超次元ゲイムネプテューヌ Origins Interlude 作:シモツキ
左右から殆ど同時に襲いかかってくる二体のモンスター。右の個体は片手持ちのバスタードソードで斬りつける事で下がらせ、左の個体は振るった勢いを利用した蹴りで跳ね飛ばす。
そこで更に私へと飛びかかってくる個体が一つ。完全に攻撃モーションが終わっていた事もあり私は迎撃を諦め、軸足から力を抜く事で尻餅をついて攻撃を空振りさせる。
「全く…タイミング悪いったらありゃしないよ…!」
その場で跳ね起き、バスタードソードを持ち直しながら素早く周囲に目を走らせる。
そこにいるのは多数のモンスター。私が立て直している間に一度緩んだ包囲陣形を組み直し、再び私を囲っている。
そのまま睨み合うこと数秒。先程と同じ様にモンスターが私へと襲いかかり、私は極力隙を作らない様にしつつモンスターを迎撃する。
(このままだと、一体倒すのにも時間かかりそうか…)
色々と特異性はあるものの、モンスターも生物である以上群れを作るし縄張りも作る。そして、何らかの理由で群れが他の群れの縄張りを侵す事があれば、群れ同士の戦闘となる。……そんな中に不運にも遭遇してしまったのが、今の私だった。
始め群れ同士で争っていたモンスターは、今や私という共通の敵を得た事で協力体制になっている。私はモンスターと争う気なんて微塵も無かったのに、勝手に敵(しかも一番厄介な相手)扱いして休戦するなんて酷い話である。くそう。
「尻尾巻いて立ち去るんで見逃してくれませんかねッ!」
次々と襲いかかるモンスターを押し返し、僅かな余裕を使って意思疎通を図ってみる…けどやっぱり意味は無し。幸い群れ間では仲良くするつもりはないのか群れ同士の連携はないけど…どちらの群れもまぁまぁ知性があるせいで中々切り崩せない。かといってこのまま防戦をしていたとしてもこちらの体力や集中力が尽きる前に勝てる見込みは薄い。となると……
「多少の怪我は覚悟するしかないかな…」
軽く深呼吸をし、足に力を込める。正直今私は防戦一方の手詰まり状態だったけど…それは出来るだけ被害を抑えて勝とうとしていたから。もしある程度の切り傷や打撲、或いはそれ以上の怪我をする事も厭わなかったとしたら……所詮は休戦状態に入っただけの、そこまで大規模でもないモンスターの群れ二つに遅れをとる筈がない。驕りでも楽観でもなく、守護者たる女神はその程度で負けたり死んだりはしないのだから。
「さって、ここからは全力で--------」
地を蹴り、正面のモンスターへと突撃しようとする私。その時……
「退いた退いたぁッ!」
「横槍させてもらう…!」
--------私の前に、二人の男性が現れた。
片方は手にした剣でもってモンスターを斬りつけ、もう片方は大きな盾をモンスターに向けて圧をかける。
突然の新手に、動揺を見せるモンスター。思いもしなかった事が起きれば動揺してしまうのは当然の話。そしてそれは、モンスターだけに限った話ではない。例えば……私とか。
「え、あ…貴方達は……!?」
「お久しぶりです、イリゼ様」
「へ?し、知り合い…?」
「あー、やっぱ覚えてないっすか。まぁそれもそうですよね」
私の前へと守る様に立つ二人の男性。二人の口ぶりからして私と彼等とは面識がある様だけど…私は彼等が誰なのか全然分からない。少なくとも、仲の良い人物やそれなりに交流のある人物では無い。……え、まさか道ですれ違っただけとかじゃないよね…?
