2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第110話 第一雑用部屋=月組

 

 

「馬鹿共のせいで時間が無駄になった…!」

 

 ナミさんがブツブツと文句を言ってその肩を慰めるように手を置く。

 

 黒髪コンビ(ルフィとエース)が盛大にやらかした。この地域には海水に生息するクンフージュゴンを倒してしまい弟子入りとかふざけた大所帯になりかけたので説得しましたよ、私が。

 

『他人に教えを乞うなかれ!己で武道の道を高めるべし!』とね。

 

 クオークオー言ってたしチョッパー君の翻訳では納得していたらしいから大丈夫だとは思うけど。

 ま、独学で強くなれるんだったらこの世界ぼっちが最強になってるから。他人に何かしら教えてもらわないと覇気とか知らないまんまだったし絶対自分だけで最強は無理だけど。

 

「黒いマントじゃないんだな、お前」

「BWには死亡、という情報を流すているのですから堕天使がいるを察する禁止」

「お前最近口調ボロッボロだな」

「癖」

 

 下の服は何故か踊り子の服だけどマントは違う。いつもの黒や女狐の白じゃなくて茶色のチョイスにしてる。

 理由はここが砂の国だから少しでも目立たないようにしたいなーって感じ。

 

 

 

「さて、ここから半日歩き通しか」

 

 エースが屈伸をしながら呟く。

 現在地エルマルから北西に半日、そこに反乱軍が拠点を置くユバがあるという。

 

「ついさっき反乱軍への潜入班に確認を取ったらユバにいるっつってたからそこで説得だな」

「これが一番大変ぞ、任せるしたサ…んぼうそーちょうさん」

「テメェが名前言うなって言っときながら何戸惑ってんだ阿呆狐」

「やめろ、やめろ……」

「堕天使」

「もっとやめるしろ」

 

 サボがドSで辛い。

 

「にしても〝緑の町〟ってより砂漠の町だよなぁ」

 

 サンジ様がキョロキョロと周囲を見渡しながら感想を述べるとビビ様が苦しそうに笑う。

 

「ここ3年首都のアルバーナを除いて1滴の雨さえ降らない大事件……それが今のアラバスタの現状よ」

 

 コアラさんがビビ様の代わりに説明を引き受けた。

 

「人々は〝王の奇跡〟と呼んだけれどあまりにも異様。そして2年前、反乱の種が蒔かれた──」

 

 港町のナノハナで積荷がばらまかれたという。

 そしてそれは人工的に雨を降らし風下の雨を奪う〝ダンスパウダー〟だという事も。

 運び屋は『アルバーナのコブラ王に』とハッキリ明言してしまった様で王に疑いの目が向けられている事も。

 

「世界政府はこれの所持と使用ぞ禁止です」

 

 私がそう言うとマルコさんが顎に手を置いて一般的な見解を述べた。

 

「……どう考えても国王が怪しまれるよねい」

「えぇ…、畳み掛ける様に運ばれる大量のダンスパウダー。今思えばこの時からクロコダイルの壮大な計画は始まっていたのかもしれないわ」

 

 ビビ様が返事をポツリと呟く。

 

「無実の国と反乱軍が戦い殺し合う、人々は疑心暗鬼に陥る、飢えて死んでいく───私は彼を許せない!この国を狂わせたクロコダイルを!!」

 

 泣き叫ぶ様に本音を零す。

 実際涙は流していなかったけど。

 

「クロコダイルは恐らく、この国に居座る時より計画すていたのです」

「え…」

「怪しまれた国にわざわざ居座るより、英雄として信頼された頃より、地位や評判が安定してしばらく…計画ぞ開始した。と推測するです」

「そん、な……前から」

 

 震えるビビ様の声。

 はー……気付かなかった国も身近にいた私も飼い主の政府も色々責任はあるけど。何を企んでいるのやら。

 

「誠に頭が痛い……この中で一番七武海と身近は私です。例え関わるが無くとも、七武海の習性はご存知済み」

 

 裏をかけ、言質を取られるな。

 

 彼らを相手にして10年間学んだ事だ。

 

「海賊は、どこまで行こうとも海賊!例え、ストーカーでも戦闘狂でもロリコンでも引きこもりでも所詮海賊」

「わー………流石被害者……」

 

