それ以来、世界にはシガイと言う魔物が現れるようになりました。彼らは混沌から生まれし者。光を嫌い、闇の中に潜み。太陽が隠れ混沌の力が増す夜にのみ、彼らは住処から這い出ては、星から生まれしものたちを襲いました。
創星記第2章 九節
***
「雷神に、巨神の力も手に入れて、次はいよいよオルティシエか、またルナフレーナ様に会えるね」
プロンプトの嬉しそうな言葉にグラディオラスも賛同する。
「だな」
プロンプトが思いついたように続けた。
「あ、そうだノクト、この間ルナフレーナ様にプロポーズした?」
その言葉にノクティスが固まる。
「は?してねぇし」
何とかそう返したノクティスにプロンプトが言う。
「じゃあ、オルティシエでしといたほうが良くない?」
「なんで?」
「だって、王都襲撃の所為でうやむやになっちゃったし、ルナフレーナ様もさ、困ってると思うんだよね。ねぇ?イグニス」
「・・・そうだな。もともとは政略結婚と言う意味合いが大きかったからな。それが破綻した今、それをどうするのかと言うのは確かに難しい問題だな」
イグニスの同意を得て、プロンプトの言葉が力強さを増した。
「でしょ?だからノクトがさ、ばっちりプロポーズしたら全部解決だと思うんだよね」
ノクティスは、少し、めんどくさそうに答える。
「俺は・・・別にどっちでもいいし」
プロンプトは、後部座席に向けて身を乗り出した。
「駄目駄目、やっぱここはノクトがはっきり言わないと。あっ、フラれるのが怖い?」
プロンプトの笑みにノクティスが反論する。
「んなことねぇよ」
プロンプトは笑ったままだ。
「じゃあ、伝えるのが?ノクト口下手だもんね」
ノクティスは何かを伝えるのが下手なのだ。プロンプトにはわかる。今回も恥ずかしいと思っているのだろう。だが、そんな事では駄目だとプロンプトは考えていた。なんとしても、ノクティスの口から直接ルナフレーナに気持ちを伝えてもらわなくちゃならない。それをルナフレーナも望んでいる筈だと。プライナを助けたことがきっかけで幼い頃の憧れになったルナフレーナ。その手紙に背中を押されノクティスと親友となったプロンプトには、外見からでは分かりにくいノクティスの良さが分かっていた。後は伝える事さえできればいい筈なのだ。大好きな二人だからこそ、幸せになってもらいたい。プロンプトは強くそう思っていた。
「うっせー」
ノクティスが後部座席からのばした手をプロンプトが器用に躱す。
「イグニス、プロンプトを黙らせてくれ」
ノクティスはイグニスに助けを求めた。イグニスは前を見つめたまま答える。
「残念だが無理だ、運転中だからな。それよりあまり暴れないでくれ」
もう一度繰り出されたノクティスの手を避けて、プロンプトが楽しそうに言う。
「う~ん、じゃあノクトの代わりにプロポーズの仕方を考えてあげようかな。グラディオはなんかいい案ある?」
突然ふられたグラディオラスが戸惑う
「俺?あー、そうだな・・・やっぱあれだろ、花束だな」
グラディオラスは頷いている。やはり花束しかないだろう。大きな花束を贈るのだ。プロンプトがグラディオラスの意見に不満を表明する。
「うわ、ベタっ、超ベタじゃん。使い古されてサプライズの欠片も無いよ」
そう言われると、そんな気もするが、プロンプトは、俺に何を求めていたのかとグラディオラスは不満げに思う。自分が贈られて一番うれしいのは、一級品の武器であるが、そんなもので喜ぶ女の話は聞いたことが無いので、グラディオラスの希薄な愛のイメージの中から絞り出したのだ。褒められるべきである。
「じゃぁ、お前ならどうするんだよ」
吠えるように聞くグラディオラスに対し、プロンプトは考えながら答える。
「そうだなぁ、オルティシエでしょ?オルティシエと言えばゴンドラ、だからゴンドラを使って・・・」
ノクティスの手がプロンプトを黙らせようとまた伸びる。
「なんだよ。ノクトの為を思っていろいろ考えてあげているのに」
思考を中断させられたプロンプトが言う。
「そんな気遣い、いらねぇ」
