神々が人に与えた指輪は、クリスタルと人を繋ぎ、選ばれし者は指輪によってクリスタルの力を引き出す事が出来ました。引き出されるその力を人々は魔法と呼び崇めました。指輪は代々継承され。いつからか指輪の継承者は王と呼ばれ敬われるようになりました。
創星記第1章 序の八
***
カーテンの閉め切られた室内に、ルナフレーナの凛とした声が響く。
「水神は、あなた方が、この地に住まうよりも前に、この地を治めていた。より正確に言えば、あなた方が、水神の生み出す恩恵を求めこの地にやってきた。神は、恩恵を与えると同時にその強大な力により損害ももたらす。それが神と共に生きるという事。私が目覚めさせなくとも、いずれ水神は目覚めます。帝国軍も動くでしょう」
その言葉を聞き、年齢を重ねた女の声が応える。
「どちらにせよ目覚めるのなら、時が分かっている方が良いと?」
「そうです。想定される被害に対し事前に対策を取ることができます。それは貴方の望むことでもありませんか?」
女は僅かに考える。
「いいでしょう。貴女の意思は分かりました。後は、貴方の言う王が信頼に値するかどうか、それで決めましょう」
「ありがとうございます」
ルナフレーナは頭を下げた。
***
「すげぇ、ここがオルティシエか」
オルティシエの街を初めて見たプロンプトが感嘆の声を上げる。
「水の都とは、まさにこの事だな」
グラディオラスが同意。海の上に築きあげられた都市。段差のある海底によって、所々に滝が生まれていて、行きかう船の為に巨大な人工水路が設けられている。その水路を覆う建物も、まるで宮殿の様で左右には巨大な像が鎮座している。芸術の街とも呼ばれるオルティシエ。最先端技術による高層ビル群が立ち並ぶ王都インソムニアとは違った、古き伝統を残した美しい都市の姿であった。見惚れているノクティス達にシドが告げる。
「入国したら、まずはなんつったかなマーゴとかいう店を目指すといい」
「マーゴ?」
プロンプトが確認する。
「おう、ウィスカムがやってる店よ。ここの事は大抵あいつが知ってる」
「ああ、ウィスカムさんの」
シドの言葉にコルが納得する。
「カメリアとも仲がいい筈だからよ。相当融通が利くはずだぜ?」
「カメリア?まさか、あのカメリア・クラウストラ様か?」
イグニスが驚く
「ああ、まさにその人よ。あいつもまぁ30年前の旅の仲間みてぇなもんだからな」
それを聞き、コルが小さく頷く
「誰だって?」
ノクティスが聞いた。
「まさか、知らないのか?」
イグニスは驚いてノクティスの顔を見る。ついで、グラディオラスにプロンプトの顔も
「知らねぇ」
三人が口をそろえて言った。イグニスが沈黙した。シドが、その様子を眺めながら言った。
「コル。レギスの息子は、大丈夫なのか」
コルは、頬を軽く掻いた。
「はぁ、まぁ・・・これからですよ。これから」
「で、結局カメリアってそんなに有名なのかよ」
ノクティスがイグニスに問いただす。
「カメリア・クラウストラ様。この国の首相だ」
「へぇー」
三人が、そう言うのを聞いて、イグニスは途方もない気持ちになった。
「ノクトには、旅が終わったら教えなければならないことが沢山あるな」
やがて舩は、緩やかに速度を落とし。オルティシエの港に停泊した。
「じゃあ、まぁ気を付けていってこい」
船の上で、シドが言った。
「え?シドは行かないの?」
プロンプトが驚く
「俺は、こういう街は苦手なんだよ。どこもかしこも煌びやかで落ち着かねぇ。舩にいるさ。ウィスカムの野郎には連絡しておいたから、そのうち尋ねても来るだろ。俺の事は気にしねぇで見聞を広めてきな」
船を下り、街に入る直前コルが口を開いた。
「では俺は少し、この街で情報を集めてくる。何かあれば連絡を」
ノクティスは頷く
「わかった」
プロンプトが落胆する。
「将軍も来ないの?」
グラディオラスがその背を叩いて言った。
「まぁ、とりあえずマーゴとやらを目指そうぜ」
***
マーゴと言う店はすぐに見つかった。オルティシエでも割と大きな飲食店であったから、ゴンドラの船頭に聞いたらすぐに連れてきてもらえた。店の周りが水路で囲まれている。到着するやいなや、カウンターの向こう側から店主と思しき男に声をかけられた。
「やぁ、ノクティス王子。ウィスカムだ」
「どうして?」
初めて会う男に呼びかけられノクティスは驚いた。
「シドから連絡があってね。君たちを待ってた。それに見ればわかるよ。覚えていないかもしれないが、君が小さな頃に一度会っているし、なにより、父親の若い頃にそっくりだ。隣の君は、クレイラスの息子だろ?」
「ああ」
グラディオラスがそう答えるのを聞いて、プロンプトが聞く。
「シドにも言われたね。そんなに似てんのかな?」
「俺は実感ねぇけど、グラディオはそっくりだな」
ノクティスの答えに、プロンプトは興味を持った。
「へぇ、今度写真見せてよ。灯台にあった写真だけじゃちょっと良く分かんなかったし」
「まぁ、そのうちな」
