2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第159話 災厄の使い方

 

 ヌケヌケの実という無機物をすり抜けるタナカさんの手によってVIPルームへと足を踏み入れた麦わらの一味一行。

 

 そこには案内人のシーナと、リィンの知り合いであるドレークが一緒に居た。

 

「ホントに、麦わらの一味にはこの馬鹿がとんでもなく迷惑をお掛けして…」

「んぎぎ、迷惑ぶちかけるされたは私の方です。何が嬉しいで七武海…伝説の海賊…ウッ、頭が」

「痛むその頭はさっさと下げろ雑用」

「くそ…成人ギリギリから育てるされた癖に育ての母親に似るしてやがってこの野郎バカ野郎」

「育ての父親に似たお前に言われたくない」

 

 胃が弱い所とか海賊嫌いとか、などと永遠と語るドレークにリィンは胃を痛める。この男、リィンに説教出来る数少ない人間だ。親友と言われるスモーカーはなんだかんだと寛容なので叱った事は一度も無い。

 母代わりである中将とそっくりなのでより一層胃の痛みが増す。

 

「(女狐だと知らない分いい方かな…いややっぱり無理、黒歴史発掘される)」

 

 VIPルームでは丁半博打が行われている。巨人が持っても大きいサイズのサイコロ。その出目を数人の人間が賭け合いをしていた。

 周囲は金の水。しかしその中には生き物の姿があった。生き物の住めない水にどう生息しているのか理解できないが、少なくとも欲望を煮詰めた水でも生きる生物が一部いるという事だ。限りなく一部の生き物こそ、勝者。

 

「大体お前は上下関係を軽く見すぎてい…──聞いているのか?」

「ぼろ儲けって占いでも可能なのですね」

 

 リィンの視線の先には1人の男がタロットカードで占いながら丁半を賭けていた。

 

「半で勝つ確率……12%。丁に1億」

 

 血色の悪い真っ白な肌とどこか細く弱く見える体、そして金に近い茶色の長い髪。それよりもまず先に目がいくのが眉に付いている独特な化粧。

 

「(黒魔術…)」

「(暗黒…)」

「(厨二病…)」

 

 誰かがそんな感想を抱いているのを知らないまま、男は藁で空中に固定されたタロットカードを畳んだ。

 

 丁半の博打には本来(ザル)のツボ皿に入れてサイコロを回す様だが此処ではサイズから違う。ツボ皿が鉄製の鐘であった。

 そこに現れたのはダイス。裏世界一危険と言われたデスマッチショーで無敗を誇ったチャンピオンだった。どうやらディーラーである様子。

 

「勝負!」

 

 鐘を頭で割った。頭がおかしい。強度のことでは無く脳みその事だ。

 出目は3と3。合計が偶数である。

 

「サンゾロの丁!」

「サ、サンゾロですって…!?」

 

 結果は丁。男の勝ちだ。

 ヨロヨロと興奮した様子でビビが口元を押さえているが、一味のコックと剣士はガン無視した。チラチラと視線を寄越してくるが無視をした。レディ大好きのサンジが、特に無視をしていた。

 

「お前すげーな」

「………そんな事は無い」

 

 いつの間にかルフィが男のそばで驚きの声を上げていた。男は変わらない表情と視線だったがルフィに対して返事を返す。

 

「お前らの船長のコミュ力ってどうなってんだ…?」

 

 思わずと言った様子でシーナが呟く。一味も、それはずっと不思議に思っていた。

 

「俺、モンキー・D・ルフィ。お前は?」

「……自己紹介が必要か?」

「バジル・ホーキンス、比較的覚えやすい名前ですたので記憶にあります。懸賞金は2億4900万」

「随分詳しいんだな」

「いつどこで誰が同期(ライバル)になるか不明故」

「俺もお前達を知っている。七武海の一角を潰したのはお前だろ、麦わらのルフィ」

「は!?クロコダイルの1件はスモーカーと大将女狐の仕業じゃないのか!?」

 

 その事実にドレークが慌てた声を出す。張本人のリィンはそういう事になっていたんだったか、と考えていた。別の言い方だと忘れていたのだ。

 

「あーのー…。賭け、しないんですか?」

 

 そろりとシーナが手を上げて指摘する。

 するとリィンがルフィに耳打ちをした。ルフィはキョトンとした表情だったがリィンは自信満々だ。ナミが1人で盛り上がる。リィン至上主義に拍車がかかっている様な気がした。

 

「いいのか?」

「いいのです」

 

 こいつまた何か企んでるな、とウソップだけでなく全員が考えていた。一味は学んだ。

 