ノクティスの言葉が風に乗る。隣で起きている騒ぎを無視して、グラディオラスがイグニスに聞いた。
「しかし、どうするんだ?オルティシエに渡ると言っても、まだ、ガーディナは帝国に抑えられてるんだろ?」
イグニスは、それに答える。
「ああ、だが、さっきあった将軍からの連絡によると、カエムに王家の隠れ港があるらしい。そこには30年前にレギス陛下が利用した船も残されているとか」
「陛下の?親父がついてったとか言う旅の時のやつか」
グラディオラスは、今は無きクレイラスから聞いた旅の話を思い出した。未だに前後で、攻防を繰り返していた二人に一応の決着がついていた。頭を押さえられたプロンプトが、話を耳にして参加してくる。
「でも、動くのかな?30年使ってなかったわけでしょ?」
「メンテナンスの為に、シドとシドニーがカエムに向かっているそうだ」
イグニスの言葉を聞いてプロンプトの声が弾んだ。
「え?シドニー来るの?」
分かり易いその態度にグラディオラスが笑う。
「嬉しそうだな。また鼻の下伸びてんぞ」
「な、何言ってるのグラディオ、ただ、久しぶりに会えるから嬉しいっていうだけで」
ノクティスはここぞとばかりに攻撃を繰りだす。
「シドニー、お前の事忘れてないといいな」
ノクティスは笑いながらプロンプトを見た。
「ノクトひっど、今俺、超傷ついた」
またも、前後の席で攻防が始まるのをイグニスは無視した。
「とりあえず、レスタルムに戻り、将軍たちと合流しよう」
「だな」
グラディオラスが同意し、座席に深く背を預ける。レスタルムはもうすぐだ。
***
「兄さん・・・ジャレッドが」
リウエイホテルに戻った一行を、ダスティンを伴ったイリスが悲痛な面持ちで出迎えた。表情から察したグラディオラスがイリスを促す。
「部屋で聞こう」
椅子に座ったイリスの手は僅かに震えていた。
「突然ここに帝国の将校がやってきて、ノクトの事を聞いたの、何も答えなかったら、そいつが剣を抜いて、私たちを庇おうとしたジャレッドが斬られて、それで・・・ジャレッドは」
「馬鹿な、街中でそのような凶行に出るとは・・・」
イグニスが呟き、プロンプトは衝撃から何も言えずにいる。グラディオラスが怒鳴った。
「ダスティン、お前は何をやっていた、こういう時の為に、お前がいたんじゃないのか!」
グラディオラスはその勢いのままダスティンの襟元を掴んだ。
「申し訳、ありません」
ダスティンの顔には苦渋が浮かび、後悔から、手を強く握りしめている。
「やめろ、ダスティンは、俺の指示によって帝国を探っていた。彼に責は無い。責を負うべきは、この状況を予測できなかった俺にある」
「将軍」
コルが、ドアを開け部屋に入ってきていた。
「くそっ」
グラディオラスは、ダスティンから手を離す。
「タルコット!」
廊下からモニカの声がした。勢いよく開けられたドアから、タルコットが入ってきて、それを追うように、モニカが姿を現す。
「ノクティス様、全部僕が悪いんです」
タルコットは、こみ上げる嗚咽を抑えながら必死で話そうとしていた。
「町で、いろいろ聞かれました。僕、その人が帝国軍だと思わなくて、全部話しちゃって、それで・・・・僕が話しちゃったから、僕が・・・ダスティンは悪くないんです。コル将軍も・・・僕が全部・・・」
タルコットは、それ以上もう言葉にできなかった。グラディオラスはタルコットにかけるべき言葉に迷った。ノクティスがそっと、タルコットの肩に手を置く、タルコットは、驚いて身体を固くした。
「ごめんな。助けてやれなくて」
ノクティスはジャレッドの事を思う。救えなかったたくさんの人々と共に、全ては、自分の力が足りなかったせいだ。だが、ノクティスはその悔しさを表したりはしない。一番つらいのはタルコットだからだ。
「何にも、できなかったんです。すぐ側にいたのに、僕は・・・」
嗚咽交じりに、さらに続けようとするタルコットの言葉を、そっと抱きしめる事で止めた。ノクティスは静かに口を開く。
