「レモーーンッ!人手を手に入れた!」
「うそでしょ!?」
「その代わり青雉逃がして仕事が増えた」
「うそでしょ……」
「やるぞ、今日こそ睡眠時間を確保するんだ」
「う、うそでしょ…?」
よく『うそでしょ』でこんなにも感情が表せるものだと新入りの
「そいつらが人手か?」
彼の正面で仕事をしている
「あちしはベンサム。能力者よう。女狐ちゃんが心友なの、だからコッチに連れてこられたって感じなのよぅ。……思ってたより死屍累々だけど」
「……パレット、よろしく」
「いい子だから安心してね〜ぃ」
「あたしはレモン、よろしく」
「私はツキって言うんだ。皆からオカンって呼ばれてるけどね…」
「俺はナインだ。ちなみに王様」
「「「ニセキング」」」
「随分仲良じゃなーい?」
ベンサムが楽しそうに笑う。
新しい職場の雰囲気が楽しそうだと思ったのだろう。彼らの元々の職場は失敗すれば即死亡の理不尽極まりない場所だったのだ、馴れ合いすら無かった。
「前の職場が大変だったから楽しみねい」
「俺達も前の職場は酷かったさ、まぁここは給料も働いた分きちんと入ってくるし上は打診してくれるしノルマこなせば待遇は良好だ」
元職場が同じだと知らないが故にお互いに同情していた。
「女狐隊には2つ種類があるんだ」
「……それが向かいの部屋?」
「パレットは賢いな…」
パレットは戦闘能力が低い。それはオフィサーエージェントの中ではもちろんだがそれより下のフロンティアエージェントよりも、だ。
しかし、それでもMr.3のパートナーの地位に居たのは非能力者でも心理を操れる色彩感覚持ち主だけでは無い。勝利に執着するMr.3の真の頭脳となっていたからだ。
自分の為にと集めた能力達が、今やリィンの元へとぶんどられているのだから不憫なものだ。
「こっちの部屋は『大将』が飼い主。向こうの部屋は『女狐』が飼い主だ」
「……つまり?」
「ハッキリ言っておく。俺たちは『リィン』って名前の人間の部下であり、向こうは『女狐』って名前の部下だ。女狐派って言って部屋に入らない部下もいるけどそこら辺は割愛する」
女狐の部下、という物にはいくつか種類が存在する。
ボム達にとって先輩─コビーやヘルメッポ─達はあくまでも女狐に従っている。つまり、直属の部下であっても手駒ではない。
それに反してボム達はリィンという人間に従っている。それは、海軍を裏切ってでも手足になるという事だ。
そこに明確な区別は無い。しかしお互い暗黙の線引きがされている。
スモーカーの様な存在は、あくまでも所属や派閥というだけであってそれぞれが独立している。
謎が多いからこそ、内部が複雑なのだ。
他の大将と比べ、女狐リィン自体が海軍を裏切らない保証は無いのだから。
「ならあちしはこっちね」
「……私も」
考える素振りも無く2人は結論を出す。
説明をしていたボムはその結論の速さに思わず拍子抜けになっていた。
「あちしは心友よ、リィンの為に動くの。女狐なんで知ったこっちゃないわよーう!」
「……私は別にリィンって人間に執着してない」
パレットは「でも…」と続けた。
「『女狐』より『リィン』の方が怖いから」
「「「「あーー…」」」」
4人が思わず声を揃えた。
ごもっともだ。噂よりも実害のある伝に関してはリィンの方があるので、どうしてもそちらの方が恐ろしく思うだろう。それを本能で感じ取れるのだ、この6人は。
大将、とすると戦力に見劣りしてしまう。
だがそれ以外の要因が働いていると察するのは簡単だった。
「ちなみに先輩達も俺のもお前達のも、過去についての詮索は一切無しだ」
「先輩って?」
「1桁しか居ないけど一部がサボる。するとコッチに仕事が回る。死ぬしかない」
「…頑張ってるのね、お疲れ様」
流石に哀れんだ。目の下のクマは印象的だ。
「邪魔するぜ女狐隊!」
「お邪魔しまーす」
「おいこら!せめてノックはしろ!」
ズカズカと流れ込む様に入り込んできた人間に流石に驚く。言わば裏切りの話をしていたのだ。
「あ、さっきの出戻り海兵」
「言い方」
月組だ。
彼らと顔を突き合わせていたボムが存在を思い出す。
「よぉ、アンタらがリ…──女狐の部下?」
「あ、デクス君。名前全員知ってるわよう」
「じゃあ遠慮なく。アンタらが噂の女狐隊でリィンちゃんの部下?」
答えなど分かりきっている筈なのにデクスは聞いた。その笑みは楽しそうだ。
「僕達は月組。元第一雑用部屋のメンバーなのでそう呼ばれています」