「ま、とにかく今はこの場を切り抜けましょう」
「話なら、後で出来ます…」
「切り抜けましょうって…いやあの、私理解が……」
「大丈夫です、俺達はイリゼ様の援護に徹しますから。イリゼ様は、自由に戦って下さい」
「……分かりました、いきますッ!」
幾ら何でももう少し説明を…と思って二人に目をやった私。でも、二人から帰ってきた視線を見て私は落ち着きを取り戻す。
二人の瞳は、戦いを知っている者の目をしていた。どれたけの実力を持つかまでは分からないけど…その目を、私にとっては戦場で見慣れた目を見て、私の意識は自然と戦闘時のそれへと戻った。そう、戦いにおいては『それはそれとして』という思考が出来なきゃ戦闘に着いていく事なんて出来ない。
「はぁぁッ!」
走りながら私はバスタードソードを両手持ちに切り替え、先程突撃するつもりだったモンスターを一刀両断。その後すぐ後ろに跳ぶ事で私に遅れて落ち着きを取り戻したモンスターの追撃を回避する。
数体まとめて反撃をかけてくるモンスター。狙うのは私の着地地点。でもそこに大盾持ちの男性が割って入り、剣持ちの男性は逆の手の子盾で横からモンスターを殴りつける。
「こんな感じで、どうでしょう…?」
「邪魔にはならんでしょう?」
「えぇ、十分です!」
モンスターの攻撃意思から二人に移った頃には私がもうモンスターの側面、子盾持ちの男性の逆側に移動していた。
急所を狙った素早い連続攻撃で私へ反撃を仕掛けてきたモンスターを全て斬り伏せ、その流れのまま次のモンスターへと狙いを定める。
二人の動きはとてもパーティーメンバーには及ばないし、連携も阿吽の呼吸とかのレベルではない。でも、一般人より強いのは動きですぐ分かったし…その動きは私を信用しきっていると言っても過言じゃない位だった。これならば……一気に切り崩せる!
そして……
「これで、後一体!」
「イリゼ様ぁ、トリは任せますぜ!」
「え、私?位置的にお二人の方が…」
「美味しいところは我々には勿体ないですから…!」
「別にショーでもゲームでもないのに!?え、ええぃ!」
そういう二人の目はマジだった。これはグダグダ言うより二人の言う『トリ』を引き受けた方が早いなと判断した私は近くにあった木を使って三角飛びを行い、斜め上から最後のモンスターに強襲。モンスターは両腕を広げ、爪で迎え撃とうとしたけど…二人の男性が腕を弾いた事で反撃体勢は取れず、無防備な腹部を晒してしまう。
深々と突き刺さるバスタードソード。それを私が引き抜く頃には、モンスターの身体は大部分が消滅していた。
「ふぅ…お疲れ様です、お二人共」
「いえいえ俺等はちょっとお手伝いをさせてもらっただけですから」
「むしろ余計な事をしていないか心配です」
「い、いや普通に助かりましたけど…ところで貴方達は?」
いやに謙虚な二人組に首を傾げつつも、当初からの疑問だった二人の正体について問いかける私。すると二人は武器をしまい、恭しい様子をとり始める。
「名を名乗る程の者ではありません。強いて言うなら、貴女様と一度お会いしただけの者です」
「それも長時間でなく、更に言えば貴女様にとっては気分の良いものではなかったのですから、思い出せないのも無理はありません」
「は、はぁ…でも確かに言われて見ると、どこかで見た事ある気もします…」
「…いつどこでなのか、言いましょうか?」
「ま、待って下さい、後ちょっとで思い出せそうな感じなんです…えっと……あ…?」
こちらが窮屈に感じる位の堅苦しさで話している二人は、よく見てみたら記憶の隅辺りに見覚えがある様な気がした。記憶の引き出しの中でも殆ど触れられない(埃を被ってるイメージ)部分を片っ端から開きまくって思い出そうとした私は、ついに二人が誰だったのかを思い出す。
そう、この二人…こいつ等は……
「…よくもまぁ私の前に姿を現せたものですね」
リーンボックスで私が拘束された時、私を犯……乱暴しようとした人達だ。彼等が一体どういう意図で…いや、どうもこうも、あんな事欲望以外でする訳がない。今までは思い出したくもない事だったから忘れていたけど…忘れていたからといって、許す筈がない。
「…まぁ、そういう反応しますよね」
「そうに決まってるよな。じゃ、やるか」
「おうよ、せーのっ!」
ギロリと私が睨むと、二人は頭を掻き……
『申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
その場で土下座をした。ぴょんと軽く飛んで空中で姿勢をとり、そのまま着地するという荒技、俗にいうジャンピング土下座だった。しかも、ここは野外で下は地面。
激怒とは別の…冷ややかな怒りを燃やしていた私。私はそれを、ジャンピング土下座を冷たい瞳で見て……
「え、ちょっ…えぇぇっ!?」
ビビった。そ、そりゃそうだよ!こんなの非常識かつトンデモ過ぎるよ!?土下座って辺り謝罪したいんだろうけど…だからってこんな事する!?