 コアラさんの同情した小さな声が背中から聞こえる。よせやい、照れるじゃねぇ…か…………。

 

「うし……行くか」

 

 ルフィの声に再び歩き出した。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「余計な真似をしやがってポートガス…!」

 

 イライラした声のスモーカーにそっと距離を置く周囲。その中で近付くのはリィンの同期であり同室でもあった元雑用、天使愛好会幹部達だった。

 

「まー…ストーカー大佐、落ち着いてくださいって」

「グレン!このお荷物野郎に名前をきちんと覚える様にしつけとけって言っただろう!」

「スモーカーさん無茶言わないでください…やっと10…いや11年目にこの脳内花畑野郎から解放されたと思った瞬間囚われた俺の絶望も考えてください」

「ようグリンピース」

「もはや人の名前じゃないだろって」

 

 色濃い疲労に思わずスモーカーでも同情してしまう。

 リック、恐ろしい。言語不自由なリィンでさえ短縮して呼ぶだとか頭を使うし慣れれば言えるしそもそも短いと間違えたりは(ほとんど)しないと言うのに。

 

「スモーカーさん!遅くなりました!麦わらの一味は…!」

「たしぎテメェリックのお世話係決定な」

「そんな…!ひ、酷いですよスモーカーさん!」

 

 たしぎはあまりの通達にショックを受ける。張本人のリックはスモーカーの目の前で座り込んでニコニコしているのが印象的だ。

 

「………お前らどう思う、奴らと一緒にビビが居たんだ」

「ビビ…!?ネフェルタリ・ビビ王女が!?」

 

 驚いた顔をするたしぎ。

 

「はぁ……やっぱりリィンの奴か?でもあの場には居ねぇし…。なんっか嫌な予感するな…書類を押し付けられる様な嫌な予感が」

「リィンって、海賊に堕ちた堕天使の事ですよね……。どうしてビビ王女と関連付けるんですか」

「んあ?言ってなかったか、つーかたしぎは護衛隊には入ってなかったもんな……。ビビとリィンは幼馴染みだ。世界会議への護衛も同行していた」

「ただの雑用がですか!?そんな重要機密に関わる事をどうして」

 

「リィンだからな」

「リィンちゃんだからですよ」

「天使なら仕方ない」

「リィンならしゃーないっす」

「あいつだからなぁ」

「予想外が売りだもんな」

 

 旧知の仲が全員ほぼ同じような事を呟く。

 

「たしぎ先輩の言い分は常識的に普通なんですよ、俺は分かります。俺は」

「おいおいジャーマンそれだとお前以外は常識が分からないみたいじゃないか」

「非常識人の代表クラスのお前が言うな名前を間違えるな俺はグレンだって…──まぁ続けますけどたしぎ先輩の理解はご最もです」

 

 むしろそれが正しい、と頷く。

 

「でもですね、アレは異常です。多分疫病神に好かれてます。じゃないと七武海にあんなに絡まれませんって」

 

 おかしいのは向こうの方だ、と言う。

 

「ま、それ云々にしろ……この国は臭う」

「へ?ストルイピン大佐の煙じゃなくて?」

「………グレン」

「お前もう本当に黙っててくれ」

 

 スモーカーの指示を察して、グレンはリックを締め上げた。

 スモーカーは額に手を当てて深いため息を吐くと考察を続けることにした。

 

「この国にはもう一つ懸念がある。七武海だ」

「スモーカーさんは七武海嫌いですもんね」

「ああ……大っ嫌いだな」

 

 吐き捨てるように言う。

 でも、とたしぎが反論に移った。

 

「七武海は立場的に言えば政府側です…」

「奴は昔から頭のキレる海賊だ。……大人しく誰かの下に付くようなタマじゃねぇんだよ」

 

 やけに心のこもった言葉にたしぎは更に首を傾げる事になってしまう。同じ状況なのは2年ほど前にスモーカーの元にやって来た軍曹もだ。

 

「あー…サー・クロコダイルは厄介ですよね」

「キレるっていうか…短気?」

「そこじゃないだろ」

 

 何故かたしぎや軍曹らよりスモーカーの事や七武海に対して詳しい元第一部屋勢。

 

