「……」
何故か遠い目をするシャンクスさん。
「なぁリィン。お前、本当にこの道歩いて来たのか?」
「事実と思われるぞ」
「………これ子供の足じゃ1晩かかるぞ……………」
ボソリと呟かれた言葉に思わず手に持ってたエースとサボへのお土産を落としてしまった──ちなみにお金はヤソップさん持ち──。
「じ、事実!?」
「あぁ、事実だ事実」
「私は騙すされて…!?」
誰も騙した覚えはないと思うが私は騙された感じなんだ、黙っていてくれたまえ。
「そういや、ルフィとリィンは兄妹なのにどうして別に暮らしてるんだ?」
「えっと、ガープのジジぞ、私およそ拾われるしたぞり。よって、私山賊に成長促され、別の兄とぞ過ごすしてるぞ」
「え……、っと、……──つまり、ルフィとリィンは義理の兄妹で、ガープに拾われたお前は同じ境遇の兄と山賊に育てられてる……、で合ってるか?」
「大まか正解ぞろり。しかしながらその事実、ルフィはご存知ないぞ。黙秘ぞ黙秘!」
「黙認じゃ…いや、それ以前に内緒って言えばいいじゃないか」
私の落とした荷物を拾うと私に預け、今度は私を拾い上げた。え、私を?落し物なの!?私って落し物!?
「リィン………逃げるぞ!!」
「──グオオオオオ!!!」
「ぴぎゃぁぁあああああああああ!!!」
虎が追いかけてきた。
こんばんはいつかの虎さん!崖から落としてごめんね!?どんだけ恨んでるの!?私食べてもお肉少ないから美味しく無いよ!?
「シ、シャンク!シャンクヒュしゃぁーん!!」
「舌噛むぞ!黙ってろ!」
「あい!!」
黙ってろと言われたのですぐさま黙るといきなりスピードが早くなる。速っ、速いっ!ちょ、ちょっと待って貴方ほんとに人間!?
「だぁあ!しつこい!!リィンお前絶対この虎になんかしただろ!」
正解です!お見事!
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「ゼェ…ゼェ…」
「あの、シャンクスさん…大丈夫、ぞろ?」
「あ、ああ……ぁぁ……」
何とか逃げ延びた私とシャンクスさん。シャンクスさんは体力を使い息切れをしている。分かります。大変ですよね。特に慣れない山道だと。
「しかしながらこれで距離稼ぎれたじょりん!」
「鬼か…っ!」
鬼と言うのはこんなにも優しいもの何でしょうか。リィンとっても不思議。
「あと残り少しなる距離とぞ思考中なるじょりんぞ、ご迷惑面倒脳みそにぶっかけるぞ」
「お前の言葉はどこまで暴走すれば気が済むんだ!?」
「推定宇宙ぞ」
私の中では標準語なんです。あんまり気にしないでやって下さい。
「つまり訂正は不可能に近いんだな………」
うるせえやい。
もうそろそろ直さないといけないのは分かっちゃいるんだけど、ギリギリ伝わるし。エースとサボはちゃんと会話してくれるし時々訂正飛んでくるけど、なんか半分諦めが見えるし。なので現状維持の状態を保っているのです。
もうここまでくれば単語で話すとか?
「足 疲労 休憩」とか。うん、こっちの方がきっとわかりやすい。寡黙キャラ貫こうかなぁ。無理かなぁ…、無理だな。
「お前は走ってないだろ!?」
「………今口漏れるぞするした?」
「あぁ。したぞ。あと微妙に違うからな、その言い方」
考えてるだけだと思ってたが、どうやら口に出してしまった模様。別に私は足が疲れてるわけじゃ無いんだよなー……心は疲弊してるけども。
「ほれ、お前の家行くぞ」
再び担ぎ挙げられ肩に乗る。
楽だけど、楽なんだけどっ、これお尻痛い!伝わる振動が全てお尻にっ!痛いんですよ!?
「──エース、か?」
「!?」
唐突にシャンクスさんが呟いたのを聞いて、思わず目を見開いた。
はい?今なんと?
