2度目の人生はワンピースで   作:恋音

154 / 278
第141話 青と緑と、真っ白い狐

 

 

「……………キミは」

 

 はい詰んだ、詰みました。

 

 お先真っ暗、お空も真っ暗。異常事態を知らせるけたましい警告音。

 私、海軍本部の大将。通り名は女狐。今王女ビビ様とエンカウントを果たしちゃったの。誰だよ青き虫は青き草むらにいるから分かりずらいとか言ったヤツ!

 

 格好も様子もめちゃくちゃ分かりやすいじゃん!

 

 うぇ…お腹痛い…血ぃ吐きそう。キリキリするよ。もう、嫌だ、お姫様大人しくしてて下さい。

 

「なん、で…」

 

 狼狽えながら後退するビビ様。

 見るからに疑ってくださいって言う感じの態度に苦笑いすら出てこない。

 

 どうしよう。

 ビビ様1人だけだと傷付けられる可能性が有る。そうなると誰か一味と合流させるのが先決だと思うが他の一味がどこにいるのか分からない今、下手に動かすのも…。

 

 雑用服でも渡して変装してもらうか?

 『これを洗濯しておいて』みたいに言えば恐らく…大丈夫だろう。

 

 よしっ、と口を開こうとしたその時。

 

「大将…!」

「……………何?」

 

 ドレイク少佐がコツコツと床を鳴らしながらキリリとした顔で現れてしまった。

 

 願いは叶いませんでした、なんというタイミングでやって来た!ちくしょう!

 

「麦わらの一味の船はドックに収容、そしてロロノア・ゾロを捕らえました」

「……………そう」

 

 新たに得られた情報に口角が上がる。

 

 地獄に仏とはこの事か、一味の中で武闘派の戦力が捕えられているだと!?ビビ様の護衛はゾロさんに任せるべきだね!

 つまり、ビビ様は捕獲。

 

「……………海賊狩り、か」

 

 ポツリと呟けば背後でビビ様の驚いた気配がした。

 訝しげに見下ろすドレイク少佐。彼が口を開く前に私の手がビビ様の肩を掴んだ。

 

「え…」

「〝砂姫〟ですか…。その、なんというか、仕事がとても早い」

 

 ここに私服海兵なんて有ってはいけない。そうすると浮上する可能性は『侵入者』のみ。

 ドレイク少佐に姿を見られている以上、私が彼女と敵対するそぶりは見せておかないと。

 

 余談だが、私はこれでも女性にしてはかなりの筋力を有していると思っている。重い刀を持って世界一の剣豪相手に逃げ回ったり、脱走兵(私から見ると巨体)を引きずったりしてたんだ。

 慣れない頃は筋肉痛とか良くあった。

 

 だからこそ歳上のビビ様でも簡単に封じ込められるって理由だ。

 

「離して…っ!」

「……………無理」

 

 ジタバタもがくビビ様には悪いが、大人しくしてもらっておく。

 方法は至って普通、睡眠薬を飲ませるだけ。

 

「ッ!」

 

 ガクッと膝から崩れ落ちるビビ様を抱きとめて担ぐと、少しだけ遠い目になってしまった。なんだろう、この犯罪臭。私、犯罪とは真逆の立場なのに。……真逆なんだよね?

 

「…ONLY(オンリー) ALIVE(アライブ)ってその様な方法でも大丈夫なのですか?」

 

 不安そうに聞かないで下さい。多分、大丈夫。

 

「ところで女狐大将。一応ロロノア・ゾロに尋問をする予定なのですが」

「……………共に」

「はっ!」

 

 『一緒に行かせてもらうぜ』と伝えればビシリとした態度で敬礼をされた。

 

 そう、これが正しい部下の姿だと思う。少なくとも私の部下(古参)は態度からして間違ってる。上司(私)の頭をボールみたいにバンバン叩いてきたり、私の表立っての立場上仕方ないけど顎でこき使ったり、地味な嫌がらせをしてきたり。

 

 あの野郎、絶対覚えておけよ…。仕事ガンガン回すからな…。

 書類仕事しかしてくれない癖になんで私拾っちゃったんだろうなぁ…。

 

 実は女狐には数人部下がいる。少数精鋭だけど。いや、そんな精鋭じゃない人もいるな。

 ともかく、BW組の先輩が一癖も二癖もある人ばかりで、私が対応に頭を悩まされる。困ったところを助け助けられここまで来たはいいが、もうそろそろ一般人に戻してもいいと思うんだ。

