2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第91話 手配書 その2

 ──偉大なる航路(グランドライン)後半 ドレスローザ王宮──

 

 

 1人の大男が椅子に座り一つの記事を眺めていた。

 

「フフフ…ついに賞金首になったか」

 

 辞めた雑用が海賊になるとは随分面子の立たない。そしてそんな人物に初頭手配から2000万ベリーとは世界的に異例。

 ただ。例外中の例外もいる様でこの大男、七武海のドフラミンゴは生まれた環境が政府に伝えられていたせいか初頭手配は4000万からであった。

 

「だがまァ。一般的に見れば、な」

 

 ドンキホーテファミリー。

 彼らのトップのドンキホーテ・ドフラミンゴは手配されたリィンが海軍本部の大将女狐だと知る数少ない人物の1人だった。

 

 それを知っているか知っていないかでその額が多いのか少ないのか変わってくる。

 贔屓目で見ずとも少ないだろう。

 

「若様……」

「モネか、どうした」

「シーザーが、殺し屋を雇いたいって」

 

 〝また負けちゃったみたい〟と、クスクスと笑いながらモネと呼ばれた女が出てきた。どうやら海軍に追われる立場のシーザーは身の安全の為か良く殺し屋を雇う。

 

「好きにさせろ」

「えぇ、そうだと思ったわ」

「……?」

「あら、若様ったら自覚無いのかしら?」

 

 はたまた面白いのかクスクスと笑い出した姿を見てもドフラミンゴが怒ることは無かった。

 

「無ェな」

「フフフ…ッ」

 

 モネさらに笑うと新聞に目を移し口を開いた。

 

「その子、女狐ちゃん。彼女が関わると若様は他がどうでも良くなるのよ?」

「ヘェ、そりゃ面白い事を聞いた」

「信じてないみたいね」

「フフフッ…信じてるぜ?」

 

 ドフラミンゴはファミリーを大事に思う男。いずれ手に入れるとしても今は敵の彼女の正体をファミリーに伝えないわけが無かった。

 最高幹部と潜入中のヴェルゴ、別任務でシーザーという科学者に付いているモネには。ファミリー全体に伝えない辺りそれが嫌がる行為だと言う自覚はあるのだろう。

 

「(そういやシーザーとリィンは関わりを持っていたらしいな…今度聞いてみるか)」

 

「若様どうぞ」

「あァ」

 

 ドフラミンゴが1人思考にふけっているとモネは紅茶を注いだのか差し出した。

 ファミリーの1部はドフラミンゴが王位に付いた辺りから飲酒を減らしているのを疑問に思っていた。だがドフラミンゴを想ってか誰も口に出さなかったが。

 

 モネはそっと新聞を眺め呟いた。

 

「きっと、牙を向くわよ」

「いつもの事だ」

「敵になることも視野にいれてる、のね」

「勿論、未だに俺の手の中に入らねェんだからな…フッフッフッ…!面白ぇじゃねぇか!牙を向ければ、その牙折るだけの話!」

「怖いわね」

 

 懐からドフラミンゴはもう一つの手配書を取り出すとモネに命令を下す。

 

「ファミリーに伝えておけ『殺すな』と」

「…! 何故殺さないの?()()()()を」

「簡単な話だ。躾は必要だろ?」

 

 モネは()()の手配書を受け取ると納得したのか頭を下げた。

 

「了解、若様」

 

 オペオペの実の能力者が暴れだした、と伝える為に。

 殺さない方が利点はある。オペオペの実を欲するドフラミンゴとしては所在が明らかになっている方が良いのだ。

 殺せば実はどこかへ転じる。それは避けたいことだ。

 

「何、殺さなくても使える…記憶を消すことも洗脳する事も脅すことも…!フフフ…、悪魔の実を見つけることよりずっと楽で簡単な話じゃねェか」

 

 上機嫌に喉を鳴らし紅茶を手に取った。

 

「未だにハートの席を開けているのは本当に躾の為?──ジョーカー」

 