「タルコット、お前も悪くない。話してくれてありがとな。俺が、必ず帝国を倒すから、少しだけ待っててくれ」
タルコットは、小さく頷き。モニカに連れられて、部屋を出ていった。ノクティスはこぶしを握り、それを覆った。手には力が込められている。
「コル、ジャレッドを殺った奴は?」
「追撃し、捕らえた。現在尋問中だ。今までに奴が吐いた情報によれば、帝国軍はやはりオルティシエに侵攻するつもりらしい」
想定されていた通りの情報だ。
「オルティシエか」
ノクティスの言葉にコルが続ける。
「帝国軍を率いる将軍はレイヴス」
「レイヴス!?」
プロンプトが驚きの声を上げる。
「そうか」
ノクティスはただそれを静かに受け入れた。
「これからカエムへ行き、そこからオルティシエへ向かう。タルコットと、イリスにはカエムに潜伏してもらうつもりだ。もうここも安全ではない。出発する前に念入りに準備を済ませておけ、帝国軍との衝突は避けられない」
コルの言葉にノクティスが同意する。
「ああ、ルーナと水神もいる。オルティシエで、帝国とレイヴスの奴に借りを返してやる。・・・反撃開始だ」
「ああ」
イグニスは眼鏡の位置を直した。
「おう」
グラディオラスは、拳を手のひらに打ちあわせた。
「うん、いこう」
プロンプトは決心するように立ち上がった。
***
出発の前、イリスがグラディオラスのところへ来た。
「兄さんちょっと」
イリスには珍しく、浮かない顔をしている。ジャレッドの事があったのだ。無理もない。グラディオラスはそう思ったが、それだけではないように思った。父クレイラスの死すら毅然に受け止めた妹なのだ。
「どうした?」
グラディオラスは優しく聞いた。
「あのね。私も兄さんたちと同じ車に乗って行ってもいいかな」
イリスの言葉にグラディオラスは考え込む。
「それは構わないが、ちょっと狭いと思うぞ?」
そう聞いてもイリスは頷いた。
「それでも・・・」
グラディオラスは、腕を組む。やはり、単純にジャレッドの事があとを引いているわけではないようだ。
「わかった、俺からノクトたちに言ってやるが、どうかしたのか?」
イリスは迷いながら言葉にし始めた。
「・・・タルコットがね。私とは別の車で行きたいって・・・当然、だよね。目の前にいたのにジャレッドを助けられなかったんだから・・・」
イリスは悲しそうな顔をしている。グラディオラスは全てを理解した。
「イリス、それは、違うんじゃねえか?タルコットが誰かを恨んでいるとしたら、自分自身だ。わかるだろ?タルコットはお前を恨んでるんじゃない。ただ、今は一緒にいたくないんだ。自分が守ってるって胸を張っていたのに、何もできなかったから、タルコットは、自分の無力さに気付いちまった。誰もがいつか経験するそれにタルコットは、今向き合わなきゃならなくなったんだ。お前に慰めてもらえたら、それは救いになるのかもしれねぇ、でも、そうしちまったら、自分が本当に守られてるだけの存在になっちまう。それに、なにより、お前には泣いてる姿を見られたくないんだよ。タルコットなりの矜持っていうのか。暫くはそっとしといてやれ、いつか、自分の中で整理できたら、あいつから言ってくるさ、その時に、哀れみでなく普通に接してやることができるように、お前も乗り越えなくちゃな。何より、ジャレッドに胸を張れるように・・・」
イリスが驚いたように目を開いた。そして一度瞑る。
「・・・そっか・・・そうだね」
イリスは、目元を拭うと、そう言って少しだけ遠くを見つめた。それから冗談めかしてつけくわえる。
「・・・兄さん、たまに大人っぽいよね」
グラディオラスは笑って返す。
「大人だからな」
グラディオラスは、イリスの頬にそっと触れ、零れた涙を拭きとってやった。
***
「あれ?グラディオは?」
ノクティスが辺りを見回してグラディオラスの姿が無い事に気付いた。
「イリスと話している」
イグニスが答える。
「そうか、じゃあ、先に乗っとくか・・・」
車に乗り込もうとしたノクティスに、コルが声をかけた
「王子、レイヴスの将軍就任だが、少し妙だ」
