2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第173話 本当に関わりがあったのは

 

 本屋に向かった2人と2匹。

 各々(おのおの)自由に本を物色していた。

 

 チョッパーは医学、ロビンは考古学、ビビはまぁ割愛する。

 カルーは主の姿を大人しく見守っている。

 

「ねぇミス・オールサンデー」

「なにかしら?」

「どこにあるか分からないから探すの手伝って欲しいのだけど……」

 

 ロビンはビビの様子を見て固まった。場所は恋愛小説コーナー。

 違う。多分目的はアダルティな所にあるはず。

 

「この白さをどうして変えられると思うの……」

 

 ある意味持ち合わせた純粋さに天を仰ぐ。

 衆道(BL)がオブラートに包まれた小説か何かを探そうと思うが、探すにしても場所が場所だ。

 

 未成年(ビビ)が手を出してはいけない場所。

 

「あー……えっと……そうね……」

 

 ロビンは過去様々な修羅場を乗り越えてきた闇の住人である。しかし過去最大級の『語り難さ』に困り果てていた。

 

「……心理描写を経験してはどうかしら。お姫様が求めるジャンルでは無くて男女の心理や価値観の違いを勉強することをオススメするわ」

「盲点だったわ…!」

 

 この場を乗り切れた事にロビンはこっそり息を吐き、無心に本を漁るビビを見た。

 

「…………ねェ、私は笑えているかしら」

 

 ニコ・ロビンはオハラ唯一の考古学者。

 なぜなら他の考古学者が海軍の手によって滅ぼされたからだ。能力者ゆえに溶け込めずに居た彼女を迎えてくれたのはオハラの考古学者。

 彼らは先人達の言葉を未来に残す為に、歴史を伝える為に、ロビンを逃がした。

 

 たまたま流れ着いた海兵、ロビンの友達でもある巨人族はクザンの手により氷漬けにされ。

 

 ロビンは全てを失った。唯一残ったのは自分の命だけ。

 笑えと言った、仲間がいると言った。

 

 世界は広いのだと。

 

「(私だってオハラの人間だもの)」

 

 歴史を解明し、伝えるのは我ら。

 

 1つ、ロビンはビビに言おうとした。

 

「──みつけた(CP9です)

 

 カツンッ、と。足音と共にロビンの耳に入ってきたのはタイムアップの言葉。

 

 ぞわりと背筋が凍った。

 

「ッ!」

 

 ロビンは咄嗟に口を開く。

 

「待って!」

 

 ピタリと仮面を付けた人間が足を止める。

 ロビンは震える手を握り締めて言った。

 

 もう終わりだ。

 

 

「私は、あなた達について行かないわ」

 

 ──過去の自分とは、もう終わりだ。

 

「……」

 

 仮面を付けた人間は想像していた反応と違う言葉に驚くも黙って聞く。ビビはロビンの異変に気付いた様で、ロビンのそばに寄った。

 

「知ってるかしら、私の船長さんはね」

 

 グランテゾーロでの二重作戦。船長3人が仲違いをし別働隊として動かす為に〝赤旗〟X(ディエス)・ドレークはルフィを煽った。

 

 『お前は船の船長だろ!残りのクルーと1人のクルー!どちらの命が重たいか、どちらを捨てればいいか、命に終わりがあることを学べ!将たるもの冷静さを見失うな!』

 

 二重作戦はロビンの発案で、煽る為のセリフを考えたのもロビンだ。

 ロビンの心の代言とも言える言葉を聞いてルフィは迷うこと無く答えた。

 

 『俺は例え誰だろうと見捨てねぇ!見捨てたくないから、仲間だろ!命を賭けてでも助ける!』

 

「──絶対、私を見捨てないわ」

 

 ロビンは笑う。

 

「だって船長さん、世界政府に喧嘩を売ってでも私を取り戻そうとするわ。そんな事させる訳にはいかないのよ」

 

