私には夢がある。
平和に、それはもう平穏に過ごす事。
それは決して、決して。
「空島に行くことでは無き!」
「──頼むリー。諦めてくれ!」
ニコ・ロビンが仲間に加わってすぐ、空から巨大なガレオン船が降ってくるという出来事が起こった。
船が降って、空島の地図を見つけて、ナミさんがサルベージとか言いながら男3人に無茶さすし、人類のなり損ないみたいなサルが現れて船を引き上げるし、船の何倍もあるカメが現れるし、いきなり夜になるし、最後には巨人の何倍もの人影。
………絶対厄に好かれてる。
それだけで終わればまだ幸せだった。
ルフィが空島に行くと言わなければ、ニコ・ロビンがジャヤへの
挙句ルフィは『リー、上舵!出来るだろ!?』と。
出来るかもしれないけどやりたくないに決まってんだろ!!高い所苦手だと何度言ったらいいんだこの馬鹿野郎!!精神的に死んでしまいます!!
とりあえず人類モドキが拠点にしてるらしいジャヤに来たけど空島の情報なんてそう簡単に得られる訳じゃない。
とりあえずサンジ様の『レディ限定未だかつて無いたこ焼き』は美味しゅうございました。
……生簀でタコ育てよ?
「おお〜、ちょっとリゾートっぽくないか?」
「ほんと!ちょっとゆっくりして行きたい気分!」
「で、でも港に並んでいる船が海賊船っぽいんだけど…」
「大丈夫よビビ!港に堂々と海賊船が並んでなんか──」
「殺しだァ!!」
気弱トリオが涙を流した。
私も泣きたい気分です。
「いろんな奴が居そうだな」
「楽しそうな町だ」
そんな3人を放りルフィとゾロさんが船を楽しげに降りる。よく行く気になるなぁ。
夢を見ない荒くれ者が集まる無法地帯に。
この島は世界政府が介入しない春島。気候が安定してる分活動しやすいから治安が悪くなる。
散り積もった悪党は厄介者が多い。
私は海軍に入り配達雑用をしてる中で『近付いてはいけない島』というのを教えられたし学んだ。もちろん、この島は『教えられた島』だ。
子供は標的になりやすいしね…。見た目も、裕福に見える服装も。条件が揃ってたから特にセンゴクさんに注意された。
ジャヤは外観はとてもおしゃれな島で、白の石壁や木造の建物に薄めの赤で作られた屋根が立ち並んでるリゾート地。
ウソップさんやナミさんの言う事も正しい、ここは確実に海賊専門のリゾート地。
「ルフィ、私も行くぞり」
「お?そっか?よーし行くぞ!」
私の提案にルフィは拒否すること無く受け入れる。
2人に続くように降りるとビビ様が呼びかけた。
「待ってルフィさんゾロさんリィンちゃん!」
「ん?なんだビビ」
「私も行くわ!」
……何ですと?
「ビビ様…恐らくここは危険ぞですが?」
「大丈夫、私だって自己防衛は出来るわ!」
「リィン、行くならなるべく面倒な事にならない様に手綱握って情報集めてきてね。リィンの用事は何か知らないけどそれだけは絶対よ!」
「ナミさん?私用事など存在せぬぞ?」
「……そうなの?ならよろしくね」
ナミさんの鋭い発言に少し冷や冷やしながら返事をすると特に気にした様子も無い様で終わった。
他の面子はついてくる気が無いようで4人だけで情報を集める事になった訳だが、これ、意味あるのか?
