2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第158話 神は堕天使を見捨てた

 

 金色の水の上を案内板(あんないばん)に沿って進んだ麦わらの一味は暫くすると大きく開けた空間に出た。

 

 そこは赤と金を基調とした豪華な外観となっており、メリー号の十倍以上の高さである。均等間隔に吊り下げられてあるシャンデリアが何もかもを照らしている。

 

 眩しい、物凄く。

 

 壁や天井、水にも反射されて物凄く眩しい。

 

「ここは港ですね」

 

 リィンが周囲を見回した後、光を遮る為にキャスケットを深く被る。でっけー!と叫ぶ声が聞こえたが正直他人のフリをしたかったので無視をした。彼女はどうやら顔つきの賞金首になった自覚が少ない様だ。無駄である。

 

 港だけでも分かる金の使い方、ギルド・テゾーロが黄金帝と称される理由がとても納得出来る雰囲気だ。自分達がネタとして使われた事で下がっていたテンションも現実離れした風景のお陰でいつの間にか上がっているもの。なんと言っても彼らは海賊、黄金に目がない。

 

「私、VIP専用コンシェルジュのバカラと申します…よろしくお願いしますわ」

 

 鮮やかなピンクに近い赤髪に褐色肌。耳元には大きなピアスが刺さっている。背中は大胆に空いており、背は一味の誰よりも高い。バカラと名乗ったその女性はニッコリと笑って案内を始めた。

 …──麦わらの一味の隣のブースで。

 

「バカラちゃんに案内して欲しかった…」

「案内は欲しいなぁ〜、どこに何あるかさっぱりだもんな、俺たち!」

 

 がっくりと肩を落とし悔し涙を流しながらサンジは役人らしき男と雑談を交わすバカラを眺める。それに続いた呑気なルフィの声をスルーしながらロビンが冷静に状況を判断する。

 

「VIP専属があるって事は何らかのランクに別れてそうね」

「…ギルド・テゾーロ。あのステージにて踊るした男が『新世界の怪物』と言うされてます故に麦わらの一味はVIPでもなんでも無いでしょう」

 

 ロビンの予想に対し追加する様にリィンが口を開く。さてカジノに向かって荒稼ぎするか、と意気込んだその時、声が聞こえた。

 

「えぇ、その通りです。貴方達はVIP対象外になりまーす」

 

 その声は一味の声では無い。

 一味の視線が声の主へ向くと、そこにはピエロの面を被った大男が酒とタバコの匂いを撒き散らしながら立っていた。

 

 ……ヤベェ、変なの来た。

 

 ウソップは死んだ目になり、リィンはそっと天を仰ぐ。

 唯一楽しそうなルフィはなんでもかんでもでかいんだな、と呑気な言葉を漏らしていた。

 

 余談だがグラン・テゾーロは巨人であったり魚人であったり様々な人種が訪れる為基本巨人サイズが主だったりする。そんな事を知らないルフィ達はただその大きさに圧巻されるだけだ。

 

「申し遅れました、私は名無しのピエロ。皆からは名無しだからシーナと呼ばれています〜」

「ピエロじゃダメなのかよ」

 

 シーナと名乗ったピエロは見た目からまさにピエロであった。頭、上半身、下半身と中心線を境に赤と金の2色で交互に染色された衣服。リィンの身長の2倍─大体3m─ある図体の大きさのせいで、ファンシーと言うよりホラーテイストだが。夢に出てきそうだ、もちろん悪夢として。

 

 彼は足を動かせる度ピコピコとなる靴に気にせず陽気にターンを回って見せる。

 が、滑って転んだので何とも情けない登場になった。 

 

「なんだこの酔っ払い…」

 

 一味の酒豪、酒好き、影でそう呼ばれているゾロがボソッと呟く。

 

「タバコに酒って、なんつーか典型的なダメ親父みたいな感じの雰囲気だよな」

「やだ…加齢臭とかしそう…船医さん、彼、どんな臭いがする?」

「あんまり嗅ぎたくない…」

「……………………ウルセェ青鼻狸」

「おい、こいつ口悪いぞ」

 

 常人より動物(ゾオン)系のチョッパーは五感が優れている。それ故に聞こえた台詞に思わずチクる。このピエロ、常に笑った仮面を付けているくせに感情豊かであった。

 

「そんでよピエロ」

「シーナです」

「うん、分かった。シーナ。お前、誰だ?」

 

 今更な事をルフィが聞く。

 シーナは口に手を当ててビックリという感情を全身で表現する。視界がうるさい。

 

「あ、ミスった。所属言うの忘れてた!私、特別対応コンシェルジュのシーナです」

「…おい大丈夫かこの酔っ払い」

 

