2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第139話 兄妹の再開

 

 

「宝!盗って逃げるぞ!」

 

 大冒険の終わり、ルフィのそんな言葉でナミが特に目を輝かせる事になった。

 

「凄いわルフィ!いつの間にこんな所を!」

「なんだっけ…迷ってたら蛇に喰われちまったらしくてよ〜。出るとみんなボロボロだろ?いや〜、焦った焦った!」

「あぁ…ルフィさんの登場が遅かったのはそのせいだったのね…」

 

 空に住む大蛇(うわばみ)の胃の中には金銀財宝、つまりナミの天国がそこにあった。

 無いと思った黄金、それが存在しているのだから。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「お前の手が有って良かった。助かった」

「リィンちゃんありがとね〜」

「また借りが出来てしまったな」

 

 アラバスタの2人やリオ様、ジェルマの方々とは別れを済ました。そして今回の協力者、革命軍とも別れの時間だ。

 

「どうでしょう、此度は私も助かりますたし…」

「礼は素直に受け取っておけ」

「……はいはい」

 

 悪党を箒に括りつけてあるのでいつでも出発できる。夜が開けきる前に辿り着きたい。

 ……本当はこちらで夜を明かしても良かったんだが、革命軍は早く去りたい様だし。長居する理由も無かったから早めに支部へ行こうと思う。

 

 サボが頭をワシワシともみくちゃにするので直しながら向き直る。

 

「……ありがとな。本当に」

 

 しみじみと言わないでくれるかな。

 

「これからは革命軍と無理に取り引きしなくてもいいか──」

「それ以上言うなかれ、お兄ちゃん」

 

 サボの『裏切り者をやめろ』という発言を阻止する。ちょっと組織舐めてませんかね、充分首飛ぶレベルなんだよ。首皮1枚で繋がってるから切れた場合のツテとして残しておきたいんだよ。

 それに、まだ離れたくない。

 

「おい、堕天使。兄妹設定はもういいって」

「──『お兄ちゃん』」

 

 今、私は『サンお兄様』に話しかけてる『リアスティーン』じゃないんだよ。

 

「にぃに」

 

 サボは目を見開いた後、視線を下に向けて大きく息を吐くことになった。

 

「………いつから気付いてた、()()

 

 取り繕う事を諦めたように呟く。思っていた通り、サボは記憶を思い出していた。

 キョロキョロと効果音が付きそうなくらいコアラさんが私とサボを交互に見る。

 

「私の予想では熱中症の段階で兆しがあったのでは?そして恐らく完璧に思い出すたはVSドフィさんの骨折り辺り」

 

 時期の予想をするとサボは両手をあげた。

 

「だいせーかい…」

「えっ、じゃあサボ君は記憶を…」

「あぁ、全部思い出していた」

 

 コアラさんの言葉にサボが頷く。

 

 酷く頭痛を訴えていたように感じる砂漠越え。4人が10年ぶりに集まったんだから、サボの記憶の蓋をこじ開けてもおかしくない。

 『サボ』と野生児コンビに呼ばれて倒れたんだ、タイミングが意地悪過ぎる。

 

「何で完璧に思い出したのが戦闘中だと?」

「鰐と鳥」

「はい?」

「エースが砂漠で思い出すした事」

「あ〜…それって、ルフィ君とリィンちゃんが鰐に襲われて、しかも野鳥に襲われたって話?」

「さよう。あの時のサボの言葉は『決着は今度着けてやるから覚えていろ』」

 

 どう考えても二つが同じような状況下。

 

 最初、『鰐に襲われたのはルフィとリィン』であり、今回は『クロコダイルと対峙したのはルフィとリィン』ってだけでも同じ。

 更に『ドフラミンゴ(やちょう)に敵わず、追い払ったのはエースとサボ』だ。

 

 ……しかも捨て台詞も同じときた。

 

「リーはなんなんだよ、人の心情心理でも読めるのか…。正解にも限度があるだろ」

 

 遠い目をしてらっしゃるサボ。

 

