超次元ゲイムネプテューヌ Origins Interlude   作:シモツキ

14 / 54
第十話 守りたいもの

ギャグ漫画やギャグアニメの定番にさ、落とし穴落下ってあるよね。何かの拍子に落とし穴の上に立っちゃって、何かしらの理由で落とし穴のスイッチが入って、でも数秒は落っこちなくて、気付いてからやっと落下が始まって、手をばたつかせたり空へと泳いでみたりして滞空及び上昇を図ってみるけど健闘虚しく落下…っていう、ベタだけど寒くなくて、よく見るけど飽食気味になったりはしないアレ。

私さ、アレ実在するって思ってたんだ。だって、世界規模で「もうちょっと真面目にやろうよ…」って思う事が時折ある次元で過ごして来たんだよ?地面に斜めに刺さる女神がいたり、カジュアルな伊達眼鏡一つで変装が完璧だと思ってる女神がいたりする次元での毎日が日常だったんだよ?っていうか、今まで私と皆との冒険に付き合ってくれた皆もそう思うよね?……だからさ、皆には悲しいお知らせがあります…。

 

 

「わぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

--------あの落とし穴ネタ、実在しませんでした。

 

「気付いたらもう落ちてるなんてぇぇぇぇぇぇっ!」

 

落とし穴は縦には長いものの、広さ的にはあまりないのか私の声はかなり響く。正直自分でも結構五月蝿いんだけど…そんな事気にしている場合じゃない。というか……

 

「落とし穴長くないぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」

 

自分が落とし穴に落ちたと気付いた時にはもう私の身長の数倍は落ちていて(手をばたつかせたり空へと泳いでみたりする余裕も隙も無かったよ…)、そこから大体同じ速度で十秒以上落ちてるのにまるで床に辿り着かない。更に言えば底が見える気配すらない。もしかすると床じゃなくて湖や野原に出るかもしれないけど、それは瑣末な問題。落ち続けている事、それ自体が目下最大の問題だった。

 

「…って、いつまでも叫んでる場合じゃないか……このッ!」

 

早々(と言えるかどうかは分からないけど)にただ叫ぶだけの時間は切り上げ、ディールちゃんに作ってもらったはがねのつるぎ…もとい鋼のバスタードソードを握る手に力を込め、思い切り壁へと突き出す。

これで某黒の剣士の如くバスタードソードが突き刺さり、落下が止まってくれれば御の字…と思ってやったけど……自分でも思った以上に簡単にバスタードソードは弾かれてしまった。具体的には、落下中で姿勢制御もままならなければ床を踏み込む事も出来ない上にそこまで広くなくて大振りの刺突が出来なかった…という三点によって普段より大きく威力が落ちて刺さらなかった…というのが理由だろうけど、そんな事が分かったところで何の意味も無い。だってそれは今においてはどうしようもないから。

 

(なら、手か足を引っ掛けて……みようものなら、手足が削り取られるよね…)

 

人間危機的状況に陥ると慌てるものだけど、更にそれが悪化してどうしようもない(と判断してしまう様な)状況になると逆に冷静になってしまう。今回もその例に漏れず、今打てる手段が全て駄目か試すまでもないと分かるや否や私の思考はクールそのものになっていた。これがどうしようもないなら慌てるだけ無駄、という諦めから来るものなのか状況打破の可能性が僅かにでもある事を信じ、それを見逃さない様にする為に冷静さを取り戻すのかは分からないけど。

 

(ベストはここを登って大広間へと戻る事…その為にはまず落下を止めなきゃだけど、それはほぼ不可能。なら、それを前提に考えるしかない)

 

絶賛落下中にも関わらず知的キャラ並みの思考を行うという一周半回ってやっぱりぶっ飛んでる状況だけど、慌てるよりはよっぽど建設的だし何より誰かに見られてる訳でもないんだからどうでもいい事を気にする必要はない。…まぁ、考えてるうちに床や水面に激突するかもしれないけど。

