「
『ビビ王女ってのはこちらにとっても力強いキーになる。決してお前の為じゃないって事は念頭に入れておけ』
「うっす!」
『そちらの情報。どうなってる』
「ひとまずMr.5.9とミス・バレンタインとマンデーの無力化。それとアンラッキーズ作幹部の似顔絵…。あ、そちらにも渡ると思うですが」
『あぁ、渡された。助かる。…また情報手に入れたら一応連絡してくれ』
「分かるますた」
厨房で他の6人と2匹が雑談してる中見張り台でリィンはその雑談に敢えて参加せずに革命軍との連絡を取り合っていた。
手にして見ているのは2枚の似顔絵。
1枚目はオフィサーエージェント、2枚目はフロンティアエージェントの幹部の似顔絵だ。よく出来ているのだろう。
「(フロンティアエージェントは恐らく捨駒……国盗りのキーになるは、オフィサーエージェント)」
『これは確定だがアラバスタには確実にオフィサーエージェントが──』
「──集まる」
『あぁ』
電伝虫から聞こえるサボの声に耳を傾けながらリィンは思考を止めることはしなかった。
「似顔絵の情報は信憑性や混乱も含めまだ渡すておりませぬ。アラバスタ上陸後に念のため見せるです」
『そうだな、そちらの方がボロが出なくてすむ。お前の言ってる通り、混乱は一番避けたい所だ』
「その分私は混乱するですが」
『テメェはどうでもいい』
「サボさん相変わらず辛辣」
リィンはふぅ、とため息を吐く。
予定通り航海が進めば残り2日程でアラバスタに辿り着くだろう、とナミが予測している。
「災厄、私にふりかかるすぎでは?」
『お前が今までどんな災厄に遭ってきたと思ってんだ。俺に話してきた回数より絶対多いだろ、テメェならなんとかなるに決まってる、大丈夫だ』
「どこが!?私の災厄回収解決への信頼度がカンストすてむしろ怖いですぞ!?何が起こるしたぁあ!」
ぐぬぬと唸る声が電伝虫越しに聞こえて、サボはこっそり笑みを零す。
それを見ていた革命軍の新入りが仰天していたらしいがリィンの知る所では無い。
『ほら、要件人間と名高い俺が珍しく雑談してやったんだ。計画練り直すぞ』
「あい……」
疲れた声で渋々した返事だったが、その顔には笑みが浮かんでいた。それが何に対してだったか誰も知らないが作戦の練り直しに一時間の時を有したのをここに記しておく。
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「え〜〜?そうかぁ?」
「これで凄いと思えないルフィさんの神経を疑うわ」
「それは疑っとこうぜビビちゃん……──チョッパー!バカを治す薬って」
「出来てねぇぞ」
「………………………だよな」
肝心の麦わらの一味はリィンを除いて厨房でワイワイ雑談をしながら夕食を食べていた。
どうせ見張り番はリィン。彼女なら放って置いても基本大丈夫だ。つまり仲間外れだ。
実際リィン自身そちらが有難いと思っているので拗ねはしない、ただあったかいご飯が食べれないとブツブツ言いながらウソップに一撃加えるだけだ。実害は無い。
「大体…ほとんど無傷で魚人海賊団滅ぼすって……化け物かよあぁそうだった常識が全く通じねぇ愛すべき馬鹿船長だったくそ!」
彼らが酒の肴(と言うよりはご飯のお供)にしているのは過去のあれやこれ、麦わらの一味暴走航海記だ。
本日の肴は『【頭突きも】種族の差などあってなきが如し【いけるな】』
ナミの故郷で起こった決して笑えない筈のイベント情報なのだが何しろそこを支配していた魚人海賊団はあまりにも不憫、そして呆気なく解決されてしまったのだ。聞いた途端サンジは頭を抱えた。これ、乗る船間違えた、と。
その感覚を共有したことがあるのかゾロが少しだけ優しくなったがそれに気付かないくらいにはショックを受けていた。
