「あ…、リー……」
いつもと違うエースの様子。玄関で待ってたら朝に帰ってきました。夜遊びとはいけませんねぇ…この野郎。
「……」
エースはふいっと私を無視して部屋に入ろうとする。待てぇい!逃がすか!
私はすかさずズボンを掴んで捕らえた。
「な、なんだよ…」
帰ってきたらまず、言うことがあるだろう。
「たじゃいまは?」
「は?」
「たーいま、は?」
「へ?」
「おきゃりなさい!!!」
「「た、ただいま!」」
よろしい。
私は満足そうに頷くと2人は驚いた顔で互いを見ると思わずといった様子で吹き出した。
「ハハッ、そこらの猛獣倒せるクソガキもリーには敵わないってことか」
ダダンさんは笑って私の頭を撫でる。地味に1番撫でるのが上手い人だ。私の始めたやり取りのおかげか、家の中が和やかな雰囲気に包まれた。いつもは大人びて見えるエースとサボも年相応の笑みを浮かべていて、なんだか嬉しくて私も一緒になって笑う。
うんうん、多少のぎこちなさは残ってるけど肩の力が抜けたみたい。平和だなぁ。
「確かに、リーには敵わないな」
「あのジジイにも勝てたりし………っ!?」
突然エースとサボは何を思ったのか分からないがわたしをダダンさんから奪い取り辺りを警戒しだした。どうしたんだろ、別に食われたりしないのに……ヒィィィ!?
凄まじい勢いで背筋がゾクゾクとする。なんだろうこの嫌な気配は。
私のシックスかセブン辺りのセンスが叫んでる気がする!気がするだけかもしれない!!
「……エース。俺、今、猛烈に逃げたい」
「サボ……外に出ろ!」
ダッ!と奥の部屋に入り込み隠れる2人。まぁ私も連れられてるから3人だけど。
『邪魔するぞー』
『げぇ!?が、ガープさん!?』
『なんじゃげぇ、とは。儂は可愛い孫に会いに来たと言うのに……』
「チッ…ジジイが来やがったか…」
「エース、あれがガープって奴か?」
「あぁ、隙を見て脱出するぞ」
「おう…!」
逃げ込んだ部屋で耳をすませばダダンさんが誰かと話している。この声聞き覚えがある、と思えば2人はすっごい小声で会話してる。
なになに、ガープって爺さんそんなに怖いの?私を拾ったか攫ったかどっちか知ら無いけどその爺さんそんなにやばいの?
それにしても凄まじい危機管理能力、声が聞こえる前に気付くってもう人やめてるよね。
私のは寒気だけだからちょっと違うんだろうな。
そんな呑気な事を考えるていると会話が聞こえてきた。
『リィンは何処じゃ?』
『見つけてどうする気なんだアンタは』
『稽古を付けてやろうと思っての』
『あれはまだ1歳のガキだよ!無理に決まってんだろうが!』
あ、うん。やばい爺さんだった。胃がいたんでくる。
世の中のジジイという分類はまともな奴はいないのか…今のところ海軍の爺さんと堕天使の爺さんの2人しか会って無いけど。
「やべぇ……リーが殺される…」
「お前の話を鵜呑みにすると殺されるな」
納得するのは良いけど逃げませんか。
『そこかぁ!!──わかっとるぞ」
ってなんでバレたの!?
遠くから聞こえていた声が段々近付いてくる。
「っ、リーは殺らせるかよっ!行くぞサボ!」
「あ、あぁ!」
あの…それ、死亡フラグじゃないですか?
そこからの2人の行動は早かった。
サボが窓を開けたと思ったらエースは私を抱えたまま身を翻して飛び出た。
待たんかぁ!!って言う声が後ろから聞こえたけどその言葉、逃げてる奴は素直に聞かないからな。絶対待たないからな。
私は抱き抱えられてるから辺りは見えないけどなんか野生の本能的なのがヤバイと告げてる。
本能抜きに普通に考えたら分かるよばぁぁかぁぁ!!なんで後ろから岩を砕くようなドコォッで音が聞こえるんだよ!! 泣きたい!
