超次元ゲイムネプテューヌ Origins Interlude   作:シモツキ

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第十一話 もう一度、共に

左右からは炎弾が、正面からは爪が迫る。それをわたしは跳躍する事で回避し、魔龍の頭頂部へと氷弾を撃ち込む。

戦闘は一進一退……だと、最初は思った。そう、最初だけは。

 

「小娘如きガ…ヌルイワッ!」

「……っ…!」

 

寸分違わず魔龍の頭へと着弾した氷弾。だけど魔龍はそれを物ともせずに顔をわたしの方へと向け、たった一度翼をはためかせるだけでわたしとの距離を詰めてくる。

氷弾が擦り傷一つ付けられ無かったのは予想外であり…かなり不味い事だった。別に今の攻撃でダメージを与えられなかった事が不味い訳ではない。今の攻撃より火力を上げる手段は幾らでもあるし、そもそも今のは小手調べの様なものだったから。

でも、無傷というのは不味い。無傷という事は、今撃った氷弾以下の威力の攻撃は魔龍にとって避ける必要すらないという事であり、それはつまり牽制として使える様な出の早い攻撃の大半は牽制として機能してくれないという事なんだから。

 

(機敏な動きに苛烈な上遠近問わない攻撃、おまけに生半可な攻撃は通用しない、か……どうしよう、こういうのが一番厄介なのに…)

 

ガバリ、と口を開き牙でもって噛み砕こうと仕掛けてくる魔龍。わたしは急下降と同時に身体を捻る事でそれを紙一重で回避し、杖に纏わせた氷剣ですれ違い様に斬りつける。手に残る確かな感覚。けど、浅い。

付け入る隙が一切無い訳ではない。俊敏とはいえ巨体故に攻撃が大味になってしまう魔龍は中々わたしを捉えられずにいるし、理由は不明だけど魔龍は頭に血が上っているらしくある程度は攻撃を読む事が出来る。でも、読めても素早いから楽に避ける事は出来ないし、パワーとタフさに以上な程差がある状況では油断なんか欠片も出来なかった。

 

「フン、マルデ小蝿ダナ!存在ソノモノニ虫酸ガ走ル点モソックリジャナイカ!」

「意味の分からない事を…ごちゃごちゃと…!」

 

一直線に後退しながら二対四本の鋼の刃を精製、性質上比較的脆い筈の両翼へ向けて同時二対射出。更に間髪入れずに先程よりも二回り程大きい氷塊を作り出し、わたしの真上に滞空させる。

魔龍は刃を避ける事はせず、突進をしながら両腕を広げ、両腕に直撃させる事で強引に防御。魔龍はやはり殆どダメージを受けた様な様子を見せず、頭上の氷塊ごとわたしを叩き潰そうと腕を振り上げる。……良かった、やっぱりあいつは慎重派なんかじゃない。

 

「予想…通りッ!」

 

わたしは魔龍をギリギリまで…振り上げた腕がわたしへと振り下ろされ始める直前まで耐えたわたしは杖を振るい、頭上の氷塊を……地面へと叩き付ける。

激しい音を立て、大小様々な破片となって飛び散る氷塊。破片が目くらましに、行動そのものが意表を突いた事によって咄嗟に腕を引っ込める魔龍。これはわたしが仕組んだ事なんだから…その一瞬を、逃す筈が無い。

 

「まずは…動きを止める…!」

 

氷剣を解除し、杖の柄の先を床へと打ち付ける。それにより杖から床へと流れた魔力は魔龍へと向かいながら薄い氷へと姿を変え、ものの数瞬でわたしと魔龍の周辺の床が即席スケートリンクへと変わる。

ある程度氷が広がった所で宙へ浮くわたし。そこで魔龍は顔周辺を覆っていた腕を降ろす。

 

「……貴様、何ヲ…」

「さぁ?貴方…貴女?…はぱっと見脳筋っぽいですし説明するだけ無駄でしょう?」

「……ッ…雌ガキガ…ッ!」

 

刃の様な牙を…そして怒りを剥き出しにして吼える魔龍。その怒りを表すが如く魔龍は大きく翼をはためかせ…その場で転倒する。それを見てわたしは暗に、にやりと笑う。

鳥や虫の様に羽を羽ばたかせる事で揚力を得るタイプの飛行方法は、多かれ少なかれ飛び立つ時に足場を踏み締める必要があるから足場が悪いと体勢を崩してしまう。即席スケートリンクはそれを誘発させる為の布石であり、魔龍が床の状態に気付かず飛翔する様誘導する為の飛行と挑発だった。

