2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第146話 地雷はピンピンしてる

「トニー君、どう!?」

 

 トナカイの状態のチョッパーにビビが跨り、後ろをサンジが警戒しながら走る。スンスンと鼻を鳴らしながらチョッパーはカルーの匂いを追う。

 カルー捜索班、彼らは要塞内を隠れながら、時に走りながら目的地を目指していた。チョッパーの鼻の精度が見聞色並みで怖いと思ったことはサンジとビビの胸のうちだけで留まらせておいた。追手の匂いがどこから来るか、とか効果は見聞色そっくりである。

 

「うん、やっぱり上が強いみたいだ!」

「じゃあ気を付けながら行きましょう…」

 

 そう気を引き締めた時、どこかからガタリと動く音がした。

 

「ッ…」

 

 思わず3人は止まる。周囲を警戒するがそこにあるのは放置された木箱、そして…────

 

「──不自然な程、海兵が居ねェな…」

 

 サンジが呟いた途端、窓から、扉から、木箱から。屋根からも前からも後ろからも屈強な海兵が次々の現れた。囲まれていた、と気付くのに時間はかからなかった。

 

 ……チョッパーの鼻に引っかからなかったのは囲まれる程多くいたからか。

 

 思わず引いてしまいそうな程暑苦しい熱気。と言うかやる気。どうやら海賊を野放しにしたりバカ正直に海を探したりするほど、海兵も頭が使えないわけでは無いらしい。

 サンジが舌打ちをし、チョッパーは怯える事を瞬時に止めて周りを見渡し、ビビは「攻め顔のサンジさんもいい…」と呟いていた。とりあえずサンジは最後を綺麗にスルーした。これ以上麦わらの一味から理想のレディ像と掛け離れた人間を生み出したくないらしい。……手遅れだが。

 

「我ら〜はナバロン、海兵隊ィ!熱風魂ッ見せてやる〜ッ!」

 

 ビックリするほど大きな声と、揃った動きで逃げ道を塞がれる。

 

 さて、どうするか…。そう考えているがそれなりに危険な状態には変わりない。

 すると熱風隊のリーダーらしい人物が勝利の笑みを浮かべて叫んだ。

 

「〝砂姫〟ビビ!そして残りのクルー共!お前達は我らが司令官と大将の前に敗れる運命にある!逃げるのは止めて大人しく投降しろォッ!」

「大将ぉ?」

 

 その言葉は彼にとって地雷だった。

 

 サンジは煙草の煙をふーっと吐き出すと眉を下げて男を見る。「モブ×サンジさん?サンジさん×モブ?どっちでも…──」などと高い女性の声で呟いている言葉は聞こえない、聞こえないったら聞こえないのだ。

 

「つまりこの作戦はそいつらの策略だった、と?あーこりゃ参ったな、全く理解出来ねぇ」

 

 激しく棒読みだったが、機嫌を良くした海兵はペラペラと話し始めてくれた。

 

「麦わらの一味は鼻の利く動物を仲間に入れている、と女狐大将のお言葉だ。その情報を元にジョナサン司令官は残るもう1匹の仲間を連れ戻しに来るだろうと踏んでルートを絞り込んだのだ!」

「あー…つまりなんだ、この先にカルーが捕まっているって事だな──喰らえやゴルァ!」

「……は!?」

 

 ボキッと骨の折れる音と共にサンジの上がった脚が地面に下ろされた。海兵が倒れるのを合図に一斉に様々な手段で攻撃される。

 

「〝孔雀一連(クジャッキーストリング)スラッシャー〟ッ!」

 

 懐から取り出したビビ愛用の武器、スラッシャー。色鮮やかな見た目と相反して確実に肉を抉る。実際切りつけられた海兵は少しであれど深い傷を利き手に負い、刀を取り零した。

 

「サンジ!乗ってくれ!」

 

 チョッパーが叫ぶとそれに従う様にビビの後ろへと飛び乗る。そして2人を乗せたチョッパーが目指す先は…──海面に面した窓。

 

「お、おいチョッパー…?」

「トニー君、そこ、海が…」

「口閉じてないと舌噛むぞッ!」

 

──バリンッ!