「んびぃぃ!?おにィ!?」
「鬼ってお前……」
「お?なんじゃ鬼ごっこか?」
ひぃっ!いつの間にかすっごい近くから声が聞こえてる!嘘だよね!あんだけ森を超人並で走り抜けるエースとサボが追い付かれる速さはなかなか居ないと思うんだけど!
「くそ、撒けねぇ…っ、サボ!撃退するぞ!」
「正気かエース!?」
「逃げるのは……嫌だ」
その嫌だで私の命が危機に晒されることを忘れないでいただきたい。
つーがやだよ!何でこんな歩く人間兵器みたいな人と対峙しなきゃいけないんだよ!
この空気から一刻も早く逃げ出したい。
「リー…隙を見てなんか攻撃しろ、なんでもいい。お前に気を逸らせれば俺とサボで一気にかかる」
ボソリとエースくんが恐ろしい事を呟きやがりました。私に、あの、怪物を、相手しろと?たった、少しでも、意識を、こちらに、向けろと?
そうこうしている内にエースは私を地面に置くと追ってくるガープの爺さんを睨みつけ隠してあった鉄パイプで殴りにかかった。
暴力反対とか言ってられませんね。
「まだまだじゃの。お前らはまとめて強い海兵になる為に訓練してやらんといけんわい」
「ぜってぇなるものか!」
うーん、なんであの爺さんは鉄製のパイプ相手に怯みもせずに素手で受けてるわけ?筋肉自慢かこの野郎。
気を逸らすってどうすれば良いんだろう。
ていうかその気を逸らすこと自体を私に任せたってことはエースは少なくともその力を持ってると理解しているので間違い無いのかな。
となると……やっぱり魔法バレてるか。1番思い当たるのは半年前の虎事件だけど、あぁぁあ!めんどくさい考える事を全力で放棄したいけどガープの爺さんは虐待の行為も恐れずに遠慮なくエースとサボに攻撃を──あ、殴られた。痛そー。
って、そうじゃなくて私はこの状況を打破出来る術を探さないと。
エースは2人で一気にかかるって言ってたけどどうにもこうにも難しいと思う。今だって軽くあしらわれてるし攻撃も全然効いてない。
ただ攻撃を受け止め、ただ殴る。
ただそれだけの行為を繰り返してるガープの爺さん。ただそれだけ、ただそれだけなのに全く歯がたたない。
私の一か八かの魔法も効くかどうか分からない。そもそも1度も成功してない。しかもすぐに意識を失うから1回限り。
うん、どう考えても危険過ぎる。
成功の確率は物凄く低くて失敗の確率は凄まじく高い。世の中はこれを無理ゲーと言う。
私は頭の中で算盤を弾く。
1%でも良いから助かる術を……。聞く人によっちゃ大袈裟だろ、とか思うかもしれない。かくいう私も逃げる前まで思ってたよ、殺されるとか流石にやり過ぎーってさ。
なにこの爺さん遠慮を知らないの?
「くっ…」
「化け物かよ…」
「まだまだ現役じゃ、舐めるなよ?」
「だぁぁあ!!!」
「むん!」
やべぇこの爺さん怖ぇ。多分手加減なしだと思うけどエース達を思いっきり潰しにかかってる。2人が攻撃を受ける避けると地面にクレーターが出来るとかもはや人じゃない。
「さて、少しは本気でいくか…」
手加減しとったんかーい。
ってというかもうそろそろいい案を思いつかないと2人の生命の危機を感じる。
考えろ私自分に意識を集める代わりにあの2人から意識を逸らすやり方を。うん、私見捨てて逃げてもいいかな?
「ちっ…!」
「ほれほれ、はよこんか」
「リー…、早くッ」
エースは私の思考を知ってか知らずか、小さく声を漏らす。
だめだ…全く浮かばない……。どうしよう…。私の幼稚な頭、もっと頑張れ!
「だぁぁあ!!!」
叫んだ。意味もなくとりあえず叫んだ。
くぅ…こうなったらあんまり得意じゃないけどやるしかない!魔法以外の方法、たった一つ、効くか効かないかはガープの爺さん本人次第だけど。
少なくとも魔法の確率にかけるよりは遥かに可能性が高い筈だ!
