2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第122話 男の意地と地位の維持

 

 

 引くわ。

 

 そんな言葉が頭を占める。

 いや、マジで、これはない。

 

「ぜー…ぜー……」

「ハァ…ッ、ウラァ!」

 

 ルフィ倒れる事約10回目。クロさん倒れる事20回以上。……まだ立ち上がってんのよ、こいつら。

 

「結構本気で引くぞ、戦闘狂共」

「頼むからそれをクロコダイルはいいがルフィの方に聞かせてくれるなよ」

 

 サボが胡座をかいて戦闘風景を見ながら呟いた。

 

「しつこいぞ砂ワニ!」

「だま……っ、れ!」

 

 体力もギリギリなのに頑張る2人に拍手。

 私には無理だわ。

 

 ドフィさんは適度な運動で眠くなったのか砂の上で横になりながら二人の戦闘を観戦している。

 時々『そこだアッパー!』『足かけろ足!』って野次を飛ばしているけど。

 

 動けよ、せめて動いてやろうよ。

 

 友達だろ!?

 

「無い、まじで無いな」

「……?何がだ?」

「ん、いや、別に。でもとりあえずさっきまで殺し合いしてたドフラミンゴがエースの隣で寛いでる余裕はとりあえず腹立つなって思って」

「あ、それはわかる」

 

 サボが頭を抱えて唸るとエースが反応する。

 危機感どこいったとか呟いてるけどドフィさんは聞こえないフリしてるっぽい。

 

 知ってるか?こいつらも胡座かいてるんだぜ?

 

「私1人だけ立つするの何故か理不尽!」

「「なら座れよ」」

「緊張感とは!!」

 

 あ…いたい……叫んだら痛い……。

 

 大分痛みが慣れたし動けるようになったけど1ミリも治ってないからな。アドレナリンガンガン出てるだけで普通重傷だからな。むしろ重体だわ。

 お誕生日プレゼントに常識を下さい。

 

 海軍の育成期間を作って常識取得科とか社会見学科とか作ればいいと思うんだ。

 私入り浸るから。

 

「リィンさんやい」

「なんだいサボさんやい」

「お前がいると多分話が進まないから王様追え」

「……我、怪我人ぞ?」

 

 私を呼ぶ時一瞬口をぱくぱくさせて悩んだの様なので多分呼び方をどうするか考えたかと思うんだ。

 女狐呼びしなかったのは褒めよう。

 未だにドンパチしてるは知らないんだけど。

 

「爆弾の事もある。さっさと行け」

「あい…」

「ちなみに時限爆弾のタイムリミットは4時半な」

「何故知ってるドフィさん」

 

 BW側なんだったら最後まで付き合ってやれよ!飽きっぽいなてめぇは!よく分かった、お前今度から二つ名は『天夜叉』とかカッコイイ奴じゃなくて『春夏冬(あきない)』な。願掛けでもしてやがれ!

 

「どーも行ってきますぅぅ〜!」

 

 嫌味ったらしく口に出すと慣れた箒に跨った。

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 リィンが去った砂漠の上では歯を食いしばりながら戦い続ける2人。

 

 途中赤い垂直の煙がアルバーナから見えても拳をぶつけ、毒で切り裂き、体力も最早無い中動き続ける。

 

「長いな…」

「よせ、言うな」

 

 傍観に移ったエースが思わず呟いた。サボが戦いを見守りながら宥めるがエースの様子に悪びれた感じは見当たらない。

 

「〝ギア3(サード)〟」

 

 ルフィが親指を噛み、空気を吐く。

 するとその右手は巨人の腕の様に膨らんだ。

 

 偉大なる航路(グランドライン)に入った時に身につけた大技だ。発動後の隙が出来るのでここぞと言う時にしか使ってはいけないと言われていた。

 今がその時だと判断したのだろう。

 

「〝ゴムゴムの巨人銃(ギガントピストル)〟!」

 

 クロコダイルも対抗して砂の刃を作り出すがついに等々、雌雄を決する事となった。

 

 倒れ込んだクロコダイルは起き上がらない。

 ルフィは小さくなった姿で膝をついて睨んでいる。

 

 