「元第一雑用部屋は、リィンちゃんの表の住処」
「前まで表立って出なかった女狐隊が急に出てきたもんだから気になってきたんだ」
口々に、だがわかりやすい様1人ずつ話す月組をリーダー格のグレンが一旦止める。
「俺達は一等兵って立場だけど海軍本部内じゃ一目置かれているんだ。…どっかの阿呆のせいで」
「ライザップさんもしかして俺の事?」
「俺は!グレン!」
「「「「そいつか」」」」
頭痛がするのかグレンは頭を押さえる。
「幸い、スモーカーさんはリィンに関して寛容だったりする。で、だな」
ニヤリと笑って告げた。
「仕事を手伝ってやろうかと」
「「「「神がいた!!!」」」」
女狐隊の海兵達はちょくちょく月組と顔を突き合わせる事になる。
振り回される立場で、同一人物の助けになりたいと思っている者同士仲良くなるのは極自然なことだった。
「……アンタ達は『堕天使』と『女狐』だとどっちの味方をする?その、将来的な話…」
「ん、あー、あぁ。簡単だな」
「「「「「両方」」」」」
「両方? もし、堕天使が海軍を裏切ったら女狐は…」
月組は理解者だ。
一番共にいた時間が長い。
心を打ち明けた瞬間、秘密は守秘義務があるので理解できなかったが性格や考えに理解がある。
「お前らの心配する事にはならねぇよ」
グレンは書類を渡しながら代表して言う。
「リィンは海軍を裏切らない。そりゃ、利用するかもしれないけど、前にアイツに言った事あるんだ。『全てを捨てて堕ちていくとは微塵も思ってない』ってさ」
「それ、キミが言っただけじゃない」
「そう、俺が言ったんだ。『リィンを理解した月組の中で最も冷静な俺』がな」
ポツリと言葉をこぼす。
「暗殺者でも敵でも命は取らない。最後まで利用する。アイツは鬼畜外道な小心者だ、敵を遠慮なくやるが殺りは出来ない。最も、それが酷い結果に繋がってしまうんだがな」
「………うん、殺した方がマシな目か」
「敵でも殺せないから、今まで海軍の中で手に入れた物を裏切れる筈が無い」
絶対にそうだ、と言いきれる自信がある。
なぜなら月組は最大の理解者だから。
「その上欲張りだ。海軍本部内での立場を捨てないし、センゴクさんを敵に回す程愚かな事はしないと思うぜ?」
リィンが海軍に留まることで手に出来るメリットは実は結構少ない。
彼女には麦わらの一味という住処があるし世界を転々と巡ることが出来る手段と伝もある。その上彼らは知らないが『
情報が巡らなくても、手に出来る手段はある。
10年という月日はそれだけの事を作れた。
そのメリットの少ない海軍。
裏切れないのはそこで手に入れた人間を捨てるほど冷酷になれないから。
「(絆す絆す言ってたけど、絆されてんのはアイツの方だよなぁ…)」
月組は理解者。リィンが自分で気付けない事でさえ理解してしまう。
上層部の人間を絆して利用していると思っているリィンだが、実際絆され利用されているのは彼女だ。『リィンが利用している』?全く逆、上はそれに気付いて『リィンを利用している』のだ。
企みを手に取り、それを使いリィンを捉える。
上に居座る古狸はさぞかし愉快だっただろう。
自分を使おうと擦り寄る小さな狐を逆に化かして自分の手元に置くのだから。
「(狐は狸に敵わない)」
狐七化け狸八化け、とはよく言う物だ。
狐より狸の方が化かすのが得意。まさにその通りだとしみじみと思う。
「……ま、それを分かって黙ってるけどな」
正義の組織にいてデメリットは無い。
それだけで十分だ。
「──なんでそこまで理解出来るんだ」
ナインが悔しそうに口を開く。
「リィンが性格を隠す事を辞めたからだ」
「大変だったな…」
「そうだな……第一雑用部屋最大の事件だった」
「アレは怖かった…」
その時を思い返しているのか部屋の中にいる者達が口々に声を出す。
「アレ?」
「──第一雑用部屋襲撃事件」
災厄吸収能力は昔から元気いっぱいだった。
DMとかメッセージボックスなどで展開予想されても大概はネタ潰しにならない様にネタを考えているから作者は結構平気。
ですが他作品に他作品ネタの感想は持ち込まないでくださーーーい。その作品にしか居ない読者様いるからね。人の地雷がどこに埋まっているか分からないのでほんっっと気を付けて。
あと運対気を付けてよ、まじで。感想書くスペースの下に青い文字で感想を投稿する際のガイドラインってあるからきちんと読む!分かったな!よっしゃ聞こえない!