 そんな大それた事した時は胃痛持ちの雑用が悲鳴を上げることは簡単に想像付く。ロビンはそんな光景を想像してクスリと笑った。

 

 そして腕を組み自信たっぷりに見下す。

 

「あなた、そんな仲間は居るかしら?」

 

 煽りよる。

 

 カルーがビビの前に立ち庇いながら遠い目でロビンを見ていた。

 

 そんな煽りをものともせず、敵は少し考えた素振りを見せるも即座に行動に移った。

 

「な…ッ!」

 

 ロビンはあっという間に背後を取られる。

 仮面の人間がロビンを半殺しにして捕らえようとした瞬間、聞き覚えのない声と鎖の音がロビンを救う。

 

「〝ストロング(ライト)〟!」

 

 声の主は鎖に繋がれた拳を飛ばしている海パン姿の男だった。変態だった。

 敵は仮面の下で小さく舌打ちをするとその場を一瞬にして去る。その姿は見えなかったが2人と1匹、そして男もホッと息を吐いた。

 

「アウッ、お前ら大丈夫か?」

「え、ええ。ありがとう」

 

 海パン男と会話するロビンの後ろにビビはそっと隠れた。当たり前の反応だ。

 いくら助けてくれたといえど王族として教育されていればこの男が変態か否か、関わるべきか否か、など考えなくても分かる。ビビの脳内ではチャカとペルとイガラムとコブラが脳内会議で即判決をしていた。

 

「にしてもなんだありゃァ」

「心当たりはあるわ、政府の手先ね」

「………政府か。また面倒な」

 

 男は顎に手を置いてロビン達に同情する。

 政府御用達の島とは言え、好かれているかといえばそうでも無い様だ。彼の様子を見て嫌悪の感情が見て取れた。

 

「とにかく助かったわ。あの場で(かわ)せる自信が無かったの」

 

 ふとロビンは思い浮かんだ。

 

「そう言えば随分タイミングが良かったわね」

 

 まさか監視されていたのかと警戒した。その考えが伝わったのか男は慌てて手を振り否定する。

 

「あんだけカッコイイ啖呵切ってたら気にするだろ、あんたの所の船長は幸せもんだ、って!」

 

 どうやら完全に偶然らしい。

 最後の煽りは最高だと語る様子に嘘偽りは無いようだ。

 

「俺ァ解体屋のフランキー。岩場の岬北東にフランキーハウスつー所があるから困り事があれば頼れ、家のヤツらも力を貸すぜ?」

「……そう、ありがとう。ニコ・ロビンよ。こっちは」

「ビ、ビビです…。フランキーさん」

「クエッ!」

「俺はチョッパーだ!」

「あら?船医さんいつの間に?」

「ちょっと急いで帰らなきゃならなくなったんだ!悪いけどフランキー、時間があったらでいいんだけど、買い物終わったロビンとビビを船まで送ってくれないか?」

 

 いつの間にかやってきたトナカイ型のチョッパーは挨拶もそこそこに街を走り抜けて船の方向に消えていった。そのリュックには本をいくつか持っているのが膨らみで分かった。

 目的のものを探すのに集中していたらしい。この騒動に気付かず、更に慌てる様に走るチョッパーは残された者達に微妙な空気を生んだ。

 

「……あの動物喋るのか」

「ようこそ常識がおかしくなる世界へ」

 

 常識のおかしい常連者に見守られながら、常識のおかしい予備軍がウェルカムと両手を広げた。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 CP9がリィンを気にするのには、普通に生活していたらまず有り得ない出会いをしているからだろう。

 

 当時、間者を海軍本部に送り込んで居た世界政府は『リィン』に価値を見いだした。その血筋から来る戦闘能力等は今後に期待できる。

 

 しかし彼女の価値を見いだした時、タイミングが悪かった。

 元帥や三大将と面識を持ち合わせ義理の祖父はかの英雄。更には謎の大将が七武海を秘密裏に暗殺するなど海軍本部の力が変動していった時期。

 

