叫んで無駄な体力を消耗したクザンさんはギロリと私やニコ・ロビンを睨み付けた。
「麦わらの一味を末恐ろしく思う」
さっきも言ったな。
「大概にしとかねぇとお前いつか殺されるぞ?」
「これだからぴっちりポロシャツ腹巻野郎は」
「あ?」
「ってウソップさんが言うしてました」
「おい。綺麗に責任転嫁してんじゃねェよ」
さり気なく罪を押し付けるが失敗した。
「あのですね、ゾロさん」
仕方ない、と説明する。
「私は
「タチ悪いな!?」
クザンさんは私の発言に突っかかる。バレないようにしてくれているのは大分有難いが早く帰れ。居なくなれ。
そんな私の無言の訴えが通じたのか分からないがクザンさんは1度大きく息を吐いて警告をした。
「これだけは言っておくぞ麦わらの一味。お前達は将来この女を…ニコ・ロビンを必ず持て余す。海軍に警戒されている者と政府に狙われている者とじゃベクトルが全く違う」
随分と優しい警告だとは思う。
これから先狙われますよ、と断言しているのだから。
……そうかそんなに政府が嫌いか。
「油断すると、あっという間に闇に呑み込まれるぞ…」
クザンさんとパチリと目が合う。閉じかけた口が再び開いた瞬間、彼は私の目の前に居て抱きつく様に体を前に倒していた。
「──………こんな風にな!」
白く氷結した体が私にぶつかる時、視界は白く氷に覆われた。
──パキン…ッ
『リー!!!』
『リィン!?』
『リィンちゃんッ!』
くぐもった声が聞こえる。
体の周りには氷が張ってあり、冷気にふるりと身体を震わせた。
『その持ち前の尻の軽さでニコ・ロビンは闇の世界を生き抜いてきた…!しかしだ、アンタらはどうだ?この一味がその闇相手に十分な立ち回りが出来ると思えねェ』
クザンさんの諭す様な声。それに対して怒りを表すのはルフィ達。
『それがどうした!闇だろうが世界だろうが、仲間に手を出す敵は俺が全部叩き潰す!』
あ、世界は流石に勘弁してください。
『なら守って見せろ…。こうやって、叩き割れない内に──…!』
『やめ…ッ!』
目を刺すような冷気の中で氷越しに人影が動いた。クザンさんが殴りかかったのだと思う。
──バリンッ!
私を覆っていた氷は、大きな音を立ててボロボロと割れた。
「リーッ!」
「───話はよぉ〜〜く分かりますた…」
私が居た場所のギリギリで止められた拳。
対して私はそれよりも低い位置でクザンさんを睨みつけている。
「えっ、嘘でしょ、なんで動けてんの。氷は?」
「まさか堂々と
麦わらの一味には『私』は『ONLY ALIVE』という認識。ただクザンさんに対して『私』は『同僚』だ。私を氷漬けにした張本人は混乱が抜けきらずに目を白黒させている。
このチャンス逃してたまるか!
「(仕事に)殺すされる覚悟はお済みで?」
咄嗟に取り出した海楼石の付属品付きの箒はクザンさんの死角…こちらを向いている頭の後頭部辺りで取り出した。そしてそのまま私の手元に戻ってくるように操作する。
「無いですッ!」
「………………チッ」
完璧不意を付けたはずなのに避けられた。思わず出た舌打ち。
氷結人間のクセにクザンさんは青い顔で恐る恐るこちらを見ていた。
「やはり噂はまことですたか。昔から私を狙うしていた人の内の1人は大将だったのですね」
「ま、まて、誤解、誤解だから」
「確実に殺そうとすてましたよね?」
「
「──今回
焦れば焦るだけ私が突ける隙が出来る。言葉というジャンルでは負ける気がしないんだよ、クザンさんは意外と脳筋だから。
物理的にも殺してやろうか、私のバックに憑いてる人達を使って。
「お、お前…なんで生きてんだ!?」
ペン回しの様にただひたすら箒をグルグル手の上で回して脅していると、ウソップさんが物凄く誤解されそうな叫びを発する。警戒してますよアピールでクザンさんの方を見ながらその疑問に分かりやすく答えた。
「氷の能力者と理解すた故に簡単ぞです。まず体の周りに空気の層を作るし、その上から目視不可レベルの水を薄くはるのみです」
「のみじゃねぇよのみじゃ。お前のそれはのみってレベルじゃ無いからな」
よく見たら凹凸がハッキリ出てないからバレると思ったんだが嬉しい誤算。案外バレなかった。全員があんぐりと口を開けているのが良い証拠だ。
