2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第11話 我慢なりません

 

 私は2歳に、エースとサボは8歳になり、運動量も増え、食事量も増えた。

 

 山賊の家での生活1年目、私は我慢の限界を迎えていた。

 

 

 それは───

 

「───おいしきごはんがたべちゃい!」

「ど、どうしたんだよいきなり…」

 

 ガープさん突撃の時から私は危機感を感じてせめて森の中で安定して走れる様に、と3人でえっさほいさ走っていた。ちなみに私と2人の間には数メートルの空間があり、私の足が遅いことを物語っている。第一、2歳と8歳の差っていうのはどう足掻いても埋められねぇよちくしょう。

 

 先行するエースが私の声を聞いて振り返り声をかけた。

 

 私は我慢ならなかった、毎日毎日焼いたお肉、脂っこくベトベトするあの悲しすぎる食生活!バリエーションが欲しい!甘い物が欲しい!カレーが食べたい!コロッケが食べたい!サラダでも良いから食べたい!

 

 とにかく不満で堪らなかった。

 

「もっと、もっとおいしいごは──ゲホッ!ゴホッ…はぁ…はぁ」

「バカ、体力無いくせに喋りながら走るなよ…」

「リー大丈夫か〜?」

「サボ、休憩にするか」

「あぁそうだな」

 

 走り始めて10分後の出来事であった。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「で?おいしいご飯、だっけ?」

 

 なんだかんだと要望を聞こうとするツンデレエース、大好きです。

 

「うん、色んなものがたべちゃい!」

「色んなものなぁ…でも俺ら料理作れねぇもん」

 

 そんなもの百も千も承知だよ、むしろ作れないから悩んでんだろ。

 

「しょくもつをあいしゅるよりもせいじつなあいはない!」

「なんだそれ」

 

「人はしょくにこだわるからこそ!あいぞうまれる!いまこのげんじょーはどうだ!ただにくをやくだけ!それはあいじゃにゃーい!ひとをあいするにはまずしょくじから!」

「わ、分かった、分かったから落ち着け」

 

「そうは言うけどどうするんだ?」

 

 川から水を汲んでサボがやって来た。ちゃんと会話が聞こえていたようで何より。

 

「ちょーみょー」

「調味料、な」

「チョーミリョー、がひっす!」

「必要」

「ひちゅよー!」

「つ」

「ひつゆーよー!」

「違う」

 

 難しい。

 

「それって塩とか胡椒とか?」

「そちら、そんざいしゅるん?」

 

 調味料一つで料理にバリエーションが増えるから凄く欲しい。無かったら探す!私は死にものぐるいでも探してやる!

 

「ダダンの家には……………無いな」

「あぁ、無いな」

 

「おーまいごっと……」

 

 思わず落胆してしまう。こんにちは地面さん。今日も可愛いね、口説いちゃうゾ。

 

「グレイ・ターミナルにも無いだろうな」

「にゃいの!?」

 

 もしかして調味料って貴族とか王族とかそれ系のお金持ちの人しか手に入らないのか!?

 

 いや、それでも諦めないぞ…諦めてたまるか!日本人の食に対する追求心と執着舐めるなよー!

 

 

「にぃに!きょうりょくようせい!」

 

 

 

 

「普通に協力してっ言えよ言語不自由娘」

 

 そこには触れないで下さいツンデレ。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「よし、これで大丈夫か?」

 

 2人がワニ肉と木の枝を探しに行って貰ってる間。私は料理に使えそうな薬草や果実など色々集めてアイテムボックスに入れて、集合する場所に散りばめいかにも頑張って集めました、という感じに置いてある作業をして待っていた。

 

 肉が比較的柔らかいワニ肉が今日の夕食だ。

 ダダンさんは台所に入らせてくれないから今日はこっそり外でレッツクッキング、だけど…。

 

 果たして私に出来るのか否か。

 なんてったってサバイバル。そんな知識なんてありません。

 

 

 だがしかーし!私には奥の手というものがある!

 

 フフフフフ…半年間頑張りましたよ、えぇ。

 

「リー、この木の枝どこに置く?」

「ここ!ここだじょ!」

「じょ?」

「おさわりきんし」

「どこで覚えたそんな言葉!」

 

 あり?核心を突かないでって意味これじゃ通じない?

