2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第161話 二重作戦

 

「あら?」

 

 北出身の3人が盛り上がる中、ナミが地面にキラリと光る何かを見つけた。

 

「鍵…?」

 

 手に取ればそれは鍵束。麦わらの一味にはあるはずの無い物だ。あっ、と声が上がる。その声の主はシーナだった。

 

「あーあーミスっちゃった〜。あーあー、落としちゃった〜。酔っ払って手元が狂ってミスしまくるシーナ痛恨のミス〜!」

 

 ピコピコと音を鳴らしながらシーナは扉へと向かった。声は少々所かかなり態とらしい。

 

「……換金の保管庫の鍵と海楼石で出来た特別な牢獄の鍵。落としちゃった〜!ミスったな〜!」

「特別な牢獄って、まさかリィンちゃんの!?」

「あーあー。ミスミス。でも仕方ないよねぇ、私ってよぉくミスしてしまいますもん。テゾーロさんだって分かっていますよね〜!報告するのを忘れてしまうミスを犯しても、仕方ないよね、シーナなら!うんうん!」

 

 ……こいつ普段から態とミスしてたのか?

 声にならない驚きが室内を駆ける。

 

 シーナは酔っ払いの様にフラフラしながら部屋を出る。しかし振り返って一言呟いた。

 

「──重要なのはどう騙されるか、そして希望を絶望に変えるか。ショーの主役はお前らだ」

 

 独特な鼓舞だな、などと思っていたらシーナの姿が一瞬にして消えてしまった。なるほど、新世界の怪物の首を狙っているだけある。

 

「騙されるか、ね」

「それってつまり…敵の思い通りに策が運んだと思わせて裏をかくか、って事だと思うわ」

「敵の思い通り……そこから難題じゃねーかよ」

「裏をかくってリィンの得意技だよな」

 

 ふとウソップが思い付く。

 

「テゾーロはエンターテイナーで、ショーを楽しむんだろ?それって俺達監視されないか?街の至る所にあるって言う電伝虫で」

「「「あー……」」」

 

 されるわね、されるな、されるだろう、などと同意の声が聞こえる。

 

「見られてるなら見られてるでいいじゃねーか」

 

 ルフィがあっけらかんと言い放つ。なんの問題があるんだと言いたげな態度だ。

 周囲から何言ってんだバカと非難の声が上がる。しかしその既視感にビビが呟いた。

 

「採用…」

「「「「え?」」」」

 

 そのやり取りに一味全員が思い出した。

 ナバロンにて、黄金を取り返す時にどうするかと悩んでいた時だ。ルフィは『聞けばいい』という簡単な作戦を提案しリィンが採用したのだ。

 

 あの時はほぼ全員が『は?』と声を揃えたが、この扱いの差は普段の評価だと思う。

 

「あ、採用って言っても私は何もいい案浮かんでないのよ?だけどリィンちゃんならちょっとした言葉から作戦を作りそうだなって…」

「ルフィは野生の勘で本質的な所当てるから馬鹿にならないな…」

「うん、いいかも」

「なら私が作戦を立ててもいいかしら…?」

「ロビンが?いける?」

「えぇ、そこの2人の船長さんに協力してもらったら恐らく。二重にしてみたらいけるわ」

「二重作戦、って事か」

 

 リィンが人質に取られ約2時間。

 彼女に考え方が似たロビンがニコリと笑った。

 

 

 ==========

 

 

 

 暗い部屋。

 驚く程に静かな部屋。

 

 音はただ一つ。

 

「(ダメだ、お腹空いた)」

 

 人質の腹の音だ。

 

「(逃げるか)」

 

 お腹が空きすぎてイライラしだしたリィンはついに脱出を決意する。彼女は逃げるのにタイミングが重要だと再三思っていた。

 

 黄金から逃げ出す方法は2つ。

 それは能力を無効化出来る海と似た性質を持つ海楼石。能力者ではないリィンはこの2つを集中すれば操る事が出来る。常人よりかなりある集中力でなせる技。それが彼女の誇れる物だ。

 

 海水は面積が多い。面積が多い分無力化という観点では少々だと効きにくかったり、海の中でも超人系(パラミシア)の能力を完璧無効化する事が出来ない。

 それに対して海楼石は少量で海水を圧縮させた効果を発揮する。しかし固体故に面積は狭く、此度の金粉を取り除くには向かないのだ。

 

 本来の彼女なら無機物を操れる事が出来る。何故無機物か、と問われれば潜在意識としか答えようが無いだろうが、そういうものなのだと思い込んでしまった今、リィンが1人で覆すのは不可能だ。何より思い込みが強く影響する。

 黄金を操る事だって可能だ。しかしそれは生きていないもの。覚醒し、体の一部となった黄金は無機物にカテゴリー分けされない。

 

「(面倒臭いなぁ)」

 

 敵の多い、テゾーロが目の前にいる状態で逃げ出すわけにはいかない、人知れず逃げるのが最適だろう。そう踏んだリィンは落ち着いた雰囲気で海楼石を取り出した。服の中にも仕込んでいるが体が固定されてあるので無駄だった。