「後、『参謀総長』は仲間以外通り名で呼んでたんだ。決して名前を呼ばない」

「あ、あぁ。それは昔から……」

「戦闘中、エースやルフィと呼んでいるしたぞ?」

「…………混乱中は意識してなかった」

「戦闘ぞ終わり、少し理性を取り戻すしてから取り繕うしたのが不味かったですなぁ。どう考えるしてもわざとらしく思うぞ」

 

 合体技的なのにやられて、ルフィがミイラにされた時。ルフィの名前を呼んだのは、サボもだった。

 骨を折った後、サボは『避けてろルフィ』と言った。ルフィとクロさんのタイマンの時『さっきまで殺し合いしてたドフラミンゴがエースの隣で寛いでる余裕はとりあえず腹立つ』と言った。どう考えても違和感以外何物でも無い。

 

 麦わらや火拳と呼んでいたのに。

 それに悲しさを少し覚えたのに。

 

「そして何よりの決定打!」

「なんだッ、俺はどこで何をミスしてたッ!」

 

「──サボが優しい、これに尽きる!」

 

「「「……は?」」」

 

 革命トリオは何とも言えない顔になった。

 その気持ちは分かる。

 

「えっ、決定打が、優しい?」

「うん」

「優しいから、分かった?」

「うん」

「……心遣いや信頼度が上がったとは」

「思わぬぞ」

 

 壊れたレコードの様に何度も聞き返すサボ。

 

 うん、まぁ、何故かわからないけど隠そうとした事がバレた理由が『優しいから』って納得いかないだろうね。まさか態度の問題だったとは思わないだろう。

 

「俺、そんなに態度変わってたか?」

「かなり」

「……具体的には」

 

 若干ショックを受けているのか低い声で聞く。良かろう、答えて進ぜよう。

 

「その1、報酬」

「…やっぱりか」

 

 参謀総長が情報料やら依頼料やらを女狐に渡そうとしたりなんかしない。実際、私はアラバスタでこれと言った事はしてないんだから。

 

 項垂れるサボに指を立てる。

 

「その2、大丈夫かと心配すた」

「そこもか!」

 

 報酬の流れで言ってたはず。『今回のクロコダイルの暴挙、お前に責任の大半があるから事情聴取やらで気を付けとけ』と。参謀総長なら絶対そんな事言わない。多分用は無いと無視する。

 

「その3、コブラ様に依頼をされた時」

「……待てよ、本気で自覚無いんだが」

「サボは言うした。ヴェズネのこの件について『お前はどうだ、抜け出せるか』と」

「おかしいか?」

 

 純粋にわからないのか首を傾げる。

 

「──参謀総長なれば『一味抜け出して無理やり時間作れ女狐』と大暴露しながら命令する」

「ごめんなさい」

 

 参謀総長のキャラの酷さが分かったか。私、記憶喪失のサボ相手に良く何年もボロを出さずに、手玉に取られずに立ち回りした。この人怖い。

 

「他にもこの国に来てすぐ手荒な迎えを謝るした事、絶対せぬ。リアスティーンのキャラの設定が参謀総長にしては優しい。夜会でのフォローなど、参謀総長は絶対せぬ。カモになりそうかと問うした時の合格、判決が生温い。そして暴力暴言が圧倒的に少なき、意識して使っていると推定」

「リィンちゃん勘弁して上げて!サボ君これ以上にないくらいショックを受けてるから!」

 

 えぇ…まだまだあるんだけど。

 麻薬食べた時の慌てっぷりとか、『敵』には絶対しない。否定しない、理不尽な事をしない、八つ当たりしない、信頼している。

 

 おかしな事だらけだ。

 

「それとね、サボ」

 

 しゃがみこんで頭を抱えたサボと目を合わせる。

 もう一つ、気になった違和感がある。

 

「青いリボン。恨めしそうに悲しそうに見るしていたなれば、兵士は流石に分かるぞ」

「……鈍いと思ってた」

「まさか」

 