 ルフィの勝利だ。

 

 

「やった!」

「はしゃぐなよ」

 

 長男2人が声を上げるとドフィは眉を寄せた。

 

「負けたか」

 

 残念そうに、どこか嬉しそうに。

 王位に就いてどうなるか、この男が1番分かっている。クロコダイルが負けた事でその行動が止められたと喜んでしまったのだろう。表情は少々暗い。

 

 

「……くそ、くそくそくそ!」

 

 空を見上げたままクロコダイルは掠れた声を上げる。

 

「負けるわけには、いかなかった…!ルーキーに、など…!この俺が…っ!」

「どうしてテメェが……奪う!」

「くそ、くそが…っ!」

 

 ルフィの頭の中には一つの疑問が浮かんだ。『奪うのはクロコダイル。ビビの為に取り返した。なのに何故か』

 

「…海軍を抜けたと聞いた時に正直浮かれた。手の届く範囲に降りてくるかと思った。BW(いま)の事もあって勧誘に出遅れたと思って焦ったがアイツは里帰りだと言った」

 

 ルフィは気付く。これはリィンの事だ。

 

「安心したってのに……ふと手配書を見ればどうだ!どこの馬の骨とも分からない様なルーキーの元にリィンがいる!今更後にも引けない先にも進めない状況で、自暴自棄になるしかねェだろ!麦わらのルフィっ、テメェが俺から奪った!」

「ご、ごめんなさい?」

「くそ…くそっ!完敗だ……!」

 

 クロコダイルは手で顔を覆った。

 それしか出来ない自分に悔しさを覚えた。

 

 手に入れたいものを手に入れる事が出来たなら…、財宝に勝る幸福を手に入れる事が出来るのに!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………知らないって損だな」

 

 ドフラミンゴはその様子に苦い顔をして顔を背けた。

 

 可哀想、何も知らないクロちゃん可哀想。

 

「なんだ、知ってたのかドフラミンゴ」

「……まぁ、うん、そうか、お前もか」

 

 頭を抱えたサボの声に同意する。

 

 クロコダイルの気持ちは『リィン取られた!出遅れた!悔しい!ヤケになっても手に入れれなかった!超悔しい!』と言う事だが、『リィン=女狐(未だに政府に属する者)』として認識してるドフラミンゴやサボにとって確実なすれ違いに思わず同情してしまう事だった。

 『リィン=女狐』という事実は『麦わらの一味に取られたんじゃなくて麦わらの一味を利用する側』という立場へと繋がり、それをきちんと認識している。

 

 『ルフィがリィンを奪う』?……『リィンがルフィから一味を奪う』の間違いだろう。

 哀れクロコダイル、無知とはそれ即ち罪である。

 

 実際『国家反逆罪』という罪になってしまったのだが。

 

 

 そうなるとここまでクロコダイルが国家乗っ取りというぶっ飛んだ行動に出た一因がリィンになってしまう。それは『海軍を辞めた雑用リィン』にとっては何とも無いが『海軍に残る女狐リィン』にとって痛手以外の何物でも無いだろう。

 

 まるでハリネズミ、双方に被害が行く。

 クロコダイルは『大犯罪者としての汚名』

 リィンは『知った上司からのお話(物理)』

 

 

 

「クロコダイル可哀想だな。…やっぱり堕天使がこっちに居ると意地でも倒れないと思ったが、当たりだった分辛い」

「あっ、あっ、お、お前ら知ってるのか!リィンの!」

「驚いた。……火拳も知ってたのか」

 

 頭を押さえながらサボが視線を寄越す。

 エースが遅れながら察するとこの場で真実を知った者の誰かからため息が漏れた。

 

 

「小悪魔とか可愛モンじゃなくてただの悪魔だったな」

 

 サボが思わず呟く。

 金色の少女のドヤ顔が脳裏に浮かび、更に頭を痛めるハメになった。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

「いたぁああ!そして痛い!」

 

 見つけた!

 息を切らしながら走ってる海軍の制服を着た人をやっと発見した。葬祭殿に辿り着く前に見つかって良かった!