グラディオラスはそう言った。全て片付いたら、思い出に浸るのもいいだろう。
「さて、王子。この街の事ならたいてい知っている。何か聞きたいことがあったらなんでも聞いてくれ」
そう言ったウィスカムに突然女の声がかけられた。
「ウィスカム」
ウィスカムはその声の方向を見て言う。
「いらっしゃい、久々だな」
現れた女は呆れたように応じる。
「連絡を寄こしておいて良く言う・・・」
年齢を重ねたその女は、そのままノクティスたちの下へやってきた。
「こんにちは、ノクティス王子。オルティシエへようこそ。私は、カメリア・クラウストラ、アコルドの首相をやってる」
ノクティスは当然のように頷く。
「ああ、知ってる」
隣にいるイグニスが何とも言えない顔をしている。
「そう、なら話は早いわね。神凪はこの街で保護している」
ノクティスが身を乗り出す。
「今どこに」
「会わせてあげたいのは山々なんだけれど、今は、アコルドも一枚岩では無くてね。反帝国派、親帝国派に別れている。そして同盟国であったルシスの首都インソムニアが帝国に制圧されたことで、親帝国派の発言力は増している。状況は分かるかしら?彼らが神凪の存在を知れば、インソムニアと同じ末路をたどらぬように、神凪を帝国に引き渡し、帝国との間に和平を求めようとするでしょう」
「なんだと」
いきり立つノクティスを抑え、イグニスが引き継ぐ。
「まて、ノクト。それでも神凪を貴女が匿っているという事は、貴女は反帝国派であり、神凪の引き渡しを考えてはいない」
カメリアは、イグニスを見て微笑む。
「そう私に言わせれば、それはこの国を売り渡すことに等しい。けれど、今のアコルドに帝国に抗するだけの力が無い事もまた事実。帝国の力は、ルシスからきたあなた達ならば十分に分かっていると思うけれど?それにルシスとの同盟は、インソムニアが陥落し、国王が死亡した事で事実上凍結されている」
ノクティスが怒りを見せる。
「ならばなぜ、その前に兵を出してくれなかった」
カメリアは、それを平然と受け流した。
「あの時、ルシスは帝国との和平協定を結ぼうとしていた。そこに兵を出すいわれは無く。もしも、それが帝国の策略であったとしても、同盟を根拠にアコルドの兵、ひいては国家自体を危険にさらすわけにはいかない。あの時のインソムニアで、レギス国王が帝国を退け反攻を開始していれば、同盟に基づきアコルドの出兵もありえたかもしれない。だが、それももう叶わない。私は気持ちの面では反帝国派ではあるけれど、国家の首相としてそれだけで全面的にあなた達に協力する訳にはいかない。むしろ私からすれば、ルシス王家の生き残りであるあなたと、帝国が追っている神凪を受け入れている事に感謝して頂きたいぐらい」
「くそっ」
苛立つノクティスをカメリアは眺めていた。イグニスが再びノクティスを抑える。
「この国が現状背負っている問題は良く理解できます。それでも、ご協力いただけることに感謝を」
「あなたは話が分かるみたいね。私も相当のリスクを負っている。神凪は、水神を目覚めさせ貴方に引き合わせたいと・・・正直、私もいま悩んでいてね。答えは、王であるあなたとの会談によって決めようと思っている。官邸で待つわ。用意ができたら来なさい。あなたがルシスの王として、アコルドの同盟者として、それに相応しいか私に見せてちょうだい」
そういって、カメリアは立ち去った。正直言って、カメリアにとってノクティスは期待外れだった。まだ若いという事を差し引いても、現状彼らに協力するという事は分の悪い賭けのように思えた。一応面会の約束を与えたとはいえ、あれでは、いくらレギスや神凪に思い入れがあると言っても協力するわけにはいかない。カメリアの双肩にはアコルドと言う国家が載っているのだ。この国の首相として情で動くわけにはいかなかった。
***
ノクティス達が官邸を訪れると、何処からともなく従者が現れノクティス達を官邸の裏から中に通し、カメリアの部屋へ案内した。カメリアが立ち上がり出迎える。
「来たわね。それじゃあ、始めましょうか。仲間を同席させても構わない。けれど会談は貴方と私二人の間で行う。貴方の王としての器量によって私は判断を下す。私が貴方に協力する条件は二つ。市民の避難への協力と、水神及び予想される帝国軍の迎撃。今回の件は私の独断と言ってもいい。だからアコルドの軍を正式に動かすことはできない。そして、私もまた公式にはこの一件に関わっていない。私が知らない間に、神凪とあなたたちがやってきて、水神を目覚めさせ、帝国と戦闘を開始したという事になる」
ノクティスはそれを聞いて頷く。
「ああ、だが、オルティシエ市民の避難には、俺達だけでは人数が不足している。アコルドの兵は今どこに?」
カメリアは、おや?と思った。あれからまだ一日しか経っていないが、ノクティスから受ける印象が変わっている。あのメガネの青年の仕業だろうか、だが、それならば直に皮は剥がれるだろう。
