「コブラ様が居なくなった、だと!?」
チャカは宮殿内を隈無く探した兵士の報告に仰天した。昨晩ビビのペットであるカルーがアラバスタに報告をしてクロコダイルが敵とわかったのに、だ。
何を考えているのか、はたまた誘拐されてしまったのか。反乱軍に今のところ動きは無いがコブラ失踪が何かしらの一因になってしまったら。
そう考えるとひやりと汗をかく。
「探し人はペルの得意分野だが…今はレインベースか。くそ、一体どうすれば…」
一触即発の状態を保っているがいつまでも保てる訳では無い。昨晩出された指示、レインベースへ向うことも異常事態では決行して良いのか迷いどころだ。
不安さを隠し必死に考える。
少なくとも宮殿内には居ないのだろう。
どうすればいい。どうしたら正解なのか。
「絶対に見つけ出すぞ」
「はっ…!」
ひとまず動かないことには何も進展しない。
事態の速やかな収束に励んだ。
BWの手の内に、入ってないようにと願いながら。
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「(これからどうしましょうかねーい)」
【ナノハナで王に化け「ダンスパウダーを使ったのはわたしだ」と認める。その後街を燃やせ】
そう指示されたが動けずに居たMr.2はアルバーナで人混みに紛れていた。
「(他の子達の指示は分からないし…あちしはどうしてたらいいってのよう)」
マントを被りブラブラするとどう動けば最良か、将又悪手になるのか分からない。
記憶を失って悲しい思いをさせた心友(笑)の為にボスの指令に従ってはいけないのは分かっていたが。
「はぁ…」
このままだとタコパみたいにあやふやだわねい、とブツブツ言いながら周囲を見回すと見知った顔を見かけた。
「Mr.3じゃないのよう!」
「うわっ、オカマ野郎」
「アァン?」
大きめの麻袋を担いだMr.3とそのペアミス・ゴールデンウィークがMr.2の存在に気付いた。
「何してるのよぅ。指令?」
「あ、あぁ。王女をちょっとな」
「(王女…?)」
よくよく見ればその麻袋は人が1人分入る程の大きさがある。女性なら簡単に入るだろう。
細身のMr.3であろうが麦わらの船の上でみた女性陣の1人なら軽々と運べるかもしれない。
「ふぅん……」
てっきりビビ王女は心友(笑)と一緒に行動してると思っていたMr.2は顔に出さずとも驚いた。
まさかこちら方面に残っていたとは思わなかったのだ。しかも、クロコダイルによれば麦わらの一味達はレインベースにいるというのに。
「(ゼロちゃん…まさかこうなることを読んでた?もう、あやふやだわねい!あちしあやふやにするのもしたのも好きだけどこうも思考が絡み合ってるとわからないわよう!)」
ボスが七武海という事にも驚いたが頭の回り具合にも驚いた。部下には必要最低限の指示と情報しか渡さない行動にも。
裏切り者がどこかで出てくると思っているのか、それともただ単に信じないだけか、一匹狼気質なだけか。
「お前はこれから何をするつもりガネ?」
「…あちしの任務は終わったわよ〜う!良ければついて行っても?」
「あ、あぁ…構わないガネ」
にまっとした笑みを浮かべると了承を得たのでついて行く。出来れば誰かと合流する前に王女を助け出しておきたいがそうなると手の内がバレてしまう可能性がある。Mr.2は自分がこの計画の真髄を握っている事を理解していた。自分が動かなければ決定的な打撃を国王側に与えない。しかし自分が動かなければ事態が変わらないので裏切り者だとバレる可能性がある。
新たな手を打たれてしまう可能性が。
「……」
「ん?どうしたの、ゴールデンウィークちゃん」
「…………」
「……な、なによぅ」
じっと見つめるゴールデンウィークの存在に気付いて若干冷や汗をかく。
「……べつに」
「そ、そう」
「……あなたが嘘ついて様が、関係ないもの」
「へ…」
「その代わり。ボスが負けたらあなたの所にいかせて。死にたくはない」
バレてる。
裏切り者だと。
「ミス・ゴールデンウィーク?どうしたガネ?」
「………べつに」
Mr.3は気付いて無いのが幸いか。
Mr.2は警戒心を強めて彼らに付いていくことになった。場合によって、口封じの覚悟をしながら。