「そりゃそうだろ、あいつは下手したらルーナを殺そうとしてる帝国の将軍になったんだからな。何考えてるのかなんてわかりゃしねぇ」
ノクティスの言葉の後にイグニスが答える。
「いや、むしろ帝国が何故、そんなテネブラエのフルーレ家出身であるレイヴスを将軍に据えたのかという事ですね?」
コルは頷いた。
「ああ」
「強いからじゃないの?」
プロンプトの疑問にコルが応じる。
「確かに、レイヴスは強い。強さだけなら前任のグラウカに匹敵するかもしれん。だが、その出自は問題だ」
プロンプトには良く分からない。
「どうして?前のグラウカだって、いつも鎧着てて顔も見せなかったけど強さだけで将軍だったんでしょ?」
コルが詳しい説明を始める。
「確かに、グラウカは30年前の戦争で大きな傷を負い。生命を維持するためにヴァ―サタイルが開発した特別製の魔導甲冑を身に纏ったらしい。それ以前の奴の経歴は不明。帝国兵だったとされるが、詳しいことは分からない。奴の兜の下の顔を見たことがあるものもいない。以前の奴を知っているという者の話も聞いたことが無い。つまり帝国兵は奴を知らないともいえる。だがそれでも奴は、30年前からずっとその強大な力で帝国の為に戦い続けた人間だった。だからグラウカを知らない兵士もその強大な力に付き従っていた。しかし、レイヴスは帝国が侵攻し支配した国、ましてや、その元首たるフルーレ家の人間にして現神凪の兄となれば。その立ち位置は、帝国軍の統率を乱す。神凪を崇拝する者は喜んでついていくかもしれないが、帝国出身者の将である者には、これほど気に入らぬことも無いだろう。捉えた将校の凶行も、すんなり口を開いたのも恐らくそれが理由だ」
コルの言葉に、全員がジャレッドの事を思い。怒りを抱いた。ノクティスは問う。
「でも、帝国が内輪もめするならそれに越したことねぇんじゃねぇか?」
コルは、その言葉に明確な肯定も否定も示さなかった。
「確かにそうともいえる。だが宰相アーデン・イズニアは勿論、皇帝イドラ・エルダーキャプトも愚か者ではない。レイヴスの将軍就任には何か裏があるように思える。できる限り探ってみるが、お前たちも気を付けてくれ」
イグニスが頷く。
「分かりました。将軍」
それだけ告げると、コルは自分の車へ向かっていった。入れ替わるように、グラディオラスとイリスがやってくる。
「おう、ノクト、カエムまでイリスも一緒に乗せてっていいか?」
グラディオラスの提案に、ノクティスは考え込む。
「ああ、いいけど。ちょっと狭くねぇか?」
プロンプトは、イリスを見て、明るく言った。
「いいじゃん大歓迎だよ。むさくるしい奴ばっかで息が詰まりそうだったんだ」
グラディオラスはノクティスに言う。
「問題ねぇ、どうしても乗れなかったら、プロンプト降ろすから」
プロンプトが叫ぶ。
「なんでだよ」
揉めているのを見てイリスが申し訳なさそうに口を開いた。
「あの、私は狭くても構わないから」
ノクティスはその様子を見て言った。
「じゃあ、イリス真ん中な」
小柄なイリスなら、後部座席の真ん中に乗せれば何とかなるだろう。
「うん」
イリスは嬉しそうに頷き、車に乗り込んだ。そして一同はカエムの港へ向かって出発した。
***
日が傾き始めるころ、目的のカエムに到着した。
「ここが、カエムの港か」
プロンプトが初めて見る景色に、興味津々と言った感じで呟く。手は既にカメラを取り出しているから、すぐにでも撮影に行きたいのだろう。
「灯台があるんだな」
グラディオラスが言う。確かに丘の上には小さな白い灯台が立っていた。それは、プロンプトがさっきからぜひ被写体にしたいと考えているものでもあった。車から降りようとしていると坂の上の方から、シドニーが降りてきた。
「皆、久しぶり」
シドニーが元気よく声をかける。
「シドニー」
写真の構図について考えていたプロンプトもその声を聞き、いったん考えるのをやめ、喜んで名前を呼ぶ。
「おう」
「ああ」