それはともかく、私は状況打破の為に考えなければいけない。選択ミス次第では命を落とす事になるんだから、状況や前提をきちんと考えに組み込んで……

 

「……う、ん…?」

 

その瞬間、私の脳裏に浮かんだのは状況打破の案ではなくあの暗号についてだった。何故、このタイミングでそれが浮かんだのか。それは恐らく無意識の内に聞いた単語や思い浮かべた言葉が私の頭の中にピースとして残っていって、『前提』というピースを嵌め込む為の枠が出来た事で一気に組み上がっていったから。

 

「…これはもう常識を覆すどころか木っ端微塵に破壊するレベルの発想だけど…あり得なくは、無い」

 

思い付いたのは相変わらずの推測。でも、今までの推測とは何かが違うと本能的に感じていた。

そして--------深い思考の迷路に立ち入っていた私は下側が段々明るくなっていっている事に気付かず、それに気付いたのは…元の大広間に出て、思い切り尻餅をついてからだった。

 

 

 

 

妙ちきりんな落とし穴に落ちた仲間が、戻ってきた時にはいくら考えても進まなかった謎の答えを導き出した、なんて言ったらどう思うだろうか?

多分、多くの人は「途中で頭をどこかにぶつけたのかな?」と考えると思う。……少なくとも、わたしはそうだった。

 

「……えーと…ちょっとそこにしゃがんでじっとしててくれます?」

「う、うん…良いけど……」

「外傷は…無さそうですね…」

「え、何の心配してるの…?」

 

外傷が無いとなれば外傷が残らない様な高度なぶつけ方をしたか、精神的なものか…と思案を始めたわたしに対し、イリゼさんは怪訝な表情を浮かべている。…あ、不味い。このまま何も言わず考えていたらむしろわたしが心配される…。

 

「安心して下さいイリゼさん。多少頭がおかしくなっててもわたしは味方ですよ。元々ちょっとおかしかったですし」

「私の頭疑ってたの!?そして後半酷い!フォローに見せかけてるから尚更酷い!」

「そりゃ疑いますよ、過程と結論が噛み合ってないんですから」

「だからって即頭疑うのは酷いよ…分かったのは偶然、ほら言うでしょ?風が吹けばコイケヤ…じゃなくて桶屋が儲かるって」

「何故お菓子メーカーが出て来たのかはさておき、偶然…と言われても……」

「むぅ…まぁ一先ず話を聞いてよ?判断はその後でも遅くはないでしょ?」

 

イリゼさんが妙に自信有り気だった事もあり、やや消極的ながらも頷くわたし。まぁ、よく考えたら仮にイリゼさんの頭がおかしくなってたとしてもわたしには治せないし、病院もここには無いんだからおかしくなったと判断したところでどうしようもないんだけど。

 

「…じゃあ、お願いします」

「お願いされました。では、こほん……」

「あ、暗い部屋で一人の中、スポットライトが当たった状態から始まるとかの演出は要りませんからね?」

「私は古畑さんじゃないよ!?」

 

ネタと外見がミスマッチだよ…みたいな視線を送りつつも口を開くイリゼさん。お互いボケには大分慣れたらしい。

 

「まず、最後の一行は多分考察の余地の無い文字通りの意味だと思う。というか、あれはヒントに近いのかもね」

「ヒント…と言うと、創滅の部分がですか?」

「そう。ディールちゃんは創滅を何と何を指した言葉だと思う?」

「…創造と滅亡、でしょうか…」

 

創作と滅菌、創ると滅びるとか他にも思い付くものはあるけど、少なくとも最初に思い浮かんだのはそれだった。

それを聞いたイリゼさんはまずうんうんと頷き、苦笑しながら「やっぱそんな感じのを普通は想像するよね」と自分も同じ考えだった事を口にし…その後、真剣な顔になった。

 

「…でも、それは多分違う。創造と滅亡じゃなくて…創造と消滅なんだよ、きっと」

「え…でも、それは……」

「滅が後ろに来てるって?……創滅は頭文字二つを繋げた単語だ(・・・・・・・・・・・・)なんて、誰が決めたの?」

「あ……」

 

