『──…───…………─…───』
『…─……───…─…─………』
『………───…──っ─……』
『────て…───』
『─!!…───…─────!!』
誰かが叫んでる。──誰だったっけ。
見覚えのある顔。遠い昔に見た顔。
なんで泣いてるの?何か悲しい事があったの?悔しいの?痛いの?辛いの?
少年達は泣くばかりで何も答えない。
参ったなぁ…
目線を追うと誰か知らないが大きな人が大勢見える。
あれは誰?何をしてるの?
すると突然辺りが火の海へと変わった。大事なものが燃やされていく。
──やめて…やめてよ………──
なんで逃げないの。逃げれないの。動いて、ねぇ。動いてよお願いだから。
『助けてくれ!』
==========
「っ!!」
ガバッ、と布団から飛び起きる。兄たちの姿はもう無く、2人用の布団が畳まれていた。きっとサボが畳んだんだろう。
にしても頭痛い……。
何かの夢を見てた気がするけど所詮は夢だ。起きるとすぐに忘れる。
窓の外を見ると日がもう高く昇っていた。あぁ、なるほど、寝すぎて頭痛いだけか。
フェヒ爺に会ってあれから約1年。私は未だあの問いに答えられずに日々を過ごしていた。
『海賊王の息子』
一体何なのやら。ダダンに聞いても口を濁すだけで結果何の情報も手に入れる事が出来なかった。
「んんんっ…」
ググッ、と身体を伸ばすとボキボキ言ってる。ババアかな。
まだまだ可愛いお年頃よ。つーかさ、この1年フェヒ爺にしごかれてしごかれて。フェヒ爺に会うたびに筋肉痛だよ。
逃げよう、というかむしろ行かない様にしてるんだけど特にサボが逃がしてくれない。腕捕まえて軽々と持ち上げるとグレイ・ターミナルに連れていってくれる。
ありがた迷惑だコンチクショー!
枕元の箒を手に取って跨ると魔力みたいな気合いを循環させる。これは飛ぶ練習でもあるし、能力を使う訓練でもあるけど、もはや毎日の日課になっていた。
果たして効果があるのかって言われたら首を傾げる以外出来ないけど使って練習じゃい。何もやらないよりはずっとマシだろ。
きちんと飛べる様になってフェヒ爺やサボから逃げ出してやる。
今の私の箒での飛行時間は限りなく少ない。集中力が切れると一気に落ちちゃうから正直走る方が逃亡確率が高いんだよね………。
いずれは息を吸う様に乗りこなしてみせる!絶対逃げる!
フェヒ爺との訓練はそりゃ大変で身体作りだとかでどぎつい筋トレさせられるし素振りが基本だとかでひたすら手に豆出来ても振り続けるし。
正直そんなガチでやるつもり無いのですが。
だって痛いじゃん!?豆すっごい痛いよ!?私自分を痛めつける趣味は無いんだけど!!
「リー!!起きてるかー!?」
バン!と部屋に入って来たエースとサボ。あ、おはようございます。
するとニヤニヤと何か悪いことを企んでる様な顔をした2人が私の両腕を捕まえた。
え、何。まさか今日もフェヒ爺との訓練?待ってくれ、ちょーっと待ってもらおうか。ほんとに一分くらいだけだから。一分くれたら全力ダッシュするから。
「おはようリー、いい天気だな」
「リーおはよう!さぁ、行くぞ」
「おはようございます…とりあえず両腕の救済を希望ぞ」
「救済拒否。発進致しマース」
「エースさぁぁん!?」
グイグイ押されながら部屋を出される。
この世に神は居ないのか…。
ええーい!神様じゃなくてもいいから堕天使様助けてー!!
「「「「「お誕生日おめでとう!」」」」」
「へ?」
思わず間の抜けた声が出てきた。
お誕生日おめでとう……?あれ?今日私の誕生日なのか?そして私の目の前にはダダン達がケーキを持ってるので間違いないですか?ねぇ、甘い物!?甘い物ですか!?それは!
「リーは自分の誕生日知ら二ーんだろ?ジジイに聞いても分からないって言ってたんで、ここに来た日をリーの誕生日にしたんだ」
「お誕生日おめでとうさんリー。これはこいつらが金貯めて買ったケーキだ」
「っ!!っ!!」
ドグラとダダンの発言に驚き思わず横にいる2人を交互に見上げると、2人はイタズラが成功したかの様にしたり顔でお互い見合った。
「驚いたか?リー甘い物食べたいって言ってただろ?だから用意したんだ」
「無難にケーキが一番かな、って。お誕生日おめでとう」
「あり゛がとう二人共!甘い物…───甘い物ぞぉぉおおお!!!あぁ、長期に渡り長らく食べたかった!甘い物!いついかなる時でも恋焦がれていたか!あのまろやかな舌触り。口の中で溶けるクリーム。鼻から抜ける甘い香り。目を癒す美しいフォルム。ひとつ失えば保てない絶妙のハーモニー!定期的に取らないとしんでしまうんじゃないかと心配して今日この頃、やっとこさ邂逅ぞ!私の愛しい甘い物!」
「な、なぁ。リーはこれ病気で二ーのか?」
「流石にここまで暴走したのは初めて見るな…」
「大丈夫なんだろうね?」
「多分………」
なんか失礼な事言ってるけど今日の私の心は寛大だ。許してあげましょう。
何はともあれいただきます!
