2度目の人生はワンピースで   作:恋音

186 / 278
第172話 メリー号の寿命

 

 水路をヤガラというウォーターセブン独特の乗り物で進み、1番ドックにたどり着いた一行。

 ルフィはナミとウソップの静止の声も虚しく造船所の中に入ろうとする。

 

「おっと待つんじゃ、余所者じゃな?」

 

 柵を跨ぎかけたルフィを、ウソップに似た鼻を持つ男があっという間に距離を詰め防ぐ。

 

 3人はその鼻に驚くも本題に移った。

 

「えっと、アイスバーグさんに会いたいの。これ招待状よ」

 

 そしてそこでアイスバーグが市長でありガレーラカンパニーの社長であり海列車の管理をしていることを知る。

 

「最強かそいつ!」

「ワハハッ!ひとまずわしがひとっ走りしてお前らの船の具合を見てこよう」

「ヤガラブルで?」

 

 ウソップの疑問に男は歯を見せて楽しそうに笑う。余所者ということは船大工の力を知らない。

 

「そんなことしとったらお前達待ちくたびれてしまうじゃろう?」

 

 驚きを企む。

 

「──10分待っとれ」

 

 ナミがその速さに聞き返した時、男は凄まじい速度で走り出した。その先に絶壁があろうと。

 

 男はウォーターセブンを自由に走り回るガレーラカンパニー1番ドックの〝大工職〟職長カク。

 

「人は彼を〝山風〟と呼ぶ」

 

 奥から秘書であろう女性と共に1人の男がやって来た。驚く3人に向かって自慢気に笑う。

 胸からひょっこりネズミが顔を覗かせている。

 

「ンマー!うちの職員を舐めてもらっちゃ困る。より速くより頑丈な船を造るには並の身体能力では間にあわねェ」

「………そっか」

 

 ルフィは走り去ったカクを姿を追う様に視線を逸らさなかった。

 

「どうした?」

「アイツ、飛ぶ時地面を3回は蹴った」

「ゲェ、化け物かよ」

 

 ウソップは嫌そうに呟きながら視線を追う。

 まるでその視線を遮る様に秘書が声を出した。

 

「〝麦わらのルフィ〟〝堕天使リィン〟〝海賊狩りのゾロ〟〝砂姫ビビ〟〝悪魔の子ニコ・ロビン〟以上5名の賞金首を有し総合賞金額(トータルパウンティ)3億3300万ベリー。結成は東の海(イーストブルー)の現在10名組の麦わらの一味ですね」

「仲間になった順番まで知ってんのか!」

「めっちゃバレてるぅー…」

 

 ウソップが死んだ目で後ずさる。

 予め『海賊も立派な客』だとリィンに知らされているので退く気は毛ほどもないが。

 

「こうして他のやつから聞いてみるとリーも海賊なんだなって思う」

「海賊の枠を越えてるもんな、アイツ」

「そうね、女神ね」

 

 ルフィの言葉にクルー2人は同意するが意味までは合わなかった様だ。

 

「カリファ、今日は何があった?」

 

 そう問われたカリファは幾つかの予定をスラスラと言い出した。その量は異様だ。しかし市長でもあるアイスバーグはこれらの予定を全てキャンセルするという横暴に出る。秘書は強く止めず淡々と了承の返事をした。

 

 無茶苦茶だと思いながらナミは紹介状を渡す。

 どうやら紙についていた唇のマークが気に入らず破ったらしい。

 

「ンマー!とは言えカクが査定に入ったんだ、話は進んでる。……どうせ今日は退屈な日だ、工場を案内しよう」

「仕事をキャンセルした男の態度か」

 

 意外にも案内と相談にはのってくれるらしい。

 それでもありがたいと思いながら3人は彼の後をついていく。

 途中借金取りに追われる〝艤装・マスト職〟の職長であるパウリーという男が視界の端に見えたが、アイスバーグはため息を吐いて無視した。どうやら常にあるらしい。

 

