2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第16話 真実はいつも一つとは限らない

 

 

「───戦神を教えて……」

 

 

 赤ん坊の頃。ガープ、そうだ、あのジジに連れていかれる時。

 今だから分かる。確かに彼は自分の母親を『戦神』と呼んだ。

 

 

 顔は思い出せないが漆黒の澄んだ、まるで黒曜石みたいに綺麗な目をいつも私に向けてくれていた。

 喋れもしないし意思疎通も出来ないただの赤ん坊だったけど。私を愛してくれていた。たった1年だけど、それが母親なんだって。今ならすごく理解できた。

 私は彼女の事が知りたいんだ。

 

 彼女、私の母親は自分の身より私の身を優先してくれた。

 私には到底出来っこないことだけは確かだった、だって我が身が一番可愛いんだから。

 

 そんな思想を持ってる私にとって、自分の自由や命を犠牲に私を生かしてくれる心優しい海賊の彼女を知りたくて、お礼を言いたくて…───会いたい、のかもしれない。

 

 会うこと自体に問題はないがやはり怖い。

 

 戦神=母親

 なのならば彼女は海賊王のクルーと言う事になり、私の命も危機だ。だって海軍が残党兵を捕まえようと躍起になっているんだから。

 巻き込まれる事もある、ひょっとしたら忌み嫌われる血筋だって殺される事もあるかもしれな────…忌み嫌われる…?

 

「ん?」

 

 ちょっと待てよ…忌み嫌われる?例えばもしも海賊王の息子って言うのがエースだとしたら?質問を誰彼構わずしていてその息子を殺すと言われたら?かつて怪我をして帰って来た時、それを言われていたら?

 

「……」

 

 あぁなるほど理解した。

 エースは海賊王の息子の可能性が高い。そして〝エース〟ではなく〝海賊王の子供〟の存在がどう思うか周囲の人間に聞いていたんだ。

 だからダダンも口を濁した。サボも分かってたから怪我をして帰ってきた幼いあの日、朝帰りだったんだ。

 

 これは随分とナイーブな案件ですな。間違ってる可能性無くも無いけどそれを前提として考えておいた方がいいだろう。果たして、どう反応すれば正解なのか……。

 

 

「………──ィン、おい、リィン?」

「は!聞き漏らすてた!」

「ぼーっとしてたから眠いのかと思った」

「その可能性は否定ぞ。それで戦神の情報たるものはどれほど持ち合わせて?」

 

「戦神はワノ国出身と噂される一人の謎多きクルー、だ。これくらいでいいか?」

 

 ん?情報が思ったより少ない。海賊王を語らせた時よりずっと。

 本当に情報を持ってないのか。それとも意図的に隠しているか。

 

 まぁいいや、いずれ私が成長して調べればいい。それこそ海軍に入って知りたいことをとことんまで調べてやる。

 海賊も素敵だけど怖ぇもの。うん。

 あ、でもやっぱり普通の生活を希望します。海軍中将の孫で海賊志望の兄と山賊の家族がいる時点で普通の生活を歩めない気がするのは私の気の所為じゃないと思うんだ。

 

「あら?ルフィそこにいたの……っと、お客様かしら…」

「あ!マキノ!!」

 

 ルフィが突然現れた女の人を見て手を振った。わぁ!お姉さんだお姉さん!可愛いお姉さんだ!年上のお姉さんだ!

 男しか相手してなかったから新鮮だ!何年ぶりだろう女性に会うのは!

 すごい!私のテンション久しぶりに上がってる!お姉さんだ!

