2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第148話 お前はもう負けている

 

 波に襲われながら航海を続けると不思議な船に出会った。それはあまりにも常識とかけ離れていて、取り敢えず『頭の常識を手繰り寄せながら疑う事が常識』と言う面倒臭い偉大なる航路(グランドライン)ルールを使用した。

 出会ってしまったのなら情報源として利用すればいい。

 

 船長や航海士やメインマストがない海賊船なんてあるのだろうか、という疑問。個人的な答えとして、有ると思う。

 何かの交渉や騙し討ちが成功すれば、だけど。

 

 上陸するおバカ3人組と監視役の冒険王女に『頭使う系の敵が現れるかもしれないから気を付けて』と忠告して、新たな島に到着したが私は安定した船上待機だ。

 

「あ、そうだ。サンジさん!」

 

 3人を見送ったサンジ様を呼び止める。煙草を咥えてサンジ様が人の良い笑顔を浮かべて近付いてくれた。

 

「奪還した空島の食材が余り有りますたらしき故に心配してませんですたが、有って損は無きと思いますして」

 

 奪える物ならとことん奪う私がナバロンで何もしないわけない。たんまり食料や水、砲弾や火薬はくすねてきた。我ながら本職(ナミ)さんビックリの成果だろう。

 砲弾系はウソップさんが戻ってきてからでいいか。

 

「………リィンちゃん」

 

 思わずギョッと目を見開く。

 アイテムボックスから取り出した食料を渡すと、サンジ様はぶわりと言う表現が似合いそうなレベルで泣き出した。これにはリィンも流石にビックリ。

 

「助かる…っ、本当に、空島の入国料が掛かって食費を抑えないといけないんじゃないかとばかり…!」

 

 あー……うちの兄がすまん…。苦労掛けて本当にごめんなさい。

 

「私はサンジさんの料理好きですからそれは困るますね」

 

 サッチさんの次だけど、励ますようにニッコリ笑って告げる。しかしサンジ様は美少女の有難い微笑みを真顔で見詰めた。

 

「……リィンちゃんそれ意図的に誑かしてる?」

「サンジさん私の事分かるして来ますたよね…」

 

 あっ、バレてた。

 天然タラシがルフィなら計画タラシが私です。

 

 

 この前キッチンできっちり話したからか、私の中で割り切れたのか知らないがサンジ様と話しやすくなった。サンジ様がサンジ様であるから壁が無くなることは無いけれど、ボロを出さない程度と言う距離感が掴めてきた気がする。後、サンジ様のメンタルがくそ弱い事が分かったから。

 

 観察しているのか、ニコ・ロビンは私を凝視する。

 

「ニ…ロビンさん、何です?」

「取り敢えず貴女が心の中で私の事をフルネームで呼んでいる事は分かったわ」

「しくじるした」

「……まぁいいわ。ちょっと質問があるの」

 

 ニコ・ロビンが私に聞く??

 

「……笑うって。デレシと笑うって、何故貴女が知っているの?」

 

 あーー…答えづらい質問来ました。

 いや、言った事を忘れたとかそんなのじゃなくて、追及される場面を想定してなかっただけなんです。

 

「私は、元雑用です。監獄は、入るしたことあります」

「監獄…インペルダウンね」

「そこでまぁ色々と会いますよね。表沙汰に出来ぬ犯人とか、裏切り者とか」

「………そう」

 

 アラバスタで言った事を細かく覚えているニコ・ロビン怖い。そりゃ彼女にとって大事な人の話題なら絶対忘れないだろうけど、所々に見える闇の人間の顔に肝を冷やす。

 

「ねェ、堕天使ちゃん」

「はい」

「貴女の…──」

 

──ガララララッ ズオンッ…

 

 会話の途中で唐突に起こった波の揺れを耐える。昼寝をしていたゾロさんやカルーは勢い良く起きて、ナミさんは女部屋から何事かと出てきた。

 

 メリー号の船首と船尾には、動物の手をモチーフにした横型の碇が海と地面を繋いでいる。そして陸地の反対側にはメリー号の何倍もの海賊船が。

 

 

 まぁざっくり言うと、海の逃げ道塞がれた。

 

「我々の望むことは、ただのゲームだ」

 

 絶体絶命、そして怪しげな取引。それは第3者から見た目線でだろう。張本人達はそんな状況にも関わらず私の肩を叩いて『ゴー!』と元気よく告げていた。待って、私?私が行けと?

