2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第132話 笑ってあげるよそのザマを

 

 

「入ってはいけない島に冒険だァ!?」

「ダメよダメ…!あそこは絶対ダメだって!」

 

 

 彼ら、麦わらの一味は(ダイアル)という技術を教えて貰い、青海という普段彼らが過ごしている海で拾ったウェイバーの修理を頼むと観光へ向かった。そこはエンジェル島唯一の繁華街、ラブリー通り。島雲の特性を活かした町並みで店が宙に浮いていた。

 

 そんな彼らが観光中に沈んだ空気を出しているのには理由がある。それは麦わらの一味の船長、ルフィのせいだ。

 

 コニスという空島の住人に教えてもらった入ってはいけない島、神の島(アッパーヤード)(ゴッド)・エネルが住まう大地(ヴァース)の事だ。ルフィはそこに行きたい、否、行くんだと決めていた。

 

「諦めた方がいいと思うがな、ルフィはやる気だ」

 

 やる気なのはそう発言したゾロも同じ。ニヤリと悪人顔して笑っている姿を見てナミは思わず肩を落とした。

 

「リィン…リィンがお姉ちゃんって言ってくれれば頑張れるのに。面倒事を押し付けながら」

「お前はリィンが好きなのか嫌いなのかどっちかハッキリしろよ」

「何を言ってるのよウソップ、愛してるに決まってるじゃない。ただ、自分が少し優先なだけで」

「こいつダメだ」

「じゃあよ〜、夜に行こう!空島料理食おう!」

「お前はほんとに能天気だな!」

 

 ウソップがボケを捌いて行くとカルーが鳴いた。

 

「クエー!クエッ、クエッ」

「なんて言ってたんだ?」

 

 視線は自然とチョッパーへ移る。

 

「お土産買わなくていいのか、きっとその(ダイヤル)とか喜ぶぞって」

「「それだ!」」

 

 溺愛コンビが同じ言葉を漏らす。

 

「でも…彼女に(ダイヤル)の事を教えない方がいいと思うわ。私の勝手な意見だけど」

「何故?」

「……そうね、空島の旅行から逃げた仕返し、かしら」

 

 ロビンはクスリと笑みを零した。

 それは、闇の世界で生き延びた女の笑みだった。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 アラバスタの民族衣装をこの身に纏い、普段はしない様な髪型に違和感を覚え、化粧で粉っぽい顔を我慢しながら。

 

 傷物兄妹、いざ出陣でござる!

 

「──うるさい」

「傷つくた」

「誰が傷物だ」

 

 髪を結い上げて戦闘の傷跡を隠すように長袖の服に手を通したサボ、その女受けしそうと評判な顔を横から見あげる。

 

 ……口に出てたか。

 

 だって事実だし。私は背中に傷があるじゃん?サボは顔に火傷があるじゃん?お互い傷物、間違いないね。

 

「もう1度聞きたいか?」

「ごめんぞ!」

 

 さて、おふざけはここら辺りにして気を引き締め直す。

 

 私達2人は胸にバッチを付けている。これはあらかじめ私が頼んでいた『お願い』で男女と階級の差によって合計6つの分類に分けられている。『金:王族』『銀:国の代表貴族』『銅:貴族』というように。誰がどこの国のどんな階級か分からない仕掛け人の私やサボにとって有難い。

 私は『女用の銀バッチ』でサボは『男用の銀バッチ』だ。

 

 もう一つの『お願い』はあまり見ない『立食パーティー』で、二日目は何かしらの食品も持ち込み有り。

 

 夜会は2日にかけて行われる。

 その間になるべく決着を付けたい。

 

 空島に観光旅行中の麦わらの一味が戻ってくる前が最も理想的だけどね。

 

 

 

 ここからは私の出番。私の一言一句、全てが矛となり盾となるものだ。ドレスという武装色を纏い、笑顔の仮面で見聞色を塗り重ね、話術という覇王色を使ってこの社交界を制す。

 

 特例のデビュタントなので御手柔らかにお願いします、上流階級の皆様方。

 

「ふぅ……。行こうか、リー」

「はい、お兄様」

 

 本当だけど偽りの関係。そっと顔に笑顔の仮面を被ると護衛であるチャカさんとペルさんがその扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

「………あら?」

「えっ」

 

 扉を開ければピンク髪にグルグル眉毛の女性と目が合いました。し、知り合いとエンカウントおおおお!?