「ないわーーー。まず何より頭突きで倒すとか魚人が可哀想だ」
「その魚人…格闘家?みたいな魚だったんでしょう?なんというか、可哀想。BWにも数人いるって噂で聞いたことあるけれど不安が無くなってしまったわ」
「くぇっっ!」
「カルーも可哀想だーって抗議してるぞ」
あの場に居なかったサンジ、ビビ、カルー、チョッパーが引き気味にコメントを残す。
カルーに至ってはご自慢の羽をバッサバッサと広げて抗議していた。
「あれ見た時はスカッとしたわ!流石リィンよね!」
「……ナミさんってメンタル凄いよな」
恋は盲目。恋はいつでもハリケーン。
一体どちらの事を言ってるのか分からないがナミがタフな事は変わりない。
「でもよ、今までで一番肩書き的にスゲェ敵っつったらアイツしかいねぇだろ」
ゾロが食べていた手を止めて語る。
「どいつだ?」
「バギーだよ」
「んん〜?アイツ強かったか?」
ルフィが首を捻らす。確か細かい怪我はあろうどもほぼ無傷の勝利だったはずだ。
「だから、肩書きだっての。アイツ海賊王のクルーだったろ」
「おお!そんな事言ってたな!」
「「「はぁ!?」」」
慌てて会話を止める。
どういう事だと目でゾロに抗議すれば分かってるとばかりに頷かれた。新たな肴の登場だ。
「宝持ってるからって村ァ支配してた海賊討伐が最初の目標だったよな」
「正確には倒せなくても盗む。だったけどね、海賊は嫌いだったしどうでもよかったから」
「今は──」
「──リィンがいる海賊って最高よね!!ビバ!海賊ライフ!」
「お前がそれで幸せならいいけど、それはそれでどうなんだ………。当初メチャメチャ毛嫌いしてたじゃねぇか」
ゾロは心底呆れた声を出す。
「リィンが海賊王のうんちゃらかんちゃら、って教えてくれたんだよな」
「そう言えばバギーって賞金上がってたわよ」
「ぇ、そうなのか?なんでだ?」
「さぁ……前に見せてもらったことがあるから……。えっと、確か1億2000万…」
「それ、中堅レベルじゃねーかよ」
ウソップが戦慄した声を出すがルフィは気にしてなかった。
「ま、所詮肩書きだけだな」
ほらほらおしまいだ、と飯に戻るゾロ。
そんな時、ルフィが思い出したようにある事を呟いた。
「リィンの持ってた指輪の事なんだけどよ」
「──第1回!麦わらの一味緊急会議!!!!」
ナミが大慌てで口を開く。
「おーっと、これは意外な話題が出てきたな」
「ワカメ曰く結婚出来ねぇ女、なのに」
「ワカメってMr.5って呼ばれてた奴のことだよな?」
甚だ遺憾である、と本人が聞けば口を開いただろうが丁度居ないのだ。
ルフィは食べる手を止めないまま真剣に話し出した。
「2つの指輪が、首にかかってたんだ……どういう事だと思う…。俺は絶対嫁には行かさん!」
「えぇ、エェそうよルフィその調子よ!嫁に行くなら私の所以外絶対に許さないわ!」
「このリィンちゃん溺愛隊はどうにかならないのか…チョッパー、この2人」
「──診れねぇし治せねぇ。俺は万能薬にはなれねぇぞ」
「…………おう、なんかすまんかった」
船医チョッパー流石にお手上げ状態だ。
「とりあえずあいつが海軍にいた時に貰ったと考えていこう」
「あいつ自分の過去を全く語らねぇよな。海軍の雑用だった、鷹の目と知り合いだった、って事しか分からねぇ」
ウソップの言葉に一味のほぼ全員がうんうんと頷く。
「
唯一雑用時代を知っているビビも情報を追加する。
「レヴェリー?」
「選ばれた各国の王達が集まって四年に一回会議をするの。私の国もその一つでリィンちゃんは私の護衛を担当してたわ。私がお願いしてたの」
「それでか」
「10年くらい前に初めて会ったんだけど、だれだったかしら……大佐に面倒を見てもらってたわね」
「10年も前だろ〜?流石にお互い細かく覚えてないだろ。その時大佐って奴も昇格してるかもしれねぇ」