「リィン頑張ってね!」

「頑張るものでは無いのですが、まぁ勝ちは狙いませぬよ」

「……ん?勝ちは、狙わない?どういう事?」

「私が狙うものは、儲けです」

 

 巨人がサイコロを回す。そのタイミングでホーキンスも占い始めた。

 

「半が勝つ可能性……ん?」

 

 その結果に首を傾げる。

 

「丁か半か」

 

「私は半に2億」

「じゃあ俺は丁に5億!」

「「「「はぁ!?」」」」

 

 コインとなった7億全てを賭ける2人。しかし2人の意見はバラバラだった。

 

「俺は…丁に1000万」

 

 困惑気味のホーキンスが賭け終わるとダイズが頭で鐘を割る。

 中のサイコロは…──偶数、丁であった。

 

「え、何、何が起こったの?」

 

 消えた2億よりも転がり込んできた10億に困惑するナミ。ホーキンスも勝ったは良いが驚いた目でルフィとリィンを見ていた。

 

「先程占った結果、半が勝つ確率が0%だった」

「あぁ、やはり」

 

 分かっていた、という様子でリィンがコインをアイテムボックスにしまいながら呟く。何が起こったのか分からない様子だが、彼女に1人の女性が近付いた。

 

「Wow!Amazing!素晴らしいですわ!」

 

 港でも見かけたVIP専属コンシェルジュのバカラだった。

 

「ステージショーでの素晴らしい活躍、それに続き大博打。流石超新星(ルーキー)の中で頭角を現しているだけありますわ。このバカラ、感心致しました…」

 

 長身のバカラが黒い手袋を外しリィンの頭に手を置いた。そのまま大人しく撫でられるリィン。目を細め、口角を上げて嬉しそうだ。

 

「こちらこそ、ありがとうございます。大体の能力は把握出来ますたから」

 

 リィンは本当に本当に嬉しそうに笑った。

 何故か背筋が寒くなるバカラ。服を開けすぎているだろうかと考えた。

 

「ルフィもう1度」

「おう」

 

「丁半どっちだ」

 

「丁に1ベリー。勝てやオラァ!」

「半に、んー、まぁいっか、10億!」

「勝負…──サニの半!」

 

 余りにも極端な賭けである。

 2回目にしてようやく分かってきた。

 

 コ イ ツ わ ざ と 負 け て い る 。

 

「なんで…私の能力が効かないなんて…!」

「素手でのみ発動、そして運任せのギャンブル。チュウチュウの実の能力者が死しているなればソレですが、恐らくそちらの下位変換、ラキラキの実ですね。相性が悪いですたな、心から」

 

 手に入れた20億のコインを盗られない様に仕舞ったリィンがドヤ顔でバカラを見る。そのドヤ顔だけは要らないと思う。

 

「堕天使、リィン………………さん」

「さん!?」

「解説を頼む」

 

 さん付けに動揺するウソップを無視してリィンが口を開く。

 

「私、災厄吸収する故に」

「それで理解出来たら天才だ」

「そうですね、簡単に言うすれば私は不運なのですよ。災厄とは不幸な出来事、災い、災難。と、不幸な感じの言葉ばかり……。私が望めばそれは逸れる、だからルフィには私の賭けた所の逆を賭けるして貰いますた」

 

 それに、と付け足す。

 

「幸運のルフィと不運な私が別々に賭けるしたなればもう100%の勝率ですぞり」

 

 恐らく世界で一番極端なコンビであろうと予想する。リィンの逆を賭ける相手がルフィ以外だったなら結果が100%とはならなかっただろう。しかも追い討ちをかけるように幸運を吸い取ったラキラキの実の能力。狙い通りにならない筈が無い。

 

 ラキラキの実、それは世界的にも反則じみた能力であり、触れた相手の運気を吸い取り、アンラッキー状態にすることができる。吸い取った運気を自分にプラスすることで、あらゆる出来事にいい結果をもたらす無敵状態となる。逆も可能だが、バカラやテゾーロはその実の力を使ってグラン・テゾーロを大きくさせて来た。

 

「私の能力は運よ、貴女が負ける事を望んだなら貴女は勝っている筈だった!」

 

 バカラが取り乱した様子で叫ぶ。

 彼女はここで負けさせる事が役目だった。しかし、成功などしなかった。

 

「簡単な話、私が勝つしようと望むしたなれば上手く行くのです」

 

 簡単な話じゃない。

 

