2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第142話 コサックダンスVSヒゲダンス

 

 こんにちは、私リィンという名の女狐さん。ん?女狐という名のリィンさん?どっちだ?

 ……まぁどっちでもいいか。

 

 私は結婚率の低いこの世界で珍しいリア充の司令官と一緒に朝ごはん食べているの。

 

「愛情たっぷり、健康第1のヘルシーメニューだ。残したらただじゃ置かないよ」

 

 この基地の料理長であり、司令官ジョナさんの奥様のジェシカさんがニヤリと笑った。ジョナさんはどうやらマリージョアから来たらしい料理人の料理を食べたいのだとブツブツ言っている。

 しかし夫に勝るのが妻という存在。ちょっと話すだけでジョナさんは苦手な食べ物を食べ出した。お前は子供か。

 

 ……どうやら人参とブロッコリーが苦手らしい。だからお前は子供か。

 でも私はトマトが嫌いでーーす!!!サンジ様に出されたら条件反射で食べてしまうけど。嫌いな食べ物より平穏無事だぁい!

 

「あんたが噂の大将さんかい?あんたも言っとくれよこの人に」

「……………飯を残すアホは軍に要らない、味わえこのリア充クソ野郎。いい奥さん羨ましい」

「圧倒的な私怨じゃないか」

「アッハッハッハ!」

 

 なかなかに美味しい料理を味わいながら仮面の下で考える。

 

 ひとまず情報を確認しておこう。

 麦わらの一味は現在バラバラ。ゾロさんとビビ様は牢獄、堕天使は居ない。船は88番ドッグ。それだけしか情報が確認されていない。他は不明だ。

 そしてここ、ナバロンにはマリージョアから特別監察官シェパード中佐の船が来ている。大嵐によって怪我人も多数。

 

 女狐の認識は『悪魔の実の能力の存在と堕天使の不在』のみ。

 

 私の取るべき行動、それは『女狐として、海軍にバレないように麦わらの一味を逃がすこと』だ。ジョナさんは堕天使が別行動をしていたと知っているので、堕天使として麦わらの一味の味方をする事は不可能。

 

 

 嗚呼…ヴェズネよりも難題。

 海軍を敵に回せないし、麦わらの一味逃がしたいし。

 

 

 ………いや、実は簡単な話。

 『元々海兵という立場は捨てる予定で兄の手助けをする』と子供の頃決めた。その信念の下動くのなら答えはすぐに出る。『海軍を欺き、堕天使の能力で逃せばいい』だけだ。

 つまり、海軍を裏切る。

 

 そう、簡単だ。

 今なら逃げる場所だってある。ニコ・ロビンの様に闇の組織を転々とする事だって出来る話だ、伝は充分過ぎるほどある。七武海の残りや、頼み込んで四皇のお膝元。革命軍には確実に入れてもらえるだろうし、父親の元を頼れば1発だ。

 

 なのに、何故かそれが出来ない。

 私の出生はもはや関係ないはず。出生による敵以上の味方と協力者を得たのだから。

 

「……女狐大将殿?」

「ッ、何」

「いや、随分考え事をしていた様でね」

「……………謝罪する」

 

 とにかくだ、いっそほぼ全員牢屋に入れて一味を集める方がいいな。うん、そうしよう。

 

「追加のお料理で〜す!」

 

 ジェシカさんが去って直ぐ、1人の雑用らしき料理人が肉団子を持ってきた。

 

「おぉ、美味そうだな。下がっていい」

「アイアイッサー!」

 

 元気良く返事をする料理人を尻目に、私とジョナさんは料理に手をつける。

 

 舌に広がる甘酸っぱいソースが絡まった肉団子。油で程良く揚げられた香ばしさがあるが、団子の中は驚く程フンワリとしていて脂がゆっくりと蕩けていく。蕩ける前に、と噛んでみる。咀嚼すればするだけ肉や玉ねぎの旨味という物が染み渡り。まるで、まるで……──脳内でコサックダンスを踊ってる様だ。

 私、この料理の癖、凄く、覚えが、あるぞ?

