リィンを人質に取られ、3つの海賊団は共闘の為麦わらの一味の船に集合していた。
「今回力を貸すのは俺個人だけだ。ドレーク海賊団は使わない」
「同じく」
ドレークの言葉にホーキンスも頷く。
それに待ったをかけたのはウソップだった。
「不満か?」
「いやいやいや、不満じゃねぇ所か大助かりなんだけどよ。だってアンタら2人は2億を優に超えてるし……だからこそ疑問なんだ。これはどこから見てもウチの問題。そりゃ、あの場に居たことには変わらねェが人質はウチのリィンだ」
「あぁ…俺達が干渉して俺達自身にメリットがあるのか、ってことか」
「おう」
腹ごしらえ、とキッチンに顔を合わせた状態だがホーキンスは未だに占いを続けている。しかしその口は開かれた。
「数分前に言った。取り入っておけば損は無いだろうと」
「あぁ……」
ウソップが遠い目をした。まだ精神力の強いゾロが重ねて声をかける。
「確かに俺は海軍支部を潰すことになったが…まぁ、損はしなかったな」
「はい!私も損どころか得しかしてないわ!」
「あの馬鹿は何をやったんだッ!?」
冷静沈着さとは、リィンという存在の前には塵に等しい。風どころか台風だが。
「お前は…」
ホーキンスの視線の先にはドレーク。その視線を感じ取ってあっけらかんと理由を話した。
「妹分を見捨てるのは寝覚めが悪い」
「あ゛…?」
「(あー…)」
「(やるとは思った)」
「(相手は2億だから穏便に頼む…)」
「(地雷踏み抜いたわね…)」
「(やらかしたな…)」
「(予感はしてたわ)」
ルフィの異様に低い声にドレークは警戒した表情で見下ろす。誰も気付いて居ないのが幸いだがホーキンスは一瞬ビクリと肩を震わせていた。
「妹分………?」
どう考えても喧嘩腰。
その疑問に答えようと思い口を開きかけたがそれより前にルフィが言葉を続ける。
「リーは、俺達3人の妹なんだけどなぁ」
「妹?」
「盃を交わした兄妹だ」
ふむ、と顎に手を置いてドレークは考える素振りを見せた。
「随分失礼な事を言ってしまったな、謝ろう」
素直に頭を下げた行動に毒気を抜かれたルフィはいいんだ!と笑って肩を叩いた。内心ヒヤヒヤしていた周囲はホッと息を吐く。
「あー、ドレークつったっけ。蒸し返すようで悪いがなんでリィンちゃんが妹分だって…?」
「育ての親が同じなんだ。俺は母親代わり、アイツは父親代わりに似たがな」
「普通逆じゃねーのか…?」
「へ〜。その父親と母親ってやっぱり海兵?」
サンジが疑問を口に出し、ナミが更に質問を続ける。ナミとて育ての親が海兵だったのだ、気になるのだろう。
「海軍元帥と中将だな」
吹いた。
口から勢いよく飛び出た飲み物が半円を
カルーが窓の外を見ながら「おそときれい」と鳴き始めたので、彼の中では敵に背中を向け綺麗なフォームで逃げ出したのだろう。
多分そろそろ限界である。「キレーだなー」と事態を把握していない人間初心者も呟いた。
「ゲホッ、ゲホッ!か、海軍元帥と中将!?元帥ってそれ、大将よりも上じゃねェか!」
噎せ返ったウソップがいち早く復活し事態の大きさを再認識する。
昔故郷で『
「アイツ一言も義理の親って言ってない…!」
更に衝撃の事実に気付いて頭を押さえる。そう言えば実の親は海賊だった。
「アイツ、実の親が海賊で育ての親が海兵…?」
「海軍のトップが義理の親だったら実の親は海賊のトップだったりしてな」
「いやいやそれはねぇよ、だって海賊王はあいつが生まれる前に死んでるんだぜ?」
「だよな」
「なー」
「「ハッハッハ!……………はァ」」
ウソップとゾロの目が同時に死んだ。
「へぇ、そりゃまたすごーい義理の親ですね〜」
その場に聞こえた別の声。その高めのふざけた口調には聞き覚えがあった。
「シーナ、お前なんでここに…」
「頼りになる助っ人登場ッてねェ」
キッチンの入り口に背を預けたシーナがピコピコ足音を鳴らしてルフィの隣の空いた椅子に座った。いくらシーナがリィンと同じ金色の髪を持っていても大きさが違うので視界がうるさい。
「いつの間に入ってきた…ッ!」
