2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第169話 ですよね

 海軍本部マリンフォードに突如起こった凶悪犯罪者の護送船からの脱走。その話は瞬く間に広がってしまった。

 必要の無い人間にまで。

 

 大将に?元帥に?それとも守るべき市民に?

 

 いや、違う。

 

「止まれそこのお前」

 

 走る月組やレイ達を引き止めたのはガリガリにやせ細った貧相な身体と不機嫌な顔をした男。

 

「私は監察官のシェパード中佐である!」

 

 マリンフォードからナバロンに出向く途中の監察官だった。

 

「この騒ぎは一体何事だァ…?」

 

 止められたのは包帯海兵とMr.5(ボム)ペア、月組のジョーダン。そして唯一の将校で少佐であるレイ。しかし彼とて階級は下だ。しかも監察官とは分が悪い。

 

「か、海賊が脱走しました!」

「脱走だとォ?」

 

 シェパードは訝しげに眉を顰める。

 敬礼をして告げたレイはこっそり能力を発動させることにした。

 

「(〝雲の糸〟…!)」

 

 体から目に見えないほど細い雲が張り巡らされる。その細い雲はレイの体力を削りながらマリンフォード全体を探していた。

 

 クモクモの実の気象人間。

 レイは体力を削りながら自分の体を雲に変え、雲を発生させ、天候をも操る。

 

 青い海に住む誰より優れた『雲の知識』がその力を最大限に引き出していた。

 

「ハッ、海軍本部も落ちたものだな」

「〝千両道化〟のバギーはバラバラの実の能力者です。しかもずる賢い。おそらく能力を秘匿していたと思われます」

 

 1度バギーと対峙した事のある月組。ローグタウンで捕らえることが出来たのだが、その能力に気付かず取り逃してしまった経験を持っていた。

 『今度こそ包囲を』と言ったその言葉にどんな感情が込められていたかなど、連携が売りの月組を知っていれば簡単に分かるだろう。

 

 シェパードはそんなことを知らず鼻を鳴らす。

 彼が目をつけたのは赤のスカーフを巻いた女狐の部下である3人だ。

 

「なんだその隊服は。改造隊服は将校の特権なんだがねェ?」

「……申し訳、ありません。規則ですので」

 

 能力を使うが故に、体力を使う。

 呼吸が荒くなったレイが返事をするもシェパードは一等兵の2人に目を向ける。

 

 こんなことをしている暇など無いと言うのに。

 

「上は誰だ、こんなふざけたことを容認する人間は。監察官として言わせてもらうが非常に目に余る行為だ!」

「女狐大将…です…」

「ハッ、女狐ェ?」

 

 噂だけの存在にシェパードは呟いた。

 

「フン、昆虫食いか」

「……ッッ!」

 

 ある程度の名声が上がると、批判を浴びる。

 

 〝昆虫食い〟

 

 女狐の事を知らぬ者は、恐れる者は、妬む者は彼女の事を陰でこう呼んだ。

 意味は、特出した成果も無い雑魚潰し。

 

 ……残念な事に事実だ。

 

「テメェ…」

「下がりなさいッ!」

「でもレイ先輩!」

 

 いくら女狐の部下であろうと正当な理由があれば潰される。挑発に負けた方が終わりだ。

 怒り狂った様子のボムを、レイと月組のジョーダンが必死に止める。バレンタイン(レモン)は怒って居たが手を出そうとしなかった。しかし相棒を止める素振りは一切ない。

 

 ちなみにジョーダンは「(……うん、確かにそうですよね)」などと評価に納得していた。自称雑魚のリィンを知り、名ばかり大将だと分かった今、特に違和感がなかった。

 ……言い方は気に食わないが。

 

 アタックやハミングは弟のハイターを庇いながらジッと監察官を睨んでいた。目元が隠れていてよかったと思う。

 

「監察官に、その態度、いいのかねぇそんなことをして」

 

 手を出せば終わり、手を出せば終わり。

 