 まぁいい、私はとりあえず魔法(仮)を操作して岩を削った。お鍋の形に。

 

 ある作業とはズバリ鍋作り!私、ついにやっと使えるようになったんだよ!これぞ奥の手!……集中し過ぎて頭痛くなるけど。

 2人は驚いた顔をしてたけどもう知ってるのか深く追求せずに作業に移った。

 

 長かった。一年かけてやっと今まで使えなかった謎が解明したんだ。

 

 まぁその理由は1回に全力を使い過ぎてオーバーヒートしたってだけだったんだけど…。『あれ、これって威力抑えたら出来るんじゃね?』とか思って意識して抑えたらすぐにちょっとした魔法(仮)が使えるようになった。私の1年間を返してください切実に。

 マラソンの距離を走ろうとしてるのに50メートル走のスピードで走って倒れてしまう現象を飽きもせず毎日続けてたらそりゃ出来ませんわな。泣きたい。

 

 でもなんで一番最初に使えたんだろう。ちゃんと使える事を確認できたくらいには少ない火種だった。きちんと力をセーブ出来てたんだと思う。

 まぁ過ぎた事は過ぎた事。何とも不思議な力ですよなぁ…。

 

 日本で暮らしていた時はこんな力は夢のまた夢の力で本や漫画やアニメの世界だった、はず。

 記憶が混乱してるのか、本当にあったかどうかちょっと不安だけど確かあったはず。

 

 残ってる記憶ってのも微妙なものばかりだ。私の名前も容姿も家族も好きな物も全く覚えてない。景色もぼんやりとしたものばかりだし、私を特定できる記憶ってのが無い。というか段々薄れる。こっちの世界が濃すぎて。

 まぁそれでいいけどね。変に記憶残ってたらホームシックになりそう。

 今の家族はこの2人でいいや。

 

「ん?どうしたリー」

「何でも二ーよ〜」

「何でもない、だろう」

「それでしゅた」

 

 ヘラッと笑えば笑い返してくれる2人。大変な事もあるけど幸せだな。

 

 そこらで拾った野菜モドキを用意しておく。ちなみに毒味…もとい、味見は2人にしてもらったから大丈夫だと思う。後で企みが露見して怒られたけど。

 

 トマトの味がする野菜は風を使ってゴロゴロした形に切っていく、ちなみに包丁はエースとサボが肉の解体に使っているので使えません。

 こんなんだったらあらかじめ三つ用意しておくんだった。

 

 枝に火をつけ水と薬草とトマトモドキを煮込むといい香りがしてきた。薬草は多分ハーブとかミントだと思う。ちゃんと味見は済んでるよ、2人が。

 

「リー、ワニ肉こんな感じか?」

「うん!ここにとうにゅーして!」

「おう!」

 

 後はただひたすら待つだけの簡単なお仕事。はぁ、お腹空いた。

 

「リーの能力って万能だな」

「だね〜!」

「俺たちも欲しいな…」

「だね〜!──…ん?ほしい?」

 

「当たり前だろ、便利なんだからよ」

「にぃにはもってない?」

「そんな簡単に能力者がいてたまるか」

「なん…だと…」

 

 ここに来て衝撃の事実。当たり前だと思ってた異世界常識が実は非常識だったとは……。定石(セオリー)でしょうよ魔法っつーのは!

 判断ミスだ…言うんじゃなかった、っていうか使うんじゃ無かった。

 

「ないみつに!ないみつにするがさいりょう!」

「内緒、な?」

「うん!ないしょー!」

 

「ん?さい、りょう?」

 

 レッツ口封じ。私は目立つつもりはサラサラ無いのでな、バレたら狙われる可能性だってある。

 

 異質の価値が高いっていうのは多分世の中全てそうだと思う。

 絶対隠さないといけない。

 

グツグツと音が耳に残る。不快な感じは無く気分が高まり、出来上がりをまだかまだかと楽しみにしてたら〝危ないぞ〟とサボが言い、私はエースに引っ張られるまま膝の上に座らされた。

