第1回戦「ドーナツレース」は島の外周をぐるりと回ってゴールまで辿り着く妨害ボートレース。
参加者はウソップさんとナミさんとニコ・ロビンなのでストッパー役は要らない。ナミさんは私が絡まないと比較的良識派だから。比較的。
妨害、と付く時点で海賊ルールはお察し。全力で妨害という名の手助けをする所存。ヌルゲーだね。
海の上ということでナミさんの独擅場になる事間違い無しだし、いざとなれば海を動かせる私がいるから大丈夫。そして何かの密告としてニコ・ロビンを。トラブルが有って何か伝える時に彼女の能力はとても便利になる。口や耳や目を咲かすだけでいいのだから。
問題、と言うか1番の不安点は樽三つで耐久性のある船が作れるかと言う所だ。
この一味で唯一作れそうなウソップさん。
彼に任せるしか出来ない。
「あ、魚人だ」
「んー?」
対戦相手の魚人が居たので思わず声を出してしまう。
「初めまして、俺ァカポーティだ。直接対決はないが良い勝負にしような」
「あっ、ご丁寧にどうもありがとうござります…?? 麦わらの一味の雑用リィンです」
「ん〜、ん〜?」
「な、何ですか?」
「いや…。小骨が引っ掛かった感じが」
話しかけてしまったが実は魚人になるべく関わりたくない。
魚人島で救世主とかさぶいぼ立ちそうな事言われてたり、ネプチューン王に立場黙ってたり、アーロンやジンさんその他諸々、頭いてぇ…。魚人に因縁ありすぎて胃痛がががが。
「カボーテーさん…皆さん祭りの準備が手馴れるしてますがそれだけ何度もやるしたのですか?」
「カポーティ。まぁ、何度もやってる」
何度も繰り返し勝利を収めてこの大人数になった、ということは必ず勝てる秘策があるという事。一味の古参の誰かは能力者だな。…睨むべきは船長であるフォクシー。
「あ、そうだ!魚人空手、やるだけ無駄ですよ」
こちらを少しでも有利にする為に煽る。
この煽りをすれば数発打ってくる筈、だけどそれを防がれたら諦めるだろう。今後魚人空手を無駄に使うことも無い。魚人の強みは一気に潰しておく。
「魚人対しそれなりの学がある様だな」
「友人が魚人でして」
「それでか」
名前は絶対言えないけど。
「リー!お〜〜い!」
焼きそばをモリモリ食べているルフィに呼ばれる。カポーティさんに別れを告げて一味の元へ駆け足で行った。
……あの人は女狐の部下には出来ないな。
頭が弱いからすぐに利用されそうだ、と本人が聞けば憤慨しそうなレベルの評価を下しながらため息をつく。
魚人の部下と仲間が欲しいです。アーロンを手玉に取って置くんだった。
「リィン!このボート海まで運んでくれない?」
「嫌です。手札はギリギリまで見せぬ」
すぐに沈没しそうな樽ボートを見下ろしながらナミさんのお願いに反対する。全員が『あーっ』って顔になったので納得してくれたみたいだ。
「お前の能力が勝敗分けるもんな…」
「敵がどう出るか予想しておかないと」
「クエッ」
「偵察行ってきます、だってよ」
「とある人間より動物が賢い…だと…?」
「ハッ、誰だそのマヌケ」
「オメーだよ」
「ゾロさんですね」
「マリモだな」
「3人そこで腹を切れ」
……この緊張感で勝てるのだろうか。
鍵は私の能力だけどそれ以前にキミらの動きが無いと出来ないんだよ???
