超次元ゲイムネプテューヌ Origins Interlude   作:シモツキ

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第三十六話 結ばれた手

モンスターとの共存。言い換えればそれは害獣との共存で、人に仇なす存在との共存。モンスターを根絶するのではなく、互いの生活圏を隔絶するのでもなく、同じ世界で共に生きる……そんな荒唐無稽な目標をわたくしが掲げ、研究を進めているのは何故か。排除よりも共存の道を歩む方が人々の安全に繋がる…というのはある。モンスターと心を通わせる事が出来れば、国の防衛においてその力を借りる事が出来るかもしれない…というのもある。或いは、わたくし達女神とモンスターが近しい存在である事がそういう気持ちにさせた…というのもあるかもしれない。けれどやはり一番の理由は、可能性を感じたから…これまで何度か見た敵意無いモンスターの姿に、普通ならば最もあり得ない存在ですらそれを見せてくれた事に、不可能ではないのかもしれないとわたくしの心が動いたから……

 

「……っと、手を止めてしまいましたわね」

 

すぐ近くで顔を覗き込む双眸の光に、意識を引き戻されるわたくし。イーシャから四人が今の姿形となった理由を伝えられた日の翌日。わたくしは教会の敷地内の一角にある、モンスターの地下飼育場へと足を運んでいた。

 

「ぐるるぅ?」

「何でもありませんわ。さ、ご飯の時間ですわよ」

「ぐるがぁっ♪」

 

現在わたくしが対面しているのは、ここにいる中で最も大きく、ゲイムギョウ界全体から見てもトップクラスの強さを誇るモンスター。本来なら一度暴れ出せば都市すら壊滅させてしまうかもしれない程の、強大なモンスターなのですけど……わたくしの目の前にいるこの子は、餌を見せた途端にぐるるとご機嫌そうに喉を鳴らして、曇りのない瞳を輝かせていますの。…えぇ、はっきり言ってペット感が凄いですわ。見た目とサイズはさておきですけど。

 

「そんなに焦らなくても、誰も取ったりはしませんわよ」

「ぐるぅ!がるがるっ!」

「聞く気ゼロですのね…まぁ、食欲旺盛なのは良い事ですわ」

 

餌である巨大な肉を正面に置くと、早速この子はがっつき頬張る。この子の前にも何体かのモンスターに餌をあげましたけど…やはりその子達とは勢いが段違いですわね。…不用意に手を出したりなどすれば齧られてしまいそうですけど……nintendogsシリーズで腕を鍛えたわたくしならば、モンスターのお世話もお手の物ですわ。……多分。

 

「…本当は、放し飼いとまでは言わずとも外の空気を好きに感じられる場所で生活させてあげたいのですけどね……」

「……がる?」

「…もう暫くは、偶に外に出してあげるのが限界だと思いますわ。ですがいつかはもっと暮らし易い環境を作って差し上げますから、それまで待ってて下さいまし」

「ぐー……がうっ!」

「ふふっ、良いお返事ですわ」

 

ここにいるモンスター達が、どこまでわたくしの言葉を理解しているのかは分からない。投げかけた言葉も、本気で返答をしてほしくて言った訳ではない。けれどそれでも、この子はわたくしに期待してくれているような鳴き声を上げてくれた。見回してみれば、他の子もそれぞれきちんとわたくしの話を聞いていてくれたような顔をしている。恐らくこれにはわたくしの想望が混じっていて、実際のところは全く違う事を考えているのかもしれませんけど…そもそもこれは、わたくしの都合…つまりはエゴで行っている事。ですから協力的であろうとなかろうと、大義を外部に求めずわたくし自身で責任を持つ事が大切ですわよね。

 

「さて、真面目な事はこの位にしておきましょうか。折角来たのですし、今日はわたくしが健康診断を……」

 

気持ちを切り替えたわたくしは、怪我や病気を患っていないか確認をしようと一歩前へ。すると丁度そのタイミングで、わたくしの業務用携帯が音を立てる。

 