『我々は愚かでしたぁぁぁぁぁぁっ!!』
「わぁぁ!?ひ、人目ないとは言えここ外ですよ!?本気ですか!?」
『本気も何も、この場で斬り殺されても構わないという所存です!』
「覚悟決め過ぎてる!?あぁもう!分かりました、分かりましたから!許しますから頭上げて下さい!」
ジャンピング土下座だけに留まらず、ごりごりと地面に頭を擦り付け始めた二人を見た私は慌ててつい許すと言ってしまう。女神すらテンパらせる二人の勢い、恐ろしい…。
「あ、ありがたきお言葉…!やはり貴女は女神様!」
「そ、そう女神です…あの、だから頭を…」
「付け入る様で申し訳ないのですが、もう一つ宜しいでしょうか…?」
「もう一つ…?」
「我々に、貴女の親衛隊を作らせて下さい!」
「親衛隊!?」
「我々はあの後、貴女の事を考え噂を聞く内に、気付いたのです」
「俺等にとっての真の女神様、真の信仰対象は他でもない貴女なのだと!」
思いもしなかったお願いに私は声が裏返ってしまった。声音や雰囲気から察するに、この親衛隊というのが王族や指導者の直掩を行う部隊とかじゃなくてファンクラブ的なものを指してるんだろうけど…ほんとに、徹頭徹尾なんなんだろうこの人達は。
でも、私は反射的にそれを嫌がったり恥ずかしがったりはせず、ちょっとだけ…でもしっかり考えて、こう返した。
「……公序良俗に反しちゃ駄目ですからね?」
私の言葉を聞いた二人(子盾の方がリーダー、大盾の方が副リーダーをやるらしい)はがばっと顔を上げ、物凄く嬉しそうな様子を見せる。それを見て苦笑をする私。
聞いた直後は驚きが先行していたけど、実のところ二人の言葉は内心嬉しくもあった。だって、私は女神だからね。複製体でも、統治の役目を持つ国がなかったとしても、それでも信仰されるのは……嬉しいに決まってるじゃん。
俺等の活動はこれからだとか、イリゼ様の魅力を布教せねばなとか言いながら去っていく二人。こうして、なんだかぶっ飛んだ流れではあるけど…女神(っていうか私)様公認の、イリゼ様(だから私)親衛隊が発足したのだった。……これはまた、大変な関係出来ちゃったなぁ…ふふっ。
*
穏やかな気候の昼下がり。遠くに鳥の鳴き声が聞こえる教会の執務室…なんともまあ、眠くなってしまいそうな環境ですわね。ずっと前から執務室はここですから何を今更、って感じなのですけど。
それよりもいつぶりのわたくし視点かしら。不幸にもわたくしには妹がおらず監査の展開的にも後の方になったせいでえらい長く待たされた気がしますわ。…っと、少々メタが過ぎますわね、特に後者はメタでもまだネタに出さない方が良さそうですわ。
「お姉様、お客様ですわ」
とんとん、というノックと共に職員…言わずもがな、チカの声が聞こえてくる。今日は来客予定が公私共になかった筈で、その事に一瞬疑問を抱きましたけれど…わたくしはすぐに通す様返答する。予定があろうがなかろうがお客がいる以上対応しないのは失礼ですし、少々眠くなってたところには丁度良い眠気覚ましですもの。
……が、どういう事かその来客は入ってこない。
「……何かあったのかしら…」
入っていいか訊いてから入っていいと答えるまでの僅かな時間で何かあったのか…いいやそれはない。あったとしたら、それはもう推理物の犯行シーンですわ。
それはともかく、そこはかとなく何か音が聞こえるだけでアクションの無い来客に、さてどうしたものかとわたくしが思考を巡らせ始めると……そこで、扉は開かれた。
*
「綺羅星十字団第7隊、神生オデッセフィア代表、オリジンハート!ふっ…この姿を見せた以上、わざわざ必要以上に語る事もないだろう。故に、私が口にするのはただ一言……綺羅星ッ!」
ピエロの様な衣装に身を包み、これまた奇抜な仮面を付けてベールの居る執務室に姿を現した私。国を回るごとに凝った作りになりつつあるこのネタも、三度目にして遂に本格的なコスプレ状態に至った。この格好と、結構不真面目気味なベールなら、先の二人の様な結果にはならない筈……