 センゴクさんよ、私の部隊は厄介人匿い班じゃありません。まして牢獄でもありません。

 恩を捏造させて閉じ込めるのいい加減にして下さい…寝首かかれそうで怖いから。

 

 もうマジで。本気と書いてマジで。

 

 にしても、尋問ってどうすべきだ。何を聞くべきだ。

 堕天使の知っている事を女狐が確認して、海軍に報告すれば堕天使がスパイだとバレないだろう。

 

 はぁぁ〜〜〜、嫌だわ〜〜〜。スパイめんどくせぇ〜〜〜。自業自得だけど〜〜〜。

 私みたいな性格してる他人が居れば速攻縁切る。ヤダヤダ、可愛げ無い。

 誰かに押し付けてトンズラしたいけど多分放っとくと我が兄()は早死にしそう。それだけは避けたい所存。だいたいさぁ、本来の予定ではこんなに地位を高くする予定は無かったんだ。大体…大佐、中佐。いや、少将でもいいかな。

 上に立って指示するの苦手なんだよ、出来ないわけじゃ無いけれど。海軍内の暗躍部隊である通称『影部隊』の存在をもう少し早く知っていれば…、いや、絶対忙しい。無理。もはや生まれたことすら面倒臭い。

 

 隣を見るとドレイク少佐はこちらを見ずに真っ直ぐ歩いていた。声は似てるけど顎にバツ印付いてないし、毛深いし、知り合いじゃないだろう。

 

 確かあの真面目さんの名前は…──。

 

「女狐大将。こちらになります」

 

 呼ばれた言葉にフッと意識を現実に戻す。

 考えすぎて周りが見えなくなるのは昔からの弱点だなぁ。

 

「……………海賊狩り」

 

 地下の牢屋へ。

 薄暗く湿気の籠るそこに緑のマリモが居た。

 

 おっけぇ〜い、ゾロさんね。

 緑髪って結構珍しいから特定しやすい。

 

「あぁ?」

 

 怪しげな人物を見るような目で見られる。やっほー、怪しい人でーす!

 

 牢屋を開けてもらいビビ様を入れると、ゾロさんが慌てて膝に乗せる形で迎え入れてくれた。何事かと様子を見ていたが眠っているだけと分かったのだろう、ホッと息をついて視線を再び私に移す。

 

「……………麦わらの一味。何故、この基地に来た」

 

 質問されない内に会話の主導権を握っておきたい。だからこそ私から問いかけた。

 

「人になにか聞く前に名乗るべきじゃねェのかよ、女」

「この…ッ!」

 

 挑発的に、高圧的にが似合うゾロさん。カチンと来たのかドレイク少佐が飛び出そうとするが、それを止めて檻越しに睨み合う。

 

「……………海軍本部大将、女狐。民の味方」

「ヘェー…タイショー殿、ねぇ」

 

 他所の方向を向いて興味無さげに答えた。でもね、リィン知ってる、殺気ダダ漏れだって事。

 

「……………海賊狩り」

「ロロノア・ゾロだ」

「……………海賊狩り」

「…………。」

 

 あ、ゾロさん諦めた。

 正直言うと未だに『ロロノア』って言えないんだ。この世界四文字以上が多すぎ。せめて三文字で言いやすい名前にして欲しかった。『花子』とか『太郎』とか。

 

「……………一味の目的」

「目的も何もねェよ、空から落っこちたらたまたまここだった。そんだけだ」

「……………空島か」

「知ってんのか」

「……………肯定」

 

 首を傾げるドレイク少佐を尻目に質問を繰り返す。どうやら何も秘密にしてないようだ。

 

「……………一味の総数は」

「9、ただし今は8」

 

 隠す必要が無いと思っているのか、全員世に知られる事になるだろうと思っているのか。本当の事を喋らないだろうという前提で聞いてると思ったのか。

 ビックリする程事実だ。

 

「……………誰、居ない」

「1番賢くて阿呆で残念少女な超級の阿呆」

 

 おい。待てやマリモ頭。なんで2回も阿呆って言ってんだよ。…こいつ、後で、殺す。

 

「……………能力者の能力は」

 

 ピクリと反応したが口を閉ざした。

 

「言う気は無い、と。大将、拷問しますか。自分、頭グリグリが大得意ですが」

 

 ドレイク少佐の拷問が地味に痛いけど可愛い。

 

「……………必要無い」

 

 しゃがんで顔を見る。

 ゾロさんは絶対に顔を見ようとしない。

 

「……………覇気、使用可能者」

「俺だけ見聞色」

「……………なるほど」

 

 覇王色の素質は言わないわけか。だがな、これである程度絞れるんだな。

 