「ナミさんの航海力が頼りデス!ガンバッテホシイナー!」
「愚問ね。リィンの指名で頑張らないわけないじゃない」
意気込むナミさんを尻目にウソップさんが耳元で内緒話をした。
「コイツ、お前が好きなのに利用するとか頑張るとか情緒不安定過ぎないか?」
「………ごめん」
私も結構使う。
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『さあさあお待ちかね!勝てば宴会負ければ深海の情け無用のデービーバック!第1回戦「ドーナツレース」始まるよ〜〜!』
両組スタートラインでオールを構え、迷子防止の
『位置について!レディ〜〜〜〜──』
その声に合わせて手のひらを海に向ける。手のひらが有った方が感覚的にやりやすいんだよね。
『ドーナツ!』
──ドドドドドドドォンッ!
両組一斉にスタートと同時にフォクシー海賊団の面子が砲弾を構えて海に撃つ。するとその勢いに麦わらチームは逆走したようだった。
「きゃあっ!」
しかしそれはフォクシーチームも同じ。
謎の海流に阻まれて、麦わらチームより数メートルも逆走してしまった。勿論、私のし・わ・ざ☆
「ナミさんとロビンちゃんになにしとんじゃゴルァ!」
サンジ様の怒れる声をBGMに不敵に笑う。
いや〜〜不思議色万歳!集中力を高めて想像力と思い込みでなんとかなるもんだ!
「今の、リィンか…」
「これは勝てるな、うん」
ゾロさんとチョッパー君が海を見ながら腕を組んで頷く。純粋な力比べは無理だけどきちんと戦えるんだよ!小細工ありの勝負なら!
フォクシーチームに居るさっき話した魚人が、魚人空手の構えを取った。
こちとらミズミズの能力者と戦った時に水の攻撃を無効化させる経験は何回かしたんだよ!今更海を割るだけの魚人空手に負けるか畜生!
「〝海面割り〟!」
ズドンっと大きな音を立てて麦わらチームの後ろから海が割れる。しかしその波は麦わらチームのタルタイガーの船体を傷付ける事無く途中で消滅した。波の波頭が崖にぶち当たり破裂する様な音と共に。
過去での戦闘や観察は確実に力になっている。
向こうの声が所々しか聞こえないのが非常に残念だが、ナミさんの航海の邪魔にならない様に敵の船を時々押し返す。フォクシー海賊団側のイライラが手に取る様に分かって気持ちいい。
「お前の顔、今酷いからな」
「具体的には?」
「ラスボス前の四天王」
「やだなぁゾロさん。海賊たるもの全て悪役、ボスにも成らず雑魚にも成らず、程よい立ち位置ですなぁ」
「それでいいのかよ元海兵」
裏工作得意系の四天王でよろしく。
「おっ、爆発的にスピードが上がったな」
「
ゾロさんの感心した声にサンジ様が返す。
おぉん?
私の理解出来てない雰囲気が伝わったのだろう。サンジ様が笑いながら
「空島に流通してる生活必需品だよ、えーっと、効果は…」
「威力を貯める
「うわっ、びっくりした…」
私の手の平にニコ・ロビンの口と耳が咲いた。
「あ、さっきは妨害ありがとう」
次の難関に突入したアナウンスを聞くが、ナミさんの本領発揮場所なので心配する事は無い。
「
「写真を排出する貝と立体映像を見せる貝よ、危険性は無いわ」
「お土産のチョイスが安全性優先で意図が丸わかりです」
「バレちゃった」
手のひらの声にイラッとする。海に沈め、世界平和的にも。異世界転生主人公的な存在である私に試練降りかかり過ぎじゃない?主人公補正?そんなのは要らないからモブ補正寄越せ
「クエッ!」
「ただいま、だって!」
「カルー!」
カルーが敵視察から帰ってきた。それと同時にフォクシー海賊団の船長、フォクシーが悪い事を考えたなどで海沿いを進む。仕方ない、付いて行くか。
「クエックエー…」
「アイツらの船には大きな鏡の塊が有ったって」
「クエーーー!」
「ひょっとしたらアレが武器かも!って」
カルーが便利!!