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『リィンからの指示だ、サンドラ河にいる奴らをアルバーナに送り届けてBWの幹部を叩いてくる』
窓から青い綺麗な不死鳥に変化して窓から飛びだったマルコを見送るとコアラは反乱軍の説得に力を入れ始めた。
「まだだ、まだアルバーナには行けない」
「何でだよコーザ!武器も揃った、もう待つ必要無いだろ!」
マルコが飛び立つほんの少し前、カトレアの港に武器を積んだ交易船が何故か乗り上げた。
船員は全員逃げ出し、反乱軍全員に武器が渡るには充分過ぎるほどの量が手に入ってしまった。
コアラとて革命軍の幹部候補、これはクロコダイルの一手だとすぐに気付きコーザに忠告をした。しかし膨大な人数を抱える反乱軍だ、例えリーダーや幹部が止めようとしても上がりきった士気は落ちることなく反論へと繋がった。
出発を遅らせたい少人数の幹部+部外者、そしてスグにでも攻めたい大勢。押し切られるのも時間の問題だ。
「(かろうじて…決定打が無いから抑えてられるけど…、やっぱり無茶だよリィンちゃん!)」
クロコダイルの事を言わない、という条件がここで首を絞める。何故だ、という質問に正直に答えられずに押し問答を繰り返しているのだ。
「催眠にでもかかってるんじゃないのか、そこの女のせいで!」
1人の男がコアラを指さした。
この場に相応しくない唯一の部外者、革命軍に。いくら革命軍と言えどもアラバスタ国民では無いコアラが疑われるのは少し予想していた事だった。
「そんな事できません!」
否定はしたが1度その意見が出てしまえば疑いはなかなか払拭できない。
何度否定しても、いや、むしろ否定すればするだけ疑わしくなる。
「この…!」
一人の男が抑えられず殴りかかろうとしたその時、パシリとその腕を捉えた人物に全員の視線が集まった。
「(海兵……!?)」
「……どうでもいいけど。女に手を上げるのは童貞の道まっしぐらだと思うよ、魔法使い目指してる?ごめんね邪魔して」
「ふざけるな!」
「うん、ふざけてる。本部務めに女なんて居ない、いるのはおっかねぇ鬼婆ばかりだ。安心しろ、俺も童貞だから。多分もう少しで魔法使いになれる気がする。嫁さん欲しい」
え、こいつは本当に海兵か!?
あまりの態度に全員が驚き止まる。
海兵はゆったりとした口調で全体を見回した。
「とりあえず周りは海軍で固めてるから動けないよ、キミらを確保するつもりは全くないし結構私情で動いてるから。俺ら」
「キミが、グレンさん?」
「あれ?なんで知られてんだ…。白ひげのマルコは?」
「えっ、と……」
お互いが知っていることに驚く。コアラはマルコがいた事に、グレンは名前を知られてる事に。
「いいや。リック、こいつ」
「お、おう?」
「ポート、お前のすぐ前」
「ん」
「ニコラスは右よりの緑マント」
「あいよ」
「とりあえずこいつら、敵です」
「「は!?」」
同僚に指示を出したグレンは3人の男を眺めた。
「やっぱり黒い…」
「お、おい!お前ふざけてんのか!」
怒鳴る男をスルーしてコーザやコアラに向き直る。状況に付いていけない反乱軍は見守ることしか出来ずにいた。
「あのさ、金髪の女の子に何か言われてない?」
「リ、ィンちゃん…になら反乱軍を止めてっ、て」
「あー…なるほど。条件は?」
「……本人が自白するまでクロコダイルの事を伝えずに、かな」
コアラが小声で伝えるとグレンは納得した顔になった。だから状況がこんなにも混乱しているのか、と。
「キミ、一体」
「あー、俺の名前はグレン。見た通り海兵です。そこにいる海兵は俺の同期でリィン信者」
「バカ!バッカグレン!必要かよその情報!」
「必要だから言ってんの!」
反乱軍全体を見回しながら告げる。
「この一連の事件には第3者、BWという組織が動いて影で操っています」
「ッ!」
「あぁ、そこに捕まえた3人はそのスパイね」
どういう事だという視線が飛び交う。
コアラは驚いた、リィンが手回ししたものか不明だがこの男が3人もスパイを当てた事に。そしてBWの事をすぐに告げた大胆さに。
「はい次、リアンはそいつ」