「……………覇気非習得者。魚人やバラバラやスナ。攻撃のリーチが長い。素早い」

「……ッ!?」

 

 こいつらと戦うのは船長だって決まっている。海軍が知っている敵でも特定可能だ。

 

「……………ヘェ、ゴムか」

「なんッで…!」

 

 残りの能力者は『女狐さん心読めるなんてマジパネェッス』作戦でいこうか。ネーミングセンスに関しては触れるな、私は気にしない。

 

「……………ヒトの動物。ハナの…悪魔の子まで居るのか」

「恐れ入ったぜ、タイショウさん? ……なんで分かったテメェ」

「……………一つだけ、海賊狩りも分からない。なるほど、こいつが堕天使か」

 

 あくまでも、あくまでもゾロさんが知っている記憶をたどる風に。女狐さんは有能、女狐さんはチート、女狐さんは最強。オウケィ、洗脳完了だ。

 

「心でも読めるのか、コイツ…!」

「……………フンッ」

 

 仮面の下でこっそりドヤ顔をする。カンニングって便利だ。チートのフリが出来る。

 

 しかしこれがフラグだった。

 

「……なぁタイショウさん。俺達が空島で何してたか分かるか?」

 

 はいカンニング無理ーー!!

 挑発するような笑みを浮かべてるゾロさんに本気で殺意沸く。消えてーー!!!空島の知識なんてないんだよちくしょう!

 

「……………」

 

 考えろ、考えろ。

 こいつら空島で何をしてきたか。

 

 別れる前と違う所を必死に探す。

 ゾロさんの皮膚が焦げている、火傷か。そう言えばこっそり確認した船も破損していた。甲板が焦げていた。

 

 焦げる。焦げること。間違えて事故ったか、能力者と喧嘩でもしたか。面倒臭い何かに巻き込まれたか。

 女狐さんは無口キャラ、単語オンリーでも被ってたら大丈夫。考えろ、考えろ。

 

「……………雷」

「ッ!マジかよ…!」

 

 よっしゃビンゴ!!!女狐さん勝利!!!

 

 確認されていない悪魔の実の中に雷がある。ただ、それだけじゃ危ない橋だ。空に浮かぶのは雲。大きければ大きいほど積乱雲が中で電流を生む。それが雷だ。1回くらいは鳴っただろう。

 そしてそんな環境下でナミさんが雷を使わないわけが無い。

 

 『遠くで雷鳴が聞こえやすねェ…天気が悪くならない内に島を出たいものだァ…』

 

 盲目のおじいちゃんのセリフが頭に残る。……まさか聞こえたわけじゃあるまいが、キーワードに至った一因だったりする。

 

「女狐ェ!」

「……………?」

 

 麦わらの一味の牢屋の目の前にあるもう一つの牢屋。そこから呼ばれた声に視線を向けると、一気にげんなりとした気分にさせられた。

 

 こんな所でまで絡まないでくれませんか。

 

「……………麻薬売人」

「モザブーコ・イディエットだ!」

 

 ヴェズネの雑魚貴族がどうしたよ。革命軍というチートの前に倒れた貴族様が何の用だよ。

 

「き、聞いてくれ!私は騙されただけなんだ!私は貴様が守るべき民だろう!」

「……………守るものを、貴様が決めるな」

 

 少なくともー、サボをー、無意識にー、痛めつけー、麻薬を食わそうとしてたー、テメェはー……敵に決まってるだろ。『守るべきものは自分』の私を舐めんなよ。これだから、これだからモブでザコのバカは…!

 

「全てはコイツが悪いんだ、コイツに騙されてアラバスタの貴族と結託して…!」

「ハァ!?テメェが俺を拾ったんだろうが!金になる仕事があるってよォ!」

 

 イディエットは護衛を指さして喚き、護衛は青筋を立てながら反論する。

 アラバスタの言葉にゾロさんが反応してしまったからやめて欲しい。切実に。

 

「チッ、ポルシェーミ!拾ってやった恩を忘れたか…!」

 

 お腹空いたんだが、朝ごはん行ってもいい?

 

「……………ドレイク少佐、残り任せた。海賊狩りから得られるもの、全て得た」

「は、はい!」

「……………ジョナさん、居場所」

「しょ、食堂に行かれた時間帯だと思われます。女狐大将もお食事ですか…?」

「肯定」

 

 仕事しろよ司令官ッ!

 




ヴェズネに出てきた護衛の名前=ポルシェーミ。
果たしてどんな因縁が…?(すっとぼけ)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。