==========
幸せだ。これ以上無いくらい幸せだ。念願の甘い物を食べれて、森に行くことも無くて。命の危機もない。
なんて幸せな日なんだ。
毎日これが続けばいいのになぁ……。
「リー美味かったか?」
「うん!」
「良かったな」
「うん!」
「じゃあ行くか」
「うん!…──────ぅん?」
あの、どこに?どちらに?
「知ってるか?こういうの言質って言うんだ、リー。さぁ、行こう」
サボが笑う。
「こうでもしないと絶対行かないからな」
エースが笑う。
「………ハハハ…随分と賢くなりやがりまして…」
私が笑う。
どうやら笑顔の誕生日はまだ終わらない模様です。
いやぁぁぁぁあ!!1分プリーズぅぅう!!
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「よぉ、小娘。久しぶりだな」
「久しぶりも何もあなたとはつい先日かいこーしておるぞ」
「その妙ちくりんな喋り方直せよいい加減」
「なんかフェヒ爺に言われると意地でも直す気概消沈なるぞ……」
「お前は出会い頭に喧嘩売らねぇと生きていけねぇのかよ…」
残念ながらエースとサボには決して喧嘩売りません。敵のみですぅ。
「ほらよ」
ひょいと刀を投げられて慌てて落とさないように受け取った。危ねぇなコンチクショー。
「俺が現役の時使ってた相棒だ。大事に使えよ?」
「何故私なるに……はっ!これは修行卒業ですか!?」
「アホか。まだまだ続くわ!」
「期待外れ!」
「その刀はな。天邪鬼だぞ、扱いには気をつけろ」
「まさかのではございますが妖刀!?」
「ほぉ、知ってんのか?」
「全く。これっぽっちも」
──キィィィィン……
刀を抜くと耳を覆う様な音が出てきた。何これ耳痛い。
「喜んでんのか?鬼徹」
うわ、フェヒ爺刀に語りかけてる。頭おかしい人かな。
「なぁ、俺聞いたことあるんだ。妖刀には何かしらの厄が付いてくるって。この刀はなんで妖刀って呼ばれてんだ?」
サボが刀を見ながらフェヒ爺に質問した。うん、確かに何かないと妖刀だなんて危そうな名前でなんか呼ばれないよね。
「確か使い手が消えていく刀だとか……」
おいまて、そんな厄介者を私に押し付けるんじゃありません。
「小娘。サボに押し付けようとするな」
「このような危険物幼き子供に所持は禁止ぞ!」
「それ一応高価だぞ…業物だし」
「業物とは何!」
「業物を知らねぇのか。簡単に言えば刀のランクで最上大業物が一番高ぇ。ただ12工しかねぇから入手が困難だがな」
「その次なるが業物?」
「いや、その次は大業物だ」
「その次?」
「……………その次は良業物だな」
「──結論、そこまでレアじゃなき」
「失礼なこと言うな!鬼徹一派はその3代目まで全部妖刀と言われて!そもそも持てる人間が少ねぇんだ!その鬼徹に選ばれたことくらい誇りに思え!」
思いたくない。いや、正直すごい迷惑。なんでこの刀ちょっと震えてるの?なんで?まってホラー?いやいやいやいや、私こういうの無理なんですけど。死んだ人間でもホラーは無理です。
鬼徹に呪い殺された人が夜な夜な怨みに枕元に居そうで怖いんですけど。もう一度言います。死んだ人間でも!
1度堕天使に会う時が会ったら幽霊がなんなのか聞いておこう。うん。そうしよう。
「分かったらさっさと持っていけ」
「拒否不可?」
「不可だ、不可!」
「一つ進言。フェヒ爺…───」
「なんだ」
「───重い」
「はぁ………。筋トレ増量な」
「何故!?」
「ほら、今日だけは免除してやるから帰れ。日が暮れるぞ」
「夜の森は危険!急遽帰還!お疲れ様でした!」
「……本当に小娘の相手は疲れる」
「じゃあなフェヒ爺、また今度」
「おう、また来い。小娘引きずってな」
サボとフェヒ爺が危険な取引をしてるな。一応な…サボの心情分からなくもないんだ。こんな危険な森周辺で過ごしてるんだから子供のうちから少しでも力をつける方が良いだろう。命を考えて。
でもですね。正直キツイのでまた逃げ出しますよ?良いですか?いいですね?聞きません。
「小娘」
「にょ?」
家から出ようとすると声がかけられた。
「誕生日…おめでとう」
「にひひっ、ありがとう!」
素直じゃ無いフェヒ爺からの贈り物は業物:三代鬼徹という不思議な贈り物でした。
───正直、もうちょっとまともな物が欲しかったな。と思っています。
三代鬼徹はあれです。
ローグタウンでゾロが手に入れる業物ですね。どうしてここにあるのかという謎はおいおい説明しますので触れないで下さい…。