
「まだやるって?懲りないねぇ。結果は変わらな・・・」
避けたノクティスの剣に合わせて放たれようとしていた槍が、青白い剣に防がれる。
「ちっ」
展開されたファントムソードの攻撃に、槍がただひたすら防戦へとまわされる。グラディオラスはそれを見上げる。そうだ、それしかない。体術でも槍術でも敵わないのなら、魔法やファントムソードなどの特殊な力で強引に打ち破るしかない。逃げようとした女に、ノクティスが剣を叩き込む。槍がそれを受け止めるもそのまま地上へ向かって落ちる。
「いまだ」
地面に落ちた女をグラディオラス、イグニス、ノクティスが追撃する。槍がどうにかそれら全てを受け止めるも地上に押さえつけられる。勝った。グラディオラスはそう思った。今度は槍を完全に抑え込んでいる。女の体制も、空中へ逃げるのも、体術で躱すのも不可能だ。
「やるじゃないか」
そのような状況にもかかわらず女が笑った。
「諦めろ」
グラディオラスが呼びかける。女は抑えているが、このまま戦いを継続しようとされるとどうなるか分からない。リスクが大きすぎる。
「いや、まだ、勝負はついてない」
女の持つ槍がそのままの状態で出力を上げる。
「まずい」
魔導機関が発する推進力が強引に剣をはじき返し、拘束を解いた。そのまま女は、跳躍、高台の足場に着地した。ノクティス達は、もう一度戦闘態勢をとる。もう同じ手は使えないだろう。立場は完全に女の優位だった。
「まぁ、及第点ってとこかな」
女が構えを解いて告げた。
「は?」
ノクティスが理解不能と言った声を上げる。
「本当はもっと遊んであげようかと思ったけど、時間すぎてるし」
「時間?」
「勤務時間、続けたって1ギルにもなんないし。また遊びましょ?」
「逃げるのかよ。大体、お前誰なんだよ」
ノクティスが剣を突き付けて叫ぶ。
女は一瞬沈黙し、笑い出した。
「ああ、そうか、すっかり忘れてた。それで覚えておいてくれなんて、笑っちゃうよね」
女は一通り腹を抱えて笑った後答えた。
「私は、アラネア。覚えておいてね。可愛い王子様」
女は、そう言うとそのまま上空に飛び上がり、揚陸艇に乗って去った。
「くそっ、逃がしたか」
ノクティスは悔しそうにしていたが、グラディオラスは安堵していた。続けていたとして、こちらに勝ち目は無かっただろう。
「なんだったんだ、アイツ・・・」
ノクティスの疑問にイグニスが答えた。
「わからない。援軍を呼びに行くような感じでもなかった。揚陸艇も待機していただけの様だし。あれが話にきいた赤い揚陸艇だとは思うが・・・」
グラディオラスがその言葉をつぐ。
「まぁ、実際やろうと思えば、まだ続けられたんだし、嘘はついてねぇんじゃねぇか?おとなしく帰ってくれたんだし、あいつの勤務時間とやらが始まる前に巨神のとこ行って帰ろうぜ」
「賛成」
酷く疲れたプロンプトは、グラディオラスの意見に即座に同意した。
***
「ぐっ」
チョコボに乗って進み、カーテスの大皿が近づいたとき、ノクティスがまた頭を押さえた。
「また頭が痛いの?」
プロンプトが不安そうに問う。
「雷神の時と一緒だ。なんか言ってるんだが、雷神の時と違って意味が分からない」
雷神の言葉は理解できたし、このような痛みを伴わなかったが、巨神の言葉は滅茶苦茶で、何か喚き散らしているかのようにノクティスには感じられていた。
「なら行って見るしかねぇな。急ごうぜ」
グラディオラスはノクティスの様子を見て言った。ノクティスの頭痛が巨神によるものなら、とにかく早く巨神のところへ行き、力を得ることだけが、解決する方法の筈だ。
「チョコボはここまでだな。ここから先は歩いていこう」
イグニスが告げ、四人はチョコボから降りた。
「ありがとうチョコボ」
