「ここからどう動きましょうかねィ」
ビビをわざと取り逃がしたMr.2は反乱軍を追うと見せかけて国王奪還のチャンスを待っていた。アルバーナの絶壁など恐るるに足りない、倒れている心友のためにも。
幸いな事に彼女には素敵なナイトが3人も付いている。ならば影から助けるのが自分の役目だろう、と。
南のゲート付近の崖に縛り付けられたコブラをどうやって取り戻そうか考えていたその時。
──ズダダンッ!
二つの塊が空から降ってきた。
「な、っ──って、麦ちゃんの所の剣士ちゃん」
「お?あ、オカマ野郎」
「あ〜、こいつがか」
急いでオカマ拳法の構えを解いた。セブラ柄のマントを来た緑髪の剣士ゾロと暑い中スーツをぴっちり来ている黄色い髪のコックサンジが砂漠を眺める。
「あれが例の七武海2人か……」
「リィンが倒れてるな、大丈夫かアレ」
「生きてはいるわよう…。それより王女さんが残りの幹部に追われて街中逃げ回ってるわよう、宮殿に届けないとねい」
「あんたは」
「あちしは国王奪還のチャンスを狙わせてもらうわ、あちし頑張る」
味方と言いきれないが障害にはならない。意気込むMr.2にここは一旦任せて麦わらの一味2人はBWの残りの幹部を討伐しに駆け足になった。
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──北ブロックメディ議事堂表通り──
「絶対に0だけは逃がせ!」
「逃がすか…!」
王女ビビとスパイを見抜く事が出来るグレンは最優先で王宮へと逃がされる。アルバーナに残る住民を巻き込まぬ様にしながら追手をバラけさせる為に、一足早く到着していた海軍、月組の約半数が数人の固まりになって囮をしていた。
「なぁ」
Mr.1ペアに追われていたグループの中には運悪く、グレン(会員No.0)、そしてコアラが居たのだ。
そこに現れたのは迷いに迷ったゾロだった。
「お前ら、BWだろ?」
「ゾロ君!」
「状況は良くわかんねぇが……倒せばいいんだな」
そう言って刀を咥える。
その様子を見た海兵たちはすぐさま次の行動に移った。
「よっしゃ生贄きたぁぁ!」
「任せた海賊の剣士さん!」
「おッらぁぁ!逃げるぜぇええ!」
すなわち逃亡。
潔くゾロを犠牲にしたのだ。
「あいつら本当に海兵か…?」
良くも悪くも長年リィンの傍に居た海兵は一風変わった思考をしているようだった。
Mr.1はその様子を見ても標的を変えないのは流石と言うべきか。彼らの真ん中で守られる様していた海兵に飛びかかる。
「ぐあっ…!」
あまり状況の読めてないゾロにはどう動くのが正解か分からず止めることが出来ずに構えていた。
「お前が海軍のキーか…」
ヒィッという悲鳴と共に仲間を見捨てる様に走り去る海兵に思わず眉を顰める。
見捨てられた海兵は傷付いた手で懐から小型の銃を取り出しゼロ距離で放った。
「………効かんな」
Mr.1の体は刃物。言わば鉄。
弾丸程度の物で傷つく筈がない。
「………へへ、残念だったなBW」
大分離れた海兵を見送るように男が笑った。
「俺じゃねぇよ」
その場に残ったコアラが魚人空手の技を放ちMr.1が倒れた海兵から吹き飛ばされた。
「囮にしてごめんねデクス君」
「いや、丁度グレンが逃げれたしいいや……でもごめん俺弱いから離脱」
「うん、足止めは任せて」
丁重に守られてる海兵は囮。
鍵となるグレンは敢えて前線で守るように応戦していたのだ。
そのやり取りにゾロはニヤリと口角を上げた。
「ヘェ…やるな」
「大局を見誤るな、犠牲やむなし、がウチに居てキミの所にいるお嬢さんの言葉だからな」
デクスと呼ばれた海兵はヒラヒラと弱々しく手を振って笑った。これがリィンの同期か、とどこかで納得する。
「見た所お前は斬れる身体を持ってるみたいだな…。参った、俺は鉄が斬れねぇからお前を倒せねぇ」
「「おい」」
思わずと言った様子でデクスとコアラが声を揃える。
「待ってた、この機会を……俺がレベルアップする為の窮地ってモンをよ…!」
「余裕な態度で居られるのも今の内だ…」
「イイじゃねぇか」
そういった瞬間驚異的な脚力でゾロが地面を蹴って二つの技を放つ。
「〝鬼斬り〟………ッ〝虎狩り〟!」
鬼斬りの衝撃に弾き飛ばされた身体を3本の刀で更に地面に打ち付けるように斬りつけたのだ。
フー…っと息を吐くが相手が立ち上がってる姿を見て思わず口元に笑みがうかぶ。
想像以上だ……面白い!
