2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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番外編14〜囚われたのは砂鰐でした〜

「貴方はお茶汲み係の少女の事をどう思いましたか?

 

 

 ある1人の海兵が勇敢にも七武海という称号を手に入れた者達に近付いてそう聞いた。」

 

「……おい」

 

「そう不機嫌そうに声を洩らす男は何とも憐れな姿だった。ただ牢獄の中で勇敢な海兵を眺めるばかり。手を出す事も、口を塞ぐ事も出来ない。

 滲み出る後悔と哀れみの気配の中、男は本音を漏らす。彼の、本音を」

 

 

 

 

「そのモノローグ風の喋り方をやめろ!雑用!」

「残念、これが雑用じゃないんだな〜」

 

 弱いくせに煽るのが大好きなハッシュという男が牢屋にて睨みつけるクロコダイルに屈託のない笑み、もとい、誰が見ても爽やかに見える風の笑みを浮かべて手を振った。

 

 現在、スモーカーの指揮する軍艦の牢獄。

 月組と言われるリィンの同期がチラホラと交代で遊びに来ていた。

 

 もちろん、クロコダイル()遊ぶ為だ。

 

「んで?どうだったんだ?」

 

 珍しく、グレンが口を挟む。この男、ストッパーであるが故にスモーカーに派遣されたのだが想像を裏切った様だ。

 普段なら『うわっ、興味無い……。そのリィン好きもいい加減にしろよな』と月組の面子に注意をするだけだっただろう。他の月組もそこは予想外だったらしく、目を見開いていた。

 

「…なんだよ」

「いや、グレンって第一雑用部屋で唯一天使の存在を雑に扱ってた男だっただろ」

「あのなぁ…お前らが過激なだけであって、これでも普通の人間より執着してるからな。同期として誇らしいし、情もあるし。第一、敵対組織の人間に味方だって言い切らないだろうが」

「「「確かに」」」

 

 声を揃えて納得すると、グレンは深いため息を吐いてクロコダイルを睨む。

 

「ウチの大事な天使とやらに公開プロポーズした野郎を問い詰めないわけが無いだろ」

「ヒュー!グレンかっこいい〜!抱いて〜!」

「流石俺達のイケメン!」

「墓場のゴーストバスター時代で悟った、かっこいいは褒め言葉じゃない。嫁が出来ない俺への嫌味か!なんでかっこいいのに嫁が出来ない!」

 

 天使撮影係のサムはスパンッと叩かれ頭を押さえる。どうやら思っていたより痛かった模様だ。

 抱いてのスルースキルと墓場のゴーストバスター時代というパワーワードを生み出した事は流石だ、とクロコダイルが死んだ目で眺めていた。

 

「んで、じっくり語ってもらおうか。鰐野郎さん?」

「キャラ付けがえげつねェなオイ」

「影は薄いのにキャラが濃いのが月組の売りなんでねェ」

 

 青筋立てそうなグレンの形相にクロコダイルは思わず引いた。それはもう盛大に。しかし視界の端に点在する月組は拍手をしているのでチェンジだ。スリーアウトどころの話では無い。

 

 肺に篭る空気全てを吐き出すようにゆっくりため息をつくと、クロコダイルは胡座をかいて挑発するように笑みを深める。

 

 

「お前らが知らないリィンの話だったか?」

 

 

 煽りおる。こいつ煽りおる。全員が愛用の武器を取り出そうと手を動かした。

 

「さっさとゲロれ」

「よっしゃ海水ぶっかけるぞ〜!」

 

 その名は海水鉄砲。月組の中で武器改造に力を入れるアルスが作り上げた物だ。威力は殺してある物もあれば、水圧で岩が削れる物もある。

 

「ッ、の!お前らが悪影響を及ぼしたのか!」

「冤罪だ!」

「冤罪ハンターイ!」

「お前ヘンターイ!」

「絶対覚えておけよテメェら……!」

 

 クロコダイルは海水でベタベタになった髪を垂らして恨めしそうに呟く。月組は素知らぬ顔で話を促した。

 

「あー…最初な、最初。雑用が女、しかも子供だったから揶揄(からか)うついでに砂になって襲いかかったのが最初だな」

「恐ろしやイル君…顔も見てない内からロリコンだったとは………!」

「オイ、こいつ殺していいか」

 

 ハッシュの無駄な煽りに苛立ちながら、クロコダイルがグレンに殺害予告をする。少し迷ったみたいだが却下されてしまった。

 

 そこは、迷わないで欲しかった。

 