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 コアラは日の暮れた夜中、街中の屋根を飛び回る様に渡り歩いて目的の人物を探し回っていた。

 リィンがこの姿を見たら『お前はどこの忍びだよ!』と心からツッコミそうだが現在彼女は宮殿にて夜会の最中だ。関係ない。

 

「…! 見つけた」

 

 何度目かの路地、そこに二つの人影が見つかる。

 

 そっと近寄って物陰から聞き耳を立てた。

 

『…──…金が足─…─だ…』

『…と!?─…──お!な…─……っ!』

 

 言い争うをしている様だが上手く聞こえない。

 しかしその姿は確認できた。

 

 闇に紛れる黒いマントから覗く逆三角の刺青。

 

 目的の売人(バイヤー)だ。

 

『……チッ』

 

 金と丸い玉をお互い交換しているように見える。

 恐らく、あの玉が麻薬なのだろうと目星を付けた。

 

 暫く待っていると売人は路地の奥へと向かって行く、しかしコアラは動かなかった。

 

「よっ…!」

 

 拳を握りしめ、コアラは玉を受け取った男を沈める。

 

「ごめんね〜、後で回収してあげるから沈んでてよ」

 

 口だけの謝罪をし、丸い玉を奪い取る。

 まるで追い剥ぎ、これが公の場では無いとは言えど王命で動いているのだから世も末である。

 

「サボ君より範囲は狭いけど…、私も覇気使えるんだよね。さぁて、ストーカー開始っ!」

 

 再びその身を闇に紛れさせた。

 

 

 

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 やばい。最高に身バレの気配がする。

 夜会会場に入った瞬間固まった私の様子をサボが不審がる。すまん、すまんパートナー兼お兄様役。

 

「やっぱり…貴女」

「え、えっとぉ」

「──()()()()()()()、お知り合いか?」

 

 察したであろうサボがカバーする。リアスティーンという名前を呼んでくれたので本名が周囲にバレる事は無かった。

 

「……なるほどね」

 

 目の前の女性が小さく呟くとにっこり笑った。

 

()()()()()、リア」

「…お久しぶりです、レイジュ様」

 

 あ、逃げ道塞がれた。

 そう思ったが顔に出さずに挨拶を交わすことが出来た。よし、とりあえずレイジュ様は口を噤んでくれる。

 

 ジェルマは国の力が強いから私の件でちょっかい掛けられてもそれを退ける力は有る。

 

「お初にお目にかかります。アラバスタのファルシュ男爵家、嫡男サンです。どうぞお見知りおきを」

「リアの兄ね? 初めましてミスター。私はジェルマのヴィンスモーク家、第一王女レイジュと言いますわ。と言っても、改めて自己紹介するほどじゃないわね」

 

 サボとレイジュ様がお互いが笑顔で挨拶を交わす。

 周囲の注目が若干集まったように思える。何故、私みたいな小娘が王族の知り合いかって疑問に思ってるな?安心してくれ、私も思ってる。

 

「お互いヴェズネ王家と関わりがあるだなんて思わなかったわ。ふふ、今夜は楽しみましょう?」

「レイジュ様…」

 

 感動した様子に見えて心の中で思ってることは態度と真逆です。『何この王女楽しめないに決まってんでしょ怖い!』だ。ふぇっ、腹の中が見えない分怖いよぉ。

 

「今日は弟達も来ているの。後で連れて挨拶に向かうわね」

「こちらから向かうべきなのですが」

「気にしないで、私と貴女の仲じゃない。ここは友好を深める夜会よ。姉も同然なんですもの」

 

 つまり『逃がしゃしねぇぞ』って事ですかね!?

 くすくすと笑みを深める王女様が怖いよぉ。王女って本来はこんな生き物だったのを思い出した。

 ……感情がポロポロ外に漏れでる天然産の王女に囲まれてたせいで、他国に付け込まれない様に完璧な淑女の仮面を被る王女を初めて見た気がする。こっちが常識だよな、普通。

 

 ちなみにファルシュ家という存在はアラバスタに有った没落貴族。歴史は残ってます、しかし現在は噂すら聞きません。

 閉鎖的になってしまう偉大なる航路(グランドライン)だからこそ出来る情報操作だよね。

 

 空白の歴史に存在したであろう貴族様!お名前、超お借りししてまーす!

 

「それにしても……」

「?」

「成長した?」

「…………まぁ、そうでしょうか」

 

 レイジュ様は口を開いた。

 そう、主に胸を見ながら。

 

 うるさいですよ!これはコアラさんが『う〜ん、見た目16か17には仕上げるつもりだけどちょっと発達が足りないなぁ。ペルさん、ちょっとタオル持ってきて』とか言いながら頑張って肉を寄せて詰めて誤魔化して作られたニセ乳だよ畜生!

 身長はヒールである程度印象操作出来るけど谷間の露出が出てきてしまう胸は偽装に苦労したんだ!しんどかった!主に精神的な意味で!