「国境線上に展開させている。よって市民の避難には、オルティシエ市警が当たる。だが、彼らには武力が無い。それを補ってもらいたい」
「なるほど」
「人選は任せる。それと、数時間前、帝国はアコルドに向けて、飛空艇の通行許可を求めてきた。国境線上のアコルド兵からの報告によれば最低でも中型戦闘飛空艇が六隻。アコルドはそれを許可した」
カメリアは、ノクティスに揺さぶりをかける。
「対抗手段が無いからな」
ノクティスは動じずに応じた。
「そう、帝国軍は、飛空艇をオルティシエ近郊にすでに展開させているはず。水神の目覚めを待ってね」
「だろうな」
「最後に、万が一、あなた達が帝国に敗れた場合。アコルドは完全にあなたたちの敵に回る。あなた達と神凪を帝国に差し出し、オルティシエでの軍事活動を停止させる。アコルドが帝国の支配下に置かれたとしても」
さぁ、どう答える?カメリアはノクティスの回答を待った。
「わかった」
答えるノクティスの目は、落ち着いていた。
「そう、不満ではないの?」
「あんたは、オルティシエ、アコルドの事を一番に考えざる負えない。それは良く理解できるつもりだ」
カメリアは、目を瞑り、息を吐いた。この僅かな時間で王となったか、それならば良いだろう。カメリアは目を開け、30年前のレギスの面影を持つ青年を真っすぐにとらえた。
「いいでしょう。交渉は成立。神凪に会わせましょう。水神を目覚めさせるために必要ならば街で準備をしてもかまわない。ただしあなた達が此処にいる事を悟られないようにする事。もしもあなた達の存在が公にされた場合。私は助けることができない」
「ああ、わかってる」
「あなたと話ができてよかった」
そういってカメリアは手を差し出し、ノクティスはそれに応えて握手を交わした。
「では、神凪と引き合わせましょう。付いてきて」
カメリアに連れられ、官邸内の小さな部屋に通されると、そこにはルナフレーナが座していた。ルナフレーナはノクティスを見て立ち上がる。
「ノクティス様。また会えましたね」
ルナフレーナは喜びと共にノクティスの手を取った。
「ルーナも無事で良かった。雷神と巨神の力を手に入れてきた」
「ええ、分かります。次は水神ですね。水神は、このオルティシエの海底で眠っています。明日それを私が目覚めさせます。ノクティス様はその時、水神の啓示を受けてください」
「ああ」
「夜になったら明日の為に街を確認に行きましょう」
ルナフレーナの提案にノクティスは懸念を伝える。
「でも、危険じゃないか?」
「変装すれば大丈夫です。夜は人通りも少なくなりますし、皆、星や夜景を眺めていて、気付くことは無いでしょう」
ノクティスは頷いた。
「わかった。じゃあそうしよう」
***
街には夜の帳が降り、街灯が至る所で煌めいている。
「お前たちは行かないのか?」
ノクティスは、仲間たちに問いかけた。
「ああ、俺達は明日の為に住民の避難計画と帝国軍に対する対策を考えておく、将軍も後から合流する予定だ」
「そういうこった、こっちは俺達に任せて、お前は水神から啓示を受ける事を一番に考えておけ」
イグニスとグラディオラスが応じる。
「わかった、じゃあそうするわ」
頷いたノクティスに向けてプロンプトが何かを渡そうとする。
「まぁ、二人で楽しんできてね、はい、これ」
「なんだこれ?」
強引に押し付けられたそれをノクティスは受け取った。
「ウィスカムに聞いといた二人っきりになれる場所の地図」
「はぁ?」
「ちゃんと伝えてきなよ」
「何を?」
「ほら、前に言ったじゃん。プロポーズだよ。プロポーズ」
プロンプトの言葉にノクティスが固まる。
「いや、しねぇし」
「またまたぁ」
頬を赤らめたノクティスがプロンプトにさらに反論しようとしているところへルナフレーナが入ってきた。
「お待たせしました」
「あっ、丁度よかったルナフレーナ様。ノクトが後で話したいことがあるそうです」
機先を制し、プロンプトが告げる。
「ちょっ、おまえ」
「何でしょうノクティス様」
ルナフレーナに真顔で聞かれ、ノクティスは逃げ場を失ってしまっていた。
「あー、その、なんていうか、街を確認した後で」
首をかしげるルナフレーナにプロンプトが続ける。
「楽しみにしておいてやってください」
「プロンプト」
ノクティスがプロンプトに黙るように合図を送った。
「?はい。ところで、皆さまは行かないのですか?」
ルナフレーナは良く分からないまま問うた。
「明日の為の準備がありますので、ノクトだけでは不安かもしれませんが、ご了承を」
イグニスの言葉にルナフレーナが応じる。
「そうですか、わかりました。でも不安なんてことはありませんよ。頼りにしていますから」
プロンプトが笑みを深めるのを見てノクティスは慌ててルーナを連れ出そうとする。
「ルーナ、行こう」
「ああ、はい、では皆さま、行ってきます」
急ぎながらも、律儀に挨拶をしていくルナフレーナに会釈し、扉が閉まってからプロンプトが言った。
「さてと・・・」
