2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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番外編15 〜幻の26番〜

 

 それは昔の話。

 決別を決めた弱い強者が、太陽の光を反射して辺りを照らす空間で仮面を被っていた時期の話。

 

「リィンです」

 

 第1雑用部屋に1人の少女が加わった。それにより部屋は満員となり、運の良かったメンバーは影でガッツポーズをする。

 そんなことを把握しながらリィンは偽物の笑顔を振りまく。

 

 傷だらけ。

 服の下から覗く包帯が痛々しい。

 

 しかしリィンは笑みを絶やさなかった。同室の同期は心配を敢えてせずに手助けをする事にしたのだ。

 

「これ俺がするなー」

「あ、リィンちゃん、こっちだよこっち。人が沢山いるから気をつけてね」

 

 変に気を遣われるより、1番必要としてる手をくれる。

 入隊して約1ヶ月後、彼らの観察力の高さに彼女は舌をまいた。

 

 

 

「(仲良くしとって損は無いじゃろうな)………リィン、それわしが持ってやるわい」

 

 その頃のカクは天使愛好会の幹部として程よい距離感を保っていた。

 正直興味も無かったが、その部屋で変に目立たない為には変人になるしか無かった。

 

「ありがとうますぞり!」

「歳も比較的近いし、よろしく頼むの」

「よろ、しゅく……よろ、よろしくぞ」

「ブハ…ッ!」

 

 当時リィン4歳、カク13歳の出会いだった。

 

 

 それから1年後だ。

 徐々にリィンの才能、人に目を付けられる能力に誰よりも早くカクが気付いた。

 

 成人済みの将校候補と仲良くなっているのに気付き、更に大将と交流もあると知った。

 有益な情報を手にする為に将校に近付こうと躍起になっていたカクにとって、その光景はとても苦しくなった。子供相手に大人げないと自分を律しながら。

 

 

 

「わしはァ〜〜正義のヒーローになるんじゃ〜」

「オイ誰だカクに酒飲ませたのは!コイツまだ14だぞ!」

「謎の美男子、仮面ヒーロー、カク!見参!」

「お前はそれでいいのか……」

 

 もちろん酔ってなどいなかった。

 仮面なのに美男子と分かるのか、謎なのに名前を名乗ってどうする。そんなツッコミが入れられながらカクは算段を練る。

 

 最近現れた女狐の件を調べなければならない。

 そして新戦力の目星を付けておかなれば、と。

 

「ここにだな……こう……うさ耳カチューシャがあるだろ?」

「ノーランはマジで何処に仕舞ってるんだ」

「いえーい」

「この部屋の忘年会やべーわ!俺お前らほんと好き!」

「カクー!うさ耳付けろー!」

「装・着ッ!」

「ブハハハ!ヒィーッ!腹痛てェ!」

「おっとォ!こちら実況のジョーダン!オレゴ選手、落ちました!寝落ちです!」

 

 

 

「えへへ……私、ここ、楽しむでしゅるぞ……」

 

 眠い目を擦りながらリィンは本音を零した。

 部屋の中の視線が一点に集まってもいつもの事だとリィンは気にしない。

 

「俺ここ好きーーーッ!」

「僕も好きですーーー!」

「わしも好きじゃーーーッ!」

 

 そこからは好きコールばかりであった。

 特別な人間など居ない普通の空間。

 

 普通の、世界。

 

「私、ぞ、好きます……」

 

 

 

 

「はへ?ほひけふむ?」

「お前……肉ばっかり食うなよ……こっちが気持ち悪い……」

 

 牛肉で豚肉を食べていたカクにハッシュが雑用仕事の交代を申し出た。

 

「今リィンが放浪中でよ、七武海徴収の茶汲み係が居ないんだって。当番的に代理は俺なんだけど嫌だ。正直行きたくない。交代してくれ……」

 

 流石は優位に立たなければ強気になれないビビり。望んでいた仕事だとカクは内心思いながらも考える素振りを見せた。

 

「わしに出来るかの?」

「出来る出来る大丈夫」

 

 随分適当な返事にため息を吐いて皿の上の物を食べる。皿の影に隠れてニヤリと笑った。

 

 

 

 

「リィンじゃないのか。奴よりは茶が旨いが」

「オイ、ミホーク。今日新入りが来るとか言ってた癖に来ねェじゃねェか」

「センゴク、新しい七武海というのは一体誰なんだ?」

 

「あー……そいつは今リィンを誘拐中だな」

 

 自分の事など殆ど視界に無い、そんな態度にカクは我慢の限界だった。

 精神年齢がまだ低い彼にはどうしようも出来ない嫉妬が生まれる。

 

 なんで、アイツばかり………!