「アザ一つ無し、か。ここまで手応えがあるのに立ち上がられた経験は人生初だな」
「当たり前だ」
「ウオッ!」
蹴り上げた足、刀に変化したそれを間一髪で避けるがMr.1は初手で終わる筈もなくそのまま足を振り下ろした。
反りが変わる。刀というより峰の無い剣の様だ。
「〝
スパッとゾロの後ろの建物事斬られ、刀で受けたものもその勢いに弾き飛ばされた。
瓦礫がゾロを容赦なく押し潰す。
「………避難完了済みの場所で良かった、本当良かった。まじで良かった」
この建物の中に市民が入っていたらゾッとするがいなくて良かったとデクスが呟いた。ミス・ダブルフィンガーと対峙してるコアラも心做しかホッとしている。
「………ッりゃああ!」
力を込めた叫び声と共に瓦礫が浮かび上がった。否、ゾロが投げたのだ。
到底非能力者とは思えない腕力で。
その後お互い傷を付けられない激しい打ち合いが数分続く。一瞬たりとも気を抜けない打ち合いが。
気力体力共にガンガン削れていくが、身体を酷使すればするだけゾロの顔に笑みが浮かぶ。
「くそ…〝
腕に現れたの螺旋状の刃は激しく回転し始める。ゾロは生来の勘で一撃も受けてはいけないと判断した。
「鉄を斬ることが何も斬らない……くそ、意味わかんねぇ!」
過去、何でも斬れる様になるには、と師に聞いたことがあった。
『いいかい、世の中にはね
幼い自分には全く分からなかった。そして今も。
けど鷹の目には理解出来るのだろうか。
「ちょこまかと小賢しい!」
「しまっ───」
慌てて刀で受け止めた攻撃だが、思わぬ回転速度に弾かれた。その隙を狙って丁度鳩尾辺りに抉るような痛みが一気に走り、血が流れた。
「ぐ……あっ!」
「剣士!」
デクスが思わず悲鳴を上げる。
「一瞬の読み間違えで、勝敗は決する」
ザクッと肉を斬り裂く音。
「〝
背は向けない。
しかしあまりにも大量の血を流して石に押し潰されてしまった。
「……………!」
かの様に思えたがゾロは立っていた。
「(分かったんだ、どこにどう落ちるか)」
死の境地に立たされたゾロは普段より何倍もの集中力を生み出し、そしてある力を開花させた。
「(呼吸──まさにそれだな)」
見聞色の覇気。
呼吸を読む事で物の持つ音を聞き、必要最低限の動きで傷をカバーした。
見聞色の覇気は、本来相手の動きを読む言わば『守りに向く覇気』だ。
攻撃的な武装色の覇気とは違う。
しかし
「一刀流『居合』〝獅子歌歌〟」
──ズバァンッ
「礼を言う」
まだまだ強くなれる事に。
「あーやべ、血を流しすぎた。後は任せた海兵」
「待て待て剣士あと少し歩けねぇか。俺凄い弱いの。弱いからこそ1発でやられちゃった雑魚なの。お前を運べると思うなよこの筋肉質」
己を弱いと堂々と宣言する海兵の声を聞きながら意識を失った。
──勝者ゾロ──
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──南ブロック ポルカ通り──
「これは……やべぇな」
口に咥えたタバコの煙を纏いながらサンジは打つ手の無い戦闘に汗をかいていた。
「無駄だガネ。この蝋の強度は鉄と同じ、貴様の蹴りなどではビクともしないガネ」
Mr.3と対峙していたのだ。
攻撃力の足りないMr.3と攻撃手段の無いサンジでは致命的な攻撃も出来ぬまま刻々と時が進んでいく。
「(捕まったら1発でアウト。攻撃も出来ない強度の蝋。鉄と違って蝋は溶けるが……炎とか言う都合のいいもんはライター程度。これは、大分詰んだな)」
捕まえる手段のあるMr.3とそれを解く術が無いサンジではどちらが有利で不利かハッキリとしていた。
それでも長時間決定的な隙を見せてないのはサンジの実力故だろう。
「よう、随分お困りのように見えるよい」
ここ2日で聞きなれた声がサンジの耳に入った。
「マ、マルコ!」
「白ひげの一番隊隊長ガネ!?」
「特に役に立たない助っ人登場だよい」
「いや、助かった!他のみんなは」
「運び終えたよい」
「早いな…いや、思ってたより時間が経ってたのか」
サンジはマルコの能力を思い出したのだ。
「こいつは蝋人間、炎か覇気が無いと決定的な攻撃を加えられない」
「あー…」
マルコは納得した表情になるが斜めを向いていた。
「どうした」
「上げて落とす様だが、いいか?」
そして決定的な言葉を口にした。
「俺の炎に熱は無い」
「なんてこったい!」
思わずサンジは膝をついて頭を抱えた。
頭からすっぽり抜けていたが鳥型で運んでくれた時確かに熱など無かった!