***
「あの神殿の奥。地図では、街の中に円形に空けられた場所。あのあたりが水神の眠っている場所になります。私は神殿の祭壇から水神を呼び起こします。おそらく水神は目覚めるのと同時に、円形に空けられた海よりもさらに広い領域を裁定の為に確保するはずです。恐らくは、帝国もその時を狙って侵攻してくるでしょう。この情報は、既にカメリア首相にも伝えてあります。それで、水神が目覚めるとき、ノクティス様はできるだけこの近くにいてもらわなければなりません」
「わかった」
「これで、私からお伝えしたいことは全てです。次はノクティス様の番です。何か私に伝えたいことがあるとか」
「ああ、うん」
「ちょっとついてきてくれるか?」
「はい」
街を歩く、二人の前を通り過ぎた若い女がふと振り返った
「ねぇ、今のルナフレーナ様じゃなかった?」
連れの女が応じる。
「えー、そうかな絶対違うって、似てるだけだって、だって今ルナフレーナ様は行方不明なんだよ?噂によると帝国から逃げながら、人々を救済しているって、だからこんな街中に堂々といる訳ないって・・・」
「そうかなぁ、確かに似てると思ったんだけどなぁ。ちょっと追いかけて確認してこよっか?」
「やめときなって、邪魔しちゃ悪いよ・・・」
それを聞きながらノクティスは二人から逃げるように路地を曲がった。
「ルーナこっち」
「変装していても、バレてしまうものですね」
ルナフレーナは微笑みながら言う。
「ルーナは、有名人だから」
「なんだか楽しくなってきました。ほら、覚えていますか?幼かったあの日、誰にも内緒で、ノクティス様とテネブラエの宮殿を抜けだしてお花を見に行きましたね」
「覚えてる」
あれは12年前の事だ。
***
あの日、テネブラエで退屈していたノクティスを
「皆には内緒です」
と言って、ルナフレーナが連れ出してくれた。アンブラとプライナも連れて、そこは青い花畑で、アンブラとプライナは喜んで駆け回った。
「こうして見ていると、アンブラは何処かノクティス様に似ている気がします」
ルーナがアンブラを見て言った。
「プライナはルーナに似てる」
ノクティスはそう応じた。
「そうかもしれません」
ルナフレーナが笑い。ノクティスの手を取った。アンブラとプライナが寄り添って戯れながら駆け回っているのを見て、ノクティスは何だか恥ずかしくなって顔を赤らめたのだった。
***
あの青い花の名前は確か・・・
「ジールの花」
ルナフレーナが頷く
「ええ、ノクティス様はそれで私に花冠をつくってくださいました」
「ちょっとだけのつもりが、いつのまにか随分長い時間遊んでて、後ですっげえ親父に怒られた」
「そんな事も、ありましたね。あの時ノクティス様は自分が無理を言って連れ出したと私を庇ってくれました」
「そうだったかな?」
ノクティスは照れくささからとぼけてみせた。
「そうでしたよ」
ルーナは過去を思い出し微笑む。
「あっ、ここだ」
プロンプトがくれた地図と照らし合わせてノクティスは確認する。そこは、川に掛かったいくつもある橋の1つだった。古いその橋は、他に都合のいい橋が近くにいくつもあるせいで、滅多にひとが通らない場所になっている。ウィスカムによれば、恋人たちの告白の地。昔、オルティシエの身分違いの恋人が、ここで逢瀬を重ねたという。だからわざわざここに来る人は皆そのような目的なので、誰かが居れば遠慮してくれる。
「街の灯が、綺麗ですね」
廊下のようになった橋の窓辺からルナフレーナがオルティシエの街灯を眺めて呟いた。
「それで、話というのは?」
ルナフレーナに問われ、ノクティスの心臓が跳ねる。
「あー、その・・・ルシスと、帝国の協定は無くなった」
「ええ」
ルナフレーナがその時の事を思い出し悲しそうな顔をする。
「それで、俺とルーナの婚礼もうやむやになって、そう言うのは良くないって、プロ、いや、良くないと思って、政略結婚だと思われてて、それも事実としてあったし、ああ違う、そう言う事が言いたいんじゃなくて、なんていったらいいか・・・それで、その・・・ルーナは、どう思ってたのかなっていうか、今どう思ってるのかっていうか・・・」
ノクティスは、窺うようにルナフレーナの目を見た。ルナフレーナは優しい目をして問い返した。
「ノクティス様はどう思ってたんですか?婚礼の話が出た時と、今と」
質問に質問で返されてしまった。ノクティスは頭を掻きながら、ゆっくりと口を開く。
「俺は、その・・・ルーナとまた会えるっていうのが嬉しかったし、12年ぶりに会って、やっぱりルーナが、・・・好きだ。だから今は・・・政略とか王と神凪だからとかじゃなくて、ルーナに側に居て欲しい」
精一杯のノクティスの言葉、それを聞いてルナフレーナは笑った。
「神凪として、選ばれし王と共にある事は決められた定めでした。いつもどのようなお方かと、考えていたものです。期待とそれ以上の不安を持って・・・ですが、ノクティス様にお会いして、ノクティス様で良かったと思ったのです。それは、時を経た今でも変わりません。とっくに伝わっていると思っていましたけれど・・・ノクティス様は、鈍感です」