 

「きゃあっ!」

「うおっ」

 

 飛び出したチョッパー。海兵たちは気でも狂ったのか、と思わず見送ったが彼は器用に崖の断面を蹴る。まるで空中を走っている様な走行。崖の起伏を利用して上へ上へ、匂いの元へと向かって行った。

 仲間であるビビやサンジは小さく悲鳴を上げた後、関心と驚きで満たされていた。

 

「凄い…、このままカルーの所へ行ける…!」

「スゲェなチョッパー…。お前バランス力あるんだな」

「えっえっえっ、俺はトナカイだからな、崖位はへっちゃらだ」

 

 そのままの勢いで匂いの強い部屋へと突進して行った。

 

 

「は?」

「え…」

「お!?」

「なっ」

 

「──まさか、外からやって来るとは思わなかったよ」

 

 その場に居たのは黄金奪還班の4名と目的のカルー。そして要塞ナバロンの司令官、ジョナサンだった。

 

 

 

 ==========

 

 

 黄金奪還班。

 とりあえず私は人質という名の生贄を無事逃れることが出来、ルフィの機嫌取りをしながらニコ・ロビン(ニセ女狐)の後ろを尾行して行った。

 そして遂に邂逅したドレイク少佐。耳をすませて会話を聞き取る。

 

「女狐大将、その手に持っているのって…」

「……脱走した奴ら、とりあえず渡しておく」

「ハッ、簡易ですが牢屋に入れておきます」

 

 盛大に破壊してきたそうで牢獄はボロボロ。それでも分散されてあるだろうから他の所は無事なんだろう。と言うかどれだけ大規模破壊してきたのか、被害額考えるだけで頭痛くなりそう。

 

「あぁ、そう」

「はい?」

「麦わらの一味の黄金は何処だったか」

「し、司令官の部屋に有りますが…どうかされたのでしょうか」

「気になった、だけ」

 

 ちょろすぎるドレイク少佐は特に疑問を持たず去っていった。流石にちょろすぎるので個人的にもう少し頑張って欲しい所なんだが。

 

「行ったか?」

「行ったな」

「行きますたな」

 

 通気口からひょっこり顔を出してニコ・ロビンと合流する。ニコ・ロビンは緊張をため息で紛らわせている時だった。その気持ちはわかる、誰かを騙す時って集中力と展開を先読みする力が必要だから緊張するよな。

 

「お疲れ様です」

「一応受け取っておくわ。とりあえず、敵の懐に潜り込まなきゃならないようだけど」

「司令官の部屋ってのはどこにあるんだ」

「ここだぞ」

「そうね…私は分からないけどここらし…──えっ」

 

「「ここぉ!?」」

 

 場所は知っていたが、ウソップさんと共に驚いたフリをする。「おう、ここだ!」って上機嫌に戻ってニッコリ笑うルフィは心底可愛いけど無性に腹立ってくる。

 

「おじゃましマース」

「待てぇい!」

 

 ウソップさんの静止の声も虚しく、あっさりとルフィは中に入ってしまった。

 

「………麦わらの一味」

 

 中には呆気に取られたジョナさんの顔があった。んん?ここまでは計画していたんだろ?なんでそんなに驚いている?

 

「まさか普通に扉からやって来るとは思わなかったよ」

 

 まぁ、そうですよね。

 

「おい要塞のおっさん!宝どこだ!」

「まぁそこにあるけど」

「よっしゃ!」

 

 予想以上にサクサク動く。

 しかしルフィの上機嫌は宝のそばで網に入れられたカルーを見つけるまでだった。

 

 えっ、なんでカルーがここにいるの。

 

「まさか女狐大将に化けるとは思わなかったよ、麦わら。しかし、そう簡単に釣り糸から餌を食べれると思わないでくれよ?」

「船長の戦略の勝利ですぞ、司令官殿? 餌は丸々頂くし、私達はトンズラです。ごめんなさい」

「君が堕天使か、女狐の情報によると君は居なかったはずだが…どう入り込んだ?」

「また女狐……。企業秘密で〜す」

 

 なんでもかんでも女狐に押し付けないで欲しい。実際そうかもしれないけど元より決まっているのは『兄の味方』それ即ち『海賊麦わらの一味の味方』であって、いつか女狐大将の地位を捨てる時が来るかもしれない……。

 あまり隔たりを作るのは個人的にどうかと思う!自分の思い通りにならなければ全力で利用するつもりではあるが!……知ってる、これが後々になって牙を向くんだよね。私知ってる。

 

「まぁいいさ」

 

 その言葉を合図にバタバタと海兵が入ってき、銃口を侵入者へと向けた。

 

「君たちにはもう一度牢屋に入ってもらわないといけない」

 

 部隊を指揮するのは恐らく軍曹辺り、ドレイク少佐が麻薬コンビを連れて行っているからか。ルフィが黄金を背負って、ウソップさんがカルーを解放する。

 

──ガシャァァンッ!