 

 なんだろう、この猛烈に嫌な予感。

 

 料理を求めて約10年、味に目覚めて早4年。数々の地域で特有の料理を味わい、尚且つ毒物の味まで判別出来る舌を持つ私が、ここ最近慣れ親しんだ胃の痛くなる料理人の味を間違えるとでも?

 

 顔を上げれば肉団子を取り合う料理人()とジョナさんが居た。……あ、これはビンゴだ。

 

 まさか顔でも帽子でも無く食い意地で自分の兄を特定する事になるとは。

 

「報告は彼女から聞いていたよ、麦わらのルフィ。まさかたまたま落っこちたのがハリネズミと称されるナバロンとは。君もなかなかに運が悪いらしい」

「運が悪いかどうかは俺が決めるさ、海賊ってのはワクワクウキウキするもんだ」

 

 にっしっしと笑うルフィ。口元にソースがついてなければなぁ。

 

「だが、ここからは絶対逃げられない」

「逃げたいと思う時に逃げるさ」

「キミの仲間はどうする気かな?」

「……仲間?」

 

 ジョナさんは挑発的に笑みを深めて、この島の真ん中にある牢獄に視線をチラリと向けた。あからさまな誘導してる所悪いけど、ルフィは気付かないんだよなぁ。

 

「海賊狩りと砂姫は我が手中にある」

「ゾロとビビ…!」

「いやはや、恐れ入ったよ。アラバスタの一件は聞いていたがまさか姫まで連れ出すとは。真実がどうであれ、キミは国家に手を出した」

「今更そんな事どうでもいい、要塞のおっさん、ゾロとビビはどこだ」

 

 憤怒しながら立ち上がり、ジョナさんを睨みつけるルフィ。私はそっと視線を逸らしてしまった。……やばい、ルフィの後ろに居る。危害を加えちゃ首が飛ぶ選手権1位が。アラバスタもまずいけどジェルマはもっとまずい。

 

「麦わら」

「誰だお前」

「……………王族は必ず守れ」

 

 そう言い終わった瞬間ルフィが扉から伸ばされた手に引っ張られ、厨房の方へと逃げていった。

 

「追わないのかい?」

「麦わらの一味に人海戦術は効かないから、無駄です故に」

「そうか、ならそれに従おう」

 

 出来てせいぜい足止めだ。

 1番向くのは罠だったり心理戦だったり。

 

「それにしても」

 

 ジョナさんは読めない表情で顎に手を置きながら私を見て呟く。

 

「……『王族は守れ』だなんて。随分と、不思議な言い方をしたねぇ」

 

 うわこわっ。

 

「あの一味に王族は2人。知られてはいないですが、知ると厄介ですぞ。大々的に言うされて無き故、知らぬ存ぜぬ当たり前。私の胃袋痛みます」

「今私は心から麦わらの一味担当で無くてホッとしているよ」

「……………もげろ」

「子供の居ない旦那さんに向かってそれは酷い…」

 

 ジョナさんはこっそり前屈みになって顔を青く染めた。ハーッハッハッハ!私は人の傷口を嬉々として抉っていくからな!

 

──ぷるぷるぷるぷる…

 

 ハーッハ…人を呪わば穴二つってこの事か。懐から鳴る電伝虫に冷や汗をかくことになった。

 

「どうしてかな、女狐大将」

「……………はい」

「嫌な予感がするんだ」

「……………奇遇、ですね」

 

 静かに、とジェスチャーをして電伝虫の受話器を取る。

 

『リィン助けて!空島から帰ってきたんだけど、どうやら海軍支部に落ちちゃったみたいなの!』

 

 私、オレンジのボン・キュッ・ボンは厄介な事を頼むその口切り落とせばいいと思うの。

 

「あー…はいはい…落ち着きて」

『落ち着けるわけないでしょ!今チョッパーと一緒にいるけど皆バラバラで!メリーもどこにいるか分からないから足すらないの!』

「分かりますた、とりあえずメリー号奪還とメンバーとの合流を目指すして下さい。場所は?」

『ナバロン!』

「…どこぉ」

『G8ってとこ!とりあえずよろしく!』

 

 そう言ってナミさんはガチャッと切ってしまった。

 