「どうかしまして?」

「グリーンハート様、ギルドの支部長殿がいらっしゃいました」

「あぁ、もうそんな時間でしたのね。ではわたくしの部屋に案内して下さいまし」

「畏まりました」

 

液晶に写っていた名前通り、電話の相手はイヴォワール。朝一番で連絡を取ったエスーシャが到着した事を知ったわたくしは指示を出し、続いてまた今度とモンスターに挨拶をかけつつ飼育場を後にする。

 

(…にしても、今日はいつもよりセンチメンタルになってしまいましたわね)

 

教会内の自室へ向かう途中、ふと考える。普段ならば気を楽にして接するモンスター達相手に、このような心境となったのは……十中八九昨日の件があり、今日の件があるが為。気が重くはならないものの……その事を考えると、引き締まる感覚はある。

 

(…とはいえ、もう決心はついているというもの。研究も、協力もわたくしの責任の下行う行為…気が引き締まる位が丁度いいのですわ)

 

重過ぎる責任は心身を縛る枷になる、万人にとってのデッドウェイト。けれど人によるものの、適度な責任はやる気や向上心に繋がる効果もあって、今はその適度な責任が心地よい。胸と同じで、重みを感じるというのも悪くない……そういう事ですわ。

 

 

 

 

「お待たせ致しましたわね、エスーシャ」

 

自室に入ると、エスーシャは協力の話を持ちかけられた日と同じ場所へ腰を下ろしていた。ヌマンさんとレディさんは今日来ていない様子。

 

「気にするな、然程待ってはいない」

「あら、それは所謂『大丈夫、私も今来たところだから』的台詞でして?」

「そんな下手な台詞を君に言うとでも?」

「まぁ、そうですわよね」

 

テーブルに置かれているのは前回同様紅茶とお茶菓子。これはイヴォワールかチカが用意したのでしょうね。

 

「して、要件はなんだ。朝方に連絡を取る程の重要な案件なのか?」

「えぇ。……エスーシャ、わたくしは今日協力の件の答えを伝えようと思っていますわ」

 

そう告げた瞬間、エスーシャの眉がぴくりと動く。けれど普通の人であれば訊き返すなり答えを焦るなりするところを、それだけの反応で済ませるというのは、流石はエスーシャと言ったところ。

 

「…わざわざここへ呼んだという事は、答えを伝えてお終い…という訳ではないんだな」

「その通りですわ。回答を出す前に、きちんと問い質しておくべき事、聞いておきたい事がありますもの」

「そうか…ならば答えよう。わたしに答えられる事ならば、如何なる質問でも」

 

真面目そのものの顔でエスーシャがそう言うと、その様はまるでRPGの貴族や王(魔王含む)のよう。…いやまぁ実際RPG原作でわたくしもエスーシャもRPG世界の住人なんですから、当然と言えば当然なのですけど…って、そういう話ではありませんわね。

 

「それではまず、どのようにして研究の事を嗅ぎ付けたのか教えて下さるかしら?」

「その事か…別に何かした訳じゃない。知る事が出来たのは、完全なる偶然…それこそ、天が味方したとしか言えない程の、偶然の産物さ」

「偶然?…偶然で知られてしまう程、緩い体制は作っていませんわよ?」

「人間誰しも想定外の抜かりはあるものさ。…ベール、君はあるモンスター相手に研究をしてみたいという旨の話をした事があるだろう?」

「それは、ありますけど……」

 

何故それを知っているのかはともかくとして、確かにそれはした事がある、と認めるわたくし。クエストの目的地とされる事も少ないある樹海にて偶然出会った、敵意のないモンスターに対してわたくしはその話をしていた。あの時は、半ば独り言の気分で言っていただけでしたけど……。

 

「…それを、偶然耳にした訳だ。わたしではなくヌマンとレディが、だが」

「そんな、馬鹿な…わたくしはあの時、場所が場所という事もあって周りに気を配っていましたのよ?しかもあの時は女神化していたんですのよ?その状況でわたくしに気付かれず聞くなど……」

「二人の身体が、人のものではないとしても?」

「……!…そういう事、でしたのね……」

 