 

「……どちらを?」

「船を動かすのは後でもいい。今はルフィよ」

「………………ですよね」

 

 上陸組が不安なので私に飛んでこい、と。

 無駄に土地が広いから私の出番だ、と。

 

「っ、分かりますたよ!」

 

 渋々箒に跨る。

 

「見つからない様に高速でお願いね」

「ナミさんまことに私好き?」

「愛しているわ。でも」

「使える物は使うって魂胆ですね!!同意見だからこそ腹立つぞ畜生!!」

 

 空間を斬るようにトップスピードで飛んだ。

 

 

 

 

 

 数秒後、何かにぶつかった。

 

 

 

 敵さんの船から離れる為に方角とか考えないで飛ばしたんだ。10秒かからずに見えなくなるだろうとは思ってた。そこから探していこうと思っていたんだが、ぶつかったのはウソップさんでした。

 ビ、ビビ様じゃなくて良かったよ。

 

「船から大体2秒…。安全面的に不安ですね」

「うん!!そうだな!!!!」

 

 箒の柄の部分にぶつかった腰を押さえながらウソップさんはヨロヨロと立ち上がる。ただし声を張り上げながら、だ。突然の出来事にビビ様やチョッパー君は驚いているがルフィは大爆笑していた。

 

「いやんオヤビン落ち込まないで!無視されているからって落ち込まないで!」

「俺は影が薄くて無視される……」

「ぶっ、ぶぶぶっ!」

 

 なんか濃いキャラの奴らがいるなー…。

 

「ビビ様ぁ…どういう状況です?」

「えっと、あそこにいるシェリーが撃たれて」

 

 ビビ様の指さす先には普通の馬より足が長い白馬。そして酔っ払いが見るちっさい妖精みたいな姿をしたおじさんが馬に寄り添っている。

 

「それであの3人組が現れて」

 

 落ち込んでるボスっぽい割れ頭とつなぎ服の女と体格の大きい男。世界中探せばこんな感じの漫才コンビ居そうだ。

 

「ルフィさんが知らないって、言った途端に。……ウソップさんが吹き飛ばされて…」

「今に至る、と」

「まぁ…何も言質は取られてないわ」

「よっし!!」

 

 笑い転げているルフィに手を差し伸べると、ルフィはそれを遠慮なく掴んで起き上がる。ニッ、と白い歯を見せて私の後ろに回った。

 ……後ろに回った????

 

「リーのお得意の時間だと思う」

「ルフィが成長すた…!」

「スゲェ!直情型のルフィが理性で適任を割り当てた!」

 

 すぐに攻撃する気は無さそう。メリー号の行く手を阻む大きな船は『ゲームを望む』と言った。受け流す、受ける、条件を付けるのは私の仕事って事か。

 

「チョッパー、シェリーを治してやってくれよ」

「おう!」

 

 ルフィが珍しく的確な指示を出す。

 

 ……この人本格的に何があった?ナバロンで再会してから一皮剥けた感じがするんだけど。空島?空島で何があった?

 

 個人的な感想だけど、進化する前の嵐の静けさみたいな。何か巨大な敵が立ち塞がるって「俺達は強くなんなきゃいけねぇ!」みたいなバリバリ少年漫画展開に持ち込まれた主人公みたいな。

 あ〜〜〜この世界に漫画が欲しい〜〜〜!

 

「我々は〝フォクシー海賊団〟!〝麦わらの一味〟に対しオーソドックスルールによる〝スリーコイン〟『デービーバックファイト』を申し入れる!」

「あ、またの機会にどうぞ」

「受けろよ!!!」

 

 毎度お馴染みの心の声が煩いリィンです。(無駄な)葛藤を邪魔されておこでござる。

 

「いいですか?そちらの懸賞金がどの様か知りませぬが、武力行使では確実にこちらが上。上なのですよ、上! 一味に能力者は4人!全て戦闘向き!……それをぉ?こちらの土俵では無くそちらの土俵で行う意味が分かりませぬなぁ?」

 

 ハッタリも入れて脅す。一味の能力者は3人…まぁ特殊な私含め4人だけどどれも戦闘向きでは無い。それを本人が戦闘に使用してあるだけであってね。

 それに私個人の土俵は武力行使では無く。

 

「くっ…、ではいくつかハンデを付けようじゃないか!」

「ワァステキー!太っ腹ー!」

 

 人の弱みを握り利用する事が土俵なんだよね。

 

「問題がある…特にウソップさん」

「なんだ?」

「……デービーバックファイトが何たる物か知らぬのです」

「お前よくドヤ顔で交渉しようと思ったな」

 

 小声でぶっちゃけると呆れた目をされた。ここでルフィに言わないのはルフィも知らないと踏んでいるからだ。海賊の常識には疎いんだ、仕方ないだろ。海軍の常識しか知らない。……一般常識を一番に望んでいるんだけど。

 

「デービーバックファイトはだな、端的に言うと人取り合戦だ」

「大体理解した」

「早ェなオイ」

 

 この島に来る前に遭遇した、人の足りなかった船の謎が解けた。奪えるのは人。そして…海賊旗。

 

「ねェ、フォクシーの人。賭けるものは金品もあり?」

「金品、だとォ?」

「そう、金品。正直よその船からの仲間なんて信じる不可用、旗は一つ限り。では、他の望む物……それぞ、金品」

「量にもよるなぁ…」

「ワンゲームに付き全財産3分の1…、は取りすぎでしょうから6分の1。勿論そちらの額に合わせるして、こちらも支払い。それが第一条件ですかねぇ」

「6分の1、だと。どれ位だ?」

「ざっと1億じゃないかしらオヤビン」

 