「私は思い込みが得意なのですよ。勝つしよう、と思う事程度朝飯前の晩飯後ですぞ」

「それただの睡眠時間」

「鼻は黙る」

 

 そんなやり方で攻略されてはたまったもんじゃない。バカラはショックを受けて固まった。そんな彼女を気にしない男がリィンの頭を叩いた。

 

「口調!」

「そこですか!?」

 

 ドレークは昔からの癖が抜けない様だ。

 標準語を喋れるリィンだが『堕天使リィン』のイメージを強く持たせておきたいが為、口調を直したくとも直せないのだ。そんな事を知らないドレークは口を酸っぱくして何度も言っていた。

 

「えーっと、気になっていたんだがどうしてホーキンスがリィンにさん付けを…?」

 

 ウソップがそろっと気になる事をやっと聞く事が出来た。当の本人に視線が集まる。

 

「なんとなく逆らわない方が良いのと、取り入っておけば損は無いだろうと思った」

 

 ホーキンスは視線を逸らしながら言った。占いなどが得意だからだろうか。しかし藁で空中に固定したタロットカードは使ってなかったが。

 

「初対面で本性見抜かれてるぞお前」

「うーん…否定し切れぬ」

「下僕量産機にでもなるつもりかよ」

「なるほどに説得されたし。それも良い」

「『納得した』だ大馬鹿者」

 

 頭を叩かれたリィンはブスッとした表情で度々修正させてくるドレークを睨む。

 

「敵になるしたなればとことんまで搾取するが私の最近の方針」

「最近だとフォクシー海賊団か…」

「合計6億、絶対キツイよな」

「…………まさか金銭のみとお思いで?」

 

 ウソップが頭を抱えた。

 

「今度は何をやらかした」

「麦わらの一味を離脱しフォクシー所属になるした時にて、砲弾火薬や武器などなどをちょっと」

「ちょっとじゃねーだろ!!」

「仲間が備品使うしても問題無いですよねー!」

「お前の口から出る仲間って安っぽいな!?」

 

 頭を抱えながらもツッコミをサボらないウソップに素晴らしいと感想を送りたかった常識人達。立場以外だが。

 しかしそんな事をする間もなく、拍手の音がVIPルームの入口付近から聞こえた。

 

「あ、テゾーロさん」

 

 シーナの軽い声。

 その場に現れたのはピンクのスーツに身を包んだギルド・テゾーロだった。

 

「いやぁ、実に愉快なショーだったよ、麦わらの一味。それと2人の海賊」

「特に何もしていないんだが」

「謙遜する事は無い、何せタロットカードの占いで大分稼いでいただろう?」

 

 嘘くさい笑みを浮かべたテゾーロ。ホーキンスは嫌そうな顔をして、ドレークは腰に下げた武器を手に取る。勘は鋭くとも経験の浅い麦わらの一味は警戒に留めている様子だ。

 

「テゾーロさん、今回なんとミスの回数10回を切りました!」

「……普段何回ミスしてんだお前」

 

 思わずと言った様子でウソップが呟く。その隣でビビが思考を最大限働かせていた。

 

「(テゾーロは受けか攻めか…いいえ、おそらく略奪系。これを言葉で表現するには……)」

 

 碌でもない事は確かだ。

 

「シーナ様、オーナーに恥をかかせるような真似をしてはいけませんよ」

「タナカさんはホントオーナー好きだな。ちなみに俺、じゃなくて私はテゾーロさん嫌いです!」

「クエッ、クエックエッ」

「お前はキャラがブレブレだから演技やめた方がいいと思うってカルーが言ってるぞ」

 

 テゾーロの隣に立ったタナカさんは呆れた目でシーナを見る。シーナ本人は気にしてないのかピエロの仮面の下から器用に酒を飲んでいた。隣に立っているナミがシーナを見て眉を顰める。

 

 明らかにバカラは敵対の意思を見せた。しかし他の人間がどう出るか分からない以上、彼女の独断か全員の計画か分からない。

 

「あぁ、どうやら警戒されているようですが何も敵対しようと考えているわけではありませんよ。これはショー。バカラのショーを崩した人間は今まで居なかったもので」

 

 ゆっくり階段を降りてテゾーロはリィンの前に立った。リィンは嫌そうに身を下がらせている。

 

「素晴らしいショーだった、実に盛り上がったよ。まぁ私しか居なかったがね。どうだろう、是非握手だけでもしてはくれないだろうか」

 

 リィンは差し出された手を数秒じっと見た後、苦虫を潰した様な顔になった。彼女は迷った結果深くため息を吐いてその手を取る。

 

「待って堕天使ちゃんッ!」

「…え?」

 