「とりあえずルフィ、ゾロさん。ケンカ、封印ぞね」
「「ええぇええ」」
==========
「流石敵の組織に潜入するだけあるな」
「度胸があるなぁ…、ビビちゃんが行くなら俺も…」
「まままま、待て待てサンジ!お、お前までいなくなったら…!こ、この船がもし襲われでもしたら……ヒィイッ!」
「いでぐれよぉお!」
「クェエエエー!」
「わ、分かったって」
ビビの勇敢さに感心したウソップと、チョッパーとカルーは追いかけようとするサンジを必死で止める。ランブルという技が使えるならチョッパーが戦えるのじゃないか、と思ったがあまりの必死な形相に反論する間も無く留まることを決めたのだ。
そしてもう1人のレディの様子に気付く。
「どうしたんだナミさん、不思議そうな顔をして」
船に残るナミはルフィ達を見送ると顎に手を当てて考えていた。彼女はリィンを愛し、おかしな所で鋭さを増す危険人物。
ナミは疑問を口に出した。
「あの子…これと言った用事もないのに自ら危険な島に入る子だったかしら」
出会ってからを思い出す。
見るからに平和な町、ウソップの故郷やサンジのレストランではその地に足を下ろした。用事のあったローグタウンや緑の町エルマルでも。
しかしウイスキーピークやアラバスタのナノハナでは自ら船番を申し出て危険に首を突っ込む事も無かったのに。
「リィン…一体何を企んでるの…?」
気紛れでは無いだろう、そう予想を立てながらナミは船室へと戻って行った。
==========
「トロピカルホテル…ここで聞き込みもあるですか」
何より安全だしね、という言葉を隠してビビ様に同意する。殺人犯が根を張る治安の悪い町よりリゾートホテルの方が安全だ。
一応、ビビ様居るし。
「カルーはお留守で良くたですね」
「流石にこういう所では目をつけられるわよね」
苦笑いと共に正論が返ってくる。
カルーがいなくとも目はつけられた。爆発するリンゴを配る病弱さんに殺されかけたし。しかし……チャンピョンとか言う男や処刑人ロシオ、町中を通り過ぎるだけでここらでは有名な賞金首らしい人物の名をいくつか聞いた。
早くこの島から離れたいけど空島に行くのも嫌だ。
どうにかして逃げ出す方法を探さなければ…!
早く連絡よ来てくれと肩に乗せた電伝虫に視線を向けるも無視された。悲しい。
「おっ!お客様!お客様困ります勝手に入って頂いては…!」
「ん?誰だ?」
「と…当『トロピカルホテル』はただ今ベラミー御一行様の貸し切りとなっておりまして!見つかっては大変です、すぐにお引取りを!」
「よし、厄介者と把握。ルフィすぐに去るぞ」
「えぇ〜?」
フェイントを入れた従業員の謎過ぎる行動に首を傾げながらも状況は把握した。ベラミーってのが誰かは知らないが下手に藪をつつかない方がいいだろう。
「オイ、どうした」
「ひえええっ!」
引き返そうとした瞬間声が聞こえた。
わぁ、バットタイミングぅ。
「どこの馬の骨だァ?」
「サ…サーキース様!おかえりなさいませ、いえ、これは」
「言い訳は良いから早く追い出して!いくら払ってここを貸し切ってると思ってんの?」
頭悪そうな2人が戻ってきたみたい。
「そういう事だ……」
「なぁ、リー。こいつらぶっ飛ばしていいのか?」
「面倒な、ダメ。後始末誰がすると?」
「リーだな」
「ほら見ろぅ〜」
キミらが起こした全ての出来事の後始末役は私がしてるんだから少しは感謝してほしい。
我こそは麦わらの一味後始末役リィンなり!
……ヤベェかっこ悪い。
「ハハッ、生意気なガキだ。面白ぇ」
「ベラミー海賊団、ねぇ」
その正体を見て少しため息を吐いた。
サーキスと呼ばれた男の胸には一つの海賊団のマークが描かれていたからだ。
「…ふぅ、ルフィ。こいつらと関わるだけ無駄ぞ。気に食わぬなれば後々消すが可能」
「そうなのか?」
「オイ小娘、随分な口をきいてくれるなァ?」
「子供の妄言です、気にすると器の狭さが知れ渡るのみですよ!気の短い雑なお魚さん!」
ニッコリ笑って毒を吐けば青筋をたてた。
あぁ、やはり雑魚だ。煽り耐性が無ければ頭も弱い。
これでドフラミンゴの傘下なのだから、きっと面倒くさがって名前貸してるだけだな。
「行くぞしよう?」
「ふはっ、そうだな。おら、行くぞルフィ」
「おーう!」
手も口も出ない状態の男を置いてホテルを出る。
ドフィさんがどれほど人に執着しないか知ってるとあれは名前を被って威張り散らしてるだけの子供だ。別名、同類とも言う。
同族嫌悪って凄いなぁ。
「リィンちゃんに敵う人なんて早々居ないもの…。可哀想だわ、あの人」
