第147話 影響力が一番かもしれない
「黄金で船の修理、ですか?」
空島から奪ってきたという黄金。その山分けはナミさんの提案によって修繕後にしよう、という話になった。そしてその保管を任されたのだ。
そう、癒し不足とかで私を膝に乗せているナミさんに。
お願いナミさん、ひとまず落ち着いて。ニコ・ロビンが私を不憫な目で見ているから。
「よし、リィンの治療は完全に終わったな!」
「怪我治るの早すぎですよね…この世界」
「応急処置が的確だったんだ」
チョッパー君がわざわざ女子部屋まで来てくれて検査をしてくれた。それにお礼を言っているとニコ・ロビンはナミさんに質問をした。
「その…航海士さんは…、いいえ、ハッキリ言うわ。──貴女はレズなの?」
「ブッ!」
あまりに直接的な聞き方に思わず吹いた。チョッパー君がレズってなんだ?って首を傾げているから余計に辛い。後、目を背けまくっていた疑惑に触れないで欲しかった。
「それって女性を性的な目で見るって事よね?」
「えぇ」
ナミさんは一応確認するけど、と前置きをして問う。
そしてハッキリと言い放った。
「違うわよ」
「……嘘、でしょ………」
え、違うの?ニコ・ロビンの心底驚いている様子に同意するよ?私てっきりその毛がある人だとばかり思っていたんだけど…。
「恋愛対象は異性だもの、それは間違いないわ」
「でも…」
その言葉がなかなか信じられないのか、何度も首を傾げるニコ・ロビン。そして私もだ。ビビ様はこちらを全く気にしないで机に向かってガリガリ文字を書いている。……何を書いているかは今考えるとしんどいからやめておこう。
「私は、リィン至上主義なの」
「りぃんしじょうしゅぎ…」
「リィンが人類の中で一番なの」
「じんるい…」
「性的とか愛情とか、そんなのじゃなくて……──言うならそう、メシアよ」
「めしあ」
ナミさんに相手になら死んだ目がデフォルトになりそうな気がする。虚ろな目をして単語を繰り返すニコ・ロビンが今だけは不憫です。私はお人形さんになってシャットダウンしておきますね。
「
「希望じゃなくて絶望の間違いだと思うけど」
「貴女はこの世界を作ったと言われるオーダ神を性的な目で見れる?そういう事よ」
「……そうだけど、どういう事なの」
「そして愛するのはリィン!他の人間よりリィン!常に身近に置いておきたいし愛で続けたいわ!日がな一日!」
「…──そうね、良かったわ」
「良くないぞ!?ねぇ、現在進行形で良くない人間1人居ますよね!?私の存在見えるしてる!?」
思わずツッコミを入れた。
堂々と古参の仲間を生贄に差し出す新入りが辛い。その前に古参の暴走癖持ちがキツイ。
辛いキツイしんどいのトリプルコンボってなんなの?麦わらの一味の女性陣は性格が非常識なの?戦力は化け物じゃなくても思考回路が化け物なの?あ、なんかブーメラン刺さった。
「そう言えばリィン、私達が空島に行ってる最中何していたの?」
「何…」
ヴェズネ王国で貴族として夜会に潜入して貴族潰した、とは言えないよな。行ったとは言えてもなんで海賊の堕天使が?という質問には答えられない。革命軍とそう接点なんて無いし。
「秋島でお散歩して、地元の人と美味しいもの食べますたね。後飴もらうますた」
嘘は言ってない。夜会の料理は美味かった。
「あ、飴で思い出した!リィン、お前良く丸い薬飲んでるだろ」
「酔い止めの事ですね?」
「それ、成分解析したいからいくつか貰えるか?少ないんだろ?」
「……チョッパー先生…!すき!」
「そ、そんな事言われたって嬉しかねぇーぞこのやろっ!」
クネクネしたチョッパー君に錠剤を3つ程渡す。心の底から有難い。
「ナミさん離すして?」
「嫌よ」
「離すしないと泣くですが?」
「秒で離したわ」
もう30分は拘束されっぱなしだったので腰が痛い。
「私は男共の様子見てくるしまーす。もうそろそろ昼飯の準備に入るでしょうし」
「…私の一番の敵はサンジ君だと思うわ」
「張本人だと思うわ」
チョッパー君を抱っこして扉を閉めると中でニコ・ロビンの呆れた声が聞こえてきた。なんか、私の気持ちを代弁できるのがあの人って凄く不愉快。