「まぁ、するとアレだろ。あの剣帝が使ってた鬼徹振り回して、俺の存在を察したし。鬼徹ぶん投げるし。インパクトだけはあった」

「剣帝っていうと…」

「海賊王の船員な。確か昔の通り名は〝悪魔の眷属〟だった筈だ」

「あっ、思い出した。アイツか。海賊王がどっかの国を滅ぼした原因だとか」

「ソイツ」

 

 話から若干逸れている気がしたのでクロコダイルが自ら軌道修正をした。

 

「茶は正直に言うと不味かった。濃くて渋くて当時は飲めたもんじゃ無かったな」

「えっ…お前どんだけ薄口なんだ?俺たちに振舞ってくれたお茶はそりゃ美味かったが」

「あぁ、後々ゲームで暴露されたが『子供だからという理由でどこまで行けるか実験をしてた』だとよ。茶が不味い位でキレてたら器が知れるとか言ってた」

 

 その実験を辞めるに辞められず5年間も出していたのだから味にも慣れる。

 

「あの癖が強い茶はたまに飲みたくなる」

 

「リィンちゃんみたいだ」

「癖が強い…」

「中毒だよな。もはや麻薬」

 

 失礼な評価を下す月組も酷いがそれで納得してしまうクロコダイルもなかなかに酷いだろう。素直に頷いた。

 

「ま、第一印象は『暇つぶしに最適』って所だ」

 

 そこから『お気に入り』にまで昇格するのだから人生というのは謎で仕方ない。

 

「第二波用意──発射!」

 

 思い出に浸っているクロコダイルを強制的にグレンが引っ張り上げた。海水で、強制的に。インペルダウン並の待遇に涙が出そうだった。

 

「冷てぇ…」

「俺達の心の中はブリザードだからまだ可愛いもんだ。泣き言を抜かすな」

「理解した、実は月組一の過保護がお前だな?」

 

 クロコダイルはグレンに視線を向けると、当の本人は首を傾げて呟いた。

 

「敬愛すべきスモーカーさんの親友で俺の同期だ、助力してやるのは当然だろ。どちらかと言うと過保護じゃなくてモンペだ。モンスターペアレント。俺が嫁さん欲しい原因だからな、アイツ」

 

 まさかの理由にその場に居た全員が空を見上げた。そこには染みを作った天井しか見えなかったが、上を向いた。

 

「アイツには父親と兄貴が多すぎると思う…」

「「「「禿同」」」」

 

 野郎ばかり。しかも面倒臭い連中限定でだ。クロコダイル自身も面倒臭い連中に含まれていると理解しているので口には出さなかった。

 

「いつから、そういう目で見てた」

 

 責めるようにグレンが口を開く。クロコダイルは少し悩んだそぶりを見せると一つ頷き、自分に確認する様に言葉にした。

 

「……グラッジが死んだ時から、か」

 

 海兵斬殺。首と胴体が完璧に離れてしまった結構絵面がえげつない事件。それを解決する為に派遣されたのはリィンだった。今考えるとおかしな事だ、雑用が何故そんな大役を仰せつかったのだろうか、と疑問は自然と湧いてくる。

 

 その頃には情を芽生えさせていたクロコダイルにとって、疑問は『なぜ雑用に』では無く『なぜリィン(ガキ)に』という物へ変わっていた。同じようで違う。確実に『暇つぶし』という目で見てはいなかった。

 

「怒り狂った、アイツに手を出させた判断を下した上に」

 

 今では可笑しくてたまらない。ジンベエが『女狐の事で何か知らないか』と聞いた時リィンの返事は遅かった。

 

 

 『…………………何事も』

 

 

 この沈黙に含まれていた言葉はなんだったのだろうか。きっと返事を間違えたと焦っていたに違いない。

 

「海賊の癖に……」

「オイオイ、俺は剥奪されたと言えども政府よりの海賊だぜ?」

「お前の罪を数えてから言え」

「それを海軍の敵対組織と協力する海軍本部の女狐大将相手に言えるのかよ」

「別物だろ」

「殺してやろうかテメェ」

「やんのか?受けて立つぞ?お前に罪を重ねさせてやろうか!」

「……独特な煽り文句だな」

 

「つーか、あの七武海が死んだのって女狐大将が殺ったのかと思ってたんだけどー」

「実際そうだっただろうな。でも口に出したのはリィンで、茶汲み雑用だった。先日まではな」

「『大将』じゃなくて『雑用』なぁ。そのミスのせいでロリコン生んじまったのか、アイツ」

「そのロリコンだけはやめろ」

 