ビビ様の純粋な同情がトドメを刺したようだった。ちなみに盲目、清々しい程に私に期待値を高めるのはやめて下さい。死んでしまいます。
「モックタウンというですか、この町」
「海賊達が落とす金で成り立ってんのさ、ここは」
酒場で情報収集というビビ様の提案で寄ってみたはいいが果たして情報を得られるかどうか定かではない。
ここは前半の海の中間地点、これが後半の海の中間地点なら情報を得られたかもしれないけど。
「……まさに楽園」
「ん?何か言ったか?」
「何事も?」
後半の海の過酷さや世界のレベルを知れば知るほど前半の海が可愛く思えてくる。四つの海ももちろんだ。
まぁ、流石にバギーの1件は度肝を抜かれたけど。
「本当にこの町で過ごすのは大変そうだわ」
「いいやお嬢さん、案外いい稼ぎになる。海賊共は接待する住民をわざわざ手にかけたりしないからなぁ」
「あ、そうなんですか…」
「まともな考えをする人は少ないからなァ、生憎、ここを縄張りとして働いてる俺らの精神もまともじゃねェのさ」
ビビ様の言葉に店長さんが答える。
流石にそこまで馬鹿では無いってわけか。
私やビビ様が話していると、突然ルフィとその隣の男が同時に声を荒らげた。
「このチェリーパイは死ぬほどマズイな!」
「このチェリーパイは死ぬほど美味いな!」
バチバチと2人は睨み合う。
どうでもいい事だったけど私は甘い物美味しいと思います。
「このドリンクは格別に美味いな!」
「このドリンクは格別にマズイな!」
更に飲み物を飲んで睨み合う。
どうでもいいけどほろ苦くてあまり好きじゃ無いです。
「「なんだとテメェ!」」
「もうルフィさん!」
なんで喧嘩になるんだか……。
ビビ様が止めようとしてるんだからやめて下さい。
あれ…でも海賊になった時点で王族除名…?
いや、でもアラバスタの対応がよく分からないからまだ王族だと考えとこう。
「店で乱闘はお断りだ、ほらチェリーパイ50。これ持って帰んな」
店主がナイスプレーで宥める。
するとルフィと喧嘩していた男は標的を私に移した。
「
「は、はぁ」
やけにイントネーションが変だった気がする。
「妹の方の首は弱いだろうなァ」
「……は?」
ルフィと兄妹だって分かってたのか?
疑問が浮かんで消える。
首が弱いって事は何かを狙ってる…?ではなんで3000万と言ったルフィが無視されたんだ?
にしても、指名手配には顔が出てない筈なのにどうして私を狙うのか。
警戒、しておいた方がいいかも。
「じゃあな」
男はそう言って店を出ていった。
なんか、怖いな。
「ん?」
そんな中ゾロさんが外を気にする素振りを見せた。
この男、実は見聞色の覇気を身につけている。便利なのに何年頑張っても手に入らない私に対していい度胸だな、よろしい貴様は避雷針係で。
「ココに、金髪で青いリボンの女がいるか?」
「あれぇ?私ぃ?」
え、あれ誰。本当になんで私を探してるの?
「べ、ベラミーだ!」
「ベラミーってさっきのホテルを貸し切ってた人だわ…リィンちゃん…!」
「あの人が」
ほほう、と納得する。
あの変な男に比べたら素性がしっかりしてるベラミーという奴の方が楽だ。
「ウチのが世話になったみたいだなァ?気の強い女は嫌いじゃねェが、……若いな」
「うむ、私若いぞ」
「だよな」
うんうんと頷き合う。
ひょっとして勧誘目的だったのかな?もしもそうなら私は向かんでしょうよ、さっき言った通り若い。若すぎる。
「今の私、とっっても機嫌ぞ悪い故。絡むととばっちり食うぞ?」
「とばっちり、なァ」
品定めする様に上から下まで見られる。
「将来性は有り、か。胸以外」
「──殺すなるぞテメェ」
「平均値と現実をキチンと見てみろ」
ハイ決定この人は犠牲になりましたー!無駄に素直なお口はチャックしておきましょうね〜?
じゃねぇと物理的に縫い付けるからな?針と糸の準備は出来ている。
胸だって将来性はありますぅうう!人より成長期が遅いだけなんですぅうう!私まだ14歳ですからぁあ!
それにだな、平均より小さいんじゃなくて平均がデカイんだよ!そこ!間違えない!
「リーを馬鹿にすんなよお前!リーは性格がめちゃくちゃ悪くて人の嫌がることを嬉しそうにやってくれるウチの大事な船員なんだからな!」
「「ルフィ/ルフィさん…」」
兄にトドメをさされた。
「ルフィ酷いぞ……」
「あれ?俺間違ったか?」
「間違ってないからこそタチが悪いんだろ」
「ゾロさんも酷い」
「あ、えっと、……ごめんなさい」
仲間(仮)が徹底的に私をいぢめてくる…。
イジメ反対!仲良くしましょう!