「ありがとうカルー!鏡、ぞね!」
ビビ様に撫でられるカルーにお礼を言ってフォクシーを追う。ただの鏡じゃなくて鏡の塊、絶対何かある。
『ついに出た悪魔の様な仕打ち!オヤビン、煙幕を使ってタルタイガーを号の視界を襲ったァ!』
「フェーッフェッフェッフェ!〝マッシロシロ大作戦〟!このサンゴ礁をくぐり抜けて見ろ!」
フォクシーのせこい妨害。それを全く気にしないナミさんは渦潮の隙間を縫って抜ける。
「うわっ…無駄な存在」
『ここで雑用リィンがオヤビンに攻撃したー!? オヤビンのガラスのハートはブレイク寸前!』
「リィン!」
「ルフィ達が飯に釣られてます故に!私が近くにいるです!」
『妨害の妨害に気付かれたオヤビン又も沈む!』
この人のメンタルは多分1番弱い。
第3試合のコンバットまで心折れなければいいねェ?
『喜びも束の間!サンゴを抜ければロング
落ち込むフォクシーを踏みつけて下に伸びる渦潮を凝視する。これくらいなら飛ばせるな。
頼んだ、的な目線が3つ私に降りかかる。
「〝海流1本背負い〟」
ぽそっと呟くとイメージ通り突き上げる海流が樽を押し、気持ちいいくらい空を飛ぶ。全員船体にしがみついているけど、この方法でやると分かっていたのか動揺はしてないみたいだ。
『な、なんだ今のはーッ!? タルタイガー号、空を飛んだァ!ロング
その後も様々な妨害は続く。
嘘の指示──はナミさんがぶん殴って阻止。
倒れたお婆さん──は私が鳩尾踏み抜く。
嘘のゴール──は私が石をぶん投げて破壊。
石をただ投げるだけじゃ届きもしないので加速に不思議色を使ったら破壊力抜群だよね。
『この一味の柑橘系女子は血も涙もないのか!まさに外道!』
「あー…わかるわー…」
「ウソップさん聞こえますたぞ!?」
『ここで雑用少女に問いたい!〝信じる心〟って、なんですか?』
「腹の膨れぬ無駄な荷物」
『想像以上の外道!』
純粋にうるせぇ。
「くそ…邪魔をするな!〝ノロノロビーム〟!」
本物のゴールが見えてきた時、起き上がったフォクシーが狐の形をした手から何かの光線を出した。光線というより光子か。私にぶつかった光子は何も害が無いように見えるが、周辺の草も、私自身も動かない。いや、ゆっくり、本当にゆっくりだけど動いている。
頭だけが通常通りに動いてて、飛ばしている脳の司令と体がリンクしないから思ったより気持ち悪い。
フォクシーはノロノロの実の能力者か。
「フェーッフェッフェッフェ!後はあの3人に掛けるだけだ!」
マズイな、それで勝利を収めてきたのか。
とにかくフォクシーに言いたい。
そ の 程 度 で 封 じ れ る と で も 思 っ た か 。
「ッ!」
手に持っていた箒を掴んでいるのでトップスピードで飛ばす。本部から世界各国へ日帰りで荷物を届けていた私の最高速度は、ノロノロビームを受けて走る速度へと変化していた。普通の人より少し遅めの走行速度かもしれないが、能力を喰らった状態では圧倒的な速さだろう。
「ごフッ!」
箒に引き摺られた私の体はフォクシーに当たり、ナミさん達に攻撃する事は無かった。
「な、なんで動け…ッ!?」
『オヤビンのノロノロビームを受けても尚、雑用リィンが動いたァ!?』
だいたい感覚で30秒。
途端に体に自由が戻り、ナミさん達がゴールしていた。
「残念、相性が悪いですたな、フォクシー海賊だ…──うえぇっ…まって…流石に酔いが回るしてきた…吐く…」
「リー!?」
「あっ、体当たりすた所激痛…。遅くなるした時のダメージは一気に来るですね…ゔっ…吐…」
咄嗟に早くした為か、私の内臓と三半規管が悲鳴をあげた。
主人公にあるまじき外道。そして絶対に格好を付けられない主人公。果たしてコイツは本当に主人公なのか??