「綺羅星ッ!」
「綺羅ぼ……えぇ!?まさかの挨拶成立!?ベール綺羅星十字団の一員だったの!?」
「ふふっ、第6隊の代表に思うところはなくて?」
「確かに!確かにちょっと彷彿とさせる!けど違うよね!?」
「えぇ違いますわ、貴女が違う様にわたくしも」
面白そうに笑みを浮かべるベールを見て、私はこちらから仕掛けた筈が逆に上手く乗せられてしまった事に気付く。むむぅ、悔しい……。
「しかしまさかそれ着てここまで…あ、いや、廊下で着替えたから時間がかかりましたのね」
「そういう事。これ服の上から被ってるからちょっと暑いんだよね…」
なんて言いながら仮面を外し、衣装を脱ぐ。我ながら中々にしょうもない事をしてる気がするけど…止める気はない。というか、次はどうするかまでもう考え始めてる。
「…それで、何の御用ですの?ネトゲやBL指南かしら」
「私は腐ってないし廃人へ向かう気もないよ…」
「まぁまぁそう言わず、これを読んでみて下さいまし。濡れ場のないライトなものですから、初BLにはもってこいですのよ?」
「だから違うって…」
「まぁまぁそう言わず」
「そんなに読ませたい…ってか布教したいの?」
「まぁまぁそう言わず」
「えーと…あの、ベールさん?NPCみたいになってますよ?」
「まぁまぁそう言わず」
「……お、お仕事で来てるからそれ終わってからでいい?」
「勿論。何なら貸し出しでもいいですわ」
なんと、私はベールに勧められたBL本を読む事になってしまった!……笑顔のまま変わらない表情と声音、そしてずっと同じ台詞言われたら断りきれないよ…ベール押し売りスキル高いんじゃ…。
「はぁ…じゃあお仕事始めるよ、ベールそこから離れて部屋内の物に触らない様にして」
「…と、いう事はイリゼの目的は監査ですのね」
「そう、邪魔しないでよ?」
「そんな自分と国の首を絞める様な事は致しませんわ」
相変わらず飄々と、でも雑談をしてる時は少し違う雰囲気で執務室の椅子から離れるベール。ベールが立つ際に何かを隠したり持ったりしてないかを確認した後、私は監査を開始する。
別に汚いと思っていた訳じゃないけど…想像よりも綺麗に纏められたデスクと、同じく想像よりもきちんとこなされている書類。ここだけ見ると守護女神一真面目なノワール程じゃないにしても、ブランとはいい勝負に思える。けど……
「…あのさベール、私はデスクの中について指導する様な立場じゃないし、ちょっとしたお菓子や暇潰し用の物が入ってたりするのは悪くないと思うよ?でもさ……ベールのデスクは趣味関連のもの多過ぎない!?」
まだ監査を始めて数分だというのに見つかる複数のBL本やゲームの攻略本。そして仕事用のディスクケースと思われる物に紛れ込んでいるアニメのブルーレイと、執務用の机としては些か以上に余計な物が入っていてつい突っ込みを入れてしまう私。それを聞いたベールは、自分なりに自覚があったのかちょっと恥ずかしそうに頬をかく。
「その…わたくしも仕事中は真面目にやろうと考えているんですのよ?でもつい魔がさすというか、欲求に負けてしまうというか…」
「気持ちは分かるけど、せめてここに入れるのは止めようよ…」
「返す言葉もありませんわ……これではネプテューヌと同レベルかしら…」
「あ、いやそれは無いよ。ネプテューヌの執務机なんて玩具箱の中に書類が間違って入っちゃったとかの域だから」
「べ、別格ですわねネプテューヌは…」
半ば唖然としてるベールに私は乾いた笑いを返す。いや、実際笑い事じゃないんだけどさ…。
「だからまだ執務机として成り立ってるベールはマシな方…じゃ、次は棚を見させてもらうよ」
暫くデスクを調べた後、続いて執務机の棚を調べ始める。こちらはデスクの椅子から手の届く範囲にないからか趣味関連のものは殆どなく、割と落ち着いて見る事が出来た。
複数ある棚の、最後の一つを途中まで調べた私。そこでそれまで妙に感じていた事が偶然とかではなく明らかなものだと確信し、一旦調べるのを止めてベールに向き直る。