ノクティスの心に安堵感が広がる。
「じゃあ」
ルナフレーナは微笑んだ。
「ええ、喜んでお受けします」
***
橋から少し離れた壁際で、聞き耳を立てている二人がいた。
「上手くいったんじゃねぇか?」
「うん、良かった良かった」
プロンプトが取り出そうとしたカメラをグラディオが止めた。
「写真はやめとけ、見てたことがバレる」
「なんで?記念すべき瞬間じゃん撮らなきゃ後悔するよ」
プロンプトが抵抗する。
「いいんだよ。ああいうのは記録しなくても記憶してれば、写真は式の時にでもとっとけ」
プロンプトは手を止めて考えた。
「そっか、一理あるかもね。てか、なんでグラディオついてきてるわけ?覗き見か、そう言うのは良くねぇ、って俺の事止めてたよね?」
プロンプトが、顔をしかめてグラディオラスを真似ながら言う。
「あー、俺はあれだ、・・・王の盾だからな。そうだ、いつ帝国軍が攻めてくるかもしれねぇ、もしもの時に備えて護衛は必要だろ」
「へぇー」
プロンプトは全く気持ちのこもっていない返事をした。
「なんだその、疑いの眼差しは」
不満そうに言うグラディオラスの向こう側で、ノクティス達が動くのをプロンプトは見た。
「あっ、やばいこっちくる。グラディオ、身を低くして」
慌てて身を低くしたグラディオラスの端末が振動する。
「ちょっとグラディオ何してんの?」
端末の表示を確認したグラディオラスが釈明する。
「いや、これは、イグニスが」
「早く逃げるよ」
プロンプトがそう言い、身を低くしながら逃げていく。グラディオラスも後を追う。
「イグニスもそんなに気になるなら将軍に任せて一緒に来れば良かったんだ」
呆れるグラディオラスにプロンプトが指摘する。
「それができないのがイグニスでしょ」
「そうだけどよ。後で聞けばいいじゃねぇか・・・はい、こちらグラディオ」
「首尾は?」
回線を繋げた端末からイグニスの声が問うた。
***
その日、人々は海が騒めくのを聞いた。舩は続々と沖を目指して出航した。オルティシエ市民に事前に通告してあった海底の異変。早朝から開始された政府発表による報道は、一部の政府関係者を困惑させたものの。観測結果の拡大に伴う一時的な避難は計画通り順調に進んでいた。立地上、高潮や津波に襲われることも多いオルティシエの人々にとって避難自体は馴れた物であったが、空に現れた帝国の飛空艇の姿を見て人々は不安をかき立てられた。
「ノクト、帝国の飛空艇が現れた」
イグニスの声が端末から聞こえる。
「ああ、見えてる。そっちは?」
「終わった。オルティシエの人々は、政府発表による避難自体よりも帝国の飛空艇に不安を抱いているが、報道で帝国の飛空艇は、この事態に備えての救援活動を行うとされており未だ帝国軍に目だった動きが無い事から恐慌までは至っていない」
「そうか」
「水神の方はどうだ?」
「まだ、分からない。だが揺れの感覚が短くなっている。たぶんもうすぐだ」
「わかった。すぐにそちらに向かう」
その時、突然続いていた揺れが止まり、海面が凪いだ。ノクティスが海面を注視した瞬間。膨大な水柱が上がった。同時に現れた長く細い身体は天高く持ち上げられ、強大な咆哮が、圧力となって響いた。
***
走りながら、プロンプトが叫ぶ
「あれが水神?嘘でしょ、巨神よりでかいなんて、頭が飛空艇よりも上にあるよ」
巻き上げられた海水が、雨のように降り注ぐ
「ああ、くそっ・・・急ぐぞ」
ずぶ濡れになったグラディオラスが言う。向こう側からイグニスがやってくるのが見えた。
「イグニス!」
プロンプトが声を上げる。
「将軍は?」
グラディオラスはコルの事を聞いた。
「将軍は最も遠い地区を担当していた。まだしばらくかかるだろう。とにかくノクトと合流しよう」
三人は神殿を目指して走り始める。
***
天高く持ち上げられた頭部は、やがてゆっくりと下に向けられ、巨大な目が祭壇の上に立つ小さな人間を見据えた。
「私を呼んだのは貴女ですか?」
人の声とは異質な声。それでいて優しく透明な神の声が、問いかける。
「我が名は、ルナフレーナ。神凪の血をひく者」
「神凪・・・では、その時が来たと?」
水神はルナフレーナを見て問うた。
「はい、水神よどうかその力を王にお貸しください」
その時水神の出現による混乱から立ち直った帝国軍飛空艇からの砲撃が水神を襲った。
撃ち込まれる砲弾を、出現した水の盾が受け止め。あるいは強靭な鱗が弾いた。
「騒がしいですね。これは飛空艇?いえ、似て非なる物、なれどこれは・・・あの者が動いている?」
水神の言葉の意味がルナフレーナには分からない。
「水神、何を?」
「いえ、貴女には知りえぬこと・・・良いでしょう。王が指輪の継承者にふさわしいか、試しましょう」
