2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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ウォーターセブン編
第170話 知らぬは当人ばかりなり


 

 それは丁度リィン達がロングリングロングランドでフォクシー海賊団を泣かせ、嘲笑っていた最中の事。

 

 

 ジャヤで1億の首を取り逃し七武海入りの計画を果たせず地味に苛立ちが溜まっていた黒ひげ。

 名はマーシャル・D・ティーチ。

 

 聖地に赴いたラフィット─七武海からの精神的攻撃によりSAN値ピンチ─という仲間との合流の為に島に留まらなければならなかった。

 

「よォ、探してたぜ、ティーチ」

 

 その場に現れたのは2番隊隊長のエースと1番隊隊長のマルコ。白ひげ海賊団の主戦力だ。

 

「エース隊長じゃねェか、ゼハハハ!元気そうで何よりだ!」

「弟妹補給をしたもんでな」

「……エース」

 

 真顔で述べたエースの頭を、呆れた表情のマルコがシバキ倒した。しかしティーチはニヤニヤと笑うだけだ。

 

「連絡が入ったんだよい、匿名で」

 

 マルコが静かに話す。

 

 本来彼らは地道に記録(ログ)を辿ってここに来る筈だった。予想より早くなったのは『情報屋』と名乗る男から連絡が入ったからだ。

 電伝虫の番号を教えた覚えもない。だが、気になる発言を残して切れた。

 

『黒ひげならジャヤにいる。最高のショーを楽しみにしているよ、盃の長男ゴール・D・エース』

 

「まさかホントに居るとは思わなかったけどな」

 

 ──彼らは知らない。

 口の軽い情報屋のオーナーの手によって電伝虫の番号が共有されている事も。

 名前に動揺して本来の力を発揮出来なければいいと企んでいる事も。

 ジャヤに男の仲間がいた事も。

 最優先で黒ひげを探していた事も。

 

「あぁそうだ。妹を見たぜ、エース」

 

 その言葉にエースは物理的に燃え上がった。

 

 黒ひげは語る。1億の懸賞金であるルフィの首を手土産に王下七武海の称号を手に入れる予定だった事、そして残念だがエースの妹であるリィンの首では額が弱過ぎるという事。

 

 これでキレない兄はいない。

 語られた2人は弟と妹だ。

 

「そいつは俺の弟だ」

「!?」

 

 ティーチが驚いた瞬間、その場に一人の男が現れた。ラフィット、仲間だった。

 

「船長、七武海入り辞めた方がいいと思います」

 

 発せられた言葉を飲み込むのに少々時間がかかった。

 

「ラフィット、それどういう事だ…?」

「七武海ヤバい。ただそれだけです」

 

 分からない。分からないが、ラフィットの形相は必死過ぎた。

 

「クロコダイル氏が七武海の称号を剥奪されたのが残念でなりません…ッ!」

 

 その渦中に関わっていたエースとマルコは顔を見合わせて首を傾げる。

 国を乗っ取ろうとしたという情報は聞いているので、何故残念に思われるのか理解できなかった。何故、こうも同情されているのかも。

 

 自業自得、その言葉はピッタリの筈だ。

 

 残念な事に、彼らは知らない。アラバスタや世界中を混乱に陥れたあの放送を。

 

「お前、一体聖地で何があった……」

「船長がムサイからッッ!反発が!あの方達の反発は正直怖いところがあります…!」

「おい待て何の話だ」

 

 ラフィットは半泣きだった。

 困った表情のティーチ、船員からはムサイと言われそれ故に七武海をオススメしないなどと言われ、可哀想な所はある。

 

 

 

 

 しかし、それで殺意が収まる訳が無い。

 

「なぁティーチ。お前はさ、なんでヤミヤミの実を手に入れようとしたんだ」

「……海賊王に、なる為さ」

 

 ニヤリと笑ってティーチは手を闇に変えた。

 闇とは引力。全てを引き摺り込む力。

 

 引力は物体を無限の力で凝縮させ押し潰し、銃弾も刃も打撃も炎も雷も全て引き摺り込む。

 

 そして常人以上の痛覚と引き換えに、ある物も引き摺り込む事が出来る。

 

「〝闇水(くろうず)〟」

 

