「ねぇ、今日はお姉ちゃん……氷室明日香について語らない?」
「涙が提案とは珍しいね。いいよ、そうしよう」
「氷室明日香。ウチらが6ix waterとして活動する直前のまとめでは『努力の天才』っスね」
「思慮深く、ライバルの凛さんと共にSTAR☆BLUEのまとめ役でもある。まさに智将って感じだ」
「それと、優しさの塊みたいなところもありますよね」
「凛さんを委員長と例えるなら、お姉ちゃんはSTAR☆BLUEのお姉ちゃんってところかしら」
「くく、言いたい事はわかるが涙が言うとややこしいな」
「それで思い出したんだけど、涙先輩のダンスレッスンを見ていると本当に明日香さんが憑依したかのように感じる時があるね。何故だろう」
「あ、それ玲奈先輩も言ってたっスね」
「多分それは私達が同じダンススクールに通ってたから、体の動かし方が似てるのよ」
「あの、涙?頭ぐりぐりするのやめてくれるかい?」
『か、かわいい』
「はは、まったくだ」
「1年生は兎も角セイラまで……」
「さて、話を戻すっスよ。努力の天才である明日香さんはSTAR☆BLUEの象徴として扱われることもあるっスね」
「花咲このはという存在の影響が大きく作用して『努力の人』というイメージが先行してるのよ」
「明日香さんの在り方のほうが本来のスタブルなんですけどね」
「……明日香さんは、いつかこのはさんを追い越せる日がくるのかな」
――――――
「無理」
「あっさり言うんですね」
「一応自分が置かれてる状況は把握してるつもりだから」
「いや、ドヤ顔で敗北宣言されましても」
今日は涙先輩のお姉さん、氷室明日香さんに勉強を教えて貰っています。
「涙とアイドルをやってる貴女なら分かるでしょう?」
「……対抗意識、ですか」
「それも尋常じゃないほどの、ね。向けても仕方ないのに……」
「でも、その姿勢こそ明日香さんが『STAR☆BLUEの象徴』足り得るものだと思います」
「嬉しいことを言ってくれるのね……さて、行きましょう」
「どこへ?」
「あなたの番組の収録よ。食レポ頑張って」
「……へ?」
――――――
「こんにちは、6ix waterの泉野玲奈です。今日は神ファイブの氷室明日香さん行きつけのお店に来ています」
「どうも、氷室明日香です。玲奈ちゃん、よろしくね」
「こちらこそ!それじゃあ早速入りましょうか」
緊張と恥ずかしさで思わず普通の感じになったけど大丈夫かな?
イタリアンレストラン、Vento di Amalfiはテレビでも再三にわたって紹介されてきた超有名店。こういうトコでランチしてみたいなーなんて思ってたけどさ!
「私は……そうね、クアトロ・フォルマッジョを頂こうかしら。玲奈ちゃんは?」
「えっと…チキンカチャトーラ?お願いします」
「畏まりました」
あ、いたんだ。番組のスタッフさんとかいるし、隣には明日香さんがいるから視野が狭まってたね。本来ならオススメを聞いてそれを頼む流れだった……のかな?
「さて、料理を待つ間に玲奈ちゃんの事を聞かせてもらおうかしら。どうしてアイドルをやろうと思ったの?」
来た。私のことを、6ix waterのことを知ってもらうためのまたとないチャンスが
「同情を買いそうでホントは言うの嫌なんですけど……私、あと5年持つかどうかの命なんです」
「!?そんな話1度も……」
「初言いですから。家族や友人、6ix waterのメンバーと主治医しか知らないことです」
「……続けて」
「それを告げられ私は後悔しない生き方をしようと決めました。バイトやアイドル研究部っていう部活に加入したり、一人暮らしを始めたのもそれが切っ掛けです」
「ふむふむ」
「6ix waterのメンバー、川崎セイラが私達もやろうって言ったんです。アイドルオタクの集合体だった私達がアイドルになろうって」
「その決断を下したのが、玲奈ちゃんって訳ね?」
「はい。やって後悔するのか、せずに後悔するのか…私の英断は6ix waterの皆が支持するから、遠慮なんかしなくていいって言ってくれました」
「壮大ね……アイドルをするならウチでも良かったんじゃない?スカウトされたでしょ」
「それはできません。やっぱり仲の良い人達とやりたいですし、それに何より――貴女達に挑戦するために結成したんですから」
「……へえ?」
ここで視聴率を稼ぐぞ、私!