水神は、視線を動かしてノクティスの方を見た。水神にとってすれば、指輪の力を感じる方向を見れば、そこにノクティスは居る。探すまでも無い事だった。水神が咆哮し、水神を中心に膨大な海水が円形に壁をつくる。
「聞きなさい、指輪の継承者よ。幸か不幸か都合が良い。敵対する者を退け、私の生み出す荒波を超え、私の前へ立ちなさい。それをもって、貴方へ対する私の裁定とします」
水神の宣言と同時に、海水でできた壁は暴れはじめ、あたりの建築物や、波に近づきすぎた揚陸艇を巻き上げる。水神と帝国軍の間で戦闘が開始された。
「こんなことなら神殿の中にいればよかったか?」
水神の頭部は遥か上方にあり、シフトでも届きそうにない。水神と戦闘を開始した飛空艇や、揚陸艇群もそれに伴って遥か上方に位置している。だが、水神の発生させた、海流の壁が建物を巻き上げ、点々と足場を作っているのが見えた。神殿の尖塔に向かえば、乗り移り上方を目指すことができそうだ。ノクティスは神殿へと急いだ。
***
神殿に踏み込むと、海流に飲まれた揚陸艇からの生き残りや、神凪の確保を目的として建物の中に乗り込んできた降下部隊との戦闘が始まった。撃ち込まれる銃弾をノクティスは咄嗟に転がりながら回避する。突然、窓ガラスを破り、蛇のような物が室内に流れ込んだ。
「なんだこれ、水?」
帝国兵が、飲みこまれ、飛ばされてゆく
「味方なのか?」
「水神の力だろう」
独り言の様な問いかけに返答があった。
「イグニス!」
「間に合ったな」
飛び込んできた帝国兵を大剣が吹っ飛ばした。
「行こうぜ」
「グラディオ」
「ちょっと、俺の事も忘れないでよ。超走ってきたんだから」
「プロンプトも」
「ルナフレーナ様は?」
「神殿の最奥、祭壇にいるはずだ」
「よっしゃ、まずはルナフレーナ様を救出に向かおうぜ」
イグニスの端末が震える。戦闘を続けながらイグニスが通信を繋げた。
「こちらコル。そっちはどうだ?水神により展開された水壁によって中に入れない」
「中には、俺にノクト、グラディオにプロンプト、ルナフレーナ様がいます。建物、魔導アーマーが水神により巻き上げられ、混戦状態です。俺達は、ルナフレーナ様の救出へ向かっています」
「そうか、水壁が消滅し次第、応援に向かう」
「了解」
階段を上り、神殿の第二大広間へ、そこを駆け抜け、廊下から階段を下り、最奥、祭壇のある場所へ向かおうとした瞬間。広間の側壁を破り揚陸艇が乗り上げてきた。
「くっ」
飛び散るガレキを、グラディオラスがはねのける
「水神にやられた?」
プロンプトの疑問にイグニスが答える。
「いや、違う、これは・・・」
揚陸艇の格納庫が開く。降りてきたのは、白いコートに、魔導甲冑の義手姿。
「レイヴス!」
ノクティスが叫ぶ。レイヴスは笑った。
「久しぶりだなノクティス、水神のところへは行かせない。あれは、私が倒す」
「あの時とは違うぞ」
「ほう、見せてみるがいい」
ノクティスとレイヴス。二人が同時に手を伸ばす。ノクティスのファントムソードがレイヴスの周囲に出現。レイヴスの魔法陣が、ノクティスを取り囲むように展開される。
「ファントムソード、継承者の力か」
レイヴスが呟いた。一瞬の膠着。ノクティスはシフト、レイヴスは魔導機関により増幅された身体能力による強引な前進。魔法陣から出現した閃光が束になって、ノクティスの背後で炸裂。ファントムソードの突撃を、レイヴスが強引に振り切ってファントムソードは交差。互いの中間点で、エンジンブレードと刺突剣が激突し、離れる。
「今度は、全員で、全力で行くぞ」
ノクティスの号令に仲間たちが応じる。
「おう」
グラディオラスが大剣を構え、イグニスが指示を出し始める。
「プロンプト、レイヴスを牽制」
「わかった」
射出される弾丸に、レイヴスが魔法防壁を展開。
「銃など」
銃弾を受け止めた魔法防壁の向こうでレイヴスが告げる。
「知ってる。じゃあこれは?」
プロンプトが、リボルバーのハンマーに左手を沿える。
銃声が重なって響いた。受け止められていた初弾。その後部中央に打ち込まれた複数の弾がずれることなく命中する。押し込まれた初弾が、魔法防壁を貫通。崩壊。
「何っ?」
レイヴスは驚きと共に、多重防壁を展開し、銃弾を止めようとする。銃弾が二枚の魔法防壁を貫き、崩壊させ三枚目で停止する。
「でかしたプロンプト。いくぞ、ノクト」
「おう」
一瞬生まれたすきに、グラディオラスとノクティスが斬り込む。レイヴスは一方を刺突剣で、もう一方を魔法防壁で凌ぎながら、瞬時に攻撃用魔法陣を展開。グラディオラスは転がって回避。
「ノクト」
イグニスが、短剣を投擲し上空へシフトポイントを形成。ノクティスがシフトし上空から切り込む。刺突剣がそれを受け、さらに攻撃用魔法陣を展開しようとしたところへ、プロンプトの銃撃。レイヴスは、攻撃用魔法陣の展開を断念。魔法防壁を多重展開し、弾丸を阻む。一点集中された弾丸が防壁を貫き崩壊させるかぎり、レイヴスは多重の防壁を形成せざる負えない。三枚目で停止した弾丸に、グラディオラスが、大剣を叩き込み。銃弾を押し込む。銃弾は三枚目の魔法防壁も貫通し、回避しようとしたレイヴスの肌を浅くえぐっていった。