 

 海に面しているベランダから、カルー捜索班の3人がやって来た。思わず驚きの声が零れる中、室内の様子に驚くサンジ様達に向かってジョナさんが呟いた。

 

「まさか、(君たちが)外からやって来るとは思わなかったよ」

 

 多分隠された言葉はこんな所だろう。普通破天荒な船長の役割だよね、王族ちょっと大人しくして欲しい。

 

「ぎゃぁぁぁあああっ!」

 

 野郎の野太い悲鳴と共にもう1組ベランダから侵入してきた。ナミさんとゾロさんだ。

 意図せず一味が揃ってしまった…敵本陣で。

 

「むしろ何で麦わらが常識的な方法で入って来たんだ?」

「それが海賊にとって非常識だからですよ」

「それもそうか…」

 

 非常に疲れた声を出してジョナさんは肩を落とした。

 海賊の常識に従うと、絶対におじゃまします、って言いながら支部の司令官の部屋になんか入らないから。

 

「ゴメンな、要塞のおっさん。俺たち次の島に行かねぇといけないんだ」

 

 にしし、と笑うルフィに続く。生け捕りのみの私とビビ様が居るから下手に銃撃戦は出来ない。

 するとジョナさんが時計を確認した。

 

「夜9時、それは君たちに牙を向く。もう9時は回っている」

 

 そして爽やかに笑って見せた。

 

「君たちは逃げられんよ」

「いいや、逃げれるさ」

 

 ジョナさんに対抗する様にルフィが口角を上げる。

 

「だって俺は、海賊王になる男だ」

 

 世界の運命に愛された男は私の肩を叩いて脱出を促す。その時、部屋に流れ込んで来たのは別の将校だった。

 

「待てぇい!麦わらの一味!」

「あら、あの人、監察官のシェパード中佐ね」

 

 ニコ・ロビンが化けてた相手か。

 息を荒くした中佐がビシイッと指さした。私達ではなく、ジョナさんを。

 

「ジョナサン司令官、わざわざ私室に入り込んだ海賊をみすみす逃すつもりですかぁ!? 貴様が赤犬の子飼いでも、そうなったらこのナバロンは即っ刻!潰れることになるでしょうなぁ!」

 

「リー、行くぞ」

「ごめんルフィちょっと待つして」

 

 拳を固めて、咄嗟に中佐を殴りつけた。

 

「ほげらッ!?」

「いいか、良く聞くしろ。先輩からのありがたき言葉ぞ」

「先輩ィ!?」

「海軍本部雑用歴10年、役割は主に七武海。現在麦わらの一味のまぁ雑多用──って雑用かよ!また雑用!?」

「良いからシリアス続けろよオメー…」

 

 思わぬ新事実に地団駄を踏むがウソップさんの呆れた声で機動を修正する。

 

「お前は分かるしてない!女狐大将という存在を!」

「は!?」

「雑用という存在は、様々な情報が寄ってくる。情報共有もしやすきですし、様々な時と場所で色々な人と関わるする!私は口調が残念故に七武海だけですたがな!」

「七武海可哀想」

「ウソップさんは黙る!」

 

 雑用としてなら世界規模配達だってしてたけど今言う必要が無いな。

 

「女狐の情報は色々回るしてくるが、中でも確実な情報は一つ! 『お気に入り』や『守るもの』に手を出すされるが逆鱗に触れるという事!」

「そ、それがどうしたって言うんだ!」

「そのお気に入りの分かりやすき方法は主に2つ!『名前を呼ぶこと』と『食事を共に取る』ということ!」

 

 ジョナさんは両方共当てはまる。状況は知らずも、それに気付いて中佐は顔を青く染めた。

 

「情報部のお手伝いの最中、実力は様々聞くしますた。支部でも潰すしたり」

 

 東のネズミ大佐は潰した。

 

「海賊船を幾つも沈めるしたり」

 

 バギー一味、アーロン一味、クリーク海賊団、後シャボンディでもか。

 

「平気で四皇にも喧嘩を売るした」

 

 エースとかシャンクスさんだけど。

 

「海兵殺しの七武海は殺すた」

 

 グラッジとかな。

 

「私は心底恐ろしく思うしたぞ、お前が女狐大将が共に食事をしたらしきジョナサン司令官に平気で手を出す事を!」

 

 丁寧に、じゃなくても仕事しているっぽいけど、個人的に仮面の下をバラしている実力者を海軍から離したく無いんだよなぁ。それにジョナさんを攻略できれば支部一つを簡単に動かせる。

 

「そしてこの支部に手を出す事は私も許さぬぞ…」

 

 実質女狐の言葉、にジョナさんが嬉しそうな表情をする。他の海兵は困惑した様子だ。

 

「私とて元海軍勤務者。不正など行わうせず真っ直ぐに海賊と立ち向かえる人達は尊敬に値する。私は仲間が世話になるした人達を路頭に迷わせる事などしたくなきです!」

 