 

 海楼石が黄金に触れた所からすぐにドロッと溶け出した。

 

「うわっ!」

 

 身長の3倍程高い所で固定されて居たのでリィンはバランスをあっという間に崩した。

 

「っと、とと」

 

 予感はしていたのかすぐに箒を取り出して空中に留まる。ホッ、と息を吐くと青白い光と音がリィンに襲いかかった。

 再び黄金に捕えられる。ガラの悪い舌打ちをするとガチャリという低い音と共に扉から光が入ってきた。その場に立っているのはギルド・テゾーロ。リィンはボソッと呟いた。

 

「……感覚が伝わりますたか」

「あぁ」

 

 テゾーロの秘書であるバカラも彼の後ろに控える。逆光のせいで彼らの表情が見えなかった。

 

「随分と、手荒では無きですかねぇ」

「いやぁすまないすまない」

 

 心にもない謝罪。

 リィンの機嫌は過去最高に悪くなる。

 

 なお、その態度にバカラがギャップで怯えたが特出すべきでは無い些細な事だろう。

 血は繋がらずとも兄妹は似るものだ。

 

「何の用」

 

 ピリッとした空気を感じ取りバカラが後ずさる。しかしテゾーロは顔に笑顔を浮かべたまま。

 

「取り引きをしないかと思いましてね」

「取り引きィ?」

「何、簡単な話だ。大人しくしてもらいたいだけだよ。海楼石なんかで逃げ出さずにね」

 

 黄金を操りテゾーロはリィンを引き寄せる。耳元に口を近付けて小さく1つの単語を呟いた。

 

「…………………女狐」

「……テゾーロ、まさかッ!」

 

 リィンが目を見開いて顔を上げるとようやくテゾーロの表情が確認出来た。とても楽しそうに、子供のように笑っているのだ。

 

「フ…ハハハ…、アーッハッハッハッハッ!!」

 

 すると腹を抱え盛大に笑い始める。

 

「最高だ、最高だ!知っているか、ここには色んなものが集まる!様々な人間も!種族も!物も!情報だって簡単に集まる!」

「理解しているぞ」

「キミは聡い。故に、言葉の意味が分かる筈だ」

 

 『女狐とバラされたく無いだろう?』

 

「これぞエンターテインメンツッ!ワクワクしないか!?えぇ!?」

 

 リィンは表情を消した。

 

「騙すのは得意なんだ。絶望に変えることも」

 

 笑い終えたテゾーロは再び近くまで寄る。そしてリィンの顎を上げ、視線を合わせた。

 

「(世の中の夢見るお嬢さん、聞こえますか。顎クイは胸きゅんなんかしません。普通に怖いです)」

 

 表情を消したリィンの心の内は悟られまい。

 

「今必死になって頑張っている麦わらの一味を騙したいんだ。素直に手の平の上で踊ってくれ」

「私が、テゾーロに、踊らされる? 冗談では無きぞ、貴様の、()が、高過ぎる」

「おお、こわいこわい。──なぁ、楽しもうじゃないか。彼らの希望が絶望に変わる瞬間を!そして絶対的な力の前に絶望する表情をッ!!」

 

 その言葉にリィンは思わずゾクリと背筋を震わせた。

 

「(テゾーロ様凄く楽しそう。だけど怖い)」

 

 バカラが数歩距離を取って遠い目をしていたが2人は気付かない。

 リィンは目を閉じて何も言わないままだった。

 

「そうか…」

 

 その様子にテゾーロは背を向けた。月や太陽の光なんて入らない窓も何も無い部屋、そこに敷かれた血を吸ったように赤い絨毯の上を歩く。

 

「この国は役者に白の服を着せる」

「その様ですね」

「白は何もかも映す、様々な色を目立たせる」

 

 振り返り再び視線が合わさった。

 

「赤いドレスと金のドレス……キミはどちらがお好みかな?」

「……赤は、嫌ですね」

「なるほど、では金で白のドレスを彩ろう。フィナーレに相応しい色だ」

 

 優しく希望を叶える。そんな言葉を交わしながらテゾーロは今度こそ去ろうと踵を返した。

 

 

「──最後に笑うのは、私達です」

 

 新世界の怪物の背後で、金が笑った。

 

 閉じられた扉の外で明るい光を浴びながら、怪物もまた笑っていた。




次回決着が着きますかね。恐らく明日か明後日に投稿します。予定では視点というか状況の場所がコロコロ変わるかも。
いやぁ、九月以内に終わりそうですね、グラン・テゾーロ編。
シーナのカッコイイセリフを考えるだけでオラワクワクすっぞ。

最近気になっていることは物理。化学関係もっと深くまで勉強しておくんだったと後悔中。
金って重いし軟らかいんですけど硬度は低いらしいですね。調べれば調べるだけネタが増える…ふへへへ…。金、金かぁ。あーー、漢委奴国王印しか出てこねーー!!クソー!日本史ッ!

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