大きく前へと倒れ込み、わたしへと背を晒け出している魔龍。先程とは比べものにならない程の大きな隙をわたしは最高のチャンスと判断し、一気に攻勢をかける。

 

「そちらの大義とやらも意思とやらもわたしには関係ありません。排除されし者だと言うのなら…もう一度、消えてしまえ…ッ!」

 

円を描く様に鋼と氷を織り交ぜた多数の刃を精製。背に、翼に、頭に、尾に…わたしから見える部位全てに刃の束を降らせ、続けてそこへ衝撃波を撃ち込む。でも、まだ終わらない。更にわたしはついさっき精製したのと同格の氷塊を落とし、駄目押しとばかりに魔力の塊である魔弾を杖を振るって叩き込む。

宙で軽く息を切らすわたし。持ち前の魔力だけでなく、グリモワールからの魔力と女神としてのシェアエナジーまでもをつぎ込んだ怒涛の魔術連撃はわたしの予想以上に負担が大きく体力も結構消費しちゃったけど…手応えは確かにあった。床と氷魔法が破損し散った事で発生した煙霧によって魔龍の状態はよく分からないけど、これだけの攻撃を連続して喰らったのだから軽傷で済んでいる筈がない。流石にこれで決着…とまではいかないと思うけど、このダメージで魔龍の動きは確実に悪くなる筈……

 

「--------何カシタカ?雌ガキ」

「な……ッ!?」

 

煙霧を巻き上げ、一息でもって飛翔する魔龍。魔龍はまるでダメージを受けた様な様子もなく、わたしが驚愕から我に帰るよりもずっと前にわたしの目の前にまで接近する。

 

「落チロ、蚊トンボガッ!」

「ーーーーッ!か、はっ……」

 

振り抜かれる豪腕。全身に走る激痛。わたしの身体はゴムボールの様に跳ね飛ばされ、天井に、跳ね返った先の床に激突した。咄嗟にわたしは両腕を交差させたけど、この力の前では焼け石に水でしかなかった。

目の奥がチカチカする。口の中、鉄の味がする。肺の中の空気が全部無くなって苦しい。そして何よりも…痛い。もし女神化していなかったら即死していただろうと思う位痛い。

確かにわたしは全力で魔法を叩き込んだ。最大火力の魔法を使った訳じゃないけど、手加減なんて何もしていない。なのに魔龍の動きには何の変化も無かった。もし、これが実は魔龍があの状態から煙霧を巻き上げる事無く回避行動を取っていたのなら…そんな事はあり得ないけど…一応、そうだったのだと受け止める事が出来る。でももし、そうでないのなら…あの連撃ですらも、魔龍にとっては無視出来る程度でしか無かったとしたら……。

 

「コンナモノカ、拍子抜ケダナ」

「……っ…!」

「サッキ迄ノ威勢ハドウシタ…アァイヤ、威勢ダケノ小蝿ダッタトイウ事カ」

 

倒れたわたしの頬を風が撫で、次の瞬間わたしは魔龍に掴まれる。その腕は、その腕はまるで負の感情が龍の形を得たのではないかと思う程おぞましく、寒気のする様な感覚があった。

乱暴に掴まれ、魔龍の顔の前まで持ち上げられるわたし。チカチカする感覚が消え、視野が正常に戻ったわたしの前にあったのは、異様な程にギラギラと輝く魔龍の瞳。

 

「貴様等紛イ者ガソレ相応ノ力ヲ持ツナラトモカク、コンナ弱イ奴トハ不愉快デナラナイ…」

「知り…ませんよ、そんなの…」

「フン…一思イニ死ネルト思ウナヨ?ユックリト、ユックリト骨ヲ折リ、肉デ内臓を押シ潰シテヤル」

 

