運命の番は惹かれあうのか?   作:鼎立

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はじめまして、どうしても妄想を隠せておけなくなったので投稿します。

・シェリランでオメガバース設定
・原作改変というか、キャラだけを借りたような話になっています
・シェリルさんとランカちゃんで子供が作れるとか素敵すぎて泣ける。
・アルトは出てきますが、くっつきません。三角の頂点にさえなりません。


*以下の単語を受け付けない方は読まなようにお願いします
・百合
・オメガバース
・でもエロはありません
・シェリラン


簡易設定
・シェリル(α):銀河の歌姫。αということ以外あまり変わってません
・アルト(Ω):歌舞伎役者、天才女形。シェリルの幼馴染。パイロットシーンはありません
・ランカ(Ω):シェリルに憧れている少女。

この設定は随時更新予定です。
変更点や、新しい設定が出てきたら追加します。

では、地雷設定の多い小説ですが、よろしくお願いします。

江川なつる


#1

 

 

 

乾いたクラクション。

目に毒ばかりで味気ないイルミネーション。

人はこんなにいるというのに、どこか寒々しい空気が覆っている。

はぁと知らず漏れたため息は苛立ちでしかない。

くしゃくしゃに髪をかき上げれば、少しだけ気が晴れた気がした。

 

 

 

#1

 

 

 

「シェリール、俺と遊ぼうぜ!」

 

――今日の俺だったら銀河の果てまで飛ばしてやるよ。

下品な笑いを顔に張り付かせた、軽薄をそのまま体現したような男がそう言ってシェリルと呼ばれた少女の肩をつかんだ。

シェリルは冗談じゃないとナイフのような笑顔を飛ばし返すと、安易に触れてきた男の手を切り離す。

時期は冬の一番賑やかな季節であり、ありとあらゆる恋人同士が浮かれる日。

仕事以外の予定が何もなかった彼女は、それでもこの男と予定を埋める気にはなれなかった。

 

「おあいにく様、アタシは忙しいの」

 

たとえ暇であったとしても、アンタとは遊ばない。

にっこりとした表情の下に見える意思は明確で、男はつまらなそうに肩をすくめる。

 

「さすがα様はお相手に困らないってか?」

 

α

聞きなれた、もっとも嫌悪する言葉。

他人はαというだけで、夢のような人生を送れると考えている。

シェリルの努力も、才能もすべては無視されてしまう。

その上、このようなセクシャルに関わる敏感な問題さえ軽視される。

まったくもって、シェリルはαに生まれたことを喜んでいなかった。

 

「そうね、生まれてから選ぶ側だったのは否定しないわ」

 

仕事も、容姿もシェリルがシェリルたる全ては彼女が自分自身で手に入れてきた。

少なくともそういう自負がある。αという生まれを除いては。

なりたい自分がいるというのに成れないというのが彼女には許せなかった。

だから、いつだって選んできた。

 

「一回でいいから言ってみたいセリフだな」

 

ヒューと軽やかな口笛を立てて、男は雑踏に消えていった。

仕事のため同じ時間を過ごさなければならなかったとはいえ、疲労は中々のものだ。

下手に口を滑らせれば、どのような話になって返ってくるかわからない。

歌を作り、歌を歌うことで生きているシェリルには煩わしいだけの仕事だった。

とりあえず終わりには違いないと仕事が終わった旨を会社へと連絡し、その場を離れる。

気分転換をせずにはいられなかった。

 

 

町中の雑踏から離れ、閑静な住宅街が広がる地区へ足を進める。

人が少ないからか肌寒くはあるが、こちらの方が落ち着いた。

見慣れた住宅をいくつも飛ばしていれば、一際大きな日本家屋が現れる。

数少ない友人の自宅にシェリルは躊躇なく踏み込んだ。

 

「お前なぁ、今日来るっているのは流石にどうなんだ?」

「うるさいわね、アルト。そういう自分はどうなのよ」

 

長い廊下に、障子。それを開ければ畳。

見慣れた部屋に、見慣れた姿が立っていた。

やれやれと呆れた様子を隠す様子もなく、長い黒髪を一つに結んだ美しい男が言う。

歌舞伎の家に生まれ、さらにはそのセカンドバースにより人生を決められた男。

ある意味、シェリルと反対の人生を歩く人物だった。

 