 緊迫したロビンの名を呼ぶ声。

 青白い雷の様な光が目に入り思わず目を細めた。

 

 テゾーロの指にハメられていた金の指輪が形を変え、瞬きする程の速度でリィンを拘束する。

 そんな事をされても喜ぶのは変態さんだけである。若干1名の判断が難しい所だが。

 

「まさか…ッ!」

「ショーでもしようじゃないか、海賊達よ」

 

 首、腕、太もも、足首。それらを拘束された上に吊り上げられた高所恐怖症リィンは引き攣った笑みを浮かべて顔を青くさせた。

 

「これ、巻き込まれたな」

「これ以上にないくらい酷い巻き込み事故だ」

「お互い大変だな、バジル・ホーキンス」

「……占いの結果、逃れは出来ない様だな」

「確率は?」

「2%位。大体、自然災害に巻き込まれて遠く離れた四皇の船に乗ってたまたま生きて帰って来れる位の確率だな」

「なるほど、抵抗しても無駄なレベルか」

 

 しかし緊張感の無い声にリィンの目が死んだ。凄く経験した事のある2%だと思いながら。

 

「テゾーロッ、離すし…──ングッ!」

「ルールは簡単、明日の夜中0時までに金が用意できれば良いだけだ」

 

 叫ぶリィンの口は更に黄金で防がれた。鼻呼吸出来るだけ優しい方だが、手荒な方法にリィンは軽くキレている。短気は損気、とお得意の自己暗示しても無駄だった様だ。

 

「お金を用意したらリィンを解放してくれるのね!?」

「もちろん、ルールを破るのはナンセンスだ。金額は──31億」

「高……ッ、そんなのぼったくりよ!」

「いやいや、ショーを盛り上げる為には必要な金額だ。麦わらの一味の持っている金額に、3億3200万ベリーと2億2200万ベリーと2億4900万ベリー。しめて31億…だよなぁ?」

 

 面白そうに笑うテゾーロ、ドレークはそういう事(けんしょうきん)かと冷静に静観し、ホーキンスは気にせずタロットカードを用いて占っている。

 

「リィンちゃん早く逃げてッ!」

 

 ビビの叫びにリィンが泣きそうな顔をする。

 その様子を見ておやっと首を傾げた。……なんだかとても嫌な予感がする。

 

「昔説明されたがアイツの能力は万全の体制でないと集中出来ないらしい。あのパニック状態で発動出来るとは思えない」

 

 ゾロが鯉口をカチャリと切った。

 

「全員ッ、動く禁止!!!!」

「!?」

 

 口の拘束が外れた瞬間リィンは叫ぶ。

 

「能力はゴルゴルの実!私達は既に体に金を浴びるした故にいつでもその金を変化可能!ということはつまりゴルゴルの実、それは覚せ──」

「おっと、これ以上はヒントを与え過ぎだ。まぁ、この国に住む住民なら知っている常識だが」

 

 覚醒という概念が分からない麦わらの一味は更に混乱する。そしてリィンが操れない物─能力者の体の一部─を知らない彼らは頼みの綱であるリィンを真っ先に封じられ困り果てていた。

 

「さーさー、戻った戻った。頑張ってお金稼いでくださいねー」

 

 シーナが出て行くように催促する。

 ちょっと、とナミが文句を言いかけたその時、素の声でシーナが呟いた。

 

「…───力は最大限貸す」

「え…」

 

 それに続くドレークとホーキンス。ただホーキンスはフロアに戻る階段の上でテゾーロを見た。

 

「俺達に死相は見えないが、お前には見えるぞ。新世界の怪物」

 

 死相。

 その単語を聞いてテゾーロは笑みを消した。

 

「それこそ最高のエンターテインメント。俺はこの街に居るだけで、無敵だ。せいぜい足掻いてくれ給え…諸君」

 

 最後に()()のは、我らなのだから。

 




という訳で!最悪の世代(まだそうとは言われてない)ドレークとホーキンス、急遽麦わらの一味と合同作戦開始!
作者、騙し騙されを頑張って考えて書いてるから。頼んだ(何を)

文字数が増える事に増していく誤字の数。自分、これでも5回以上見直しているんですけどね…誤字報告非常に助かります。

ちなみに今回の話で一番書きたかったシーンはサンゾロの丁。

時に来年、2019年の夏にONE PIECE新作映画発表ですね。もちろん見に行きますとも。予想はエース、キミだ。

最近の悩みは後書きが長くなるのとマイナスイオン系読者様が感想欄にて毒されていくことです。

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