 

 え?ダダン?ダダンは女性とは言いません。女性の皮を被ったモンスターです。

 

「初めまして、マキノと言います。あら、可愛らしいお嬢さんね。ルフィいつの間にガールフレンドを作ったの?」

「さっき!」

「がーるふれんど??否定よ、私はリィンなるがルフィの妹ぞ」

 

「妹さん…?リィンちゃんと言うの……よろしくね?」

「よろしくもうしまひゅ!」

 

「えっと、そちらの方々は……」

「あ、俺はシャンクスという者で、ちょっとここを拠点にして活動するつもりなんだ。ここの村長さんか長は居ないか?」

「あら、海賊さん?……そうね、村長に判断は任せましょうか…。では案内します、どうぞこちらへ」

「おう、ありがとな。ルフィ、リィン、また後で会えたら会おうな」

 

「シャンクスさん!待つべしよ!最後に米粒ほど!もう1粒のみ!」

「んぁ?どうした?」

 

 あくまでも参考として聞いておきたい。

 

「もしも、…───海賊王なる人物に子供ぞいたのなら何を言う?」

 

「……………海賊王に子供?」

 

 エースに聞かれた時は『息子』と言われたけれどもそれは居ると確定させてるも同然。もしもの話をするなら輪郭はボヤけさせないと。

 今度それとなく注意しなければ。

 

「だっはっはっはっ!いる訳ねぇだろ。海賊王に息子?馬鹿言っちゃいけねぇよ…海賊王の血筋が残ってちゃならねぇから、海軍がそれっぽい年齢の子供は殺して言ったっつー話があるくらいだぞ?」

「………海軍、何奴……。怖っ」

 

「まぁもしも居るとしたなら───」

 

 シャンクスさんは立ち上がり上から見下ろす様に呟いた

 

「───『生きろ』かな」

 

「生きろ?」

 

 復唱するとシャンクスさんは頷き肯定の行動を取った。

 

「あぁ、親の罪は子の罪じゃねぇ、親の分まで生きろ…ってな」

 

「シャンクスさんは良き人ぞなりね。ありがとうごじゃりまひゅ」

 

 そう言うと私の頭をくしゃりと撫で、マキノさんについて行った。

 

 

 残りの海賊の人達は村の人を怖がらせない為なのか分からないが船を出るだけで村に入ろうとしてない。

 うん、この人達は海賊と言ってもいい人なんだな…。自由を求める海賊って所かな?どう考えてもまともな生活送ってる方が海軍に追われるっていう縛りがないから自由だと思うけど。

 

 

「嬢ちゃん」

 

 ちょいちょいと手を動かして海賊の一人が呼ぶ。まぁ、無視する事も可能だけど船長がアレなんだ。比較的安全なんだろうと思うが一応念の為箒を持って近寄った。

 

「何用でじょーましょ?」

 

「じょ、じょーましょ?ま、まぁいいや。もしも俺たちがここに滞在してもいいことになったら飯奢ってやるよ。母さんに言っときな」

「っ!真実!?」

「えーっと、ホントか?って聞きてぇのか?」

「肯定ぞ!」

 

 そういうと「ホントだよ」と苦笑いしながら私に向けて言ってくれた。

 

「なーなー、おれはー?」

 

 ルフィが近寄ってきて催促をする。

 

「野郎には奢らねぇよ!自分で払えガキ」

「なんだと!!ケチケチすんなよ!」

 

「ヘッ、欲しけりゃ宝払いでもするんだな」

「宝払い?」

 

「字面から察知致すに…後払い?」

「……夢も希望も無いこと言うなよ。───事実だけど」

「事実確認完了ぞ、なれば私も宝払いぞ利用」

 

 

「その珍妙な喋り方どうにもなんねぇのか…理解するのに一拍必要だからな、な?」

 

「無理無茶無謀」

「お、おう…そうか…」

 

「次いでに進言。私に母たるものは存在皆無よ。きっと遠い箱ぞ」

「よし。分かんねぇ事は分かった!」

 

 

 触れちゃならない話題でも無いのでお気になさらず。でも私は疑問に答えられないからな。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 彼──ヤソップさんという名前らしい人──は先ほど言った通りにご飯を奢ってくれた。

 久しぶりと言うか生まれ変わって初めてのまともな食事に感動してると可哀想な子を見る目で見られた。失礼な。

 

 私は死んだ時から可哀想だぞ!