魔龍は下品な笑みを浮かべ、わたしを掴む手に力を込めてくる。最初こそただ掴まれてるのと大差無い力だったけど…段々と強く、苦しくなっていく。

わたしは何も出来なかった。力尽くでの脱出は到底無理だし、身体を指と手の平で包まれているから魔法攻撃をしようものならわたしにまでダメージが来てしまうし、先程の痛みのせいでわたしから離れた場所に一撃で脱出に繋げられるだけの威力を持った魔法を上手く編む事も出来ない。

 

「ぐ…ぁ……っ!」

「スグニ死ンデクレルナヨ?ソレデハ溜飲モ下ガラナイ」

「溜飲なんて…一人で勝手に下げてて下さい…!」

「ソウサセテモラウサ、一人デ貴様ヲ殺シテナ」

 

肺が圧迫され、再び呼吸が不安定になっていく。何となくだけど、骨が軋む音を上げている様な気もする。

正直、もう詰んでると思った。勿論諦めた訳ではないけど、無事脱出出来る手なんてもう無い。その上で、まだ出来る事があるとすれば…せめて、わたしが繋げられる事があるとすれば……

 

(…わたしの身体そのものを触媒に使えば、魔龍を完全に凍りつかせて殺す事だって不可能じゃない筈……)

 

わたしの身体自体を魔導具の代わりにして、魔力もシェアもそれだけに注ぎ込めば、グリモワール無しでも普段使うのとは比べ物にならないだけの超高位魔法だって扱える。そんな事をすればまずわたしの命なんて持たないけど…どちらにせよこのままいったら死ぬのは確実。なら、握り潰されて死ぬよりはわたしの命ごと魔力を葬り去る方がよっぽど良い。そうすればイリゼさんを守る事は出来るし、魔龍がこの迷宮から出て皆や罪の無い人達を襲う事も無くなる。……死ぬのは怖いけど、死ぬのは嫌だけど…それでも、やるしかないと思った。

 

(…ごめんね、ロムちゃん、ラムちゃん…わたし、帰れないかも……)

 

震えそうになるのを堪え、目を瞑る。わたしの身体の内側から爆発させる様に氷結させていけば魔龍に勘付かれる事はまず無いだろうし、この状況下でもミス無く発動させる事も出来る。…後は、術式を構築していくだけ。

そんな時だった。わたしを掴む力が弱くなったのは。

 

「……何ですか、今度は…」

「ツマランナ、命乞イノ一ツデモスレバ面白イ物ヲ…」

「誰が、命乞いなんて……」

「ソウカ…ナラ、貴様ニ生キルチャンスヲヤロウデハナイカ」

「え……?」

 

その言葉に、つい目を開け反応してしまう。魔龍に命乞いなんてするつもりは毛頭無いし、こいつが紳士(淑女?)的な提案をしてくる訳がない。…それでも、つい反応してしまった。

今までろくに面白みのない反応をしていたわたしがこんな様子を見せたのが愉快だったのか、魔龍は一層下衆な笑みを浮かべ、言う。文字通りの、悪魔の様な嗤い声と共に…こう告げた。

 

 

「ソノ氷壁ノ向コウノ女を殺セ。ソウスレバ貴様は見逃シテヤロウ。サァ…ドウスル、雌ガキ」

 

 

 

 

ディールちゃんと魔龍が、激戦を繰り広げている。体格と力で圧倒的に勝る魔龍に対し、ディールちゃんは身軽さと反射神経、そして頭脳で持って食らいついている。だけど、どちらが有利かと言われれば…それは、魔龍としか思えなかった。

 

「ごめん…ごめんねディールちゃん…私が、無力で……」

 

私は無意味と分かっていても氷壁を叩く。叩き、そのまま氷壁に当てたままの私の手はどんどん体温を奪われていくけど…それは気にならない。そんな事は、どうでもいい。

私は何も出来なかった。私には、ただ氷壁の向こうで戦うディールちゃんを見つめる事しか出来なかった。少しずつ劣勢となっていくディールちゃんに、何もしてあげられなかった。

そんな中、意表を突く事で隙を作ったディールちゃんは床を凍らせ、それによって転倒した魔龍に次々と魔法を撃ち込んでいく。

 

「……凄い…」

 

一発一発が十分な威力を持っている魔法を矢継ぎ早に叩き込むディールちゃんに、一瞬私は目を奪われる。今まで攻め手に欠けていたのが嘘だったのではないか、と思う程の魔法の連撃。だから私はその時思った。もしかしたら、ディールちゃんは勝てるのではないかと。

