2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第176話 選ばれたのは女狐でした

 

 リィンが船を飛び出し、部屋の中は一時呆然となった。

 何故出航準備をしなければならないのか。

 何かしらの意味があるだろうが、その意味が分からずただ無言で顔を突き合わせるだけだった。

 

 やっと船が修繕出来る島に来たのだ、そのチャンスを逃すのは惜しい。

 

 特に説明を受けていた3人は航海可能の距離を考え行動出来ずに居た。

 

「とにかく荷物、纏めておくか……?」

 

 サンジが苦笑いをしながら行動を促す。

 

 バタバタと荷物を纏めている内に日が沈んだ。

 曇り空で元々暗かった上に、頼りだった太陽が沈むと辺りは闇を覆われた。

 

「風強いな……だから高潮が来るのか」

 

 ウソップがその風の強さに納得する。

 

 その時、自然と甲板に集った一味の間に切り裂く様な突風が走った。

 それはまるで山風。気が付くとウソップやナミなど戦闘に不向きな面々が地面に倒れていた。

 

 意識は微かにある。

 咄嗟に飛び退いたルフィや、見聞色の覇気使いはどこかしらに与えられた攻撃に小さく息を詰まらせた。

 

「おい、堕天使はどこに居る」

「……チッ」

 

 仮面を付けた男2人が伏した一味を見下ろす。

 

 牛の仮面を付けた男は何かを探す様周囲を見渡し、骸骨の仮面を付けた男は不機嫌な態度を隠そうともしなかった。

 

「敵か…!」

 

 ゾロが一閃したがスイッと避けられる。しかしゾロもただ刀を振るった訳では無く、見聞色の覇気で2人の動きを読み追撃を加えた。

 

 ビッ、と服が裂け、その下に見える肌から血が流れた。

 

「……覇気使いか」

 

 骸骨の下で、男が確認する様にそう呟くとゾロは口角を上げた。

 

「だったらなんだ?都合が悪かったかァ?」

「いいや…──」

 

 苛立っていた男は指を構え指銃の用意をして言い放った。

 

「都合が良いわいッ!」

 

 指は黒く色付き、ゾロに突き刺さる。

 血が流れる事によって冷たさを感じたと思えばすぐさま燃える様な熱がゾロを襲う。

 

「ゾロッ!」

 

 サンジの蹴りが男に向かう。しかし男はその動きを読んでいたのか軽々しく避けた。

 ゾロとサンジには経験で分かる。これは見聞色の覇気特有の先読みだと。

 

「おい、お前が船を調べろ。お前の方が構造分かってるだろ」

「……任せい」

 

 あっという間に3人も地に沈む。

 

 彼らは知らなかったのだ。CP9は任務の相手によって覇気の使用を変えることを。

 

 

 例えばの話をしよう。

 もしもCP9が覇気のはの字も知らない海賊に出会い任務に関わり、尚且つ敵だった場合。CP9が追い詰められたとしても彼らは覇気を知らない相手に覇気を使わない。その敵が政府の面子に関わる事やニコ・ロビンを奪還せんと目論む者だったとしても。

 それは意地であり力を持つものの僅かばかりの抵抗だ。

 CP9が追い詰められるという事は戦いで様々な事を吸収する恐れがある為、敵を更に強化する存在である『覇気』を教える訳にはいかないのだ。

 

 レベルアップを潰す。次その敵がレベルアップする前に別の者が潰せばいい。

 

 

 先程も言った通り『覇気を知らない』相手であればの話だが。

 

 牛の仮面を付けた男の、ロブ・ルッチの視線の先に居る海賊は間違いなく覇気を知っている。

 多少使えるとしても幼い頃から訓練に励み超人的な力を手に入れた彼らには、覇気の硬度も読みも桁違いだ。

 

 

 差はより一層開く。

 自分達が『覇気を知ること』が『敵のレベルを上げる』結果になると誰も予想していない状況で麦わらの一味は何が出来たであろうか。

 

「ロ、ビン……」

 

 薄れる意識の中、ルフィは気を失ったロビンに手を伸ばし続けた。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「リー!」