プロンプトが撫でてやると、チョコボは嬉しそうに鳴いてから、牧場へ向けて走り去っていった。
「熱いな」
グラディオラスは汗を拭う。カーテスの大皿内部へと降りていくと想像以上の熱気があった。
「そこ、気を付けて、溶岩になってる」
プロンプトが全員に注意を促す。
「大分近づいたな」
ノクティスが言うように、巨大なメテオの姿が段々と近づいていた。
「メテオの、あの下に見えるのが巨神なのかな?」
プロンプトは、メテオの下でそれを支えている人のような形をした巨岩を見て言った。
「だろうな」
グラディオラスが同意するのとほぼ同時。
「ウグゥフルグイウアアアアリィィ」
訳の分からない叫び声と共に、その巨岩が動いた。岩の表面にひび割れが生じたかと思うと、それが崩れ落ち、中から褐色の肌のような物が見えた。巨岩は身を起こしていく、
「うわぁあああ、立ち上がった。しかもなんか聞こえる。ノクト俺にも巨神の声が聞こえる」
巨岩から発せられる声に負けじとプロンプトが叫んでいる。雷神の時には何も聞こえなかったのに、今回は聞こえる為。プロンプトは自分だけなのか確認したかった。グラディオラスが叫び返す。
「俺も聞こえる」
イグニスが大声で指摘する。
「あれは、実際に喋ってる声だ」
巨岩は完全に立ち上がり人の姿を現していた。
「でけぇええええ」
プロンプトが呆気に取られて叫ぶ。今まで見た。鉄巨人やベヒーモスが可愛く見えるほどのでかさだ。
「プロンプト写真だ!」
イグニスが驚きながらも受けた依頼をこなすためにプロンプトに指示を出す。
「あっ、そっか」
プロンプトが慌てて撮影する。たかれたフラッシュの光を、露わになった巨神の巨大な目が見つめていた。
「やばい、くるぞ」
ノクティスが告げる。巨神の左腕が恐らく振り下ろすためだろう、緩慢な動きで持ち上げられている。
「避けろ」
イグニスが叫ぶ。
「うわっ、ごめんなさい」
フラッシュで怒ったのかと、プロンプトが謝りながら逃げていく
「おいおいおい。どうすんだよこれ。ノクト止めれねぇのか、巨神は何ていってる?」
グラディオラスも焦りながらそう言う。もはやサイズが違いすぎて、技や力で何とかできる領域を超えている。
「なんか言ってるが、相変わらず意味が分かんねぇから何も分からねぇ。とにかく戦うしかないだろ」
ノクティスの言葉にプロンプトが悲鳴を上げた。
「どうやって!?」
襲い来る巨神の左腕を全員で躱す。動き自体は早くない。掠っただけで命が無くなりそうではあったが、腕が止まった瞬間に、全員で攻撃を加えた。硬質な岩のような肌がそれを受け止める。巨神の腕にある割れ目が、今自分たちが繰りだした攻撃によるものなのか、元からあるシワのような物なのか分からない。
「なんか全然きいてなさそうなんですけど」
プロンプトが銃撃をくり返しながら言う。
「そうか、わかったぞ、ノクト!」
イグニスが声を上げる。
「何だイグニス!」
何か状況を打開する手があるのかと、ノクティスが聞き返す。
「見ろ、巨神の頭に支えたメテオの一部が突き刺さっている、あれが恐らく巨神の言語野を貫いていて、だから、巨神はまともな言葉を話すことができないんだ!」
見上げれば、確かにその巨体が、さらに巨大なメテオを支えており、その一部が巨神の頭部にも突き刺さり同化している。あれの所為で、言葉が意味の分からないものになっているのかもしれないが、それが分かったところで、この場で翻訳できる訳でもない。ノクティスはイグニスに向けてさらに叫ぶ。
「んなことはどうでもいい、対抗策を教えてくれ!」
その言葉に、イグニスが冷静さを取り戻す。
「そ、そうだな」
イグニスですら、巨神の規格外のでかさに冷静さを欠いてしまっていた。
