「説明……! なあ、説明してくれ! 俺はどうしてここにいるんだ!? ゲームの世界ってなんだよ! 俺、帰れるのか!? なあ、おい! ルー!」
なんだよ、なんだよなんだよわけわかんねぇ! ここがよくわかんねぇ場所なのも、本物っぽいゴブリンが出てくるのも、魔法が出てくんのも!
「またまたー、取り乱してるフリしなくても良いんですよ雅人さん。その疑問は本物でしょうけど、本当に取り乱しているわけじゃないことはわかりますよ」
……さっきも、今も、俺自身がやけに冷静なのも。わけわかんねぇ。
こんなことがあったら普通取り乱すのに、取り乱さなきゃおかしいのに。さっきまでの俺も、今の俺も取り乱す気配なんて微塵もない。
取り乱したフリをしても、全然取り乱してくれないんだ。正直、気持ち悪い。
「さてさて。今の状況のことを説明したいのはやまやまなんですけど……少し、時間が無いんです」
「はあ? どういうことだよ」
「もうすぐ、最初のイベントが起こります。内容はゴブリン三体との戦闘」
「……戦闘?」
「はい。戦闘です。戦い、ファイト、バトル。命をかけた果たし合い! ってやつです!」
ふんすと鼻を鳴らしてルーは言う。……最後のやつは少し違う気がするが。
「言い方なんてどうでも良いんだよ! 俺、戦いの経験なんて全くないんだぞ!? ゴブリン三体と戦って、勝てるわけなんて……うわっ!?」
言い終わる前に、ルーが何かを投げてきた。慌てて受け取ると、予想外の重さにそれを落としそうになる。
「剣……?」
「そうです。銅製の剣です。それと、勝てるか勝てないかなんて関係ないんです。ここにいる時点で雅人さんに選択肢はないんですから。……ほら、来ましたよ」
さっきと同じように、ルーが後ろを指さす。その方向には、これもさっきと同じように、ギッ、ギッと鳴くゴブリンが居た。
さっきとの違いといえば、ルーのいったとおりにそのゴブリンが三体居る、と言うところだろう。
「剣を抜いて! あとまだ言ってませんでしたが、雅人さんは既に防具を装備しています! 私もサポートしますので、まずはここを乗り切りましょう!」
ルーにそう言われてすぐ、俺は自分の体を見下ろした。
俺の体を包んでいたのは、革製の鎧、籠手、グリーブ、ブーツ。これは初期装備なのだろうか? 装備していることにまったく気がつかなかった。
「ま、雅人さん! 来てます来てます、戦って!」
「は? って、うおっ!?」
ルーの言葉を聞いて前を向くと、既にゴブリンが俺の目の前で武器を振りかぶっていた。俺はとっさに剣を抜くと、ゴブリンの攻撃を弾くことで防いだ。
……なんだ、これ。変な感覚がする。ゴブリンの攻撃を弾いた時。その時に。
次にどう剣を動かせば良いのかわかった。
俺は感覚の示すままに剣を振るった。放たれた攻撃は、ゴブリンの装備する古びた鎧の隙間を通り……一撃でゴブリンの命を奪った。
びりびりと、自分の体がまったく知らない動きをしたという違和感と、自分の体に最適な動き方をした快感が広がった。
俺は、俺自身の一番良い戦い方を、知っている……?
ギギッ! と、ゴブリンの声が左から聞こえる。見ると、ゴブリンが武器を振り上げた体制のまま止まっていた。
なぜ止まっているのからわからないが、そんなことは今考えなくて良い。
一歩踏み込み、攻撃を叩き込む。斬り方の名前なんか知ったこっちゃない。ただ感覚の暴れるままに攻撃するだけ。一撃目はゴブリンの剣に阻まれ致命傷にはならなかった。なんとまあ健気なことだ。辛うじて右手を動かせたらしい。
だが俺の攻撃を受けた剣は叩き落とした。そして、ゴブリンの体を次第に氷が覆い始める。なるほど。ルーの魔法か。
ならばこいつは放っておいても死ぬだろう。次だ。最後の1匹を殺す。
最後の1匹は、怯えたように声を上げながら後ずさっていた。ゴブリンの進む方には森がある。その近くにねぐらがあるのだろうか。
だが、残念。お前はねぐらには戻れない。
「俺が」
ここで
「殺すからだ……!」
「ギ、ギィィィ!」
俺がゴブリンの方へと向かうと、ゴブリンは情けない悲鳴を上げて俺に背を向け、逃げ始めた。
俺の感覚が告げる。──追え、追え。無様な背中に突きをたたき込め。
その感覚に従って、剣をぐっと体に引き寄せ、反動と共に剣先を無防備な背中にたたき込んだ。
ゴブリンの鎧の背面部が砕ける。それと同時に、俺の持つ剣の先っぽも折れる。
──気にすることはない。お前の剣はその背中を貫く。勢いを殺すな。敵を殺せ。
感覚の告げるままに。そのまま剣で背中を貫く。
たったそれだけのことで、ゴブリンは小さく悲鳴を上げて動かなくなった。
「ま、雅人さん、大丈夫ですか!?」
ルーが戦闘を終えた俺に駆け寄ってきた。それがきっかけだったのか、先程まで俺を支配していた『感覚』が、体の中から抜けていくのを感じた。
瞬間、俺は嘔吐した。
体にこびりつく生ぬるい血の、その匂いが。肉を切り裂き、突き刺し、命を奪う、その感触が。体を支配していた『感覚』の抱く、恐怖と、悲しみと、憎しみが。その全てが俺を苛んだ。
気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。俺が、俺じゃ、ないみたい、だ。
「なあ、ルー……俺は誰だ?」
最初から変だった。この草むらで起きたとき、パニックにならなかったのも。ルーを見て、なぜか安心したのも。ゴブリンなんか見て、魔法なんか見て、ここがゲームの世界って言われてもずっと俺が冷静だったのも、今の戦いで躊躇なく慣れたように敵を殺したのも!
まるで、昨日までの俺と、何かが決定的に違うような。
「俺は! 誰なんだよ! ルー!」
顔を青くしているルーに掴みかかって、俺は叫んだ。ルーはびくりとして、一歩だけ後ずさった。
「ま、雅人さんは雅人さんです! この世界に来る前と何にも変わらない、雅人さんですよ!」
「嘘だぁっ!」
俺は、俺は、俺は! 俺は……
「雅人さん、とりあえず落ち着いてください! さっきまでは初期イベントの前で詳しい説明が出来ませんでしたので、これから説明しますから。ですから……」
その、怖い顔をやめてください。
そう言ったルーは、怯えるように目をそらした。それだけのことで、俺はなぜかルーに対して罪悪感を覚えた。
「……ごめん」
そうだ、落ち着け。慌てて、怒って、何になるんだ。俺が異世界転生とか、転移とかに巻き込まれているのなら、そうそう簡単に元の世界に戻ることも出来ないだろう。
だったら、話を聞かなくては。俺がどうしてここにいるのかを理解して、この世界のことを理解して、ここで何をすれば良いのかを理解しなくては。だから……
「話を聞かせてくれ。俺は何をすれば良いんだ?」
状況を理解するのにおあつらえ向きな、ナビゲートフェアリーなんて者に頼っていこう。
この世界から、元の世界に帰るために。
Suspend and save. Weit for next time