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クー、と飛ぶニュースクーを見て男は手を広げた。
その行動を見てかニュースクーはそっと降り立つ。
「1部くれよい」
男はクスリと笑みを零しながら新聞の金額に似合うベリーを胸元のボックスに入れてやったがニュースクーはさっさと受け取れと言うように低い声で一鳴きすると新聞を押し付けた。
「ハハ、随分荒い性格のニュースクーだ。白ひげの船と分かっての行動なら評価に値するよい」
微笑みから苦笑いにかわり、男は新聞を受け取るとそのまま飛び立ったニュースクーをしばらく眺めた後新聞を広げた。
「ヘェ、随分色々動いてるねい…。ん?」
2つ新しい手配書が挟まっているのを見て首を傾げる。
〝 堕天使〟リィン?
極秘情報なだけあって隊長又は副隊長辺りしか知らないがリィンという名の少女は大将である。
流石にこの手配書のリィンは自分達の知るリィンでは無いだろうと思ったが男は不安に思い電伝虫をかけることにした。
──ぷるぷる…ガチャ
『何事!?誰!?こちらただ今海のレストラン探し中ぞ!?』
「う、え?マルコだよい」
『ひぎゃあ!?マルコさん!?』
『……おー…れだ?…かえり』
『はいただいま!少し黙るしてて!頼むです!──それでご要件は』
「あー…忙しい所に悪かったよい。手配書って」
『あー!あー!私ですぅ!二つ名は嫌い故に言うなですー!』
「………忙しい所悪かったよい」
二回言ってしまったが電伝虫の声に混じって聞こえた誰かが騒ぐ音と何か指示を出してる声が聞こえてしまった。
「………マジか」
マルコ、苦労性の長男は何が何だか分からなくなりそっと額に手を置いた。
「エース…お前の妹大変な事になってるよい」
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「あ、リーとルフィ」
マルコが見せに行けばリィンの兄であるエースは飯を食べながら見知った様子で名を口に出した。
「何だ、この船長知ってるのかよい」
「知ってるも何も弟だからな」
急いで飯をかき込みながら受け答えする姿にマルコはため息をついた。
「マジか…………」
「オヤジに報告してくれば?」
「俺が行く!」
二度目となる言葉を呟いているマルコにサッチが提案したがエースが手を上げ立候補した。
シスコンは健在の様だと何故かホッとする。
「ルフィ可愛いなぁ〜!リィンも顔見えねェの残念だけど元気そうだなぁ〜……あー…俺の弟妹ホンット可愛い」
「(あ、これダメだ)」
シスコンもブラコンも重度過ぎる反応にサッチもマルコも思わず目を閉じた。
「ここでは末っ子でも向こうでは長男なんだから不思議だよい…。これで兄ちゃん出来るのか」
「それは確かに不思議だな」
「よし、オヤジの所行ってくる!」
その後ある事件が起こるまでエースの自慢は止まらなかった。
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「敵船だ!」
誰かのそんな声で各々自分のしている事を中断した。武器の手入れも料理の仕込みも書類作成も喧騒も自慢も。
「マルコ!今回はどこだ!?」
「4番隊と10番隊!行ってこいよい!」
総指揮官としてマルコが空から指示を出すと隊長サッチ率いる4番隊と隊長クリエル率いる10番隊が意気込む。
選ばれなかった船員は不服そうにしながらもヤジを飛ばした。
「おら負けてこい!」
「物騒だなちくしょう!」
「サッチー!やられてこーい!」
「お前ら俺にだけ強く当たりすぎじゃねぇか!?」
もちろん本気では無いがいつものやり取り。そもそも四皇の乗る船に喧嘩を売ろうなどという馬鹿は見かけないので鬱憤は溜まる、らしい。
襲ってくる船が居ないということは略奪としての収入源が減るという事。白ひげ本人の意向により一般人からの略奪を良しとしない為収入は限られていた。
「思う存分ふんだくってこい」
マルコは親友サッチに向けて頼んだぞ、と言葉を伝えた。
「分かってるっての」
収入が無くて1番困るのはこの大きな海賊の大きな胃袋を持つ男達の胃袋を満足させる料理人、つまり4番隊だ。食糧不足で四皇が倒れたのであれば情けない事この上ないだろう。