 ゾロが呆れた様に呟くと若干千鳥足のシーナは近付く。

 

「失礼ですね!こう見えても戦闘面に関してはとーっても強いんですから。お尋ね者相手に良く回されるんですよ。全く、目が回ります」

「酔っ払ってんじゃねーかよ」

 

 典型的な酔っ払いの症状だとツッコミを入れる。

 体型はガッシリしている様だが頼りになるようには見えず、大丈夫かと心配した。後このキャラが作られたものだということがよく分かる。

 

 酒の臭いが移りそうな中でリィンが口を開いた。

 

「シーナ、それでまず衣服をそれなりに揃えるしたいのですが」

「お任せ下さい!…あー…道は…右だったか、左だったか」

「……シーナ!ダウンタウンエリアのC地区よ!」

「バカラありがとう助かりました!では、麦わらの一味御一行をダウンタウンエリアのB地区にご案内しま〜す」

「「「「Cだよ!!」」」」

 

 全員が声を揃えた。異様に疲れた様子だ。

 

「あのピコピコなる靴ってよぉ…」

「きっと迷子防止でしょうね」

「つーか絶対だ絶対」

「アイツがコンシェルジュって嘘だろ?嘘だと言ってくれ、あんな奴に案内されたかねーんだが」

 

 バカラがチラチラ不安そうな顔で振り返るのが良い証拠だった、心配で堪らない。

 

「リィンが名前に敬称付けないの珍しいな」

 

 リィンはウソップの単純な疑問に笑顔を見せた。その笑顔を見てウソップの心臓が高く鳴る。

 

 ……何でこんなにドキドキするんだ?

 

 ウソップがその理由を察して顔色を変える。

 

「敬う必要、あります?」

 

 その顔色はとても青かった。

 

「……一生ウソップさんって呼んでください」

「それは、ちょっと」

「おい」

 

 困った様な表情を見せても騙されないからな、と思いながらウソップは少女を睨みつける。大人気ないとは思いながらも、止められなかった。胸の高鳴りは、ただの嫌な予感だった。

 自分を疑わずにコイツを疑え。

 

 心にそんな目標を掲げると胃が痛くなった。

 

 それでは皆さん行っきますよー!と声を上げながらシーナが歩き出した。

 

「ところで皆さんはカジノにどう言ったご要件で?」

「金稼ぎ」

「荒稼ぎ」

「わぁー!碌でもない!」

 

 聞いた割には気にしてなかったのか適当に返した。その態度に呆れながら一行は彼の後ろを歩く。港を抜けるとすぐに石で出来た道があった。

 

「綺麗な舗装ね」

「車道と歩道に別れるしていて良いですよ。あの車速い故に」

 

 一味の横を凄まじい速度で鉄の物体が通り過ぎていく。

 亀車、マッスルガメを用いた車である。

 VIP専用の乗り物である為麦わらの一味は乗れないが、特に興味も関心もないリィンが解説。するとウソップは関心を通り越して呆れた表情で言う。

 

「車道とか、歩道とか、車とか、お前なんでも知ってるよな…もうツッコミするレベルじゃ無ェ」

 

 リィンはそれに対して曖昧な笑みを返す。

 グラン・テゾーロの情報を知ってておかしく無いので誰も疑問に思わなかった。

 

「(もう、記憶が薄れているな)」

 

 彼女には前世の記憶がある。しかしそれは生きていく上で関わっていく必要最低限の物ばかりだった。自分の名前も、家族も、友人も。好きなものや嫌いなものまで分からなかった。他にも覚えていたものはあったが、今では年齢も性別も少々曖昧だ。……濃すぎるこの世界が悪い。

 

「(関わりの無い前世より、波乱万丈の今世を生き抜く事が最重要だよなぁ。言葉は使えるけど)」

 

 そんな無駄な事を考えながら表情を戻す。

 

「私は()()()ですからね」

 

 彼女は転生したこの世界の住人だった。

 

「確かにお前ってだけで大体の説明つくな」

「ゾロさんそれ褒めるすてる?」

「褒めてる褒めてる」

 

 目立ったショーの影響かは不明だが、周囲からいくつか視線を感じながら一行は進む。

 

 そうして目的地であるダウンタウンエリアのC地区に到着したのは1時間歩いた後だった。

 

「やっと着いたぁ…」

 

 目の前の神々しい輝きよりもまず休憩が欲しかった。リィン以外のメンバーが同じ心境に至っている。何故彼女だけが疲れていないかと言うと単純な話、ずっと飛んでいたからである。

 

「体力無いですねー」

「オメーがずるいだけだよ」

 