「子供に気取られる程
後ろで結んだ長い髪の毛先をいじくりながらゾロ、サンジ、ホーキンスを順番に見る。覇気の知識はあるようで何より、と笑いながら簡単に覇気習得者を当てて見せたのだ。
なおドレークは見聞色を習得していない。彼は武装色のみだった。元海軍少将にしては実力の劣る部分が否めない。
「このショーの注意点と助けになる情報を落としていこうと思ったんだけど、要ります?」
「欲しいけれど、貴方、敵じゃないの?」
「ハッキリ言いますね〜お姉さん。もちろん敵ですよ敵。ただし、ギルド・テゾーロの、ね」
ロビンの言葉にクスクスと笑いながらシーナが告げる。コロコロと変わる口調と声色に海賊は
「…………俺は、ギルド・テゾーロを討つ。その為にここまで奥深くに入り込んだ。規格外の
「それで協力しようって魂胆か。でも、お前はなんでそんなにテゾーロを恨んでいるんだ?」
シーナはふと力を抜くとそのピエロの仮面を外した。外された仮面は手のひらでクルクルと愉快な動きで遊ばれている。しかし仮面の下に隠されていた目は前髪の隙間から悲しげに細められていた。
「────とある、男の話をしよう。これはあくまでもフィクション、作り物の話だ」
その声は驚く程穏やかな声だった。
「男は極平凡で平和な家庭に生まれた。朝起きて、親の仕事を手伝って、夜に寝る。男はその村で一番腕が立った。だから貧しくても毎食食べれるかギリギリの生活だったけど健康的に育って居たんだ。──戦いが起こるまでは」
「戦い…?」
「いや、一方的な制圧作業だったのかもしれない。あっという間に空を覆う金の雲。そこから零れでる金粉は体に染み込んだ。最初はその男だって感動していたさ、なんと幻想的な気候だろうと」
手の中で遊ばれていた陶器の仮面がバキリと割れる。
「だがその金粉はただの枷だった、体に染み込んだ金は次第に体を固める。男の村人は次々金の像に変えられていった」
まさか、とビビが顔を青くする。
「金粉は私達全員が浴びて……──リィンちゃんが最後、私達に教えてくれた事はこの事…!?」
「この街にはいくつか金の像があるわ、それも精工な物が」
そして残酷な事をロビンが告げると不自然な静寂が辺りを包んだ。聞こえてくるのはスープを煮詰める沸騰音だけ。
嫌な予感はするし、いくつか疑問点もある。
しかしシーナが懐から新しい仮面を取り出し続きを話し始めた。
「村で生き残ったのは男1人だけだった。そんな男の前に現れたのは……そうだな、将来ハゲと仮に置いておくか」
「それはやめろ」
「ハイハイ分かりましたよ、じゃあ神。神とします。その神は男にこう言いました」
ケロッと軽い声を出す。しかし一瞬にして表情が消えてしまった。
「『どうだったかな、希望が絶望に変わる瞬間は』ってよ…」
「…ッ」
「神は村にある金鉱山が目当てだった。だがそれを手に入れるのに村人は邪魔だった、しかし神は採掘途中の山のどこに金が出るのか分からない。だから、だから男は生き残った…!家族も!友人も!仲間も何もかも犠牲にして1人生き残った!」
握りしめた拳から赤く染まった液体が流れる。船医であるチョッパーが医療セットを慌てて持ってこようとするがシーナは無言で制した。
「そして男は憎き神に刃を突き立てる為、道化の仮面を被って深くまで潜りこんだ」
話は終わりだと仮面を着ける。
周囲はなんとも言い難い様子で微妙な表情をしていた。
「──それではこの船の仕組みを説明しま〜す」
そんな海賊達を気にせずカラカラと笑いながらシーナはこの独立国の話に変えた。海賊達はジェットコースターに乗った挙句空までロケットで打ち上げられた感覚だったがこれ以上触れたくも無かったので無理矢理話題チェンジに付き合った。正直精神にキている。
「まずテゾーロの能力から話しましょうか。彼はゴルゴルの実の能力者、しかも覚醒です」
「覚醒…かくせい??」
「あっ、もしかして覚醒まで知らないパターンか。説明めんどくせぇ」
ルフィが首を傾げる姿にあちゃーと天を仰ぐ。仕方ないと口を開いたのはドレークだ。