 

 

 

『ヨホホホ〜、ヨ〜ホホ〜ホ〜♪……───……─…──』

 

 海賊達はなにが面白いのか。下品に笑いながら酒を浴びるように飲んでる。手にかかろうが服にかかろうが、笑い歌い騒ぎ、どこの忘年会だ、とツッコミたくなる程騒いでいた。

 ほんとになにが面白いんだ。

 

『ありったけの〜!夢を〜!かき集め〜!!──…──………』

 

 あ、曲が変わったな。リズムが軽快になり、海賊達は肩を組み歌っている。

 

 ムンムンと酒臭い空気が辺りに漂っていて、思わず風を使って払う程には臭いがきつい。私は酒を飲んで無いのに、程よく酔っぱらってるみたいに顔がほんのりと赤く染まってるのが自覚できた。

 

「男の人はいつまで経っても男の子なのね……」

 

 マキノさんが空いたお皿を片付けて私が座るカウンターの前に立った。この酒場はこのお姉さんが仕切っていてこんなにバカ騒ぎが出来ている。

 

「そうぞでしょーじょーぞろん。しかし、楽しそうじょ…」

 

 さてともうそろそろ帰らないといけないな。暗い森は危険。

 宴が始まってまだ1時間程度しか経って無いけど夕暮れだ。急いで帰らないとみんなに心配される。あ、でももうひと品だけでもご飯食べたい。

 

「リィン、帰るのか?」

 

 シャンクスさんが隣に座って酒を1口含んだ。

 

「う…はい!ぞ!森故危険物多き!」

「そっかそっか…────」

 

 そして納得する。

 さぁて、帰り支度でもして。

 

 

 

 

 

 

「────ん?」

 

 帰ろうとした瞬間シャンクスさんが首を傾げた。盛大に間を置いて。

 

「シャンクス…さん?」

 

「ちょっとまて、俺の理解力が足りなかったのかもしれない…。もう一度別の言い回しで言ってくれないか?」

 

 頭を抑え手のひらで私を制するとブツブツ呟くと、すぐにこちらを見て言った。

 まぁ復唱するくらいなら楽勝ってもんだ。そこ、復唱で間違えてただろとか言わない。

 

「住処はこるぼ山故に闇夜は危険ぞ。危険物多大に存在す、急速に帰還すべしぞ」

 

「よし、よし、信じ難いが理解した。……お前、ここの子供じゃないのか」

「肯定ぞ、私は森、だ、ぞ、よ?」

 

「語尾が不安だからって動詞を抜かすな……。よし、うん、────野郎共!俺はリィンを家まで送ってくるから寂しくて泣くんじゃねぇぞ!」

「ギャハハっ、誰が泣くかよ!」

「ヤソップ!!!少しは悲しめ!!」

「うわーん、さびしーよーかーしらーーーー」

「…─…」

 

 『こいつ殺すとか』こっそり耳に聞こえました。物騒だなぁ。どこの組織にも苦労人というものは居るのだろうか。船長さんご苦労様です。

 個人的には漫才を見てる気分だけど。

 

「さてと、行くか。道はどっちだ?」

「上ぞ」

「…、…見─…色…っかうか…………」

 

 ん?今度は何を言ってるのか聞こえなかった。

 

「─…っ、なんだ?…………いや、気の所為か…。リィン、手ぇ出せ」

「握手?」

 

 シャンクスさんがゴツゴツした手を広げる。何したいんだと首を傾げると、叫ぶ様に答えが降ってきた。

 

「迷子防止!!」

 

 暗い森だから仕方ないか。

 

「あぁ、納得──」

「分かってくれたか…」

「──シャンクスさんぞ迷子か」

「チゲぇよ!?お前のだからな!?」

 

 解せぬ。

 

 


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