傘下から定期的に略奪の1部を譲渡して貰ってはいるが宴好きな海賊の前ではあった方がずっといい。
「4番隊!出るぞ!」
「10番隊も俺に続け!」
意気揚々と出撃する2つの隊を見ながらマルコはどうか今日も無事で居てくれと願うばかりだ。
『隊長が揃うして無き』
『……隊長が?』
『2人…存在が皆無ぞ』
『2番隊のルーリエさんと4番隊のサッチさん』
エースが
マルコは語られた内容を少しも忘れていなかった。
疑問点はいくつかある。
何故2番隊隊長(元々ルーリエ)と4番隊隊長(サッチ)が戦場に居なかったのか。その戦争にある欠員はまさかとは思うが死んだのではないか(ルーリエは実際死んでしまった)
その流れでいくとどうしてもサッチが死んでしまうという未来を想像してしまうのだ。
サッチは強い。それは古参以外の人も勿論知っていた。
料理人だがそれ以前に海賊船に乗る隊長なのだ、そう簡単に死んでしまう筈が無いが。
「(念には念を…、か)」
あれからマルコは
誰かに伝えて情報が漏れるリスクを避けたかったので1人でずっと。
戦争の時期はエースが捕まる時期、といっても具体的な時期は分からない。
強いて言うならエースを取り返す…海賊側に砂人間であるサー・クロコダイルと海峡のジンベエが居たという事か。
「(とは言ってもジンベエはウチのところの傘下ではあるし…もしかしたらエースが捕まった事で処刑に反対して味方に付いた、とも考えられるか)」
クロコダイルの事は怨みがある筈なのに味方に付くはずも無い。とりあえず考えない事にして。
「(問題は………
ゾクッと嫌な気持ちになる。
ただの夢にしておくにはどうしても一致点が多すぎた。
「(それにオーズもスクアードもリィンは知るはずの無い傘下)」
何故スクアードが白ひげを刺す事になったのか、理由は何故か彼女は教えてくれなかったが赤犬の策略とは教えてくれた。
グルグルと思考の渦にハマる。
生来の性格もあってかマルコという男は考えを止めることは無かった。
「本当に…なんで……」
「あァ。本当になんでさっきっから呼びかけてるのに気付かないかなマルコってパイナップルは」
「ん?」
マルコは思考を止めて顔を上げると目の前には先程まで考えていたサッチの顔があった。
「何してるんだよい?敵船は?」
「もう終わったつーの」
そんなに時間が経ってしまっていたのか、と反省しながらマルコは立ち上がり指示を飛ばした。
「そう言えば悪魔の実が手に入ったんだよ」
ピクリ、と何人かが反応する。
「何の実だ?」
「分からん。一応調べておくが……食べるかどうかはな〜」
懐から取り出したのは間違いなく悪魔の実。するとエースがすっ飛んでやって来た。
「サッチ!それ、本当に悪魔の実か!?」
「エース…お前毎回悪魔の実に過剰反応するよな…。大丈夫だって、食わない限り体は爆発しないって」
「俺はそういう心配をしてるわけじゃねーって!」
巷では悪魔の実の能力者が近づくと実から悪魔が飛び出して体の中の悪魔と喧嘩をし始め体が吹き飛ぶとか噂されている。
エースも流石にそこまで馬鹿では無いのだろう。否定をした。
「でも本当に毎回どうして過剰反応するんだよい?」
「だ、だってリーのお袋が…」
ブツブツと呟きながら言い訳をする。
エースは守っているのだ。予知と情報を得意とするリィンの母親の伝言『ティーチに注意しろ、特に悪魔の実が奴の身近に現れた時に』を。
「どうにも、嫌な予感がするよい…。何の悪魔の実か判明したらとりあえず俺に教えてくれるか?」
「おう、分かった!んじゃちょっと飯作ってくるな」
「楽しみにしてるよーい」
去っていく背を見送るとマルコは隣にいるエースに声をかけた。
「毎回毎回、ティーチを見てたら誰だって何かあるんじゃ無いかって思うけどねい」
「…ッ!」
息を呑む音が聞こえてマルコは顔をしかめる。
「お前一体何が……」
「マルコは、俺を信じねぇよ。俺の方が新参者なんだから」
「お、おいエース!?」
エースが何を抱えているのか知らないがマルコはいつのも仔犬のような様子とは違う末っ子に不安感を覚えた。
またエースも、いつもと違うティーチのギラギラとした様子に警戒心を強めた。