 心底嫌そうな顔をするがどうやら聞く耳は持ってくれないようだ。

 

「グラッジなぁ……リィンちゃんも因縁があるというか……。どうしてあの子の周囲は疫病神が引っ付いて回るんだか」

 

 最年長─と言ってもクロコダイルより若い─のバンが困った様に眉を下げた。

 

「今考えるとグラッジの野郎許せねぇな」

「は?」

「リィンにトラウマを埋めつけた。アイツはあの件から死に関わっていない」

「なんでそんな事を言えるんだ…?」

「……殺される、殺す。そんな純粋で単純な殺気に慣れてなかったからな」

「ヘェ……大将がたった1人か。優秀だな」

 

 ハッシュの口からそんな言葉が零れる。

 本来戦い、殺し合いに置いて『無力化』というものは非常に難しい。相手は殺そうとして来ている、しかし殺さずに制圧しようとする。そんなのは只の綺麗事で終わる。

 

 圧倒的な武力差がない限りは。

 

「あぁ…やっぱり気に食わねェ…」

 

 クロコダイルは呪文を唱える様に呟く。

 子供と言えどもリィンと殺し合いをした男を?海兵に手を出した事を?

 

 月組の中に浮かんだ疑問は全て的外れな事だった。

 

「グラッジはリィンの中で根深く纏わり付いている…───あいつの思い出に残る赤い血は俺で充分だ」

 

 つまり、この男はこう宣ったのだ。

 『自分をリィンの手で殺してもらう』と。

 

「趣味悪ィ…」

「なかなかだと思わんかね? ……ずっと記憶に残るんだ、起きていても寝ていても、ずっと」

「医者に行け」

 

 うっそりと恍惚とした表情に、もはや狂気を感じる。

 

「残念ながらお前を殺すのは孤独であり、スモーカーさんであり、俺たちだ」

 

 グレンが睨み付け、クロコダイルは不服そうに口を閉ざす。

 

 

「弱いと自覚している真性の雑魚である俺たちに出来ない啖呵をやって見せるグレン!」

「そこに痺れる!憧れるゥウッ!」

 

「お前ら俺を煽って楽しいか、特にハッシュ」

 

 グレンはふざけた空気を作り出した元凶に向かってぶん殴ろうとするが、予想通りスルリと逃げられた。

 

 

 

「ナントカレン〜班、見張り交代〜」

 

 途端、場に呑気な声が響き渡る。

 やる気というか殺る気を削がれた見張り達はひとまず息を吐いた。

 

「まぁ、とりあえず俺の1番聞きたいことはだな」

 

 グレンが肩を落としてクロコダイルと視線を合わせる。グレンは月組の中でもリーダー格なので様々な情報が集まってくるのだ。彼らが体験したことは、恐らく全て把握している。

 ……恐らく、というのはど阿呆(リック)を除いているからだ。

 

「お前はリィンに『愛していた』と言った」

「あぁ、言ったな」

 

 今更隠す気も無いのか堂々と肯定する。

 

「それは本当に本音か…?」

 

 

 

 その疑問にクロコダイルは思わず固まった。そしてやはり月組はリィンの同期だと再認識する事になった。

 

「多分違うだろ、何が『愛して()()』だ」

「……これからインペルダウンに行く男の、唯一の優しさに触れるか」

「やっぱり、本音じゃ無いみたいだな」

 

 

 

 

「──ああ。俺の本音は『愛して()()』だ」

 

 そう告げる。苦しそうに称号の剥奪を下す少女に、『覚えていてほしい事』と『一泡吹かす事』、そして両板挟みになった『幸せになって欲しい』という願い。

 微かな抵抗に、と。唯一空いていた指にピッタリと収まる指輪。

 

「俺みたいな男は色々な意味で中途半端だからな……。幸い選出は本人がやるだろうし、周囲も黙っていねぇ」

 

 口に出したくない『愛する相手』はグッと飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「……………」」」」」

 

 月組はこれからインペルダウンに送られる男を心底哀れに思った。それはもう、月組が崇める天使をぶん殴りたいと思う程に。

 

 

 

「お前、本当に()()()()()()()()

 

 グレンの言葉は月組の総意だった。




回想のお話は『海軍編上 第42話 正義と悪が行方不明』からですね。
本日ワンピースの日。ですのでネタバレと共に愉快なお話を書き上げました〜。

ツッコミは感想欄で盛大にどうぞ。

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