「くっ」
「いける。押してるよ」
「やはりレイヴスが展開できる魔法陣の数には限界がある。連携して攻め続けるぞ」
「おう」
「調子に乗るなよ」
ノクティスを弾き飛ばした。レイヴスが、全力で12の攻撃用魔法陣を展開。それぞれが一つずつ壊すも、残った8つから光が奔る。レイヴスを中心として光線が暴れまわる。
「イグニスのところに集合しろっ」
ノクティスの声と共に、グラディオや、プロンプトが転がるように光線を躱しながら集まってくる。その前にシフトしたノクティスはファントムソードを展開。高速で回転する剣の群れが、防壁として光線を弾いた。全力で魔法を放ったレイヴスが、息を荒げる。真っ先に斬り込んだグラディオラスの一撃を魔法防壁で受け止めながら、レイヴスは後退。
「いくぞ、レイヴス」
ノクティスの突撃を阻もうとした魔法防壁をプロンプトが打ち砕く。展開された12本のファントムソードを確認し、レイヴスが他の全ての行動を中止。12の魔法防壁によってファントムソードを固定する。ノクティスが雄たけびと共にシフト突撃。刺突剣がそれを受け反撃しようとした瞬間。ノクティスは、後方へエアステップ。レイヴスは挙動を急変行。再度のシフト突撃に備え刺突剣が動く、そこを投擲されたイグニスの短剣が強襲。レイヴスは一本を身をひねって躱し、もう一本を魔導装甲義手で弾くが、僅かに崩された態勢にノクティスの剣が叩き込まれる。レイヴスは辛うじて刺突剣で受けたがシフトの威力を殺せず飛ばされる。制御が緩んだことで魔力の減衰した魔法防壁を破ったファントムソードがそれを追撃。剣の群れが雪崩のようにレイヴスに殺到する。再展開されかけた魔法陣がかき消され、振るわれた刺突剣が迎撃に向かう。ファントムソードの群れが強引にレイヴスを壁面まで追いやり、床や壁面を砕き室内を粉塵で灰色に包んだ。ノクティスの周りに戻り緩やかな回転運動に戻ったファントムソードの向こう側で、粉塵が外へと流れ出す。レイヴスは血まみれとなり、壁際で膝をついていたが、それでもファントムソードの群れを刺突剣で凌いで見せたのだった。
「なんだと」
グラディオラスが驚きの声を上げる。
「終わりだレイヴス、降伏しろ。次は防ぎようがない」
ノクティスは、剣をもう一度構えていった。レイヴスが応じるように立ち上がる。その時、階段を駆け上がってくる足音が聞こえた。現れたのはルナフレーナだった。
「ノクティス様。・・・兄さん!」
「ルーナ」
ノクティスが驚きと共に、無意識のうちにファントムソードの半数を、ルナフレーナの前に展開させ防壁とした。
「・・・ルナフレーナ」
双方の間の動きが一瞬止まった。
「降伏しろレイヴス」
ノクティスが剣を下ろす。
「まだだ、まだ負けていない」
血を流すレイヴスが立ち上がり、魔法陣が急速に再展開される。
「くそっ」
ノクティスはもう一度剣を上げようとした。その前に、ルナフレーナが立ちふさがる。
「兄さん、退いてください。もう勝敗は決しています。まだやるというのなら私も、ノクティス様に加勢し兄さんと刃を交えます」
ルナフレーナは、逆鉾を、真っすぐにレイヴスへ向けてみせた。数瞬の沈黙。緊張からルナフレーナの頬に汗が流れた。
「私に歯向かうというのか」
「ええ、兄さんが退かないのならば」
レイヴスが強く噛みしめ、顔を歪ませた。魔法陣が消滅。
「ノクティス、これで勝ったと思うなよ」
レイヴスは口を開けた壁面から青い魔法の光を残し飛び降りて消えた。
「逃したか」
イグニスが呟き、ノクティスはファントムソードを消した。ルナフレーナが申し訳なさそうに口を開く。
「出過ぎた真似をいたしました。12年前から、兄は変わってしまった。今や帝国の将軍でありノクティス様の敵。・・・分かっています。それでも、兄なのです」
「ルーナ・・・」
ノクティスはルーナの震える肩にそっと触れた。ルナフレーナを責める気などなかった。窓の外を見れば、指揮系統を失った帝国軍が混乱しながら、水神と戦っているのが見えた。
「ここから先は、シフトが無いと無理だ。俺は尖塔から水神の元へ向かう。お前たちは、ルーナを頼む」
「分かった」
「おう」
「うん」
「ノクティス様、お気を付けて」
仲間たちとルナフレーナの声を聞き、ノクティスは尖塔へ向けて走り出した。
***
「ルナフレーナ様。俺達は、神殿の外に出てノクトを待ちましょう」
イグニスの言葉に、ルナフレーナは首を横に振る。
「いいえ、私は、これより神殿の下部へ向かいます」
プロンプトが驚き聞く
「え?どうして」
「神殿の崩壊により、傷を負った方たちが取り残されているのです」
「馬鹿な避難したはずでは」
「神殿を管理していた方達です。何度も非難するように言ったのですが、説得することができませんでした」
申し訳なさそうに言うルナフレーナ。それを見てグラディオラスが声を上げる。