 手を出せば──。

 

「元々拾ってもらわなきゃ終わってたんだよ…」

 

 ボムが小さく呟く。

 

「たった数日間だったけど、それでも大将は俺にとって大事な大将になってた…。それを、大将を知らない人間が勝手に喚いて」

「──見つけました、廃倉庫帯のL-31です!」

 

 レイがボムの声をかき消す様に大声で言う。

 雲でようやく海賊を見つけた。

 

 だがその瞬間レイは体力切れで膝をつく。息はとても荒い。

 能力者だと知らなかったボム達や包帯海兵3人は動揺するが、月組のジョーダンだけは意識を切り替えた。

 

「アタックさんたちはレイさんを!ボムさん、レモンさん、行きます…!」

 

 ジョーダンとて、彼が能力者だと知らない人間だったが唐突な異変には慣れている。

 ボムとレモンを叱咤すると駆け出した。

 

「くそ…!」

 

 吐き捨てる様にそう言うとボムは足元を爆発させ、その爆風を利用して加速する。レモンも体を軽くし、ボムの前を突き進んでいる。

 

「待たないか貴様ら!」

 

 シェパードは彼らを追う。

 厄介なことにならなければ良いが、とアタックは見送った。彼らも将校ではないので手を出しにくい。

 

「アイツらも能力者だったのか…」

 

 ハイターは小さく確認するようにレイに言う。

 ゼェゼェと体力切れを起こしているレイだったが、視線は『海賊』がいるとされる廃倉庫に向けられていた。

 

「……ハイター君、すみませんが、ゲホッ、僕を運んでくれますか」

「なんでそこまで必死に」

「僕は、海賊が、ゲホッ。大嫌いですから」

 

 下を向いてゲホゲホと咳き込むレイ。

 

「──命を賭しても、なんとしてでも、潰す」

 

 その覚悟を聞いてハイターは深く息を吐いて決めた。

 

「オタクには書類探しを手伝ってもらった恩がある。手荒く運ぶけど文句は言うなよ」

「上等…!」

「と言っても場所は分から──」

 

 建物の隙間から爆風により浮かび上がったレモンがその目に映る。とても激しい移動手段だ。

 

「分かったわ」

「分かるな」

「…………行くか」

 

 ハミングがレイを担ぎ、追う。

 

「女狐も面倒なの抱えてるな…」

 

 頭が痛かった。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「(くそ…なんだよコイツら…!)」

 

 〝千両道化〟のバギーは迫り来る包囲網に焦っていた。

 

「(ロジャー海賊団出身ってバレたからこのタイミングしか逃げ出せねェってのによォ)」

 

 包囲網の正体は月組。バラバラに散らばった彼らは逃げ場となる港や家屋などを目安に包囲網をジワジワと狭めていた。

 逃げ出した時間と視線を気にしてそこまで逃げていないだろうと判断したグレンが包囲網作戦を実行させたのだ。一等兵だと高を括っていたバギーは、人海戦術を用いた策略にまんまと引っかかってしまった。

 

「ここに来るとは思っていた」

 

 廃屋となった倉庫の一角に逃げ込んだはいいがそこには1人の海兵が立っていた。

 

「なんだよ、なんなんだよお前ら!」

「答える義理が無ェな」

 

 その海兵、名をサム。月組で会員No.18で、写真を撮るのは上手いが賭け事に弱い男だ。

 

 そして海賊の脱走にも包囲網作戦にも気付かなかった運の悪い男だったりする。

 なぜ気付かなかったか、それは交代でリィンの写真を捌いていたからだ。確実に自業自得だ。

 

「(やばいやばいやばいやばいやばい無理吐く)」

 

 特技はハッタリだった。

 

「(くそ…まさか逃げた先に海兵が居たのは!こいつの態度からみて作戦の内!出入り口付近にいるのは俺のようだがどこかで仲間が隠れて…)」

「(うわぁあこいつ最近懸賞金跳ね上がった〝千両道化〟…しかも出入り口塞がれてるし…)」

 

「「(──逃げたい!)」」

 

 海賊と海兵の心が揃った。

 逃げ出したいサムは猫をかぶる。さも想定内ですよ、と言った様子を崩さなかった。

 

「まぁ、まさかここまで単純な行動をしてくれるとは思ってなかったけどなァ…?」

 

 廃屋には光が少ない。幸いな事に震えている姿はバレない。

 サムは月組の誰かがスモーカーに自体を伝えてくれる事や、誰かがやって来ることを期待した。

 

 そしてその賭けに成功した。

 

──ボォンッ!