「お前の言っていた『海賊王の子供』はエースか?」
「な、に……ゆえ」
そう言うとこちらに視線だけを向け、シャンクスさんの発した言葉が正解なのだと察した様だ。
「……当たりか…。ゴール・D・エースって所か?」
「ごーる、でぃー?」
「ん?知らないのか。まぁいいさ」
いや、良くないです。あの、ひょっとしてエースのストーカーか何かですか??
お願い目を覚まして。エースは
ねぇ神様堕天使様!この世界に未成年保護法的なものはございますか!?
「おい。今凄い失礼な勘違いしてないか?」
「無い」
「ふーん………。まぁとにかくそのエースに会わせてくれないか?」
エース、逃げろ。
「知り合いから伝言があるんだ」
やっぱり逃げんでよろしい。
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「遅い」
「うん遅いね」
「もう夜だぞ」
「うん夜だね」
「リーは何してる」
「馬鹿だけど無知ではないから大丈夫だと思うけど…」
「「心配だ……」」
リィンがシャンクスに荷物よろしく運ばれている最中、この
──いつものことではあるが家に残ると言っていたリィンを置いて森に行ったのが悪かったのか…。
今度は無理やりにでも連れていくべきか、とリィンが聞いたら発狂する様な事を考えているエースを尻目に、サボはやはり心配なのか外に出ようとした。
「サボ?」
「やっぱり探した方がいいと思うんだ。猛獣が出た時リーが1人で対処できるとは思えない」
「でもリーは悪魔の実が……」
「それでも、だ」
サボは妹と過ごして他人の実力や現状などを客観的に見る目を養う事が出来た。
リーは確かに強いかもしれない。でも根性は正直皆無。本当に強いのなら共に森に行く事くらい容易だろう。
──猛獣を避けてるんだ……あの子は。だから今日は何かあったに違いない。
ここでリィンがいたらツッコムに違いない『お前ほんとに9歳か!?』と。
もっと珍妙な言い方になるに決まっているが。
「リー!何処だー!」
「リー!出ておいでー!」
森に出ると、獣に気づかれる事など恐れずに2人はリィンを呼ぶ。
今日は不幸な事に月が欠けていて周りが一段と暗い。コケないよう、リィンを見逃さないように注意しながら歩き回る。夜の森は危険だ、エースとサボの2人も分かっているらしく、離れて探す真似をしようとしなかった。
「チッ、どこに行ったんだよ…」
エースの苛立った声がサボの耳に届く。冬の近いこの季節では空気が住んでいて届きやすかった。それが幸と不幸、どちらに傾くのかは知らないが。
「……──とかぞ…───んだ…」
聞き覚えのある声が聞こえた。2人は顔を見合わせるとその声が聞こえた方向に向かって走った。
「リー……っ!?」
1人じゃない。
瞬時に気付いた。
リィンが誰かに抱えられている。
「リーを離せ!!」
「…っ!人攫いか!リー!逃げろ!」
「はれ?」
リィンが脳天気な声をあげると、エースとサボの2人はリィンを抱えてる男に向かって攻撃を仕掛けた。
「ちょ、ま、っおい!」
「くっ!しぶとい!」
「エース気をつけろ!手強いぞ!」
「分かってる!」
「ふぎゃぁぁあ!!あぶっ、あぶなっ!まっ!」
担がれているリィンは突然の動きに付いてこれず叫び声をあげる。
「お、おいお前ら!話を!きっ、けっての!」
「人攫いの話なんか聞いてられるか…っ!!」
「……っ、人攫いじゃねぇっての!」
リィンを抱えた男、シャンクスは思ったよりしぶとくウザイ攻撃にどうするかと悩んでいた。
「(下手に傷つけることも出来ねぇし何よりリィンに衝撃がいく……っ、どうするか…)」
相手より体の小ささを生かしてちょこまかと飛び回る2人に手も足も出ない状況になっていた。
「さっさとリーを離せ…っ!おれの、俺たちの妹だぞ!!離せぇぇえええ!!」
──ドクンッ
「っ!」
「!?」
「?」
エースが叫ぶと──風が動いた。
「(まさか…開花しやがったのか!?)」
「(なんだ、今の風…………!?)」
「(寒気?クラクラする…)」