わたくしの疑問を制するように発された、エスーシャの一言。その一言でわたくしは理解した。

あの時わたくしがいた樹海は、前述の通り人の手があまり入らない事もあってモンスターの生息数がかなり多い場所。それ故にわたくしは、どうせいるのだからとモンスターに対する注意は最低限にしかしておらず、またモンスターであれば聞かれても問題ないと思っていた。何故なら、その時わたくしは人と同じ頭脳を有し、人と意思疎通出来るモンスターなどいないと思っていたから。

 

「…所詮人は己の知る事しか知らない…それが分かっていても、ミスは起きてしまうのですのね…」

「知らぬ事の考慮とは即ち、数多ある可能性の全てに対策を立てる事と同義だ。出来なくても仕方ないさ」

「気遣い感謝致しますわ。…しかしまさか、あの場にお二人が居合わせるとは…」

「だから初めに言っただろう。偶然の産物だと」

「そうでしたわね。…今のは問い質しておきたい質問。そしてそれは解決出来たと言えますわ」

 

今回の件からわたくしが得るべき教訓は、真に秘匿すべき事はどんな場でも慎重に扱うべき…といったところかしらね。

そんな事を考えながら、わたくしは立ち上がって窓の前へ。とはいえそれは窓を開けたいだとか、カーテンを閉めたいだとかではなく、どちらかと言えばポーズの意味合いが大きい。

 

「…二つ目…聞いておきたい事は恐らく、貴女にとって気分の良い話ではないと思いますわ。それでも答えてくれまして?」

「無論だ。目的の為ならどんな犠牲も厭わない覚悟でわたしはここにいる」

「……それは、危うい考え方ですわよ?」

「別に他人や環境などどうでもいい、とは思っていないさ。それに…人々の平和と繁栄の為に無茶をするらしい女神の一人に、それを言われたくはないね」

「あら、よくご存知で」

「様々な情報の集まるギルドの支部長の情報力、舐めてもらっては困るな」

 

否定はせず、敢えて余裕ぶって返してみると、エスーシャもまた不敵な笑みを浮かべて返答を口にした。……こういうやり取りも、初めはままならなかったのですわよね…。

 

「…ならば、訊きますわ。貴女が……エスーシャが魂の移動を実現させたい理由と、その理由を抱く事となった経緯を」

「……っ…」

 

ぴくりと肩を震わせ、目を見開いたエスーシャ。その反応は訊かれるとは思っていなかったからか、それとも他言したくない事情だからか。今の反応だけでは判断出来ないものの……何れにせよ、この質問を取り下げるつもりはない。

 

「…答えられませんの?」

「…それ、は……」

「モンスター研究の件で協力関係を築く事は、わたくしや教会にとって大いに危険な行為。ですから踏み込んだ質問をする権利はあると思いますし…それに、わたくしは利益云々ではなく、貴女への情で協力したいと思っているのですわ」

「…………」

「……どうしますの、エスーシャ」

 

理由も経緯も、わたくしは既にイーシャから伝えられて知っている。だからわたくしは、内容そのものを聞きたい訳ではない。エスーシャ本人の口から、エスーシャ自身の言葉で、きちんと聞きたい……そういう思いが、わたくしの胸にあった。

言葉に詰まったエスーシャを、わたくしは見つめる。そのままお互い一言も発さない時間が十数秒程過ぎて……エスーシャは、口を開いた。

 

「……分かった、話そう。わたしが魂の移動を望む理由を…わたしの犯した、愚かな罪を」

 

そうしてエスーシャは語る。事実を、過去を……彼女の抱く、思いを。

 

 

 

 

これまでエスーシャは、感情を剥き出しにする事はまず無かった。わたくしに頭を下げた時も、長大な木の枝から落下した時も、感情を滲ませる事こそあれど露わになどはしなかった。…少なくとも、昨日までのわたくしが知るエスーシャは、感情をあまり表には出さない…そんな人間だった。

 