 仕方ないとばかりに肩を竦めるリィンにイラつくウソップだが、その影でナミがこっそりリィンフォルダの充実を狙って記憶力と網膜をフル稼働させている。

 彼女はどこに出しても恥ずかしい変態へと変貌しているようだ。多分手遅れだろう。

 

「リー、これから何するんだ?」

「服を、買います。カジノにあった服」

「なんでだ?」

「なめられぬようにハッタリぞ。カモと思われるされてはダメ故に」

 

 ルフィの疑問にリィンは嫌な顔せずにハッタリという必要性を必死に説いていく。塵も積もればなんとやら、これで多少はルフィが自分のハッタリに関して理解を深めてくれないかという下心ありだ。無駄だろうが。

 

「それでは男性はコチラ、女性はアチラになります」

「………の、逆の様ですね」

「ま、間違えちゃいました」

 

 テヘッと誰よりも背の高くガタイのいいピエロがファンシーな動きをする。こいつダメだな、と死んだ表情のウソップがため息を吐いた。最近自分の目が死にすぎだと思っているらしい、より一層死んだ目になってしまった。

 ため息やツッコミをし過ぎて体の中から空気が全て抜けないか本気で悩んだ程だ。そのプロさ加減は半端じゃない。

 

「じゃあまた後でね」

 

 リィンを合法的に着飾れる機会を手に入れて一味の変態ナミさんがソワソワしながらターゲットを連れて部屋に入っていくのをみた。元同僚兼現仲間のロビンとビビは互いに目を合わせる。

 

『ちょっ、ナミさん勘弁すて!』

『どうして!?これとかとても似合うわよ!?』

『流石に精神年齢的に素面で耳は無理!無理ですって!』

『じゃあこっち…』

『肉体年齢的に際どい物は着る不可能!アンバランス!』

『こうなったら最高に似合う1着を決めるわよ!』

『タイムイズマネー!!!???』

 

「(…これはダメね)後にしましょうか」

「(これは救出不可能っぽいかも…)そうね、オールサンデーに全面賛成よ」

 

 微かな優しさや同情は、巻き込まれたくないという欲求の前に消えた。誰かを犠牲にこの世は成り立っているのだ。

 

 その判断に泣くのはリィンだが、その少女こそ犠牲を生み出す確率が異様に高いので盛大なブーメランを放つ事になる。自分本位な彼女は恐らく気付かないだろう。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「白か…」

「白ね…」

「白だな」

「白…」

「(んんん?女狐に喧嘩売ってんのかな?)」

 

 基本白の色しかなかったのでそれを渋々着た一味は他のメンバーの服装を見るなりゲンナリとした表情になった。それに引き換えリィンの心は大噴火だ。赤犬サカズキもビックリの熱気だろう。

 

 麦わらの一味は嫌な記憶がある白の衣装に相変わらず嫌な顔だ。

 

「リィンは白くても可愛いわね…今度からひとつなぎの大秘宝(ワンピース)って呼ぶわね」

「ナミさんいい加減自重記憶願い」

 

 段々ナミの扱いが雑になっていくが誰も指摘しなかった。むしろリィンにナミを押し付けた。

 小声で解せぬと呟いているナミ、こちらの方が解せぬ事だと訴えたい。訴えないが。

 

「キャラくそ濃いな…酔いそう」

「酔ってんだよ酔っ払いピエロ」

「シーナですぅ〜〜!」

 

 ボソリと呟いたシーナの言葉にお前の事だろと鋭い指摘をするゾロ。シーナの片手にはどこからか取り出したアルコールの瓶があった。

 

「さてと、稼ぎますかな〜」

 

 軽い口調で言うが運要素の強いギャンブル。勝つには早々の運が必要だ。

 

「そこらには電伝虫が仕掛けられているので金を盗むことはおやめ下さいね〜。それではこちらが目的地のカジノホテル、THE REORO(ザ レオーロ)にございま〜す!」

 

 そんな映像を見ながら一人の男が笑みを深める。面白い玩具を見て一言も声を発せず笑った。

 

 

 

 全長10キロの巨大な船、ガメ・ギガントタートルで動く独立国では独自のルールが存在する。海軍が海賊を狙う事は出来ないがもう一つ知らねばならないルールがある。

 ──騙された方が負けだという事。

 

 

 

  ──2時間後──

 

 

 

「満足でござる」

 

 コの字のソファに体重を預けて脚を組むリィンと、その周囲に満足気な顔をした一味。

 ……まるで女王である。そこらの人間はだいぶ引いており遠巻きにしながら机に幾つも盛られたスーツケースを見ている。

 

「ふふふ…ルーレットは特に得意です故」

 