「リィンの顔が凄いことになってるぞ」
「女子部屋入りたく無きです…」
「男部屋来るか?俺、体小さく出来るから俺の布団入れるぞ?」
「チョッパー君好き…」
チョッパー君を伴侶にするのが1番平和的解決だと思う。
アニマルセラピーってこんな感じなのかなって思ったけど、どちらかと言うと常識セラピーだわ。又は親切セラピー。アニマル要素では癒されない。
「ああ、リィン」
「何事です?」
甲板で腕立て伏せをしていたゾロさんが私の気配を感じて声だけかける。その背を踏みながら話を促した。
「軽すぎて重石にならねぇ…」
「褒める」
「でも出会った当初に比べて最近肉付いてきたよな。その調子で肥えて筋トレ付き合ってくれ」
「〝
──ズンッ
「ッ、ぐ!お、……もっ…」
砂がないけど全力で風の重圧掛けてやった。
「ハッハッハッハー…殺すぞ」
「この重さの中で平然としてるテメェが恐ろしいぜ」
「ゾロさんは腕。私は全身。その違いですな」
「やめろよお前ら!メリー号が壊れる!」
「ご安心をチョッパー君、そんなヘマはせぬ」
「そっかー、ならいいか」
「取り敢えず謝るから話を聞いてくれって!」
デザートの譲渡で手を打つ。
仕方ないから技を解いて正座する。
ひとまず技の発動と同時にメリー号の甲板が痛まない様に箒で浮かぶ事や武装色をイメージして強制的に防御力を瞬時に高めた私は天才だと思う。怒りは世界を救う。
「いくつか聞きたいことがあるんだがよ」
「はい、どーぞ」
「武装色の身に付け方とか教えて欲しい。あと具体的にどんな感じなのか」
「すみませぬ、私師匠がチートなだけで覇気のはの字も使えぬのですが」
「教えることは出来るだろ?」
「すみませぬ!!私は!とっても普通の女の子なのですが!?」
具体性を求めるな!私は出来ないんだって!
普通?嘘だろ?とかブツブツ呟かないで欲しい。
「第一、見聞色だって具体的に教えるしたのがサボであって私は何も言ってませぬでしょうが」
「は?サボ?」
………ミスった。参謀総長だった。
「さ、参謀総長の略称でサボ…な、なんて誤魔化す可能な訳が無きぞね」
「だろうな」
「ですよな…」
真顔で頷かれた。
あーーー、どうしよう。いや、知り合いだから名前は知っているだろう、と察してくれてるだろうが、肝心の名前。砂漠での話を忘れていてくれれば良かったけど絶対反応的に覚えてるぅぅう!
「で、次の質問なんだが」
素っ頓狂な顔していると思う。
「なんだよその顔」
「いや、聞かぬのかなって」
「聞かれたくない事は話してくれるまで聞かねぇよ。第一その反応がほぼ答えだろ」
「ゔ…」
頭を小突かれて思わず言葉に詰まる。ド正論過ぎて反論出来ない。
……ていうかなんでこんなミスばかり。
「女狐って記憶を読めるのか?」
「あー、噂では聞いたことありますが…真偽は半々?」
「そうか…」
「あ、でも。気に入った、というか害のない海賊には寛容です。例えば赤髪海賊団など」
そう、だから麦わらの一味は敵対しないでね〜…、敵じゃ無いよ〜…、正義の味方はルフィの味方だよ〜…。
「なるほどなぁ…。あるかもしれないって所か」
ありがとな、と言いながら筋トレを再開しだしたのでゾロさんの用事は終わったのだろう。そこまで収穫が無くてすまない。
でも、ゾロさんは私の手を借りずに強くなる様な人だと思っていた。強さを求める為に私に聞くとは思わなかった。
いかんいかん。料理の手伝いに行かねば。
チョッパー君と別れて私はキッチンに入る。中には下準備をしているサンジ様と椅子に大人しく座ったルフィが話をしていた。
「お手伝いでーす…。お邪魔ですた?」
「いや、丁度いいよ。聞きたいこともあったし」
「リーは偉いなぁ」
ならお前も手伝え。
あっ、ダメだ。手伝わせたら地獄を見る。
「なぁリィンちゃん」
「はい?」
食器洗いをお手伝いしながらシンクに立つとサンジ様が真剣な声色で聞いてきた。
「非能力者って空を飛べると思う?」
……私が非能力者ってのバレた?試されてる?