「いいルフィ、借金は絶対ダメよ」

「ダメなのか」

「借金はダメだけど貯金はいいわ」

「金はリーしか仕舞えないな」

「そうね、リィンは最高ね」

「常識だ!」

 

「あ、こいつらは気にしないでくださーい」

 

 ウソップが疲れ果てた顔でニッコリ笑うと同情された。涙腺に来た。

 

「あ、そうだオッサン!俺、船大工探してるんだけどよ」

「ん?船大工を?」

「なんだっけ、リーが前に言ってた…。あ、そうだ、サンジの時だ。勧誘したいけど親であるアイスのおっさんに許可取らなきゃならねぇって!」

「ンマー、いいけどよ。どんどん『リー』って子の謎が深まってきた…」

 

 ルフィの成長を心から喜ぶ話題の張本人が居ないタイミングで、ルフィは記憶力を発揮する。

 リィンの涙ぐましい努力を気にせず、一行は船大工を探す為歩き出した。

 

『クルッポー!パウリーの奴がまたやらかしてたっポー』

「いでぇ!耳を掴むな耳を!」

「すげぇ!ハトが喋った!……ん?動物って喋るのか?」

「普通は、喋らないわね」

 

 雑談をしながら道を進む。アイスバーグの好かれ具合に驚いていると、〝木びき・木釘職〟の職長ルッチがパウリーを引きずってアイスバーグの元へとやって来た。

 ハトが喋る理由はどうやら腹話術らしい。

 

 パウリーはナミに目を向けると目を思いっきり見開き真っ赤な顔して怒りだした。

 

「なっ、その女!足を出しすぎだハレンチめ!」

「は?」

「まぁまぁ落ち着いて」

「ぶっ!?カリファてめぇもだ!」

 

 麦わらの一味に引けを取らないキャラの濃さ。

 アイスバーグの苦労が目に浮かぶ様だ。ウソップはお返しにとばかり同情した。

 

「ハレンチだとかフレンチだとか、まーそんな事よりもよ」

「そんな事とはなんだ。ここは男の職場だぞこの野郎」

「おっさん達、メリー直せるか?」

 

 神聖な儀式の様に、船が造られる工程をバックにルフィが聞く。

 

 アイスバーグは船の具合にもよるので明確な答えは出さなかった。

 

「メリーってのは船の名前か?」

「おう!ゴーイングメリー号って言うんだ」

「そいつはアンタらの道具か?」

 

 ルフィはその問いに首を傾げた。

 

「メリーは仲間だぞ?そんで家だ!」

「お前、いい船長だな……」

 

「俺は、海賊王になる男だ。だから絶対直してくれよな!」

「一応それなりにお金は持ってるの」

「随分と無茶苦茶な冒険してきたから労わってやりてぇな」

 

 3人は自分達がメリー号に乗り続ける事を微塵も疑っていなかった。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 ウォーターセブンの屋根を飛ぶ様に、カクは船が停泊していると言う岩場の岬まで猛スピードで駆けた。

 

「(参ったわい……確か堕天使は元海軍雑用…)」

 

 心中穏やかではない。

 

 この男、世界政府のCP9に所属している言わばスパイだ。カク自身に知名度は無い物の、同僚である彼の名は政府関係者に知れ渡っている。

 と言っても戦闘を生業とする者に限られるが。

 

 海軍の海兵、政府のCP、監獄の看守。

 雑用と言う存在は元々知りえないだろう。

 

 しかしだ。

 本来名を知るはずのない雑用でも、知っている可能性があるのだ。

 

「(ルッチの奴には、悪いが──)」

 

 『第1部屋所属雑用員暗殺任務』──の失敗。

 

 当時姿を隠していたと言えど、ルッチとリィンは1度対峙してしまっているのだ。

 たかが雑用と、簡単に油断する事は出来ない。

 

 願わくば、知らない事を。

 

「(何が付き従ってみたい、じゃ。ワシらは政府の駒。そんな事は敵わない)」

 