「しゃぁねぇ、行くぞ」
ルナフレーナは頷き、祭壇の手前第三広間へと向かっていった。そこには、取り残された人々がいた。傷ついた老人にルナフレーナ触れその傷を癒していく
「有難うございますルナフレーナ様」
「どうして逃げなかった」
イグニスの問いかけに、老人が答える。
「ルナフレーナ様を残し、我々だけが避難するわけにはいくまい。なれど、このように足手まといになってしまうとは、不甲斐ない」
「いいえ、気になさることではありません。そのように誰かを思いやる人の心こそが闇を払いのけるのですから」
その言葉と、向けられた笑顔に老人は涙を流し、その場に残っていた神殿の者達全てが、ルナフレーナに頭を下げていた。
***
走って昇っている廊下が斜めに傾いでゆく、尖塔の先から、落ちてゆく揚陸艇にシフトで乗り移る。飛び出してきた帝国兵を薙ぎ倒し、シフト。女神像へよじ登る。
海流で流された巨大な建築物とぶつかり合い、女神像が崩れてゆく。完全に崩れ落ちる前にシフト。揚陸艇や、飛ばされた残骸を乗り継ぎ、水神を目指す。銃撃を繰り返している揚陸艇を水神がヒレで叩き落とし、それに巻き込まれる前にノクティスは乗っていた揚陸艇から巻き上げられた魔導アーマーを経由し建築物のテラスへ。そのままテラスを疾走する。帝国兵の銃撃をファントムソードで防ぎ、前へ。テラスの外縁からシフト、巻き上げられた街灯の支柱に剣を突き立てぶら下がる。タイミングを見計らいシフト。巻き上げられた橋が、水神へと通じる通路となっている。帝国軍はほぼ壊滅している。廊下を走り始めようとしたノクティスに水神が呼びかける。
「指輪の継承者よ。これよりは、私の生み出す水流に抗って見せなさい」
左右に開いた窓から、水で作られた擬似生命体が飛び込んでくる。剣で切り裂き、ファントムソードで迎撃する。斬られた擬似生命体は水へと戻り破裂するが、辺りが全て水であり、擬似生命体は水神によっていくらでも生み出され殺到してくる。強引に先へ進む。その通路の端、上部にあった屋根が飛ばされたその先に水神の頭部が見える。後ろから迫っていた擬似生命体を両断。さらに迫る擬似生命体を周囲に纏ったファントムソードが全て切り捨てる。水神の頭部までシフトを狙うノクティスの前に、数え切れぬほどの擬似生命体が発生。辺り一帯を埋め尽くし、水神の前に集った擬似生命体は巨大な波へと姿を変える。周囲からは擬似生命体の群れが迫っており、水神の前には波の壁。逃げ場は無く前も塞がれている。だが、ノクティスはファントムソードをかき消すと床を蹴り、眼前の大波を目指してシフトした。大波の直前に現れたノクティスに擬似生命体が殺到。波からも擬似生命体が生まれ向かってくる。ノクティスは落下する直前に手を前に突き出した。そこから冷気が発生。前面から近づいた擬似生命体と、大波の一部を凍結させる。基礎元素を用いた魔法の一つ、ブリザドの上位魔法ブリザラだ。それは放たれた先にある物すべてを凍結させる。まして水であれば、それは容易に氷へと変わる。ノクティスは即座にファントムソードを再展開。ブリザラの効果が及ばなかった背後からの擬似生命体の突撃を払いながら。凍り付いた波に向かって空中から二度目のシフト。ノクティスの周囲をファントムソードが付き従い。凍り付いた大波を砕く。ノクティスは凍り付いたその波を突き抜け、水神の目の前に到達した。
「きてやったぞ、水神!」
水神の巨大な目が、ノクティスを見た。ノクティスは、そのまま落下しようとする身体をさらにシフトによって持ち上げようとする。足元からは擬似生命体が迫っている。ファントムソードに、ブリザラの行使、度重なるシフトでノクティスは限界だった。シフトは失敗。その身体が重力に引かれて落下しようとする中。ノクティスの足が、柔らかなものに乗った。
「いいでしょう。貴方を認め、私の力を授けましょう」
水神がそう言った。落下しようとしていたノクティスの身体は、擬似生命体によって支えられている。その中の一部が水球となって、ノクティスの周囲に浮かび上がり、大量の水となって指輪に吸い込まれた。そして海流は止み。発生していた水壁は消滅、海面は凪いだ。水神は擬似生命体を使い。ノクティスをゆっくりと神殿の側の床の上に降ろすと、そのまま海中へと潜っていった。
***
暗い玉座の間でアーデンが報告する。
「さて、レイヴスは取り逃がしましたが、他は予定通りに進みました。各地に検問を敷きレイヴスを捜索していますが、さほど心配はいらぬでしょう。帝国から追われる。帝国の将軍だった男を、受け入れる国はありますまい。レイヴスは、帝国とその敵対者、どちらにとっても裏切り者となったのですから・・・」
皇帝は、多少不満顔だったが、そのまま手を振った。
「さっそく、オルティシエでの映像と、レイヴスと神凪の疑惑について喧伝させろ。テネブラエへの進攻の用意を急げ」
「仰せのままに」
アーデンは、いつものように大仰に頭を下げて見せた。