カジノから出るとハックさん、サンジ様、ゾロさん、チョッパー君と合流した。
後ろの方からたしぎさんや同期達が追いかけているのが見える。外で待機してる内に見つかってたのか。
「よぉ船長。無事か」
「あぁ、クロコダイルぶっ飛ばしに行くぞ」
ゾロさんが片手を上げて無事を確認するとルフィは真剣な顔で答えた。
どうやらゾロさん達はクロコダイルらしき人物が首都アルバーナの方に向かっていくのを目撃したらしい。
「スモーカーさん!無事ですか!」
たしぎさんは慌てて刀を構え直して私に警戒してきた。おいおい、私かよ。
「堕天使…あなたの経歴は聞きました!どうして海兵ともあろう者が海賊なんかになってしまうのですか!」
なるほど、この一味で『元々海賊』より『元々海兵だけど海賊になってしまった』私の方がたしぎさんにとって許せない人物なのか。めんどくさいな。
たしぎさんは多分私なんかより強いから不意をつかない限り負け戦だし…そもそもこんな事に時間取られてる暇は無いし、と思っているとスモさんが私の前に出る。
「たしぎ、とりあえず剣を下ろせ。緊急事態だ」
「は、え?」
「恐らく七武海が二人、今から相手になる」
「なんですって!?」
スモさんがたしぎさんにそう声をかけると、同期、オレゴさんたちが後ろで息を整えていた。
「ス、モーカーさ、ンッ、アルバーナ方面にクロコダイルと、ドフラミ、ンゴが…ゲホッ」
流石本部務め、七武海の姿はすぐに把握出来てる。第一雑用部屋は私がいる分関わりが合ったのかもしれない。
「チョッパー君、足は?」
「ラクダのまつげの友達がヒッコシクラブだったんだ!運んでくれるって!」
「ありがとうです!」
足の確保が出来ている優秀な船員にお礼を言って海軍に向き直る。
自然とどちらの視線も私の方に向く。
「スモさん、古い友人として、仕事仲間として。
「…………お優しい事だな、命令たァ」
私の言葉の端の意味を正確に読み取ってくれるスモさんは天使でした。知ってる。
私の本来の立場を知っているからこそ『上司からの命令』で七武海討伐を優先させる。スモさんの独自の判断じゃなくて女狐の判断に従った事にするんだ。
「国盗りを目論むクロコダイルの部下、BWの幹部の目撃情報を集めるして私に寄越すしろ。1部は反乱軍の暴動を抑える様に。そして王族の保護を最優先。──まとめる為ならば何を使っても良し」
「……言ってもいいのか?」
恐らくスモさんは女狐の名を使うことだろう。私は無言で頷くとスモさんがニヤリと笑って言い放った。
「任せろ」
握り拳をぶつけ合い似顔絵を渡す。フロンティアもオフィサーも1枚ずつしか無くてすまない。
「クロコダイルとニコ・ロビンが組む時点で只の国盗りじゃねぇ。世界を揺るがす事になる。───いいか麦わらの一味共、俺がテメェらを見逃すのは今回だけだぜ…!」
「俺、お前のこと嫌いじゃねぇな!ししし!」
「黙ってろ麦わら!」
十手を振り回してルフィから距離を取った。
海賊だから馴れ合いはしないみたい。
「──リィン君!」
大人特有の色っぽく低い声が上から聞こえて空を見上げるとファルコンが舞い降りてきた。
「ペルさん!?」
「ビビ様は…一体どこに!」
「別行動中です、協力してくださいです!」
アラバスタの戦士、顔を合わせた回数はそう多くないが世界会議に行く中では雑用の私に良く気遣ってくれるナイスガイ!
最速の足を見つけてちょっと嬉しいでござる。
「即戦力をアルバーナに投下するです」
「即戦力?リィン君ちょっと待ってください、クロコダイルはどうやって」
「マルコさん聞こえるですか!?」
『聞こえてるよい』
「河、一直線でアルバーナに向かうです。ビビ様も恐らくそこです。アルバーナより先にゾロさん達と合流お願いします」
『革命軍の嬢ちゃんは?』
「反乱軍の方を!なんとか!」
「よぉ、白ひげのマルコ」
電伝虫で指示を飛ばしているとスモさんが割り込んできた。電伝虫の向こうで驚いたんだろう、電伝虫の表情が一瞬こわばった。
「今からグレンっていう海兵を反乱軍に当てる。海軍の手があった方が反乱軍抑えるためには丁度いいだろ」
『え!?は!?あ、リィンお前の仕業か!』
スモさんはこれまでの状況である程度察してる様だから有難い。敵はあくまでも七武海、という認識だからこそこうやって協力してくれてるんだと思う。
「………マルコさんはゾロさんを迎えるして来て、頼むますた不死鳥」
『分かった』
「ペルさんは参謀総長とエースをアルバーナに連れていくしてください。恐らくそちらの方が早いです」
「あ、あぁ。分かったよ」
恐らく幹部は最終舞台となるアルバーナに集結する。ゾロさんは幹部討伐の戦力、ルフィはクロコダイル討伐の戦力。エースとサボはドフラミンゴ対策として王宮に連れていく。実力がそこまで高くない面子はあとを追って貰うことにする。
歩くとなるとアルバーナまでかなり時間がかかるから飛べる組で少人数ずつ運んで行かねば。
1刻1秒争う、文句は言わせん。
「待ってくれリィンちゃん」
でもサンジ様の文句は聞かないとなぁー!?聞くだけね、聞くだけ!