「そうね」
意見が交錯する中コビーは違うもんなぁ、とルフィが呟いた。
「コビー?」
「ナミと会う前、丁度ゾロと会った島でドンパチやったんだよ、海軍と」
「ああ、コビーか。そんなに前じゃない筈なのに随分懐かしいな」
「あなた達一体何をしてるの……」
思わず、と言った様子でビビが声を上げる。
話によるとそこで海軍志望の男の子がいて、リィンがBW組の様に海軍に送り込んだ、と言う話だ。
「海賊になった今でもコンタクトを取れる海兵が居たりするって事か」
「あ〜…それは1人思い当たるんだけどよ。絶対指輪の相手じゃねぇ」
「ん?そんな人知ってるの?」
「おう、今どんな仕事してるのか知らねぇけど偉いらしいぞ。俺は海軍よく分かんねぇ!」
「絶対、絶対違うのよね!」
「おう!」
ナミが疑いを確認をするとルフィは自信満々に答えた。衣食住の内食に熱意を注ぐルフィの祖父だ、絶対に血筋的に衣をこだわる、なんて事ないだろう。
「案外七武海だったり?」
「鷹の目と知り合いって言うのもあるから捨てきれない可能性ね……」
いつにも増して真剣に考察するナミ。
「クエーーッ!」
カルーが一鳴き意見を述べたが誰も分からないので
「ふんふん、革命軍もいる!って言ってるぞ」
「そうだった…!変なくらいの繋がりがあるんだったわ…!」
「あいつ空を平気でビュンビュン飛んだりするから行動範囲が本部内だけじゃねぇな」
「リィンちゃんは一体何者だよ……」
特定するには広過ぎる範囲に肩を落とす。
ダメだ、考えるだけ無駄な気がしてきた、と。
「俺は同期説を推す!やっぱり親しくなきゃ渡せないしタイミングってのもあるだろ!」
ウソップが考察を述べる。
いやいや、とその考察を否定したのはサンジだった。
「俺は鷹の目説だ。バラティエで見た時異様なくらい好かれていた…それが愛情か親愛か家族愛かどうだか知らねぇが。元海兵だぜ?ありゃ異常だ」
一理ある。だが、とそれに反論をしたのはゾロ。
「鷹の目は剣士だ、愛だの恋だの情だのに振り回されたりしねぇ!もし七武海って面子なら他の奴だろ」
同じ剣士としてロリコンだと言うのは考えたくないらしい。それもそうだ、自分の目指しているものがロリコンとか洒落にならない。
「じゃあ私は将校で…世界会議の時に心配そうに見守る方がいたわ。その、恋とかは考えたくないから親愛の方で」
控えめにビビが意見を述べた。
「おれは、革命軍説だ!だって海軍と革命軍や海賊って敵なんだろ?なのにこうやって助けてくれるのってやっぱり仲良しだからだと思う!」
チョッパーがワタワタと手を動かしながら身振り手振りで結論を述べるとナミが唸った。
「どの説も有りそうね……でも私は敢えて自分で用意した説を推すわ!むしろそれ以外信じたくない!」
その結論にゾロはやっぱりな、と言う視線を注ぐ。
「ルフィは?」
「そうだなぁ……」
ナミの声にルフィが頭を悩ませる。
「……兄ちゃん説」
「リィンにお兄さん居たの?ちょっと意外」
「本人も居るって言ってたし間違いねぇだろ」
そんな時、一声カルーが鳴いた。
「クエーーッッッ!」
「なんでリィンが2つ持ってるんだろうって」
「え…?カルー、一体どういう事?」
「クエッ、クエーー」
「普通のペアの指輪なら一つずつ持つ筈だ、って」
「そ、それもそうね!カルー凄いわ!」
カルーの指摘にナミの説が一層強くなる。
「クエッ」
「でも」
「クエーー…クエックエッ」
「自分で用意したんなら一つだけだと思うって」
「「「「「「………」」」」」」
カルーの鋭い考察が場をより一層混乱に陥れた。
恐ろしやカルガモ。この場で一番賢いかもしれないぞこのカルガモ。
「はーー、お腹すきたー!ご飯くだ…───何事?」
異様な雰囲気の室内に一人首を傾げる雑魚がいた。