 ただそう言い残すとモネは後ろを向けて去っていった。

 

「フフフフ…察しのいい女は嫌いじゃねェぜ…」

 

 コクリと紅茶を喉に通すと口角を上げ、物陰に隠れている女の名を呼ぶ。

 

「ベビー」

「っ!」

「肩が見えてるぜ?」

 

 ビクリと揺らした肩を見るとしばらくしてひょこっとベビー5が顔を出した。

 

「ご、ごめんなさい若様ッ!」

「別に構わ無ェ…、気になってたんだろ?」

 

 そう言って新聞を見せるとベビー5は笑顔になり駆け寄る。友人が自分と同じく海賊になった事が余程嬉しいのだろう、元々コラソンの事もあり海軍自体嫌ってる節がある。そんな姿を微笑ましく見ながらドフラミンゴは彼女に任せている案件を聞いた。

 

「例の件どうなってる?」

「えっと…また増えたって」

「そうか」

 

 ドフラミンゴはモネの後釜を任せるつもりでベビー5に任せていた。麻薬取引の橋渡し役を。

 

「今度鰐の所に行く予定を勝手に入れた…、丁度いい、その国に下ろしてやる」

「本当?」

 

 ベビー5は嬉しそうに笑うと〝 そうだ…〟と言葉を続けた。

 

「あ。若様、私今度結婚するの。今度紹介するわね!」

 

──ガシャン…

 

 ベビー5はドフラミンゴの手からすり落ちた紅茶のカップに思わず驚き何故か動揺している彼へ目を向けた。

 

「べ、ベビー?どういう事だ?うん、ちょっと若様とお話しような?」

「わ、若様?どういう事も何も私を必要としてくれる殿方が見つかったから婚約を受けて…」

「…………ちょっと待ってろ」

「え?は、はい!」

 

 

 

 

 翌日、一つの町が滅ぼされたと聞いてセンゴクが胃を痛めた。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 ──偉大なる航路(グランドライン)前半 アラバスタ王国──

 

 

 クロコダイルは読み終わった新聞を投げ捨てて髪をかきあげた。

 

「チッ……」

 

 小さく、小さく舌打ちをすると荒々しく立ち上がる。

 

「ミス・オールサンデー…いるんだろう?」

「…えぇ、いるわ。ボス」

 

 コツコツとヒールを鳴らしながら出てきた女を一睨みすればクロコダイルは仕事を言い渡した。

 

「Mr.5ペアに王女暗殺の任務を入れておけ」

「あら、Mr.9達には今クジラ討伐の任務を任せてあるけれど…いいの?」

「構わねェ…俺の言うことが不服か?ニコ・ロビン」

 

 ニコ・ロビンと呼ばれた女はイラつくクロコダイルの目を見て首を振った。

 

「いいえ…」

 

 何をそんなに焦る必要があるのか、何にイラついているのか、例えコンビであったとしても聞いて機嫌を損ねるなら待っているのは死、のみ。

 7900万ベリーの賞金首である彼女も、無駄な行動はする事は無かった。それほどにまで七武海という存在は別格なのである。

 

「……一応、様子を見ても?」

「あァ?」

「任務を遂行出来るか、もし出来ないのなら私が代わりに始末する…。それを見てくる時間くらいはくれるかしら?」

「…………いいだろう」

「感謝するわ」

 

 何を企むんでいるのか、という視線が交差するがしばらく考えてクロコダイルは許可を出した。

 

「じゃあ、行ってくるわね」

「……計画まであと少しだ。しくじるなと釘を指しておけ───もう近々集める」

 

 BW(バロックワークス)。彼が数年前から作る秘密犯罪組織は今まで政府にバレないよう水面下で動いていたがもうフィナーレへと近付いていた。

 

「(リィンがここに入らなかった、か。国をひっくり返す準備などとうに出来ていたが……もう()()()()は無い)」

 

 かろうじて彼女と繋がりのある王女を生かしていたのも、もうおしまいだ。

 手に入らないなら大事な物も壊してしまえばいい。

 