「…気付けば、そこにいたのはスライヌとなった二人と、イーシャとなったわたしだけだった。……それが、事の顛末さ」

 

自嘲と皮肉が混じり合ったような、不自然な笑みを浮かべてエスーシャは話を締めくくる。その顔に、抱えていたものを吐き出してすっきりした…なんて様子は、無い。

 

「ふっ…口に出してみて改めて実感したよ、わたしの愚行の罪深さを」

「…事故に、罪深さなどありませんわよ」

「事故であろうと過失があればそれは罪だ、結果は結果なのだから」

 

わたくしの向けた瞳からは目を逸らさず、真っ直ぐに返してきたエスーシャ。自虐を覆すのは難しい。それが長い時間で強固となり、心の根底部分にまで入り込んでしまっているなら尚更の事。

 

「だとしても、貴女はそうしたくてそうした訳ではない…確かに結果は同じですけど、動機もまた重要ですわよ?」

「その動機次第で三人を救えるのなら、幾らでも考え直すさ。…理由と経緯は話した。まだわたしに問う事があるのなら……」

「…いえ、質問はもう十分ですわ」

 

自らの言葉でエスーシャの言葉を制し、エスーシャの隣へ。

エスーシャに対して思う事はある。言いたい事もある。けれど今は、約束を果たすのが先ですわ。

 

「エスーシャ。わたくしは貴女に話を持ちかけられて以降、貴女の人となりを見て、感じてきましたわ」

「…………」

「日々の言動、職務へ取り組む姿勢、目的に対する決意の強さ……それ等を総じて考えれば、貴女は十分に信用出来る人物であり、信頼を置ける方であると言えますわ」

「…それは、今のわたしの話を聞いてもか?」

「えぇ、当然ですわ。…ですから、わたくしが貴女へ返す答えは一つ……」

 

無愛想ではあるものの、その内に秘めるものは悪意ではない。信用の為の真面目さであったとしても、己が役目を十全に全うしている事には変わりない。その決意は…初めから強い思いの下にあるのだと、分かりきっている。だからわたくしは立ち上がるように促し……右の手を差し出す。

 

「──協力の申し出は、喜んでお受けさせて頂きますわ」

「……ありがとう、感謝する…」

 

立ち上がったエスーシャに握られる、わたくしの右手。エスーシャが浮かべているのは、どこか安堵したような表情。この協力関係に書面や形式的な声明はなく、あるのは言葉とこの握手だけ。だとしても、この繋がりは強く…硬い。

 

「…協力を得られたからと言って、支部長の仕事をおざなりにしては駄目ですわよ?」

「そんな当たり前の事、言われなくても分かっている…」

「ならば良し、ですわ」

「君はわたしをなんだと思っているんだ……ベール?」

 

安心のおかげか普段より心なしか表情の緩んだエスーシャは、いつもの通りすぐに帰り支度を始めようとする。…けれど、わたくしは握った手を離さない。

 

「…手を、離してくれないか」

「それは出来ない相談ですわ」

「……何故?」

「まだ貴女に言いたい事があるんですもの」

 

握り潰すような力ではなく、しかし離せない程度には力を込めているわたくしへ、エスーシャは怪訝そうな顔を見せる。そしてわたくしが理由を述べると…彼女は観念したように頷いた。

 

「…なら、聞こう」

「助かりますわ。と言っても、別に協力関係に条件を付けようだとか、情報漏洩しないよう脅しをかけておこうだとか、そういう事ではありませんの」

「条件や脅しでないなら、何だと言うんだ」

「……わたくし、貴女の考え方が気に食わないんですの」

「…何?」

 

手を離し、柔和な笑みを浮かべ……はっきりと、言った。考え方が気に食わないと、言い切った。その言葉に、エスーシャは一瞬呆気に取られる。

 

「罪を認めず、自己の正当化に走る事程見苦しいものはありませんわ。けれど、ありもしない罪を負い、誰にも望まれていないにも関わらず贖罪の念に駆られる事もまた、美しい行為とは言えませんのよ?」