 

 バタバタと慌ただしくルフィ達がアイスバーグさんの部屋に転がり込む。

 怪我でもしたのか、所々包帯が巻かれていたりガーゼを貼っていたり、予想していたより被害は少なくてホッとした。腕の1本2本持っていかれたもんだとばかり思ってたから。

 

「ルフィ!」

 

 兄の名を呼ぶと、彼は私の喉や足や手など服の隙間から見える包帯に顔を顰めた。

 

「リー、そのケガ」

「少々しくじるました」

 

 私が苦笑いを返すとルフィは泣きそうに顔を歪める。泣き虫は変わらないなぁ。

 

 ……部屋にいた2人から冷たい視線が飛ぶ。

 

 『怪我してないくせに堂々と嘘つきやがって』

 多分言いたい事はこんな感じだろう。

 

 怪我してませんけどなにかァ!?

 怪我したフリしてますけど何かァ!?

 

 

 襲撃者2人が消えてから私は包帯を巻いて怪我を自演し、アイスバーグさんと縄の人であるパウリーさんに口止めを依頼した。

 ルフィは恐らくニコ・ロビンを取り戻しにエニエスロビーに行くけど、私は行きたくないから怪我したフリするのでよろしく、と。

 

 もちろんしこたま怒られた。

 最低だとも言われた。

 

『足でまといが居てなんの為になると!?命をかける彼らの邪魔になって助ける不可は、私が1番後悔するッ!』

 

 って感じで誤魔化したけど。

 

 彼らには私の『立場』を説明してない。電伝虫での通話は2人に聞こえてなかった様だから無駄なリスクは避ける。

 

 

 

 あの通話から3時間後。センゴクさんに連絡を入れ直して計画を練った。

 センゴクさんは私が頼んだとおり『彼女』を護送の1人として派遣してくれた。

 

『分かっているだろうが堕天使は女狐と鉢合わせ出来ないからな』

『ならば堕天使は一旦消えるます』

 

 海軍の方で、潜入しているCP9全員を割り出せる事は不可能に近い。だけど政府は海兵を戦力として要求する。

 ……政府から税で海兵の給料を貰ったり懸賞金の振り分けをさせてもらっている以上増援要求には応えないといけないからね。逆手に取る。

 

 その中に最大戦力の『女狐』を投入する。

 私とセンゴクさんやおつるさんなどの上層部は一部を除き古代兵器反対派だ。

 

 海軍の下っ端諸君には悪いが女狐はニコ・ロビンを殺すか麦わらの一味に戻す。

 女狐の名前に傷が付くのも個人的に嫌なので罪は麦わらの一味に押し付ける。

 

『リィン、お前は麦わらの一味をどう思う?』

『将来の危険性は高いですが本人達の危険性は低いです。戦闘能力はまだまだで現時点では──』

『違う』

『はい?』

『それは女狐としての意見だろう。私はリィンに聞いているんだ』

 

 答えられなかった。

 

『この件が終わったら1つ提案がある。せいぜい麦わらの一味を悪役に仕立てあげておけ』

 

 ご丁寧に死亡フラグを立てて切れたけど。

 

 

 

「ロビンが攫われた」

「はい…」

 

 この部屋には襲撃に出くわしたガレーラカンパニーの2人とニコ・ロビンを除く麦わらの一味が揃っている。

 

「えーと。まず私の状況説明から入るですかね」

 

 出してもらっていた椅子の上で膝を抱える。

 

「私の出身がどこかご存知ですよね」

「海軍よね……?」

「いいえ、月組です。雑用の中でも情報通の月組なのです。一般的に知るしてませんが」

 

 私はそこで『ロブ・ルッチが政府の人間で海兵達の間で有名だ』という話をした。

 

「……だからリィンちゃんは知ってたのね」

「やはり有名所は回るしてくる故」

「へ〜、リィンちゃんって政府の人間にも詳しいもんなんだな」

「海兵ならまだしも政府はホンッッット詳しく無いですよ」

 

 サンジ様の関心に否定する。謙遜とかじゃなくてガチで知らないからロブ・ルッチを知っていたのは運が良かった。

 ん?良かったのか、これ?