「やばい、やばい、やばいって」
プロンプトが泣きそうな声で言う。
「このままじゃ、じり貧だな」
グラディオラスが同意。イグニスがようやく策を思いつき叫ぶ。
「やはり、関節だな。関節を攻めるしかない」
「関節?」
ノクティスが問う。
「ああ、左腕の肘付近、メテオの欠片が突き刺さっているのが分かるか?あそこを集中攻撃する。上手くいけばあの欠片を杭として巨神の左腕を断ち割れる筈だ」
「弱点ってやつだね」
プロンプトが希望を取り戻す。
「そうだ。先ほどから分かるように巨神は左腕しか用いていない。右手はメテオを支えるために費やされているからだ。攻撃の手段は限られているから、左腕だけを何とかすれば、巨神は動きを止める筈だ」
イグニスが説明を付け加える。
「おっしゃ、いくぞ」
ノクティスの号令と共に全員が行動を開始する。ノクティスはファントムソードをメテオの欠片に向けて繰りだし続ける。腕の動きが止まった瞬間に、グラディオラスは大剣をハンマーのように振り下ろす。イグニスとプロンプトは、巨神の注意を引くために頭部へと攻撃を繰り返した。投擲された短剣も、銃弾も巨神の目に当たっても弾かれるだけだったが、それでもやり続けた。メテオの欠片は、何度も繰り返された打撃に、もう半ばまで押し込まれている。
「離れろ、グラディオ!」
ノクティスの叫び声を聞き、一発撃ちこんでいたグラディオラスが飛びのく。ノクティスは上空から、メテオの欠片の中央にファントムソードを纏って全力でシフト突撃した。メテオの欠片が大きく撃ち込まれ、そこを中心として巨神の腕が砕けた。巨神の身体が前方に傾く、その巨体が一体に影を落とした。プロンプトが叫ぶが、どこにも逃げ場がない。ノクティス達は、無駄だと解っていながら腕で顔を覆った。膨大な土煙が上がる。それに咽ながら、ノクティス達は腕をさげた。想像していたように巨神が倒れてくることは無かった。土煙が流れていく。現れた巨神は断ち切られた肘で身体を支えていた。近づけられたその顔はノクティス達を眺めている。プロンプトは再び腕で防壁を作っていたが、巨神が、再び攻撃の為に動き出すという事は無かった。その表情を見れば、どことなく穏やかさすら感じる。巨神の表情の違いなど良く分からなかったが、微笑んでいるとでもいうのだろうか、攻撃を繰りだしていた最中とは違った顔だ。
「ウグア、アグ、アグム」
巨神が何かを言っているが、やはり意味は分からない。ただ、突然周囲に砂が集まり岩の固まりのような物が形成された。ノクティス達は警戒をしたが、それが攻撃してくることは無く、周囲を廻り上空に舞い上がると、また大量の砂となってノクティスの指輪に吸い込まれた。
「あー、認めてくれたんじゃねぇか?」
ノクティスは息を吐く。
「それっぽいね」
プロンプトも安堵すると、巨神は、またもとのように身体を縮めていった。誰もが力を抜いた。認められたらしい。
「よし、じゃあとっとと帰ろうぜ」
グラディオラスの言葉にプロンプトが言う。
「あー、なんかすっげえ疲れた」
「連戦だったからな」
イグニスが笑いながら言った。ベヒーモス、スモークアイにアラネア、そして巨神。どれも非常に困難な戦いだった。全員がその場を立ち去ろうとしたとき、タイタンのいた位置から膨大な光が溢れた。
「なんだこれ」
ノクティスが首をかしげる。
「魔法障壁?」
形成されていくそれを見てイグニスが王都を思い出し告げる。
「ノクトが発動させたのか?」
グラディオラスはが問うた。
「いや、俺は何もしてねぇ」
魔法障壁を展開できるのは指輪に選ばれし王だけだと思っていたが、違うのだろうか
「じゃあ、考えられるのは、巨神、か?」
グラディオラスの言葉に答えられるものはいなかった。