「ところでぇ〜、ベラミーさぁん」
「うわきも」
「ゾロさんはいい加減私への塩対応を辞めるした方がいいと思うです。モテるませぬぞ、このマリモ頭が!海にぞ沈め!」
「テメェだって同じ穴のムジナじゃねーか!この極悪非道の外道悪知恵鬼畜娘!」
「長ぁい!悪口が長いぞりんちょ!」
「で、なんだ評判最悪小娘」
「黙るしてモブ顔の人!」
世界は私に厳しいと思う!
「はぁ…、私大人、我慢可能」
「何戯言を」
「話が進まぬから黙る」
ゾロさんを本気で黙らして本題に移る。
そうだよ、私達一体何のためにジャヤに居るんだよ。
「空島への航路、知りませぬか?出来れば坂ぞ緩やかなる航路」
「………空島ァ?」
ベラミーが首を傾げた瞬間、酒場には爆発的な笑いが起こった。
「だって…
「あめェな女。
ビビ様が笑われた事に顔を赤くしながら反論するが、どうやら無意味に終わってしまった様だ。
やはり妄言扱いか。
よろしい。汚名返上名誉挽回、私の言葉の威力を喰らえ。
「馬鹿が多くて困りますぞね〜」
私に沢山の視線が集まる。
いいぞ、注目してよし。
空島を絵空物語と勘違いしてる馬鹿共には少々お話が必要だ。
「まず、空島という存在。空島はそもそも海軍公認とも言えるです」
「え…そうなの!?」
「えぇ!海軍本部には空島出身者が数人いるます故!存在すると証明できぬ方がおかしきです」
私は笑顔で告げる。
空島が存在してる事も元々知ってる。
話は残念ながら聞いた事ないけど。
「そして!後半の海にはご存知なる方が多数!…赤髪や白ひげはもちろん海賊王だって行くした、と当時の船員は語るますた!いやぁ〜、これが妄言だとおっしゃる方々は素晴らしい度胸ぞ持つした人々です!私、尊敬しますた!」
言葉って怖いよ、『力のある者が認めたこと』を否定する事は『力のある者を否定する事』と同意義になるもの。
『海軍は海賊を悪とする』って言ってるのに『海賊は正義だ!』って言い始める人間が居たらそいつは海軍の敵認定まっしぐらだ。
ま、それが海賊とも言う。
「流石、偉大な方々……。私には恐れ多くて出来ませぬ。後半の海には航路自体存在する言うのに…!私、驚くますた!」
わざとらしく肩を竦めて見せると周囲の顔は怒りで真っ赤に染まった。敵意や殺気がビシビシと突き刺さる。
「リ、リィンちゃん……」
「オイオイ」
「にししっ!リーはやっぱり性格悪いなぁ!」
そこ、嬉しそうに言うんじゃありません。
「海賊が夢を見る時代は終わったんだよ!そんな妄言…」
「妄言かどうか、上に聞くしてみれば?」
「はァ?」
「そう!ドフィさん辺りに!」
ドフィさんが空島を知ってるのかどうか分からないが少なくとも私が絡んでいるなら話が繋がりはする。
ベラミー海賊団と私が接触した証拠になってくるんだ、私にとってキミは証人だよ。
「喧嘩売ってんのか…」
「まさか!……負けるしたら、終わりでしょう?」
ニコーっと愛らしい笑顔で忠告するとベラミーは顔を青くさせた。これは一種の優しさですよ、や、さ、し、さ。
私のことを覚えただろう?私が腹立つだろう?喧嘩を売ってはいないがキミが喧嘩を売れば私は正当な理由で反撃出来る。
そして更にこの話が繋がるのはドフィさんだ、これだけ観客がいるのなら。
恐らく、ドフィさんは負け犬以下には興味を示さない。負ければそこでおしまい、それは私や貴方みたいな雑魚でも知っているでしょう?
現在恐れを抱いてる私達に負ける可能性あるなら、喧嘩、売れないよねぇ?
「特に情報無し。さ、ルフィ、戻るましょう!」
ドンマイ、とルフィがベラミーの肩を叩いていたのが個人的に気に食わぬでござる。
矛盾だらけの行動。
行きたくないけど積極的に情報を集め注目を浴びる。さて、リィンは何を企んでいるのやら。