「ん?アイツから聞いてるのか?」

 

「基本話さないッス」

「時々愚痴がポロッと出てくるくらいで」

「馬鹿やらかしてる時とかに爆発するよな、七武海爆ぜろって」

「お茶汲みという名の七武海押し付け係は初期から知ってますし付き合い長いと察しますよ」

 

 肩を竦めたり懐かしいと笑う彼らにたしぎがまた疑問を投げかける。

 

「その、堕天使は海賊ですよね……?」

「えぇ。でも俺ら月組は関係ないんです」

 

 やけにハッキリとグレンが言う。

 

 月組、とは元第一雑用部屋の殆どが幹部である『天使愛好会』の合言葉『月と太陽』から来てたりする。

 

「表面だけ見れば普通に好感は持てます。でも裏を知れば苦手な人も多いです、基本海兵に向かない性格してますから」

「海兵に向かない性格…?」

「隠し事が多かったり利益優先…と言って最終的に、ですけど。あと犠牲やむなし、それに自分優先です」

「そ、れは……確かに」

「でもきちんと中身を見れば好かれるんです。下心とか逆にさらけ出してる態度だと信頼されてるんだなって思いますよ。七武海のお茶汲み雑用してたんで守秘義務とかあると思うから隠し事が無いって訳じゃないですけど」

 

 たしぎは彼らの様子を見て思う。

 彼らはお互い『信頼』しているのだと、それは過去の事に対する『信用』とは違うな、と。

 

「『こいつらになら少し秘密を洩らしても言いふらさないだろうな』って信頼が目に見えて分かった時は本当に嬉しかったッス」

「あぁ、あれか。迷子のイル君お泊まり事件」

「ふははっ!アレは嬉しかった、頼りにしてくれてる事と信頼してる事がスグに分かって」

 

 この場にリィンが居たらなんというだろうか。照れるだろうか、それとも当たり前だと開き直るだろうか。

 

「………月組俺のとこじゃなくてホントどっか飛べよ……」

 

 具体的に言えば女狐辺りに、と言葉を飲み込む。

 

「ま、信頼してるんですよ。海賊でも」

 

 で無ければリィンがローグタウンで笑顔など見せない筈だ。嬉しそうに駆け寄ったりしない筈だ。

 

「イル君の正体に俺達が気付いてるって知らないだろうなぁ」

「ちょっと話せば埃みたいに出てくるのにな」

「やっぱりなんか隠してるよなぁ〜」

「馬鹿だと思われてるのか阿呆だと思われてるのか…これでも1回りも2回りも歳食ってるのに」

「俺もしもクロコダイルと会ったら笑う自信しかない」

「「「「「分かる」」」」」

 

「お前らは一体何を体験したんだ月組」

 

 よっ、とスモーカーが立ち上がる。

 

「覚えておけたしぎ。海賊はどこまで行こうと海賊」

 

 そして不敵に笑った。

 

「んで、海賊であろうと俺や月組はリィンの味方ってこった───船を出すぞ、麦わらの一味を追う。敵は敵だ、グレン、テメェは積荷だ!クレス、お前は武器の補助に入ってろ!あぁグレン積荷にはリックも入ってるからお()りだ!」

 

 テキパキと指示を出しながらスモーカーは状況が掴めてない部下を思う。

 

「(……許可が取れたら立場を話してやる。だから殺すような事は避けろよ)」

 

 頼りになる女剣士はどうにも頭が堅いようだ。

 

 

 

 




昔と少し認識が違ってきてる雑用同期組。
昔『天使、崇めよ、はぁ〜〜〜、尊い』
今『あ、天使。ハイハイ可愛い可愛い。ところで何があったんだアレは』

ちょっとした設定
リック→月組のトラブルメーカー。名前を覚える才能皆無のあんぽんたん。
グレン→月組1の苦労人。おかしな同期に振り回される死霊使い(真)
クレス→又の名をMr.平均値。平凡なのが最近の悩み。
オレゴ→武器はライフル銃、狙った獲物は百発十中の狙撃手(物理)
サム→目標は一攫千金。天使撮影係とはオレの事。賭け事が好きだけどとことん外す。
ポート→影と頭が最近薄い。でも気にしない、ただ家出してるだけだから。毛根が。

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