2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第157話 全ては黄金に支配される

 

 前半の海を緩やかに進むゴーイングメリー号。

 一行は穏やかな面持ちで風を浴びながら雑談をしていた。

 

「やはり接近戦になると不利ね」

「あの3人以外は基本そうですよ。それでですね、やはりここは毒針かナイフでは無いかと」

「成程、ボスみたいに隠しておけばいいのね」

「えぇ。女性ならでは、太ももや胸の谷間…チッ…などにも隠す可能ですし、コートなど着用するなればいつでも取り出す可能です。まぁバレぬようにするには技術が必要ですが」

「…もしかして堕天使ちゃんのマントの中って」

「暗器沢山ですね!」

 

 話す内容は少々どころかかなり物騒だが。

 

「ひとまずオーソドックスなナイフを貸すしておきますよ。ロビンさん器用です故に使いこなせると思うです」

「使い方、教えてくれる?昔から関節技ばっかりだから武器という武器を使った事無いの」

「もちろん。関節技の知識あるならより一層威力倍増です。血管の位置など覚えるしてますよね」

「当然ね、オトすには血管をこう、キュッとするもの」

「ですよねー!」

 

 キュート系とセクシー系の代表が顔を見合わせて笑う。それはもう朝露の中で浴びる太陽の光のように爽やかな笑顔で。内容は効率的な制圧方法だが。その様子をウソップが瀕死状態の目で眺めて呟いた。

 

「なーゾロ君。アレって、仲悪かった、よな?」

「あぁ、今でも悪いな」

「なんだかこう…──生き生きしてるよな?」

「あぁ、似たもの同士だからだろうな…」

「結託するとヤベェって事か…」

「あぁ、ヤベェな」

 

 ゾロが筋トレしながら話に付き合う。

 元々死にかけていたウソップの目が会話をする毎に死んでいく。

 

 おかしい。一番海賊らしい思考回路を持つ人間が元海軍勤務者な辺り特におかしい。

 

「あいつらは少なくとも1日に1回は毒舌戦を繰り広げてるな」

「そんな頻繁に戦いが起こってんのか……」

「内容は粒あんやこしあん戦争」

「あれれー…? 仲悪いってなんだっけ…?」

 

 仮にも海兵ならもう少し遠慮してもらいたい。

 人を痛めつける話題は心の平穏的に避けてもらいたい。

 

 ウソップは深く、それはもう魚人島よりも深くため息を吐いた。

 

「ねェリィンちゃん…私の武器なんだけど」

「ビビ様は…そうですね。こちらどうですか?」

 

 リィンが取り出したのは鞭。

 

「……鞭?」

「面白い武器を持つしてないので残念ですが、ビビ様所持の武器に似るですから使いこなせやすいかと。あと個人的に使いこなして欲しいです」

「まぁ、やってみるわ」

 

 使ったことの無い武器に困惑しているとリィンはビビの肩に手を置いて真剣な表情をする。それに釣られてビビもゴクリと息を呑む。

 

「私はビビ様に戦いの前線に立つして欲しくありません」

「ど、どうして…!?」

 

 唐突な戦力外通告。彼女がなまじ一味の方向性や仕組みを手にしている以上、ビビにとって幼馴染みである以上、あまりにも(こく)な言葉だった。

 

「私が貴女の力を信じるしているからです」

 

 外道はどこに出しても恥ずかしい外道である。

 怪我だけでもかなりの責任問題だからその危険を回避したい。て言うか付いて来て欲しく無かった…などと仲間にあるまじき事を愚痴っている。そんなリィンの内心や落として上げるという方策に気付かない純粋な天然産ビビは信じるという言葉に瞳を輝かせた。

 

「軍ではなくここは海賊船。言わば一つの国家です。国家には様々な分野に分かれるした仕事が多数あります」

「う、うん。イガラムもチャカもペルもパパも、全員仕事は違うわ」

「海賊船も同じです。打撃のルフィ、斬撃のゾロさん、狙撃のウソップさん、これらがいい例でしょう。こちらは戦い面に関連すて。しかしながら料理は作れませぬし傷も治せませぬ」

 

 敏い王女はその説明で10を知る。

 

「役割分担って事ね…」

「(そうそう、だから戦いは控えようね〜)」

 

 実際は9程度だが。

 

「でも、それなら私は一体何かしら…。政治に疎いし、腹の探り合いも出来ない、基礎的な勉学は出来るけれど海賊としてそれが活かせると思えない。医学や栄養学は多少齧っているけど仲間には敵わないわ」

 

 客観的に自分を判断していくビビ。

 そのビビに悪魔は囁いた。

 

「ある国にはペンは剣よりも強し、という言葉が存在します」

「ペンが…?」

 

 なんだと、と剣士のゾロが腰を浮かせたのを見てウソップが慌てて止める。ステイそこの剣士。

 その扱いに不服そうにしながらもゾロは胡座をかいた。

 