 能力者の実体。

 

 つまり、ティーチが触れると悪魔の実の効果は消える、ということだった。

 

 

 

 人の倍は生きている、王の首を狙う為に牙を研いでいたティーチ。

 

 

 

 

「ゲホッ、ゲホッ」

 

 ……基礎身体能力で、彼に敵う訳がなかった。

 

「面倒臭い能力だよい…!」

 

 街どころか島が滅ぶ攻防の果てに膝を着いたのはエースとマルコの両名。

 折れた腕を支えながら笑うティーチを睨むがその目に宿る覇気は少ない。

 

 恐れ。

 

 白ひげ海賊団の幹部2人で、まさか負けるとは思ってもみなかったのだろう。想定外の事態にエースもマルコも動揺の色が隠せない。

 

「ヤミヤミの実って言うのはな。〝悪魔の実〟の歴史上、もっとも凶悪な能力だ」

 

 

 

 ──彼らは知らない。

 電伝虫で情報をリークした男が、この結果を予想していた事に。

 負けると分かっていて勝負をけしかけた事に。

 

 

『…─…──〝火拳〟と〝不死鳥〟の護送情報確認完了。早めに戻ってきてくれ』

「俺はアンタの便利な道具じゃないんだけどな」

『成功したら祝杯を上げよう。昔東の海(イーストブルー)で美味い店を見つけてなかったか?』

「誤魔化したな」

 

 

 ジャヤで事の顛末を見守っていた男が『六式』の一つ〝月歩〟空を駆ける。彼の住処は月歩で数日。何、楽なものだ。

 

 

「──えぇ、その通りです。貴方達はVIP対象外になりまーす」

 

 道化の仮面は、上手くいったと笑うその笑顔を隠す為に付けていた。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「平和だなぁ……」

「平和ね……」

 

 気候は春、時々夏。

 

「あ、ナミさんはあの金塊どこで入手したぞ?」

 

 グラン・テゾーロから次の島、ウォーターセブンに向けて船を進めることになった。

 航路が分かる理由は、そこが政府機関であるエニエス・ロビーと繋がっているから。行ったことはないが存在自体は知っていた。

 

「空島でね、蛇のお腹の中にあったの」

「腹?」

「そう、腹」

 

 よくよく考えれば空島の話は慌ただしくて聞けてなかった事に気付いた。空島は情報が無い。聞いておくべきか。

 

「空島では何が起こるました?」

「エネルとか言う神が出て来て…そこまでピンチでは無かったけど、今までで一番大変だったわ」

「エネル…?」

 

 聞き覚えのある単語に頭を捻る。

 

 話してくれてるナミさんには悪いが猛烈に気になって仕方が無い。

 

 私の部下には空島出身者が居る。

 空島で何が起こったとか、話してくれなかったけどその名前だけは聞いた事があった。

 

「……リィン」

「はい、何ですか?」

「……隠してること、無い?」

「ありますけど?」

 

 堂々と告げれば落胆した表情になる。下手に隠すよりは隠し事があるということを伝えておいた方がしがらみが無いと思ったんだが。

 

「お前変なところで度胸あるよな…」

 

 通りかかったウソップさんがそう言って去ろうとするが、ギョッとした顔付きで戻ってきた。

 

「……い、一応聞くが、お前ら何してんだ」

「へそくり計算」

「と、支出予定額決算に偽金探しぞ」

 

 バラバラと凄い勢いで札束が捲られて、紙に次々数字が書き込められているんだ。驚くのも無理はない。

 だけど書類仕事してたら片手で何かしながら書き物するとか慣れるから。しかも私は重要書類の場合スモさんやヒナさんの押し入れの中でやってきた経験がある。

 

「金、だいぶ稼いだな…」

 

 最初フォクシー海賊団から奪い取った6億、そして普通のカジノで3億初期費用で7億手に入ったから合計10億。丁半で2億消して5億の儲けで13億。更にルフィが10億賭けたから23億。

 

「黄金も売れたしね」

「3億行くならずは少し残念ですたが…」

 

 空島で手に入れた黄金はテゾーロに売った。黄金を手に入れようとしてるのなら問題なく買収すると思ったからね。

 