「俺もマルコについて行かせてくれ」
「何、故」
思わぬ提案にリィンさんドキドキです。
「俺だってくそ剣士に負けない位の戦力は持ってるつもりだ。キミの前で戦った経験が少ないから信用出来ないかもしれないけど……頼む」
王族のお願い=断れない。
はぁぁ………断りてぇえええ……!
「分かるました………」
「…!」
「是非、力をお貸しください」
頭を下げる時間すら勿体ないのでルフィに許可を貰う。これで構わないか、と。
「俺は自分の妹を信じてるからな、それでいいよ」
「ありがとう」
船長の顔を立てる、とかしてないから若干辛い状況だろうに嫌な顔せずに受け入れてくれる船長まじ天使。
私の周りが癒しに満ちている……その分災厄が降り掛かってくるけど!
「たしぎぃ!」
「は、はい!」
「本部に連絡を入れろ、現在アラバスタ周辺にいる軍の船を全部集めておけ」
「え、は、はい!」
「──事が終わっても、逃がすとは言ってねぇからなぁ?麦わらの一味」
「……にゃろ…。上等だ!」
ニヤリとスモさんが笑うとルフィが対抗してニッと歯を見せて笑った。
ははは…終わらす気満々だな。これは私も負けてられない。
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「はい、こちらリックのお守りでナノハナ待機の可哀想なグレンです。スモーカーさんご要件は?」
『緊急事態だ、喜べ、お前に仕事が出来た』
少しの人数がナノハナに残っていた。
その代表グレンに電伝虫でスモーカーがあらましを伝える。
グレンの周辺を固めるのは同期達。
リックに続きそれなりに長い年月を共に過ごした仲間達だ、お互い視線だけである程度意思疎通が出来る。
電伝虫がかかって来た時からグレンはリックに視線を寄越していた。するとリックが頷き全員が集められる事になった。
『──ってわけらしい』
「やっぱりやってましたかクロコダイル…」
はぁ、とため息を付いたグレンの肩にポートがそっと手を置いた。頑張れ苦労人、私の代わりに。という気持ちを込めて。
それに気付いてかグレンが睨むとすぐに退散したが。
『お前らなら文句言わずに従ってくれるとは思うがビッグネームからの命令だ』
「ビッグネーム、ですか?」
『大将女狐からの命令は反乱軍を止めろ、だとよ』
「うわ…そりゃ確かにビッグネームですね」
女狐がこの件に関わっている事に少々謎を覚える。確かにあの方は国に関連する仕事を担う事が多いが。
そしてふと一つの仮説が浮かぶ。
「スモーカーさん」
『…………なんだ』
「その命令を下した人の、名前、変えられません?やる気が起きないんですけど」
『………』
グレンの言葉を始めに、ほぼ全員が同じ仮説を思い浮かべる。
この島の現状を把握していて、海軍所属、スモーカーにわざわざ命令をさせた。秘密が多い女。
『…リィンからの命令だ!テメェら絶対反乱軍食い止めとけ!どんな手を使ってもアルバーナに近付けるなよ!』
「「「「はいっ!」」」」
聞いていた全員が声を揃えた。
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「女狐からの命令…ってどういう事ですか」
海賊や革命軍が巨大なカニに乗って去り、レインディナーには海軍が残されていた。
先ほどの会話を横で聞いていたたしぎが混乱してる頭でスモーカーを見上げる。
「……オレゴ、聞いてたな」
「ハイッス…。やる気出ました」
「出発の準備しておけ!」
「ハイ!」
月組の1人、オレゴが敬礼をすると周囲は呆然とした。女狐の名を言い直した時、リィンだと言ったスモーカーに驚いたままだった。
そして下した命令は堕天使との会話と変わらない内容だったから尚更だ。
断言されずとも、ここまで情報が揃っていればバカ以外察せれる。
いち早く察した月組が先輩の背を叩きながら走り始める。
「(……やっぱり月組は使えるな、統率力が抜群に優れてる。流石リィンと最も長く共に過ごしてきた奴らだな)」
正直一般兵で置いておくのは勿体ない程の能力。
「(奴らをフル発揮するには…)」
少々厳しい判断かもしれないが将校以下の部下を月組で固めるのもいいかもしれない。
だが現在の月組は総勢は26人程度。少ない、あまりにも。
「(まぁ後々考えるか…)たしぎ、俺がアイツに気を許してる理由が分かったか」
会話が必要だと察したのか月組が他の部下を仕事につかせる。一応上の階級の者がいる筈なのだが良くやるな、と感心しつつスモーカーはたしぎに視線を移した。
「理由は、分かりました。が、理解は出来ません」
「ほぉ」
「彼女、悪魔の実で成長が止まってたり……」
「してないな」
「………もっと出来ません」
潜入などは察したのだろうが最高戦力の地位に就いてる事は理解出来ない様だった。
スモーカーはそれもそうだと1人で納得する。
自分だっていきなり世界会議への護衛にとツーランクの地位を上げられカモフラージュだとカミングアウトされその驚きを共有する人物が居なければタダのおふざけとしか思わなかっただろう。
「たしぎ、よく見ておけ。国の乗っ取りなんてさせねぇが時代の節目にゃこういう事が絶対起こる。テメェはテメェの目で見てみろ」
「え、ちょ、スモーカーさん!」
「さてと、気合い入れ直すか…!」
今出来るのは親友の手足となる事だ、と頭で考えながら一足早く愛用のバイクに跨って出発した。
容赦ない信頼がリィンを襲う…!!