「ビビ様。言葉や文字は時に精神ダメージとして有効な攻撃手段となります」

「ストップ!ストップ!!!」

 

 これ以上喋らせたらダメなやつだ。

 瞬時に察知したウソップは止めに入るがリィンとビビの世界は変わらず動いている。

 

「いくら刀が通らずとも攻撃にはなる。大体の野郎は腐耐性が無いです故…苦肉の策ですが…!」

「お前なんでそんな最終手段を使うみたいな台詞と顔をして平然と初手に使ってくるんだ?それ物凄くタチ悪いからな?もしもし聞こえてる?」

 

 リィンの側で「ペンって強いのかー」という人間歴の浅い声が聞こえたが今はそれどころじゃないので無視した。

 

「精神、攻撃。分かったわ、私、作家雨のBL担当として力をつけてその場で妄想を口に出せれるくらいの知識を身につけてみせる!」

「あ、そこまでは要りません」

 

 キラキラ瞳を輝かせるビビの肩を揺さぶるウソップ。一瞬で真顔に変わったリィン。全く気にしないでナイフを振り回すロビンと巻き込まれることを恐れゾッと顔を青くするゾロ。そんなカオスな場所を草履を穿いた足が空気など読まずに元気に通り過ぎて行った。

 

「野郎共!島じゃなくて船が見えたぞーーッ!」

 

 麦わら帽子のその先に、一つの建造物が見えた。

 真上に登った太陽の光に照らされて、黄金の塊が光を放っている。

 

 グラン・テゾーロ。

 島と言っても差し支え無い程の大きさの船。一攫千金が狙える、誰もが夢見る世界最大のエンターテインメントシティ。

 

 その圧倒的な存在に、一味は冒険前の高揚感を味わった。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「うっほーー!すげぇーー!」

 

 一味の船長、ルフィの歓喜の声で周囲も顔を輝かせる。

 

 見渡す限り黄金。

 金粉の雨が降り注ぐ通路。

 

「凄い…これ、本物よ!」

 

 最も目利きが出来るナミがこの歓迎の仕方に感嘆の息を漏らした。

 なんとも派手、なんとも大胆。

 

 金粉とは言えど本物の黄金。際限なく降り注ぐ数多の光がいくらかかっているかなど、考えない方が幸せだろう。あわよくば手に入らないだろうかと泥棒の血が騒ぐ。

 

 どうやら船の進む水はいつの間にか海水では無くなっている。底が見えず生き物は住めない、現実と離れた作り物の世界。この世の欲望を全て溶かした様なあまりにも美しい残酷な金の水。

 

「クエ…」

 

 人には分からぬ言葉でカルーが呟く。まるで夢物語に出てくる三途の川の様だと。

 その運河は浮世へ向かうのか、それとも黄泉の国か。

 

 行く先が輝かしい未来ばかりとは限らない。この一味には災厄に好かれまくった奴がいるので断定など出来ない。むしろ輝かしい未来の方が珍しい。一味の経験則である。

 

 少しの恐れと、大きな冒険心。

 じわじわと近付く光源に彼らの心臓がバタバタと暴れた。

 

「ッ!?」

 

 トンネルを抜けた途端、目が眩むほどの光と甲高い金管楽器の音が客の耳を突き抜けて走る。

 楽器の踊るような演奏と共に心臓を掴むような低い歌声が空間を魅了した。

 

 その音に圧倒された麦わらの一味だったが、数秒後には周囲の景色に目を奪われていた。

 船の下にて輝きを放つ金の水が生き物の様に動き出すと視線はすべて黄金に支配された。

 

「綺麗…」

 

 誰の言葉か分からないが自然と口から零れ出す。

 

 歌と音楽と踊り。それらで客の視線を集める。

 その視線の先の、星型に展開した中央のステージで一人の男が歌っていた。

 

 白色と黄色で星モチーフのステージ衣装に身を包み、紫色の派手なサングラスをかけている。深い緑の髪が汗と共に舞う。

 その男は新たに登場した海賊船を一瞥すると、スタンドマイクの(かたわ)らでポーズを決めた。その途端サラサラとした金の水が水中花火の様に派手に弾ける。

 

「今、目が合わなかった?」

 

 男の名はギルド・テゾーロ。

 ここ、グラン・テゾーロの支配人であり。

 

「It's Show Time!」

 

 ──さぁ、ショーの始まりだ。

 

 カジノ王である。

 

 

 カッ、とライトが激しく光始める。

 赤や青や紫と色とりどりの光が注目するのは麦わらの一味の船。そこにはカジノという場に不釣り合いなゴーイングメリー号が居た。

 壊れそうな程ボロボロという訳では無い。帆も、船主も、甲板も、傷んでいる訳では無い。しかしどこか田舎臭さ…と言うより平和ボケを感じさせるデザインと船底を守るツギハギの鉄板。