 巨人が回転する円盤に向けて球を投げ入れ落ちる場所を予想するゲーム。リィンはそれでぼろ勝ちしていた。もちろん彼女が称する不思議色の覇気を用いて。ロビンはポーカー、ゾロやサンジは見聞色を有効活用し闘技場。ナミはブラックジャック、そして意外な事にウソップはスロットで大当たりを連発していた。

 稼げる時にとことん稼ぐ。元泥棒と残念外道が金銭面を牛耳っているので他の一味もやや反則技を使うのに抵抗が無いようだ。本来賭け事に覇気を使うなど興ざめもいい所だが遠慮しなかった。

 

「えぇー………バカラ居ないのになんで荒稼ぎしてるんだコイツら……」

 

 案内人であるシーナでさえ引いた様子。

 

「あー…レインベースで稼ぐべきですたね、失敗」

「クロコダイル可哀想」

「哀れってこういう事を言うんだな」

 

 軍艦での出来事を知っている月組が居たなら涙を流しそうだが今は居ない。哀れむだけだった。

 

「ひー、ふー、みー、よー。うーん、総資産額6億中、3億初期投資でリターンが7億。少し予想外ですたね、少なめです」

「それで少ないのかよ!合計4億儲けてるんだぞ!?」

「4億って…どれくらいだ?」

「そうね…設備を揃えた軍艦が1隻は作れるわ」

 

 そんなにあるのか、とチョッパーが感心する。

 

「ちなみにルフィを含め一味全員の食費に換算すると1ヶ月以下ですね」

 

 …それだけしかないのか、とカルーが鳴いた。

 

「言い過ぎじゃない?」

「………コルボ山4兄妹の間ではその日得るした獲物はその日のうちに消費するが常識です」

「つまり貯めるという考えが無いのね」

 

 神妙な顔で2人が意見を交わす。

 この船の船長は1億あれば宴で殆どを使いそうだと予想を立てる。

 

「もっと稼ぐ所に案内願う。出来れば二択の…丁半などで」

「あるけど…。あ、ミスった。ありますけどVIPルームだし…ま、いいか」

 

 それではご案内しまーす!と足元でピコピコと音を鳴らしながら飛び跳ねるシーナ。

 

「おい、また転…───んだな、学べよ酔っ払い」

 

 後ろに向かって派手に滑り転んだ。麦わらの一味が見ただけでも5回目である。それを多いと取るか少ないと取るか微妙だが酒瓶を離せと言いたい。

 

「VIPルームで荒稼ぎpart2を楽しむし…」

 

──トンッ

 

 リィンがアイテムボックスにコインを全て仕舞い歩き出そうとすると、彼女に1人の男がぶつかった。体の軽いリィンは簡単にバランスを崩し尻餅を付いてしまう。

 

「す、すまん、無事か!?」

「あー…大丈夫ですぞ、体への実害は皆無」

「………………んん??」

 

 不思議な喋り方に疑問を覚えた男。起き上がらせようと伸ばした手は固まった。ついでに顔を上げてマントに隠れた男の顔を見たリィンも固まった。

 

「──なんでこんな所にいるんだ放浪雑用!」

「ド、ドレーク少将ッ! ご、ごめんです!…じゃなくて、私が自ら望み放浪すた様な言い方止めるしてください!」

「その喋り方を直せと一体何度言ったら分かるんだ!」

「ご、ごめんなさいぃ!」

 

 脱兎の如く逃げ出したリィンはすぐさまナミの後ろに隠れた。

 

「逃げるな!隠れるな!」

「無理無理無理無理!真面目さんどこか行くしてどうぞ!」

 

 困惑した一味は壁になった。

 

「………リィンさーん…お知り合いですかな?」

「…X(ディエス)・ドレーク少将。女性慣れせぬ堅物で爬虫類マニア。海軍本部にて私を見る度に口調を直すと怒鳴るしたクソ真面目な将校、ちなみに現在海賊」

「つまり常識人か」

「常識人は!海賊になどなりませぬ!!」

「お前それブーメランなの知ってるか?」

 

「出てこい雑用。海賊になったことを説明してもらおうか」

 

 仁王立ちをしてバツ印の傷が付いた顎が上がる。怒髪天を衝く、という言葉が何よりお似合いだ。リィンはキッと睨み付けて叫んだ。

 

「少将こそその発言矛盾点多しです!卵ぶつけるですぞこの野郎!」

「目上に向かってこの野郎とはどういう神経しているんだ!」

 

「いやなんで卵だよ」

 

 ウソップが虚しくツッコミをした。




文字数がえげつない。
映画見てない方が何人もいるので状況が分かりやすいように頑張りますね〜。でも時間もキャストも映画と全く違うのでオリジナルに近い感じとして見てもらったらと思います。

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