 私は他人の気持ちに鈍感な訳でも、天然な訳でも無い。万能じゃないから隠されると気付かない事だってあるけど、あからさまな思惑には気付く。

 気付いて、利用しているんだから。

 

「何故、言わなかったの?」

 

 隠そうとしていることも分かっていた。

 アラバスタでどうすべきか迷ったが、サボの判断に従うことにした。

 

 サボは大きく息を吐く。

 

「俺は言わば死人だ」

「そうぞね…」

「他人としてあいつらを見てしまった以上、死人が現れてどうこう口出す訳にはいかないだろ」

 

 ハリセン用意。

 

「言わない方が、あいつらにとって幸せだ」

 

 発射!

 

──スパァンッ!!

 

「いでぇ!おい、それ地味に痛いんだが!」

「エースは!」

 

 頭を思いっきり叩いた為、サボが涙目で頭を押さえる。私はそんなサボに聞こえるようにハッキリ言った。

 

「エースは気付いてる!」

 

 

 

 ==========

 

 

 

「なぁ、リー…」

 

 困った様に笑いながら、エースの顔が近付く。

 耳元に口を寄せて小さく呟いた言葉に、私は思わず身を固くする事になった。

 

「──サボは、生きてるんだろ…?」

「ッ!」

 

 やっぱり、と納得した様な顔。

 正解を与えてしまった事に苦い顔をする。

 

「知ってたんだよな、リー」

「………うん」

「いつから?」

「エースが、賞金首になる辺り」

「なら、俺と再会した時は知ってたって訳だよな」

「………うん」

 

 初めてだ、初めてエースの怒った顔を見た。

 しかも、怒りの対象は私だ。

 

「なんで、言ってくれなかったんだよッ!」

 

 ギリギリと力の込められた手で肩を握られ、痛みに顔を顰めると慌ててマルコさんが止めに入った。

 

「エース!なにやってんだよい!」

「お前だけ知ってたんだろ!?あぁ、お袋の手紙の事だって!俺の父親の事だって!…ッ、お前だけ知ってしまったことには怒らねぇよ! だけどな、兄妹の事だ!なんで、なんで!」

 

 雨が涙みたいに見えて、口を噤む。

 私に反論する事は出来ない。

 

 泣きそうなくらいの叫び声、だが雨の音や雨に喜ぶ声で、喧騒なんて有って無きが如し。

 麦わらの一味も革命軍もこの場には居ない。

 

「なんで俺にも言ってくれなかったんだよ…!」

 

 もはや弱々しく呟くエース。

 マルコさんはどうすべきか悩んでいる様だったけど、兄妹間の問題だから口を出せない。

 

「俺はお前やサボみたいに頭が良い訳じゃ無い…、すぐ忘れるし顔にも出やすい」

 

 

「でも、兄妹の事。知りたくないわけが、ないだろ…。そんなに信用ならねェのか……」

 

 ……信用、してる。

 

「兄貴なんだ、頼ってくれよ」

 

 この世界に生きて、手に入れた家族。

 

「サボが生きてた事。リーが頼ってくれない事が1番ショックだ…!」

 

 『私がなんとかしなくちゃ』『守らなければ』『仕方ない、フォローするよ』

 

 ……何様だ。

 それでエースの兄としてのプライドを傷付けた。

 

 サボが記憶喪失なのをいい事に黙っていたのは、どう考えても私の落ち度!

 私がサボを探して求めていた様に、エースやルフィも同じ気持ちだった。

 

 泣きたいはずなのに涙が出てこない。

 

「気を使わないでくれよ」

「……ごめんエース」

「赤の他人じゃないんだから…ッ」

 

 自分勝手で自己優先の妹でごめん。

 

「サボは…──」

 

 記憶喪失、と言おうとした。

 でも、正直記憶を取り戻してるんじゃないかという疑いを持ってるから言いきれない。

 

 あぁ、これではダメなんだ。

 

「──記憶喪失の恐れがある」

 

 ちゃんと話す。

 私の『兄を失いたくない気持ち』の為に。

 