「…ベール、一つ質問いい?」
「何かおかしな点がありまして?」
「おかしい、って訳じゃ無いけど…ここの棚、やけにモンスターや生物関連の資料が多いね。そういう棚…というだけじゃないよね、これって」
女神個人としても、国防の観点からしてもモンスターとは戦う事になる訳だからその資料があるのはおかしくない。でも、他国と比べてここは量が妙だった。モンスターの被害件数が四ヶ国でトップ…という訳でもないのだから、尚更違和感を抱いてしまう。
明確な不正や危険を感じる訳じゃないけど、私の裁量に任されている以上適当で終わらせる訳にはいかない。ベールも私の意思を感じとったのか、それまでの柔和な表情から真面目な表情に変化する。
「…そうですわね。早かれ遅かれ公表する事ですし、隠蔽していたと判断されるのはあまり宜しくない事……素直に教えた方が今後の為になりそうですわね」
「…って事は、これにはちゃんと理由があるんだね?」
「その通りですわ。…着いてきて下さいまし、イリゼ」
そう言って、ベールは私を部屋の外へと誘導してくる。部屋を出つつ職員に執務室への出入りを禁止する旨の連絡をするベールの様子を見ながら私は考える。こうして自ら連絡するという事は恐らくすぐに行って帰ってこれる場所ではないという事。一体どこに連れてくつもりだろう…。
「…予め言っておきますけど、驚いて抜剣したりはしないでほしいんですの」
「…ヤバい事でもしてるの?」
「考え様によってはそうかもしれませんわね」
「……そ、なら自制心を効かせる様にするよ」
「助かりますわ」
教会の廊下を抜け、外へと出る。そのまま私達は数分程歩き、教会の敷地の外れの園芸用器具庫っぽい所の鍵を開けて入る。中は一見ほんとにただの器具庫っぽかったけど…
「さ、こちらですわ」
壁の一角をベールが触ると、床の中央部がスライドして隠し階段が現れた。わ、ちょっとスパイ物っぽい!
「しょっちゅう戦いやら敵地への突入やらするわたくし達にとっては、少々燃えるでしょう?」
「うん、少しテンション上がったかも」
お互い女の子なのにね、と苦笑しつつ隠し階段を降りていく私達。執務室から出て少し経っていた事と直前の隠し階段とで少し気の抜けていた私は呑気に「何があるのかなぁ…」なんて思っていた。
そんな思いで降りきった階段。そして、その先…地下室に広がっていたのは……
--------モンスターの、飼育場だった。
「……ーーッ!?」
「間違ってもモンスターに剣を向けないで下さいまし。それとも…今は、モンスターよりわたくしに向けたく思っていまして?」
ベールは両手を軽く上げて抵抗しない事を示していた。私はそれを見て、まず大きく一つ深呼吸。深呼吸して瞬間的に沸いた感情と思考を理性で押し留め、言う。
「…ここがどういう場所で…どういう理由でここにモンスターがいるのか、教えてもらえるかな?」
まず私は…いや、多くの人はこう考えると思う。モンスターは自然発生したものではなく、リーンボックスの策略によって生み出されたものだと。…でも、ベールは、リーンボックスの人達はこんな事をする筈がない。だから私は訊いた。ベールの真意を知る為に。
「…モンスターは人や動物を襲う、正体不明の生命体。…否、生命体と呼べるかどうかも分からない存在。女神を含め、世の多くの人はそう思ってるでしょう?」
「…そうだね、私もそう思ってる」
「……でも、本当にそうなのかしら。存在についてはともかく、他の生物を襲うという点については野生の肉食獣も同じですわ」
「……それは、つまり?」
「…逆に言えば、モンスターも飼い慣らす事は可能なのでは…わたくしやこの件に関わってる人間はそう思っているんですの。…上にも人を置いておかなければ駄目ですわよ?」
ベールはここでモンスターの様子を見ている人達にそう言うと、檻の一つを開けて中に入る。