「とりあえず、戻ろう、此処で考えていてもわかりそうもない」
イグニスの言葉に全員が賛同し、一同はレスタルムへ向けて歩み始めた。
***
「うん、これは凄い。ばっちり写ってる。これが巨神タイタンか」
レスタルムの街に戻り、さっそくビブに撮ってきた写真を渡した。ビブは喜びながら、興味深そうに写真を眺めている。
「それ、雑誌に載るんですか?」
プロンプトは気になっていた事を聞いた。もしかしたら、自分の名前も載るかもしれない。自分の撮った写真が雑誌になり、沢山の人に見られるのかと思うと、恥ずかしくもあり、嬉しくもあった。これがきっかけで、プロのカメラマンになってしまうかもしれない。
「う~ん、そうしようと思ったんだけど、やっぱりこれは載せられないかな。ちょっと、凄すぎて」
ビブのその一言が、プロンプトの中に生まれていた様々な未来予想を一瞬で打ち砕いた。
「そんなぁ~」
プロンプトは露骨に落ち込む。
「でも、ちゃんと報酬は渡すよ。いやぁ、それにしても、あの竜騎士と呼ばれる帝国の傭兵隊長アラネアを退けてタイタンに会ってくるなんて、流石は、ルシスの王子さまだ」
その言葉を聞き、イグニスが一気に警戒態勢に入る。
「ノクト、こいつは」
グラディオラスもノクティスの盾になるために身体をわり込ませる。それを見たビブが手を挙げて、降参といったようなポーズを見せた。
「いやいや、誤解しないでくれ、僕が雑誌を作ってるのも事実だし、僕は帝国の人間じゃない。むしろ君たちの仲間だと言ってもいい。今回の事は僕からの君たちに対する援助さ」
全員の中に生まれた疑問を、イグニスが問う。
「どういうことだ?」
ビブは、ゆっくりと答え始める。
「帝国の支配が強まれば、出版物にも影響が出るからね。帝国に都合の悪いことは書けなくなる。いわば帝国は共通の敵なんだよ。この巨神の写真だって雑誌に乗せたら、すぐに帝国軍がやってきてしまうからね。載せられないっていうのはそう言う訳なんだ。君たちを王子一行だと知っていてその力を試したのは謝る。でも、この時期に巨神タイタンの居るカーテスの大皿の中心に行きたいなんて、帝国の発表した王子死亡説に疑問を抱き、神話を知っていれば誰にでも察しが付くよ。謝罪ついでに、記事にできないとっておきの情報をあげる。この星の歴史を書いたとされる創星記に欠落があるという話を知っているかい?」
イグニスは念のために警戒を続けながら答える。
「現存する創星記はすべて写本であるという説は聞いたことはある」
ビブは、その回答に満足したように笑う。
「そう、現在伝わっている創星記はあまりに欠落が多すぎるからね。判読できずに伝わらなかったとされる八神の二神。極端に記述の少ない炎神の裏切り。特に、僕が気にしているのは炎神が人を憎むようになった理由だ。今主流になっている説は、その欠落部分を想像で補ったに過ぎない。メテオも実在するし、巨神も実在した。神話のどれだけかは真実であると実証されたと考えても良い」
その言葉にイグニスは頷く。
「ときに考古学の世界では、時折オーパーツと呼ばれるものが出土する事もある」
「オーパーツ?」
聞きなれない言葉にグラディオラスが口を開く。
「その時代の技術では作ることができる筈の無かった場違いな出土品の事だよ」
ビブの説明にイグニスが疑問を投げかける。
「だが、それらは全て、鑑定方法が間違っていたり、捏造だと言う話も聞くが」
ビブは頷いた。
「そう、大半はそうだ。だが、そうとも言い切れないものも存在する。ここに写真がある。写っているのは何に見える?」
ビブは古びたモノクロ写真を見せた。ノクティス達全員がのぞき込む。
「う~ん、飛空艇の・・・模型?」