 

「で、私がここに来るとアイスバーグがピンチで咄嗟に庇うしたりすたがこの通りで」

 

 あの時の不穏なやり取りは絶対言わない。

 

 怪我したしやばかったけどあちらさんが居なくなったから無事だった。

 

 それで終わりだ。

 

「俺達は…──」

 

 ルフィ達の方は至極シンプルだった。

 

 襲われて攫われた、以上。

 

 強いとは予感してたけど手も足も出ない状態なのか……。不意打ちだったからか、実力差か。

 

「ロビンさんは、取り戻すのですよね」

「当たり前だ」

 

 期待の目が寄せられるので作戦を考える。

 細かい作戦を練ったとしてもルフィが守るとは思えないからシンプルに。

 

「では──」

 

 予め考えてあったのもあり作戦は簡単に思い付いた。それを伝えようとしたタイミングでアイスバーグさんの部屋にノックがあった。

 

「アイスバーグさん、フランキー一家が…」

 

 フランキー一家という事は例のフランキーさんが関係してそうだ。

 案内人に連れられてやって来たのは……変態っぽい格好をしていたけどまぁよくある事か。

 

「頼むッ!」

 

 その男は入るなり突然土下座をした。

 

「兄貴を助けてくれッ!」

「……何者かによりフランキーさんが攫われるしたなどと言いませぬよね?」

 

 肩がビクリと跳ねた。

 

「あの……フランキーさんには助けられたの」

 

 ビビ様が控えめに言う。

 

「オールサンデーを助ける事も大事だけどフランキーさんも助けたいわ、ダメかしら」

 

 詳しく話を聞いて心の中でため息を吐く。変な仮面に狙われて助けてもらったとか早めに言って欲しかったかな!一味集合してすぐに飛び出した私が悪いんだけども!

 

「まぁ戦力が多いに越す事は無いです。……ちなみにガレーラカンパニーの方から戦力はありませぬか?そうですね、ロブ・ルッチ達に一言言うしたいなどやぶん殴るしたいなど」

「俺が行く。適当に数人見繕って大丈夫か?」

「……いえ、誰が潜むか分かるしませぬので」

 

 私がこの島に4人以上で潜むなら同じ場所に固めたりしない。最低2箇所から調べる。

 

 それに居ると分かっている残りの2人が誰なのか気になるし。

 

「適当はダメです、仲の良さで選ぶもダメです」

「ならどうしろって…」

「ロブ・ルッチ以上の勤務年数を重ねるした忠誠心の高い人ぞ優先」

 

 パウリーさんは考え込んで居たけれどふと思い当たって顔を上げた。

 

「元海軍雑用が居るんだけど」

「却下」

「なんでだ!?」

 

 元海軍雑用って事は大概私の事知っているだろうからあんまり関わりたくないなぁ。

 

「ちなみに、何年前より?」

「5,6年くらい前か……」

「より一層却下!」

 

 私が月組で猫かぶっていた時期とモロかぶりじゃないですか絶対ヤダ!

 そりゃ、扱いやすいとは思うけど『堕天使』はこの作戦に参加しない気だから余計なんだよ。

 

 信頼出来るかと言われたら否定するけど、信用は出来るから入れてもいい。だけど、雑用の戦力ってたかが知れてるし。

 

 

 海軍には戦闘に関われる三等兵以上になるまでに三つのルートがある。

 一つ目、訓練所。戦闘のいろはを学ぶ即戦力作りで教官がヤバい。元海軍大将とかヤバい。

 二つ目、雑用。入隊からすぐに海軍に関わる事が出来るけど名前の通りなので戦闘技術は独自で開発しなければならない。

 

 大方この2通りだけど、私みたいな特例や上層部のスカウトや市民徴兵などで地位をもらう三つ目のルートがある。

 もちろんスタートの地位は違うけど、訓練所出身者は雑用出身者に海軍の地区や組織形態やマル秘術を教わり、逆では生き残る術を教わる。

 いがみ合うもんだとばかり思っていたがそんなことは無く、風習なのか伝統なのかコンビを組んだりニコイチになる事が多い。

 