 

 

 

「もしもし、ルッチか?例の人間なんじゃが、これは無理じゃな……。次の潜入もあるし、第1雑用部屋の奴ら全員殺すしか手はないわ」

『そうか……血が滾るな』

「結局わしらは血の中でしか生きれんのォ」

 

 普通の世界などクソ喰らえだ。

 望むのは、果てしない強さを叶えるための過酷で醜い世界だ。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「(過ごしやすい……)」

 

 過剰な心配をせずに手助けをしてくれる月組はリィンとって都合が良くて、楽だった。

 半年雑用として過ごせば、スモーカーやヒナという友人が出来た。立場を気にした。探り探りの友人関係に気疲れする事も多々ある。

 

 それでも変わらずリィンを愛してくれた同期の居心地が良かった。

 

 リィンはあまり話をしないが、居心地の良さに頻繁に傍にいた人間がいる。

 

「んー?どうしたんじゃ?」

「文字、不明な部分。解読願いぞり」

 

 悪魔の実大百科や本を取り出して分からない文字を聞く。

 

麒麟(キリン)じゃな」

「ありがとじょー、カクお兄ちゃんッ!……えへへ、なんつって」

「あああーーーーー可愛ええのォ〜〜〜わしに妹が居たらこんな感じじゃろうか〜〜!」

 

 巫山戯(ふざけ)て兄の様に呼んだ。

 3人の兄と離れてホームシックになっていたのもあって、リィンはカクを兄の立場へと無理矢理入れ込んだ。

 

 仕方なかったのだ、その時のリィンには。

 それしか無かった。

 

 

 

 

「泣きよるんか?」

 

 ある日の夜中、心配そうな顔でカクはリィンを覗き込んだ。

 

「さ、寂しいでしゅて」

「そうか……。のォリィン、来るか?わしは寒いんじゃ〜」

 

 とても優しいカク。

 彼は自分の布団にリィンを呼ぶ。

 

「不快、不起訴、ふ、ふ?あ、不要ぞ!」

「お前さんの言葉は面白いの……」

 

 その親切に、救われた。幸福な日々に。

 

「ありがとうぞ」

 

 ベゴニアの小さな花が月明かりを浴びていた。

 

 

 

「はえ?カクさんが去るした?」

「流石に襲撃事件が堪えたらしい。止める理由も無いしな」

「うー……ノーランさんも近々去ると進言してますですぞりゅ?」

「あァ、言ってたな」

 

 態度を、被っていた猫を捨ててもリィンを変わらず愛してくれた同期。

 

 襲撃事件の際、かちりと『信頼』という言葉が当てはまった。

 

 カクが海軍を去ったというのは、その翌日の事だった。

 

「まァカクさんなら有り得るじょ」

「良くも悪くも普通だからなァ。流石に成人してない子供にあの光景は」

「グレンさんグレンさん、私。私まだ9歳」

「……………前言撤回を」

「却下じょーー!」

 

 例え雑用という括りが無くなっても、信頼してる同期は変わらない。

 出版社を開きたいと常々言っていたノーランも変わらないのだから。平気だった。

 

 兄と巫山戯て呼んだあの時から。

 

 ……自分がこれ以上、依存しない内に。

 

「とりあえず破壊した部屋を片付けるのが仕事だな……」

「リィンちゃんが一瞬で壊したとは思えない破壊具合だよなァ」

「悪魔の実の暴走、それぞ決定!さァ瓦礫撤収ぞやりまするよやるですー!」

「爆発は無しの方向で!」

「リックさんが虐めるぞりーッ!」

「脳内花畑野郎は無視するのが1番平和だから」

 

 あ、とリィンは立ち止まる。

 そして笑顔で言った。

 

「ただいま!」

 

 その声に対して月組がした返事は言うまでも無いだろう。

 普通の世界は、時間を掛けて濃度を薄れさせながら、リィンの心に浸透していった。

 

 

 

 ==========

 

 

「───…─」

 

 あの時言った言葉。

 

 

 もう、何かしらの言葉を伝える相手など居ないのだ。

 

 

 

 水はいつか枯れる。

 固まった氷が全て昇華されるまで。

 

「面倒臭いのは、私では無きですか」

 

 馬鹿らしく思えて来て、リィンは女狐として笑った。




例え裏設定を察しても口を閉ざしていて欲しい。なぁ裏設定知ってる方、二つの意味で読めるよね???楽しい????私はリィンが傷付いてすごく楽しい!!!(ダメやん)

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