「古代遺跡の遺物があんなに安いだなんて」

「テゾーロは形より量を求めるですから仕方ないと言えば仕方ないですね」

 

 売却金額は2億。

 これで一味の合計資産額はざっと25億。

 

 更に言えば強奪した火薬や砲弾、船修理用の木材達も手に入っているので修理費はかなり抑えることが出来るだろう。

 使えない武器は売るしかないけど。

 

「ふっふっふー、山分け金額も大変な事になるですね〜。夢のマイホームが建つですよ」

「え?お前家持つの夢だったのか?」

「はい。赤子時代は山賊の家に居候、雑用時代は月組と雑魚寝みたいな感じですたし、今はメリー号。まともな家で住むした経験が無いのです」

「……お前の経験がエグすぎてヤバい」

「語彙力無いですね…」

「お前が言うな」

 

 もし上手く山分け出来たなら2億位が手元に残るだろう。それだけじゃ家は建ちにくい。建てれるんだけどサイズが足りないか。

 だがしかーし!私には大将としての給金がある!潜入特別手当は残念な事に出ないけど!

 

 最低でも4人暮らし用かな…。私は1人でゆっくり出来るなんて望みを早々に捨てた。

 

 断言出来る。絶対、何かは来る。

 

 1人暮らしの家を建てるより完全防備の私室を1つ作る方に金を費やした方がいいと思ってる。

 

「リィンちゃん、ナミさん。じゃがいものパイユ作ったんだけど食べる?」

「あ、食べる食べる」

 

 サンジ様がさらに盛り付けられた料理を持ってやってきた。ウソップさんにお前の分はキッチンだと言いながらナミさんに渡す。

 

「リィンちゃん?」

「……ルフィ見て思い浮かびますた?」

「……バレたか」

 

 じゃがいもを細く千切りスライスした物を薄い円形にしてチーズとデンプンで固め揚げた物。

 どう考えても『麦わら』だ。パイユの意味も麦わらだし。

 

「いただきます。サンジさんは凄いですね、毎日作ってその上こうやっておやつまで」

「餌付、じゃなかった。作るの楽しいから」

 

 聞こえなかったことにしておこう。私も得だ。

 

「皆!なんか、カエルがクロールしてる!」

 

 見張り台に立っていたビビ様が大きな声を出して航路とは少しズレた方向を指さしていた。

 

「いやいやそんな馬鹿な…──ってマジだ」

 

 ウソップが見て呟く。やだ…私にも見える…。

 傷だらけの大きなカエルが思いっきりクロールしていた。

 

 ビビ様は見張り台から飛び降りてルフィと共に船首にやってきた。

 ず、随分アグレッシブになりましたね、姫様。

 

 ……危ないのでやめてください。

 

「あのカエル追うぞ!」

 

 危ないので!やめてください!

 ルフィにしがみついて引き止める。

 

「は〜な〜せ〜ッ!離すんだリー!」

 

 私は必死に止めようと腰を掴むが、無情にもルフィはオールの元へと向かおうとしている。

 

「じゃあリーがあれ捕まえろよ〜」

「……大味そうなので嫌ぞ」

「食う事前提かよッ!」

 

 

 結局追いかけていきましたとさ。畜生。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

「お前、今何を考えとるんじゃ」

「……昔の事を少しな」

「昔を憂うなど、珍しいの」

「自分でもそう思う」

「かぁ〜〜。こりゃまた珍しすぎるわい」

「うるせぇ」

 

 

 初めての任務失敗。

 そこで出会った、付き従ってみたいと思える女の話でもしようか。




「必殺、〝情報多量摂取〟…!」
ハイということで久しぶりのリィン……はフルで出なかった。だいたい4割。これがハロウィンのイタズラ(雑魚い)

なんか解説書こうと思ってたんですけどド忘れ。何か疑問があったら気軽に感想へどうぞ。

ひとまず前半について。原作との明確な相違点が現れ始めました。個人的な解釈もあるので断言出来ないんですが、黒ひげはマルコ含めても勝てないと思ってる。
後半、ここでの相違点はズバリ『黄金の換金』ですね。実はもうお金に変えてしまっているので、ナミさんの3億もぎ取るシーンなど諸々が亡くなります。死んだ。

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