 

 爆発音と共に入ってきたのはレモンと煙を上げたボム。そしてサムの同期であるジョーダンだ。

 

「くそ!」

 

 バギーは不都合な展開に唾を吐く。

 

 そして続いて入ってきたのは包帯まみれの海兵に担がれた将校。レイだ。

 

「海賊…ッ!」

「(あ、ヤベェ)」

 

 レイの怒り狂った視線を向けられてバギーは一瞬にして察する。

 

 ──この男はヤバイ。

 

「見つけた、海賊…!」

 

 バギーを見つけたレイは怒りで目の前が真っ赤に染まる。赤い、血の色。記憶にこびりついた海賊への記憶。

 

 彼の生まれ故郷はもう無い。一人の男によって滅亡した。レイは唯一の生き残りだった。

 アテのない旅でようやく見つけた居場所。そこは村を守ろうとする勇敢な男達が笑いあって助けあえる自警団だった。だが、彼が様々な事を知り育った自警団は消えた。襲ってきた海賊により。

 怒り。憎しみ。悲しみ。

 

「…………殺したい程嫌ですが、僕は貪欲に強さを喰らう」

 

 目の前にはバギーという海賊しか見えていない。バチリ、と雷のなる前兆が聞こえた。

 

 雲の真髄は気象。雨を降らせ、雪を降らせ、夜に変え、雷を鳴らす。

 

「〝神の裁き(エル・トール)〟!!」

 

 『なんで、故郷を滅ぼせるんですか!』

 『……お前は知っているぞ。雲の力を隠し持っていた輩か。どうだ、こちらに来ないか?』

 

 想像以上の能力に全員が驚く。レイの体は雷を発生させる雷雲に変わっていた。

 

 『冗談じゃない!僕は、壊したくない! 母親の命を「医者の覚悟不足」で諦めたと聞いた時からずっと…!』

 

 いや、少し違う。

 まるでこれは…──。

 

「能力の暴走!しかも自然系(ロギア)だ!巻き込まれない様に離れろ!」

 

 アタックが慌てて叫ぶ。

 能力者の暴走で一番厄介なのは広範囲に攻撃を加えることが出来る自然系(ロギア)だ。

 

「〝ホワイト・アウト〟」

 

 その場に新たな声が響く。

 雲は煙に押し流されてレイの元へと集う。

 

「ス、スモーカーさん!あとグレン!」

 

 サムの嬉しそうな声。葉巻を咥えたスモーカーが手を煙に変えてレイを捕らえていた。

 戦闘歴も経験もスモーカーの方が上だ。

 

「サムとジョーダン。バギーを捕まえとくぞ」

「「ウッス…」」

 

 キレ気味のグレンに思わず2人は姿勢を正す。

 スモーカーはレイの姿を見た。

 

「アイツの部下ならしっかりしろ」

 

 とてもシンプルで簡単な言葉だったが効果は抜群。元々能力で体力を削っていたのだから弱ってもいたんだろう。肩で息をしながら四つん這いになっていた。

 

「正気に戻ったな」

「なん…とか……。すみません、ジョーダン君達の…」

「スモーカーだ」

「そう、ですか。スモーカーさ…!」

 

 ふ…、とレイの力が抜ける。どうやら雲に変わる事は想像以上に体力を消耗する様だ。

 そして海賊討伐に出かけない女狐隊なら尚更。

 