そこに居るのは狼の様な、暗色系のモンスター。この類いのモンスターは狡猾で他の生物を襲う事が多い筈だけど…目の前にいるモンスターは、そんな様子もなく中に入ったベールを見ると嬉しそうにすり寄ってきた。
「がうがうー」
「元気そうですわね、寂しかったんですの?」
「がう〜」
ベールに撫でられ、気分の良さそうに鳴くモンスター。それはまるで、モンスターというよりも大型犬といった感じだった。
「…これをどう思いまして?」
「…驚いたよ。まさかほんとに手懐けてるなんて…」
「始めは偶然でしたの。偶然人に敵対しようとしないモンスターを見つけて、そこからこの研究が始まりましたわ」
そうしてベールは説明してくれた。手探りで進める事だけに、中々研究は進まなかった事。事が事だけに人員管理も大変だった事。混乱を防ぐ為、一定の成果が出るまで極秘にしようとしていた事。
「…とても、楽ではありませんでしたわ。殆どのモンスターは手懐けられそうにもありませんでしたし、多少可能性があってもモンスターはモンスター。何度も大怪我をするところでしたし…この子や他のかなり友好的になったモンスターも半ば偶然の様なもので、まだ手懐けられる原理も手順も分かってない部分が多いんですもの。はぁ、スカウトリング辺りが欲しいものですわ」
モンスターから手を離し、こちらを向いたベールは気苦労を感じられる表情をしていた。
だから、私はもう一つ問う。根本的な事を…一番大事な事を。
「…どうして、こんな事をしようと思ったの?聞く限りあまりにもハイリスクだよ。だったら、それより対モンスター政策を進めた方が無難だもん」
「そう、でしょうね。でも、もしモンスターと仲良くとまで言わずとも、積極的に人を襲う様な事が無くなったとしたら…それは凄く良い事だと思いませんの?」
「それはその通りだね。…だけど、理想論でもあるんじゃないかな」
「理想論だからこそですわ。わたくし達女神は奇跡の体現者。国の長でもありますけど、奇跡を身体で知る存在でもあるんですわ。ならば、わたくし達は諦めちゃいけないと思うんですの。女神だからこそ、誰よりも理想を追い求めるべき…わたくしはそう思ってますし、その為ならば危険も困難も受け入れますわ。…イリゼは、どう思いまして?」
ベールは、いつの間にか最初の柔和な表情へと戻っていた。彼女の言った通り、これは物凄く大変な事で…でも、それを経験した上でこれを、理想を追い求めるているんだと思う。それを私は、素直に凄いと思った。だから……
「…そういえば、ルウィーで凍えてるスライヌを見たんだ」
「…スライヌ、ですの?」
「その子はね、カイロ貼って暫くしたら動ける様になって、その後逃げちゃったんだけどその時私に頭下げてくれたんだよね」
「それって……」
「その時の事、もっと詳しく話してもいいかな?…私も、ベールの理想に協力させてくれない、かな?」
世の中、理想だけを見て生きていけたりなんてしない。だけど…理想を捨てないのは、理想をいつか現実にしたいと思うのは、ただ現実を見ているだけよりもずっと大切な事なんだよね、きっと。
こうして、モンスター飼育場の監査は終わったのだった。
あ、そういえばこの日の夜、こんな会話したんだ。
「イリゼ、攻めの対義語は何でして?」
「え、守りでしょ?」
「では、真に攻めの逆と呼べるものといえば?」
「……受けだよね?」
今回のパロディ解説
・「綺羅星十字団〜〜」
STAR DRIVER〜輝きのタクト〜に登場する敵組織及びその掛け声のパロディ。そういえばこれのゲーム主人公も最初から記憶がないタイプの記憶喪失でしたね。
・第6隊の代表
上記と同様の作品に登場する、プロフェッサー・グリーンことオカモト・ミドリの事。何となく彷彿とさせるという意味では、第4隊の代表でもいいかもしれません。
・スカウトリング
ドラゴンクエストモンスターズ ジョーカーシリーズに登場するアイテムの事。本作の場合、モンスターよりも女神自身がスカウトアタックした方が強いかもしれません。