「どぉーー!!──」
私は攻撃を加えるべく走った。まだ足元がおぼつかないけどガープの爺さんに向かって走って
「──どべっ!」
コケた。結構派手に。
「リィン!?」
ガープの爺さんは心配してかどうなのか知らないけど派手にコケた私を心配して駆け寄って来た。エースとサボはその後ろでオロオロしてるのを感じる。
よし、もしかしたらいける気がする
私はニヤリと笑うと地面を見たまま必死に辛いことを思い浮かべた。狭間に落ちたこと、堕天使に出会ったこと、虎に追いかけられたこと、1人で猛獣から逃げたこと。
めちゃくちゃ泣きてぇ………。
あれ?必死にならなくても自然と涙が出てくるな……ぐすん。
普通なら我慢するべき所だけど今回は涙を必死に溜める。
鬼が笑うか泣くかは私の腕次第。
──さぁ、勝負の時間だ。
==========
「どべっ!」
リィンが、転んだ。サボは心の中で簡潔に結論をだした。足元の小石に引っかかったんだろうと思う、それはもう派手に転んだ。1m程滑った、絶対痛いと思う。
……だってここは森の中だから。絶対痛いだろう。
サボは痛そうに眉を顰めて、近寄ろうとしたがガープの方が先に動く。
ガープ自身、一瞬狼狽えたが慌てて駆け寄った。しかしその手がリィンに触れる所で、ガバッと勢いを付けてリィンが体を起こし手が引っ込んだ。
「(ほ……良かった)」
サボはとりあえず安心した、と息を吐く。
額に擦り傷を作ってその瞳に涙を沢山溜めて、誰が見ても泣き出す寸前だった。その様子にエースが駆け寄ろうとしたが、サボは動かない。
「(ん?)」
理由は違和感を覚えたから。
泣くのを我慢しているけどその目には何処か普通の子供には有り得ない光が灯っていた。ゾクリと悪寒を感じるほど、獰猛な気配。毛穴という毛穴が広がる感じ。思いすぎ、の可能性だってあるけどどうしても思えなかった。
「(あ、俺に似てるんだ。何か企んでる俺に)」
エースを引き止めて様子を伺う。
「お、おいサボ…」
「しっ…!」
「じじ……」
「お!?」
自分が呼ばれたのだと思ってガープの声の高さと表情が変化する。
「────じじなんかだいっきりゃい」
その時のリィンの顔は真顔、無表情、とにかく敵のはずなのにガープがちょっとかわいそうになるくらいの攻撃に出た。
「………」
さっきまでドタバタと駆け回っていたガープが1ミリも動かないくらい、その攻撃はショックだったんだろう。ガープの顔がこの世の地獄を見た様な顔になっている。
おじいちゃんの孫愛ってここまで効果あるのか…。サボは遠い目をする。
それと同時に疑問も。そこまでショックを受けるものなのか、想像上で再現してみた。
『サボなんてだいっきりゃい!』
自分に置き換えて見たらマジで泣きそうだ……。試してみた数秒前の自分を殴りたいくらいに。
「リー、エース、行くぞっ!」
「え?ぁ、あぁ…」
サボと同じこと考えたであろうエース。…彼も顔面蒼白になっている。
その様子に察したサボはリィンを抱きかかえて直ぐにその場を離れた。森は庭も同然、精神的ダメージを負ったガープから逃げるのは簡単に思える。
──なんというか、えげつない作戦だな。
サボはドヤ顔をしてる自分の妹の将来が不安になった。小悪魔になんかなるなよ。……なりそうだなぁ。
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ふーー!逃げれたー!!怖かった!超怖かった!
様子見に来るガープの爺さんってひょっとして子供好きなんじゃないかなって思ったから多分子供に言われて嫌な言葉TOP10の中のどこかから抜粋しました!
まだ心臓がドッドッドッドって高速で動いて痛い。
「……」
2人がこっちを責めるような目で見ているのは納得いきません。