勝手知ったる、とシェリルは衣装合わせや準備に余念がないアルトを尻目に座布団の上に座る。

目の前にはお客さん用に出されたお茶がほのかな湯気を立てていた。

何度来ても落ち着く雰囲気にシェリルは少し心の鍵を緩める。

 

「仕事だよ、仕事。裏も表も忙しい」

 

表の仕事として、アルトは歌舞伎の女形をしている。

名門に生まれた久方ぶりのΩは”天啓”とさえ称された。

セカンドバースは職業的に偏ることがある。

芸能界に入る人間の大半はαであり、職業によるセカンドバースの偏りの代表例と言える。

 

アルトは生まれた瞬間に職業を決められ、Ωと分かった瞬間に夢は潰され、ここに幽閉に近い生活をしている。

それでいて女形としての才能は天下一品であり、演じている瞬間が一番幸せだという。

シェリルにしてみれば、複雑怪奇極まりない人間だ。

 

「今日だってこれから客が来るってーのに」

「もう、うるさい。あんまり言うならアタシが買うわよ!」

 

梨園に生まれたΩは、そのまま家に飼われる。

一番優秀な役者の血を受け取るためだ。

ましてや、ヒート中以外は優秀な女形とくれば、家が手放すわけもない。

一泊で大金が動く。そしてαであれば、性別も関係しない。

 

αとは支配者の性である。

誰かを支配したくて、したくて、誰よりも孤独になってしまう。

そういう悲しい生まれ。

 

「げ、やめろよ。女のαひとり発情させられないなんて屈辱でしかない」

 

秀麗な顔に、苦いものを飲み込んだような縦じわが寄る。

その恰好は緩やかな和服であり、脱がせやすさを考えたような形だった。

体から発せられる色気はまさに薫り立つようでシェリル以外であれば生唾を飲み込んだであろう。

 

Ωとは繁殖の性である。

発情期を持っているのはΩだけであるし、αはそれに引きずられるだけに過ぎない。

そして才能が有れば、発情を利用してαさえ落とせる。

 

「しょうがないじゃない。そういう体質なんだもの」

「体質……体質ねぇ」

 

小さいころ、それこそ自分がαだとも、この世にセカンドバースがあるということも知らなかった時代。

シェリルはとても大人しい子供だった。

ちょっとしたことで、すぐに泣いたし、泣かされることが多かった。

そして、事あるごとに「寂しい、悲しい」と口にしていた。

それは今も続いている。

――寂しくて、物足りなくて、ずっと誰かを探している。

だからヒートなんて起こらないのだ。

 

「αのくせに、Ωのヒートに引っかからないなんて、どうなってるんだ?」

 

ぽりぽりと頭を掻きながら、アルトは首をかしげる。

職業柄、シェリルという存在の珍しさを誰よりも実感していた。

 

「知らないわよ。甘い匂いがするとか、引き寄せられるとかならあるんだけどねぇ」

 

くんくんと鼻を動かす。

とはいえ、Ωのフェロモンは実際に匂いとして出ているわけではないので振りに過ぎない。

今だって、アルトの体から甘い匂いがしているのはわかる。

普通のαであれば襲いたくて仕方なくなるが、シェリルが感じているのは”いい匂い”程度の感情である。

女αの発情時の特徴、男としての性器を発現させることもなかった。

 

「アタシだってね、アンタが相手なら大丈夫かなって、そう思っていた時期もあるのよ?」

 

シェリルは深々と肩を落とす。

目の前にある美しい顔を見つめる。

この顔に恋をしていた。そう思えた時期が確かにあった。

 

――もしかしたら。

 

もしかしたら、まだαとして目覚めていないだけなのかもしれない。

好きなΩのヒートに出会えれば、この体質も治るかもしれない。

そんな淡い希望を抱けたのも、15までだった。

その年に、アルトはファーストヒートを迎え、その影響力は女形の才能と同じように天下一品だとわかった。

一番身近にいたシェリルをのぞいて、番のいないαは男女関係なく軒並み発情した。

 

「ふーん……やっぱり、あれなんじゃないのか?」

 