ノクティス達もそれぞれ挨拶し、イグニスは軽く会釈する。イリスは初めて会うシドニーに丁寧に挨拶した。さっそく車から降りたプロンプトはシドニーの下に駆け寄り、一番気になっていた事を聞いた。不安に包まれながら
「ねぇ、シドニー、俺の事覚えてるよね?ね?」
突然の質問の意味が分からずシドニーが首をかしげる。
「はぁ?」
プロンプトは自分を指さしながら聞く。
「俺の名前」
シドニーは、奇妙な顔をしたまま答えた。
「プロンプトでしょ?」
それを聞いたプロンプトが歓声を上げる。
「いぇえい、ほら見たかノクト」
プロンプトはそのままノクティスの下へ走ってゆき肩を力強く押した。ノクティスはその手を払う。
「はいはい、分かった。ずっと車に乗ってて身体固まってんだ。そういうのやめてくれ」
未だに意味が分からないシドニーが問う
「なに?どういうこと?」
グラディオラスが手を振って答える。
「あんまり気にしないでくれ大した事じゃない」
「それで、舩の様子は?」
イグニスにそう聞かれシドニーは、良く分からないことをしているプロンプトとノクティスの事を考えるのをやめた。
「ああ、舩はね大分傷んでたんだけど、じいじが直してて、たぶん明日には出航できると思うよ。今日は、近くにある王家が昔つかってた小屋に泊まってくれって、そこも放置されててちょっと傷んでるんだけどまだ使えるから・・・ああ見えてきた。あれだよ」
いつの間にか、シドニーの側に戻ってきていたプロンプトが声を上げた。
「でかっ、流石王家、俺の家よりでかい、小屋っていうか、もう小さな屋敷だね」
シドニーが笑う。
「そうだね。部屋もいくつかあるから、困らないよ」
下から、モニカとタルコットも上がってきた。
「さて、では、私は夕食をつくります」
モニカが言う
「俺も手伝おう」
「あっ、私も」
イグニスが続き、タルコットの姿を見ていたイリスが慌てるように言った。
「じゃぁ、私はじいじを手伝ってくるから」
「あ、俺も行く」
シドニーに付いてプロンプトは灯台へ向かっていった。ノクティスは、近くに来たタルコットの肩をそっと掴んだ。コルとダスティンが、簡素な棺を持って丘を登ってくる。グラディオラスは、それを手伝いに行き、その後5人で丘の中腹に穴を掘った。
空が夕焼けに染まるころ、それは完成した。棺を入れて、土をかぶせる前に、タルコットが近くで摘んできた花をそっと入れた。それから皆で祈った。夕食の準備が終わったモニカや、イグニス、イリスも、灯台から戻ってきたプロンプトとシドニー、それにシドも全員で・・・
「いいところだ。ジャレッドも、きっと静かに眠れるだろうぜ」
グラディオラスが言った言葉に、タルコットは頷いた。それから、日が暮れる前に小屋に入り、全員で食事をし、それぞれの部屋へ別れた。
***
「タルコット、何処か行くのか?」
外に出ていこうとしていたタルコットを居間のソファーに座っていたグラディオラスが呼び止めた。
「夜に一人で外に出るのは感心しないな」
「・・・はい」
その言葉を聞き、タルコットは、部屋に戻ろうとした。
「いこうぜ」
グラディオラスの言葉にタルコットが戸惑う。
「え?・・・でも」
「俺が付いていけば、一人じゃねぇだろ」
そう言って、グラディオラスは笑った。二人は、夜の闇の中、丘を少しだけ降り、ジャレッドの墓の前にやってきた。そして、しばらくそうしていた。タルコットが墓石に触れ、声を殺して泣いていてもグラディオラスは何も言わなかった。
「・・・僕、いまでもまだ、お爺ちゃんが何処かにいるような気がして、でも、この石の冷たさで、もうどこにもいないんだって思って、それでもまだ嘘みたいで」
タルコットが呟くように言う。
「ああ・・・俺も、未だに親父が何処かに居るような気がする時がある。大切な人と別れるってのは・・・たぶんそういうもんなんだろうな」
グラディオラスの静かな言葉にタルコットが小さく頷く。潮風がゆっくりと通り過ぎて、草を僅かに揺らした。
「グラディオラス・・・さん」
タルコットが涙を拭ってグラディオラスに向き合っていた。