「リィンが今日も安定してかわいいいいいい!」

「ナミさん黙る!」

 

 正直人質だったコバト先生を擁護しただけであって仲間とか結構どうでもいいです。ごめん。

 

「さようなら、首があると宜しきですね」

 

 多分あると思う。決定的なミス行動が無いから。……まぁ、過去に不正とか沢山してればどっちに転ぶかわからないけど。それこそ海軍本部暗躍部隊の『影部隊』におまかせだな。

 監察官がこの程度の頭じゃ不安でもあるが、コチラとしては利用しやすい。

 

「おまたせすますた船長!」

「よしっ、逃げるぞ〜!じゃーなー!要塞のおっさん!飯美味かった!」

 

 ベランダから逃げ出す。その先は海だけど、私がメリー号をアイテムボックスから取り出せば万事解決。

 

 高い所なので下を見ないようにゆっくり降りていく。バシャァンッ、と水飛沫を上げてメリー号が現れたので一味はそれに飛び乗った様だ。

 

「あー…これはあくまでも私の独り言だ」

「へ?」

「この支部を思ってくれてありがとう、夜9時の網は潮の満ち引きを利用し海水を消す。君の仮面の下を知れて良かったよ。良き出会いに感謝を」

「あー…こちらあくまでも独り言。潰させぬぞ、この支部。ここの団結力は、捨て難い。黄金が眠る元支部基地とすたなら、海賊が現れるするでしょうね」

 

 独り言を言い合うとジョナさんと目が合った。パチリ、とお茶目なウインクが飛んできたので…心の中で海の彼方へ投げ捨て船に乗り移った。

 

「帆を畳んで!リーが飛ばしてくれる!」

「ふぅ…技パクリと行きますか〜」

 

 イメージは海峡のジンベエ、ジンさんが生み出す波。海の隆起。じわじわと波が波紋を描いてくれる。うん、見た事ある技だと再現しやすい。そこまで集中力も必要なさそうだ。……人より使うことには変わりないけど。

 

「〝海流1本背負い〟!」

 

 海の勢いで船が盛り上がる。気分は突き上げる海流(ノックアップストリーム)の極小版だ。

 

「うひゃー!海で空飛んでる!」

「すげぇな!」

「魚人柔術の応用ですよ。あー…疲れるした…緊張すた…」

「クエェ…」

「このような事態を引き起こして大変申し訳ありません、今後このような事が無いように精進いたします、だって」

「今の少ない鳴き声に長ったらしい意味が込められてあったのか!?」

「まぁ気にすんな!大事な宝取り返しただけだ!」

「クエ!」

「おう、どういたしまして!」

「なんでルフィはナチュラルに会話出来てんだ?猿頭だと喋れるのか?」

 

 どれだけ疲れていてもツッコミを忘れないウソップさんはほんの少しだけ尊敬するよ。

 

「そんじゃ、次の島!行くぞ!」

「「「「おー!」」」」

 

 若干の不安を残しつつ、一味は海を進んだ。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「あんた、良かったのかい?」

「ん〜?彼らを、取り逃がしたことかね?」

「あぁ」

 

 苦手なブロッコリーを渋々食べながらジョナサンはジェシカの疑問に答える。

 

「いいんだよ、襲撃訓練として堕天使と交渉していたんだ」

「は!?…っ、はは!いつの間にこの人は」

「ジェシカの食事が気に入ったらしいから、伝えても良いって話だ。現金なのか…情に深いのか…。我々には計り知れない存在だ」

「その堕天使、いつの間に食事を?今日特別にお出ししたのは大将だけで……───」

 

 そこまで言えばジェシカの表情は驚愕に染まっていく。

 

「いい経験だっただろう?」

 

 『赤犬の子飼い』で『女狐のお気に入り』を手に入れた運の良い中将は、何故か得意げな表情で妻を見た。

 

 ジェシカの脳裏には厨房で起こった様々な事が流れていた。海賊に書いてもらったレシピなんて、と捨てかけたメモはきちんと厨房の壁に貼り付けてある。

 

「……あぁ、いい経験だった」

 

 ──未来の海賊王達に会えるだなんてね。

 

 満足げに笑みを深めた彼女は、海軍将校の夫にバレないように心の中で呟いた。

 きっと彼らは世界の頂点を掴む。

 

 女狐大将がどうした。それで挫けるほどヤワな精神はしてないだろう。

 

 

 地雷を踏み抜かれてかなり動揺した一味が海風によって小さくくしゃみをした。




ナバロン編、これにて終了!
船上のクッション挟んでロングうんたら編に入ります!

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