プロンプトが正直に答える。誰もがそう思っていた、が、そんなはずは無いのだ。その写真は随分古いものに見えたし、帝国の飛空艇が認知されるようになったのは、たかだか30年前だ。写真自体が捏造である可能性がある。少なくともイグニスはそう思った。
「そう見えるよね。でも、これは今から40年以上前に撮られたものだ。写っている物体自体はとても古い地層から出土したものだよ。発見された当時は奇妙な船のような物だと思われていたが、30年前の帝国の台頭によって僕は飛空艇だと確信したね。他にも現代の技術でも生成不可能な謎の金属片や何かの部品が見つかっている。確かに、まだオカルトの領域をでないけれど・・・」
ビブの言葉の途中でイグニスが疑問を口にした。
「この出土品の実物は?」
できる事ならば写真ではなく実物を、何処にあり、どのような物なのか、本当にビブの言う通りの物なのか知っておきたかった。
「そう、そこなんだよ。それまで一部の人間の興味しか集めていなかったそれを、急に帝国が収集しはじめた。支配した地域の小さな博物館で埃をかぶっていたような物もね。だから、これらの現物は今無いんだ。帝国は何かを知っていて、その情報を集めながら隠匿しようとしている。いまやこの写真すら貴重な物で、これを持っている事を、君たちに教えていること自体、リスクがあるんだ。飛空艇、魔導アーマーを動かしている魔導機関は、30年前ヴァ―サタイル博士が発明したとされている。天才と呼ばれるヴァ―サタイル博士だが、それ以前に彼が活躍したという記録は無い。それ以前のヴァ―サタイルは帝国の一研究者にすぎなかった。彼が突如として魔導機関を発表すると同時に頭角を現した人物がいる」
「それは?」
イグニスの問いかけにビブはよくぞ聞いてくれたとでもいうように嬉しそうに笑う。
「アーデン・イズニア、彼のそれ以前の経歴は不明。何か妙だと思わないかい?」
「帝国の宰相か」
イグニスが考え込む。
「確かに、そういわれると怪しいな」
グラディオラスも同意。
「もしかしたら創星記の欠落した部分にはかつてあった超文明とそれが引き起こした大戦の事が書かれていたのではないか?大陸に点在する裏切った炎神と氷神の戦いの痕跡というもののどれだけかは実は人間が残したものでは無いかと、僕はそう考えている。もしかしたら炎神が人を裏切ったのではなく、人が炎神を裏切ったのかもしれない・・・とね」
「そんな」
それを聞いたプロンプトが不安そうに言う。プロンプトが知っている神話や歴史の事は、断片的な物だが、それでもその全てが間違っているかもしれないと言われると何故か不安になる。
「それはまだわからない。でもね、僕は、世界の秘密を解き明かしたい。歴史に埋もれた真実が知りたいんだ。その為に、帝国に抵抗している君たちに協力を惜しまない。そしてもしも僕の仮説が正しく、帝国が、失われた技術を再現しようとしているのなら気を付けた方が良い。大陸に大きな傷跡を残した何かを再び造ろうとしているかもしれない」
プロンプトはその嫌な予感に息を飲んだ。
***
帝都、皇帝の玉座にて、皇帝イドラ・エルダーキャプトと、帝国宰相アーデン・イズニアが向き合っていた。
「巨神は、レギス国王の息子、ノクティス王子と接触、力を授けたようです。恐らく、指輪も王子が持っているものと思われます。もしかしたら雷神の力もすでに手に入れているかもしれません。そして巨神は、その後魔法障壁を展開、兵士であっても近寄ることができません」
その言葉に、皇帝は疑問の声を上げる。
「魔法障壁?」
アーデンは頷く。
「そうです。インソムニアを覆っていたのとそっくり同じあの障壁ですよ」
「なぜだ?」