イリゼさんに言われて、イリゼさんに指摘されて初めて気付く。わたしは公取委とかPKOとかASTとか世の中のありふれた略称は頭文字を繋げてるものが多いからついこれもそうだと思ってしまっていたけど、それは半端な部分の文字を繋げるより分かり易いからそうしているのであって、別に何かのルールの下そうなっている訳ではない。

人に対して『○○つ』を使うのは変、という事をイリゼさんが気付かなかった様に、わたしも注意していたつもりが『普通』という蓑に隠された違和感や可能性に気付けていなかったのだと痛感する。

 

「…まぁ、これを言ったら死滅とか全滅とかあるけど創造と一番対極として成り立ちそうなのは消滅でしょ?」

「…例えが破滅思想者みたいですね」

「うっ…滅事体マイナスな言葉なんだから仕方ないじゃん…」

「それもそうですね。しかし…創造については特に何も言及してませんが、創造は間違ってないという確証はあるんですか?」

「それは二行目からの推測、かな」

 

二行目、と言えば確か『加えられし者、排除されし者』的な事が書いてあった筈。…と、そこでわたしは創造・消滅を前提として考えたからか案外すぐに思い付く。

 

「…創造は前半、消滅は後半と照らし合わせたって事ですか?」

「そういう事。各行が完全に独立してるって考えるのも変だし」

「……結構しっかりした推測ですね。真偽はともかく、頭おかしくなったかもって疑惑は撤回します」

 

正直、もっと前の段階から正常な思考をしてると分かっていたしイリゼさんも本気でわたしが疑ってるとは思ってなかった様だけど、一応言葉の上で疑いっぱなしというのは嫌だったからきちんと訂正するわたし。ちゃんと言葉にするのも大切だもんね。

 

「…それじゃあ次…と、言っても各文における読み解きはこれが最後かな」

「最後…わたしが疑問を抱いた一行目ですね」

「この行については…なんて言うか、私もディールちゃんも頭が固かった、としか言い様がないかな」

 

肩を竦めるイリゼさん。という事はつまり、一行目もわたし達が普通だとか当然だとか思っていた部分に目をつければ良かったって事…?

 

「文全体から見れば人や生き物を指している様な印象、だけど数え方は主に物に対するもの。だから私達は悩んだんだよね?」

「そうですね、無理矢理人だと認定しても違和感残りますし」

「うん。…でもこうは考えられないかな?悪意やミスなく『○○つ』という表現を人に対して使っていた、とは」

「悪意やミスなく?そんな事は……」

 

あり得ない、と反射的に思った。人に使う理由なんて幾つか思い浮かぶけどどれも最終的には悪意やミスに行き当たるし、そもそも変だからこそ違和感を抱いた訳で、それがあり得るならわたしは違和感を抱かない筈。

……なのに何だろう、この何か引っかかる様な気分は…。

 

「無い、って断言出来る?本当に無い?」

「無い…様な、気がしますが……」

「確かに無いだろうね。じゃあ……人を対象にしてるけど、人を指してる訳じゃない…って言ったら分かる?」

「…とんちか何かですか?もったいぶらずに説明を……」

 

してほしい…とやはり反射的に思った。でも、どんどんと大きくなっていく引っかかりは遂にわたしの言葉を遮るまでとなった。

人を対象にしてるけど、人を指してる訳じゃない…これはつまり、『○○つ』の先にあるのは人だけど、直接示している訳じゃないって事?