 同僚に申し訳ないと思いながらも頭は非常に冷たかった。冷静とも言う。

 目的の1部であるニコ・ロビンと共に不安要素がやって来たのだ。

 

 計画を、決行すべきか。

 

 『悪魔の子を手に入れ』そして『堕天使の口封じ』をする。『図形』の入手もこれを期に決着を着けるべきだろう。

 

 ──死人に口なし。

 

 不安要素など消してしまえばいい。

 

「(は、わしは、何をしとるんじゃろうな)」

 

 世界の為にとまで言わないが、何の為に力を付けて来たのか分からなくなってきた。

 成人すらしていない子供を殺す事になんの躊躇いも無くなってしまった。

 踏みとどまる理由は死体の処理や死亡の理由付けが面倒だという事、のみ。

 

 乾いた笑みを浮かべて目的の場所に辿り着いた時、船の上に居るのは剣士だけだった。

 

「船を見させてもらうぞ〜」

 

 目的の人物は2人とも居ない。

 

「アンタは……?」

「わしはガレーラカンパニーの職員じゃ、お前らの船の査定に来た」

「査定……」

「どこが傷んどるかのチェックって所じゃな」

 

 職人長のカクは人懐っこい笑顔を浮かべて愛されているメリー号を見た。

 

 

 

「………ほー、この船は随分大事に使われておるみたいじゃな。羨ましい」

 

 例え偽物の笑みを浮かべていても、その口から零れ落ちた言葉は彼の本音だった。

 

 

「どうだった?」

 

 しばらく周り続けて見たカクにゾロは不安を押し殺して聞いた。

 

「──この船は…」

 

 

 

 ==========

 

 

 

 カク査定結果。

 その言葉にルフィら3人はホッと息を吐いた。

 

「修理せんといかん所はあるがまだ乗れるわい」

 

「良かった〜…」

「大分長いこと乗ってきたからやっぱり心配だったんだよな……」

「空島から落ちた時は怖かったけどね」

 

 まだ乗れる。

 プロに査定してもらった結果だ、不安に思う事も無い。

 

「ただ、いつ竜骨がやられるか分からん。今の状態なら少なくともシャボンディ諸島まで持つとは思うが」

「修理したらどうなるんだ?」

「そうじゃな……新世界に行けるかどうか、と言う所じゃわい」

 

 乗り方と操縦の腕と気候次第と付け加えカクは説明する。なんにせよ、メリー号にはまだ乗れるという事に3人は有頂天になっていた。

 

「修理代いくらかかる?」

「ざっと見積もって100万以上1億未満じゃな」

「良かった、許容範囲内だわ」

 

 ナミは予想より安く済んだメリー号の修繕費に笑みを零す。

 

「しかしまぁ随分傷は深かったわい」

「山登ったり空から降ったり刺されたり折られたり……船だよな?」

「それは本当にキャラベル船か?」

 

 パウリーが真剣な顔で聞いてきた。

 ウソップは過去を思い浮かべながら確か船だったはずと考える。

 確か、が付いている辺り自信は無い。

 

「じゃがまぁ修理は少し待て」

「えっ、どうして?」

「この時期になるとアクアラグナっちゅう高波がくるんでのォ、そいつが終わってからじゃな」

「あくあ、らぐな?」

 

 カクは顎に手を置いて考える。

 

 修理に時間がかかり海を渡る足が間に合わなければ仲間を追うことも出来ないだろう。

 

「船を縄で縛りこの島に固定する方がいいかの」

「縛ることなら俺に任せて貰うぜ!」

「パウリーの仕事じゃから十分こき使ってくれ」

 

 チェックメイトまであと数手。




海軍側と、政府側で、同じ事件なのに認識に違いが生まれています。
襲撃と暗殺。これにはとても違いが。

私の中で海軍 政府 監獄は全く別物です。現代日本の三権分立に近い感じですね。それぞれ役割が違い、昔は独立した組織だったらいいなぁ、って妄想。
ただ日本の三権分立と違いお互いを監視しているのではなく利用し合ってる感じ。ここら辺の細かい所は本編で、ということで!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。