「俺がやるか?」
「……」
その提案になけなしのプライドに火がつく。
白ひげ海賊団の2人は元々この国と関わりも無く、たまたま居たから手伝って貰ってるだけでそこまでやる気は無いのだ。自分の船と関わりないのだから。
薄情かも知れないが大海賊団の幹部。でしゃばる事は控えようと思っていたのだ、マルコは。エースは知らん。
「いや、俺がやるよ」
サンジが決意を固める。
「この程度でよその船の力を借りてちゃ、未来の海賊王のクルーの名が廃る」
「四皇の腹心の部下を目の前にして豪語するとは天晴れだよい。コックって生き物はプライド高いな」
ここで頼ればそこまでの男だと思っていたがマルコは認識を改める。
「これでも戦闘部隊として育てられてきたってのに…本当に出来損ないになっちまう」
ポツリと呟かれた言葉には聞こえない振りをして。
「何を言ってるのか知らないが私の蝋は敗れないガネ!」
「摩擦って…熱だよな?」
「はい?」
そういった途端サンジはその場で左足を軸に回転し始めた。独楽のようにクルクルと。
その足が少しづつ熱を持つ。
「〝
足がオレンジの炎に包まれた。
「な、なんだよいそれ!」
「摩擦熱」
「いや、普通それは考えないよい…」
普通、それは偉大なる航路の前半に居る海賊の常識だが。
マルコは内心、その柔軟性に感心していた。
「〝
「〝キャンドル
即席で作られた壁はいとも簡単に溶けて破壊されてしまう。使える、とサンジはニヤリと笑った。
「み、ミス・ゴールデンウィーク!」
「なに……めんどくさい」
「手伝うガネ!?」
どこからか取り出したお茶セットで一服するパートナーに思わずツッコミを入れる。
「…アンタ、俺の所来るか?」
「喜んでお断りさせてもらうさ、俺が下につくのは麦わら帽子被ったくそ船長なんでね」
「今コックが臨時休業入ってるんだよい、来てもらった方が助かるんだが……そうなると四番隊になるな」
「だから入らねぇって」
四皇の誘いに揺るがないサンジに益々欲が出る。
なるほど、面白い。
「ウチのコック程じゃないが料理の腕は確かだろう?」
「そちらのコック殿がどんな腕前か知らないが、断るに決まってるだろ?ここでホイホイ船長を変えるクルーを信用出来るのか?
「………………なるほど」
頭も回ると来た。
麦わらの一味にこの男が居れば海軍に出し抜かれる事は早々ない、かもしれない。
正直
「だがまぁ。ウチのコックはそちらのお嬢さんのお気に入りだよい。良くプロポーズしてる」
「待て、俺というものがありながら…?」
「そこだけ切り取ると浮気された亭主みたいだからやめとけよい。後、リィンがウチに来たのはもう何年も前の話だ」
「俺が間男か!」
「一筋縄どころじゃないな麦わらの一味!」
キャラの濃さに関しては四皇をも超える。
噎せるほど濃い。
「冗談はまぁさておき…」
「後でそのコックの話詳しく聞かせろ」
「──さておき!!」
コックとしてのプライドが許せないのかやけに食い気味なサンジの言葉に被せるように叫ぶと視線の先にいるMr.3が何やら準備を終えた様だった。
「お前らバカなのカネ!?」
「おー……ド派手になったな」
「バカだったガネ!」
巨大ロボの様に全身を蝋でコーティングして塗装が施されている。随分とわかりやすいレベルアップだ。
「溶ける…か、溶けないか」
「溶けるに1票」
「溶ける1票オーダー入りました…〝
「ぎゃあ!!と、溶けるガネ!」
「なんつーか……ガスバーナー?」
「蝋燭の火なんて可愛らしいモンじゃねぇのは確かだろい」
予想以上の溶け具合──余程熱と相性が悪いらしい──に驚きつつ棒立ちでその様を見守る海賊2人。
「考えてみるもんだな」
「何するガネ!私の最高傑作を!」
「うるせぇ!」
「へぶっ!」
「最高傑作が出来損ないに負けるんじゃあ呆れた話だな」
サンジはそのまま顔面にかかと落としを綺麗に入れるとMr.3はそのまま沈んでしまった。
「もう1人、残ってるよい」
「おれは死んでも女は蹴らん!」
「あ、そう……」
標的が移ったと思ったゴールデンウィークは脱兎の如くその場から駆け出す。
「一応捕まえといた方がいいのか…?」
「どうでも良いけど俺来た意味無かったよい…」
──勝者サンジ&マルコ(付属)──
ふぇぇん、戦闘描写が難しいよぉ〜、恋音ゎ、戦ぃなんてぇ見たくなぃのに…もぅ、ぷんぷんだょ!
どうも戦闘描写に嫌気が指してる作者デース。もう少しで新学期ですかね、もう入ってる方いらっしゃるのでしょうか。
雪国で考えなかったサンジが考えるサンジに変わりましたー。これで元々原作である知的(仮)なサンジきゅんに戻りましたかね。リィンさんが便利なのは確かだけど人をダメにする人間だった…!