だとしたら、それは…そんな奇怪な表現が成立するとすれば、それは……

 

「……パーティー…集団…?」

「だよねぇ。仕方ない、これは実は……って、へ?」

「そうだ、集団なら人を内側に有しているから人を対象にしてると言えるし、集団そのものは人じゃないから人を指していない、『○○つ』という表現をするのもおかしくない」

「あ、えと…うんその通り……」

「…だとしたら、一行目の二つに一つ、というのは二人に一人、ではなく加えられし者に該当する集団、排除されし者に該当する集団のどちらかのみと解釈するのが自然ですよね?そして、そのどちらかのみを決する事を求めた時にその戦場が開かれる……凄い、これで全部繋がった…」

 

鳥肌が立つ様な感覚が全身を駆け巡る。殆ど何も分からなかった暗号の意味が次々と明らかになり、一つの回答を導き出せた時の何とも言えない興奮と爽快感。それがわたしをさざめき立たせていた。

そして同時に、本人は偶然と言っていたけどそれでもそれを気付けたイリゼさんは素直に凄いと思った。だから今回位は面と向かって称賛を…と思ったけど、何故かイリゼさんはちょっとしょんぼりしていた。

 

「…ええっと…どうかしましたか…?」

「全部言われた……」

「は、はい?」

「私が説明しようと思ってたのに、『○○つ』の部分どころか結論部分まで言われた…」

「こ、子供ですか貴女は…ならヒント出さずにすぐ言えば良かったでしょうに…」

 

ほんとにこの人は基本まともなのに、時折わたしと同レベルに子供だった。

 

「まぁ、いいです。暗号が解けたのは大きな前進ですから」

「んー…そうだけど、解けたっていうのは少し言い過ぎかも」

「そうですか?」

「だってさ、まだ二つの集団が明らかになってないでしょ?それに二つの集団が明らかになったとしても、どちらが加えられしでどちらが排除されしなのかはわかってないじゃん」

 

確かにイリゼさんの言う通り、その部分はまだ不明だった。かなり肩透かしを喰らった気分だけど…わたしとしてはそこまで落胆する事ではない様に思える。だって、わたしはもうある程度推測が付いていたから。

 

「…取り敢えず、わたし達は加えられし者側では?」

「……それまさか、メタ的な視点で考えれば当然の事…みたいな理由じゃないよね?」

「真面目な謎解き中にメタ視点出したら謎解きもなにもなくなっちゃうじゃないですか…違いますよ、簡単な事です」

「簡単な事?」

「えぇ、だって言っていたじゃないですか。イリゼさんは別次元から来た人に聞いたらその次元にはイリゼさんは居なかったって。その時、わたしやわたしらしき人に言及していました?」

「してなかったと思うけど…」

「という事はつまり、わたし達が分かる範囲ではわたしもイリゼさんも一つの次元にしか居ないという事になります。それぞれの次元以外でわたし達が排除されたと考えるのと、それぞれの次元でのみわたし達が加えられたと考えるのはどっちが自然ですか?」

「…ディールちゃん頭良いね」

 

わたしがイリゼさんを褒めようと思っていた数分後、何故かわたしではなくイリゼさんがわたしを褒めていた。…まぁ、悪い気はしないけどね。

そして…最後の一つ。排除されし者とは何なのか、という問いはイリゼさんが答えを出した。…最後はちゃんと説明出来て良かったですね、イリゼさん。

 

 

 

 

「…何なのか、なんて私達に導き出す事は不可能なんじゃないかな」

 

落下中の思考によって気付いた『前提』という要素。そこから大広間に至るまでの何気ない会話の中で出た『パーティー』という言葉から気付いた『集団』。それを意気揚々とディールちゃんに説明しようと思っていたけど…後半は思いっきりディールちゃんに言われてしまった上、最後には私が教えられる立場になっていた。……くそう。

だから必死こいて…という訳ではないけど最後の謎を突き止めようと思案を続け、私は一つの答えを出した。でも別に、これは放棄した訳じゃない。

 

「不可能だとして…なら、どうするんです?」

「どうもしないよ?分からないものは分からないだから、どうしようもないし。……だから」

 

私は本を片手に大広間の中央へと向かう。そして、本を掲げて私は告げる。

 

「--------私は望もう、その存在を。排除されし者と合間見え、雌雄を決する戦場を、その瞬間を。貴君もそれを望むのであれば…己が居場所を取り戻さんとするならば、姿を現せ!」

 