「これから堕天使はどうするつもりかね?」

「堕天使はここに来た経験ぞ無い、これは事実です。無駄に嘘をつくつもりもありませぬ」

「……」

 

 その『お前が何をぬかすか』って視線は止めていただきたい。

 

「しかし残念ながら永久指針(エターナルポース)は持つすてのです」

 

 東の海(イーストブルー)のローグタウンで情報屋のバンさんから強奪した袋の中にはナバロンの永久指針(エターナルポース)が入っていたんだ。……所持してる物全種類寄越せと言ったが、多分渡してないやつあるな。なんてったって、伝説の海賊。はーいやだ。伝説相手に私は対峙してたのか。

 海賊王の世代は怖い。その世代で英雄と呼ばれていたジジの凄さは理解の範疇を超える。

 

「あの…ジョナさん」

「なにかね?」

「……昔の世界ってどんな感じですたか?」

 

 私は今の動乱の時代を生きているけど、昔に生まれていたらどうなってたんだろう。

 

「そうだね…」

 

 ジョナさんは笑みを浮かべて話してくれた。

 

「あまり関わりがあった訳じゃ無いけど、海兵の私が、今のキミに言うとしたら『異常』だよ」

「いじょー…」

「大将なら自分で調べてみなさい。ヒントは『ロックス』だ」

「ジョナさん、それは──」

 

──コンコンッ

 

 質問を続けようとしたがノックの音が響いた。仕方ない、と向き直る。

 

 ロックス。レイさんに聞いてみるか。

 それが示しているのが人名なのか島なのか同盟なのか世代なのか分からない。そして何年前なのかも。ロジャーの時代に一体何があったのか。

 はたまた、ロックスというのはロジャーの時代より前の時代を指しているのか。

 

「入っていいよ」

「ハッ!失礼します!」

 

 今を生き延びる為には昔の地雷を踏まないようにしないと、絶対後々怖くなる。

 

 空白の歴史を含め、歴史関連について頭に入れておかないとならないな。その歴史を追求できるただ一人の人物が麦わらの一味の中に入っているのか。

 

「怪しげな男を発見しました。本人は海兵と言い張っていますが、状況証拠から麦わらの一味で間違いないと思います。」

 

 ……なんということでしょう。

 え、捕らえようとしてる側としては有難いけどポンポン捕まりすぎじゃない…?現在3人目でしょ?

 ダメだ、この一味ダメだ、頭が全力でヒゲダンスを踊っている。どう考えてもヒゲダンスの負けです。コサックダンスの美味しさには敵わなかった!……独特な現実逃避はとりあえずやめておこう。会話に集中集中。

 

「キミ、名前は」

「……ひみつ」

「所属は」

「……ひみつ」

「何故海賊船のあるドックにいった?」

「………ひみつ」

 

 どんな質問にも秘密と答える謎の海兵。

 ここでジョナさんが仕掛けた。

 

「いやいや、少佐。そういえば今朝入港したスタンマレー号に()()()()からやって来た特別監察官が居たという。その監察官なら内定のため、名も名乗らないのも道理だ」

「ですが!」

 

 ジョナさんが嘘をついてカマをかけたのだ。

 

「フフフ…良くぞ見破った」

 

 そう情報も漏らせば謎の海兵は捕えられた格好のまま笑い始めた。

 

「流石は司令官、その通り。私は海軍本部監察官……ウソップ大佐だァ!」

 

 あ、演技スイッチ入りましたね。ウソップさんは名前の通りウソが得意みたいだ。でも人を疑う事や罠も考えようね。監察官がやって来たのは本部じゃなくて正確に言えばマリージョアからだ。本部の海兵である事は変わりないけど。『その通り』と認めてしまえば偽者と断決出来るんだよ。

 

「バカを言うな海軍本部の特別監察官というのは支部の司令官より大きな権限を持つという。お前なわけあるか!」

「……お前?…お前ェ?なぁ〜にを言っとるんだドレイクとやら、たかが少佐の分際でェ?」

 

 あ、今度は煽りモードだ。スゲェ、月組の性格をミックスしたみたいな人だな。

 

 

 

「……………では私のMC(マリンコード)を述べよ」

「はい?」

 