「アイドルキングダムにおいて、1位を取る事は非常に難しい。でも、STAR☆BLUEに勝つだけなら?可能性は無きにしも非ず」
「ちょっ」
「やらずに後悔するより、やって後悔したい。だから私はSTAR☆BLUEと戦うことにしました」
カメラマンさんが私を見る。ここからはわたしの時間だ
「セイラ、きっかけをくれてありがとう。なほちゃん、私の詩にリズムをつけて曲にしてくれてありがとう。美玖ちゃん、スケジュール管理ありがとう。涙先輩、いつも気にかけてくれてありがとう。沙織先輩、練習の場所取りとか色々、面倒事を引き受けてくれてありがとう。」
折角だから、全部伝えよう
「私、6ix waterのメンバーでよかった。これからも心配とか迷惑とか沢山かけちゃうかもしれないけれど、これからもよろしくね。大好きだよ!」
「……タニンノソラニ、アーカムハウス、他にも複数の派生グループがいて、私達神ファイブがいる。6ix waterにとってそれらを越えるのは果てしなく長い道のりよ?」
「踏破してみせます。私が6ix waterにいる間に」
「そう、楽しみにしてるわね」
「お待たせしました、クアトロ・フォルマッジョとチキンカチャトーラでございます」
タイミングばっちりにも程がある
「玲奈ちゃん、先食べてレポートしてみて」
「うぇ!?は、はい!」
こういうとこで食事するの初めてだから緊張する。しかもテレビ!
フォークに鶏肉を刺して、ナイフでソースを塗りたくって……いただきます
「あ、美味しい!鶏肉の旨味とトマトの酸味が程よくマッチしてます……ちょっと甘味も感じますね。これは何ですか?」
「淡路島の玉ねぎですね。甘さと柔らかさがあるのでこういった料理には丁度いいんですよ」
「なるほど……あ、次明日香さんお願いします」
「何でそんな完成された食レポができるのよ……いただきます」
あぁ……チーズとろとろや……
「うん、いつも通り美味しい。四つのチーズがそれぞれ主張しているのに口の中で全然喧嘩せずに調和が取れているのが分かるわ」
ヒャア 我慢出来ねぇ!
「明日香さん、ひと切れ下さい!私のチキン一個と交換で!」
「ふふ、もちろん」
「わーい!」
その後、二,三個別の品を注文し、わけわけしながら食べた。実に充実した昼食だったし、多分こういうことをしたのは空前絶後私だけだろう。ちなみに食事代はテレビ局持ちらしい。それならもうちょっと食べたかったかも
――――――
帰りのロケバス。話題は専ら涙先輩のことだ。シスコンっぽいとは思ったけど本当にシスコンだったぜ
「そうだ、折角だからアイドルのお勉強しましょうか」
彌生さんには心構えを、凛さんには素質を見出され、エレナさんにはオフの日の処世術を教えて貰った。明日香さんは何を教えてくれるのだろう
「アイドルとしては涙より劣る貴女がセンターを務めている理由は何だと思う?」
さすがの私もそこまではっきり言われると傷つくな
「全く見当もつきません」
「そうね……お転婆で天真爛漫なS、クール気取りの厨二無言ちゃんN、ルックスだけが取り柄な天然っ子A……このうち誰かがセンターを務めるとしたら、誰が相応しいかわかる?」
「ハ○ヒですかね」
「こら」
あ、いけね
「でも正解。Nがセンターの場合、逆に周りが際立ってセンターの意味を無くすし『なんとなく暗いアイドルグループ』だと認識される」
「朝h…Aは?」
「単に飽きられやすく見ている方が疲れる」
「どうしよう、すごく納得した」
「Sはその性格で、逆に客席の皆のボルテージを最高潮に引き上げてくれる。『私はこんなに楽しんでるんだから、アンタ達も楽しみなさい!』って言わんばかりにね」
完全にハ○ヒじゃないか
「つまり、私にはそういう力があるってことですか?」
「6ix waterで言うと、涙やセイラちゃん……まとめ役の沙織ちゃんにさえない能力よ。ちなみにウチのグループは人気投票制度だからこれには当てはまらないわ。それでも、センターのイメージが即ちグループのイメージに繋がることは多々あること」
「なるほど」
「だからこそ忘れないで。貴女の喜怒哀楽が、6ix waterそのものである、と」
……よく分からない。でも、センター……つまり私が6ix waterそのものだというのなら
私は、何をすべきなのだろう