 

 この世は地獄ばかりです。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、チマチマと会場の人の挨拶を交わす。

 王の挨拶まで生贄に目をつけておこうと思ってな、もちろんネタを仕込む事も忘れない。

 

 サボとあらかじめ決めた合図を交わしながら生贄を煽っていきますよ〜。この程度で頬を引き攣らせてて大丈夫ですか上流階級の方々。

 

 

「──今宵は是非とも我が国自慢の料理でもてなそう、ゆるりと楽しまれよ」

 

 そんなリオ様の挨拶をバックに遠い目をする。

 

 ……あの方の面の皮、すげぇな。

 

 なんというか、犬が龍になった感が否めない。

 

「…厚いな」

「兄様」

「っと、すまない」

 

 ポツリと呟いた言葉を諌める。

 周囲には聞こえてなかったみたいだけど、同じ感想抱いてたんだね!さすがお兄様!ハッハッハ!笑えてくる!!

 

「挨拶に行くか」

「うん」

 

 王様に挨拶に行くのは当然。

 王族と王様では圧倒的に違いがある。王様絶対。

 

「アラバスタの、よく来られたな」

「本日はお招きありがとうございます」

「ありがとうございます」

 

 サボに倣って頭を下げる。

 王様ー、その笑顔怪しいですよー。その見るからに『期待してるから頑張ってくれ!』みたいな笑顔やめてくださーい!

 

「その方がリアスティーン嬢か」

「お初にお目にかかりますリオ陛下。ご機嫌麗しゅう」

「噂は聞いている。王家の者と大変仲が良く、復興の尽力に続き膨大な個人資産での復興支援……その若さで見事なものだ」

「大袈裟です、陛下」

 

 聞いてねぇぞお前ら。

 おい、この『リアスティーン』ってどういう設定なんだ!確かに、ビビ様とは仲良いけど!尽力って言うか女狐の名前を貸し出してるけど!ギリギリ、本当にギリギリ嘘はついてないけど!膨大な個人資産は持ってますよ!これでも名ばかりとは言えど大将ですから!支援しましたよ!一億にも満たないけど!

 

「それでは失礼致します」

 

 サボが会話を切り上げて会場に戻る。

 

 私もそれにぎこちなく付いていくと視線がかち合った。

 

「………お兄様?(どういう事だこら。なんの設定だ、聞いてない)」

「いや、折角の妹の出来を自慢したくてな(ちょっとした細工をな)」

「もう、恥ずかしいです(やめてください心臓に悪いです)」

 

 注目は集めたままなのであくまでも貴族の兄妹として喋る。自慢?私が来る前に事前情報としてこんな事言えばいいんじゃないかとか仕組んでたんだろうが!!!

 

「ご機嫌麗しゅう。サン殿、リアスティーン嬢」

 

 挨拶が終わったであろう貴族が声をかけた。

 

「エルバート殿」

 

 顔の判別が付かない私の代わりにサボが名前を呼ぶ。あぁ、挨拶してた中に居た人ね。

 

「少々お話よろしいですかな?」

「えぇ、構いません。なぁ、リー」

「もちろんです」

 

 この人はおそらく白。

 サボが私を愛称で名前を呼べばセーフ。略無しだと要注意人物だったり生贄だったり。

 見聞色使えるのはサボだもんね。クザンさん曰く『野生の勘でも備わってるんじゃね?』とか言われてたけどそんな不確定なものは信じません!

 

 とりあえず話さなきゃ何も進まないから話すけど、標準語間違える気満々なのでミスはカバーしてね。

 

「リアスティーン嬢はもしやデビュタントで?」

「えぇ!国の事情により王家の代わりに、と勧められました故、私達兄妹が!…と言えども、拙い私がこの場に馴染めるか心配でして…パートナーをお兄様にお願いしたのです」

 

 

 

 

 

 

 まず、大前提として話しておきたいことがある。

 

 この『貴族潜入』に当たって、私は断る事だって出来た。それは私が海賊に潜入している任務中だからだ。

 それが分かっていたからこそ、コブラ様は聞いた。

 

 私がこの話を引き受けたのは『公の場じゃないにしろ王命だから』、という理由じゃない。もちろん理由の一つだけど。

 

 私がこの話を引き受けることによって狙う最大のメリット。それは『アラバスタの者』として参加出来るから。

 

 

「──アラバスタで内乱があったと聞きますが…」

 

 

 『アラバスタの者』なら、『アラバスタで起こった事』を社交界(=情報交換の場)で喋っても、何ら不自然な所はないよね?

 

「実はですね…!」

 

 イキイキとした表情の私にサボの笑顔が思わず固まる。

 

 良かったね、美談(笑)は世界中に広がるよ!

 

 




内容が小難しいかなと思ったので『』でわかりやすい解説風味を。

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