三者三様、シャンクス以外は気付いていまいが覇王色の覇気が今顔を覗かせた。
今にも飛びかかろうと気迫を増すエース。
さてどうするべきか、覇王色で対抗してもいいがそれだと〝伝言〟を伝えることが困難になる。
「エース…」
「っ!リー!」
「ひとまず停止ぞ」
肩から降りたリィンはエースの胸ぐらを掴むとフェヒター直伝の背負い投げを炸裂させた。
「「え?」」
エースとサボのやる気を削がれた声が闇夜に響く。その後沈黙が辺りを支配し、梟の鳴き声だけが聴こえた。
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「わ、悪かったよ………いきなり疑いなんかしちまって……」
「いや、こっちこそ紛らわしい真似をしててすまなかった…」
そもそも最初に私が誤解を解けば良かったのか、と3人が頭を下げ合ってる姿を見て思った。
「───さて、話を変えさせてもらう。俺はシャンクス、しがない海賊だ。お前さんがエースだな?」
「あぁ、そうだ」
「伝言があってお前に伝えに来た」
「………伝言だァ?」
エースの目が鋭く光った。確か聞いた話ではエースは私がここに来た時よりずっと幼い頃にコルボ山に預けられたらしい。
そうなると伝言というのはガープのジジか、それとも親辺りか。
「安心しろ、ガープ中将でも無ェしお前の両親に関係する事でも無ェよ」
両手の平を見せて、まぁお手上げ状態のポーズを取ると一安心したのか警戒した空気が四散した。
そんなに地雷なのか。君の両親の話は。それよりも自分の両親にどんな繋がりがあるのか疑問に思おうね。
「俺の尊敬する人が言ったんだよ。……どうして俺に託したのかわからないがな」
「で、その伝言とぞなるものは?」
「……『ティーチに注意しろ、特に悪魔の実が奴の身近に現れた時に』だ、そうだ。ちなみに俺からも言っておく。奴は危険だ、注意しとけよ」
目の傷が気になるのかシャンクスさんは1度摩ると、エースは何か察したようにコクリと頷いた。
「その伝言誰からなんだ?」
サボがもっともな疑問を口に出した。確かに私も気になる所ではあるな。
「あ〜〜…ん〜、と、そうだな……。ま、内緒だ」
「教えてくんねぇのか」
「時期が来たら教えてやる。いつか海へ出たら俺のところに来たらいいさ……」
悪い大人だなあ。
「シャンクスさん、悪魔の実とぞなるものは何じょーましょ?」
「海に嫌われる…まぁ、カナヅチだな。それになる代わりに人間とは思えない力を手に入れる事ができる実のことだ。それを食べると能力者になるんだよ」
私の疑問に答えてくれる。なにそれとっても面倒くさそう。
そう思っているとサボから爆弾が落とされた。しかも核爆弾並の威力。
「だからリーは水辺に近寄らない様にな?」
「は!?お前能力者だったのか!?」
「そちら事実!?」
能力者!?能力者なの!?私!?ええ!?……でも実かぁ、そんなもの食べた覚えも何も無いぞ?まぁ嫌われるってのがカナヅチになって泳げない以上水辺に近づくのは止めておこう。うん。懸命な判断だ。
「驚きの新事実…」
「お前どんだけ異質なんだよ…───ま、俺の用事は終了だ」
そういうとシャンクスさんは立ち上がり私達3人を見下ろした。
「またな、ガキ共」
そう言って踵を返しフーシャ村に戻ろうとした、が何かを思いついてこちらを振り返った。
「──そうだ、リィン。お前誰に剣を習ったんだ……?」
「っ!?な、にゆえその事実を!?」
「ガキにしちゃ手にコブ付けすぎなんだよ。強くなるのは構わないがお前は女なんだ、気ぃつけろよ」
私出来ればサボりたいんですけど。
「それじゃあな」
今度こそ踵を返して去っていた。その背中を見送るとサボに肩を掴まれた。
「さてリー……。遅くなった理由を説明してもらおうか」
「サボ…さん?目ぞ笑み皆無ぞ…?」
目が笑ってないんですけど。口角上がってるのに目がまったく笑ってないんですけど。え、サボ怖い。
とりあえず初めて村に行き、もう一度常識という項目について深く考えないといけない気がしました。