「悪魔の実には覚醒という上の
「信じた」
「疑う気力すら起きねえ」
「もう疑問は出てこない」
主戦力、通称三強が『リィン』の存在に深く頷く。アレなら知っていてもおかしくない。
「自分以外にも影響を与えたり、回復力が格段に向上したり、と様々だ」
「確かリィンが言うにはテゾーロって…」
「覚醒してますよ〜」
つまり、とシーナが言葉を続ける。
「この国の金全てがテゾーロに繋がってる。衝撃を与えればすぐにバレる…ってワケでーす」
「覚醒って怖いな」
「怖いですよ〜?まぁ、貴方達のどなたが覚醒するか見ているのも愉しそうですね〜」
「愉しそうって、お前なぁ……」
「ま、そういう事で。もしなにかやらかした場合お前らにくっついた金が動きを止める。やるなら一気に叩かねぇと無理だ、って事ですね」
見えない枷にゾクリとする。ビビが自分を抱くようにするとカルーが鳴いた。
「クエーーッ」
「海水とかであの竜みたいに出来ないのか?ってカルーが」
「あ〜、ハイハイ麦わらの一味が入り込んだ時のね。出来るさ、結局は能力だからな。オーナーは普段から『海水と海楼石こそが最強の手段』って言ってます。だからこの船には海水が無い」
その言葉に眉を顰めるドレークとホーキンス。しかし麦わらの一味は希望を見た。
「海楼石は一応能力でのイカサマ防止で椅子の1部にくっついてるけどそれを外すには金に衝撃を与え無いと無理。地下に牢獄があって、そこから通じる更に下に海水を真水に変換する所があるけど…仕組みは分からないだろ、誰も──ってなんでそんな顔してるんだ麦わらの一味」
「それって…………リィンを解放させればお金を払う必要無い上に枷を外せるんじゃない」
ナミが勝利を確信した笑みを浮かべる。
リィンの旧い付き合いであるドレークですら首を傾げている。アイテムボックスと呼んでいる亜空間収納は麦わらの一味しか細かく知らないのだ。至極当然の反応だろう。
「リィンは海水と海楼石を操れる。その最強の手段を、な」
ゾロがニヤリと笑った。
ふとシチューのいい香りが鼻腔をくすぐる。どうやらサンジが調理を終えたようだ。
「腹ごしらえしながら作戦を立てようぜ、毒は入れてない、シーナも食え」
「あーやー…俺飯食ってるから、じゃなくてミスった。私生憎ご飯食べちゃってるんですよ〜」
「いい加減演技やめろよ」
ウソップがシチューを1口食べながらジトリとシーナを見た。シーナはその視線に耐えられなかったのか席を立つ。席を立った事で食べる気は無いのだろうと判断したサンジが注いだ皿をホーキンスの前に置いた。
「毒が入っている可能性──」
「なんつー占いしてやがる」
「──0%。いただきます」
「味わえよ」
ホーキンスがタロットカードを仕舞うと口につける。それ見てドレークも席に座り食べ始めた。
「そういやお前ら2人も能力者なのか?」
「「………
サンジが気になった疑問をぶつけるが2人はそれに答え無かった。しかし意図せず声が揃う。その言葉にサンジは目を輝かせた。
「
「あぁ。懐かしいなこれ。父親も作っていた」
「原料が変わっているからすぐ分かる。まさか同じ出身とは思わなかった」
故郷の味というものがあるのだろう、
「うそつきノーランドって知ってるだろ…?」
手を組み真剣な顔だ。
「愚問だな」
「常識だ」
「ノーランドが、嘘つきじゃなかった…!山のような黄金が実在したんだ!なんと空で!」
「何…!?」
「ノーランドが嘘つきじゃ無いだと!?」
……勝手に盛り上がっている。
「なぁにやってんだアイツら…」
「リィンが捕まっているってのに呑気ね…」
長い髪を縛り直しながらシーナが口を出した。
「絵本の話でこんなに盛り上がれるとか最近の若いヤツスゲェな」
「酔っ払いの親父かよ」
「絵本って分かるのね、アンタも
「いや、あれって
「「「「ごぶフッ」」」」
吹いた。
あの金髪外道の影響その2である。
一番書きたかったのは絵本。
シーナの口調が定まらないのは独り言垢をフォローしてくれているフォロワーさんの独断と偏見(なお同数)
次回作戦って所ですかな。