「あー…やっぱり気にしないでくれ。流石に無茶だよな」
「……出来ますよ」
「マジで?」
私に聞くのを諦めかけた顔に驚愕の色が浮かんだ。
雑用にしては知り過ぎているかもしれないけど、存在を教えておいて損は無いだろう。
「海軍や政府の武闘派には六式使いという人間が居ます。極限まで躰を鍛えるし、使用可能な技」
指銃・鉄塊・紙絵・剃・月歩・嵐脚
全ての技に応用が効き、武装色と見聞色を習得する上で近道になるかもしれない。ただ、私は全て使えないのでやり方を聞かれても困るのだ。
「先程上げた中で空ぞ歩行可能が月歩。空気を蹴るらしきで、嵐脚は足技の斬撃です。ここら2つがサンジさんに向くしている物かと」
「月歩に嵐脚…。実物見れりゃ早いんだが」
「無理ですね」
チラッと見られても仕方ない。一式でも使える人は中将辺りのレベルなので海賊が頼むのは心底難しいです。辞めた海兵ならワンチャンいけるが。
「どうして唐突にそれを?」
純粋な疑問をぶつけるとサンジ様は苦笑いで返事を返した。
「キミに追い付く為だよ」
「私ぃ?」
「キミはなんでもかんでも抱え込んで、でもそれを俺達に悟らせない」
悟らせたら情に訴えない限り死ぬからな。
「仲間の為に苦手な空で風を集めて一味を守る」
どちらかと言うとルフィかな。
「たとえそれがキミの友人だったとしても、キミは海賊として海兵や七武海に牙を向けなければならない。それが、海賊としてのキミだから」
ひぇえぇ…観察力怖いよぉ。
「チョッパーが山肌を駆け上がる時に、キミの見る世界を少しだけ感じれたんだ。だから自分の足で、キミに追い付きたい」
「私、激弱ですよ…?逆に置いてかれぬ様にすてるですが」
「ハハッ、そうかな」
精神論の問題なら一味の誰よりも強いかもしれない。伝は確実に一番だけど。……サンジ様が明確な強さを求める様になったけどどうしたらいいんだ。私には知識を与えることしか出来ないぞ。
知識を蓄える事で防衛方法を増やすことに損は無いけど、それを利用して最前線へ行かれたら私の胃が死ぬ。
「なぁリィンちゃん知ってるか?」
「…?」
泡だらけの手首を握り締められる。
「キミが俺だけに明確な壁を作っているのを」
サンジ様は悲しげに目を細めた。
痛いのを我慢している様な、迷子の子供。
「ルフィ、ちょっと外に出るして」
「おう」
ルフィは文句も言わず素直に外に出てくれた。キッチンに居るのは私とサンジ様だけだ。
「……怖い、ですか?」
「ッ」
指摘に息を詰まらせる。ぶるり、と拘束された右手に震えが伝わってきた。
「怖いさ…キミが、いや、キミに認められてない様な気がして。ルフィは兄妹だから心の壁なんてないし、ウソップやゾロには遠慮をしない。チョッパーは1番一緒にいる時間が長い」
よく見てるな、ていうのが最初の感想。
出生がハッキリしている2人には遠慮をしていない。軽口や暴言や、無茶苦茶させる扱いが多いのは自覚している。チョッパー君は扱い易いのと運びやすさ、それと難しい言葉を知らない、人間歴が短い子供だから気を抜けれる。ルフィは、好きだから。私の中でルフィの存在が大きいから。