 ……そう言えばジジは訓練所出身者で、その部下のドーパンさんは雑用出身だったらしいな。

 

 

 閑話休題

 

 

「とにかく海軍はダメです!そもそも私ぞ海賊に転移すますて正直顔合わせ辛い上に人の顔を覚えるは大の苦手!」

「試しに聞くが、お前流石に仲間の顔くらい見分け着くよな?」

「……………もちろんッ!」

「今の間はなんだ今の間は」

 

 ゾロさんにぶにょっと私の両頬を捕まれひょっとこ現る。ごめん正直自信ない。

 

「……まぁ、それならアイツにはガレーラカンパニーの方を任せるか」

 

 パウリーさんは腑に落ちない様子であったが了承した。

 

「じゃあ作戦会議しましょう」

「では基礎的な組織情報と麦わらの一味・ガレーラカンパニー・フランキー一家の連合軍の作戦を授けるです」

 

 その言葉に反応したのはサンジ様だ。

 

「授ける……?」

 

 訝しげにこちらを見るので思わず苦笑いが零れてしまう。

 

「その、ですね。今回も私は不参加とお願いすたいのです」

「最近リィンちゃん不参加多いな……」

「うっ、すみませぬ。ですが事情というか」

 

 ギュッと握りしめていた手を前に差し出す。

 私の手は小刻みに震えていた。

 

「私っ、怖くて、能力使用不可能です」

 

 サンジ様の眉は歪む。

 彼は苦々しく視線を外すと謝った。

 

「ごめんなさい、私は万全で無ければ能力を使うが不可能なのです。多く集中力を必要とする故」

 

 ぽつりぽつりと言葉を漏らす。

 

「私、昔政府であろう人間に殺すされかけた事あるです。夜中ですた。その時気付くすれば意識を失うしており、友人や月組が何とかすてくれた様ですが……部屋は半壊ですた。それ以来ホントに、政府がダメで……」

「なんでリィンが、子供がそんなに狙われて」

 

 ナミさんの驚きは最もだろう。

 私もビックリしている。

 

「私の名前はモンキー・D・リィンです。ルフィの祖父に養子としてモンキー家に入るしますた」

「そう、だったの」

「ジジは有名な海兵でその分恨みも……」

「じいちゃん怖いもんな、俺もエースも皆ボコボコにされてた」

 

 論点ずれるから船長は少し黙ってて欲しい。

 

「私が狙うされる理由、それだけでは無きなのです。正直有りすぎるで特定不能な程。実の両親がかなり有名人で私は海軍や政府にとって害悪な子供ですたから」

「そう言えば育ての親は海軍の」

「はい、それもですね」

 

 改めて考えると酷いなとは思う。私平和な島のパン屋の娘とかになりたかった。

 ここまで来たら貴族でもいい。貴族でもいいから戦いに無縁な辺境伯の三女辺りが良かった。

 

「まぁとにかく、敵の狙いを増やす訳にはいきませぬし…私は今回も足でまといです。……ごめんなさい」

 

 奪還に参加はしないけど、奪還作戦には思いっきり干渉させてもらう。

 

 さぁ、戦を始めよう。

 

 

 

 

「目的は、違えぬ様に。……どうか、生きて帰るしてください」

 

 他人の事を願い動くと自分が疎かになる。

 それは私の欠点。

 

 

 敵に秘密がバレる事になるとは、思ってもみなかった。




今年最後の締めくくり!

捏造設定があります。
1つ目はCP9。原作ではメタ的な事もあり登場しませんでした覇気ですがこの作品では無理やりこじつけで理由を作っています。
「覇気知らん相手にわざわざ教えてたまるかボケ!」というプライドの元原作では使わなかったという判断に……うん、改めて考えると無茶すぎる。

そして2つ目は海軍の登用方法。2つの出身があるだろうと言うのは何となく掴んでいたのですが細かい方法など知らず適当作りました。
は〜〜〜組織形態とか捏造設定作るのとっても楽しい♡

それではまた来年!良いお年を!

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