 自分勝手で自己優先の情けない妹でごめんね。

 

「ただ、思い出すてるかどうかが分からぬ。だからお兄ちゃん、絶対生きるして」

「…っ!お、前は…ホントズルイよな」

「狡く賢く。…これから、頼りにすてもいい?」

「あぁ。兄貴だからな」

 

 細かい事云々抜きにして、初心に戻れ。私は何より兄を大切にしたいから海軍に入った。

 ただ、そんなシンプルな事だったろう。

 

「でもやっぱり旦那でもいいか…──」

「滅!」

自然(ロギア)系にも弱点があったか…ッ!目が、目が痛いいいいい!」

「水分って強いなぁー…」

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

「エースが…気付いてる?」

 

 私の言葉を、サボは繰り返す。

 

「アラバスタで決定的なミスが2つあるした。私と、コアラさんが、思わずサボの名前を呼ぶした。エースの中でサボの記憶は大きい、故に簡単に目を付けるしたぞ」

 

 頭の中のふざけた記憶を削除してシリアスを取り戻そうと顔に力を入れる。

 実際やっちまった感あった。違いない。

 

「うわー…マジかよ…」

「うわー…やっちゃった、ごめん」

 

 再び頭を抱えだした。

 コアラさんまで謝っている。

 

「だが、サボ。あの2人に言いたくなかったのは少々理解出来るが、救世主に対して隠す必要無かったんじゃないか…?」

「あぁ、確かに」

 

 比較的冷静なハックさんと共に視線を向けると気まずげに顔を逸らされてしまった。

 

「サボさぁ〜ん?」

「いや、だって、リーは『革命軍の俺』が触れ合ってきた唯一の兄妹だろ…? 今更態度が変わるとか、まず俺が精神的に死ぬ」

「サボ君それすっごくしょうもない」

「考えてみろコアラ!超絶塩対応のどう考えても敵扱いしてた俺が超絶砂糖対応のシスコンの兄バカになるんだぞ!?分かるか!?」

「流石に見たくないかな」

「それなら知らないフリしてた方がずっといいだろ…ッ!主に俺が得する!」

 

 心からどうでもいい理由だった。

 いや、まぁ。私も女狐やってる身としては、色々やらかした後に身バレをしたくない。

 

 要は『態度変えると小っ恥ずかしさが生じる』って事だろうね。

 

「子供か!」

「馬鹿!男はいつだって少年なんだよ!」

「兄でもまさかの罵倒!」

「俺は考えた…」

 

 さっきの一瞬で何かの解決策が浮かんだのか、サボは手を組んで真剣な顔をして呟く。

 

「黒髪2人は甘いから厳しくしておいた方が将来リーの為になるんじゃないかと…」

「充分厳しきぞ!」

「本音を言うと兄妹の中で軌道修正効くの俺しかいないと思ってる」

「否定…難関…ッだと…!?」

 

 一度思ったことあるから否定しづらい。

 サボさん勘弁してください、私は甘やかされて育ちたい、堕落人生を過ごしたい、引きこもり希望の平和平凡を愛するただの少女なんで。

 ……結構本気で。

 

 このまま世界から逃げ出したい…ッ!

 

「とりあえず、俺の事は他の兄弟には黙っててくれ」

「心の準備が、出来るしたなれば」

「絶対言う」

「死人に口は無くてもサボにはござります故。もしも逃げたなればあることないこと捏造し世界発信頑張るます」

「無駄な方向に努力をしないでくれよ…」

 

 無事に伝えてくれることを願ってるよ。

 

「本当に、生きてて良かったか?」

「その答えは今の現状と思うぞ」

「……そっか、ありがとな」

 

 優しく撫でてくれる。

 根本的な所は何も変わってない。4人揃うその時まで、私は青いリボンで記憶を繋ぐから。

 

「う…ぅぅ……」

「オラァ!」

「グハ…ッ!」

 

 だからどうか、目覚めかけた護衛の奴を一々物理で潰すのやめて。

 




ヴェズネ編はこれにて終了。
次、新章はいります

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