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「ふぅーん…」
サッチは夜中、厨房で手に入れた悪魔の実が何なのか調べていた。
「ヤミヤミの実、か」
中身はよく分かって無い様だがとりあえず判明した。マルコに伝えに行こうとした時、厨房の入口に1人の男が立っている事に気付いた。
「ん?どうしたよ、
「ゼハハハ…何、大した用は無いさ」
笑いながらいつもの様子で近づく彼に良くも悪くも警戒心の欠片も無く屈託の無い笑みをサッチは浮かべた。
「なんだ〜?相談か〜?」
「そんな所だ…単刀直入に言わせてもらうが」
ティーチは葛藤する様に数秒時間を開けた後、言葉を続けた。
「悪魔の実を譲ってくれ無ェか?」
サッチは訝しげに表情を歪ませた。
「悪魔の実を?」
「分かっちゃいるさ、それの所有権はサッチ隊長にある事くらい…でも譲って欲しいんだ」
「……そこまで言われると譲りたくもなるが…断らせてくれ」
ティーチは返事を聞くとあからさまに鎮痛な面持ちに変わった。仕方ない、と諦めた様に。
その様子を優しいサッチは見ていられず背を向けた。
「悪ぃ、な。悪魔の実も売れば1億はくだらない…」
サッチは理由を話す。
ティーチから背を向けた《ティーチがナイフを持っているのに気付かない》まま。
「残念だ、サッチ隊長………!」
「ん、悪かっ……ッ!ティー…!」
ティーチがナイフを振り上げ心臓を狙ったその時、サッチは振り返った。
防ぐには時間が足りない、動揺して武装色も使えない。
見えたのは狂気に歪むティーチの表情だけ。
──仕方ない、殺して奪うしか無い。
「───サッチッ…!」
ゴオオッ!と炎の熱と末っ子の叫び声を聞いた。
「ク、グアッ!」
ティーチのナイフを持っていた片腕からジュッ…っと音を鳴らし肉の焼け焦げた臭いがした。
「エー…、ス」
「…!サッチ、手!」
エースがティーチを押し退けサッチの様子を見ると彼の右手から止まることなく血が流れている。
エースは慌てて服を破り腕を圧迫させ止血するとティーチを睨みつけた。
「ティーチ…!お前何したか分かってるのか!?」
「ゼハハハ…………。エース隊長、何故俺が悪魔の実を狙ってると分かった?何故だ?
俺の仲間。それは白ひげ海賊団では無い事はサッチもエースもすぐに察せられ、まだ呆然としているサッチを背にかばいエースは睨みつける。
「なのに何故だ!この船に入った時から悪魔の実が現れる度!いつも!いつもいつもいつも!最初は物珍しさからかと思ったが必ず俺の行動を監視する!」
なぜだ!と叫び続けるティーチにエースは答えた。
「俺が知るか!」
叫んでいたティーチもこの答えには思わず目を丸くする。
聞いたのに知らないと答えられればどうしょうもない。
「俺だってどうして俺に言われたのか分かんねぇから困ってんだろ!?」
「エース、多分怒るとこそこじゃ無い」
思わずといった様子でサッチがツッコミを入れるとエースに睨まれた。
やだ、ウチの末っ子怒ると怖い。
「とにかくなァ!お前は仲間殺しをしようとしたんだぞ!?分かってんのか!」
エースの言葉にサッチは思わず震える。ティーチは更に笑みを深めた。
「それがどうした」
「……、お前、ふざけてるのか…!?」
ビリビリと震える空気に気付く。
「覇王色…!まさか持っていたとは!」
「持っていたら悪いか…、昔っから使えてた」
「(あ、なんかシリアスに戻った。良かった良かった)」
未だ夢心地なサッチは的外れな事を考えながら行方を見守っていた。
「何事だよい!今の覇王しょ…く………──説明しろ、ティーチ。これはどういう事だ」
「……分が悪いな、マルコ隊長までお越しとは。ここは引かせてもらおう………悪魔の実も手に入った事だし」
「ッ、いつの間に!」
「多分止血してる時かな」
覇王色の気配を感じ、見聞色を使い飛び込んで来たマルコは状況に目を疑うとティーチは去ろうとした。
「待てティーチ!」
「ゼハハハ…ここで隊長の1人くらい殺れてたら良かったがな」
懐から一つの玉を取り出すとソレは明るく光り、3人の目を潰した。閃光玉だ。
「ティーチ…ッ!」
エースは悔しそうに名前を呟きながら緊張が解かれたのか気を失った。