「なんだ?」
「僕に剣を教えてください。大切な人を守れるようになりたいんです。もう、何もできないのは嫌なんです」
その小さな手には、力が込められていて、目には強い意志があった。
「・・・分かった。この旅が終わったら必ず教えてやる。だからそれまでは、身体を鍛えておけ、体力と筋力は、何をするにしても必要だからな」
グラディオラスはタルコットに告げる。
「はい」
タルコットは威勢よく返事をした。
「じゃあ、戻ろうぜ、皆に気付かれて心配させちまう前にな」
***
朝、イリスが目を覚まして部屋を出ると、モニカとイグニスが朝食を作っていた。
少しだけ、朝の空気を吸おうと外に出ると、タルコットがいた。慌てて、戻ろうとするとタルコットに呼びとめられた。
「イリス」
「・・・何?タルコット」
返事をしながら、自分は今、自然に話せているだろうか?そうイリスは気にしていた。タルコットが決心したように、真っすぐイリスの目を見つめて言った。
「イリス。僕、いつか本当に強くなってイリスを守れるようになるから、だから、その、避けちゃってごめんなさい」
タルコットは深く頭を下げた。イリスは自分が気にしていたことが、杞憂だったことを知った。タルコットは、いつのまにか自分よりもずっとジャレッドの死を受け止めて、前に進もうとしている。
「うん、そっか、いいの気にしてない。私も、アミシティア家の名に恥じないように強くなってみせるから。一緒に頑張ろ」
そう言ってイリスが差し出した手を、タルコットは強く握って笑った。
「うん」
それから二人で、出航の準備をしていたコルとダスティン、プロンプトの手伝いをした。呼びに来たイグニスと共に、ひとまず朝食の為に戻ると、ようやく部屋からグラディオラスが出てくるところだった。
「あれ、兄さんまだ起きてなかったんだ。珍しいね」
グラディオラスが欠伸をしながら言った。
「たまにはそう言う日もある」
「ノクトは?」
「まだ寝てる」
「だよね」
イリスはノクティスらしいと思って笑う。
「グラディオ、起こしてきてくれ。朝食だ」
イグニスがグラディオラスに言った。今日は起きるまでほかっておくわけにもいかない。
「おう」
返事をして部屋に戻ったグラディオラスが、寝癖をつけてまだ半分瞼が閉じているノクトを引っ張ってくる。全員で朝食を食べ終わるとシドニーが言った。
「じゃあ、私はハンマーヘッドに戻るから」
「え?シドニー帰っちゃうの?」
プロンプトが心底残念そうに言う。
「お店も開かないといけないし、見送りできなくてごめんね。その代わり、レガリアは皆がオルティシエ行ってる間に点検と整備をしておくから」
ノクティスが頷く。
「わかった、いろいろありがとな」
「いいよ、じゃあ、またね」
プロンプトは外まで、シドニーを見送りに行った。
「よし、後少し荷物を船に運び入れたら出航だ」
そうコルに言われ、ノクティス、グラディオラス、プロンプト、ダスティンは荷物を車から舩に運ぶ手伝いをすることになった。イリスと、タルコット、モニカとイグニスは、朝食の片づけを担当した。荷物を持って丘を登る途中。プロンプトは、コルの持っている荷物の中に、似つかわしくない可愛らしいサボテンダーの置物がある事に気付いた。
「将軍に、そんな趣味があったなんてなんか意外」
「うん?」
「そのサボテンダー」
プロンプトは楽しそうに言う。
「ああ、これか、これはタルコットが、サボテンダーを好きなようでな。これが、贖罪になるとは思わないが、せめてもの慰みになればと思ってな。本当は昨日渡そうと思ったんだが・・・」
プロンプトはそれを聞いて笑みを消した。
「・・・そっか、タルコットに」
「お前たちもサボテンダーの置物を見つけたら買ってきてやってほしい」
「ああ」
「任せて」
ノクティスが返事をし、プロンプトが胸を叩いた。途中でコルは、小屋に寄りタルコットにサボテンダーの置物を渡した。
「わぁ、サボテンダーだ。将軍有難うございます」
タルコットの喜ぶ声が、小屋の中から聞こえてきた。