「1億ぅ!?」

 

 ウソップさんが驚きの声を上げる。

 

「やめとけやめとけ頼むから…向こうの6分の1すらねぇんだぞウチは!」

「やだなぁウソップさん……──ゲームにイカサマは常識ですよ?こちらが優位に立つ可能な条件を付けぬ、とでも?」

「結局やる気満々かい!」

 

 ドアホ、声が大きい。

 

「受ける気になったみたいだなぁ??」

 

 ぶっちゃけ、めんどくさい仲間が多いからゲームで勝たない方がオススメだよフォクシー海賊団。絶対に精神が疲労する。言ってやらないけど。

 

「条件1に金品の奪取も有りとしよう。その代わり金が無くなれば体で払う事だな」

「具体的には?」

「仲間ではなく奴隷、って所だ」

「胸糞悪いですが理解」

 

 チョイスによってはそちらが潰れるよ、本気で。この一味(個人)のバックに誰がついていると思っているんだ。ビビ様だとアラバスタ、ルフィだと革命軍と白ひげ。サンジ様なら過保護ジェルマ。ニコ・ロビンなら政府と海軍、私なら冥王と微妙な判断だけど七武海。あれ、どれ選んでも死んでる。

 やだ…この人たち喧嘩売る相手間違え過ぎて不憫…。

 

「条件その2、海賊らしく、嘘は付かぬ事」

「………いいだろう。嘘をついたら行われているゲーム、合間であればその次が負けだ」

 

 条件1にも条件2にも突ける穴は作った。

 これ以上の条件を付けてしまうとリターンの条件で動ける行動範囲が狭くなってしまうから止めておこう。

 

「では、ルフィ、受諾を!」

 

 

──ドォンッ ドォンッ

 

 

 

 純粋な力比べではなくゲームの場合、不思議色を使う私が居るから絶対に負けないんだけどね。

 

 ==========

 

 

「負けねば良いんですよ!負けねば!」

 

 反対意見のナミさんに肩をゆすられながら、ゲーム会場─何故か祭り風─で作戦会議を開く。

 

 開会式で把握した宣誓は3つ。

 1.奪われた諸々はデービーバックファイトで無ければ奪還不可能

 2.引き渡された者は速やかに忠誠を誓う

 3.奪われたシンボルは2度と掲げない

 

 大方予想通りだったけどゲームでしか奪還出来ないのは想定外。負ける気が無いので考えてなかったとも言える。

 

「俺は今お前がルフィの妹だってしみじみ実感した」

 

 ウソップさんが腕を組んで言う。

 ……なんだか失礼だな。

 

「出場者は3:3:1ね…。この一味は10人居るから3人確実に出なくて言いけれど…」

「はい!出たくない!」

「俺も!」

「お、俺はレースに出てはいけない病で…」

「クエーーーーッ!」

 

 安定した4人(?)が名乗り上げる。勿論、却下させていただこう。

 

「レース、球技、戦闘。うん、決まるした」

「今回は随分早いみたいだな。ナバロンではチーム分けに時間かかってたが」

「ハッキリ言いまして、今回のゲームは私の力が鍵となります。なので他は専門分野を担当して頂こうと思いますね。ちなみに1戦たりとも負けません!お金が欲しい!合計3億!人数多き海賊団流石の貯蓄!」

「金塊あるじゃねぇかよ」

「金塊は無い!船には無い!……これは嘘ではありませぬね、ギリギリ」

「確かに…そうっちゃそうだが…」

 

 具体的に場所を言うとアイテムボックスの中にあります。だから現金は無い。

 

「いいですか、嘘はダメです。大事な所のみ意図的に隠すして本当の事を話す!これ、会話の基本です」

「いや違うだろ」

 

 ビシッ、とウソップさんがツッコミを炸裂させるが私はスルー。私にとっては基本なんだよ畜生。

 

「ねェ、もし負けちゃったら…?」

 

 ビビ様が不安げに聞いてくる。

 

「チョッパー君を売り出す」

「なんで俺!?」

「欲すした人物の欠点を上げるしていき、ゲームのメンバーを減らさぬ為です。チョッパー君は今回待機故に。そして後に取り返す」

「なんで俺…」

「押し売り可能な長所がある故に」

「おしうり…」

 

 ゲームに支障を出さないためにも不参加組の誰かを生贄にしないといけない。そうなると背後的要因でチョッパー君かカルーが一番向いているんだ。……なんだか詐欺師みたいだな、私って。

 

「私多分誰かに壺売る可能」

「リィンは一体どこを目指しているんだ?」

「平凡平穏」

「程遠いぞ?」

 

 泣いてないったら泣いてない。

 

 

 

 

 【第1回戦「ドーナツレース」】

 出場者

  ウソップ

  ナミ

  ニコ・ロビン

 

 【第2回戦「グロッキーリング」】

 出場者

  ロロノア・ゾロ

  サンジ

  リィン

 

 【第3回戦「コンバット」】

 出場者

 モンキー・D・ルフィ


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