 

 しかも総合賞金額(トータルパウンティ)はたかが3億3200万ベリー。新世界にはこれよりも高い数字の海賊はゴロゴロと居る。服装もどこか田舎臭い。

 

 客達はそれでも騒いだ。

 

 今日のショーの生贄は彼らだと。

 

「なにっ、なになに」

「どうやら…馬鹿にされているみたいね」

「はー…。田舎から来たお上りさんだと思われてるわけか。ま、事実だけどな」

「お、俺達来て早々狙われてんのか!?」

 

 どうして普通に過ごせないんだ災厄よ、と居もしない存在に向けてリィンが語りかける。もはや自暴自棄だ。チョッパーでもクロッカスでも、例え彼ら以上の医学知識を持っていても永遠とつきまとってくる胃痛にはお手上げだろう。

 

「お、おいあれ見ろ!」

 

 ウソップの慌てる声。彼はなんとも情けない事に足が震え立っていられない状態の様だ。……しかしそれも仕方ないことだろう。リズムと共に水中から現れたの黄金の竜だった。

 いくら生き物じゃないと言えど、それを認識してしまい腹の底からギャー!という雄叫びが重なる。偽物の化け物に攻撃しようとしたルフィ、ゾロ、サンジの3名を1人の少女が制して言った。

 

「……主戦力が出るまでもありませぬぞ」

 

 一味の認識的に古参という事もありリィンもギリギリ主戦力なのだが、物理で言えば外れるだろう。リィンはサラサラと垂れた前髪の隙間から竜を睨みつける。

 

「私はですねェ…他人に言いように使うされるのが…大っ嫌いなんですよ」

 

 彼女の地雷はそのレベルがあれど大体3つ。

 一つ、兄に対して肉体的にも名誉的にも危害を加えられる事。

 二つ、自分のモノを使われる事。

 三つ、自分が()()に利用される事。

 

「お前…実は短気だし、プライドは赤い土の大陸(レッドライン)級だよな」

「覚悟を決めるして利用されるのならば良いのです。結果の先に自分の利益がありますので」

「笑うな、怖い」

 

 リィンがニッコリと笑い箒を取り出すとウソップが戦慄した。

 

 ……メンタルケア大事かもしれないな。頼りすぎ良くない。もう少し優しくしてやろう、自分に被害が来ない為にも。

 

 そう考えて口を開こうとしたらゾゾっと寒気が走る。

 

「フッフッフッ…。アレ、悪魔の実ですたよね」

 

 どうしよう、リィンが壊れた。

 気配から真っ黒な何かを背負っている仲間を一味は黙って傍観する事にした。触らぬ神に祟りなし。アレはただの邪神だ。

 

「造形物を作成は、私も得意ですてね」

 

 リィンが作り出したのは自称アイテムボックスに入れてある海水で作った大きなドラゴンだ。絵本などにあるような見事なドラゴン。しかもここぞとばかりに海水のストック全てを使って大きなドラゴンを作っている。無駄な多才さと労力だ。

 リィンは心の中で「ここはファンタジー世界!異世界万歳!居て欲しくないけどこんなの居そう!」などと無理矢理思い込みをしていた。

 

 蛇の様な竜と翼の生えたドラゴン。どちらも空想上の生き物で雌雄を決する事が無い。

 しかし金の水の竜と海の水のドラゴンでは性能に違いが出る。

 

 牙と鍵爪がぶつかりあったその時、能力で作られた竜はそのまま派手に消滅していった。弾けた金の水は船にも降り注ぎ、体にぶつかり、しかしベタベタと付くことも無くサラサラと消えていった。

 

 一際大きい歓声が鳴り響く。予想外の結果。竜に飲まれる弱者では無く、竜を倒した強者だ…!興奮を抑えきれない様子で叫ぶ、叫ぶ。

 観客にとって生贄が誰であろうが負けようが勝とうが盛り上がればなんでもいいのだ。

 

 そうするとスピーカーから声が聞こえた。

 

『グラン・テゾォォオロへ…───ようこそ』

 

 サングラスに隠れた視線と、金髪に阻まれた視線が交わった気がした。

 




無駄に労力を注ぎ込んだ三人称視点。ストーリー作り終わったので誤字修正しながら投稿していきますよっと。
ところでこちらの麦わらの一味は()()()3億です。あーゆーおーけー?
VIP扱いなんて、無いですよねぇーー!!実力差、ありまくりですよねー!!
今後を考えると感想欄での反応が楽しみすぎてワクテカが止まらないッ!ちらっと教えておくと予想外の人物が登場します。絶対に、誰1人として予想出来ない。(って書いたら煽られた読者様が予想するんだろうなぁ…)

どうも、皆様の期待の斜め上を行く系作者です。

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