忘れもしない、この迷宮の性質。私達の思いが影響を及ぼすというその性質に私は頼る事としたのだった。勿論、まだ影響を及ぼす境界も条件も分かっていないけど、この願いは聞き入れられると私は確信を持っていた。だって、本がこの迷宮と関連する物であるのならば、この本と直結する願いが無視される訳がないのだから。

そう思い、希望に満ちた瞳で掲げた本を見つめる私。そして、十数秒後…遂にその瞬間は訪れる。

 

「……何も起きてませんよ」

 

半眼のディールちゃんに指摘される、その瞬間が。

 

「……い、今のは見なかった事にして下さい…」

「あ、はい…流石に今のは見てるこっちも恥ずかしいので触れない事にします…」

 

なまじもう一人の私の真似をしながら言ったものだから、余計に恥ずかしかった。同情されたのも、更に更に恥ずかしかった。具体的には、ディールちゃんの目を見られない位には恥ずかしかった。

 

「…一度、戻りましょうか」

「……うん」

 

最後の最後でつまずいてしまったけど、それでもここに来る前とは天と地程の差がある位進展した。そう考えれば最後つまずいた事位どうって事ない。ディールちゃんはそう思っていたらしいし、私もそう思おうとした。そう思おうとして、二人一緒に大広間の出入り口へと行こうと……

 

『……ーーっ!?』

 

背筋が凍る様な、自分の本質の部分から湧き出る嫌悪感の様なものを感じ、瞬時に振り向きながら左右へと飛び退く私とディールちゃん。私は同時にバスタードソードを構え、ディールちゃんは女神化をする。

振り向いた私達の視線の先には、いつの間にか現れていた闇色の靄があった。その靄は、私達が見ている最中にも少しずつ大きくなり、何かの形へと変貌していく。

 

「この感覚…ギョウカイ墓場と同じ…」

「負のシェア、だね…なんで負のシェアがここに……」

 

いや…なんで、なんて事は無い。私も、恐らくディールちゃんもそれは分かっている。これが、『排除されし者』なのだという事は、殆ど本能的に察していた。

そして、闇色の靄は私達の数倍以上の大きさになった後…巨大な龍の様な姿となる。

 

「フッ…ハハ、ハーッハッハッハッハッ!!」

 

まるでそれは咆哮の様な嗤い声。威圧的な、それでいて挑発的な……どこかで聞いた事のある様な、嗤い声。

 

「遂ニ…遂ニコノ時ガキタ…嗚呼、ドレダケコノ瞬間ヲ待チワビタ事カ……」

「……貴方は、何者ですか…」

「フン、我ハ何者デモナイ…失ワレシ魔龍トシカ形容出来ヌ我ニアルノハ今ノコノ瞬間、ソシテ……」

 

何かが狂ってしまっている様な、そんな声。ただ、何となく私はその声に既視感の様なものを感じていた。私はこの魔龍を知らない、知らない筈なのに何か会った事のある様な違和感。

私はその違和感が何なのか理解しようと、思考を巡らせていた。だから魔龍の…その見た目からは想像もつかない程に俊敏なその動きに反応する事が出来ず、気付けば魔龍は目の前にいた。

 

「正当ナル存在デアル我カラソレヲ奪イ、我ヲ無キ者トシタ貴様等を断罪スルトイウ大義ダケダッ!」

「……ッ!イリゼさんッ!」

 

眼前に迫る魔龍の爪。一本一本が武器として成り立つであろうそれがすぐ前まで迫っていた時、私はやっと回避しようとした。けど、間に合う筈がない。良くて重症、悪くて即死であろう攻撃が迫る中、私が分かったのはそれを避ける事は出来ないという事実だけだった。

暫く感じる事の無かった死の実感に、つい目を瞑ってしまう私。……だけど、数秒経っても私の身体が魔龍の爪で引き裂かれる様な事はなく、代わりに私は浮遊感の様なものを感じていた。

 

「…ディール、ちゃん…?」

「敵を前にして何をぼーっとしてるんですか…!」

 