 ウソップさんは私の言葉に目を白黒させた。

 

「確かに!将校なら彼女のMC(マリンコード)を知っている。特に監察官なら、ね」

 

「……………まず私が誰か分からない」

「それもそうだ、キミは表舞台に中々出てこない」

「……………本部で忙しい」

「分かっているさ」

 

 改めて、自己紹介をする。

 

「……………海軍本部最高戦力の1人女狐大将」

「大将…ってリィンの言ってた上から2番目…ッ!」

 

 おう、覚えてもらえて何よりだ。権力的には5番目だが地位は2番目、女狐ちゃんをよろしく。

 

「リィン…堕天使の名と一緒だねェ?」

「ど、同姓同名だ!さて、私はこの基地を見なければ…」

「……………停止」

「はぅっ!」

 

「……それは痛い」

 

 そのまま扉へ向かおうとしたウソップさん。手っ取り早く無力化出来る野郎特有の弱点を蹴りつけただけなんだが、周りの私を責める目は甚だ遺憾でござる。海賊に情けは無用。

 

「……………はぁ、ぶち込め」

「畏まりました」

 

 大将女狐のMC(マリンコード)は正直世に出回ってておかしくないと思う。多分、海軍にスパイを紛れさせてる海賊とか。だからこそ麦わらの一味に情報が回っていないのがある意味助かった。

 

「司令官殿!海軍本部より監察官のシェパード中佐がおつきになりました」

「どうやら本物が現れたようだな、ん?んん?」

 

 ウソップさんは下を向いてブツブツ呟き出した。…ごめんなさい?

 

「初めまして、ジョナサン司令官」

 

 ふと、例のシェパード中佐とウソップ大佐の目が合った。

 

「よお、中佐!お前もナバロンに来てたとはな!俺だよ俺、同じ観察部のウソップ大佐だ!」

「シェパード中佐、大佐をご存知かね?」

 

 ウソップさんが急に親しげに話し出した。

 …まさかこれニコ・ロビンでは?

 

「──知らないわ」

 

 あっっ、簡単に見捨てられた。

 

 まずこのシェパード中佐をニコ・ロビンと仮定しよう、そうするとどうなる?

 ハナハナの実は暗殺に向くすこぶる厄介な能力。そして要危険人物。女狐からどんな情報を引き出されるか分からないんだよなぁ。

 

 

 決定、封じよう。油断大敵、これ絶対。

 

「……………少佐、少し待機」

「はい!」

 

 うっすらと笑ってニコ・ロビンに近付く。

 

「……………女狐のMC(マリンコード)を述べよ」

「何故、大将がこちらに」

「……………どちらにも取れる反応、か」

「…ッ、随分と手荒じゃ無くて?」

 

 そしてニコ・ロビンの喉元に拳を近付けた。海楼石のナックルが付いた対能力者用の拳を。

 リィンが箒やら棍棒やらの長物使いなので戦闘スタイルが一致されないように拳を使っている。元々柔術の方が得意だ。背負い投げとか、関節技とか。フェヒ爺直伝の『体格や力量に差があれど使える柔術講座』は厳しかったけど確実に力になってた。実践経験は、ガープ中将だけど。

 

「……………ニコ・ロビン、こいつも」

 

 手に枷を付けてしまえば能力者を完璧に無力化出来る。

 紫のサングラスの下から視線が私を捉える。ごめんよニコ・ロビン、多分今回はすぐ出れる。

 

 私が捕らえる気全く無いし。

 

「……………ジョナさん、麦わらの一味捕縛、任せた」

「もちろんだとも」

 

 女狐はもう少しでフェードアウトするから、ときちんと伝わった様で安心した。

 後はボロを出さないように脱出の手助けをするだけだ。

 

 

 さて、ここからは頭の使い所だな。今すぐ1人で逃げ出したい。




次回は麦わらの一味よりの視点から見た物語。女狐大将の印象ですね。
女狐には名前が無いので『クザン大将』の様な呼び方では無く『女狐大将』になります。逆に『大将女狐』という呼び方は畏怖や尊敬を込めた通り名呼び、になりますね。

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