「……何が言いたい…」

「三人は自分のせいで不幸となったと考えるのはお止めなさいな、と言ってるのですわ」

「……っ!」

 

少しだけ声音を強め、再びはっきりと言い切る。……その瞬間、エスーシャの目つきが変わった。

 

「…それは、説教のつもりか?」

「意見を述べたまでですわ。女神としての…統治者として、様々な人を見てきた者としての意見を」

「……余計なお世話だ」

「わたくしの言葉が余計であるならば、貴女の罪の意識も三人からすれば余計なお世話ではなくて?」

「…わたしの思いが、余計だと…?……何が分かる…」

 

三人の事へ触れた途端、エスーシャの目つきの鋭さは一層深く、一層険しいものに変化する。わたくしの言葉が逆鱗に触れたかの様に、エスーシャは一度俯き……激昂した。

 

「聞いただけの貴様に、何が分かるッ!ヌマンとレディは、人としての人生を失った!イーシャは自身の身体を失った!そしてわたしは、三人を不幸へ導いたわたしだけが、人のまま救われた!これを不幸でないと言うのなら、わたしに罪がないと言うのなら、なんだと言うんだッ!否定するならば、答えてみせろベールッ!」

 

声を荒げ、掴みかからんとする程の気迫で迫るエスーシャ。普段の様子とかけ離れた、感情剥き出しのエスーシャ。…その様だけで、エスーシャの抱える罪の意識の重さが伺える。

 

「……事故、としか言えませんわ。不幸という言葉を使うならば、不幸な事故…という形でしょうね」

「不幸な事故、だと…?…そんなもので、片付けられるものか!」

「では、貴女はお二人を崖から突き落としたと?崖が崩落する可能性を知っていた上で、そこを選んだと?…そうでないのなら、やはりそれは事故でしかありませんわ」

「黙れッ!それは部外者の言葉だ!何も負わず、何も苦しんでいない他人だからこそ言える綺麗事だ!偉そうにそう判断するのなら、三人の前でも言ってみせろ!人としての死は、身体の消失は、仕方のない事だったのだと!」

「……貴女こそ、それをお三方の前で言えるんですの?貴女の友であったお三方へ、自分の罪なのだから、自分を恨んでくれと」

「……っ…そ、れは…」

 

エスーシャは動揺に瞳を揺らがせる。…今のは少し、ズルい手段を使ってしまったかもしれない。何故なら、わたくしは話を逸らしてエスーシャの問いを避けたのだから。……けれどこれは、勝ち負けを決める論戦ではなく、ましてや自らを苦しめるエスーシャの心を放置など出来る筈がない。

 

「貴女が自身を責め続ける限り、お三方は自分達のせいでエスーシャが罪の意識に苛まれている…と思ってしまう筈ですわ。 それは、貴女の望む事ですの?」

「…三人が、あれだけの事をしたわたしを気遣うものか……」

「友情を下に見るのは、その相手への侮辱ですわ」

「……なら、三人の無念はどうなる…三人は何に思いをぶつければいいと言うんだ…!」

「…それは、お三方次第ですわ。そもそも…お三方がどう思っているかを、貴女は実際に訊いたんですの?」

 

罪の意識に駆られる者の多くは、自分はそうなのだ、周りもそう思っている筈だ、と自分自身で自らを責める傾向がある。それはある種、独り善がりな考えで、周りの思いを拒絶しているとも言える行為。誰の為にもならない、ただ自身も周りも不幸にしてしまう考え方……けれど、それを自分一人では止められないのもまた、人というもの。人も女神も、その考えに至ってしまえば同じ事。

だからこそ、その考えを止める為に必要なのは他人の言葉。エスーシャはわたくしの問いに、ゆっくりと首を横に振る。

 

「…訊ける訳がないだろう…イーシャと話す術はなく、二人もわたしが訊いたところで、素直に答えてくれる筈がない…」

「何故、素直に答えてくれないんですの?」

「…………」

「……分かっているのでしょう?答えてくれないのは、自分を気遣ってくれるからだと。…えぇ、きっとその通りですわ。だから、お三方が貴女を憎悪しているなどとは考えないで下さいまし。お三方の事を思うならばこそ、自分を咎人だとは思わないで下さいまし。でなければ、貴女のその在り方は…痛まし過ぎますわ…」