アルトが己のうなじを擦って、その手のひらに息をかける。

こうするとうなじから分泌されるフェロモンが空中にばらまかれ、αは発情しやすくなる。

アルトはこれからの仕事のために用意を着々と進めていた。

シェリルは冷たい幼馴染の態度に頬をわずかに膨らませた。

 

「もう、結局仕事人間なんだから」

「運命の番」

 

え、とシェリルは言葉を詰まらせた。

アルトは我関することなく、部屋を清め、フェロモンをまき散らす。

これでまだ発情しているわけではないというのだから、この男のΩとしての才能はすごいのだろう。

αを惑わせ、己に落とす。

 

「……アンタもあの話、信じている口なのね」

 

運命の番。都市伝説のようなものだ。

少なくとも、番どころかヒート状態にさえなったことのないシェリルにとっては。

 

元々、番というのはαとΩがヒート中に、お互いのうなじを噛みあうことで発生する共存関係である。

感情に関係なく、噛めば完了する。

とはいえ、お互いに好きでなければ噛みたいという衝動に襲われることはない。

それを越えて噛む場合は、一種の契約のようなものである。

 

番になるメリットは幸福感の一点に収束される。

ヒート中、番と交わることは何よりの幸せをもたらす。

またΩのフェロモンが番だけに効くようになり、むやみに襲われなくなるということも挙げられる。

 

逆にデメリットとしては、ヒート時に番がいないと何もできなくなる。

基本的に死別以外で解消は難しく、また死別してしまうとそのまま番も亡くなってしまう時が多い。

 

「セカンドバースに逆らえた人間は一人もいない。それに比べたら、そっちの方が信ぴょう性があるってだけだ」

 

一人もな、と念を押され、シェリルは反論の言葉を飲み込んだ。

自分の特異さに色々と調べた経験から、無駄足になることをわかっていたからだ。

 

「運命なんて信じないわ」

 

道は自分で切り開く。

どんなに困難で、高い壁に見えたとしても、シェリルはそうやって生きてきた。

それがよりによって一番本能的な部分で、壊されようとしている。

 

「それなら、アタシはその初めての人になってみせる」

 

恋も愛も信じているし、歌っている。

だが番という本能をシェリルは受け付けなかった。

本能が選ぶ、という表現が好きになれない。

自分の好きなものくらい、自分で選択したい。

 

「お前は本当に昔から変わってないな」

 

シェリルの宣言にアルトは苦笑いをこぼす。

――運命の番。

出会った瞬間に番になるとわかる相手が世界にいる。それを運命の番と呼ぶ。

運命の番を見つけたものは、ほかの番候補に見向きもしなくなる。

もちろん、Ωのヒートに引き寄せられたりすることもない。

シェリルの状態としては、これが一番近いのではないだろうかと思っていた。

けれども、その場合、シェリルはもう運命の番に出会っていることになってしまう。

 

「当然。アタシはシェリルよ!」

 

掲げられた宣言が眩しくて、アルトは目を細める。

そして、そのまま彼女にとって非常なことを告げた。

 

「わかった、わかった。じゃ、本格的に客が来るみたいだから、またな」

「はぁ?! ちょ、待ちなさい、アタシを……」

 

両脇を抱えられるように、といえば言い過ぎだが、誘導される形でアルトの部屋からシェリルが追い出される。

長い廊下の先に待っていたのは、アルトから連絡を受けて迎えに来ていた女性の姿だった。

 

「げ、グレイス」

「げ、とは酷い挨拶ね。わざわざ迎えに来てあげたマネージャーに向かって」

 

にっこり笑う顔に怒りを感じて、シェリルは知らず一歩後ろに引いていた。

この専属マネージャーはとても優秀であり、またシェリルの好きなように活動をさせてくれているので多大なる恩を感じている。

それでもαの彼女はΩのアルトの元へ通うことをあまりよく思っていない。

商品に傷がつくことを恐れているのだ。

 

「アナタにはもう少し、セカンドバースの常識を教える必要がありそうね」

「え、いいわ。大丈夫、アタシ自分で散々調べたし!」

「詳しい話は車の中で聞くわ」

 

自動で開く扉がまるで地獄への入り口のように、シェリルには感じられた。

 

 

 

#1 end

 

 


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