「恐らく、巨神が目覚めた事が原因でしょう。あの、魔法障壁は巨神が発生させている。私たちは、インソムニアに残るクリスタルが世界最後の物だと考えていました。残りのクリスタルは、長い時の中で、砕けてしまったと、けれど、それは間違いなのかもしれません。タイタンが何故、魔法障壁を展開できるのか?そして何故メテオを受け止めるに至ったのか」
「まさか」
「そう、クリスタルですよ。巨神の下には我々の知らないクリスタルが眠っている。巨神はそれを守るために神話の時代メテオを受け止めざる負えなかった」
皇帝はそれを聞き、身を乗り出す。
「それを手に入れる方法は?」
アーデンは皇帝を落ち着かせるために手を翳した。
「残念ながらありません。人の王が、クリスタルを用いた魔法障壁すら破ることができなかった我々に、神の張った障壁を破ることはできないでしょう。そして、神は、老いる事も疲弊する事も知らない。少なくとも我々と同じようには・・・ですが神々が、クリスタルを守護する存在であるのなら、恐らく、世界には未だクリスタルが存在する。八神の伝承をご存知ですか?あれが、真実であるのならば、少なくとも初期の世界にはクリスタルが八つは存在した事になります。ルシスの物が1つ。これは位置からすると、もともと迷いの森に存在した雷神の守護石であった可能性が高い。それにタイタンのものが1つ、合計2つ、残りはあと6つ、既に亡骸が確認されている氷神のクリスタルは、我々が手に入れた欠片の元であった可能性が高いですが、少なくとも一つ、有力な候補地があります」
皇帝は座り直し頷く。
「水神を崇めるアコルドの首都、水の都オルティシエか」
「そうです」
「ならば急ぎ、最大戦力をもってオルティシエに侵攻する」
アーデンはさらにそれを手で制してみせた。
「既に用意はさせていますが陛下、さほど急ぐ必要は無いでしょう。我々の魔導兵器群をもってしても神を討伐するのは容易ではありません。もしも、討伐できたとして、相当な被害をこうむるでしょう。ニフルハイム帝国は、急速に支配地域を拡大してきた国です。インソムニアで受けた損害は決して小さくありません。まして、今回のオルティシエは、正に水神の支配域。未だ経験した事の無い神との戦いになります。そしてその場合、クリスタルを手に入れられたとしても帝国軍兵力の半数が失われれば、現在属州となっている旧国家群を抑えられなくなり彼らが武装蜂起する可能性もあり得ます」
皇帝はそれを聞き、苦々しげに問う。
「では、みすみす王子にくれてやれと言うのか?奴は指輪、巨神の力に雷神の力まで手に入れている可能性がある。さらに水神となれば、いずれ帝国にとって脅威となる」
アーデンは首を横に振って見せた。
「いえ、それほど恐れることは無いでしょう。もしも神の力がそれほど凄い物であれば、我々はとうに敗北しているはずですよ。レギス国王の時代にね。なに簡単な話です。魔法障壁を張る前に、居場所の分かっている神々の力を手に入れ、帝都に乗り込んでくれば良かった。けれどそうはならなかった。恐らく何かしらの制約があるのでしょう。レギス国王は、クリスタルの力を使い魔法障壁を展開していましたが、年月の経過と共にその範囲は縮小。国王は急速な老化に見舞われ、最後には我々の休戦協定を受け入れるしか無かった。それが策であったとしても、すくなくとも全面戦争を起こすだけの力をレギス国王は持ってはいなかった。そこから考えるに、ルシス王家といえど、神々、ひいてはクリスタルの力を多用することはできない。この状況を利用するのです。水神の力はくれてやりましょう。なに、ルシスより手に入れたクリスタルがあります。あれが完成すれば、恐れる物等ありませんよ。それに今まで、私が、アコルドを攻めるように進言しなかったのには理由があります」