 

「天使!」

「あ、その声リックさんですたか。優秀保護者(グレンさん)は?」

「グランドラインはすぐそこにいるぞ!」

「むしろここがグランドラインだ花畑牧場野郎……で、どうしたリィン。今急いでるんだが」

「爆弾!爆弾ぞ仕掛けるられるてるてる!でる!」

「異様に"る"が多い。とりあえずそれは知ってる、今飛行組が空から探して俺達は地上を探してる最中だ」

「え…?何故…?」

「とりあえずまだ仕事あるんだろ、お互い急いでるんだ、さっさと離れよう」

「はい!」

「………どっちが上司だか」

 

 元気よく返事したら傷が傷んだ。辛っ。

 

「グレンさんーー!爆弾の時間制限ぞ、4時半ですぞー!」

「うわ、あと15分!?他の奴らにも伝えとく!」

「ありがとです!」

 

 リックさんを引っ張りながらグレンさんが去っていった。

 反乱軍の件はどうしたとか、国王軍のスパイの件は誰がどうしてどうなったとか、どうして爆弾が仕掛けられてるって分かったのか、色々と疑問はあるけどひとまず別れて飛ぶ。

 

 サボの示した方角は北西辺り、王宮の西には王家の墓と言われる葬祭殿がある。もしも歴史的文献を残すなら人通りも少なく、先へと残していく為にこう言った歴史的建造物に残すはずだ。

 そこしか無いだろう。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 葬祭殿へ行くと地面に隠し扉があり、そこが開いていた。

 そこを降りていくと石でできた祭殿がかなりの広さで広がっていた。ここで戦っても十分なスペースを確保出来るだろうなぁ。

 ……戦わせないけどね!

 

 あっっ、でもよく考えたらニコ・ロビンと戦闘になったらどうしよう…。私激弱よ、激弱。

 ところ構わず体の一部をにょきにょき生えさせる能力者に対して怪我をしてる雑魚退治専門の私が敵うわけ無いんだけど。にょきにょき生やして関節技…とか来られたらやばい。そんな考えに至ってない事を祈るけどやばい。

 

 ふえぇんっ、行きたくないよぉ。

 でも報告の義務と王様の前という最悪コンボがあるから行かないといけないよぉ。

 

 おかしいなぁ!『守り(自分限定)の大将』って本当に守れてないよぉ!名ばかりの地位でもここまでは要らなかったかなぁぁあ!?

 くそ、どうしてこうなった…。戦神シラヌイ・カナエ(母)か?それとも五老星か?いや、やっぱり堕天使(クソジジイ)だな。

 

 

「……残念、この国の歴史しか書いてなかったわ」

 

 階段の奥から声が聞こえた。

 

「そう、では返してもらえませぬか?」

「あら、堕天使さん。遅かったわね」

 

 ニッコリ、と効果音が付きそう。表情が全然読めない笑顔でニコ・ロビンが言う。

 

「あの場にいた4人の中で貴女が来るとは思っていたけど、1人で来る様な無謀な子だとは思わなかったわ」

「無謀結構、私はビビ様…幼馴染みのお父さんを取り戻しに来たのみです故」

 

 そう、あくまでも取り返しに来ただけ。

 コブラ様の安全保護が優先の為、賞金首とは戦いません。建前大事、超重要。

 そしてニコ・ロビンに私が政府関係者だとバレない様にする為、『国王コブラ様』ではなく『幼馴染みのお父さん』と知り合いだと言う事をアピールする。

 

 国王と知り合いって、なんでやねーんっ!ってなるからね。絶対。

 七武海の影響力が無い犯罪者に教えるわけ有りません。

 クロさん、七武海離脱ほぼ確定だから。

 

 さて、問題はここからだ。

 何とか交渉してコブラ様を保護しないと。

 

 ここに連れてくる、って言う役目は終わったから用は無いはずなんだけど盾に使われるとめんどくさい。

 何より私が相手の立場ならコブラ様を盾にして思い通りに動かすつもりだから。

 

「そう……どうぞ連れて行って」

「はえ?」

 

 思わず変な声出た。

 

 自暴自棄にニコ・ロビンが呟いて歴史の本文(ポーネグリフ)にもたれ掛かる。

 