「性格がたしぎに似てる。頭痛てぇ」

「たしぎ??」

 

 たしぎの姿を見たことないボムペアが首を傾げるが、その疑問は次に入ってきた人物によって邪魔される事になってしまった。

 

「見つけたぞぉ!」

 

 監察官シェパードだ。

 ギャーギャー騒ぎながら文句を言っている。言いがかりにも程があるのだが、監察官という立場は特殊なのでスモーカーであろうと手を出しにくい。しかし首を切られてでも反発しようとする男がボムだった。

 

「…………おい、私闘は禁止だ」

「くそ、分かってんだよそんなこと…!」

「何をゴチャゴチャ言っている!そこの昆虫食いの海兵共!」

 

 ボムだけじゃなくレモンまで我慢の限界が近付いたその時、ハイターがボムの顔を見て言った。

 

「手を出したら海兵としての道は終わるんだな」

「あ、あぁ…」

 

 ハイターはニヤリと笑い言った。

 

「お前ら、随分と運が悪い」

「待て…ッ!」

 

 スモーカーが止めようとするがハイターは走り拳を固める。そしてその拳をシェパードの腹に思いっきりぶち込んだ。

 

「ガハッ!?」

 

 1発で沈んだシェパードを見下ろしながらハイターは鼻で笑う。

 その様子にアタックとハミングがやれやれと言った様子で肩を竦め苦笑いを零した。

 

「お前らなんで…!ハイター!?」

「あッ!」

 

 海兵キャップが地面に落ちる。ハイターは手に巻いていた包帯をしゅるしゅると外した。

 

「お前ら最近名を上げた…」

 

 ハイターは血色の悪い顔でニヤリと笑う。

 怪我のないタトゥーだらけの手を持ち上げると、アタックとハミングの2人がハイターにしがみついた。

 

「じゃあな」

「資料探しの手伝いありがとな」

 

「──〝ROOM(ルーム)〟」

 

 スモーカーが十手を手に取り3人に攻撃しようとしたが、あちらの方が早かった様だ。

 

「〝シャンブルズ〟」

 

 その場には3人の姿は消え、樽があった。

 

「えっ、ハイターが……人見知りじゃ無い?」

「そこじゃないだろ」

「海兵じゃなければ手を出してもいいって話じゃ無ェんだよ…! あの海賊共! 潜入と脱走を許しちまったじゃねェか!」

 

 スモーカーがガジガジと思いっきり頭を掻き毟った。

 

 

 

 

 

 

 

 七武海定例会議から帰ってきたセンゴクは胃痛薬を追加注文する。

 元王下七武海の国家反逆に加え更に起こった面倒事。

 ・〝砂姫〟の誕生

 ・〝千両道化〟の脱走未遂

 ・〝死の外科医〟の潜入

 ・監察官への暴行

 ・爆発によるマリンフォードの地面設備破壊

 他、3点。

 

 全て、なんだかんだと女狐に関係する事だ。

 

 胃痛持ちの元帥は小さな野狐に電伝虫で全ての気持ちを込めてこう言った。

 

 

 

「あぁ、お前か──外道」

『上司が酷い!』

 

 お前の影響の方が胃に対して酷いわ阿呆。

 

 

 

 

 

「レイ先輩?何してるんですか?」

「あぁ、今ナバロンに着くギリギリだと思うのであの監察官殿の船の上にスコールを、と思い」

「逆鱗に触れるとやばいタイプだこの人」

「まともじゃなかった」




ナバロンに向かう途中で嵐にあった理由はこういう恨みがあったから。
サイリーン・レイ君の出身はもう分かりましたね。過去はもう少し先で全貌が明らかになるはず。オリジナルキャラでした。彼は。

さて、一番問題の洗濯物3人組の本名は出してませんが…残念!!!!海兵じゃなかったのだ!!!
アタック=シャチ
ハミング=ペンギン
ハイター=ロー
アタックやハミングの言った上の命令はローの命令。包帯はタトゥーを隠すため
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