 

 

 リィンが潜入として入ったと知らないクロコダイルはまるで絶望に叩き落とされた感覚に陥っていたのだ。

 

 

「(ずっと、ずっと、あいつは海賊になるなら俺か(ドフラミンゴ)の所だと──妥協しても七武海だとばかり思っていたが)」

 

 クロコダイルは椅子に触れると水分を吸収し、砂に変えた。

 

「(どこの馬とも知れねェ小僧に付くか……。よりによって、ルーキーに!)」

 

 乾きの真髄である能力はたちまち砂に変える。

 左手では不可能だが右手でも充分すぎる威力を発揮する。

 

「(覚えたぞ、麦わらのルフィ…!)」

 

 手配書の脳天気な笑みはクロコダイルにとって不愉快この上ないものだった。

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「あァ…嫌な予感がする」

 

 そんな中リィンは荒れ狂う海を眺めながら遠い目をしていた。

 

「働けアホか」

「うるさきぞウソップさん…」

 

 軽口に軽口を返すがいつもの覇気が無い事に気付くとウソップは様子を伺った。

 

「どうかしたのか?」

 

 リィンが振り返りウソップの顔を見るとグッ、と喉を鳴らした。

 

「じ、実は……部屋に電伝虫を置きっぱなしにすておりますて」

「お、おう?」

 

「……鳴り止まぬです」

「はよ出てやれ」

 

 悔しそうに嘆くリィンを見てズバッとツッコミを入れた。

 出ないから鳴るんだろうが、と思いながら縄を引くとリィンは未だに目が虚ろ状態になっている。

 

「………?」

「鳴るした瞬間思わず条件反射で距離を取ったが悪しき行為でごぞりますたね…。仕舞うも不可能、私は日々あの方からの電伝虫は避けるていたと言うのに」

「あ、あの方?」

 

「……………ピンクのファッションセンス最悪な堕ちた神様ちなみに苦手な食べ物ぞバーベキューのキチガイストーカーです」

「誰だよ」

 

 口調が辛辣になるがリィンはそれを気にしないくらい落ち込んでいた。

 

「しばらくかけて来るなと言うしたのが悪しき判断ですたか…!?怖い、この上なき程に恐怖ぞ…!嫌ぞ、出たく無きですぞ…!!」

「もう面倒くさいから出てこいよ」

「…!? ウソップさんは私に死ねと!?」

「どうして電伝虫に出る事で死に至るんだよ!?」

「メンタル的な問題!」

「縁切れ!」

「それが不可能なストーカーゆえに困るてるんですよ!?」

 

 それなりに戦闘が出来る彼女が追われてる(?)という事は相手は強いという事か。

 彼女が昔海軍に居たという所から考えて海賊では無いだろうと勝手に推測する。

 

 こいつに一体何があったのか、と後日改めて聞く必要があるかもしれない。

 

「(あれ?でも海賊の父ちゃんとは知り合い…?)」

 

「あぁぁぁぁあ!!!本当に早く革命すてくれ無きかな!」

 

 頼むぅぅう!と叫ぶ少女の姿にそっと手を合わせたウソップ。

 

「生きろ」

 

 それだけしか言えなかった。

 

 

 

 

 

 ──数分後

 

 

 

 

 

「ど、どうだった?」

「『妹が婚約するって言う出すた場合どうすればいいか』と聞くされますた」

 

 思ったよりも普通の話題にウソップは混乱した。

 リィンの表情が死んだ目をしていたからだ。

 

「お前はどうやって答えたんだ?」

「面倒くさき故に『滅ぼせ』と」

「投げ捨てたな」

 

 流石に電伝虫の相手もそんな事は不可能だろうと思いウソップはそのまま船の操作に戻った。

 

 

 

 

 

 ──まさかその言葉を実行するとは誰も知らない。




上機嫌なドフラミンゴと不機嫌なクロコダイル。

ベビー5の婚約者が街ごと滅ぼされるのはこいつのせい

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