惜しくもその時、私もディールちゃんも揃って少しだけ油断、或いは楽観視していた。と、言ってもそもそも魔龍の限界値は私とディールちゃんの予想を大きく超えていたのだから仕方ないと言えば仕方ないけど……その結果、魔龍によってディールちゃんが跳ね飛ばされる光景を見た瞬間、私は後悔せずにはいられなかった。

 

「あ…あぁ……」

 

崩れ落ち、膝をつく。魔龍に掴まれ、苦悶の表情を浮かべているディールちゃんを見てなんていられないけど…私は目を離せない。

私はゲイムギョウ界の為、マジェコンヌの為、皆の為に女神化の力を手放した。だけどそれを間違っていたなんて思った事は無いし、私が守ったものは女神化の力を手放すのに見合うだけの…それだけで守れるのなら安いものだと思える程に尊いものだと思っている。だけど……私はこの時、後悔しそうになってしまった。私より幼い少女が私の為に戦ってくれて、しかもその子が辛い目にあって殺されそうになっているのに私はこうして見ている事しか出来ないこの状況に、力の無い私自身がかつてない程に嫌になった。

そして、魔龍は告げる。その恐ろしい提案を……最低最悪の魅力を持つ、その言葉を。

 

「ソノ氷壁ノ向コウノ女を殺セ。ソウスレバ貴様は見逃シテヤルゾ?サァ…ドウスル、雌ガキ」

 

ディールちゃんが私を殺せば、ディールちゃんは命を落とさず済む。確かに魔龍はそう言った。今まで氷壁に阻まれてよく聞こえなかった向こう側の声がよく聞こえたのは、魔龍が私にも聞こえる様に言ったからかもしれない。

それは愚かしい提案だった。ディールちゃんがそんな提案に乗る訳が無い。短い間だったけど、ディールちゃんと共に過ごした私にはそれがよく分かった。第一、ディールちゃんは正しく女神であり、そんな提案に乗る様な人がちゃんと女神をやっていける訳がないんだからはっきり言ってそんなの問うまでもない。

--------だけど、私には違う。私には…それが、ある種の希望にまで聞こえてしまった。

 

「……っ…そんなの、乗る訳--------」

「乗って、ディールちゃん……」

「……え…?」

「そいつの提案に乗って、ディールちゃん。…私を殺して、生き残って」

 

信じられないものを見る様な目をするディールちゃん。彼女を握る魔龍は一度驚いた様な顔をした後…心底気分良さげな嗤いを上げる。

後から思えば、この時私は少しおかしくなっていたと思う。だって、本来私は自分の命を犠牲に何かを助ける事は間違っていると思っているのだから。少なくとも、自分を大切にしてくれている人の為に死ぬのは、相手の気持ちを蔑ろにするのと同義だと思っている。なのに私がこう言ったのは……やっぱり、この状況に…ディールちゃんが殺されるのをただ見ている事しか出来ない事に私の心が耐えきれなくなっていたからだと思う。

 

「イリゼさん…何を、言って……」

「言葉通りの意味だよ、ディールちゃん」

「そういう事を言ってるんじゃ…ありません…!」

「大丈夫、私は恨んだりしないから。ディールちゃんが私を守ってくれるなら、私はディールちゃんを守ってあげる。…これを守る、とは言えないのかもしれないけどね」

 

自嘲気味に笑う私。実際こんなの守るじゃなくて、身代わりになるとしか言えない。でも、言葉の意味や綾なんてどうでも良い。それがどんな形であれ、ディールちゃんの命を助けられるのなら、瑣末事に過ぎない。

 

「美シイ友情劇ジャナイカ、乗ッタラドウダ?約束ハ守ッテヤルゾ?」

「冗談じゃない…イリゼさん、貴女はこいつの言葉が本当だと思っているんですか…!?」

「どうかな…でも、このままだとディールちゃんは確実に死ぬ。だったら、こんなの考えるまでもないよ」

「イリゼ、さん……分かりました」

 

氷壁を隔て、視線を交わらせる私とディールちゃん。そして彼女はこくんと頷いてくれた。そして……

 

「……お断りです。誰がそんな提案に乗るもんか…この、トカゲが…ッ!」

「……ーーッ!?」

「…イイダロウ、死ネ雌ガキガッ!」

 