 

イーシャを救う事。お二人を助ける事。その思いを否定するつもりは毛頭なく、それに関しては全力で手を貸したいとわたくしは思っている。けれどそれと同じように、エスーシャの心の救済も、わたくしはしたい。エスーシャが自身を犠牲にする事なく、全てを良い方向に持っていけるようにしたい。……わたくしの心にあるのは、ただそれだけの思い。

 

「…だったらもし、本当に三人が恨んでいたらどうする…」

「その時は、わたくしがエスーシャの味方となりますわ。だってわたくし、エスーシャが悪いとは思っていませんもの」

「……呆れる程に、君はお節介だな…」

「わたくし、人には試練よりも祝福を与えたい派なんですの。それに貴女がどう思っているかは分かりませんけど…わたくしはエスーシャを、友だと思っているんですのよ?」

 

エスーシャはまず驚きの顔を見せ…数秒後、直前の言葉通り呆れたような苦笑いを浮かべた。その顔からは、友の為と言うなら随分と私的な行動原理をする神だな…とでも言いたげな雰囲気を感じる。…いいじゃありませんの。わたくしは、当代の女神は人の手の届かない場所から一方的に何かをするのではなく、人と同じ場所で共に生きる存在なのですから。

 

「……今のやり取りだけでわたしの考えを変えられると思っているなら、それは大間違いだベール。…君にそう言われようと、わたしの決意は変わらない」

「その位分かっていますわ。わたくしとて、何が何でもエスーシャの価値観を返させてやるとまでは思ってませんし、貴女の言う通り結果は結果。背負うべきものはある筈ですもの。…貴女の背負う罪は、貴女の思う程ではない…それだけ伝われば、十分なのですわ」

「…ふん、もし魂の移動において最高の手段があったのなら…その時は、わたしも何か変わるのかもしれないな」

「ふふっ、ではわたくしも頑張りませんと」

 

どこか遠くを見つめるようなエスーシャの姿に、わたくしは微笑む。今の会話で、何かが変わった訳ではない。まだ何も解決しておらず、むしろやっと今始まったというもの。……だとしても、この始まりは…切っ掛けとなったこの瞬間は、きっと大きな意味がある…そうわたくしは思いますわ。

 

 

 

 

 

 

 

──これが、わたくしとエスーシャ…それにお三方との出会いから協力関係を築くまでの話。そんなわたくしとエスーシャ達との協力関係が、研究の進んだ結果によって予想もしなかった形へと変わっていくのは……もう少し、先の話。




今回のパロディ解説

・一度暴れ出せば都市すら壊滅させてしまうかもしれない程の
ポケットモンスターに登場するポケモンの一体、ギャラドスの図鑑説明のパロディ。この図鑑説明の通りなら、ギャラドスは伝説級に強いんじゃないでしょうか…。

・nintendogsシリーズ
nintendogs及びその続編の事。モンスターを子犬や子猫感覚で見るってなんなんでしょうね。…けど、女神からすればモンスターもペット感覚…は、無理がありますよね…。

・「…所詮人は己の知る事しか知らない〜〜」
機動戦士ガンダムSEEDの登場キャラの一人、ラウ・ル・クルーゼの台詞の一つのパロディ。でも知らない事を知らないのは当たり前。知ってたら知ってる事となりますしね。

・今回の件からわたくしが得るべき教訓は
化物語シリーズの登場キャラの一人、貝木泥舟の代名詞的台詞の一つのパロディ。貝木的キャラはネプシリーズにいませんね。いても物凄く浮いてしまいそうですが。

今回の話にて、一先ず黄金の第三勢力(ゴールドサァド)編前日談は終了です。なので次回からはOPに戻りますが、何かの拍子にまたこちらへ戻るかもしれません。その時はまた活動報告なり各話の後書きなりでお伝えします。

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