「ロビンちゃんを敵視しているのは何となく分かる、キミは仲間思いだからクロコダイルのパートナーだった彼女をよく見ている。ライバル関係みたいで正直羨ましい。ナミさんはああいう性格だからキミは盲目的な所を信じているんだと思う。ビビちゃんは最初の頃お姫様扱いしていたけど、なんつーか、公私混同みたいな態度に変わってて…。幼馴染みって言葉がピッタリになった」
ニコ・ロビンは確かにその通りだ。同族嫌悪しているから理解しやすいのも関係してくる。ナミさんは初めて会った時は距離を保っていたけど、リィンだからという理由で細かい事を見逃してくれそうでなんだかんだと共にいる。ビビ様に関しては意識してなかったけどペルさんに宣言した事と本人の意向で吹っ切れた感じ。
怖いくらい、当たってる。
サンジ様は人を見るのが本当に上手い。
「後は俺だけなんだ…」
そうだよ。サンジ様だけだよ。
正直「サンジさん」って呼ぶのが嫌で、ジェルマという大きな武力が怖くて。古参の筈なのにいつまでも他人行儀なんだ。
「言えません。壁を作る理由など」
私はそれを言った瞬間サンジ様を国に売る事になってしまう。ヴィンスモーク・ジャッジ様は、海軍に圧力を掛けれる程力(物理)を持っている。
私は海軍という居場所を守る為にも言えない。
「でも、私はサンジさんの料理、好きですよ」
「………サッチって奴の次に?」
「次に」
二ヘラ、と笑うと力なく笑い返される。誤魔化したって分かっただろうし、サンジ様もそれに乗っかった。
私からは絶対言えないけど、ヒントを与えます。だから自衛してください。必要以上に私に関わらない方が、望み通りの未来です。あの方が強くなった3番目の王子を利用しない筈が無い。
「絶対に、サンジさんで居てください…」
「さ、飯だ。呼んできてくれるかい?」
「分かりますた!」
空気を払拭する様に元気な声を出すと扉へ向かう。
「いつか、その壁を壊すから待ってて」
踏み込むなっつってんだろうが畜生。
甲板へ出ると壁にもたれかかってるルフィが居て吃驚した。いつになく真剣な顔なのでとても怖いです。
「なぁリー。女狐って、俺達に倒せると思う?」
「今は、戦うだけ無駄だと思います。女狐じゃなく、大将という地位は」
「……海賊王になるにはソイツら全員倒せるくらい強くならなきゃなんねぇ。リー、俺を助けろ」
「いつも思うが大物相手ばかり…」
絶対は約束出来ないんだ。海軍の裏切り者になってしまうから…──違う、私はずっと兄弟の味方だ。海軍は利用して、力を付けて、情報を手に入れる為に使ってる。
「俺はフェヒ爺にリーを守る為に強くしてもらった。だからリーは俺を助けろ」
「横暴、独裁政治。ばーか」
「うん」
「……私は。ルフィの味方、味方ぞ。だけど、迷いがある。今まで兄妹の為にと利用してきたものを捨て切れぬ自分がいる。ごめん」
『リー…安心しろ!お前が、皆が俺を助けてくれる代わりに。俺がお前らの全部を守ってやる』
『一緒に守って。助ける』
ちょっとだけ、自信が無い。
「いいんだ、それでも俺が全部を守るから」
根拠の無い自信が大嫌い。
だけどそう思わせてくれる。
「それが、敵でも?」
「敵でも、だ」
海賊と海軍。
選ばなくちゃならない時が来る。
その時はその時で考えるとするか、私らしく。なので取り敢えず飯にしよう。飯。私はサンジ様のご飯を早く食べたいんだ。話してる時間が勿体ないと思わないのかこの野郎。
ウソップは出なかった。流れ的に消えた。
ちゃんと用意させてもらうよ…。