イメージが難しいと思うがシャボンディ諸島で船のコーティングを見た事あるのなら結構簡単にイメージ出来る。
嘘だろ、マジかよ、これは反則だろ、能力ぅ、とかって小さな声でブツブツ文句を言っているクザンさん。
い い か ら さ っ さ と 消 え 去 れ 。
「…まぁいいか。この一味を潰そうとすれば簡単に潰せる。勿論俺1人でも」
「さっきリーに負けてたじゃん」
「リィンちゃんが完全に勝ってたな」
「生け捕りのみはきちんと生け捕りで捕まえれますぅーー!さっきのは生死を分けた戦いじゃありませんーー!!」
胃が痛くなるってこういう事なんだな!って叫びながら文句を続ける。
「大将の言うした事は事実です。先程は不意を付けたのみであり、能力を使わずとも私達のような
仕方ないからクザンさんのフォローを入れる。
麦わらの一味に顔は見られてないから怪しい所はつつかれない筈だ。
『大将青雉に一歩リードした私』が言ったからだろう、私の背後でゴクリと息を飲み込んだ音がした。効果てきめんのようでなにより。自分の力を過信して負けるなんて愚の骨頂、そんな事は出来るだけ避けたい。
「一つだけいい事を教えてやろう」
クザンさんがニヤリと笑う。
「アンタら麦わらの一味の担当は──女狐だ」
ッてちょっとォ!?これは本格的に『私=女狐』ってバレたらややこしいどころの話じゃなくなるパターンですよね!?
私の心の叫びなんて気にせず続けるこの男が心底憎い。
「正確に言うとアンタらの同期もそうだが、覚えとけ。女狐は俺みたいに優しくはねェぞ?」
うん!!優しくは無いね!!優しかったら脱走見逃しているかな!!だからちょっと黙ってようか!!
「うそ…なんで女狐が…」
「で、でもよ!俺たち1度会ったけど殺されなかったぜ!?」
ビビ様が尻込みして、ウソップさんは悲痛な声で訴える。
「そりゃ動く価値無しとでも思ったんじゃねェの…? ま、女狐の深層心理なんて誰も読めねェよ、読めたらびっくりだ」
前半の言葉に三強が殺気を高めた。
やめて、やめて。クザンさんお願いだからちょっとだけでいいから黙って。
私の泣きそうな顔見てるのキミしか居ないんだよ、確実に見えてるでしょ、やめろ。
「せいぜい気をつけるこったな」
元々そういう存在にする予定だったの!?私が大将就任したてからそういう事計画してたの!?違うって言って!?
「ふーん…そっかぁ...」
ルフィが怖い。
ビビ様は「ルフィさんが超攻めで嬉しい!」とか叫ばない。知識が少ないから語彙力無くて腐知識がある私的に有難いけど、いやがらせでドフ鰐合作作るのに参考資料買うとか言ってたからもう何が言いたいかと言うと胃が痛くなる。
「ありがとな、青雉。気をつける」
「……嫌味が通じ無いのかよこの血筋」
あ、通じません。
死んだ目でじっと見てるとさり気なく目を逸らされた。
「あー…まあ…あれだ…そのなんだ…ガチでなんだっけ」
「知るかよ」
「正直お前らを捕縛するとかしないとか『だらけきった正義』を掲げる俺として結構どーでもいいわけよ」
「『ツッコミしまくる正義』とかじゃないんだな」
「そこの長っ鼻君実は意外と度胸あるな」
「ハッ…!ツッコミしまくる正義が移った…って何言わせてくれとんじゃ!ごめんなさい」
「彼は私の心の中でMr.ツッコミ魂として根深く生きるしております」
「やかましい」
律儀にツッコミを入れるウソップさんはネガティブだけど度胸はある。それに対しては同意。大将相手にノリツッコミとか、私だったらその立場だと絶対出来ない。
「じゃあ、うん、俺、もう帰る……」
「さようなれ!!!」
「……見た目だけはなぁ。写真でいいよな、うん。むしろ写真が良い。現実に夢は見ない」
ボソボソと文句を言うクザンさんの向こう脛を蹴る。ガスッという痛そうな音と小さな悲鳴を確認すると胸ぐらを掴んで長身の身体を近付けた。
相手にしか聞こえないような小さな声で呟く。
「………………正直、自信は無い」
「………………この一味だとね、俺もちょっと危なかった」
分かってくれるか、と少し安心する。