「ほう、それは?」
皇帝は興味深いとでもいうように指を組んだ。
「一つは、ルシスよりもさらに遠方にある為、ルシスを片付けてからでなければ、挟撃される可能性がありました。まぁ、これはさして問題には成らなかったでしょうが、肝心なのはもう一つの方、元々アコルドは、海上交通の要として栄えた国です。特に、首都オルティシエは、それがもたらす莫大な富で発展した。天然の要害である海と、制海権を保持する強力な海軍。しかし、現在我々は貿易路を刷新しつつある」
皇帝は、笑みを浮かべながら答える。
「飛空艇だな」
「そうです。飛空艇。もはや、海上路など旧時代の産物になりつつある。遠くない未来。我々が飛空艇によって世界を繋いでしまえばアコルドは経済的に立ち行かなくなる。さすれば彼らは、自ら我々の軍門に下る。そう考えての事でしたが、王子が水神を呼び出す所を狙いましょう」
アーデンの言葉に、皇帝は疑問を呈する。
「それはそなたに言わせれば、被害がでるのではないか?」
「ええ、そうです、ですが端から勝利を目的としない戦いであるのなら話は別です
いうなれば、次の戦いの為の準備といったところでしょうか、さて、我々の懸案事項であるもう一つの都市があります。神凪を擁する都市テネブラエ。属州にしたとはいえ、未だに我々も手をこまねいている。それだけ、神凪が人々の信奉を集めているからです。帝国軍にいる、レイヴス・ノックス・フルーレ。彼は、あの神凪、ルナフレーナ様の兄であられる。彼を亡きグラウカに変わる将軍として任命したのはすべてこの時の為。オルティシエでの水神討伐作戦の指揮をとらせます。前線に送る兵士はそうですね。選りすぐりましょう。帝国に不要なものを」
それを聞いた皇帝は笑みを深めた。
「それで?」
「水神が目覚めれば、巨神と同様、王を試すものと思われます。オルティシエは、被災。あらかじめ幾つかの手を打ってありますし、戦力差から起こりえないでしょうが、アコルドの軍隊が仮に帝国に対し反撃を企てていたとしても、何割かは、その対処に追われるでしょう。もっともアコルドの軍は考慮に入れなくともいい。彼らはその立地故に海軍しか重要視しなかった。戦闘は、自然、海戦となり軍艦対軍艦の戦いとなる。故に彼らの海軍は、空からの攻撃など想定しておらず容易に瓦解する。混乱に乗じて王子を殺せればよし、殺せなくともまたよし。責任はレイヴスが負ってくれます。レイヴスが王子と通じていたと喧伝するのです。オルティシエの街が無残に崩れ落ちる光景を見れば、人々に疑念が生まれるでしょう。死んだと思われていた王子は、復讐の為に民の被害を考慮せず神を呼び起こしている。王子は狂人なのではないか?と、我々帝国軍は、それを知っており、治安維持の為にオルティシエへと軍隊を派遣。なれど、レイヴス将軍の独断により帝国軍は協力すべきアコルドを無視し水神と戦闘を開始、多数の被害を受け敗走。それを我々が抑える。レイヴスの裏切り、神話から関係性が高いと言われるルシス王家と神凪への詮議をもって、テネブラエへ進攻、テネブラエ市民の命を持って神凪を呼び出し拘束します」
皇帝は楽しそうに笑いながら聞いた。
「はたして、そう上手くいくかな?」
アーデンは自信ありげに答える。
「行きますとも、神凪は全ての人間を分け隔てなく癒し希望を与える存在。なればこそ、一国の人間を人質に取られれば、出向くしかない。そうしなければ、神凪の存在意義は失われるのですから。そして神凪を完全に我々の手中とする。神凪は世界に希望を与える存在ではなく、ニフルハイム帝国の飾りとなる。さすれば世界は、陛下の物」
アーデンは笑みを作る。それを聞いた皇帝は、杯を手に取り中身を口内に流し込むと、薄く笑った。