「あれだけ喜んでもらえると、どうしても買ってきてあげたくなるよね」
「そうだな。オルティシエで探してみようぜ」
プロンプトとノクティスが微笑む。荷物をすべて運び終わり、イグニス達も灯台から続く隠れ港へやってきた。
「ところで今気づいたんだけど、舩運転できる人って誰かいるの?イグニス?」
プロンプトの問いかけにイグニスが答える。
「いや、俺も流石に船舶免許までは持っていない」
「じゃあ、将軍か王都警護隊の誰か?」
「舩を運転できるなんて話聞いたことねぇけど」
グラディオラスがそう言いながらノクティスを見る。ノクティスも知らないようだ。
「誰か手配してあるんだろ」
グラディオラスの気楽な言葉を聞いて、話は打ち切られた。流石に運転手がいないなどということはあるはずが無い。
「あっ、そうだ折角だから写真とろうよ、写真。よし、みんな集まって」
プロンプトが半ば強引に全員を並ばせた。
「よし、タイマーをセットして、動かないでね」
プロンプトが並べたみんなの前に急ぐ
「はい、笑って」
シャッターの音が響いた。
「よし、出航だ。さっさと乗ってくれ」
シドが船の操舵室に向かいながら言う、プロンプトが驚く。
「え?もしかしてシドが運転するの?」
「あん?俺じゃあ不満だってのか?」
「い、いえいえ、そんなことないですけど」
「まぁ、まかせとけ、レギスとオルティシエに渡った時も俺が運転したんだ。大船に乗ったつもりでいろ」
プロンプトに若干の不安が芽生え、シドに聞いた。
「あの~、因みに最後に船を運転したのは・・・」
「そうだな、レギスとオルティシエから戻ってきたときだったからざっと30年ぐらい前だな」
「30・・・」
プロンプトが絶句し、ノクティス達を手招きし小声で提案する。
「念のために救命胴衣着といた方が良くない?」
イグニスが渋い顔をする。
「・・・シドが気を悪くするぞ」
「じゃあ、こっそり」
プロンプトの言葉をグラディオラスが否定。
「無理だろ」
「う~ん・・・あっ、そうだノクト釣りしない?」
突然流れの変わった話にノクティスが驚きながら聞く
「釣り?海で?」
「そうそう、大海原で釣りしたら、いつもとは違う魚がかかるかも」
「そりゃあ面白そうだが」
「でしょ?あー、でも、それだと、舩から身を乗り出さないといけないから、救命胴衣が必要だよね」
その言葉に、イグニスが頷く。
「ああ」
グラディオラスも頷く。
「そうだな」
「よし、皆、救命胴衣を着よう」
プロンプトが宣言し、救命胴衣を引っ張り出して配布していった。救命胴衣をつけ、釣竿を持って乗船したノクティスを見てシドが聞いた。
「なんだお前ら、舩の上で釣りすんのか?」
プロンプトがへつらうように答える。
「そう、そうなんですよ沖に出たらしようと思って、釣れたらイグニスが料理しますんで」
「ほー」
シドの表情を伺いながらプロンプトの笑みがぎこちないものになっていく。鼓動は緊張から早まる。シドは言葉をつづけた。
「そうか、魚料理か、そういえば最近新鮮な魚料理は食ってなかったな、まぁ、楽しみにしてらぁ」
プロンプトは安堵し、喜んで、シドに敬礼した。
「はい、お任せください」
最後に乗り込んできたコルは、救命胴衣を着こんでいる四人を見て、不思議そうな顔をした。
「おめぇで最後か」
シドがコルに問う。
「ええ、今回はオルティシエに入るので、人数は最低限にしています。同盟国だったとはいえ、ルシスが帝国に支配されている今、帝国と事を構えたくないオルティシエは王都警護隊を歓迎してはくれないでしょう」
「違ぇねぇ。んじゃ出航するか」
港には、タルコット、イリス、ダスティンにモニカが見送りに出ていた。
舩に向けてタルコットが叫ぶ
「ノクティス様、僕、頑張りますから、爺ちゃんに立派だって思ってもらえるように、だから、ノクティス様、絶対戻ってきてくださいね。僕、待ってますから」
「ああ、ありがとなタルコット」
そう叫び返すノクティスの乗った船が見えなくなるまで、タルコットは手を振っていた。