 挙句の果てに本人は七武海の一部と交流を持ち始め、特に天夜叉であるドンキホーテ・ドフラミンゴの執着は目を見張る物だった。

 口を滑らさないかの監視や嫌がらせだったとは流石に政府も思うまい。

 

 突ける隙、政府に取り込める隙が無かった。

 

 政府は変わりゆく海軍を支配体制として自分達の下に置いておく自信も無くなっている。そんな時彼らは新たな戦力となりそうな子供をどの様に対処しようとしただろうか。

 

 

 それこそ、『第1雑用部屋襲撃事件』──政府はその事件を『第1部屋所属雑用員暗殺任務』と呼び行動に移った。

 

 問題は『リィン(こじん)』では無く『第1雑用部屋(しゅうだん)』であった所。海軍本部はこの事件をリィン狙いだと思った。それもまた事実。しかし政府は月組ですらも狙いを定めていた。

 

 理由は単純に見えて複雑となっている。

 

 

 何故リィンを見つけられた?何故リィンを知った?海軍の最重要機密とも言えることを?

 

 

 答えはその間者にあった。

 

 

 

 ──FC会員No.26。

 当時潜入していた間者は雑用として海軍を監視していた。雑用ならば海軍本部という組織に捕われず様々な所へと赴ける。

 ……リィンと同じ様な考えで雑用に居た。

 

 彼はそこでリィンを見つけた。印象に残らぬ様に、尚且つ程よい距離感で。

 幼く経験の浅いリィンはその企みに気付かなかった。それは同期の月組もまた同じ。

 

 

 政府は第1雑用部屋の襲撃と同時に間者を自然に取り戻す行動へと出た。

 

 『死人に口無し、だ。海軍の駒予定のモンキー・D・リィンと共に、間者であるアイツと関わりのある目撃者(なかま)を──消せ』

 『『ハッ!』』

 

 もう誰が命じたかなど覚えていない。

 

 そして間者を取り戻し、記憶に残っている雑用共を消し、政府が動かせない新たな戦力を潰す。

 

 シンプルで、複雑で、八つ当たりにも等しい。

 

 

 そして(きた)る日の真夜中。

 今から約6年前の話。

 

 暗殺者として差し向けられたロブ・ルッチは体格も姿も顔も髪も、何もかもを隠し闇に溶ける様にその部屋の中に姿を現した。

 

 鍵は開いてある、中にいる間者が開けていた。

 訓練も積んでない雑用がその事に気付くなど有り得ない話だった。

 

「(やってくれ)」

 

 もしも途中で誰かが気付けば間者は敵に怯える振りをすることになる。そんな面倒な事はごめんだと思いながらルッチに合図を送った。

 

「(まずは1番の目的…───!)」

 

 『人刺し指』が向かうのはもちろんリィン。

 しかし彼らは知らなかった。

 

 

 眠 り を 邪 魔 し た 者 の 末 路 を 。

 

「……ッ!」

 

 たとえ義理の兄であろうと眠ろうとする所を邪魔したのならば部屋から甲板に向けてぶっ飛ばす程の火事場の馬鹿力……いや、微睡みの判断力。

 

「ヴアッ!」

 

 リィンに襲いかかった突然の殺気。

 日々人の顔色を観察し、戦闘狂と対戦に無理やり付き合わされていたリィンが殺気を感知する事はまさに朝飯前。

 

「………誰ぞ貴様ァ…」

 

 寝ぼけな眼でリィンは攻撃を避けると睨み付けた。その拍子にリィンがぶつかってしまった月組の誰かが目を覚ます。

 

「お、おいッ!なんかやべぇの居る!」

 

 なんでこうなってしまったのか。

 ルッチはそう考えたが力量差など見て取れる。

 

 しかし微睡みの判断力は本領発揮する。

 

「………………サムさん」

「は、はいっ!」

「……本日の不眠番にスモさんが居る故に呼ぶ」

「い、行ってきます!」

 