恨み言を呟いているように、心から殺す気で雰囲気だけでもダメ押しで、そう、この私を差し置いてサボる放浪海兵を……あっ本気で殺したくなってきたから大丈夫。
「…殺気凄い」
「……私は、敵になりたくなき」
警告に
私の体をトンと突き…と言うか結構思いっきり突き、思わず尻もちを付く。
「その口がきけるんなら上等でしょ」
そしてそのままの流れで自転車に乗って海へ消えていった。
「見聞色の範囲内から出た」
ゾロさんの言葉に張り詰めていた空気が四散する。
サンジ様が手を差し伸べてくれるがそれを断って自身を抱きかかえた。
私が凍る前、白く氷結した手が伸びて微かに聞こえた。凍てつく様な視線と低い声。
『絆されるなよ、女狐…』
これも、優しい警告。
……今更になってガタガタと震えが来る。
私が海賊に肩入れしているとバレた、私に迷いがある事がバレた。中途半端な立場を保っているから隠しきれなかった。私の嘘は、残る3人の大将の中ではクザンさんが一番見抜けるというのに。
絆されてない自信なんて少しも無いのに。
「リー!?大丈夫か!?」
『……海賊王になるにはソイツら全員倒せるくらい強くならなきゃなんねぇ。リー、俺を助けろ』
この島に着く前、ルフィに少しだけ迷いを打ち明けた。
海賊と海軍。
選ばなくちゃならない時はくる。
そう考えていた。
「………へへ〜…頭使いすぎで頭痛いのみです。糖分ください」
想像以上にタイムリミットは無かった。
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散歩がてらと嘘をついて島を訪れた。
アラバスタに現れていたニコ・ロビンの行方が気になったから、ってのもある。
一番の理由は本当の意味で海賊の恐ろしさを知らない同僚の様子を見に。
何に好かれているのか知らないが、『腕ならし』の潜入をしている彼女はここ最近頭角を現し始めた
いくつかの島を巡ってようやく会えた時には本部で大人しく居場所を聞いてから動くもんだったなと後悔していた。
そして同時に驚いた。
彼女は潜入前に見た時よりも力が付いている。
名ばかりの大将で、お飾りの大将。噂でコーティングして周囲を脅すハッタリの大将。海軍にとって都合の良い人形だった。……まぁ結構最初から人形にはなってくれなかったけど。
そんな彼女は戦略でドーピングしたら大将とサシで殺り合える、と判断させてくる。厄介な炎が降り注ぐ時、いい加減鬱陶しくて足払いをかけた。
「フッ!」
あの子は避けた。攻撃の手を緩めないで小さな攻撃を無意識下で受け流す。避け方に既視感があったが成長しているのは確かだ。
その後鍔迫り合いも起こった。本部の少佐よりも軽い体を持っているくせに、力の入りにくい体勢を狙って体重を掛けてくるから中将の攻撃よりも重いと錯覚する。
だから、状況を打破する為に再び強めの足払いをかけた。
「へあ!?」
いつもより強い足払い。しかし驚く事にあの子は避けただけで無く反撃まで加えようとしていた。
がめつい勝利への欲望などまさに海賊で、飛び上がった右膝が的確に首を狙う。
最近まで子供だと思っていたお飾りちゃんが、最高戦力をビビらせる。
油断もあったが、殺られると思ってしまった。
咄嗟に身体を捻り蹴り飛ばす。偶然船長がクッションになった様だが軽く飛んでいった体にゾッとした。
──まさか俺…かなり本気出してなかった…?
一瞬の出来事とはいえど
「若さって怖いな…」
チリンチリンと自転車の音を鳴らしながら、海の上で運転する。
ぐんぐん成長する若い子供達。そしてよく知っているのに知らない女狐という存在に恐怖を感じ、心臓を氷漬けにされたようだった。
ロッロリコダイル〜〜〜誕生日オメデト〜〜〜〜おめでたいけどお前はまだ死ぬぞ〜〜〜!
そして一年前から見てる人知ってるかも知れませんが作者もこの日誕生日です。
物騒な話が誕生日!結構無茶苦茶な文な気がする…。最後の『絆され…──』は最初の氷漬け(物理)の時に言われて、それに対しての回答が「自信ない」「センゴ…─」ってわけです。分かったら読解力が高杉さん。
ウォーターセブン編はしばらく時間開けてからの投稿です。
そう言えば、一つだけ、リィンさんこの章で疑問を解説してないね。攻略法。