更にスパイと思わしき人間は次々と引き抜かれてゆく。
「ヒッ…!」
「リック!頼んだ!」
「おう!」
そんな中逃げ出す男が居た。予想していたかの様に近くの海兵に捕らえるよう指示を飛ばす。
「次々と当てられるスパイ。逃げるくらいやましい事が…あるんだよな?」
逃げ出そうとした男に近付いてグレンはにこりと笑うと悪手に気付いたのか男は青い顔をした。
「……………すごい」
コアラの口から零れ出たのは純粋な賞賛の気持ち。
それに気付いてか、グレンは全員に向かって諭すように言葉を続けた。
「夢中に走るだけが最善策じゃ無い。話、聞く気になった?」
その声に反対の言葉など出なかった。
「助かった、海兵」
「これも上からの指示なんでね」
クロコダイルや細かな構成人数を伝えずにBWのあらましの概要だけ伝えると反乱軍は一気に混乱に陥った、が決してアルバーナにはいこうとしなかった。
それがBWにとって望むことだと教えたからだ。
幹部が集まる小屋に何故かグレンなどの海兵がいる事にコアラは少し恐怖を感じたが確認しなければならない事もあるので向き合う。一応、見た限りコアラの方が強いだろうと感じ取ったからだ。
「さっき、次々とスパイを当てていったけど。どうして…そんな事が?」
海軍はつい最近までBWの情報を掴んでいなかったし、構成員など誰もわかるはずが無い。
「簡単だよ、一目見れば魂が汚れてるのが分かる」
「いや、流石に分からないんだけど…」
「んー…、やっぱり俺が死霊使いだからかな。あ、なるべく漏らさないでくれよ?」
「え…し、死霊使い…! ──って、何?」
「………帰って親玉に聞いてみろよ」
驚くも首を傾げるコアラにグレンは思わずため息を吐く。月組程とは言えないがそれなりにキャラの濃いお嬢さんだな、と思いながら。
「グ、グレンさん?ってもしかしてリィンちゃんと同期で同室だったって言う人?」
「あ…ひょっとしてちょっとは話聞いてる?俺は決して会員じゃないが、俺の同室…まぁこの場に派遣された海兵はリィンファンクラブ的な奴の幹部だよ。馬鹿げてるよな、本当に!」
グレン自体は決して入ってないと否定するが後ろから飛びついた男が否定した。
「いやいやグレートバリアリーフだって幹部だ」
「重い!どけ阿保リック!あと俺の名前はグレンだっての!」
「サイノックレンだって会員ナンバー0のスペシャル幹部だ、いえーい!」
「おまっ、入らなかったからって意味のわからん地位につかせるな!どっちかと言うとスモーカーさんファンクラブだっつーの!」
「あの2人は親友だから別に同じじゃね?」
「俺をロリコンにしようとするな!!!」
「はいはい…喧嘩は外でやってよね」
口喧嘩を初めたグレンとリックの代わりにニコラスと呼ばれた優しそうな男がここに至るまでの話をし始める。
「あー…ごめんなさい騒がしくって。とりあえずここにはリィンちゃんの指示って事になってますから」
「は、はぃ…」
「指示を出されてるのは反乱軍を止めること
「………、ありがとうございます」
「気にしないでください」
『革命軍が居たとしても捕らえることは無い』と言われてコアラは素直に頭を下げる。
マルコという抑止力が居なくなり、未熟な自分だけが残り、手に負えなかった状態で助けられ、更に見逃す事も伝えてくれる。ホッと一安心して、涙が自然と溢れてきた。
「あぁ泣かないで下さい…。大丈夫、よく頑張りましたね。僕らも手伝うので安心してください」
「う…ご、めんなさい」
「うーん、謝られるのは好きじゃないなぁ」
「……ありがとうございます」
ハンカチを取り出してニコラスが涙を拭く。
「よっ、月組のママン」
「お母さん流石」
「娘の扱いは御手の物って感じだな」
「あんたらは働きなさい!グレンしか働いて無いでしょう!」
茶々を入れる仲間を叱りながら月組のママンと呼ばれた男はコアラの背を撫でた。
ニコラスは身長2mの筋肉質な海兵だが。
死霊使いはローグタウンでちらっと概要があった通り魂を見る体質、のような感じです。
『国の為に動く反乱軍』と『私利私欲の為に動くBW』では魂の質と言うか色が違って見える、という感じですね。月組は統率力と柔軟な判断が売りですが決して強くありません。