 頭の回転速度が異常であった。何故不眠番などを把握しているのか分からないが怒りが見て取れるのでサムは何も触れずに走った。

 もちろんルッチは止めようとするが、ある意味覚醒しているリィンは想像以上の判断力を発揮。

 

「邪魔、するなぞボケがァァ!」

 

 それが『伝令』の事なのか『睡眠』の事なのか誰も触れないが、月組にリィンの本性がバレた瞬間だった。当然、間者を含め全員が驚いた。

 

「貴様が誰か知りませぬるがァ?年端も行かぬ小娘に奇襲を仕掛けるなど圧倒的弱者!……深く海の底にて沈むし足掻くしろ」

 

 月組を背に庇い啖呵を切る姿にルッチは何を思ったのか知らないが、興味を抱いたのは事実だ。

 

「チッ、時間をかけるとまず…──」

「ウラァッ!」

 

 爆発した。

 恐らく集中しきれない寝起きの状態で力を振り絞ったせいか、無意識に等しかったせいか、リィンが倒れる様に眠るのと引き換えにルッチは部屋事吹き飛ばす様な爆発に巻き込まれ撤退をした。

 

 イレギュラーが多い、初めての任務失敗。

 

 少なくとも、無意識でも、『庇われる』という物はどんな気持ちだろうかと。

 

 そう思った。

 

 

 

「え、お前海軍辞めるの?」

 

 その翌日、月組の1人が海軍を辞めることになった。もう必要書類は軍曹辺りに提出したらしい。

 

「襲撃事件が、かなり来ての……」

「あー…ま…まぁ…確かに」

「一応聞くがそれは襲撃者の方だよな?」

 

 男はその言葉に頷く。

 

「まぁ脱退の許可貰っちまったんなら俺らが引き止める理由が無いだろ」

「会員としては存在するよな?な?」

 

 リックが慌てて聞くと、男は苦笑いしながらも頷いた。その様子にホッと息を吐く。

 こんな経験、共有出来るのは幹部しかいなかったから余計にだ。

 

 男は、間者は、心の中で冷たく見下ろす。

 

「(次の所に潜入せんとな…)」

 

 幸い海軍雑用からの経歴はある。潜入はしやすいだろう。

 

「じゃあ、達者でな」

 

 別れの挨拶をしてグレンは男の名を呼んだ。

 

 

 

 

 

 

「──カク」

 

 

 気付けば夕刻、太陽は西へと傾いてウォーターセブンの街並みをオレンジに照らしていた。

 

「どうした……もう作戦が開始されるが」

「ちょっと、昔を思い出しちょっただけじゃ」

「昔を憂うなど、珍しいな」

「……語ってやろうか?お前の言う『付き従ってみたいと思える女』の話を」

「うるせぇ」

 

 カクは怪しげに笑い不機嫌になったルッチを見るが、仮面を付けてしまったので思考を切りかえた。

 

「(のォリィン。お前はわしの事覚えとるか?)」

 

 日が沈めば作戦決行。

 ウォーターセブンとの別れも近い。

 

「(わしはお前の事…──)」

 

 彼女に執着するルッチをちらりと一瞥(いちべつ)すると因縁とも言える相手を思いながら口に出した。

 

「嫌いじゃな…!」

 

 今宵また、悲劇が始まる。




どうだ驚いたか!
月組には3人の欠員がいる。1人は出版社、1人は青い鳥、そしてもう1人は、コイツだ。

八方美人又は愛玩動物リィンにとって「嫌い」という感情を向けられるのは珍しいですな、本人を知っているなら尚更。

質問が来るであろうから先に行っておきますと、死霊使いのグレンは気付いてません。『自分の為の欲』を考えている輩に対してなら魂汚れてて気付くんですけどね。(例:BWが反乱軍に潜入している状態)

さて、次回はようやくリィンに戻ります。ずっと裏路地に引っ張られたままでしたね。

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