離れた私の目からも分かる位、あからさまに力を込める魔龍。

意味が分からない。何故なのか。断るなら、一体何が分かったと言うのか。ただただ私は動揺し、ディールちゃんの状況も気にせず聞こうとして……絶句する。

 

「…ごめんなさい、イリゼさん……でも…わたしは、貴女と出会えて良かったです…」

 

ディールちゃんは笑っていた。死にそうなのに、殺されそうなのに、それでも笑っていた。私に、笑顔を見せてくれていた。

嗚呼、そうか。ディールちゃんに私の思いが伝わらなかったのではなく、私の思いを受け取った上で、それでも私を助けようとしているのだ。私に少しでも罪悪感を感じさせない為に、笑顔を向けてくれているのだ。そして、それが分かった瞬間……私の中で、何かが吹っ切れた。

もう一人の私は言っていた。私はまだ女神だと。もしも、それが女神の在り方とか比喩的な意味じゃなく、本当にそうならば。…いや、間違いなくそうだ。もしそうでなくとも、そうでないならそうすれば良い。女神に…シェアに不可能なんてないんだから、女神化出来ないという今を『変えれば』いい。だって、決めたじゃないか。ディールちゃんを守るって。私の居場所に、ちゃんと帰るって。なら、その邪魔になる事柄なんて、それを不可能にする要因なんて--------全て、覆してやる!

そう思ったその時、私の内側から…そして、持ったままだった白の本からいつかの様な力を、力が解き放たれる様な感覚を感じた。

 

 

 

 

一瞬、何が起こったのか分からなかった。痛みで意識を失いそうになり、でも痛みによって無理矢理意識を戻されてという拷問にも近い状況に、頭が働かなくなりそうになったその時、後ろから氷の割れる音が聞こえ、私を握る魔龍の力が弱く…と、いうか魔龍の腕がわたしから離れた。

ふらつきながらも着地し、ゆっくりと顔を上げるわたし。そこには……女神が、居た。

 

「え…貴女、は……」

「……私も出会えて良かったと思ってるよ、ディールちゃん」

「……っ!…まさか…イリゼさん、ですか…?」

 

一つ瞬きした後、後ろを見る。そこには破砕され、穴の開いた氷壁の姿。……よ、余計意味が分からない…だって……

 

「女神化、出来なかった筈じゃ……」

「ディールちゃんを…大事な友達を守りたいって、二人でそれぞれの居場所に帰りたいって思ったら女神化出来た、って言ったら信じてくれる?」

「そ…そんな簡単なものじゃないでしょう、女神の力は…」

「だよね…正直私もよく分からないんだ。でも…これで、一緒に戦えるよ」

 

少々特殊な形状の長剣を魔龍に向けるイリゼさん。その先にいる魔龍の片手に刃で斬られた後を見つけた私は、そこでやっと何が起きて今に至るのかを理解した。

本当に、この人は無茶苦茶だ。これでは、わたしの決意も覚悟も無駄じゃないか。…まぁ、それがトリガーになった様な口ぶりだし、そもそもわたしとしてはこういう形で無駄になってくれるのはむしろありがたいけど。

と、そこでわたしは自分の口元が少し緩んでいるのを感じた。確証がある訳ではない。まだまだ不安要素もある。けど……イリゼさんとであれば、二人でならばきっと勝てるとその時わたしは思った。二人共、同時にそう思っていた。

 

「さぁ…ここから先は私の戦闘だよ」

「いいえイリゼさん、わたし達の戦闘です」

「ふふっ、そうだったね。…じゃあ……」

 

 

 

 

「--------やろうか、ディールちゃん」

「えぇ、やりましょうかイリゼさん」




今回のパロディ解説

・「落チロ、蚊トンボガッ!」
機動戦士ガンダムZに登場する敵メインキャラ、パプテマス・シロッコの名台詞の一つ。魔龍の元となったキャラからすれば、ディールは結構小さい相手なのです。

・「〜〜ここから先は私の戦闘だよ」「いいえイリゼさん、わたし達の戦闘です」
ストライク・ザ・ブラッド主人公、暁古城とヒロインの一人である姫柊雪菜の代名詞とも言える台詞のパロディ。このネタ、OAの時からやってみたかったんですよね。
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