 子供扱い解せぬがそんな事でキレる程ガキじゃないさ。

 

「そう言えば、リーってリィンって言うんだな」

「いま!?いまにゃの!?」

「いや、半年前ジジイが言ってたの聞いて…」

「おしょくなき!?」

 

 てっきり愛称で呼んでいるとばかり…あ、そういえばそうだったか…ちゃんと喋れなくて名前曖昧なまま流してたな。

 

「なぁサボ、もうそろそろ頃合じゃねぇかな?」

「ごはん?」

 

「ちげぇよリー。グレイ・ターミナルの事だ」

「あー、まぁ…。でも早くないか?せめて4…いや、3歳くらいになる迄待った方が…」

「コイツだって充分走れるぜ?」

「だけど…もし危険な目にあったら─」

「─俺たちがカバーすればいいだけの話だろ」

 

 話の流れがよく分からないけど2人は私の居ない間に何かの話を進めていたみたいで真剣な顔で言い争ってる。

 ぐれいたーみなる?に行くか行かないかってことかな?

 

 

 にしても危険だとか単語が飛び交ってるけど…そこって危険な場所なの?

 危険な場所なら行きたくありません。

 

「じゃあせめてリーがもっと早く走れる様になってからにしろよ!」

「っ…で、でも」

「エース、お前何を焦ってるんだよ。あと10年もないから焦ってるのか?」

「ち、違っ」

 

 何で喧嘩になってる。

 

「お前こそなんでリーの実力を認めようとしねぇんだよ!」

 

 私の実力は狼に出会うと一目散に逃げ出す実力です、狼だけじゃなくて蛇レベルでもだけど。

 

「そりゃ認めてるさ!でもガキには変わりねぇ!」

 

 いやお前もガキだろ、とかツッコんじゃダメだろうな…よし、空気になろう。

 触らぬ神に祟りなし、だっけ?

 

「じゃあどうしろってんだ!リーが空でも飛べりゃ満足かよ!」

「無理を言うなよ!とにかくまだ早いに決まってるだろ!」

 

 

「…それだ」

 

「「は?」」

 

「それだ!いいことおもいちゅきた!」

「リー?」

「そらににげればさいきょー!」

「あの、リー…ィンさん?」

「そーぞ、わざわざもうじゅーあいてにはしるなくてもいいのそ!うむ!べうのほーほーでにげればいいんじゃにゃきか!」

 

 なんで思い浮かばなかったんだろう!私には魔法(仮)があるんだから!今のところ私が想像することは大体実行出来てる。

 

 『せいぜい〝集中力〟を高めて〝想像力〟と〝思い込み〟で何とかせい。人生それで上手くいくわい』

 

 実行は集中。

 策は想像。

 思わず忘れかけてた唯一のアドバイスらしきもの!あ、ごめんね堕天使様。あなたを怨むあまり忘却の彼方に飛んでいってたわ。

 

 とにかく想像力さえあれば上手くいく!猛獣相手に見つかった時は上から攻撃をバンバンしてったらいいんだ!んでいざとなったら逃げる!

 自分の身も守れて役立たずも回避。素晴らしい!私は自分の発想力に恐れおののくよ。私流石。

 

 

「「…」」

 

 シリアス破壊の空気を察してか、喧嘩してた2人は遠い目をする。喧嘩するのも馬鹿らしくなったんだろう、おずおずと頭を下げた。

 

「悪ぃ……」

「いや、俺こそ……」

 

「あ、ごはん」

 

 空気の読まない発言にも関わらず用意してくれる2人。大好きだ馬鹿野郎。

 

「「「いただきます」」」

 

 パクリと口に含む。

 

 ふむふむこのドロドロとした舌触りにお肉の柔らかい食感が合わさり苦味を伴った味付けが何とも言えなず押し寄せて来る吐き気に身を任せて。

 

「ぐぼはぁっ!!!」

 

 一言で片付けると『不味い』だ。

 

「こ、個性…的な味だな……」

「お、おうそうだな」

 

「へたなはげましはポイして」

 

 

 

 料理の道は険しい。

 

 




とりあえずリィンはトマトが嫌いになった。

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