背中と両膝の裏に腕を入れた、所謂お姫様抱っこの形で私はディールちゃんに抱かれていた。そしてディールちゃんの叱咤で気付く。咄嗟に動いたディールちゃんが私を魔龍の一撃から助けてくれたのだと。

私を降ろすディールちゃん。彼女は魔龍に目をやったまま言葉を続ける。

 

「…イリゼさん、正直に答えて下さい。今の攻撃、反応出来ましたか?」

「…余計な事考えてなければ恐らく反応は出来たと思う。…でも、反応出来ても回避出来てたとは断言出来ないかな」

「……分かりました。イリゼさんは下がっていて下さい」

「……っ…それは…」

 

それは、実質的な戦力外通告。それは当然の判断だし、ディールちゃんも「役立たずは要らない」なんて冷たい考えの下言った訳ではない事は分かっている。……でも、私は…ディールちゃんを守らなきゃと思っていた私は、女神化出来なくなるまでずっと一番前で戦っていた私は、素直にそれを受け入れられる訳がなかった。

 

「援護だけなら私だって……」

「奴がわたしだけを狙うとは限りません。それに前衛のイリゼさんが中距離以上が得意距離であるわたしの援護出来ますか?」

「…でも、私だって出来る事が……」

「あるかもしれません。でも、出来る事とリスクとが釣り合ってると思います?」

「……だとしても、ディールちゃん一人に戦わせるなんて…」

「…はぁ、では少し下がって下さい。一つやっておきたい魔法がありますから」

 

溜め息を吐いたディールちゃんはそのまま杖を構え、私が下がるのを待つ。そして彼女は私がある程度下がったのを確認した様にちらりと私の方を見ると「…ごめんなさい」と言った。そして…私がその言葉の意味を気付くより先に魔法が発動する。--------私とディールちゃんを隔てる、氷壁の魔法が。

 

 

 

 

どうして、と叫ぶイリゼさんの声が氷壁を隔てて聞こえる。続いて聞こえてきたのは氷壁へ何かを打ち付ける音。これは恐らくイリゼさんが攻撃してるんだろうけど…普通の人間の域を超えていないイリゼさんが即座に壊せる訳がない。…わたしが魔龍を倒すまで氷壁が耐えてくれれば、それで良い。

 

「…一人デ我ヲ倒スツモリカ……」

「えぇ…わたしも、女神ですから」

 

この魔龍ならすぐに壊せるだろうけど、そこは気にしなくても良い。戦力分断をしている氷壁を壊せばわたしとイリゼさんが合流してしまうのだから、魔龍がそんな事をする訳がない。

 

「…倒セルト思ッテイルノカ…?」

「……どうでしょうね。もしかしたらキツいかもしれません。でも…」

 

例え殆ど役に立たなくても、イリゼさんが一緒に戦ってくれるのなら、それは…とても、心強い。だけど…もし魔龍とまともに戦えば、きっとイリゼさんは死んでしまう。

それは…嫌だ。絶対に嫌だ。仮に魔龍を倒せても、イリゼさんが死んでしまったらわたしは喜べない。イリゼさんと一緒に、笑顔で終わらせられなければわたしは納得出来ない。だって…

 

「…女神は大切なものを、大切な人を守るんです。だから……わたしが、イリゼさんを守るんです」

 

イリゼさんはもう、ただの同じ境遇になっただけの人なんかじゃないから。




今回のパロディ解説

・某黒の剣士
ソードアート・オンラインシリーズ主人公、桐ヶ谷和人の異名の事。剣で落ちるのを止めると言えば…でこれを思い出したのですが、結構該当しそうなのは多そうですね。

・古畑さん
古畑任三郎シリーズ主人公、古畑任三郎の事。最初は古畑任三郎さんの真似というネタもありましたが…どうしても伝わり辛くなりそうだったのでこうなりました。

・AST
デート・ア・ライブに登場する陸上自衛隊の特殊部隊(の略称)。PKOと並べるとなんかこれも国際的な組織の名称っぽくなりますが、実際にある組織ではありませんからね?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。