「ここがダメならもう諦める所だったの。長い旅の中…もう疲れてしまったわ」

「お疲れ様ですた」

「…………えぇ」

 

 ペコリと頭を下げるとニコ・ロビンはクスリと笑う。

 青い顔をしたコブラ様の元に駆け寄ると小声で耳打ちされる。

 

「あの女の、真意を聞き出してほしい」

 

 …………マジっすか、王様。

 

「ふぅ…──オハラは、歴史の本文(ポーネグリフ)の研究という危険行為によって()()()()が滅ぼすた、です」

 

 表向きにどうなってるのか知らないが、一名を残して全員が行方不明になっている。

 

「古代兵器の復活を目論むしたのか分かりませぬが」

「─オハラはそんなもの望んでいない!」

「…!」

 

 ニコ・ロビンは必死そうな様子で否定した。

 

 おっと、これはどういう事だ?

 オハラは古代兵器の復活を目論んだ事が一番の危険として滅ぼされた。それは世界政府によって伝えられて。

 

 でもオハラ出身の考古学者が否定した。

 古代兵器をそんなものと言って。

 

 

 

「空白の歴史は世界政府にとって知られると拙い事…?」

 

 独り言の様に口に呟くとコブラ様とニコ・ロビンの視線がより一層強くなる。

 世界政府関係者が言うのも拙いけどね。

 

 この世界には100年だけくり抜かれた歴史が存在する。それは空白の歴史。

 それがもしも意図的に誰かの手によってくり抜かれたのなら、先人達が意図的に別の言葉にして残していたのなら。

 

 『くり抜いた誰か』は歴史で隠したかった事を引き起こしたものなら。

 そしてオハラはそれを知ってしまい『世界政府』が消したのだとしたら……。

 

「私の夢には──敵が多すぎる」

 

 ニコ・ロビンから涙と共に言葉が零れた。

 

「お前が望むものは一体何なのだ…! 空白の歴史には一体何が隠されている…!」

「…。私の目的は歴史の本文(ポーネグリフ)の中で唯一〝真の歴史を語る石〟」

「貴女がそう思うしても、歴史の本文(ポーネグリフ)を読み解く可能の貴女が居る限り。危険性は0にならぬ。世界の意識は、0にならぬ限り決して諦めぬぞ」

「知ってるわ、だから、もう疲れたの」

 

 めんどくさいなぁ。

 

 要するに、『歴史を求めたい、古代兵器には興味ない』と言う考古学者側と『歴史を隠したい、古代兵器は興味ある』世界政府側がぶつかり合ってる。そして結局唯一の生き残りを血眼で探してる。

 ということでしょう。

 

 世界政府関係者に聞かせる話じゃないことは分かった。

 これ、勘づくだけで死刑レベルじゃ……?

 

 痛い、傷もだけど胃が。

 

「ちょっと泣いていいですか…」

 

「聞くがもしや…!語られぬ歴史は〝真の歴史の本文(リオ・ポーネグリフ)〟に記録されていると…!その歴史を紡ぐことが出来るのか!」

 

 ニコ・ロビンは黙った。

 無言は肯定、とはよく言ったものだな。

 

「上がりましょう」

「……だがっ」

「コブラ様には…聞く手段ぞ存在するです」

 

 国王ならではの権力と場が。

 

「ニコ・ロビンさん、最後に一つ」

「……何」

 

 心が痛くなる情報をくれたのでお返しをしたい。

 心が痛くなるお返しをね。

 

「笑顔とは、弱い自分を隠す為の仮面です」

「……」

 

「笑えばどうです?──デレシッ、てね」

「〜っ!?」

 

 盛大な爆弾を落とせばニコ・ロビンは思わずといった様子で立ち上がった。

 

 

 

 

 知らないだろうな。私がインペルダウンによく行くことも、インペルダウンには表に出せない犯罪者が集うlevel6があることも

 

 

 ───氷漬けになった軍の裏切り者が居ることも。




クロコダイルは原作と違い意地オンリーで立ち上がってきます。それを察したサボはリィンをどこかへ行かせた、と。
おかえりギャグパート!
シリアスの雰囲気をぶち壊すその一瞬が大好きです!

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